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2 志村ほか クイズ, ヒットエンドランが広く用いられている. これらを成功させるには, 打球の勢いを弱めたり一二塁間や三遊間等, 内野手のいない方向に狙って打つことを可能にするバッティング技術が必要である. また, 打者は状況に応じて打球を左翼方向や右翼方向を狙って打ち分けることも多い. 左打者が

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Academic year: 2021

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志村 芽衣1)  宮澤 隆1)  矢内 利政2)

『流し打ち』における打球速度を最大にする最適なバットの向きと

ボールインパクト位置:

野球のインパクトシミュレーション

1) 早稲田大学スポーツ科学研究センター 〒 359-1192 埼玉県所沢市三ヶ島 2-579-15 2) 早稲田大学スポーツ科学学術院 〒 359-1192 埼玉県所沢市三ヶ島 2-579-15 連絡先 矢内利政

1. Waseda Institute of Sport Sciences, Waseda University

2-579-15 Mikajima, Tokorozawa Saitama 359-1192

2. Faculty of Sport Sciences, Waseda University

2-579-15 Mikajima, Tokorozawa Saitama 359-1192 Corresponding author tyanai@waseda.jp

Abstract: The purpose of this study was to determine the impact conditions that enable a batter to hit a pitched ball toward the opposite field. Three-dimensional finite element analysis was used to construct a model for the impact between a baseball and a wooden baseball bat, and a series of simulations were conducted with various bat angles and under-cut distances. The bat angle at ball impact was set in a horizontal range from -31 to 20° and a vertical range from 0 to 51° with a 3° interval. The under-cut distance was altered by changing the vertical angle of the line of impact in a range from 0 to 30° with a 5° interval. The velocity and angle of projection of the batted ball were determined for each simulated condition. The simulation model was validated by comparing the simulation outcome with the corresponding experimental data obtained from opposite-field hitting practice performed by collegiate baseball players. The results showed that when a batter intends to hit a ball toward a given horizontal angle in the opposite field with the highest speed, the batter should impact the ball with the bat facing about 60% of the horizontal angle toward which to launch the ball and with the line of impact angled upward at 5~10° from the horizontal plane. In addition, the horizontal angle of the batted ball and the velocity of the batted ball were found to change systematically when the vertical angle of the line of impact and the vertical bat angle were altered: For a given horizontal angle toward which to launch the batted ball, there was a trade-off relationship between the vertical angle of the line of impact and the vertical bat angle.

Keyword: biomechanics, Optimizatio, three-dimensional analysis キーワード:バイオメカニクス,最適化,3 次元解析

Mei Shimura1, Takashi Miyazawa1 and Toshimasa Yanai2: Optimal bat orientation and ball-impact point for

maximization of batted ball velocity in opposite field hitting: A simulation study of baseball batting. Japan J. Phys, Educ. Hlth. Sport Sci.

1 緒言 「野球のボールを打つことはむずかしい.単一 のプレーでこれほどむずかしいことは,他のあら ゆる競技を探しても見当たらない.」「打撃の神様」 の異名を持つテッド ウィリアムズは自身の著書 「テッド・ウイリアムズのバッティングの科学」(テ ッド ウイリアムズ,2000)でこのように述べて いる.さらに,バッティングの 3 原則の 1 つとし て Proper thinking(適切に思考すること),つまり バッター・ボックスに立って相手の投球を推測・ 予測することが重要であるとも述べている.通算 本塁打 755 本の記録を持つハンク・アーロンも, 攻撃時に「どういう試合展開か,ピッチャーがど んなボールを投げているか,カウントはどうなの かといったことを考えなければならない」と述べ ており(ハンク アーロン,2011),野球の打撃に おける状況判断の重要性を強調している. 状況に応じた打撃の戦術として送りバントやス

