がん相談に従事する看護師の就労支援の困難の内容分析
新田純子
1)下平唯子
1)矢野和美
2)Content analysis of diffi culty factors for working support of nurses who provide cancer consultation
Junko NITTA1), Yuiko SHIMODAIRA1), Kazumi YANO2)
要旨:就労年齢におけるがん罹患者の増加に伴い、医療機関と企業や労働機関が連携する包括的な就労支援が2016 年に始まった。そこで、本研究はがん相談に従事する看護師の就労支援とその困難の実態を明らかにすることを目 的とした。
がん診療連携拠点病院426施設の看護師を対象として質問紙調査を実施し、106名(回収率24.9%)の回答を得た。
就労先との情報共有や就労可否の判断の調整など連携する支援内容、進行・再発・転移時や緩和ケア移行時など 身体状況が変化する支援時期は、他の支援内容・時期と比べて困難を感じる割合が高かった。
困難を感じる理由を分析した結果、就労先との連携に関する支援の困難の要因は、看護師の知識・経験不足、就 労先の就労支援に対する理解不足、就労支援の体制整備・連携不足と考えられた。身体状況が変化する時期の就労 支援の困難の要因は、先の見通しの不確かさの中で時期に応じた就労可否の判断や多様で個別性の高い対応が求め られることに加えて、医療者の病状認識と就労者の就労意欲とのズレがあることが考えられた。
がん就労支援の課題解決で重要なのは、就労がん患者自身の症状のセルフケア能力と職場との調整能力が向上す るよう支援することである。そのためには、就労がん患者自身が疾患・治療に伴う症状や生活の障壁となるものを 具体的にアセスメント・対処ができ、今後の治療や病状管理の見通しをイメージできるよう支援することが必要で ある。
キーワード:がん患者、就労支援上の困難、がん相談、内容分析
Abstract:With the increasing number of patients with cancer within the working-age population, a comprehensive working support system was initiated in 2016 as a collaborative eff ort between medical institutions, companies and labour organizations. This study aimed to discuss and clarify the working support system provided by nurses and the diffi culties they face while engaging in cancer consultations.
A questionnaire survey that included nurses at 426 core hospitals that deliver collaborative cancer treatment was conducted, and answers were collected from 106 respondents(collection rate, 24.9%).
Based on the survey, nurses were found to have relatively more diffi culties in terms of providing assistance such as sharing information with employers, coordinating assessment on patientsʼ ability or inability to work and the timing of providing assistance when physical condition changes including progression, recurrence, metastasis or transition to palliative care were involved compared to other types of assistance.
In the analysis, factors that have contributed to the difficulties in cooperating with employers were a lack of knowledge and experience of nurses, a lack of understanding of the working support system by employers, the inadequacy of the working support system and insufficient cooperation. Conversely, factors that influenced the diffi culties of the working support system, regarding the timing of providing assistance were assessment of patientsʼ working ability or inability while facing an uncertain future and the requirement of providing highly personalized assistance. In addition, it was suggested that there is a gap between medical personnelʼs ability to recognize the disease condition and the patientʼs motivation to work.
To resolve these diffi culties, it is important to provide assistance in order to improve the self-care agency of working patients with cancer, as well as their ability to adjust to workplaces. To this end, it is necessary to support working patients with cancer by assessing specifi c symptoms of their disease and symptoms post treatment, and helping them cope with obstacles of daily life to ensure that they can anticipate future treatment and disease management.
