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日本調理科学会誌 Vol. 46 No. 6(2013) 3. 結果 (1) 通過儀礼の認知と経験通過儀礼の認知率を図 1 に示した 全ての年代区分で 誕生日 が高く 97% 以上であった また,30 歳未満でも 成人式, 七五三 がいずれも 94% 以上であった 30 歳 ~50 歳未満では 法事

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Academic year: 2021

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徳島県における通過儀礼食の現状

A Survey of Foods for Rites of Passage in Tokushima Prefecture

後 藤 月 江*

§

松 下 純 子** 金 丸   芳*** 遠 藤 千 鶴*

Tsukie Goto Junko Matsushita Kaori Kanemaru Chizuru Endo

長尾久美子** 有 内 尚 子** 高 橋 啓 子****

Kumiko Nagao Naoko Ariuchi Keiko Takahashi

We surveyed food for special occasions and rites of passage in 2009-2010. The results enabled us to compare the current status of rites of passage among individuals who have lived in Tokushima Prefecture for 10 years or more by age group (under 30 years, 30-49 years, and 50 years or older).

The awareness for and experience with the rites of passage of birthday celebrations and the shichigosan festival were high in all age groups, indicating that these events have become well-established. The proportion of subjects eating cake for birthday celebrations was very high in all age groups, indicating a general finding. A high awareness was apparent for celebrations of longevity, but the rate of experience with these events was low for the under 30 years age group. An a wareness for and experience with purification ceremonies and the proportion of respondents who had consumed food for purification purposes were low in all age groups. Only a low proportion of the under 30 years age group had experience with all types of rites of passage, and many individuals in this age group are thought to have forgotten their experiences, even if they had participated, or to not yet have experienced many of them.

キーワード:徳島 Tokushima;通過儀礼 rites of passage;通過儀礼食 foods for rites of passage

* 四国大学短期大学部

(Shikoku University Junior College) ** 徳島文理大学短期大学部

(Tokushima Bunri University Junior College)

*** 徳島大学大学院ソシオ・アーツ・アンド・サイエンス研究部 (The University of Tokushima Institute of Socio-Arts and Sciences) **** 四国大学 (Shikoku University) § 連絡先 四国大学短期大学部 〒 771-1192 徳島市応神町古川字戎子野 123-1 TEL 088(665)1300 FAX 088(665)8037 1. 緒  言  子の誕生を祝い,子どもが無事に育ち長生きできるよう に願い行われる儀礼や,一生のうちに経験する重要な節目 に行われる儀礼を通過儀礼といい,地域や家により伝統的 なしきたりが伝えられてきた。このような儀礼を行う際に もてなしの食事が発達し,食文化として地域に根付いてき た。これらの儀礼はその土地の風土や風習,自然環境にも 影響され,同じ県であっても地域性がみられる1)  かつては儀礼が重んじられていたが,現代においては多 くの儀礼やそれに伴う料理が簡素化あるいは省略化されて いる傾向が見られる。読売新聞社が行った「冠婚葬祭」に 関する調査では,七五三,結婚式・披露宴,葬式,法要の 行い方について,なるべく簡素に行うと回答した人が 80% 以上であった。また,成人式や七五三,お宮参りは子ども の誕生から成人になるまでの儀礼で行った方がよいとの回 答率が高かったものの,お七夜とお食い初めの回答率は低 く2),儀礼が簡素化,省略化されていることがうかがえた。  そこで平成 21~22 年度日本調理科学会特別研究として実 施した「調理文化の地域性と調理科学―行事食・儀礼食」 のうち,徳島県の調査結果を解析し,人生の重要な節目と して受け継がれる通過儀礼について,徳島県における近年 の現状を把握することとした。 2. 方  法  調査内容は日本調理科学会特別研究の全国統一調査票を 用い,留め置き法により行った。調査期間は平成 21 年 12 月~平成 22 年 3 月である。大学生とその保護者,一般の人 502 人から回答を得た(回収率 87%)。そのうち徳島県に 10 年以上在住し全ての回答に記入漏れのない 247 人を集計 対象とした(表 1)。集計は通過儀礼の認知と経験および料 理の喫食について行った。認知と経験は調査対象者を基準 に,料理の喫食は各儀礼の経験があると回答した者を基準に 算出した。有意差検定は統計ソフト IBM SPSS Ver.18 を使 用しカイ 2 乗検定を行った。30 歳未満,30 歳~50 歳未満, 50 歳以上の年代に 3 区分し,年代による違いを検討した。 表 1.  調査対象者 人(%) 年代区分 男 性 女 性 合 計 30 歳未満 13 112 125( 50.6) 30 歳~50 歳未満 2 65 67( 27.1) 50 歳以上 9 46 55( 22.3) 全 体 24(9.7) 223(90.3) 247(100.0)

