アレルギーに対する子どもたちの気持ちと 養護教諭としての配慮
矢口杏子*・石原研治**
(2013 年 11 月 26 日受理)
Consideration as Yogo Teachers to Students Suffering from Allergic Inflamation
Kyoko YAGUCHI* and Kenji ISHIHARA**
(Received November 26, 2013)
はじめに
近年,大気汚染や食生活の変化,疾病構造の変化やストレスの増加など様々な要因によりに,気 管支喘息,アトピー性皮膚炎あるいは食物アレルギー等のアレルギー疾患を有する子どもが増加 している。文部科学省の調査によると,平成 16 年 6 月末時点で,公立の小,中,高等学校に所属 する児童生徒のアレルギー疾患の有病率は,気管支喘息が 5.7%,アトピー性皮膚炎が 5.5%,アレ ルギー性鼻炎が 9.2%,アレルギー性結膜炎が 3.5%,食物アレルギーが 2.6%,アナフィラキシーが 0.14% であることが示されている1)。また,最も有症率の高いアレルギー疾患である花粉症は,日 本人の約 23% が苦しんでいるという結果が出ており,国民病とも言われている2)。これらの割合 から,学校にはアレルギー疾患を有する児童生徒が多数在籍することを前提としなければならない とされている1)。したがって,アレルギー疾患は学校保健を考える上で,教職員,保護者及び児童 生徒が一体となって取り組んでいかなければならない重要な問題であるといえる。
一方,アレルギー疾患を有する子どもたちがその疾患が原因となって学校生活の中でストレスを 感じていたり,いじめやいやがらせにつながったりする場合がある。先行研究によると,アトピー 性皮膚炎により友人からいじめを受けたことがあると答えたのは,小学校で 38%,中学校で 22%,
高校で 17% である 3)。養護教諭や教師が児童生徒のアレルギー疾患による症状を理解していても,
学校生活を共にしている友人やクラスメイトの理解が不足していると,誤解や偏見,いやがらせ等 が起こるきかっけとなり,アレルギー疾患をもつ児童生徒が辛い思いを抱えてしまう。
小美玉市立玉里小学校 (〒311-3436茨城県小美玉市上玉里1039; Tamari Elementary School, Omitama 311- 3436 Japan)
茨城大学教育部教育保健教室(〒310-8512 水戸市文京2-1-1; Faculty of Education, Ibaraki University, Mito 310-8512 Japan)
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そこで,本研究では,小学生の子どもたちが,アレルギー疾患をどの程度理解し,どのように考 えているのか,また,アレルギー疾患を有する子どもと健常児には,アレルギー疾患の認知度やア レルギーに対する考え方に違いがあるのかを明らかにすることを目的とした。そして,養護教諭が 学校生活の中でアレルギー疾患を有する児童生徒に対してどのような配慮をするべきなのか,学校 でアレルギーについての教育をどのように推進していくべきなのかを考察した。
方法
(1) 質問紙調査
2012 年 10 月 15 〜 10 月 24 日に A 県内の複数の小学校の 4 年生から 6 年生の児童 413 名に対 して質問紙調査を行った。質問紙は無記名で行い,個人が特定されることがないこと,研究以外に は使用しないことを約束した。記入内容はパーソナルコンピュータに入力し,総合的に統計処理を 行い,個人が特定されることのないようにした。
(2) 調査内容
選択式の無記名の質問紙を配付した。調査内容は以下の通りである。
[1] アレルギーという言葉の認知度 [2] 対象者のアレルギー疾患の有無 [3] アレルギー疾患の症状の認知度 [4] アレルギーに対する気持ち
[5] アレルギーについて誰に教えてもらいたいか
結果
(1) 基本属性
小学校の 4 年生〜 6 年生を対象とした。「4 年生」が 132 名 (32.0%),「5 年生」が 132 名 (32.0%),「6 年生」が 149 名 (36.0%) であった。また,性別について,男子 が 210 名 (50.8%),女子が 203 名 (49.2%) であった。
(2) アレルギーという言葉の認知度
アレルギーという言葉の認知度を明らかにすることを目的として,対象者全員に「アレルギーと いう言葉を聞いたことがありますか?」という質問を行い,「聞いたことがある」「聞いたことがない」
の 2 択で回答してもらった。その結果「聞いたことがある」が 97.3% (402 名 ),「聞いたことがない」
が 1.7% (7 名 ),無回答が 1.0% (4 名 ) であった ( 図 1)。
(3) 対象者のアレルギー疾患有無
アレルギー疾患の有症率を明らかにすることを目的として,対象者全員に「どのアレルギーをもっ ていますか?」という質問をし,8 個 (1. 気管支喘息 2. アトピー性皮膚炎 3. 食物アレルギー 4.
