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〈
記 録
〉
前
田
惠 學
コレ
ク
シ
ョン
展
か
ら
前
田
惠
學
武
田
龍 解 説
今
年 5
月
同 朋 大
学
で開
催
さ れ
た本 学 会
の学
術
大 会
に合
わ
せ て,前
田 が か
っ て南
方
アジ
アの現
地
で得
た
仏像
や
絵 画
な ど
宗教文化 的文物
凡
そ
100
点
を
展
示
し
た。 その中
に スリ
ラ ン カ の カタ
ラ ガ マ神
と カタ
ラ ガ マ大 祭
の写 真 を含
め た 。昭 和
55 年 (
1980
)
に調
査
し
た時
のも
のが
大
半
を占
める
が, カタ
ラ ガ マ神
は スリ
ラ ンカ
仏教徒
の熱
い支持
を
受
け
て い る庶民信仰
の中心
にあ り
,そ
の記 録
はな
おそ
の意 味
を
失
な
っ て はいな
いと
思
わ れ
る。展 示
に当
っ て は同 朋 大
学講 師
武 田 龍 氏 と同仏 教 文
化
研 究 所 室
長
の渡 辺信 和 氏
の お世
話
にな
った
。[
現
代
スリ
ラ
ンカ に お
け
る
力
タ
ラ
ガ
マ神信仰
の隆盛]
(
前
田
惠學
)
カ タ ラ ガ
マ神 (
Kataragama
)
は
,も と
南
イ
ンド
に
源
を
有
し
, スカ
ンダ
, ム ルガ
ン ,ク
マー ラ な ど
多
く
の呼称
を
持
つが
, スリ ラ
ンカ
では
本 殿
を
構
え
る南 部
の聖 地
カタ
ラガ
マ の名
で呼
ば れ
る。各 地
に単 独
の神 殿
(
k6vil
)
や 神 祠
(
devEle
)
も
あ
る
(
例
バド
ゥ ッ ラBadulla
の神
殿
)
。仏
教
寺 院
の神祠
の中
にも
他
の神
々 と
並
ん
で祀
ちれ る
ことが
多
い 。本 来 戦
の神
であ
り
す
こぶ
る凶 暴
な
性
格
を
有
す
るが ,
こ の神
を
味
方
にっけ れ
ぼ何
でも 引 き受 け
てくれ
る た
め, これ
ほど頼 り
にな
る
神 も な
いとされ
る
。 スリ ラ
ンカ
の近
代 化
・
都 市
化
が
進
む
につれ
て,伝
統
的
な
仏 教
の力
が
弱
体 化
し
て,
こ の神
へ の支
持
は
都市
の民
衆
を
中
心 に
強
ま り,
上
層 階級
の支持
も 次
第
に強
くな
った
。人 間
の欲 望
が増 大 す れ
ば
不 安 も増
し
,社 会
の歪
み
は大 き くな
る
。世
の フ ラ N工 工一
Eleotronlo LlbrarySociety for the Study of Pali and Buddhist Culture
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116
パー
リ学 仏 教 文 化 学 スト
レー
シ ョ ンを
吸
収
し て高
ま
る カタ
ラガ
マ神
信 仰
は我
々 に何
を
教
え る
であ
ろ
う
か
。宗 教
は ど
うな
る か
,宗 教
は
いか
にあ
る
べき
か
。科 学
は
進 歩 す
れ
ぼ
す
る ほ ど
宗教
の意
味
に気
付
く
。宗教
の社会
に おけ
る役割
は何
か
。今
,宗教
が
問
わ れ
て い る。私
は,昭 和
55
(
1980
)
年
,研究
班
を
組
織
し て夏
の例 大
祭
に訪
れ た
。[
解 説 ] (
武
田
龍)
カ
タ
ラ ガマ神
は ,元 来
タ
ミ ル人
ヒ ンド
ゥー
教 徒
の聞
で熱 心
に信 仰
さ れ
,機
知
に富
む
比類
無
き
勇 敢
さ は
いか な る
困難 障 害
も
克 服
でき る と
信
じ られ
てき
た
。19
世紀 末
のダ
ル マ パー
ラ(
A
,
Dharmapala
)
の仏 教復
興
運動
の中
か ら
勃
興
し た
シ ン ハ ラ・ナ
シ ョナ リズ
ム の潮 流
はそ
の神 格
の解 釈 を変 え
た
。勇 敢
さ
,異端
性
,反 道
徳
さ
え
許
容
す る
性
格
が
,現代
な
ら
では
の諸 問
題
(
選
挙
,受
験
,昇
進
な ど
)
に も
対処
し う
ると
解
釈
され た
こと
で,
仏
陀
に帰依
す
る神
と し
て シ ン ハラ
仏 教
のパ ン テオ
ン の中
に取
り込
ま れ
,カ タ
ラガ
マ神
と
呼
ぼれ
る よう
にな
っ た。涅 槃
へ の遼 遠
な
道
程
を
負
う
カタ ラ
ガ マ神
を
, エリ
ー
ト
から
下
層
労働 者
に至
る ま
で ,農
村
の伝
統 的 仏 教
の紐
帯
を
喪
失
し た
広
範
な
都 市
民
衆
が
支
持
し
,カ タ ラガ
マ に巡礼
し
参詣
す
るよ
う
に
な
った
。今
で は聖 地
へ の巡
礼
は
シ ン ハ ラ仏 教 徒
が圧 倒 す
る。カ
タ
ラ ガマ神
へ の信仰