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3. 結  果 (1) 通過儀礼の認知と経験  通過儀礼の認知率を図 1 に示した。全ての年代区分で 「誕生日」が高く 97%以上であった。また,30 歳未満でも 「成人式」,「七五三」がいずれも 94%以上であった。30 歳~50 歳未満では「法事」,「葬儀」が 100%であった。50 歳以上では「出産祝い」,「七五三」,「成人式」,「婚礼」, 「葬儀」が 98%以上であった。  全ての儀礼で 30 歳未満の認知率が低かった。特に,30 歳未満で認知率の低かった儀礼は「お七夜」と「百日祝い」 で,約 40%であった。「厄払い」はどの年代でも低く約 70%であった。認知率で年代区分間の有意差がみられる儀 礼は,「お七夜」,「百日祝い」,「初誕生」,「結納」,「長寿」 (p<0.001),「婚礼」「法事」(p<0.01),「出産祝い」,「厄 払い」,「葬儀」(p<0.05)であった。  通過儀礼の経験では,図 2 に示すように,全ての年代区 分で「誕生日」の経験率が高く 96%以上であった。30 歳未 満では「七五三」が 84.8%,「葬儀」が 74.5%,「法事」が 68%で高い傾向にあった。一方,「出産祝い」,「お七夜」, 「百日祝い」,「初誕生」,「結納」,「婚礼」,「厄払い」,「長 寿」で経験率が低く 10~40%であった。30 歳~50 歳未満 では「厄払い」,「長寿」を除く全ての儀礼で 82~97%の経 験率であった。50 歳以上では「厄払い」を除く全ての儀礼 で 67~98%の経験率であった。  「厄払い」は認知率同様どの年代区分においても経験率が 低く,全体で 25.9%であった。年代区分が高いほど儀礼の 経験率は高く,「誕生日」,「七五三」を除く全ての儀礼にお いて年代区分間に有意差がみられた(p<0.001)。 (2) 儀礼における料理の喫食  通過儀礼における料理の喫食率では,図 3-1,3-2 に示す ように,「誕生日」のケーキが全ての年代区分で 96%以上 と高い喫食率であった。30 歳未満は「出産祝い」の赤飯・ 産 飯・小 豆 飯 が 95.9%,「お 七 夜」の 赤 飯・小 豆 飯 が 92.0%であったが,経験率が低いので実際の喫食者数は多 くない。また,「七五三」の千歳飴 84.9%,「法事」の各種 料理 78.8%と喫食率が高かった。  30 歳~50 歳未満と 50 歳以上は,「婚礼」の各種料理, 「出産祝い」「お七夜」「百日祝い」の赤飯・小豆飯の喫食率 が 93%以上と高かった。  一方,どの年代区分でも喫食率の低かった料理は,「厄払 い」の赤飯と「初誕生」のケーキで,全体でも「厄払い」 の赤飯 4.7%,「初誕生」のケーキ 6.3%と低かった。  料理喫食率で有意差がみられる料理は,「お七夜」と「百 日祝い」の尾頭付き魚,「誕生日」の赤飯・小豆飯,「成人 式」の餅類,「葬儀」の精進料理(p<0.001),「初誕生」と 「成人式」の赤飯・小豆飯,「七五三」の千歳飴,「法事」の 精進料理(p<0.01),「七五三」の赤飯・小豆飯・すし, 「婚礼」の各種料理,「長寿」の赤飯・小豆飯と尾頭付き魚, 「葬儀」の精進料理以外(p<0.05)であった。 0 50 100 葬儀 * 法事 ** 長寿 *** 厄払い * 婚礼 ** 結納 *** 成人式 七五三 誕生日 初誕生 *** 百日祝い *** お七夜 *** 出産祝い * 30歳未満 30歳〜50歳未満 50歳以上 全体 認知率(%) 図 1.  通過儀礼の認知率  年代区分間における有意差は***; p<0.001, **; p<0.01, *; p<0.05 である。 0 50 100 葬儀 *** 法事 *** 長寿 *** 厄払い *** 婚礼 *** 結納 *** 成人式 *** 七五三 誕生日 初誕生 *** 百日祝い *** お七夜 *** 出産祝い *** 30歳未満 30歳〜50歳未満 50歳以上 全体 経験率(%) 図 2.  通過儀礼における経験率 年代区分間における有意差は***; p<0.001 である。