Key words:patients with cancer, diffi culties with working support, cancer consultation, content analysis 1)日本赤十字秋田看護大学 2)東京逓信病院
1)Japanese Red Cross Akita College of Nursing 2)Tokyo Teishin Hospital
Ⅰ.緒 言
1.がん患者の就労支援における医療機関の役割 と課題
がん患者の3人に1人は就労可能年齢で罹患 し、仕事を持ちながらがん治療のため通院する 者 は32.5万 人 と 推 計 さ れ て い る( 厚 生 労 働 省,
2016)。そして、がん罹患により就労者の3人に 1人が解雇または廃業、休職・休業するなど仕事 に影響を受けており(一般社団法人CSRプロジェ クト,2010)、定期的な収入のあった就労者の 67%が減収を経験し、8〜9%は治療方法を変 更・中止している(濃沼,2013)。この結果から、
がん罹患により就労者の3分の1が経済的な影響 を受け、場合によっては治療継続にも影響を受け ていることがいえる。
このような課題に対する国の取り組みとして、
医療機関、労働機関、企業などの多職種、多職域 が連携してがん就労者の治療と職業生活の両立 を支援する包括的な就労支援事業が2016年に始 まった(厚生労働省,2016)。ここで、医療機関 に期待されているのは、「すぐに仕事を辞める必 要はないこと」を患者に伝え、就労に配慮した診 療・相談の対応や情報提供する体制を整備すると ともに、就労支援に関する知識・スキルの向上に 努め、労働機関や企業と連携し仕事と治療の両立 を支援することである。しかし、がん就労者の就 労支援における医療機関側のニーズ・課題として 以下の点が報告されている。そのニーズ・課題は
①就労ニーズを把握する体制、②症状に関する相 談・解決方法の提示、③就労ニーズや労働環境を 意識した治療方針の説明、④経済的負担の見通し に関する情報提供、⑤就労上の課題の解決を図る 支援、⑥就労先との情報共有、⑦就労先との就労 可否の判断の調整である(がん患者 ・経験者の就 労支援のあり方に関する検討会,2014)。
2.がん相談支援センターの役割と課題
がん診療連携拠点病院はがん相談支援センター の設置とがん相談に携わる者の配置が義務付けら れている。このがん相談員は就労支援において全 人的にアセスメントし、連携し得る適切な専門職 や部署・機関につなぎ、適切な情報提供をするこ とが役割として期待されているが、がん相談支援 センターをめぐっては、以下の課題が報告されて いる(都道府県がん診療連携拠点病院連絡協議会,
2016)。その課題は、情報の氾濫、患者・家族の
リテラシー不足への対応の困難、長期に及ぶ治療 費負担など社会保障制度上の対応への困難、外来 診療でがん告知・診療方針決定が急増し看護師や MSWにより必要なサポートが提供されない医療 体制の変化・ひずみによる困難、がん相談支援セ ンターの認知度の低さと相談に来ない患者・家族 へのアプローチ不足の課題、院内におけるがん相 談支援センターの相談支援業務や院内他部署との 連携機能や仕組みが不十分なことによる困難など である。また、がん就労者の就労支援の困難とし ては、①就労が継続できるような夜間・休日の診 療体制、②医療の進歩・専門分化に伴い専門的知 識を必要とする専門外の対応や専門外の窓口との 連携、③施設による対応力の差、④就労支援の相 談件数が伸びない、⑤効果が上がらないことがあ る。この報告から、がん相談センターの認知度や 関係する専門部署・職種間の連携には課題があり、
がん相談員が包括的な就労支援のシステムの中で 就労ニーズを的確に把握し十分に機能する難しさ があるといえる。
また、がんと診断されたがんサバイバーは急性、
安定、終末の時期をたどるとされており(国立が ん研究センターがん対策情報センター,2014)、
その疾患・治療特性から、治療や病気の進行に伴 い患者が直面する課題に応じた就労支援が求めら れる。そのため、就労支援の時期や内容によって 支援の困難も異なることが推察される。
一方、最近のがん相談に関する研究では、がん 相談による介入はがん就労者の意思決定の方向性 や先に進むための具体的な取り組みの明確化を 促進し(川崎,2015)、職場への病名・日常生活 の留意点の公表に関連することが報告されてお り(佐藤,吉田,前田,鷲見,2013)、全人的ケ アに精通する看護師による就労支援の有効性が示 唆されている。しかし、包括的な就労支援の取り 組みが始まって以降、前述した医療機関側のニー ズ・課題に関する就労支援の実態や困難について は明らかになっていない。
本研究では、がん相談に従事する看護師の就労 支援の内容・時期の実態とその困難の理由を明ら かにすることを目的とする。就労支援の実態と困 難の要因について探ることにより、取り組み開始 から間もない包括的な就労支援における課題とそ の解決方略について示唆を得ることができると考 える。
Ⅱ.研究方法 1.研究デザイン
本研究デザインは、実態調査型研究である。
2.用語の操作的定義
本研究では、がん患者・経験者の就労支援のあ り方に関する検討会報告書(2014)を参考に以 下の用語を定義する。
がん就労者とは、がんに罹患した就労者(雇用 形態に関わらず、企業や事業場で仕事についてい る者)とする。
がん患者の就労支援とは、がん就労者が治療と 職業生活を両立するのを支援することと定義す る。
3.研究対象者・データ収集方法
研究対象者は、がん相談に主に従事する臨床経 験6年以上の看護師とした。対象者の選定基準は、
がん診療連携拠点病院のがん患者指導管理料の算 定基準(5年以上がん患者の看護に従事した経験 を有し、かつ6月以上の研修を修了した者)を参 考に、臨床経験6年以上とした。
2017年5月に、全国のがん診療連携拠点病院 426施設の長に対して、研究協力者1名の推薦を 依頼し、推薦する研究協力者に対して質問紙を配 布してもらった。無記名自記式質問紙は、郵送法 により研究対象者の自由意思により個別に返送す ることをもって回収した。回収期限は1ヶ月とし た。
4.質問紙の作成
就労支援の内容と時期の項目は、就労支援にお ける医療機関側のニーズ・課題(がん患者・経 験者の就労支援のあり方に関する検討会,2014)
を参考に設定した。プレテストは、がん診療連携 拠点病院でがん相談に従事している看護師5名を ネットワーク法により選定し、参加の同意が得ら れた3名から協力を得た。プレテストの結果に基 づき、質問紙の設問の項目・方法によって調査目 的にかなった回答が得られるか研究者間で検討・
修正するとともに、回答者から回答に迷う設問や 疑問など指摘があった点を修正して質問紙を完成 した。
5.調査内容
基本属性とがん相談の概要については、がん相 談の経験年数やCNS・CNの資格の有無、所属施 設の所在地域(7地域)など全13問とした。就労 支援の実践については全8問とした。その構成は、
就労支援の内容については、就労ニーズの把握や 就労先との就労可否の判断の調整など7項目、就 労支援の時期については、がん診断前や復職・休 職時など8項目とし、それぞれ実践している割合 と、実践して困難を感じる割合を調査した。実践 して感じる困難の程度は、1〜4のリッカートス ケール(1.感じない、2.あまり感じない、3.
