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11 物語としてのスケールの大きさを持ちながら完成度の高さを謳われる 源氏物語 にしても 最後は決着が着いたような着かなかったような形で終わっている(もっともそれが 源氏物語 の持ち味であり 後世になってさまざまな人が勝手につけた決着( 後日譚 のような作品がいくつも存在する)こそが蛇足であるとも言

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Academic year: 2021

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(1)

第五・六回

 

物語

理解を深めるために

ラジオ講座で読む『竹取物語』は、全体のごく一部であり、そこから感じるこ

とはできないのだが、実は『竹取物語』は、古典、しかも初期の古典文学として

は、ある意味において非常に完成度の高い作品であると言うことができる。

作品全体の構成もはっきりしていて、最初にかぐや姫の誕生の経緯が語られる。

続いて五人の貴公子の求婚と失敗が語られ、

みかど

の求婚と姫の拒絶へと続く。最後

はかぐや姫が月の世界へ帰る話でまとめられている。非常にきれいな四部構成で

ある。

今風に漫画やアニメ、ゲームのストーリー展開になぞらえるなら、最初に主人

公の生い立ちや背景が語られ、続いて五人のライバルや敵幹部(五人の貴公子)

が登場して倒され、満を持して最大の敵(帝)が登場するが、これも主人公には

敵わず撃退、最後に主人公が物語から退場する終章が語られるといった具合であ

る。

そのうえ、この「最大の敵」たる帝については、まさしく物語の中での「最大

の敵」らしい扱われ方をしている。

まず五人の貴公子は従わざるを得なかった手順(難題の提示とその克服)を無

視していきなりかぐや姫のもとを訪れ、

結婚を迫るという格の違いを見せつけ

(右

の例に則るなら、最大の敵がいきなり主人公の本拠地を急襲するようなものであ

)、

の(

使

必殺兵器か必殺技(姿を透明にするというもので、これは現代のSFやファンタ

ジーからするとやや地味に見えるかもしれないが、トールキンの『

ゆび

もの

がたり

』な

どにも使われる通り、

物語の

「道具」

としては王道である)

を使って撃退する。

「攻

撃方法」も別格なら、

「負け方」も別格である。

さらに「昨日の敵は今日の友」よろしく、終章ではむしろ味方に近い存在とな

って、かぐや姫の月への帰還を阻止しようと二千の兵を派遣する。これも、漫画

やアニメの「最大の敵」としてはよくある形である。ついでに言えば、あっさり

負けてしまう(二千の兵はまったく役に立たず、むしろ月の人の力の引き立て役

である)ところまで、

「よくある形」に則っている。

学習のポイント ①かぐや姫の難題 ②翁の気持ち ③幕切れとそれぞれの反応 ①月の人々の力 ②天の羽衣と不死の薬 ③かぐや姫の別れ 第 2 回 第 1 回

たけ

物語

  (全二回)

  

火鼠の皮衣/かぐや姫の昇天

  

(2)