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4. 考  察 (1) 通過儀礼の認知と経験  通過儀礼における認知と経験は年齢による差が大きいこ とがわかった。すなわち,自身を対象として行われる儀礼 と他者を対象として行う儀礼があるため,年齢が進むにつ れそれらの経験が多くなると考えられる。  30 歳未満は「誕生日」,「成人式」,「七五三」のように, 自身が経験したことのある儀礼はよく認知し,経験してい た。しかし,他者を対象とした子どもの出生に関係する儀 礼の「お七夜」や「百日祝い」は認知率約 40%,経験率約 20%と低かった。「初誕生」については約 65%の認知があ るものの,経験率は約 30%である。  また,「結納」,「婚礼」の認知は高いものの経験は低い。 これらの認知および経験率は,全国の報告3)や大阪府の調 査報告4),佐藤らの報告5)と若干の数値の違いは見られるが 傾向はよく似ている。  これら,女性の人生の節目である結婚や子どもの出生に 関係する儀礼は,晩婚化や出産年齢の高齢化とも関係して いると考えられる。徳島県の女性の平均婚姻年齢が 28.5 歳 (全国 29.0 歳)6)と晩婚化が進行していること,さらに第 1 子の出生時平均年齢が 29.4 歳(全国 30.1 歳)7)であること から,30 歳未満で出生に伴う祝いの儀礼である「お七夜」, 「百日祝い」,「初誕生」の経験率が低いのは,自身の出産が 未経験であることが理由と推察される。  「厄払い」は 30 歳以上の年代においても認知率,経験率 ともに低く,30 歳未満では 10%の経験率であった。学生の 経験率は全国で 19.5%3),大阪府で 18.9%4) ,山形県では 30 歳未満で 35.5%8)の報告がある。厄年は一般に数え年で 男子 25 歳,42 歳,女子 19 歳,33 歳がそれに当たり,特に 42 歳は『死に』に通じることから『大厄』とされ,「厄払 い」を行うことが多い9)。よって,30 歳未満では自身の未 経験によるところが大きいと考えられる。  「誕生日」の経験率が全ての年代区分で高く,ほとんどの 人が経験していた。さらに「七五三」と「葬儀」,「法事」 の経験率が全体で 82%以上と高かった。一方,30 歳未満の 経験率が全ての儀礼で低く,「誕生日」,「七五三」以外の儀 礼では年代区分間で有意差がみられたことから,30 歳未満 は儀礼に参加する機会が少ないが,30 歳以降に人生の節目 とされる儀礼を多く経験していくことが推察された。  「誕生日」,「七五三」,「成人式」など自身が経験した儀礼 や,「葬儀」や「法事」のように死者の冥福を祈り,その霊 0 50 100 赤飯・小豆飯 ** 餅類 *** 各種料理 各種料理 * もち 赤飯 紅白饅頭・ 紅白餅 赤飯・小豆飯 * 尾頭付き魚 * 各種料理 各種料理 精進料理 ** 精進料理 *** 精進料理 以外 * 成人式 結納 婚礼 厄払い 長寿 法事 葬儀 30歳未満 30歳〜50歳未満 50歳以上 全体 喫 食 率 % 図 3-2.  通過儀礼における料理喫食率 年代区分間における有意差は***; p<0.001, **; p<0.01, *; p<0.05 である。 0 50 100 赤飯・産飯・ 小豆飯 赤飯・小豆飯 尾頭付き魚 *** 赤飯・小豆飯 尾頭付き魚 *** 赤飯・小豆飯 ** 餅類 ケーキ 赤飯・小豆飯 *** ケーキ 赤飯・小豆飯 すし* 千歳飴 ** 出産祝い お七夜 百日祝い(おくいぞめ) 初誕生 誕生日 七五三 30歳未満 30歳〜50歳未満 50歳以上 全体 喫 食 率 % 図 3-1.  通過儀礼における料理喫食率 年代区分間における有意差は***; p<0.001, **; p<0.01, *; p<0.05 である。

