地域資源としての民家の特質−浮羽町新川・田篭地区の民家調査を通して− [ PDF
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(2) 果、直屋 95 軒、鍵屋 5 軒、くど造り 2 軒が確認された。 土間部分を 2 階化する現象も見られる(写真 6)。 つまり、くど造りはほとんど存在しないのである。田. これらの事例は、茅葺き民家の躯体が維持されてい. 篭地区の日森園には、福岡県の民家で初めて重要文化. る状態と捉えることが可能で、新川・田篭地区全体で. 財に指定されたくど造りの平川家があり、そのためこ. は約 6 割に相当する(図 3)。これを屋根形状の集落. の地域一帯はくど造りの宝庫であるかのように錯覚さ. 別割合(図 4)と比較して考察すると、民家の外観は. れるが、現状は全く異なる。聞き取り調査によっても、 集落間で異なる傾向を示すことが指摘でき、多くの集 かつてくど造りが存在した例は確認されなかった。. 落では、寄棟の茅葺き屋根にトタンやトタン瓦を被せ. 3-3. 民家の外観の多様化. た民家が多く、栗木野・内ヶ原・日森園はその状態の. 3-3-1. 維持される民家. 民家と、屋根形状を替えて躯体を残す民家とが混在し. 次に、地域資源という視点から、この地区の民家の. ている。また、葛籠・探野では、屋根形状を替えなが. 形態について通時的に捉えていく。. らも躯体は残していく民家の割合が高い。なお、尾谷. この地区には、茅葺き(写真 1)と杉皮葺き(写真 2) は戦後に開拓された集落のため、茅葺き民家が存在せ の民家が現存する。杉皮葺きは、茅葺きの表面仕上げ. ず、特異な傾向を示している。. に杉の削り皮で葺くことをいい、茅葺きよりも耐久性. 3-3-2. 建て替えられる民家. に優れる。しかし、材料や労力不足によって葺き替え. 一方、躯体が維持されずに建て替えられた民家につ. が困難となり、屋根にトタンを被せる手段が普及した. いて、その傾向を述べる。新築事例としては、大壁の. (写真 3)。一方で、トタンを被せずに瓦を葺く場合は、 外観を持ち一部 2 階建てで主に切妻屋根のタイプ(写 小屋組みのみを造り替える「ツウガエ」と呼ばれる手. 真 7)や「入母屋御殿」と呼ばれるようなタイプ(写. 段がとられる(写真 4)。さらに、茅葺き屋根の形態. 真 8) などが挙げられる。しかし、これらは日本の新. 維持と瓦葺きの表示性とを併せ持つために、瓦の形を. 築農村住宅全般に共通するもので、この地区にも農村. 成型したトタンを被せる手段も現れている(写真 5)。 の均質化の波が迫ってきていると考えられる。 また、生活様式の変化を受けて、比較的改変しやすい. 写真 1 茅葺き(平川家). 写真 2 杉皮葺き. 写真 3 トタン被せ 写真 7 切妻の新築事例. 写真 8 入母屋の新築事例. 4. 民家の間取り 4-1. 福岡県南部の民家の間取り ここからは、新川・田篭地区の民家の間取りについ 写真 4 ツウガエ. 写真 5 トタン瓦被せ. 写真 6 土間の 2 階化. て考察を展開する。その前に、再び緊急調査報告書よ り、福岡県南部の民家の間取りを類型化し、その分布. くりぎの. もとむら. ぶんだ. つづら. さがしの. (55). (26). (19). (14). (10). 栗木野. 本村. 分田. 葛籠. 探野. ばば. ひもりぞの. びじゅう. なかむら. しめばる. (26). (30). (10). (9). (10). 馬場. 日森園. 美住. 中村. 注連原. かがり. おたに. うちがはる. (15). (8). (36). 鹿狩. 尾谷. 地区全体 (268). 内ヶ原. 茅葺き 杉皮葺き トタン被せ トタン瓦被せ ツウガエ 土間の2階化 その他. ( ):住戸数. を見る(図 5)。 まず、この地方の民家の最も単純な間取りとしてタ イプAを挙げることができる。このタイプAから発展 したものとして、家族側空間のナンドが分化または付 加したタイプBと、客側空間のザシキが付加したタイ プCが見られる。そして、B はザシキを、C はナンド. 図 3 維持される民家の集落別割合. を獲得してタイプ D へと発展する。さらに D3、D4 はそれぞれザシキを付加して続き間座敷を持ったタイ. 栗木野. 馬場. 本村. 日森園. 分田. 美住. 葛籠. 中村. 探野. 注連原. 鹿狩. 地区全体. 図 4 屋根形状の集落別割合. 尾谷. 内ヶ原. くど造り 鍵屋 寄棟 入母屋 切妻 複合. プ E へと展開する。特に、E2 には庄屋層の住宅も含 まれ、直接座敷へ出入りできる玄関を持ち、その玄関 には式台が設けられることが特徴的である。 このように、福岡県南部の民家には実に多様な間取 りが見られるのである。 12-2.