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クイズ,ヒットエンドランが広く用いられてい る.これらを成功させるには,打球の勢いを弱め たり一二塁間や三遊間等,内野手のいない方向に 狙って打つことを可能にするバッティング技術が 必要である.また,打者は状況に応じて打球を左 翼方向や右翼方向を狙って打ち分けることも多 い.左打者が意図して打球を右翼に打ち出す場合 を「引っ張り」,左翼に打ち出す場合を「流し打 ち」と呼ぶが,篠塚和典氏は「打率を残したいと 思ったら,逆方向に打つこと つまり,「流し打ち」 を心掛けることが大切です」と述べている(篠塚, 2013).また,同氏は外角球の流し打ちついて,「「コ ースに逆らわずに打つ」というバッティングの基 本を考えると,外角球は最も流し打ちをしやすい ボールだと言える.外角球を打つときはバットが 通常よりも遅れて出ていくので左打者で言うと, センターから左方向に打球が飛びやすくなるのは 当然である.」とも述べている.つまり,スイン グのタイミングを調節し捕手寄りの位置でボール をインパクトすることによりバットの打撃面が左 翼方向(左打者の場合)を向くため,打球を左翼 方向に打ち出しやすくなるというのである.一般 的には,「アウトコースはボールが目から離れて いるため,しっかりボールをとらえる確率は低く なる」(小早川,2007)といわれていることから, センター返しや引っ張りだけでなく,流し打ちの 技術を向上させることで安打の確率を上げること ができると考えられる. 流し打ちの打撃技術は水平面上で生じる 2 次元 的な衝突現象として説明されることが多い.即ち, バットの打撃面を左翼側(左打者の場合を想定) へ向けてボールを斜めに衝突させることにより入 射角を生じさせ,これに対応する反射角が加味さ れることによって打球が左翼方向へ打ち出される という説明である(Mclntyre and Pfautsch, 1982). 近年では,このメカニズムに加え,①バットヘッ ドがグリップエンドよりも低くなるように傾いた バットの上面で,②ボールの下部を打撃すること により,左打者の場合にライナーまたはフライが 左翼方向に打ち出されることが明らかになってい る(城所・矢内,2015).つまり,打球の左右方 向への角度は,インパクトの瞬間のバットの水平 面上の方位だけではなく,鉛直面上の方位やイン パクト位置のバット短軸成分の影響も受けて決定 されるのである(Figure 1).したがって,インパ クトの瞬間において水平面上に投影したバットの 向きが同じであっても,バットが鉛直面上で傾い ている場合はボールとバットの短軸上のインパク ト位置によって打球の左右への飛翔方向は異なる ことになる.以上より,ある方向へ(例えば左打 者が左翼方向へ)に打球を打ち出すためのバット の向きやインパクト条件は一通りではなく,イン パクト時のバットの方位(水平面への投影角と鉛 直面への投影角)とバット短軸上のインパクト位 置の組み合わせにより,様々な条件に及ぶものと 考えられる.さらに,同方向に打球を打ち出すこ とのできる様々な条件の中で,打球速度が最大と なる条件が存在すると考えられる.これを詳細に

Figure 1 One mechanism of opposite-field hitting. Reprinted from Kidokoro, S. and Yanai, T. “An additional impact mechanism

for hitting the ball toward the opposite feld in baseball” Japanese Journal of Physical Education, Health and Sport Sciences (2015).