花粉症 5. アレルギー性鼻炎 6. アレルギー性結膜炎 7. もっていない 8. わからない ) の選択肢 を用意して,複数回答可で回答してもらった。その結果,最も多かったのは花粉症で 41.9% (173 名 ) であった。次いで,気管支喘息 12.1% (50 名),アレルギー性鼻炎 8.2% (34 名),アトピー性皮膚炎 7.5%
(31 名 ),食物アレルギー 5.6% (23 名 ),アレルギー結膜炎 1.7% (7 名 ) という結果になった。また,
アレルギー疾患をもっていない児童は 25.2% (104 名 ),もっているのかもっていないのかわからな いと回答した児童は 18.9% (78 名 ),無回答が 2.9% (12 名 ) であった ( 図 2)。
花粉症,気管支喘息,アレルギー性鼻炎,アレルギー性結膜炎は女子に比べ男子の方が高い傾向 にあり,アトピー性皮膚炎と食物アレルギーは男子に比べ女子の方が高い傾向にあった。しかし,
これらは統計学的には有意ではなかった (data not shown)。また,図 4 の結果を「アレルギー疾患 をもっている児童」「もっていない児童」「もっているかもっていないかわからない児童」の 3 つ に分類したところ表 1 のようになり,本調査対象のうち,半数以上の児童が何らかのアレルギー 疾患に罹患していることが明らかになった。
(4) アレルギー疾患の症状の認知度 (4-1) 症状の認知度
食物アレルギー,花粉症,アトピー性皮膚炎,気管支喘息の4種類のアレルギー疾患についての 特徴を示し,そのような疾患を「知っている」「知らない」の 2 択で回答してもらった。質問内容 は以下の通りである。
・食物アレルギー
「アレルギーによって牛乳や卵を食べることができない人がいることを知っていますか?」
・花粉症
「花粉を吸うと,目がかゆくなったり,鼻水が止まらなくなったりする人がいることを知ってい ますか?」
・アトピー性皮膚炎
「アレルギーによって肌がかゆくなったり,がさがさ乾燥したりする人がいることを知っていま すか?」
・気管支喘息
「アレルギーによって急にゼーゼーした呼吸が起こったり,咳が止まらなくなったりする人がい ることを知っていますか?」
その結果,花粉症の症状を知っていると答えた児童の割合が最も高く,92.2% (380 名 ) であった。
次いで,食物アレルギー 86.0% (355 名 ),アトピー性皮膚炎 83.5% (345 名 ),気管支喘息 80.3% (331
名 ) という結果になった ( 図 3)。全ての項目で 8 割以上の児童が知っているという回答をし,質問 をした 4 種類のアレルギー疾患の症状の認知度は高い傾向にあるということがわかった。
(4-2) 症状の認知度と性差
「アレルギー疾患の症状の認知度」が「性別」による差があるのかをカイ 2 乗検定で解析した。
その結果,図 4 に示したように,食物アレルギーの症状について「知っている」と回答した割合は,
男子 82.4% (210 名中 173 名 ),女子 89.7% (203 名中 182 名 ) であった (p<0.05)。花粉症の症状につ いて「知っている」と回答した割合は,男子 90.0% (209 名中 188 名 ),女子 94.6% (203 名中 192 名 ) であった (p=0.079)。アトピー性皮膚炎の症状について「知っている」と回答した割合は,男 子 78.6% (210 名中 165 名 ),女子 88.7% (203 名中 180 名 ) であった (p<0.01)。気管支喘息の症状に ついて「知っている」と回答した割合は,男子 76.1% (209 名中 159 名 ),女子 84.7% (203 名中 172 名 ) であった (p<0.05)。以上の結果より,食物アレルギー,アトピー性皮膚炎,気管支喘息において男 子に比べ女子の方が各アレルギー疾患の認知度が有意に高かった。花粉症に関しては統計学的に有 意な差は認められなかったものの,他のアレルギー疾患と同様に女子の方が知っている割合が高い 傾向があった。また,男女ともに,花粉症,食物アレルギー,アトピー性皮膚炎,気管支喘息の順 に認知度が低くなっていた。