(3) 4-2. 新川・田篭地区の民家の間取り. 現在まで板戸が使われていることから、空間的にはナ. 一方、新川・田篭地区の茅葺き民家の中から図面採. カエとのつながりの方が強いと言える。夜間は子供の. 取した 8 軒は、いずれも四つ間取り平面を基本とし、 寝間として使用され、ナカエ側の壁には、神棚が祀ら 様々な増改築が起こっているものであった(図 7)。 れることも共通の特徴である。 そこで、この現状を解釈するために、間取りを<基本. ザシキ 主に、冠婚葬祭の場や応接間となる空間で、. 部分>と<付加部分>とに分けて考察を行う。. 普段はほとんど使われていないが、夜間は祖父母の寝. 4-2-1. 基本部分. 間として使用される。カミ手部分を半分に切り、オモ. 基本部分は、ナカエ(ダイドコロ) ・ゴゼン・ザシキ・. テ側に床の間、ナンド側に仏壇を設け、床の間の脇に. ナンドからなる四つ間取り平面にニワ(ドマ)を加え. は平書院が付く。ゴゼンとの間の板戸には、ザシキ側. た空間で、建設時から存在するものである(図 6)。. にだけ襖紙が貼られる場合があり、天井は棹縁天井. ナカエ(ダイドコロ) 床は全て板張りもしくはニワ. で、壁には賞状や先祖の写真などを飾り、家の中で最. 側半分が板張りで、ニワとの間は建具なしの場合が多. も表示性の高い空間になっている。ただし、長押のな. かった。天井が張られていない家もあり、その後、根. い家が多い。. 太天井やヤナカ天井が張られ、その上は物置として利. ナンド 寝室として使用される空間で、若夫婦の寝間. 用された。したがって、ナカエはニワとのつながりが. となる場合が多い。日中を通して薄暗く、床は全て畳. 非常に強い空間であったと推測される。ここでは主. 敷き、もしくは箪笥を置くため一部板張りである。天. に、食事や簡単な接客などが行われ、家族は普段ここ. 井は、ヤナカ天井や根太天井の場合が多く、梯子で屋. で生活していた。現在は、床を張り替え、建具も入っ. 根裏へ上れる家もあった。. た家がほとんどだが、空間の用途に変わりはない。. ニワ(ドマ) ニワは、雨の日の作業場として大変重. ゴゼン 客間兼応接間兼居間であり、畳敷きであっ. 要な空間で、穀櫃や臼などを置き、地下にトイモドコ. た。天井は太い松丸太を十字に組んだ化粧梁の上に丸. と呼ばれる貯蔵空間を備えた家もあった。ニワにはく. 竹を張ったヤナカ天井と呼ばれるもので、天井高の高. ど(かまど)があり、炊事の場所でもあった。一部に. い空間を構成していた。囲炉裏を備え、ここで年に2. ヤナカ天井や根太天井を張った家では、その上に茅や. 3回は養蚕を行う家もあった。ナカエとの間は、古. 藁を保管していた。また、入口脇に、牛馬を飼ってい. くは木製格子の建具、現在はガラス入りの建具など、 る家もあった。現在、ニワが昔の状態のまま残ってい 透過性のある建具が使用され、逆に、ザシキとの間は D4 E2 D3 E2 A D3 E2 D3 D 2 D 2 C3 E2 A C2 D3 D3 A D3. る家が多数見られる。. D4. 筑後川 B1. このように、各部屋はその空間特性に明瞭な違いを 持ち、ニワを除く 4 室は現在まで使われ方も変化せず、 非常に安定した型が継続されていると解釈される。. D3. 4-2-2. 付加部分. D3 A. D3. <基本部分>. D3 D4 B2. E2 D1. 次に、基本部分以外の空間を付加部分としてその特. D2. E1. 耳納連山 E2 C1 B1. る家はほとんどなく、増改築が加えられ室内化してい. 矢部川. ナンド. D3 D3. ナカエ ナンド (ダイドコロ). D3. オザシキ サオ. ゴゼン. イ タ イ タ フ. 木ガ ニワ. オモテ ヤナカ. ザシキ. 本村_18. 有明海 A. B1. B2. C1. B3. C2. C3. シ イマ. ナンド. 天ナシ (4). (2). (1). (0). (1). (1). (1). D3. E1. D4. E2. ゴゼン ヤナカ. ゴゼン ( ):事例数 ※B3はD4の事例より推測. ナカエ. イ イ タ タ フ. オザシキ サオ. ナンド. シ. ネダ. ヤナカ. フ ニワ ヤナカ. イ タ. ゴゼン ヤナカ. イ イ タ タ フ. ( ). ザシキ. ニワ. D2. ナンド ヤナカ. フ. 木格子. ナンド. D1. ヤナカ. ( ). ナカエ. フ. ( ). ニワ (ドマ). D1. ニワ. チャノマ. ネダ. シ (2). (3). (13). 木窓. (3) (1). 注連原_03. 図 6 基本部分の模式図と間取り. 図 5 福岡県南部の民家における間取りの分類と分布. 12-3. ヤナカ シ. 木ガ. 内ヶ原_04. (6). オザシキ.