古 典

第 5・6 回 ▼

物語としてのスケールの大きさを持ちながら完成度の高さを謳われる『源氏物

語』にしても、最後は決着が着いたような着かなかったような形で終わっている

(もっともそれが『源氏物語』の持ち味であり、後世になってさまざまな人が勝

着(

)。

ん、

が、

は、

が『

で「

めの

おや

」と呼ばれ、古典の物語作品としてはごく初期に位置するものらしいこと

を考えると、特筆すべきことだと言える。

まあ現代の漫画やアニメ、

ゲームの展開に通じるものがあるのは、

『竹取物語』

の先見性というよりは、現代のそういった「物語」が、古来からの「物語」の筋

立ての「王道」に則っていると考えるべきだろうが、それにしても、この『竹取

物語』の筋立ての完成度の高さには驚かざるを得ない。

は、

は、

ら、

姿

ではないだろうと考えられている。

に『

こん

じゃく

もの

がたり

しゅう

がある。古今のさまざまな文学・文献を源とし、数多くの話を集めた、言わば百

が、

の『

に、

おきな

おんな

で、

り「

り(

)、

く、

る、

婚の条件となる宝物が異なる、などいくつもの違いがある。細部の検証に基づき、

この『今昔物語集』に採られた話の形の方が原型ではないかとされており、現存

する『竹取物語』はその原型をもとに練られ、完成された形であろうと言われて

いる。

この「原型」の方では、帝が求婚した際に、いきなりかぐや姫は月に帰ってし

まっており、

それはそれで

「不思議な話」

としての味わいはあるし、

『今昔物語集』

の話としてはむしろぴったりなのだが、一つの独立した物語の筋立てとしてはい

ささか単純である。

そんな単純で素朴な形の原話に、登場人物を増やしたり、伏線を張ったり、描

写を細かくしたり、筋立てを複雑にしたりして完成度を高めていく、という作業。

たとえば現代の映画の脚本家が、何らかの原作をもとに映画の脚本を作っていく

作業にも重なるのではないだろうか。

『竹取物語』

の作者

(一人とは限らないが)

も、そんな作業をしながら、作品を完成させていったのだろう。

も、

て、

も、

心には共通する部分もあるのです」などと言ったりすることがあるが、登場人物

のみならず、物語の作者や語り手、そしてそれらが想定するところの読者につい

ても、やはり、昔も今も変わらないところはあるのである。だからこそ、はるか

昔に作られた作品が、今になっても現代の人の心に響くことがあるのではないだ

ろうか。

(3)

ねずみ

かは

ぎぬ

家の

かど

に持て至りて立てり。竹取出で来て、取り入れて、かぐや姫に

す。

の、

く、

り。

まことの皮ならむとも知らず。

」竹取答へていはく、

「とまれかくまれ、

まづ

しやう

じ入れ奉らむ。世の中に見えぬ皮衣のさまなれば、これをと思ひ

給ひね。

人ないたくわびさせ奉らせ給ひそ。

」と言ひて、

呼び据ゑ奉れり。

かく呼び据ゑて、このたびは必ずあはむと、

おうな

の心にも思ひをり。この

翁は、かぐや姫のやもめなるを嘆かしければ、よき人にあはせむと思ひ

ど、

に「

な。

ば、

ば、

なり。

かぐや姫、

翁にいはく、

「この皮衣は、

火に焼かむに、

焼けずはこそ、

まことならめと思ひて、

人の言ふことにも負けめ。

『世になき物なれば、

む。

ふ。

ろみむ。

」と言ふ。翁、

「それ、

さも言はれたり。

」と言ひて、

大臣に、

「か

くなむ申す。

」と言ふ。大臣答へていはく、

「この皮は、唐土にもなかり

竹取物語

〈一〉

講師・内田

 

 

今は昔、竹取の

おきな

といふ者ありけり。野山にまじりて竹を取

つ、

使

り。

ば、

みやつこ

むいひける。その竹の中に、もと光る竹なむ一筋ありける。あ

やしがりて寄りて見るに、筒の中光りたり。それを見れば、三

寸ばかりなる人、いとうつくしうてゐたり。

「三寸ばかりなる人」は、竹取の翁のもとで美しく成長し、 「なよ竹のか ぐや姫」と名づけられた。彼女に求婚する者は多くいたが、その中に、最 後まで熱心な五人の貴公子たちがいた。かぐや姫は、結婚の条件としてそ れぞれに難題を示す。火鼠の皮衣を持参する課題を出された右大臣 阿 あ 倍 べ の みむらじは、 唐 もろ 土 こし の貿易商に大金を払って手に入れた。右大臣は、上機嫌 でそれを竹取の翁の家に持参した。

(4)

古 典

第 5・6 回 ▼

けるを、からうじて求め尋ね得たるなり。何の疑ひあらむ。さは申すと

も、

はや焼きて見給へ。

」と言へば、

火の中にうちくべて焼かせ給ふに、

めらめらと焼けぬ。

「さればこそ。

こと

もの

の皮なりけり。

」と言ふ。大臣、

て、

り。

は、

れし。

」と、

喜びてゐたり。かのよみ給ひける歌の返し、

箱に入れて返す。

 