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を慰めるための儀礼は他者の儀礼ではあるが,家族として 参加するなど生活の中で経験する機会の多い儀礼はよく認 知され,経験もされていた。  一方「長寿」は認知率が全体で 83.8%と高いにもかかわ らず,経験率は全体でも 41.7%であり,50 歳以上でも 67.3%で他の儀礼と比べると低い経験率であった。年代区 分が高い方が儀礼経験率は高いといえるが,30 歳未満は儀 礼の経験が少ない上に,経験しても長寿を祝う料理を食さ ない割合が高い。大阪府では「還暦」の喫食率は 13.0%4) 山形県の結果でも 6.3%8)と低いことより,「長寿」を祝い, 祝いの料理を食す機会がさらに少なくなっていくと危惧さ れる。  長寿の祝いは 60 歳の還暦から 100 歳の百寿まで人生の節 目に無事を祝うものである。平均寿命の延長により,長寿 祝いをする機会は増えていると考えられるが,還暦の 60 歳 は現役で仕事をする人が多く,また古稀とされていた 70 歳 は高齢者の増加によって稀ではなくなり,長寿に対する年 齢の認識が変化している。高齢化が進んでいることから, 還暦や古希など長寿とみられた年齢では祝う者が少なくな り10),さらに核家族化により,高齢者との同居が少なく, 長寿祝いに接する機会が少なくなっていることも一因では ないかと考えられる。 (2) 儀礼における料理の喫食  儀礼を行う上で料理はつきものであるが,その喫食率に ついては経験率と同様の傾向が見られ,年代区分が高くな るにつれて喫食率は高かった。  「誕生日」のケーキの喫食率は,どの年代区分においても 高い結果であったことから,「誕生日」にケーキを食すこと は近年一般化していることがわかった。1995 年の板東の報 告において,誕生日ケーキは新しく始められた行事として 取り上げており,その実施率は多い地域で 33%であった11) が,近年では,より定着していることがうかがえる。  一方,誕生日の赤飯・小豆飯は年代区分による差が見ら れ,経験時期では 1984~2003 年をピークに 2004 年以降は 赤飯・小豆飯の経験が減少していることから,誕生日の祝 い料理が赤飯からケーキに移行したことがうかがえる(表 2)。  また,「七五三」の千歳飴は 30 歳未満が 50 歳以上より喫 食率が高い唯一のものである。七五三は三歳になった男女, 五歳になった男子,七歳になった女子の成長を祝いお祓い を受ける儀礼であり,幼いころに神社に行きお祓いを受け た後にいただいた千歳飴の印象が強く残り,喫食率として も高い結果であったと考えられる。  通過儀礼では赤飯・小豆飯の食される儀礼が多い。