面接場面における面接者の言語的応答に対する相談者の印象評定―不安特性および不安への対処のあり方の視点から― [ PDF
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(2) 2.調査時期 2011 年 11 月下旬~12 月中旬. 「 不 安 へ の 対 処 」 下 位 尺 度 標 準 化 得 点. 3.調査手続き 個別自記記入形式の質問紙調査 4.調査内容 質問紙の構成および内容は Table1 に表記 Table 1 質問紙の構成と内容 1 . フェイスシート. 性別・所属学部・学年・年齢. 2 . 新版STAI‐Y 特性不安尺度. 肥野田(2000)によるもの(4件法・20項目)。 不安存在尺度(anxiety-present scale:P尺度と不安不在尺 度(anxiety-abesent scale:A尺度)からなり、得点が高い ほど高不安であることを示す。. 3 . 不安への対処尺度. 尾関(1993)の14項目に新たに6項目を加えて作成した(4件 法・20項目). 4 . 悩み事相談場面のスクリプト①. .60 .40 .20 .00. 回避・逃避方略. -.20. 対話方略. -.40. とらわれ方略. -.60. 問題焦点方略. -.80 -1.00 -1.20. 積極的対処型. 楽観的対処型. 対処放棄型. Fig 1 「不安への対処」のクラスター. 3.不安への対処と不安特性との関連. ※詳細は以下に記述する。. 不安への対処型を独立変数、STAI-Y の P、A、および特. 玉瀬ら(1996)、福島ら(2007)を元に作成した(4件法・25項 目)。『Aさんは、この相談を通して、どのような気持ちに なったとあなたは思いますか?』と教示の上、各項目への 回答を求めた。. 5 . 相談場面評価尺度①. .80. 性不安尺度得点を従属変数とした一要因分散分析を行った。. 6 . 悩み事相談場面のスクリプト②. 同上. P 尺度(F(2,129)=6.71,p<.01)、特性不安尺度(F(2,129)=4.30,p<.05)に. 7 . 相談場面評価尺度②. 同上. 有意差が見られ、多重比較(Tukey)の結果、以下が得られた (Table4)。A 尺度に有意差はなかった。. スクリプトは、本研究で独自に作成し臨床心理士による 検討を経た。<友人関係><生活>に関する悩み事につい. Table4 不安への対処のクラスターごとの不安得点. て A(相談者)が B(面接者)に相談する 7 ターンの会話からな. ①積極的対処型(n =52)②楽観的対処型(n =49) ③対処放棄型(n =31) Mean SD Mean SD Mean SD P(不安存在) 24.23 6.21 20.33 4.93 23.16 4.89 A(不安不在) 23.94 4.54 23.57 4.97 24.10 3.82 特性不安合計 48.17 7.81 43.90 7.47 47.26 7.30 a) MeanおよびSDはSTAI-Y各尺度得点によるもの。 ***:p <.01, **:p <.05, +:p <.10. る場面。B の言語的応答は Table2 に示すもので、A の発言 は統制された。悩み事(2)×応答(3)の 6 種類のスクリプトの うち、1 人 2 種類がランダムに提示された。. F値 多重比較 6.71 *** ②<①③ .15 n.s. - 4.30 ** ①<②. これらの結果から、「積極的対処型」は、不安への感受性. Table 2 面接者の言語的応答の定義 承認 相談者自身の考えや行動を積極的に承認する. が高いものの、多様な対処を有し状況に応じた適切な対応. 解決. 面接者側から積極的に解決策を提案する. をなしうる認知構造の柔軟性(安田ら,2000)のある比較. 整理. 相談者自身の考えが明確になるように促す. 的適応的な群と解釈された。「楽観的対処型」は、全体的に 低不安で、ものごとを楽観的に捉える傾向にある群と解釈. Ⅳ. 結果と考察. された。「対処放棄型」は、自分なりの対処を行うものの、. 1.不安への対処の構造. そこに回避への偏りがあり、森田(2011)の言う積極性と回. 避性のバランスが得られていない。高不安であるがそれ. 「不安への対処」尺度の因子分析(重みなし最小二乗法・プ ロマックス回転)の結果、 【回避・逃避】 、 【対話】 、 【とらわれ】 、. を積極的に解消しようとすることが少ない群と解釈された。. 【問題焦点】から構成されると解釈された (Table3)。. 4.