やや感じる、4.とても感じる)で調査し、感じ ない1点〜とても感じる4点を配点した。「支援 する際に困難に感じる理由」については、自由記 述で調査した。
6.データ分析方法
統計ソフトIBM SPSS Ver.21を用いて、就労支 援の内容と時期について実践している割合、実践 して感じる困難の割合については単純集計して記 述統計量を算出した。
「支援する際に困難に感じる理由」の自由記述 については、ベレルソンの内容分析の手法(舟島,
2007)により分析を行った。まず、素データの 文脈単位から記録単位に分割して各記録単位に番 号を付与し、次に、記録単位個々の意味内容の類 似性により同一記録単位群に分類してカテゴリ名 をつけた。カテゴリの信頼性は、スコットの式に 基づき算出しカテゴリ分類の一致率を70%以上 とした。
7.倫理的配慮
研究対象者の所属施設長、看護部長に文書で研 究協力を依頼し、該当する研究対象者に研究依頼 文書を配付してもらった。研究対象者に、研究目 的と方法、研究協力への任意性の確保、研究協力 の如何により不利益を被らないこと、得られた データは統計的に処理し研究目的にのみ使用する ことを文書で説明するとともに、個人のプライバ シーに配慮するため質問紙は無記名とした。ま た、いつでも連絡が取れるよう依頼文に研究者の 連絡先を明記した。本研究は、日本赤十字秋田看 護大学研究倫理審査委員会の承認(承認番号28
−116)を得て実施した。
表1 対象者の所属施設背景および対象者の属性 (N=106)
項目 人数 %
性別
男性 2 1.9
女性 104 98.1
年齢
30歳代 22 20.8
40歳代 46 43.4
50歳代 34 32.1
60歳代 4 3.8
臨床経験年数
6〜10年 2 1.9
11〜15年 16 15.1
16〜20年 21 19.8
21〜25年 36 34.0
26年以上 31 29.3
がん相談経験年数
0〜4年 49 46.2
5〜9年 34 32.1
10〜14年 14 13.2
15年以上 9 8.5
資格(複数回答:n=108)
がん看護:CNS 25 23.6
緩和ケア看護:CN 21 19.8
がん性疼痛看護:CN 11 10.4 がん化学療法看護:CN 10 9.4 その他:CNS(1)・CN(8) 9 8.5
資格なし 29 27.4
配属場所
がん相談支援センター 69 65.1
がん化学療法外来 11 10.4
緩和ケアセンター(室) 11 10.4
その他 10 9.4
無回答 5 4.7
「がん相談」の勤務形態
専従(業務の8割以上) 64 60.4 専任(業務の5割以上) 20 18.9 兼任(業務の3割以上) 19 17.9
無回答 19 2.8
がん就労支援マニュアルの有無
あり 40 37.7
なし 62 58.5
無回答 4 3.8
Ⅲ.結果
1.対象者の所属施設背景および対象者の属性 (表1)
全国のがん診療連携拠点病院426施設にアン ケート調査を依頼した結果、がん相談に従事す る臨床経験6年以上の看護師106名から回答があ り(回収率24.9%)、有効回答率は100%であった。
対象者所属施設の所在地域は、北海道、東北、関 東、中部・東海、近畿、中国・四国、九州・沖 縄の7地域それぞれ約10〜20%の分布であった。
がん患者指導管理料の算定ありは97名(91.5%)、
なしは8名(7.5%)であった。施設内で活用す るがん就労支援マニュアルありは40名(37.7%)、
なしは62名(58.5%)であった。
対象者の性別は女性が98%、年齢は40〜50歳 代が75.5%であった。臨床経験年数は21年以上が 67名(63.3%)、がん相談経験年数は5年以上が 57名(53.8 %) で あ っ た。 有 資 格(CNS・CN)
者は77名(72.5%)、「がん相談」業務を専従・専 任とする者は84名(79.3%)であった。
2.がん就労支援の実践と困難の実態
1)就労支援内容と時期別の実践割合(表2)
支援内容では、「症状に関する相談・解決方法 の提示」、「就労ニーズの把握」については対象者 の約9割が実践していた。「就労先との就労可否 の判断の調整」、「就労先との情報共有」について は約9割が実践していなかった。
支援時期では、受診から確定診断までの「がん 診断以前」については約8割の看護師が実践して いなかったが、「がん診断時」から「緩和ケア移 行時」までは約6〜8割の看護師が就労支援を 行っていた。
2)就労支援を実践して感じる困難の割合(表3)