は ,厳 父
と
彼
に服従
す る
忠
実
な る
息
子
の関係
に譬
え
られ
,献身 的
に信仰
す
る者
の願
い に はどん な
こと
でも
応
え
てく
れ
ると
いう
個
人
と
の結 び付
き
が強 調
され
る。信 者
は カ タ ラ ガ
マ神
に願
を掛
け
,成
就 す
る
と
苦
行
を
果
た
す
。さ ま
ざ
ま
な
苦
行
一
熱砂
の上
を
裸
で転
が り
神祠
を
巡
る,
両 頬
や
舌
を
針 (
釘 )
で刺
し
貫
く,
背
中
の皮
膚
に鈎
を
刺
し
てそ れ を
引
っ張
られ な が
ら参 拝 す
る,皮 膚
に刺
し た
鈎
に紐
を
付
け
台
車
にブ
ラ
ン コ のよ
う
に吊
り
下 げ
られ
て参
拝
す る
,釘
の先
が
裏
か
ら
突
き
出
た サ
ンダ
ルを
履
き
参拝
す
る,火
渡
り と
いう
自傷 行為
一
が
行
わ れ
,カ タ ラ ガ
マ神
へ の献 身
と
信愛
を
表
す
。 N工 工一
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前 田 惠
學
コ レ クシ ョ ン展 か ら117
苦行
の盛
行
の中
か
ら
,神
が 憑
依
す
る
俗
人
の行者 (
sami ,サ ー ミ
)
や
女性
(
m蚕
hiy6
,
メー
ニ ヨー
)
が
現
れ ,
司
祭
が
男
性
のカ
プ
ラー
ラ に限
られ
てき た
シ ンハ ラ仏 教
の伝
統
の改
変
を も
引
き
起
こし
て い る 。[
バ ド
ゥ ッラ の カ
タ
ラ
ガ
マ神] (
前
田
)
こ の
時
私
は
,Ven
.
Prof
.
Dr
.
Gatare
Dhammapala
の案 内
を
得
て , スリ
ラ
ンカ
各
地
を
回
った
。山 地
の町
バド
ゥ ッラ
の司 祭
(
カ
プ
ラ
ー
ラ
,kapurala
)
は
案
内
者
の人
柄
に
感
じ た ら し く
,私
を
七
重
の垂
れ
幕
の奥
に祀
られ た カ タ ラ ガ
マ神
と
そ
の眷族
のと
ころ
へ案 内
し
てくれ
た
。貴重
な
1
枚
であ
る。 バ ドゥッ ラ の力タラガマ神 N工 工一
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118
パー
リ学仏教文化 学バ ドゥ ッ ラのカ タ ラ ガマ
・
コー
ヴィ ル (k6vil
,
神 殿 )の前景バ ドゥ ッ ラのカタラガマ
・
コー
ヴィル(
kOvil
,神
殿)
の横
景Society for the Study of Pali and Buddhist Culture
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前 田 惠 學コ レ クシ ョ ン展か ら
119
[
民
衆 宗教
画
に
描
か
れ
る カ
タ
ラ
ガ
マ神
の
種
々
相
と
そ の
眷属]
1
若 き カ タラガマ神 と 乗 物 (vahana )の孔 雀。 マ ドラス で 印刷されたもの。
2
カタラガマ神と2
人の妻(
右)
正妻テー
ヴァー
二・
アン マー
(
Tevini AmmE>
と(
左)
愛 妾 ヴァ ッ リ。
アン マー
(valli Amm の3
力 タラガマ神と 兄 ガネー
シャ(
Gape6a
)
4
力 タラガマ神の眷 属 左か ら 兄 ガ ネー
シ ャ 神 (Ga
螂 a), 父 シ ヴァ神(
函iva)
, 母 ラ クシ ュ ミー
神 (Laksmi
)と カ タ ラガマ 神 N工 工一
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120
パー
リ学仏
教文 化 学5
六 面十
二臂
のカ タ
ラガ
マ神 と
聖
地
力タ
ラガ
マ の主 殿
[
聖 地 力 タ
ラ
ガ
マの
大 祭
]
聖 地
カ タ ラ ガ
マ で行
わ れ
る最
も
重
要
な
祭
は エサ
ラ・
ペ ラ ヘ ラ(
Asala
perahdra)
で,
エサ ラ
月
,7
月
の新 月
の日
の夜
か
ら
始
ま り
満 月
の日
の翌
朝
ま
で半 月 続
く
。 こ の祭
は, ス カ ンダ
神
(
カタ ラ
ガマ神 )
の伝説
,
特
に カタ
ラガ
マ の地
で起
こ った
出来
事
を
再
現
す
る内容
で , スカ
ンダ
と
愛妾
ヴ
ァ ッリ ・
ア ン マー
(
Valli
AmmE
)
と
の結婚
と
いう
神
々
のlove
affairが
象徴 的
に展
開
され
る
。
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前田惠 學コ レ クシ ョ ン展か ら
121
[力 タ ラ ガ
マ大 祭
の
模 様
]
1
参 道入 り口 に露 店が並ぶ。
2
橋 を 渡っ て聖域へ 入 る 。3
メニ ッ ク