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分析することにより,打球方向に応じて理想的な バットの姿勢とボールの当て方を定量化すること が可能となる.このような分析を定量的に行う場 合,バットの向きとインパクト位置の影響のみに 着目する必要があるため,それ以外のインパクト 条件(ボール角度,スイング角度,スイング速度 等)を一定にして分析する必要がある.しかし, 実測による打撃実験では,試技ごとにバットスイ ングの速度や角度等が異なるため,バットの向き やインパクト位置のみの影響を個別に抽出するこ とは困難である.また,各選手のパフォーマンス は偶然性の影響を受けて試技間で変動することか ら,打撃実験による実測データのみに頼った方法 論で最適化について検証するには限界がある. 実測データに基づいた分析における限界を克服 する方法論の一つとして,有限要素法を用いたシ ミュレーション分析がある.宮澤ほか(2011)は シミュレーションによるバッティング分析の妥当 性を検証し,投球されたボールとバットスイング の運動学的数値を入力することで,センター方向 へ飛翔した打球の速度,角度,回転速度を高い精 度で算出できることを確認した.この研究では, バットとボールは 3 次元でモデル化されている が,シミュレーションの入力値(投球・スイング・ インパクト条件)および出力値(打球特性)につ いては,2 次元平面で分析可能な試技のみを対象 としている.しかし,流し打ちの分析をするには, 打球の左右方向の角度に加え,インパクト時のバ ットの向きを考慮した 3 次元空間でのシミュレー ションを行うことが必要不可欠である.そこで, 本研究では,打球方向に応じた理想的なバットの 姿勢とボールの当て方を定量化するために,①弾 性体モデルを用いた 3 次元空間でのシミュレーシ ョンを実施する 3 次元インパクトシミュレーショ ン分析の方法論を確立し,打撃実験により実測さ れた流し打ちの 3 次元分析結果を用いて妥当性検 証すること,および,②指定された方向 (流し打 ち方向) にライナーやフライを打ち出すことが可 能なバットの水平面・鉛直面上の方位とバットの 短軸上の衝撃位置の組み合わせを特定し,打球速 度を最大にするインパクト条件を明らかにするこ ととした. 2 方法 2.1 シミュレーションモデルの設定 右打者を想定した打撃におけるボールとバット の挙動を分析するため,有限要素法を用いてシ ミュレーションを行った.シミュレーションモ デルの構築と計算には Abaqus Student Edition 6.8 (Dassault Systemes Simulia Corp., USA)を用いた. 木製バット(0.84m,0.907kg)と硬式野球ボール(半 径 0.036m,質量 0.148kg)については,実物の形 状と物性値に合わせて構築した宮澤ほか(2011) のインパクトシミュレーションモデルを用いた (Figure 2).バットとボールの接触解析は Penalty 法を用い,硬式ボールと木製バットの摩擦係数 (μ)は 0.5 に設定した(Sawicki et al., 2003).本 研究で用いた Abaqus Student Edition6.8(Explicit) では,メッシュの要素数に制限があるためボール とバットそれぞれの接触位置付近のみのメッシュ を細かく切ることで対処した.インパクト位置の 違いによって,バットモデルのメッシュの切り方 を変更したが,これが出力値(打球速度)に対し て及ぼす影響は 0.2 ~ 0.3m/s であった. 静止座標系 Rxyzを以下のように定義した(Figure 3).ホームベースの後端を原点とし,水平面上の 投手方向に向かうベクトルを y 軸,鉛直上向きに 向かうベクトルを z 軸,y 軸と z 軸との外積を x 軸とした.バット座標系 Rx'y'z'は,バットのグリ ップエンドからヘッドに向かうベクトルをバット 座標系の Xʼ 軸,Xʼ 軸に直交しかつ水平面を通 るベクトルを Yʼ 軸,Xʼ 軸と Yʼ 軸との外積を Zʼ 軸として定義した(Figure 3). 2.2 シミュレーションの入力変数