支援内容における困難では、困難をとても・や や感じる者の割合が多かったのは、「就労先との 情報共有」が87名(96.7%)、「就労先との就労可 否の判断の調整」が84名(95.5%)、「就労上の課 題解決支援」が79名(81.4%)の順であった。上 位2つは他の支援内容に比べて困難を「とても感 じる」割合が高かった。
支援時期における困難では、困難をとても・
やや感じる者の割合が多かったのは、「進行・再 発・転移時」が85名(86.7%)、「身体状況変化 時」が84名(86.6%)、「緩和ケア移行時」が78名
表2 就労支援を実践している割合(N=106)
実践している 実践していない 無回答
人数 % 人数 % 人数 %
支援内容
症状に関する相談・解決方法の提示 100 94.3 5 4.7 1 0.9
就労ニーズ把握 97 91.5 8 7.6 1 0.9
経済的負担の見通しの情報提供 94 88.7 10 9.4 2 1.9
就労上の課題解決の支援 79 74.5 24 22.6 3 2.8
就労ニーズを意識した治療方針説明の同席 52 49.1 49 46.2 5 4.7
就労先との就労可否の判断の調整 5 4.7 94 88.7 5 6.6
就労先との情報共有 5 4.7 95 89.6 5 5.7
支援時期
初期治療開始時 89 84.0 17 16.0 0 0
身体状況変化時 87 82.1 19 17.9 0 0
進行、再発、転移時 83 78.3 23 21.7 0 0
復休職時 76 71.7 30 28.3 0 0
がん診断時 74 69.8 32 30.2 0 0
緩和ケア移行時 65 61.3 41 38.7 0 0
退院時 64 60.4 42 39.6 0 0
がん診断以前 23 21.7 83 78.3 0 0
表3 就労支援を実践して困難を感じる割合(N=106)
とても・やや感じる あまり・ 感じない
人数 % 人数 %
支援内容
就労先との情報共有(n=90) 87 96.7 3 3.3
就労先との就労可否の判断の調整(n=88) 84 95.5 4 4.6
就労上の課題解決の支援(n=97) 79 81.4 18 18.6
経済的負担の見通しの情報提供(n=100) 77 77.0 23 23.0
就労ニーズを意識した治療方針説明の同席(n=93) 62 66.7 31 33.3
症状に関する相談・解決方法の提示(n=103) 57 55.3 46 44.7
就労ニーズ把握(n=103) 45 43.7 58 56.3
支援時期
進行、再発、転移時(n=98) 85 86.7 13 13.3
身体状況変化時(n=97) 84 86.6 13 13.4
緩和ケア移行時(n=92) 78 84.8 14 15.2
復休職時(n=93) 62 66.7 31 33.3
がん診断時(n=90) 59 65.6 31 34.4
初期治療開始時(n=94) 59 62.8 35 37.2
がん診断以前(n=87) 52 59.8 35 40.2
退院時(n=89) 53 59.6 36 40.5
表4 がん就労支援を実践して困難に感じる理由 カテゴリ
(記録単位%) №同一記録単位群 記録単位
数 %
《がん就労者を取り巻く関 係 者 間 の 連 携・ 社 会 資 源
(職場環境を含む)の整備 不足》(23%)
1.病院側と就労先が情報共有できず連携できない 8 5.4
2.就労支援窓口の存在・活動内容の認知度が低く就労ニーズを拾
えていない 5 3.4
3.院内の就労相談に対する理解・連携が図れていない 5 3.4
4.行政や関連機関の活動・連携が進んでいない 4 2.7
5.治療に伴う経済的負担の増加に比べて社会的支援が不十分 4 2.7 6.医療知識が乏しい企業やハローワーク関係者との連携が難しい 3 2.0 7.患者と就労先の意向を調整する場・支援体制が整っていない 2 1.4 8.主治医によって就労に対する考え方や見通しの説明が異なる 2 1.4
9.看護師の立ち位置で企業との直接的なやりとりが難しい 1 0.6
《看護師自身の就労支援に 関 す る 知 識・ 経 験 不 足 》
(16.9%)
10.看護師自身の就労支援の知識・経験が足りない 18 12.2
11.看護師だけで対応・問題解決が難しいことがある 4 2.7
12.患者の就労ニーズにあった支援に自信が持てない 3 2.0
《患者自身の就労継続に対 す る 優 先 順 位 の 低 い 時 期 と就労相談へのためらい》
(15.8%)