前述 の「誕 生 日」の 赤 飯・小 豆 飯 の 喫 食 率 は 30 歳 未 満 で 29.8%と低いが,「出産祝い」の赤飯・産飯・小豆飯が 95.9%,「お七夜」の赤飯・小豆飯が 92.0%,「百日祝い」 の赤飯・小豆飯が 84.6%と高い結果であった。30 歳~50 歳未満と 50 歳以上では各儀礼の赤飯・小豆飯の喫食率は高 く,儀礼食として定着していることがうかがえた。30 歳未 満においてはこれらの儀礼の経験率が低いが,儀礼に参加 した場合はほぼ喫食していると考えられる。すなわち 30 歳 未満でも,今後,親として出生に伴う儀礼の当事者となっ た時には,儀礼を経験して喫食する可能性が高く,儀礼食 としての存続が期待出来る。  しかし,「成人式」,「長寿」での赤飯の喫食率は儀礼経験 者の 60~70%であり,年代が若いほど少ない。また,厄払 いの赤飯は 10%以下であり,喫食率の低下が危惧される。  また尾頭付きの魚を食する儀礼では「百日祝い」が最も 高い喫食率であった。30 歳未満については赤飯と同様,儀 礼の経験率が低いため,喫食者が多いとは言い切れないが, 30 歳~50 歳未満で 93.2%と最も高く,ついで 50 歳以上も 79.1%と高かった。大阪府と山形県の通過儀礼に供される 食べ物の喫食率でも,「お七夜」や「長寿」よりも「百日祝 い」の尾頭付きの魚が最も高い結果であり,大阪府の一般 で 70.7%4),山形県の親世代で 60.5%8)であった。徳島県 は「百日祝い」の尾頭付き魚が定着し,「百日祝い」の儀礼 食として根付いている県と考えられる。  もちについても祝いの品としてよく利用されているが, 「初誕生」では全体で 41.0%,「成人式」では 44.8%,「厄 表 2.  誕生日における料理の経験時期 (%) 年齢区分 料理喫食率a) 経 験 時 期 b) ~1945 1945~1973 1974~1983 1984~2003 2004~ 赤飯・ 小豆飯 30 歳未満 29.8 0.0 0.0 3.8 92.3 50.0 30 歳~50 歳未満 59.7 0.0 36.1 44.4 94.4 50.0 50 歳以上 72.7 2.8 44.4 47.2 75.0 38.9 全 体 47.7 1.0 29.6 34.7 86.7 45.9 ケーキ 30 歳未満 97.5 0.0 0.0 4.3 80.6 62.4 30 歳~50 歳未満 98.5 0.0 26.7 41.7 90.0 53.3 50 歳以上 96.4 0.0 29.3 53.7 80.5 63.4 全 体 97.5 0.0 13.9 26.3 83.5 59.8 a)料理喫食率は図 3-1 で示した割合を再掲した。 b)経験時期は各料理の喫食経験者が経験した時期を割合で示した。