Figure 2 Simulation model created with Abaqus Student

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インパクト直前のバットとボールの運動を表す 入力変数として,次の 11 個のパラメータを設定 した.その内,投球されたボールの運動を設定す る変数を,ボール速度の大きさ I.1[m/s],回転 速度の大きさ I.2[rps],投球角度 I.3[°](水平 面に対する投球されたボールの角度)とした.ス イングを設定する変数については,ヘッド速度の 大きさ I.4[m/s],スイング角度 I.5[°](水平面 に対するヘッド速度の方向),ローリング角速度 I.6[°/s](バットの長軸回りの角速度),スイン グ角速度 I.7[°/s](バットの長軸そのものが回転 する速度)とした.ボールとバットのインパクト 条件を設定する変数については,ボールのインパ クト位置 I.8[mm](グリップエンドからの距離), 衝撃線角度 I.9[°](衝撃線と水平面がなす角度), 及びバット水平角 I.10[°],バット鉛直角 I.11[°] を設定した(Figure 3).衝撃線角度は,ボール中 心がバットの横断面の中心よりも上に位置する場 合を正として表した.また,バット水平角はイン パクト時に水平面上に投影したバットと地面に水 平な x 軸とのなす角度(バットの打撃面がレフト 側を向いたインパクトを正とした),バット鉛直 角は,インパクト時のバットヘッドの鉛直面上に おける下向き傾斜角度(バットヘッドが鉛直面上 で下方に向く方向を正とした)とした(Figure 3). 2.3 シミュレーション分析 打球方向に応じた様々なインパクト条件をむら なく分析するため,バット水平角(I.10),バッ ト鉛直角(I.11),衝撃線角度(I.9)の 3 つのパ ラメータ(Figure 3)を系統的に変化させたとき の打球の飛翔方向と速度を,先述したモデルを用 いて分析した.具体的には,ボールインパクト時 のバット水平角およびバット鉛直角をそれぞれ- 31 ~ 20° と 0 ~ 51° の範囲内で 3° ずつ,衝撃線 角度を 5 ~ 30° の範囲内で 5° ずつ変化させた際 の組み合わせ計 1944 通り(= 18 × 18 × 6)につ いてシミュレーション分析を行った.バット水平 角とバット鉛直角は城所・矢内(2015)による流 し打ちの実測実験で得られたデータを約 10°上 回る範囲を,それ以外の入力条件(I.1 ~ I.7)は 同実験で得られた値の平均値を用いた.ボールの インパクト位置(I.8)は,全ての分析において バットの「芯」(692mm)とした.分析に用いた シミュレーションの入力値を Table 1 に示す. 設定したシミュレーションモデルの妥当性を検 証するため,城所・矢内(2015)の研究において 収集した大学野球選手 16 名が行ったマシン打撃 による流し打ち試技(打球の飛距離が 40m 以上 で流し打ち方向に打ち出された 146 試技)の内, バットの芯付近[604 ≦ I.8 ≦ 730]でボールを インパクトし,かつ衝撃線角度が 30° 以下であっ た 116 試技を分析対象とし,これらの試技のイン パクト直前の実測値を入力値(I.1 ~ I.11)とし てシミュレーションを行い,出力したインパクト 後の打球の挙動を実測値と比較した.

Figure 3 Definition of the inertial reference frame Rxyz and the bat-embedded coordinate system RX'Y'Z' ,

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2.4 シミュレーションの出力変数 シミュレーション分析による出力変数は,イン パクト後のボールの状態を表す値(Figure 3),す なわち,打球速度の大きさ O.1[m/s],飛翔角度 O.2[°]に加え,流し打ちの打球方向を表す流し 打ち角度 O.3[°](センターラインを 0° として ライト方向を負とした)とした.本研究では,バ ット水平角とバット鉛直角は城所・矢内(2015) による流し打ちの実測実験で得られたデータを約 10° 上回る範囲(つまり,実測で測定できた範囲 より大きめ)に設定した.そのため,衝撃線角度 との組み合わせによっては,一塁線ファールゾー ン,さらにはバックネット後方に飛ぶようなファ ールとなるような打球も全シミュレーション結果 の中には存在した.しかし,野球の試合において in play になる打球の大半がフェアゾーンに打ち出 された打球であるため,インパクト直後の打球速 度ベクトルから算出した打球方向(流し打ち角度: O.3)が- 45 ~ 0° の範囲内となった試技のみを 本研究における分析対象とした.分析対象とした 出力値の内,バット水平角とバット鉛直角の各組 み合わせについて記録された最大打球速度及びそ の最大打球速度が記録された際の飛翔角度と流し 打ち角度を結果として提示した. 3 結果と考察 3.1 シミュレーションモデルの妥当性 実測値とシミュレーション値の間には,打球速 度の大きさ,飛翔角度,および流し打ち角度のす べてにおいて,1%水準で有意な相関関係(打球 速度の大きさ r=0.837,飛翔角度 r=0.919,流し打 ち角度 r=0.865)が認められた.一方,シミュレ ーション値が実測値に対して有意に低い値が,打 球速度の大きさ(誤差 1.3 ± 1.4m/s),飛翔角度(誤 差 8.2 ± 4.1°)および流し打ち角度(誤差- 4.5± 4.2°)に認められた(Table 2).実測値とシミュ レーション値で乖離が生じる要因の一つとして, バットとボールの摩擦係数,ボールのヤング率等 の機械的特性が非線形の特性を有することが考え られる.シミュレーションではこれら機械的特性 を一定値に設定している一方で,実際のバッティ ングでは,バットとボールの接触位置やスイング 速度等のバッティング条件が異なると,ボールが バットから受ける垂直抗力とボールに生じるひず みが変化する.これに伴い摩擦係数とヤング率も 変化することでシミュレーションの出力値との乖 離が生じると考えられる.また,出力値の中で も,特に飛翔角度は複数の機械的特性の影響を大 きく受けやすいため,より誤差が生じやすいと考 えられる.シミュレーションモデル上で飛翔角度 を算出する際,衝撃線角度に対して平行な方向と 垂直方向速度の 2 つの成分のなす角度から決定さ れるが,水平方向の速度成分はヤング率,垂直方 向の速度成分は摩擦と 2 つの機械特性が共に大き く影響するため誤差が生じやすいと考えられる. なお,本研究で用いたシミュレーションモデルに おいて,実測との誤差が生じるが,高い相関関係 が得られたことからバッティング条件により変化 する出力値を相対的には評価することは可能であ り本研究の目的に沿った検討を実施できると考え られる.本研究の着目点である打球速度と流し打 ち角度について観察された誤差は実質的には大き なものではないが,分析精度を高めるために一 次回帰式を用いて補正した(Figure 4).Figure 4 の回帰直線(打球速度の大きさ y=1.0001x + 4× 10-4,飛翔角度 y=0.9999x - 6 × 10-5,流し打ち角 度 y=0.9999x - 5 × 10-5)の傾きがほぼ 1.0 となっ たことから,この回帰式は主に y 切片を補正(シ ミュレーション値と実測値の両平均値間の誤差の 補正)したものと解釈できる.本研究で用いた 3