(4-3) 症状の認知度とアレルギー疾患の有無
次に,「アレルギー疾患の有無」と「アレルギー疾患の症状の認知度」に関連があるのではない のかと仮説を立て,カイ 2 乗検定を行った。「アレルギー疾患の有無」は,「各疾患をもっている児童」
「それ以外のアレルギー疾患をもっている児童」「アレルギー疾患をもっていない児童」「もってい るかもっていないかわからない児童」の 4 つに分類して分析した。
食物アレルギーの認知度はアレルギー疾患の有無によって差があった (p<0.05,図 5)。
すなわち,食物アレルギーをもっている児童では,食物アレルギーの症状を「知っている」児童 が 90.9% (20 名 ),「知らない」が 9.1% (2 名 ),食物アレルギー以外の何らかのアレルギー疾患をもっ ている児童では,「知っている」が 90.3% (177 名 ),「知らない」が 9.7% (19 名 ),アレルギー疾患をもっ ていない児童では,「知っている」が 83.8% (88 名 ),「知らない」が 16.2% (17 名 ),わからないと 回答した児童では,「知っている」が 75.6% (59 名 ),「知らない」が 24.4% (19 名 ) であった。
花粉症の認知度についてもアレルギー疾患の有無によって差があった (p<0.05,図 6)。すなわち,
花粉症に罹患している児童では,「知っている」児童が 97.0% (164 名 ),「知らない」が 3.0% (5 名 ),
花粉症以外の何らかのアレルギー疾患をもっている児童では,「知っている」が 93.8% (45 名 ),「知 らない」が 6.2% (3 名 ),アレルギー疾患をもっていない児童では,「知っている」が 87.6% (92 名 ),
「知らない」が 12.4% (13 名 ),わからないと回答した児童では,「知っている」が 88.5% (69 名 ),「知 らない」が 11.5% (9 名 ) であった。
アトピー性皮膚炎の認知度はアレルギー疾患の有無によって有意な差はなかった (p=0.082,図 7) が,他のアレルギー疾患と同様の傾向が見られた。すなわち,アトピー性皮膚炎に罹患している 児童では,「知っている」が 96.8% (30 名 ),「知らない」が 3.2% (1 名 ),アトピー性皮膚炎以外の 何らかのアレルギー疾患をもっている児童では,「知っている」が 85.6% (160 名 ),「知らない」が 14.4% (27 名 ),アレルギー疾患をもっていない児童では,「知っている」が 81.0% (85 名 ),「知らない」
が 19.0% (20 名 ),わからないと回答した児童では,「知っている」が 78.2% (61 名 ),「知らない」が 1.8%
(17 名 ) であった (p=0.082,図 7)。
気管支喘息の認知度はアレルギー疾患の有無によって差があった (p<0.05,図 8)。すなわち,気 管支喘息に罹患していると答えた児童では,「知っている」が 90.0% (45 名 ),「知らない」が 10.0%
(5 名 ),気管支喘息以外の何らかのアレルギー疾患をもっている児童では,「知っている」が 85.7%
(186 名 ),「知らない」が 14.3% (31 名 ),アレルギー疾患をもっていない児童では,「知っている」
が 72.4% (76 名 ),「知らない」が 27.6% (29 名 ),わからないと回答した児童では,「知っている」
が 74.4% (58 名 ),「知らない」が 25.6% (20 名 ) であった。