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払い」で 39.1%,「長寿」で 43.7%と低い喫食率である。 しかし,大阪府の「厄払い」のもちの喫食率が一般で 20.8%4),山形県が全体で 17.3%であり8),本県のほうが 「厄払い」にもちを食す割合が高いことがわかった。「厄払 い」は災厄を避け人生の無事安泰を祈願祈祷する儀礼であ るため,「厄払い」の料理を食すより,神社や寺院で厄払い や厄除けの祈願祈祷を行うことに重点が置かれていると考 えられる12)。徳島県には厄除けの寺として県内外に知られ ている四国霊場第 23 番札所の薬王寺がある。33 段の女厄 坂,42 段の男厄坂,61 段の男女厄坂と呼ばれる石段があ り,厄坂の石段の下には一字一石の薬師本願経が収められ ている。一段ごとにお賽銭(一円硬貨)を供えお参りする ことで厄流しする風習があり,現在も多くの参拝者が厄除 祈願に訪れている。昔は厄年の人は重ねもちを供えていた が,今ではお金を包むようである13)。それ以外にも本県阿 南市上中町では,大きな厄のもちあるいは饅頭九個を厄落 としのために近所や親類に配る風習14)や,美馬市木屋平 (旧木屋平村)では,旧 2 月の最初の午の日に厄祝い・還暦 の祝賀として,繭型のダンゴを作る風習15)がある。  誕生日のケーキの喫食率はどの年代においても高いこと を前述したが,「初誕生」のケーキの喫食率はどの年代でも 10%未満である。これは,「初誕生」と「誕生日」とでは儀 礼の持つ意味が異なることによると思われる。「初誕生」は 生後 1 年の誕生日を迎える祝いの儀礼で,無事に 1 年育っ てきたことを赤飯・小豆飯で祝い,一升もちに“一生”を かけ,“一生”丸く長生きできるよう,“一生”食べ物に困 らないようになどの願いを込めて子どもに背負わせる風習 表 3.  葬儀と法事における料理の経験時期 (%) 儀礼 料 理 年齢区分 料理喫食率a) 経 験 時 期 b) ~1945 1945~1973 1974~1983 1984~2003 2004~ 葬儀 精進料理 30 歳未満 42.9 0.0 0.0 0.0 61.5 73.1 30 歳~50 歳未満 85.0 0.0 13.6 34.1 77.3 63.6 50 歳以上 79.6 5.0 22.5 42.5 72.5 60.0 全 体 67.4 1.8 13.6 29.1 71.8 64.5 精進料理とは 限らない料理 30 歳未満 54.3 0.0 0.0 3.3 60.0 66.7 30 歳~50 歳未満 53.3 0.0 14.3 32.1 75.0 64.3 50 歳以上 53.7 0.0 14.3 42.9 82.1 64.3 全 体 53.8 0.0 9.3 25.6 72.1 65.1 法事 精進料理 30 歳未満 29.4 0.0 0.0 5.9 64.7 70.6 30 歳~50 歳未満 49.2 0.0 20.0 44.0 68.0 64.0 50 歳以上 47.2 0.0 19.0 38.1 71.0 71.4 全 体 40.4 0.0 14.3 31.7 68.3 68.3 各種料理 30 歳未満 78.8 0.0 0.0 0.0 66.0 66.0 30 歳~50 歳未満 86.2 0.0 14.0 40.0 72.0 72.0 50 歳以上 88.7 2.3 27.3 50.0 84.1 70.5 全 体 83.7 0.7 12.9 28.6 73.5 69.4 a)料理喫食率は図 3-2 で示した割合を再掲した。 b)経験時期は各料理の喫食経験者が経験した時期を割合で示した。 がある。本県阿波市阿波町では「初誕生」に一升のもちを つき,子どもに背負わせる習慣があり,配り物としてもア オガイという餅菓子が用いられている16)。そのため,もち 類の喫食率が全体で 41.0%,本県の 30 歳~50 歳未満で 53.3%,50 歳以上で 34.7%であり,もちを食することは 残っていると考えられる。大阪府の「初誕生」のもちの喫 食率は一般が 37.1%,学生は 8.3%4)であり,本県の方が もちを食している。山形県は親世代の割合が 60.5%と高い が,全体で 37.3%であり8),本県も同様の傾向といえる。 さらに 50 歳以上より 30 歳~50 歳未満の割合が高いことも あり,「初誕生」のもちは儀礼食として定着していると考え られた。  「法事」「葬儀」においては精進料理が基本食とされてい たが9),「法事」では精進料理以外の各種料理を喫食する割 合が多い。経験時期から,両料理とも 1984 年以降から特に 増加しており,かなり以前から精進料理以外の各種料理も 食していると考えられる(表 3)。「葬儀」は従来,家族, 親戚だけでなく隣近所を巻き込んだ地域コミュニティによ る儀礼であった9)。しかし,近年葬祭場の普及により隣近 所の手伝いも不要となり,年長者が若年者に継承していた 料理も廃れていくことが懸念される。 5. ま と め  通過儀礼の認知率,経験率は「誕生日」「七五三」を除 き,年代による差が見られ,人生経験によるところが大き い。  通過儀礼の認知率が高かったのは,全体でみると「誕生