Table 1 Input values for simulation Simulation inputs I.1 [m/s] 27.8 I.2 [rps] 30.0 I.3 [deg] 5.0 I.4 [m/s] 32.7 I.5 [deg] 4.0 I.6 [deg/s] 1000 I.7 [deg/s] 2500 I.8 [mm] 692

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次元シミュレーションモデルの出力値を回帰式で 補正することにより,十分な精度で実測値を推定 できることが確認された.以下の結果には,回帰 式により補正した値を示す. 3.2 ボールインパクト時のバット水平・鉛直角と 獲得可能な最大打球速度 バット水平角・鉛直角の各組み合わせについて 算出された最大打球速度(Figure 5(a))とこれが 獲得された際の衝撃線角度(Figure 5(b))を,流 し打ち角度別(中堅方向[- 15° 以上 0° 以下], 右中間方向[- 30° 以上- 15° 以下],右翼方向 [- 45° 以上- 30° 以下])に示す.打球速度は, メッシュの切り方による算出誤差(0.2 ~ 0.3m/s) を上回る interval(0.5m/s 単位)で示した.各組 み合わせについて算出された最大打球速度の中の 最高値は,中堅方向(- 15 ~ 0°),右中間方向 (- 30 ~- 15°)で 40.0m/s,右翼方向(- 45 ~ - 30°)で 39.5m/s であった.また,これら最高 値は単一の組み合わせだけではなく,複数の組み 合わせにおいて記録された.39.5m/s 以上の値は, 打球が中堅方向(- 15 ~ 0°)に打ち出された際 にはバット水平角が- 10 ~- 1° の条件で,右中 間方向(- 30 ~- 15°)に打ち出された際には - 19 ~- 7° の条件で,右翼方向(- 45 ~- 30°) に打ち出された際には- 25 ~- 13° の条件で記 録されており,いずれの場合もバットの打撃面を ライト方向(I.10 < 0)に向けた打撃であった. また,これらの 39.5m/s 以上の値が獲得された際 の衝撃線角度は分析範囲内で小さい値(5 ~ 10°) であった.この範囲内(v ≧ 39.5m/s)における バット水平角と流し打ち角度の関係を Figure 6 に 示す.以上の結果から,最高打球速度は衝撃線角 度が 5 ~ 10° という,横断面上においてはほぼ正 面衝突もしくは,ボールのわずかに下部をインパ クトした条件で,バット水平角の 1.6 ± 1.1 倍右翼 線寄りの方向へ打球が打ち出された際に獲得でき ることが明らかになった. 3.3 衝撃線角度の増大に伴う打球特性の変化 ボールインパクト時のバット水平角・鉛直角の 両角度を一定にした条件下で,衝撃線角度の変化 がもたらす打球特性への影響を検証する.この 検証は,妥当性検証で用いた実測試技の平均値