これらの結果より, 4 つのアレルギー疾患の認知度は「もっているかもっていないかわからない 児童」「アレルギー疾患をもっていない児童」「それ以外のアレルギー疾患をもっている児童」「各 疾患をもっている児童」となっていることがすべてに共通していた(図 5 〜 8)。
(5) アレルギーに対する気持ち
アレルギーやアレルギー疾患について,児童がどのような考え方や気持ちをもっているのかを明 らかにするため,対象者全員に 3 つの質問をし,それぞれについて 4 個の選択肢 (1. とてもそう思 う 2. 少しそう思う 3. あまりそう思わない 4. そう思わない ) を用意し回答してもらった。
(5-1) アレルギーで苦しむ友人を助けたいか
「咳が止まらない,体がかゆい,鼻水が止まらないなどで苦しんでいる友達がいたら助けてあげ たいと思いますか?」という質問をし,回答をしてもらった。その結果,最も多かったのは「とて もそう思う」で 56.9% (235 名 ) であった。次いで,「少しそう思う」36.3% (150 名 ),「あまりそう 思わない」4.8% (20 名 ),「そう思わない」1.9% (8 名 ) という結果であった。「そう思う」「少しそ う思う」と肯定的な考え方をもっている児童は 9 割以上で,大多数の児童がアレルギー疾患によ り苦しんでいる友だちを助けてあげたい,力になってあげたいと考えていることが明らかになっ た。さらに,「性別」と関連性があるのではないかと仮説を立てカイ 2 乗検定を行った。その結 果,アレルギーで苦しむ人を助けたいと考えている人は男子より女子に多いことが明らかになった (p<0.001,図 9)。
(5-2) アレルギーについて知ることの重要性
「楽しい学校生活を送るために,アレルギーをもっている人も,アレルギーをもっていない人も,
アレルギーのことを知ることは大切なことだと思いますか?」という質問をした。その結果,最も 多かったのは「とてもそう思う」で 70.2% (290 名 ) であった。以下,「少しそう思う」23.5% (97 名 ),
「そう思わない」3.4% (14 名 ),「あまりそう思わない」2.9% (12 名 ) という結果になった。「とても そう思う」「少しそう思う」と答えた児童を合わせると, 9 割以上の児童がアレルギーについて知 ることは大切であるという肯定的な考えをもっていることがわかった。さらに,「性別」と関連性 があるのではないかと仮説を立てカイ 2 乗検定を行った。その結果,男子より女子の方がアレル ギーについて知ることの重要性を感じていることが明らかになった (p<0.001,図 10)。
(5-3) アレルギーについて知りたいか
「アレルギーとは何かもっとたくさん知りたいと思いますか?」という質問をし,回答しても らった。その結果,最も多かったのは「少しそう思う」で 46.7% (193 名 ) であった。以下,「と てもそう思う」27.1% (112 名 ),「あまりそう思わない」16.5% (68 名 ),「そう思わない」9.7% (40 名 ) という結果になった。「とてもそう思う」「少しそう思う」と回答した児童を合わせると,約 7 割の児童がアレルギーについてもっと知りたいという積極的な気持ちをもっていることがわかっ た。しかし,「アレルギーについて知ることの重要性」と比較すると,アレルギーについて知る ことは大切だと答えた割合は 9 割以上なのに対して,自らがアレルギーについて知りたいと答 えた割合は 7 割と低くかった。さらに,「性別」と関連性があるのではないかと仮説を立てカイ 2 乗検定を行った。その結果,アレルギーについて知りたいと思う人は男子より女子の方が多かっ た (p<0.001,図 11)。