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日」,「成人式」,「七五三」であった。また,経験率が最も 高かったのは「誕生日」で,次に「七五三」,「葬儀」で あった。料理の喫食では,「誕生日」のケーキ,「七五三」 の千歳飴はどの年代区分でも喫食率は高かった。30 歳未満 の経験率は全ての儀礼で低く,経験していても覚えていな い場合や未経験の儀礼が多いことが考えられた。  30 歳以上の年代区分では,各種儀礼の赤飯・小豆飯の喫 食率は高く,儀礼食として伝承されている事がうかがえた が,祝いの料理として喫食されてきた赤飯はケーキなどの 他の料理に移行していることが推測された。  「百日祝い」の尾頭付き魚は「お七夜」や「長寿」のそれ より喫食されていることがわかった。  「長寿」は認知が高いにもかかわらず,経験率は低く, 「長寿」の祝いに接する機会が減っていると考えられる。 文 献 1) 金丸芳,遠藤千鶴,高橋啓子,松下純子,後藤月江,武田 珠美,長尾久美子,有内尚子(2012),徳島県における行事 食・儀礼食の現状について―地域別比較―,日本調理科学会 平成 24 年度大会研究発表要旨集,35 2) 読売新聞 世論調査部(2012),冠婚葬祭,http://www. yomiuri.co.jp/feature/fe6100/koumoku/20120407.htm, (2013/6/18) 3) 渕上倫子,桒田寛子,石井香代子,木村安美(2011),特 別研究「調理文化の地域性と調理科学:行事食・儀礼食」, ―全国の報告―,日本調理科学会誌,44,436-459 4) 平 成 21~23 年 度 日 本 調 理 科 学 会 特 別 研 究 委 員 会 編 (2011),「平成 21~23 年度日本調理科学会特別研究報告書調 理文化の地域性と調理科学―行事食・儀礼食―」,日本調理 科学会,東京,pp. 114-136 5) 佐藤幸子,山本千華,加藤里美,高梨萌,渡邉綾香(2010), 「行事食・儀礼食」調査研究の一考察,戸板女子短期大学研 究年報,53,1-14 6) 厚生労働省(2011),「人口動態統計(確定数)」,上巻(婚 姻),9-12,「都道府県別にみた年次平均婚姻年齢(2)初 婚 の 妻」,http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid= 000001101888,(2013/6/18) 7) 厚生労働省(2011),「人口動態統計(確定数)」,上巻(出 生),4-21,「出生順位・都道府県(20 大都市再掲)別にみ た父・母の平均年齢」,http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/ List.do?lid=000001101883,(2013/6/18) 8) 斉藤寛子,宮地洋子(2012),山形県における通過儀礼及 び儀礼食の認識と摂食の現状,山形県立米沢女子短期大学紀 要,48,111-118 9) 山上徹著(2012),「食文化とおもてなし」,学文社,東京, pp. 122-124 10) 尤銘煌(2011),東海地域における通過儀礼の特徴・変遷 ―離島の少子高齢・過疎化を中心として―,山形大学紀要, 17,172-190 11) 板東絹恵(1994),徳島県下の行事食の現状から見た食文 化の考察,日本食生活文化財団調査研究報告論文集,12, 35-66 12) 年齢研究所(2012),第 2 回年齢と老化に関する意識調査 ~厄年について~,福岡,http://prw.kyodonews.jp/prwfile/ release/M101695/201209207042/_prw_PR1fl_S43ZNnqj.pdf, (2013/6/10) 13) 徳島新聞社調査事業局(1981),「徳島県百科事典」,社団 法人徳島新聞社,徳島,pp. 969-970 14) 湯浅良幸,岡島隆夫(1986),「阿波の民俗一―年中行 事―」,徳島市立図書館,徳島,pp. 47-49 15) 澤田順子(2008),「美馬市木屋平の習俗―紋日の行事とし きたり―」,阿波学会紀要,54,183-186 16) 関真由子(2010),阿波市「阿波町・吉野町」における人 生儀礼と食,阿波学会紀要,56,163-167 (平成 25 年 4 月 4 日受付,平成 25 年 9 月 19 日受理) 和文抄録  日本調理科学会特別研究として,平成 21 年~22 年に「行事食・儀礼食」について調査を行った。その結果より徳島県 に 10 年以上在住の人を対象に,通過儀礼について,年代を 30 歳未満,30 歳~50 歳未満,50 歳以上の 3 区分に分けて,現 状を比較検討した。  通過儀礼の「誕生日」と「七五三」は認知と経験共にどの年代区分においても高く,定着している。「誕生日」にケーキ を食す割合はどの年代区分もかなり高く,一般化している。「長寿」の認知は高いが,30 歳未満の経験率は低かった。「厄 払い」の認知と経験,それに伴う料理の喫食率はどの年代においても低かった。  30 歳未満の経験率は全ての儀礼で低く,経験していても覚えていない場合や未経験の儀礼が多いことが考えられた。

参照

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