面接場面に対する捉え方の構造 「面接場面の捉え方」尺度の因子分析(主因子法・プロマッ. Table3 「不安への対処」の因子分析:回転後の因子負荷量 項目内容. 13 6 4 8 11 7 17 3 16 15 19 9 12. Ⅰ 回避・逃避(α=.71) こんなこともあると思ってあきらめる .74 時の過ぎるのにまかせる .70 なるようになれと思う .61 大した問題ではないと考える .44 対話(α=.64) 自分のおかれた状況を人に聞いてもらう -.06 人に問題解決に協力してくれるよう頼む .07 自分の気持ちを言葉にする -.06 自分で自分を励ます .12 とらわれ(α=.67) 気がくじけて、どうしようもないと思う .19 いらいらして過ごす -.27 そのことばかりを考える .00 問題焦点(α=.57) 問題の原因を見つけようとする -.06 情報を集める .08 Ⅰ Ⅱ Ⅲ. Ⅱ. Ⅲ. クス回転)の結果、「未来に対する肯定的な捉え方」、「相談に. Ⅳ. -.08 -.08 .11 .13. .00 .09 -.05 -.06. -.01 .09 -.02 -.09. .63 .61 .53 .37. .12 -.05 .05 -.04. -.03 -.06 .11 .16. -.05 .00 .13. .82 .59 .53. .00 .03 -.08. -.03 .21 .15. -.01 -.03 .04 .34. .89 .41 .03 .35 .01. 対する否定的な捉え方」、「相談に対する肯定的な捉え方」か ら構成されると解釈された (Table5)。 Table5 「面接場面に対する捉え方」の因子分析:回転後の負荷量 Ⅰ 9 3 17 2 10 14 16 13 12 4 8. 2.不安への対処方略による分類. 23 24 5 22 20 19. 「不安への対処」尺度の因子下位尺度平均点によるクラス ター分析(Word 法)を行い「積極的対処型」、 「楽観的対処型」、 「対処放棄型」の 3 群を得た (Fig1)。 2. 未来に対する肯定的な捉え方(α =.82) 努力してみようという気持ちが沸いてきた 問題が解決しそうだ 問題に向き合う気力が沸いてきた また相談したいと思った 気持ちの整理ができた 話してすっきりした Bの言うとおりにしようと思った 相談に対する否定的な捉え方(α =.74) Bは専門家であることを誇示していた 不自然だった 話を聞いてくれなかった Bに見定められていた 現在に対する肯定的な捉え方(α =.80) 自分の気持ちを大切にしたいと思った 楽観的な気持ちになった 話しやすかった 私(A)のことを真剣に考えてくれた 感じ方や見方が広がった 一緒に考えてくれた Ⅰ Ⅱ. Ⅱ. Ⅲ. .82 .78 .71 .65 .56 .54 .48. .00 .11 -.04 .01 -.04 -.08 .22. -.09 -.10 .05 .06 .02 .06 -.02. .07 -.20 .01 .19. .79 .66 .65 .53. .09 .11 -.05 -.11. -.16 .20 .12 .32 .30 .18. .06 .32 -.18 -.11 -.02 -.22 -.33. .83 .51 .45 .43 .43 .39 .71 -.16.
(3) 5.不安への対処と面接者の応答による面接場面に対する捉え方 不安への対処型および面接者の応答を独立変数、「面接場 面の捉え方」尺度の各因子下位尺度平均点を従属変数とす る二要因分散分析を行った(Table7)。 生活に関する面接場面:「相談への否定的な捉え方」に関し、 不安への対処の主効果が有意であった(F(2,123)=3.95,p<.05)。 多重比較(Tukey)の結果、「楽観的対処型」よりも「対処放棄 型」の方が高かった(p<.05)(Fig2)。 「未来への肯定的な捉え方」および「相談への肯定的な捉. Fig4 友人に関する面接場面に対する相談への肯定的な捉え方. え方」に有意差はなかった。. Table7 対処のあり方と応答による「面接場面の捉え方」平均の比較. 友人に関する面接場面:「未来への肯定的な捉え方」におい. 承認 解決 整理 承認 解決 整理 承認 解決 整理 承認 解決 整理. N 23 14 15 23 14 15 23 14 15 24 16 12. 積極的対処型 M 2.61 2.74 2.65 2.05 2.07 1.68 2.63 2.99 2.69 2.71 2.57 2.77. SD .56 .45 .46 .69 .80 .43 .56 .39 .68 .57 .58 .53. N 17 10 22 17 10 22 17 10 22 19 16 14. 