13.患者自身が職場への相談をためらう 7 4.8
14.がん診断前後や病状進行時期によっては就労に対する患者の関
心が低い 6 4.1
15.働き続けることへの優先順位が低い 4 2.7
16.がん告知や緩和ケア移行期など時期によっては精神的にデリ
ケート 2 1.4
17.患者自身から相談しないことが多い 2 1.4
18.患者自身が労務管理や就労先との交渉に疎い 2 1.4
《病態・治療や就労状況の 多様さによる先の予測の難 しさ》(15.6%)
19.就労意欲、病状、就労状況など多種多様で個別性の高い対応が
求められる 8 5.4
20.病状が変化・進行する時々に応じて就労可否の判断・支援が求
められる 8 5.4
21.治療の見通しが不確かで先を予測した支援の判断が難しい 7 4.8
《医療者側の病状認識と患 者・家族の就労意欲との乖 離》(14.9%)
22.仕事が患者の生きがいになっているが病状進行・悪化に伴い仕
事の継続を勧めにくくなる 9 6.1
23.医療者側の病状認識と患者家族の就労に対する希望にズレがあ
る 7 4.8
24.医療者側の病状認識と患者の就労意欲にズレがある 3 2.0
25.患者自身が進行・病状悪化を予測しながらも就労を希望してい
る 2 1.4
26.医療者側の身体状況の見通しと患者の就労・復職に対する希望
にギャップがある 1 0.6
《就労先のがん就労支援に 対する理解不足》(8.8%)
27.企業・職場のがん・がん就労者に対する理解が進んでいない 9 6.1 28.中小企業や非正規雇用の就労先の就労支援に対する理解が進ん
でいない 4 2.7
《就労先と患者・家族の希 望との乖離》(4.7%)
29.職場環境・就労条件が就労者の希望と一致しない 6 4.1
30.就労先と就労者家族の意向が異なる 1 0.6
総記録単位 147 100
(84.8%)の順であった。上位3つは他の支援時 期に比べて困難を「とても感じる」割合が高かっ た。
3)就労支援を実践して困難に感じる理由(表4)
がん就労者の就労支援を実践して困難を感じる 理由について、自由記述から合計147記録単位を 抽出し、30個の同一記録単位、7個のカテゴリ を生成した。カテゴリを≪≫で、記録単位数の割 合を(%)で示す。カテゴリは、記録単位数が多 い順に≪がん就労者を取り巻く関係者間の連携・
社会資源(職場環境を含)の整備不足(23.0)≫
≪看護師自身の就労支援に関する知識・経験不足
(16.9)≫≪患者自身の就労継続に対する優先順 位の低い時期と就労相談へのためらい(15.8)≫
≪病態・治療や就労状況の多様さによる先の予測 の難しさ(15.6)≫≪医療者の病状認識と患者・
家族の就労意欲との乖離(14.9)≫≪就労先のが ん就労支援に対する理解不足(8.8)≫≪就労先 と患者・家族の希望との乖離(4.7)≫であった。
分析結果の信頼性については、内容分析を担当し た筆頭研究者以外の質的研究の経験および看護師 としての臨床経験を持つ共同研究者2名によるカ テゴリ分類の一致率をスコットの式に基づき算出 し、それぞれ71%、78%であった。
Ⅳ.考 察
本調査対象者の所属施設は、全国7地域にそれ ぞれ1〜2割の比率で分布しており、対象者には 地域の偏りがなかった。また、約9割の所属施設 で「がん患者指導管理料」が算定されていたこと から、がん看護に関するCNS・CNの資格を持つ 看護師が専任でがん相談に従事する体制が整って いる施設であった。以下、これらの施設で勤務す る看護師の就労支援の実態と支援の際に抱く困難 の要因について、がん就労支援の連携体制、がん の疾患・治療特性を中心に考察を加える。
1.就労支援を実践して感じる困難の特徴 本研究の結果から、就労先との情報共有や就労 可否の判断の調整など就労先と連携する支援内容 と進行・再発・転移時や緩和ケア移行時など身体 状況が変化する支援時期は、困難を強く感じる割 合が最も高かった。
一方、がんの診断・治療開始時や復・休職など 診断・治療過程のタイミングでの支援時期や、就
労ニーズを踏まえた症状の相談や経済的見通しの 情報提供などの支援内容は、困難を強く感じる割 合が最も低かった。これらの特徴に着目し、内容 分析の結果を基に困難の要因を分析する。以下、
同一記録単位群を〈 〉で、カテゴリおよび同一 記録単位群の一部引用はʻ(№)ʼで示す。
2.就労支援を実践して感じる困難の要因 1)就労先と連携に関する支援の困難の要因 就労先との情報共有や就労可否の判断の調整な ど就労先との連携に関する支援内容については、