名残なく燃ゆと知りせば

かは

ごろも

思ひのほかにおきて見ましを

とぞありける。されば、帰りいましにけり。

々、

臣、

て、

給ふとな。ここにやいます。

」など問ふ。ある人のいはく、

「皮は火にく

べて焼きたりしかば、

めらめらと焼けにしかば、

かぐや姫あひ給はず。

と言ひければ、これを聞きてぞ、とげなきものをば「あへなし」と言ひ

ける。

【口語訳】 火鼠の皮衣 ( 右 大 臣 阿 倍 の み む ら じ は 、 竹 取 の 翁 の ) 家 の 門 の 前 に ( 皮 衣 を ) 持 っ て 行 っ て 立 っ て い た 。( そ こ へ ) 竹 取 の 翁 が 出 て 来 て 、( 皮 衣 を ) 受 け 取 っ て 持 ち 帰 り 、 か ぐ や 姫 に 見 せ る 。 か ぐ や 姫 が 、 皮 衣 を 見 て 言 う に は 、「 立 派 な 皮 の よ う ね 。( で も ) と く に ( こ れ が ) 本 物 の ( 火 鼠 の ) 皮 だ ろ う と ( ま で ) は 判 断 で き な い わ 。」 ( と 言 う 。) 竹 取 の 翁 が 答 え て 言 う に は 、「 何 は と も あ れ 、 ま ず は ( 右 大 臣 様 を 家 の 中 に ) 招 き 入 れ 申 し 上 げ よ う 。 こ の 世 で は 見 た こ と も な い ( 立 派 な ) 皮 衣 の 様 子 だ か ら 、こ れ を ( 本 物 の 皮 衣 だ )、 と 思 っ て し ま い な さ れ 。 あ の 方 ( = 右 大 臣 様 ) を 、 そ ん な に 困 ら せ 申 し 上 げ な さ る な 」 と 言 っ て 、( 右 大 臣 を ) 呼 ん で 席 に 座 ら せ 申 し 上 げ た 。 こ う い う ふ う に 呼 ん で 席 に 着 か せ て 、 今 回 は ( か ぐ や 姫 は ) 必 ず 結 婚 す る だ ろ う と 、( 翁 だ け で な く ) 嫗 の 心 に も 思 っ て い る 。 こ の 翁 は 、 か ぐ や 姫 が 独 身 で あ る こ と を 嘆 か わ し く 思 っ て い た の で 、( 何 と か ) 高 貴 な 人 と め あ わ せ よ う と 思 っ て 算 段 し た が 、( か ぐ や 姫 が ) 頑 固 に 「 い や だ 」 と 言 う も の だ か ら 、 強 要 も で き な い の で 、( こ う し て 喜 ぶ の も ) 道 理 で あ る 。 か ぐ や 姫 が 、 翁 に 向 か っ て 言 う に は 、「 こ の 皮 衣 は 、 火 で 焼 い て み た と し て 、 そ の と き に 、 も し 焼 け な か っ た な ら 、 本 物 だ ろ う と 思 っ て 、 あ の 方 ( = 右 大 臣 様 ) の 言 う こ と に も 従 い ま し ょ う 。( お 父 様 は 私 に )『 こ の 世 に ま た と な い も の だ か ら 、 そ れ( = こ の 皮 衣 )を 本 物 だ と 疑 い な く 思 っ て は ど う か 』と お っ し ゃ る 。 そ う は い っ て も や は り こ れ ( = こ の 皮 衣 ) を 焼 い て 試 し て み よ う 」 と 言 う 。 翁 は 、「 そ れ は 、 い か に も お っ し ゃ る と お り だ 」 と 言 っ て 、 右 大 臣 に 、「 ( か ぐ や 姫 が ) こ の よ う に 申 し ま す 」 と 言 う 。 右 大 臣 が 答 え て 言 う に は 、「 こ の 皮 は 、 中 国 に も な か っ た の で 、

(5)