(4) 徴を分析すると、以下の 9 つの型にパーツ化される。 (5)カンジョウ間 (1)と(2)の間に設けられる。 (1)ゴゼン外縁 ゴゼンでの重要な接客空間の役割. 半畳から2畳ほどの大きさで、明かり取りのガラス. を果たしている。客は縁に腰掛け、家人は縁もしくは. 窓が入り、勉強部屋や簡単な仕事部屋や物置のような. ゴゼンから接客を行う。また、日常の出入口、作業中. 空間として使用される場合が多い。カンジョウとは、. に腰をかける、少しの間荷物を置くなど多様な表情を. 杣人の給料の勘定場所に由来する。. そまびと. (6)ゴゼン押入 建具は板戸である。昔の家には押. 見せる場所である。 (2)ザシキ内縁 外と接する窓は普段閉まった状態. 入が極めて少なく、ナンドに一つある程度だった。こ. が多く、便所へ行くための通路として使われ、(1) の場所につくったため、ゴゼンとニワとのつながりも のような接客空間として使われることはあまりない。. 弱いものとなった。. (3)カミ便所 (2)を通って行けるようになってい (7)ニワに水回り 台所設置とともに床上化し、食 る。昔はシモ手にあった便所が、昭和 30 年頃からカ. 卓と椅子を置く家も見られる。家事を考え、ナカエ寄. ミ手のこの場所に移ってきている。. りに増築される。. (4)カミ通路 ナンドからザシキを通らないで便所 (8)ウラに増築 台所・風呂・部屋の設置や、ナカエ・ に行けるように設けられた。. エは外に面さない暗い場所になっている。一方、ナカ. <付加部分> (8) (7). (9). ナンドの拡張が見られる。台所が付加した場合、ナカ. ナカエ (ダイドコロ). (6). ゴゼン. (1). (5). ナンド. (4). ザシキ. (2). (3). (1)ゴゼン外縁 (2)ザシキ内縁 (3)カミ便所 (4)カミ通路 (5)カンジョウ間 (6)ゴゼン押入 (7)ニワに水回り (8)ウラに増築 (9)ニワの部屋化. 6軒 8軒 7軒 6軒 5軒 6軒 8軒 5軒 5軒. エを拡張している家では、下屋に天窓が設けられ、光 を取り入れる工夫が見られる。 (9)ニワの部屋化 主に子供部屋として増築される。 ニワの玄関脇に設ける家が多く、基本部分とは完全に 独立した個室となる。また、隠居屋を増築したり、ニ ワの2階に部屋を増築する例も見られる。 本来ならば、付加部分は居住者の自由な意志によっ て手が加えられる空間である。しかし、現状を分析す ると、その様相は定型化していることが指摘される。 この定型化の要因として、 ムラ社会特有の共同体 意識、具体的には共同生活者である近隣住民の行動を. 栗木野_13. 本村_18. つぶさ. 具に把握する習慣が、住宅を改変する際になんらかの 影響を及ぼしたということが考えられる。 5. 地域資源としての民家 新川・田篭地区では、未だに半数以上の民家が茅葺 き当時の躯体を維持している状況である。そこでは、 屋根形状や屋根材料の違いに、その維持形態の多様性. 探野_01. 内ヶ原_04. を見ることができ、その傾向は集落間にも存在する。 また、四つ間取り平面を基本形態とし、下屋空間が 一定の共通性を持ちつつ、四方八方に拡張されること で、独特な集落景観を構成している。この下屋空間こ そ、住居としての民家が生きている証であり、ここに. 内ヶ原_07 日森園_30. 民家を動的なものとして捉える必要性が指摘される。 地域資源としての民家は、決してノスタルジックな 風景を演出するだけのものではなく、そこで営まれて いる生活の器としての特質を慎重に考慮してこそ、そ の資源価値が明らかになるのである。 <参考文献>. 注連原_01. 注連原_03. 図 7 付加部分の模式図と間取り. (1) 日本の民家 調査報告書集成 15 九州地方の民家 1 福岡 大分 佐賀 長崎、1999 (2) 浮羽町史、1988 (3) 筑後田園都市論検討委員会報告書 筑後ネットワーク田園都市圏 構想、2003. 12-4.
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