楽観的対処型 M 2.52 2.76 2.44 1.90 1.60 1.98 2.47 2.88 2.53 2.33 2.90 2.24. SD .60 .79 .61 .57 .47 .57 .47 .58 .43 .60 .38 .49. N 11 8 12 11 8 12 11 8 12 10 11 10. 対処放棄型 M 2.69 2.57 2.54 2.25 2.19 2.19 2.77 2.54 2.54 2.74 2.56 2.79. SD .45 .43 .32 .51 .46 .48 .51 .35 .33 .37 .41 .41. 承認 解決 整理 承認 解決 整理. 24 16 12 24 16 12. 2.15 1.88 1.77 2.63 2.99 2.69. .70 .68 .82 .56 .39 .68. 19 16 14 19 16 14. 1.99 1.69 1.68 2.47 2.88 2.53. .64 .57 .47 .47 .58 .43. 10 11 10 10 11 10. 1.85 2.27 1.75 2.77 2.54 2.54. .53 .47 .44 .51 .35 .33. 悩み事 内容. て、交互作用効果が有意であった(F(2,123)=4.14,p<.01)。単純. 未来への肯定的 な捉え方. 主効果の検定の結果、不安への対処の効果が有意であり、 「楽観的対処型」において「承認」および「整理」より「解決」の. 生活. 方が高かった(p<.01)。応答の効果が有意であり、「承認」に. 相談への否定的 な捉え方 相談への肯定的 な捉え方. おいて、「楽観的対処型」よりも「積極的対処型」の方が高か った(p<.05)。また、「整理」において、「楽観的対処型」より. 未来への肯定的 な捉え方. も「積極的対処型」の方が高かった(p<.05)(Fig3)。. 友人. 「相談への肯定的な捉え方」に関して、交互作用が有意で あった (F(4,123)=3.60,p<.05)。不安への対処の単純主効果の. 相談への否定的 な捉え方 相談への肯定的 な捉え方. 検定の結果、「積極的対処型」において、「解決」よりも「承認」. 主効果 クラスター 応答. 交互作用 F値. .40. .72. .41. 1.34**. .20. .55. 1.26. 1.88. 1.35. 2.24. .34. 4.14**. .98. 1.93. 1.40. .41. .12. 3.60**. ***p <.01 **p <.05 +p <.10. の方が、「解決」よりも「整理」の方が高かった(p<.05)。「楽観. 生活に関する面接場面:否定的な側面の捉え方にのみ、. 的対処型」において、「承認」よりも「解決」の方が高かった. 不安への対処による差があることが明らかになった。本. (p<.05)。また、応答の単純主効果の検定の結果、「承認」に. 田ら(2008)は、中学生を対象に援助評価と学校適応との. おいて、「楽観的対処型」よりも「積極的対処型」の方が高か. 関連について検討しており、肯定的評価より否定的評価. った(p<.10)。「整理」において、「積極的対処型」よりも「楽観. と学校適応との関連の方が強いことを示したが、個人の. 的対処型」の方が高かった(p<.05)(Fig4)。. 適応という視点からこの面接場面を捉えるとき、この結 果には重要な意味があると考えられる。対処を用いるこ. 「相談への否定的な捉え方」に有意差はなかった。. と少ない人よりも、用いる対処が「回避・逃避」に偏って いる人のほうが、生活に関する面接場面において、相談 を否定的に捉えやすかった。しかも、面接者の応答のが いかなるものであっても変わらずに、面接場面に対して 否定的な評価をしていた。ここに従来の研究で回避・逃 避型が“非適応的”と捉えられ(尾関ら,1991)、森田(2011) でも問題焦点型とのバランスが得られない回避型方略は 適応的とみなされなかった理由の一端が示されているよ. Fig 2 生活に関する面接場面に対する相談への否定的な捉え方. うに思われる。すなわち、本研究において、「対処放棄型」 とされた群は、脅威に対して積極的な対処をすることは ないが、回避という方法で自分なりに何らかの認知的・ 行動的努力を行っていた。しかしそこで援助的に振舞わ れることで否定的な評価を高めやすい群であることが考 えられる(仮説 2)。しかも、回避・逃避によって不安状態 から抜け出せるわけでもなく、「とらわれ」ていく傾向を 有する。北川ら(1995)は、ストレスレベルの高い時に援 助的な言動を受け続けると、かえって精神的健康を低下. Fig3 友人に関する面接場面に対する未来への肯定的な捉え方. 3.