以上の結果から,男子に比べ女子の方がアレルギーで苦しむ友人を助けたい,アレルギーにつ いて知ることは重要である,アレルギーについて知りたい,という積極的,肯定的な気持ちや考 え方をもっていることが明らかになった ( 図 9 〜図 11)。従って,アレルギーについての気持ち や考え方には性差があることが示唆された。
(6) アレルギーについて誰に教えてもらいたいか
「アレルギーについて教えてもらうとしたら,誰に教わりたいですか?」という質問に対して 7 個 (1. 学級担任 2. 養護教諭 3. その他の教師 4. 家族 5. 医師 6. アレルギーに詳しい友 人 7. わからない ) の選択肢を用意し,回答してもらった。その結果,最も多かったのは医師 49.5% (186 名 ) であった。次いで,家族 23.4% (88 名 ),養護教諭 12.0% (45 名 ),わからない 8.0%
(30 名 ),アレルギーに詳しい友人 4.8% (18 名 ),学級担任 1.6% (6 名 ),その他の教師 0.8% (3 名 ) であった。
考察
本研究は,小学生の子どもたちが,アレルギー疾患をどの程度理解し,どのように考えている のか,また,アレルギー疾患を有する子どもと健常児には,アレルギー疾患の認知度やアレルギー に対する考え方に違いがあるのかを明らかにすることを目的とした。小学生 (4 〜 6 年生 ) にア ンケート調査を行い,以下 5 点のことが明らかになった。
(1) 子どものアレルギー疾患は増加傾向にある
文部科学省により,平成 16 年に行われた調査では小学生のアレルギー疾患有症率は,気管支
喘息 6.8%,アトピー性皮膚炎 6.5%,アレルギー性鼻炎 8.8%,アレルギー性結膜炎 3.5%,食物 アレルギー 2.8% であった 1)。一方,本研究では,気管支喘息 12.1%,アトピー性皮膚炎 7.5%,
アレルギー性鼻炎 8.2%,アレルギー結膜炎 1.7%,食物アレルギー 5.6% ( 図 2) であった。平成 16 年の調査は,全国規模で養護教諭など各学校の教職員による回答であったが,本調査は,複 数の小学校の 4 〜 6 年生を対象に行ったものである。従って,比較して一概に子どものアレル ギー疾患は増加しているということはいえないが,8 年前の調査時より増加傾向にあるという ことが示唆された。特に,今回の調査で花粉症の保有率は 41.9% となっていた。この結果から,
小学校ではおよそ 2 人に 1 人の割合で花粉症の児童がいることになり,学校での対策が必要で あることが考えられる。また,今回の調査では 19.5% の児童がアレルギー疾患の有無がわから ないと回答していた ( 図 2)。5 人に 1 人は自らのアレルギー疾患の有無がわからないということ で,子どもたちが自分の身体に関することついて考える機会を学校・家庭でつくっていく必要が あると考えられる。
(2) アレルギー疾患の有無とアレルギー疾患の認知度には関係性がある
本調査では,「アレルギー」という言葉を聞いたことがある児童の割合は 98.3% であった ( 図 1)。また,食物アレルギー,花粉症,アトピー性皮膚炎,気管支喘息の症状の特徴は,全て 8 割 以上の児童が理解していた ( 図 3)。従って,小学生の子どもたちは,アレルギーという言葉を耳 にしたことがあり,アレルギー疾患の特徴についても多くのの児童が理解しているということが 明らかになった。アレルギー疾患の有無とアレルギー疾患の症状の認知度の関係をカイ 2 乗検定 で分析したところ,図 5 〜図 8 にあるようにアレルギー疾患保有者は,健常者やアレルギー疾 患の有無がわからない者に比べ,アレルギー疾患の認知度が高い傾向にあった。自分のもってい るアレルギー疾患の症状を知っている割合が高くなるのは当然の結果であるが,何らかのアレル ギー疾患を有していることにより,その他のアレルギー疾患の知識も増えた。また,アレルギー 疾患をもっていなかったり,自分自身のアレルギーの有無がわからないなど関心が薄かったりす ると,身近なものだと感じられずに知識が薄いものであり,このような結果になったのではない かと考える。アレルギー疾患の有無に関わらず,最低限の知識をもつことが,アレルギーによる いやがらせや誤解をなくすための1つの方法だと考えられる3, 4)。