▼ や っ と の こ と で 探 し 出 し て 手 に 入 れ た の だ 。( 本 物 か ど う か な ど と ) 何 の 疑 い が あ ろ う か 。 そ う は 申 し て も 、( 確 か め た い と お っ し ゃ る の な ら ) 早 く 焼 い て 御 覧 な さ い 」 と 言 う の で 、 火 の 中 に く べ て 焼 か せ な さ る と 、( 皮 衣 は ) め ら め ら と 焼 け て し ま っ た 。( か ぐ や 姫 は )「 や っ ぱ り そ う だ 。( 火 鼠 で は な い )別 の も の の 皮 だ っ た の だ な あ 」 と 言 う 。 右 大 臣 は 、 こ れ を 御 覧 に な っ て 、 顔 は 草 の 葉 の 色 の よ う ( に 蒼 白 ) に な っ て 座 っ て い ら っ し ゃ っ た 。( 一 方 、) か ぐ や 姫 は 、「 あ あ う れ し い 。」 と 喜 ん で い た 。 例 の ( 右 大 臣 が ) お よ み に な っ た 歌 ( * ) の 返 事 を 、( か ぐ や 姫 は 皮 衣 の 入 っ て い た ) 箱 に 入 れ て 返 す 。( そ の 歌 は 、) 跡 形 も な く 燃 え る と 知 っ て い た な ら 、 こ の 立 派 な 皮 衣 を 、( 本 物 で は な い か な ど と ) 心 配 し な い で お い て 、 火 に く べ た り し な い で お い て 、 見 て い た こ と で し ょ う に 。 と あ っ た 。 そ れ で 、 ( 右 大 臣 は ) 帰 っ て お 行 き に な っ た の だ 。 世 間 の 人 々 は 、「 阿 倍 の 大 臣 は 、 火 鼠 の 皮 衣 を 持 っ て い ら っ し ゃ っ て 、 か ぐ や 姫 と ご 結 婚 な さ る と い う こ と だ ね 。 こ こ に い ら っ し ゃ る の か 」 な ど と 問 う 。 そ こ に い る 人 が 言 う こ と に は 、「 皮 は 火 に く べ て 焼 い て み た と こ ろ 、 め ら め ら と 焼 け て し ま っ た の で 、 か ぐ や 姫 は ご 結 婚 な さ ら な い よ 」 と 言 っ た の で 、( 世 の 人 は ) こ れ を 聞 い て 、( そ れ 以 来 ) 成 し 遂 げ な い で が っ か り す る こ と を 「 あ へ な し 」〔 阿 倍 が い な い 〕 と い っ た の で あ る 。

(6)

古 典

第 5・6 回 ▼ 五人の貴公子たちは、みな難題にこたえることができなかった。かぐや 姫のうわさを聞いた帝も求婚するが、かぐや姫はそれさえも退け、手紙の やりとりだけのつきあいにとどめる。 帝 みかど との出会いから三年ほどがたち、 かぐや姫は、月を見てしきりにもの思いに沈むようになった。やがて彼女 は、白分が月の世界の人で、この八月十五日に月からの迎えが自分を連れ にやって来ることを翁たちに告げる。その十五日、翁と嫗はかぐや姫を戸 内に隠し、家の周囲には、帝の命を受けた二千の兵士が守りを固めた。

