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感染症学雑誌 第85巻 第 5 号
アルコール性肝硬変に合併した劇症 Aeromonas sobria 感染症の 1 例
明理会中央総合病院心臓血管外科,イムス葛飾ハートセンター心臓血管外科
岩 倉 具 宏 吉 田 成 彦
(平成 22 年 12 月 20 日受付)
(平成 23 年 6 月 2 日受理)
Key words : Aeromonas sobria, necrotizing fasciitis, sepsis
序 文
Aeromonas sobria(A. sobria)は,水や土壌に生息す るグラム陰性通性嫌気性桿菌である1).Aeromonas属 は一般的に病原性が弱いとされているが,Aeromonas
hydrophilは肝硬変などの免疫能の低下している患者
では重篤化し,致命的な経過をとる事が報告されてい るものの,A. sobriaによる劇症化の報告は少ない2)〜7). 今回,アルコール性肝硬変にA. sobria感染による壊死 性筋膜炎から激烈な経過をきたし死亡した 1 例を経験 したので報告する.
症 例 症例:63 歳,男性.
主訴:突然の発熱,嘔吐,右下肢痛.
既往歴:平成 22 年 1 月より糖尿病にてインスリン 加療中で HbA1c 7.3% であった.同年 2 月に食道静 脈瘤に対して硬化療法を施行.
現病歴:平成 22 年 1 月より腹水を伴う肝硬変を指 摘され,非代償性肝硬変と診断され,利尿剤,ラクツ ロースシロップの内服加療を行っていた.同年 8 月 6 日突然の発熱,嘔吐,右下肢痛を認め当院紹介入院と なった.8 月 4 日夜に魚介類の刺身を食していた.
入院時現症:身長 170cm,体重 48kg,体温 36.2℃,
血圧 120!74mmHg,脈拍 114!分 整,意識清明,眼 瞼結膜は貧血様,眼球結膜に黄染を認めた.胸部に異 常所見なし.腹部は平坦で圧痛及び腹膜刺激症状を認 めなかった.右下肢は腓腹部の圧痛と色素沈着を伴う 皮疹を軽度認めた.
入院時検査所見:白血球 2,400!μL で白血球分画は 左方移動,CRP 11.89mg!dL と高度炎症所見を認め た.また,血小板は 2.5 万!μL と低下し,Ch. E 75U!
L,アルブミン 2.9g!dL など肝予備能の低下,アンモ ニア 93μg!dL の上昇を認めた.
経過:右下肢の蜂巣炎による発熱と考え,入院後よ り SBT!ABPC 3g!day 投与を開始した.同日深夜,右 下腿の緊満性腫脹および熱感が増悪した.右下腿の緊 満性腫脹が中枢側へと進展するとともに,水泡が出現 し血胞へと変化した.また紫斑の出現もみられた.8 月 7 日早朝,右下腿の腫脹著明,全体的に暗赤色に変 色し冷感を認めた.右足背動脈および後脛骨動脈の血 流はドップラー血流計を用いても確認できず,間もな く膝窩動脈の血流も確認できなくなったため,壊死性 筋膜炎と診断し MEPM 1.0g!day に変更した.また,
白血球数 1,400!μL 以下のため顆粒球コロニー刺激因 子(G-CSF)を開始した.可及的に右下肢切断術を考 慮したが敗血症性ショックに加え,血小板 5,000!μL と低下,腎障害,CK 上昇を認めたためにやむなく断 念.人工呼吸器管理とし,減張切開を施行した.皮膚 を切開し筋膜を露出すると,筋膜は黒褐色に変色し壊 死しており,異臭を放っていた.ヒト免疫グロブリン 製剤の投与,血小板の投与,新鮮凍結血漿の投与,エ ンドトキシン吸着,腎不全状態に対して持続血液濾過 透析を行うもアシドーシスの進行を制御できず,DIC 状態に対してメシル酸ガベキセートの投与を開始し た.8 月 8 日夜,循環動態の悪化とともに多臓器不全 にて死亡した.後日,血液培養よりA. sobriaを認め,
これによる壊死性筋膜炎から敗血症になったと考えら れた.また,感受性のある抗菌薬を投与していたが無 効であった(Table 1).