(3) 症状の認知度は各アレルギー疾患によって差がある
アレルギー疾患の症状の認知度は,花粉症 92.2%,食物アレルギー 86.0%,アトピー性皮膚炎 83.5%,気管支喘息 80.3% であった ( 図 3)。症状の認知度がこのような順となった要因の一つと して,生活の中でその症状や対処を見る機会の多さが関係していると推測される。花粉症の場合 は,保有している人が多く,花粉飛散の季節のなると症状に苦しんでいる人を見たり,天気予報 で取り上げられていたりなど日常的に目にする機会が多い。食物アレルギーの場合も,学校給食 でのアレルゲンとなる食物の除去などで疾患について理解するのではないかと考えられる。一方,
アトピー性皮膚炎や気管支喘息は,症状が悪化しなければ日常生活を通常に送ることができ,学 校での特別な管理が不必要な場合もあるため,花粉症や食物アレルギーに比べ認知度が低くなっ ていたのではないかと考えられる。しかし,先行研究では,いじめの対象となった生徒がアトピー
性皮膚炎の場合は,アトピー性皮膚炎が中傷の対象となることもある 5) ということが述べられて いる。アレルギー疾患によるいじめを起こさないためには,認知度が低い傾向にあったアトピー 性皮膚炎や気管支喘息についての知識を高めていく必要があると考えられる。
(4) アレルギーに対する考え方や気持ちにアレルギー疾患児と健常児の間での違いはほとんどない アレルギーに対して,子どもたちはどのような考えや気持ちをもっているか調査したところ,
多くの児童がアレルギーについて知ることは重要であるというアレルギーに対して肯定的な気持 ちをもっていることがわかった。アレルギーで苦しむ子を助けたいか,アレルギーについて知り たいか,という質問に対しても同様に,肯定的な気持ちが多くみられた。従って,アレルギーに ついての教育を積極的に行っていくことは有効なことであるといえる。アレルギー疾患児と健常 児でその気持ちに違いがあるのかを分析したが関係性がみられず,アレルギー疾患の有無にかか わらずアレルギーを知りたいという気持ちがあるということがわかった。従って,アレルギー疾 患児と健常児の双方が興味をもつことができる教育の展開が求められると考えられる。
(5) アレルギーの認知度,アレルギーに対する考え方や気持ちには性差がある
文部科学省の研究では,アレルギー疾患の有症率は,女子に比べ男子の方が高いという傾向に あった。また,本研究では,文部科学省の研究における男女のアレルギー疾患の有症率と一致は しなかったが,花粉症,気管支喘息,アレルギー性鼻炎,アレルギー性結膜炎において,女子に 比べ男子の方が有症率が高い傾向にあった。本研究では,アレルギー疾患の認知度について男女 間の差はあるのか分析したところ,女子の方が認知度が高いという結果になった ( 図 3)。また,
アレルギーで苦しむ友人を助けたいか,アレルギーについて知ることは重要だと思うか,アレル ギーについて知りたいかといったアレルギーに対する気持ちについても,女子の方がアレルギー 疾患に関心があり,より肯定的な考え方や気持ちをもっているということがわかった ( 図 9 〜 11)。理由として,男子に比べ女子の方が第二次性徴が早く自分や他人の体に関心があることが 認知度が高くなった一つの要因としてあるのではないかと推測され,男女の特徴を理解したアレ ルギー教育も必要であると思われる。