(4) させることを示したが、こうしたサポートのネガティブ. た者が、こうした回避に偏ったタイプの対処を用いやすい. な効果に、より当てはまりやすい群と考えられた。. 人であった場合に、もともと援助抑制的であったのに、相. 友人に関する面接場面:肯定的な側面の捉え方にのみ、. 談を受けてますます否定的に捉えるようになり、次の援助. 不安への対処による差があった。「積極的対処型」の人々. につながりにくい状況が生じうることが推測された。この. は、相談者自身の考えや行動を明確化したり、積極的意. タイプへの援助のあり方に関しては、今後さらなる検証の. 味を与えたりするような応答によって、「楽観的対処型」. 必要性があるだろう。しかしながら、どういったアプロー. の人々は、面接者側から積極的に解決策を提案されるこ. チが有効になりそうか、研究手法上の問題から今回は検討. とで、未来や相談に対する肯定的な捉え方を高めること. を行うことができなかった。. が明らかになった。「楽観的対処型」の人々は、他者から. ただし、同じく何らかの形で「不安への対処」を行ってい. の与えられた解決策を適用することに対する構えや抵抗. ることが推測される「積極的対処型」の人々に関しては、各. 感が比較的低く、 自分自身での対処することが少ない分、. 面接場面を際立って否定的に捉えることはなかった。これ. 周囲のサポートを受け入れやすいことが考えられる。反. らの結果から仮説は修正され、脅威に対して何らかの対処. 対に「積極的対処型」の人々は、不安が高いものの、様々. を自ら行えると認知する個人は、そのあり方のバランスが. な対処を有し自分自身で脅威場面に対応していくことが. 偏っており、常に同じ対処をとりがちである場合には、相. できる。だからこそ、他者から新たな解決策を提案され. 談に対して否定的に捉えがちになるが、複数の対処方略を. 続けることで、解決を迫られる感覚を持ったり、情報過. 柔軟に用いることができる場合には、相談に対して否定的. 多で受け入れがたいと評価されたりするかもしれない。. に捉えることが少ないことが考えられる。. 一方で、相談者自身の行動や考えを引き出し、整理し、. また、友人に関する面接場面において、「積極的対処型」. 肯定的なフィードバックが得られることが、侵入的でな. の対処を行う人々は、自らのこれまでの行動や態度、思考. く自身の良いところを認められ支えられる感覚を抱き、. について振り返り、認められる応答について、肯定的に捉. 肯定的な評価へつながったのではないか。. えがちである。「解決」は、対処を多く用いないものの低不 安で、それにとらわれにくい「楽観的対処型」にとっては肯. Ⅴ. まとめ. 定的に捉えられるが、「積極的対処型」にはそうではない。. 本研究の目的は、以下の仮説を検証することであった。. このことが、各タイプの特徴から考察された。. 仮説 1:「面接場面の肯定的・否定的な評価は、相談者の不. ある個人の不安や不安への対処のあり方は、面接場面に. 安特性、不安への対処及び面接者の応答様式によって異な. おいて面接者の応答による面接場面への捉え方や、面接=. る」に関しては、一部支持された。. 援助の場への捉え方そのものに影響をもたらす可能性があ. 仮説 2:「不安に対して、なんとか処理しようと自分なりの. る。今後、相談者がどういった対処のあり方を有するかに. 認知的・行動的努力をしているにもかかわらず、面接場面. 着目して、面接者がそのかかわりを変化させるという視点. に置かれなければならない場合に、面接に対して否定的な. での知見の積重ねは、面接場面を相談者にとってより肯定. 捉え方をする」に関して一部支持された。. 的な体験の場とするために、有益であると考えられた。. まず、「不安に対して、なんとか処理しようと自分なりの. 実際の臨床場面への適用の困難性、尺度の信頼性、およ. 認知的・行動的努力」である「不安への対処」にどのようなタ. び調査実施上の刺激提示のあり方や質問紙の内容に関して、. イプが存在するか検証したところ、「積極的対処型」、「楽観. 今後の課題とされた。. 的対処型」および「対処放棄型」の3つのタイプが想定された。 このうち何らかの形で、より「不安への対処」を行っている. Ⅵ. 引用文献. のは、「積極的対処型」および「対処放棄型」であった。不安. 本田真大・新井邦二郎 2008 中学生の悩みの経験,援助要請. の高さに関しては両型に差はないが、「積極的対処型」は. 行動,援助評価が学校適応に与える影響 学校心理学研究. 様々な対処を行う群であり、「対処放棄型」は、対処方略が. 8(1), 49-58. 回避・逃避に偏った群であった。面接者の応答との関連を. ローレンス・M.ブラマー・ジンジャー マクドナルド 2011. 検証したところ、「対処放棄型」で、生活に関する面接場面. 対人援助のプロセスとスキル: 関係性を通した心の支援. を否定的に捉えられやすかった。このことに関して、援助. 堀越勝・大江悠樹・新明一星・藤原健志訳 金子書房. のネガティブな効果を生じやすい対処型としての「対処放. 森田美登里 2011 回避型対処方略の適応性をもたらす要. 棄型」の可能性が示唆された。例えば、 “本当は、相談など. 因に関する研究--気晴らしの用い方に注目して 心理臨床. 受けたくはないのに、周囲から言われて仕方なく”来談し. 学研究 29(2), 153-164 4.
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