実践している割合が1割に満たないにもかかわら ずほとんどの看護師が予期的困難を感じていたと いえる。この就労先との連携に関する支援の困難 の要因は、看護師の知識・経験不足、就労先の就 労支援に対する理解不足、就労支援の体制整備・
連携不足であり、それが解決課題と考えられた。
看護師の知識・経験不足については、専門外の 労務に関する相談などに 看護師だけで(11)
対応する難しさに加えて、医療知識が乏しい(6)
就労先窓口との情報共有や就労可否の判断の調整 に関する直接的なやり取りはほとんどの看護師は 経験がなく、さらに 看護師の立ち位置で(9)
秘匿性が高い健康情報を扱い他機関と連携する難 しさが要因と推察された。就労先の就労支援に対 する理解不足については、「がん情報サービス」
のホームページ上でも公表されている両立支援に 関するガイドや事例集について、企業の両立支援 担当者が掌握できていないことが報告されている ことからも(佐藤,櫻井,2018)、就労先の がん・
がん就労者に対する理解(27) や 就労支援に 対する理解が進んでいない(28) ことが困難の 要因と推察された。就労支援体制の整備・連携不 足については、就労先とのやり取りはがん就労者 自身が行っている現状があり、がん就労者の疾患 や治療の見通しに対する理解や就労先との調整能 力によっては、 病院側と就労先が情報共有(1)
を十分にできず就労可否を判断するのは難しいこ とが推察された。また、企業の就労支援の現状と して、産業医などによる支援制度が整備されてい るのは大企業で5割、中小企業では2割(がん対 策推進企業アクション事務局,2016)であるこ とから、 就労先の意向を調整する場(7) など の連携体制が整っておらず、 医療知識が乏しい
(6) 就労先の窓口との連携が、困難の要因と推 察された。
これらのことから、就労先との連携に関する困 難の要因は、医療の専門性・秘匿性が高い健康情 報を医療の専門的知識が乏しい職域と共有・連携 する包括的な就労支援システムに起因する課題で あり、これまでのがん相談に関する知識・経験で は対応しきれないことが考えられた。
2)身体状況が変化する時期の就労支援の困難の 要因
身体状況が変化する時期については、実践の割 合、困難を感じる割合ともに高かったことから、
就労支援のニーズが高く難しい支援であることが いえる。
この身体状況が変化する時期の就労支援の困 難の要因は、先の見通しの不確かさの中で時期 に応じた就労可否の判断や多様で個別性の高い 対応が求められることに加えて、医療者の病状 認識と就労者の就労意欲とのズレがあることが 考えられた。それは、 治療の見通しが不確か で先を予測した支援の判断(21) を 病状が変 化・ 進 行 す る 時 々 に 応 じ て(20) 求 め ら れ、
就労意欲、病状、就労状況など多種多様で個別 性の高い対応が求められる(19) ことに加えて、
医療者側の 病状認識(23)や身体状況の見通し
(26) と就労意欲とのギャップがあり、〈職場環 境・就労条件が就労者の希望が一致しない〉こと が、困難の要因と推察された。
がんの疾患特性として、完治せず、侵襲的な治 療を繰り返し、進行・再発の経過や症状発現は多 様な様相を示すことから、先の見通しが立ちにく い。さらに、進行、再発、転移という転帰をたど るがん就労者は、身体面の変化時には自身の認識 とは異なる病状をバッドニュースとして伝えられ ることもある。
これらのことから、身体的経過の見通しが不確 かな時期に先を予測した就労支援の難しさや、患 者の身体状況と就労意欲との乖離がある時期に患 者の就労ニーズに沿った課題解決の難しさは、が んの疾患特性に起因する課題であり、支援ニーズ が高いといえる。
3)就労支援のニーズを踏まえた支援の困難の要因 診断・治療や復・休職のタイミングにある支援 時期と就労ニーズを踏まえた支援内容について は、困難を強く感じる割合は他の支援時期・内容 より低かった。その理由として、がん診断時、初
期治療開始時、退院時、復・休職時は、今後の治 療の一般的な見通しを予測でき、また、治療計画、
起こり得る合併症と時期やその対処方法、経済的 負担の見通しに関する情報提供や症状に関する相 談等については就労支援に限らずこれまでも実践 している内容であることから、これまでの知識・
経験から予測的に介入することは難しくないと推 察された。しかし、就労への影響に焦点を当てた 場合、職種や仕事の内容、就労環境によっては、