以上 5 点の結果から,アレルギー疾患をもつ児童生徒は増加傾向にあり,養護教諭が学校に おいてあらゆる面での配慮やアレルギーについての教育を推進していくことは,非常に重要で有 効なことであるということが明らかになった。アレルギー疾患をもつ児童生徒への配慮やアレル ギー教育を行っていく上で,以下 5 点のことを提案したい。
1. 学校医や地域の医師など専門家と協力した健康教育,アレルギー教育の推進
約半数の子どもたちは,医師にアレルギーについて教えてもらいたいと考えており,医師の専 門的な知識を子どもたちに提供するために,学校医の方に協力を願い,専門性の高いアレルギー 教育の推進を図る。
2. 子どもたちにとって最も身近なアレルギー疾患である花粉症を導入に取り入れたアレルギー教
育の実施
有症率,認知度ともに花粉症が最も高くなっていた。自分が花粉症でなくても,身近な大人が 花粉症であったり,ニュースで取り上げられているのを見聞きしたりして,花粉症について知っ ている子どもは多い。そこで,導入の段階で,花粉症が起こるしくみやシステムについて説明し,
子どもたちがアレルギー疾患に対して,興味をもつような教育の実施を図る。
3. 養護教諭による保健指導の実施
アレルギーを教えてもらう対象として,学校関係では養護教諭を選択する児童が目立った。養 護教諭は子どもたち一人ひとりのアレルギー疾患を確実に把握しなければならない。そして,一 人ひとりの症状の特徴を理解した上で,アレルギー疾患児と周りで行動する健常児の双方に,わ かりやすい保健指導を実施する。また,養護教諭がアレルギーについての保健指導を行うと,相 談を受ける機会が増えるという先行研究18)の結果からも,養護教諭のアレルギーについての保 健指導が非常に効果のあることだと考えられる。
4. ほけんだよりを通じた家庭への啓蒙や家庭との緊密な連携
家族にアレルギーについて教わりたいと考える児童が多くいた。アレルギー疾患児は,治療や 対応について家庭で指導されていることが考えられるが,健常児ではそのような機会がないと考 える。ほけんだよりにアレルギーについての情報を掲載し,家庭でアレルギーについて教育をす る機会のきっかけをつくる。また,先行研究では,気管支喘息に関することで,約半数が発作時 の対応を養護教諭に期待している19)という結果が出ており,緊急時の対応について養護教諭に 期待されていることは大きい。気管支喘息に限らず,すべてのアレルギー疾患において,家庭と 密な連携を図り,児童生徒の疾患の理解を深めていく必要がある。
5. アレルギー疾患を保有する児童生徒への心身のケアの充実
アレルギー疾患保有者が,疾患をもっていることによりどのような気持ちを抱えているのかを 本研究では調査することはできなかったが,少なからず苦しさを抱えている児童生徒はいると考 えられる。また,先行研究では,アトピー性皮膚炎をもつ子どもは,他人にどのように見られて いるかを気にしていることが多い17)と報告されている。アトピー性皮膚炎に限らず,アレルギー 疾患を保有する子どもたちの心理面に与える影響を十分に汲み取り,心と体両面からの配慮やサ ポートをしていく。
引用文献
1) 文部科学省アレルギー疾患に関する調査研究委員会「アレルギー疾患に関する調査研究報告書」2004.
2) 永倉俊和『アレルギーのふしぎ』( 東京:サイエンス・アイ新書,2010).
3) 片岡葉子,吹角隆之,遠藤薫,檜澤孝之,青木敏之「アトピー性皮膚炎と不登校,いじめ」『アレルギー』
48 (2,3):290,1990.
4) 津村直子,渡辺智子,山田玲子「アトピー性皮膚炎児の生活における現状と課題」『北海道教育大学紀要 教育科学編』60 (1):239-247,2009.
5) 熊谷仁美,竹下誠一郎,宮川八平,石原研治「アレルギーに対する養護教諭の保健指導の実態調査:主に 保健指導に関する相談・困難について」『茨城大学教育学部紀要 教育科学』61:377-385,2012.