竹取物語

〈二〉

かぐや姫の昇天

宵うち過ぎて、

の時ばかりに、家のあたり昼の明かさにも過ぎて光

りたり。

もち

づき

の明かさを十合はせたるばかりにて、ある人の毛の穴さへ

見ゆるほどなり。大空より、人、雲に乗りて下り来て、土より五尺ばか

り上がりたるほどに、立ちつらねたり。これを見て、

うち

なる人の心ど

も、ものに襲はるるやうにて、あひ戦はむ心もなかりけり。からうじて

思ひ起こして、弓矢を取り立てむとすれども、手に力もなくなりて、萎

えかかりたり。中に心さかしき者、念じて射むとすれども、

ほか

ざまへ行

きければ、あひも戦はで、心地ただ

れに痴れて、まもり合へり。

天人の中に持たせたる箱あり。

あま

ごろも

入れり。またあるは、不死の

り。

ふ、

つぼ

れ。

ば、

ぞ。

て、

ば、

づかなめ給ひて、少し形見とて、脱ぎ置く

きぬ

に包まむとすれば、ある天

人包ませず。

を取り出でて着せむとす。そのときに、

かぐや姫、

「し

ばし待て。

」と言ふ。

「衣着せつる人は、心

こと

になるなりといふ。ものひ

天人たちの姿は、地上の人たちを圧倒した。天人の王と思われる人が現 れ、かぐや姫を返すよう翁に命じる。翁は必死に抗弁を試みるが、聞き入 れられない。 かぐや姫を隠していた家の戸も、 ひとりでに開いてしまった。 かぐや姫は、悲嘆にくれて泣き伏す翁と嫗に、心ならずも去っていく不孝 をわび、のちの慰めにと手紙を書き置く。

(7)

とこと言ひ置くべきことありけり。

」と言ひて、

文書く。天人、

「遅し。

と心もとながり給ふ。かぐや姫、

「もの知らぬこと、なのたまひそ。

」と

て、いみじく静かに、おほやけに御文奉り給ふ。あわてぬさまなり。

く、

ど、

来て、とりゐてまかりぬれば、くちをしく悲しきこと。宮仕へつかう

まつらずなりぬるも、かくわづらはしき身にて

はべ

れば。心得ずおぼし

めされつらめども、心強く承らずなりにしこと、なめげなるものにお

ぼしめしとどめられぬるなむ、心にとどまり侍りぬる。

とて、

 

今はとて天の羽衣着る折ぞ君をあはれと思ひ出でける

とて、壺の薬添へて、

とうの

中将呼び寄せて、奉らす。中将に、天人取りて

伝ふ。中将取りつれば、ふと天の羽衣うち着せ奉りつれば、翁を、いと

ほしく、かなしとおぼしつることも

せぬ。この衣着つる人は、もの思

ひなくなりにければ、車に乗りて、百人ばかり天人具して、昇りぬ。

【口語訳】 宵 も 過 ぎ て 、 真 夜 中 の 零 時 ご ろ に 、( 竹 取 の 翁 の ) 家 の 周 辺 が 昼 間 の 明 る さ に も ま し て 光 り 輝 い て い る 。( そ の 明 る さ は ) 満 月 の 明 る さ を 十 倍 に し た く ら い で あ っ て 、 そ こ に い る 人 の 毛 穴 ま で 見 え る ほ ど で あ る 。( そ こ へ ) 大 空 か ら 、 人 ( = 月 の 人 、 天 人 ) が 、 雲 に 乗 っ て 下 り て 来 て 、 地 面 か ら 一 ・ 五 メ ー ト ル ぐ ら い 上 が っ た と こ ろ に 、 立 ち 並 ん で い る 。 こ れ を 見 て 、( 家 の ) 内 外 に い る 人 た ち の 心 は 、 物の怪にとりつかれたようであって 、一緒に戦おうというような気持ちもないの だ っ た 。 や っ と の こ と で 心 を 奮 い 起 こ し て 、 弓 に 矢 を つ が え て 構 え よ う と す る け れ ど も 、 手 に 力 も な く な っ て 、 ぐ っ た り し て も の に 寄 り か か っ て い る 。 中 に 心 の し っ か り し た 者 が 、( 力 が 抜 け る の を ) こ ら え て ( 矢 で 天 人 を ) 射 よ う と す る け れ ど も 、( 矢 は ) ま っ た く 別 の 方 向 へ 飛 ん で 行 っ た の で 、( も は や ) 一 緒 に 戦 う こ と も せ ず 、 気 持 ち が た だ も う ぼ ん や り し て し ま っ て 、( 天 人 た ち を ) み な じ っ と 見 つ め て い る 。 ( さ て 、) 天 人 た ち の 中 に 持 た せ て あ る 箱 が あ る 。( 一 つ の 箱 に は ) 天 の 羽 衣 が 入 っ て い る 。 ま た ( 別 の ) あ る 箱 に は 、 不 死 の 薬 が 入 っ て い る 。 一 人 の 天 人 が 言 う に は 、「 壺 に 入 っ て い る お 薬 を 召 し 上 が れ 。 ず っ と け が れ た 所 の 食 べ 物 を 召 し