就労継続・復職するために職場の理解や就労環境 の調整を患者自身に求めなければならない。その ため、就労先の産業医や産業スタッフとの連携体 制が図れていない現状にあっては、〈患者自身が 労務管理や就労先との交渉に疎い〉ことは就労支 援を困難にする要因と考えられ、患者自身の就労 先との調整能力の向上が必要といえる。がん就労 者の復職経験には職場への再適応に向けた調整や スムーズな社会復帰への主体的な行動があり(堀 井,小林, 鈴木,2009)、就労継続の様相には職 場の理解と配慮や融通の利く仕事形態がある(和 田,稲吉,2013)。このことから、がん就労者自 身が就労継続や復職には、就労環境とその調整に 向けたがん就労者自身の主体的な調整能力が有用 であることがいえる。
また、就労ニーズを踏まえた支援の困難の要因 は、患者の個人要因と院内体制に関する要因が考 えられた。それは、就労に関して患者自身の 優 先順位の低い時期(15)や 相談をためらう(13)
ことがあり、〈患者自身から相談しないことが多 い〉ことが困難の要因と推察された。加えて、
院内の就労相談に関する理解・連携(3) が図 れておらず、就労支援窓口の認知度が低く 就労 ニーズが拾えていない(2) ことが困難の要因と 推察された。この認知度の低さの原因として、が ん相談支援センターの認知率が一般市民で10%
未満(2013年調査)、がん診療連携拠点病院のが ん体験者で約50%(2014年調査)と低い(高山,
2016)ことに加えて、就労支援が取り組みから 間もないことが考えられた。まずは、離職する必 要がない人が離職することがないような取り組み が必要であり、そのためには、がん診断早期から 関連部署・職種間が連携できる院内のシステム構 築や、がん相談支援センターや就労支援に関する 周知方法を、施設の現状に併せて検討することが 重要と考える。
3.がん就労支援の課題解決への示唆
本研究で分析したがん就労支援における看護師 の困難の要因は、がん就労者の就労支援の困難と して示された課題(都道府県がん診療連携拠点病 院連絡協議会,2016)との共通点や関連があった。
その課題は、専門外の窓口との連携、施設による 対応力の差、就労支援の相談件数が伸びない、効 果が上がらないなどの4つである。本分析結果は、
この4つの課題解決への示唆も提供するものであ る。
本研究の結果から、がん相談に従事する看護師 の就労支援の困難感は、就労先と連携する支援内 容と身体状況が変化する支援時期で高いといえ る。以下に、これらの困難の要因に関連する課題 解決について考察する。
1)就労先との連携に関する課題解決への示唆 就労先との情報共有や就労可否の判断の調整な ど就労先との連携の困難の要因のひとつと考えら れた看護師の知識・経験不足の課題については、
看護師の立ち位置で(9)、看護師だけで(11)、
個々の就労先の服務規程を踏まえた労務に関する 相談に対応するには限界がある。がん就労支援で は、がん相談の限界を判断して必要な場合は他部 署・多職種につなぐ役割(国立がん研究センター がん対策情報センター,2014)を果たすことに より、がん就労者が職場の福利厚生や社会資源を 十分に活用できるよう調整することが重要である と考える。
また、就労先との連携に関する課題については、
がん就労者自身のセルフマネジメント能力を高 め、疾患・治療に伴う症状や生活の障壁となるも のを具体的にアセスメントし対処できるよう支援 することが重要であると考える。田村,光木,山 中(2014)の研究によると、生活の注意点がわ かり病状悪化に早期に気づくなど、がん就労者自 身のセルフケア能力の高さは就労継続に影響して いる。がん就労者自身が今後の治療や病状管理の 見通しをイメージできることで、就労先と今後の 見通しを情報共有し就労可否の判断などの調整能 力も高まることは推測に難くない。
これは、身体的経過の見通しが不確かな時期に 先を予測した個別性の高い対応や、患者の身体状 況と就労意欲との乖離がある時期に患者の就労 ニーズに沿った対応などの課題解決にも通じる解 決方略と考える。がん就労支援で重要なのは、が ん就労者が自身のセルフケア能力、調整能力を発
揮して自己決定や対処ができるよう支援すること である。そのためには、職場環境や周囲のサポー トの状況なども踏まえて調整能力をアセスメント すること、疾患・治療経過からがん就労者のエネ ルギーやパフォーマンスが落ち込む時期を予測し て、パフォーマンスが高い時期に就労先との調整 ができるよう支援することが必要であろう。