考 察
Aeromonasのうち主としてヒトに病原性を示すのは
Aeromonas hydrophila(A. hydrophila),Aeromonas caviae と本症例で分離されたA. sobriaの 3 種で,主として 水や土壌等の自然環境に生息する人の非常在菌であ る8).本菌は魚介類,肉,野菜などといった食料品か らも分離される食中毒菌の一つで,下痢を発症するこ とがあり,感染経路は主に経口感染である9).しかし,
症 例
別刷請求先:(〒114―0001)東京都北区東十条 3―2―11 明理会中央総合病院心臓血管外科 岩倉 具宏
Aeromonas sobria感染症 513
平成23年 9 月20日
Table 1 Aeromonas sobria susceptibility to antibi- otics
ABPC R>16 SBT/CPZ S<16
SBT/ABPC S FMOX S<8
PIPC S<8 CPR S<8
GM S 2 CFPM S<8
AMK S 8 CPFX S<1
MINO S<1 LVFX S<1
CEZ >16 FOM S<4
CTM S<8 MEPM S
CMZ S<4
病原性は一般的には弱く,食中毒でも軽度の腸炎です むことが多いが,重症化する場合にはエンドトキシン の関与と生体内においてブドウ糖を発酵しガスを産生 させる軟部組織壊死を引き起こすことが主体とされ る10).まれに健常人にも敗血症を引き起こすが,肝硬 変を中心とする肝疾患,糖尿病,固形癌患者など免疫 能低下例,悪性造血器疾患を伴う患者において敗血症 や壊死性軟部組織感染症をきたし,極めて早い経過を 辿り致死率も高い11).A. sobriaは,経口感染が主であ るが,創傷感染や胆道系感染など局所の炎症から全身 に波及することもある.また,肝硬変患者では細網内 皮系や単球機能の低下がみられるため肝臓での filtra- tion 機構が破綻しやすく,消化管―門脈―大循環系を 経て敗血症へ進展していくと考えられている12).本例 の感染機転としては,明らかな創傷や胆道感染の所見 を認めず,非代償性肝硬変の compromised host の刺 身の生食によると思われるA. sobriaの経口感染が生 じ,細菌が大循環を介して末梢の皮膚,骨格筋で繁殖 し,壊死性筋膜炎,敗血症を生じた.A. hydrophilaは 溶血活性を持ち,ガス産生をする13).A. sobriaにおい ても少ないながら同様の性質を持つとされる.本症例 にも同菌の exotoxin によるものと考えられる皮下出 血斑および皮下気腫を認め,抗生剤を ABPC!SBT か ら MEPM に変更した.しかし,菌量が多く,exotoxin による毒性が強いため,宿主の低免疫状態と相まって 急激な経過を辿り救命し得なかった.
本菌はβラクタマーゼ産生菌でペニシリン系,第 1,
2 世代セフェム系には感受性が低く,カルバぺネム系,
フルオロキノロン系に感受性が高いので14),グラム陰 性桿菌にも感受性のある抗生物質への変更が必要とな る.また,末梢の冷感と局所の色調不良を認めてから 数時間で急激にコンパートメント症候群に至っている 事を考慮すると,減張切開のタイミングとしてはコン パートメント症候群による血流障害の兆候を認めた時 点が有効であると考えられた.
今後,本疾患が予想される場合は直ちに血液培養を 施行し,感受性の予測されるカルバぺネム系もしくは
フルオロキノロン系抗菌薬の最大容量投与をエンピリ カルに行い,壊死性軟部組織感染症によるコンパート メント症候群を認めた時点で緊急筋膜切開術を要する と考えられた.また,急速な炎症所見の拡大,壊死を 認めた場合には救命のために截肢術を可及的早急に施 行する必要があると考えられた.
文 献
1)小泉健雄,村田厚夫,後藤英昭,山口芳裕,榊 聖樹,岡崎充宏,他:Aeromonas hydrophila 重 症感染症の臨床とその疫学的検討.日本救急医 学会雑誌 2002;13(10):647―79.
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岩倉 具宏 他 514
感染症学雑誌 第85巻 第 5 号 64:5302―9.
14)Burgos A, Quindos G, Matirez R,et al.:In vitro susceptibility of Aeromonas caviae, Aeromonas
hydrophila and Aeromonas sobria to fifteen antibacterial agents. Eur J clin Microbiol Infect Dis 1990;9:413―7.
FatalAeromonas sobriaInfection in Liver Cirrhosis Tomohiro IWAKURA & Shigehiko YOSHIDA
Department of Cardiovascular Surgery, Meirikai Central General Hospital, Department of Cardiovascular Surgery, IMS Katsushika Heart Center
Aeromonas sobria infection is known to be very serious in immunocompromised hosts. We report a case ofA. sobriainfection fatal in a subject with decompensated liver cirrhosis. A 63-year-old man with liver cir- rhosis admitted for fever and vomiting developed a necrotizing soft-tissue infection in the right lower leg.
Despite a decompression incision in the affected limb and intensive care, he died of sepsis one day after sur- gery.A. sobriawas detected afterward in a blood culture.
〔J.J.A. Inf. D. 85:512〜514, 2011〕