Table 2 Accuracy of simulation output

Output parameters (a) Measured values (b) Simulation outputs Error [(a)-(b)]

Mean ± SD Mean ± SD Mean ± SD

O.1 [m/s] 35.9 ± 2.6 34.6 ± 2.1 1.3 ± 1.4

O.2 [deg] 25.2 ± 10.1 16.9 ± 8.4 8.2 ± 4.1

O.3 [deg] -22.9 ± 8.4 -18.3 ± 6.6 -4.5 ± 4.2

(a) Velocity of the batted ball (b) Vertical angle of the batted ball trajectory (c) Horizontal angle of the batted ball trajectory

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に最も近い測定値(バット水平角=- 7°,バッ ト鉛直角= 27°)でシミュレーション分析を行っ た際の出力値を例に挙げて行う(Figure 5,Figure 7).衝撃線角度が 10° の時,打球は中堅の正面か らやや右方向(- 12°)に,衝撃線角度が 20° の 時,打球は右中間方向(- 22°)に,衝撃線角度 が 30° の時,打球は右翼線の近く(- 34°)に打 ち出されることが示された(Figure 7).このよう に,同一バット角度であっても衝撃線角度が増大 し,よりボールの下部に打撃した試技ほど打球は 右翼寄りに飛翔することが確認された.これは城 所・矢内(2015)が明らかにしたように,①バッ トヘッドをグリップエンドよりも低くなるように 傾けたバットの上面で(バット鉛直角:27°),② ボールの下部を打撃することにより,右打者の場 合にライナーまたはフライが右翼方向に打ち出さ れるというメカニズムの影響を示すものである. さらに,衝撃線角度が増大するほど打球速度は 低下する一方で,飛翔角度は大きくなることも 確認された(Figure 7).この結果は,McBeath et al.(2008)のセンター返しの打球における実験結 果と傾向が一致するものであり,バットの向きに (a) Maximum velocity of the batted ball (b) Vertical angle of the line of impact

Figure 5 Maximum velocity of the batted ball (a) and vertical angle of the line of impact (b) with which the maximum velocity

of the batted ball was attained for each combination of horizontal and vertical bat angles

Figure 6 Combinations of horizontal bat angle

and horizontal angle of the batted ball trajectory for exceeding the batted ball speed of more than 39.5m/s

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関わらず,よりボールの下部を打撃することで打 球速度の小さい上向きの打球が打ち出されるとい う現象を定量的に示すものである. 3.4 バット鉛直角と衝撃線角度の変化に伴う打球 特性への影響 ボールインパクト時のバット水平角のみを一定 にした条件下で,バット鉛直角と衝撃線角度の変 化がもたらす打球特性への影響を検証する.この 検証は,バットの打撃面を中堅方向に向けた条件 (バット水平角=- 1°)でシミュレーション分析 を行った際の出力値(Figure 5)を例に挙げて行 う.この図が示すのは,バットの打撃面を中堅方 向に向けてボールを打撃した場合でも,バット鉛 直角と衝撃線角度の組み合わせを変化させること により中堅,右中間,左翼の 3 方向すべてに打球 を打ち出すことができることである.具体的には, 中堅方向には衝撃線角度 5 ~ 30° で速度 31.5 ~ 40.0m/s の打球を,右中間方向には衝撃線角度 15 ~ 30° で速度 31.5 ~ 38.0m/s の打球を,右翼方 向には衝撃線角度 25 ~ 30° で速度 31.0 ~ 34.0m/ s の打球を打ち出すことができることを示してい る.また,各方向に打球が打ち出された試技にお いて,バット鉛直角が増大するにつれて最大打球 速度を獲得した際の衝撃線角度は減少することか ら,バットヘッドが下方を向くほどライナー性の 打球が高速度で打ち出されることも示されてい る.同様の傾向は,バット水平角が- 1° に設定 された時だけではなく,他のバット水平角におけ る出力値からも観察された(Figure 5). バットの打撃面を中堅方向に向けた条件におい て,バット鉛直角と衝撃線角度の各組み合わせに よって打ち出すことのできる流し打ち角度の範囲 を Figure 8 に示す.中堅方向に向いたバットでボ ールをインパクトする際は,バット鉛直角が 15° を超えた場合にのみ右中間方向へ打球を打ち出す ことができ,バット鉛直角が 35° を超えた場合に のみ右翼方向へ打球を打ち出すことができること が示された.図中の境界線は打球が 0,- 15,- 30,- 45° に打ち出されたときの衝撃線角度とバ ット鉛直角の組み合わせを意味する.中堅方向に 向いたバットで指定した方向に打球を打ち出すに は,バット鉛直角が 0° に近い際には衝撃線角度 を大きくし,バット鉛直角が増大するにつれて 衝撃線角度を 0° に近づける必要がある.つまり, バットが水平面から大きく下方へ傾かない条件で スイングする際にはボールの下方を打撃し,バッ トヘッドを大きく下方に傾けてスイングする際に はボールの中心付近を打撃することにより指定し た方向への流し打ちが可能になるのである.これ は,バット鉛直角と衝撃線角度のトレードオフの 関係により同方向に打球を打ち出すことができる ことを意味する.衝撃線角度が 0 に近いほど飛翔 角度の小さく打球速度の高いライナー性の打球と