2)就労支援のニーズを踏まえた支援における課 題解決への示唆
一方、本研究結果では、がん告知や診断前後な ど時期によっては、がん就労者の就労に対する関 心・優先順位が低いことが就労支援の困難の理由 にあったことから、すべての時期で就労継続に焦 点を置いた支援が優先するとは限らないことがい える。つまり、がん就労支援では、個々のがん就 労者の疾患・治療の時期や病状、就労先の規模や 就労支援の取り組みに応じた個別性の高い支援方 略が求められる。そのため、がん就労者にとって の就労の意味を探り、がん就労者の最優先となっ ている生活課題と就労に焦点を当てて支援するタ イミングを見極め、自身が課題解決に向けて判断 できるよう支援することが重要である。そのため には、就労支援対策の動向や企業の就労支援対策 の現状に関心を高く持つことも必要である。就労 支援の整備・取り組み状況が企業規模により異 なる状況(がん対策推進企業アクション事務局,
2016)や、就労支援のガイドブック・事例集な どの支援ツールに関する情報は、現状を踏まえ有 効な支援を実践するうえで重要である。また、就 労ニーズを拾い適切な部署につなぐためには、病 院の組織体制に応じて、がん診断早期からがん相 談員が介入し適切な部署につなげるシステムの構 築が必要であると考える。これらの課題解決方略 は、がん相談センターをめぐる就労支援に関する 課題であった、就労支援の件数が伸びない、成果 が上がらない、施設間による対応の差があるなど の解決にも通じるものである。
就労先のがん就労支援に対する理解不足の課題 については、がん就労支援対策の現状として、大 企業の約5割は産業医などによる支援体制の整備 が進んでおり、中小企業の約3割はがんと診断さ れた従業員の体調変化による仕事への支障を気兼 ねせずにすむ体制など個別対応による具体的な配 慮・取り組みが進んできている(がん対策推進企 業アクション事務局,2016)。また、平成30年4
月から、病院と産業医との情報共有が診療報酬の 算定基準となったことは、支援体制整備の追い風 となることが期待される。
がん就労者にとって仕事は生活の一部であり生 きがいとしての価値を持ち(堀井ら,2009)、仕 事について看護師に相談し、日常生活上の注意点 を職場に公表している方が仕事へのモチベーショ ンが有意に高い(佐藤ら,2013)。つまり、がん 就労者自身の症状のセルフケア能力や職場との調 整能力が向上し、がん就労者の治療と就労に対す る職場の理解や医療機関との連携が進むことは、
がんや治療と向き合い自己実現としての意味を持 つ仕事を両立するうえで重要といえる。
Ⅴ.結 論
1.就労先との情報共有や就労可否の判断の調整 など連携する支援内容、進行・再発・転移時や緩 和ケア移行時など身体状況が変化する支援時期 は、困難を感じる割合が最も高かった。
2.困難を感じる理由を分析した結果、就労先と の連携に関する支援の困難の要因は、看護師の知 識・経験不足、就労先の就労支援に対する理解不 足、就労支援の体制整備・連携不足と考えられた。
身体状況が変化する時期の就労支援の困難の要因 は、先の見通しの不確かさの中で時期に応じた就 労可否の判断や多様で個別性の高い対応が求めら れことに加えて、医療者の病状認識と就労者の就 労意欲とのズレがあることが考えられた。
3.がん就労支援の課題解決で重要なのは、がん 就労者自身の症状のセルフケア能力と職場との調 整能力が向上するよう支援することである。その ためには、がん就労者自身が疾患・治療に伴う症 状や生活の障壁となるものを具体的にアセスメン ト・対処ができ、今後の治療や病状管理の見通し をイメージできるよう支援することが必要であ る。
謝 辞
本研究の調査にご協力いただきました研究協力 者及び研究施設の関係者の方々に深く御礼申し上 げます。
本研究は、平成29年度「学校法人 日本赤十 字学園教育・研究及び奨学金基金」の助成を得て 実施したものである。本研究の一部は、第37回 日本看護科学学会学術集会および第32回日本が ん看護学会学術集会において発表した。
著者貢献度
JNは研究デザイン、データ収集と分析、草稿 の作成、YSは分析、草稿および研究全体の流れ への助言、KYは分析、草稿への助言により研究 および論文に貢献した。全ての著者は最終原稿を 読み承認した。
利益相反
本研究における利益相反は存在しない。
引用文献
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