・
ガ ンガー
川(
Mdnik
Gafiga
)の 岸辺 に は 休 憩 所 や 宿 泊 所が設け ら れて い る。 N工 工一
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122
パー
リ学仏教 文 化 学4
聖 域の 入 り口で待 ち構 える の は両 替 屋である。
風 呂敷の上に ア ル ミ銭の山を置 く。
5
道端に は物乞い を す る人 た ち が並ぶ。両替
し たばかり
の小 銭 を 布 施 して進む。
6
す ぐ前にヴァ ッ リ・
ア ン マー
(カタラ ガマ 神の愛 妾 )の神 殿。
祭 の時,
前にある石の柱に象 を 繋 ぎ,
階 段を使っ てその背に乗る。 N工 工一
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前田惠 學コ レクシ ョ ン展か ら
123
7
イス ラ ム教の モ スクも ある。
8
カタラ ガマ 神 殿 広 場へ の入 り 口に建つ 門。 こ こ で靴を脱 ぐ。9
ス リ ラン カ の聖地カ タラ ガ マ の三 主 殿。 右か ら 主神カ タラ ガマ神
殿,中央
は ガネー
シ ャ神 殿,
左 は ヴィ シ ュ ヌ神殿 と さ れ て い た が, 今は仏殿 に転 化 してい る。 (ス リ ラン カで は, ヴィ シ ュ ヌ神 は,
現に仏 教の守 護 神で あ り, 未 来に は弥勒
仏の後に こ の娑 婆 世 界 の仏と な る と さ れ る。)
N工 工一
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124
パー
リ学 仏 教 文 化 学10
カ タ ラガ マ 神 殿 内 部 正 面の幕
。幾
重に も幕
が掛けられ, 手 前 の幕に神の姿が描かれて い る。
奥 の神 像 を 直 接に は拝めないように なっ て い る。11
ヴィ シ ュ ヌ神 殿の仏。12
裏 門 を 出て, キ リ
・
ヴェー
ヘー
ラ(
Kiri
vehera)
の仏 塔 を望 む。
キ リ・
ヴェー
へ一
ラに詣で る の は仏 教 徒だけで,
カタラ ガマ 神 殿 広 場の喧 騒 もこ こ まで は及ば な い。
カ タ ラ ガマ 全体
が仏
教の中
に 包 ま れ る威 容を感 ずる。
お そ らく は古 都キャ ンディが仏 歯 寺 を 中 心 に シ ャ ム派の2
大 僧 院(
マ ル ワッ タ と アス ギリ ヤ)をは じ め数 多 く の神 祠・
神 殿 をその中に包 括 して い る全 体 構 想が,
こ こカタラガマ に も次第
に働
い て い る ように 思 わ れる。 仏 教 化で ある。 N工 工一
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前田惠 學コ レ ク シ ョ ン展か ら
125
13
門 内に カー
ヴァ リ・
ダン ス の一
隊が楽 隊 を先 導に入っ て きた。
14
家 族に よっ て グルー
プ を作っ てい るよ うである。15
カ
ー
ヴァ リ(
kgvadi)
を担い だ奉納者
は楽 隊の音 楽に合 わせ る ように踊る。
N工 工一
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126
パー
リ学仏教文化 学16
カー
ヴ
ァ リ(
kavadi)
奉 納者
は, 銀の針(
釘)
で 両 頬を刺し貫 い た り,
針 や 鈎 を 体に刺し自
傷 す る。
口に は銀の薄 板で作っ た ナー
ガ(
naga,
コ ブ ラ)
を く わ え,
孔 雀の羽 を飾 り付 け た カー
ヴァ リ を担
い で乱舞
す る。 心か ら溢れ出る 祈願
成 就の 喜 びを表
すとい う。17
カー
ヴァ リ奉 納 者。
18
カー
ヴァリ奉 納 者。
N工 工一
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前田惠 學コ レ クシ ョ ン展か ら
127
19
神 前で憑依 状 態に 入 る女 性。 カ タ ラ ガマ で は
,
憑 依と は神の乗 物になること と される。
20
苦 行 する メー
ニ ヨー
(皿夏niy6,
女 司祭)
。 ス リ ラン カで は伝
統 的 に カ プ ラー
ラ(
司 祭)
は 男 性に限 ら れて きた。
しか しカタ ラ ガマ で は,
女 性が 火 渡 りの儀 式にも参 加 する ほ か,
メー
ニ ヨー
と呼ば れ る 女 性カ プラー
ラが現れ,
自 分の体 に針や 鈎 を刺し自傷す る姿が見ら れ る。 カ タ ラ ガマ で は, 女性が 祭 祀空間に堂々 と入 り込 み, 新しい 境 域を開 拓 して い る。
N工 工一
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