Figure 7 The effect of altering the angle of the line of the impact on the batted ball characteristics

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なることが確認されていることから,これらの結 果はバット鉛直角と衝撃線角度の組み合わせによ り同方向に異なる特性の打球を打ち出すことがで きることを示すものである. 3.5 実際の現場での野球選手への一般化 以上の結果を,実際の試合で起こり得る状況に 置きかえてみる.投球されたボールの球速の違い やコースの違いによって,バット水平角が限定さ れることが考えられるが,その場合でもバット鉛 直角と衝撃線角度の調整を行うことにより流し打 ち方向に打球を打ち出すことは可能である.例え ば,スローボールを待ち切れず早いタイミングで スイングを開始した場合はインパクト位置が投手 寄りとなり,バット水平角が大きくなる.衝撃線 角度が 0° の場合には打球は左翼方向へ打ち出さ れることになるが,平均的なバット鉛直角(27°) でスイングされていた場合には衝撃線角度を上昇 させること(ボールの下部を打撃すること)によ りライナーやフライを中堅方向や右中間方向へ打 ち出すことが可能になる.さらに,バット鉛直角 が大きい場合には右翼方向へ打球を打ち出すこと も可能になる.投球されたボールの高低に応じて バットの鉛直方向への傾きの範囲は限定されるこ とが考えられるが,その場合でもバット水平角と 衝撃線角度の調整を行うことにより流し打ちが可 能である.例えば,高めのボールを打撃する際に は必然的にバット鉛直角が小さくなることから, 衝撃線角度の変化がもたらし得る打球方向の範囲 は限定されるが,バット水平角を調整することに より意図した方向への流し打ちが可能になる.逆 に低めのボールを打撃する際にはバット鉛直角が 大きくなることから,衝撃線角度の変化によって もたらされる打球方向の範囲は非常に広くなる. この場合は,バット水平角の大きさや向きにかか わらず,流し打ち方向に打球を打ち出すことが可 能になる.このように,ボールの球速やコースに よってバット水平角が限定された場合には,その バット鉛直角に対して最適な衝撃線角度でインパ クトすることにより流し打ち方向にライナーやフ ライを打ち出すことが可能となり,ボールの高さ に応じてバット鉛直角が限定された場合には主に

Figure 8 Speed and direction of the batted ball attainable with a given horizontal bat angle (= 0°).

Alteration of the vertical bat angle and the vertical angle of the line of impact enables the batter to project the ball toward a wide range with a variety of speeds.