(8)

古 典

第 5・6 回 ▼ 上 が っ て き た の で 、 ご 気 分 が 悪 い で し ょ う か ら 」 と 言 っ て 、( 薬 の 壺 を ) 持 っ て そ ば に 寄 っ た の で 、( か ぐ や 姫 は ) ほ ん の 少 し お な め に な っ て 、 少 々 形 見 に と 思 っ て 、 脱 い で 残 し て 置 く 着 物 に 包 も う と す る と 、 そ こ に い る 天 人 は 包 ま せ な い 。( も う 一 つ の 箱 か ら ) 天 の 羽 衣 を 取 り 出 し て ( か ぐ や 姫 に ) 着 せ よ う と す る 。 そ の と き に 、 か ぐ や 姫 は 、「 少 し 待 て 」 と 言 う 。「 天 の 羽 衣 を 着 せ ら れ た 人 は 、 心 が ( 普 通とは)変わってしまうのだという 。ひとこと言っておかなければならないこと が あ っ た の だ よ 」 と 言 っ て 、 手 紙 を 書 く 。 天 人 は 、「 遅 い 」 と じ れ っ た が り な さ る 。 か ぐ や 姫 は 、「 も の の 道 理 を 解 さ な い こ と を 、 お っ し ゃ る な 」 と 言 っ て 、 た い そ う 心 静 か に 、 帝 に お 手 紙 を 差 し 上 げ な さ る 。 慌 て な い 様 子 で あ る 。 「 こ ん な ふ う に 、 大 勢 の 人 を 派 遣 し て く だ さ っ て ( 私 を ) お 引 き と ど め な さ い ま し た が 、( 拒 む こ と を ) 許 さ な い 迎 え が 参 り ま し て 、( 私 を ) 召 し 連 れ て 行 っ て し ま う の で ( ど う し よ う も あ り ま せ ん が )、 残 念 で 悲 し い こ と で す 。 帝 の お そば近く仕えることなく終わってしまったのも 、このように複雑な事情のある 身 の 上 で あ り ま す れ ば こ そ ( な の で す )。 ( そ の わ け を ) き っ と 納 得 で き な い と お 思 い に な っ て い る だ ろ う け れ ど も 、( 私 と し て は ) 強 情 に ご 命 令 に 従 わ な い ま ま に な っ て し ま っ た こ と に つ い て 、( 私 が ) 礼 儀 を わ き ま え な い 女 と し て ( 帝 の お 心 に ) 思 い と ど め な さ れ て し ま う こ と が 、 心 残 り と な っ て い ま す 」 と 書 い て 、 ( 最 後 に ) 今 は こ れ ま で と 、 天 の 羽 衣 を 着 る と き に な っ て 、 あ な た 様 の こ と を し み じ み と 思 い 出 し た こ と で す よ 。 と ( 歌 を ) 詠 ん で 、 ( こ の 手 紙 に ) 壺 の 薬 を 添 え て 、 ( 勅 使 の ) 頭 中 将 を 呼 び 寄 せ て 、 ( 帝 に ) 献 上 さ せ る 。 中 将 に 、 天 人 が 取 り 次 い で 伝 え る 。 中 将 が 受 け 取ったところ、(天人がかぐや姫に)さっと天の羽衣を着せかけ申し上げたので、 (かぐや姫の心から)翁のことを、気の毒で、いとおしいとお思いになっていた 気持ちも消えてしまった。この羽衣を身につけた人は、もの思いが一切なくなっ てしまったので、(かぐや姫は何の悩みもなく)車に乗って、百人ほど天人を連 れ て 、 天 に 昇 っ て 行 っ た 。  *本文は『新日本古典文学大系』によった。

参照

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