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バット水平角を調整することによって意図した方 向への流し打ちが可能になる. 実際の野球現場での具体的な例として,プロ野 球選手を対象にした実測実験結果を Table 3 に示 す.多数あるデータの中から Comparison A では, バット鉛直角と衝撃線角度が同等でバット水平角 の異なる試技を,Comparison B では,バット水 平角と鉛直角が同等で衝撃線角度の異なる試技を 抽出した.このデータから,バット水平角が小さ い打球の方がより右翼方向に打ち出されること, および,衝撃線角度が大きな打球の方がより右翼 方向への打球が,より低速度で上向きに打ち出さ れることが確認された.尚,ここで比較した実測 試技では流し打ち角度以外の打球特性にも差異が 観察される点が確認できるが,その主な原因はボ ールのインパクト位置(I.8)に最大で 70mm の 差異が生じていたことにある.実測データに基づ いた分析ではバットスイングの特徴が試技間で異 なるため,インパクト条件を規定する因子の一つ 一つが単独で打球方向に及ぼす影響を抽出するこ とは困難であるが,スイングの特徴の詳細に拘ら ずにインパクト条件の違いを比較した場合におい ても,本研究のシミュレーション結果と同様の傾 向は確認された.これらの結果から,バットの方 位とバット短軸上のインパクト位置の組み合わせ がインパクト後の打球特性を決定する重要因子で あると考えられる. 本研究の分析結果は,ピッチングマシンを使用 し,ボールの回転軸の傾きが x 軸(Figure.3)と ほぼ一致する直球を打撃した結果である.しかし, ボールの回転軸の傾きが変われば,その他の条件 が一定であったとしても,インパクト直後のボー ルに加わる力の向きの違いにより,出力される打 球速度ベクトルは異なると考えられる.そのため, ボールの回転軸の異なる球種では,本研究の知見 と異なることが予想されるため,本研究の知見は ボールの回転軸が進行方向に対して垂直な軸周り にバックスピンする直球を打撃した状況でのみ一 般化できると考えられる. 4 まとめ 弾性体モデルを用いた 3 次元空間でのシミュレ ーションを実施する 3 次元インパクトシミュレー ション分析の方法論を確立し,流し打ちを行うた めのバットの方位(水平面・鉛直面での角度)と ボールの衝撃位置の組み合わせ範囲を検証した. その結果, 1. 指定された流し打ち方向に最大の打球速度を 獲得するには,バット水平角が意図した流し 打ち角度の約 60%の角度となるようにイン パクト位置を定め,そこでほぼ正面衝突もし

Table 3 Measured results of a professional baseball player

The position of ball

impact Vertical angle of the line of impact Horizontal bat angle Vertical bat angle

I.8[mm] I.9[deg] I.10[deg] I.11[deg]

Comparison A ① 717 24.3 25.9 16.5

② 665 22.9 -25.2 17.1

Comparison B ① 705 5.2 -11.7 14.3

② 710 23.1 -11.5 19.8

Velocity of the batted

ball batted ball trajectoryVertical angle of the Horizontal angle of the batted ball trajectory

O.1[m/s] O.2[deg] O.3[deg]

Comparison A ① 41.6 28.4 33.2

② 34.2 42.7 -58.2

Comparison B ① 40.0 7.5 -16.3

(11)

くは,ボールのわずかに下部をインパクト(衝 撃線角度 =5 ~ 10°)できるようにボールを 打撃する必要があること, 2. 同一バット角度でボールを打撃した場合で も,衝撃線角度が大きい試技ほど(よりボー ルの下部を打撃した試技ほど)打球は右翼寄 りに飛翔すること, 3. バットの打撃面を中堅方向に向けてボールを 打撃した場合でも,バット鉛直角と衝撃線角 度の組み合わせを変化させることによりフェ アグランド右半分の全ての方向に打球を打ち 出すことができること, 4. ある方向へ打球を打ち出す際のバット鉛直角 と衝撃線角度はトレードオフの関係にあるこ と, が明らかになった. 文 献 ハンク アーロン(2011)ハンク・アーロンのホームラン・ バイブル.池田郁雄訳,王貞治監修,ベースボール・ マガジン社,pp.13,26-27. 城所収二・矢内利政(2015)野球における「流し打ち」 を可能にするもう一つのインパクトメカニズム.体育 学研究,60(1):103-115. 小早川毅彦(2007)小早川毅彦の「インコース&アウト コースを打つコツ」教えます.ベースボール・マガジ ン社編,バッティング バイブル[テクニック編].ベ ースボール・マガジン社,pp.78-81.

McBeath, M.K., Nathan, A.M., Bahill, A.T., and Baldwin, D.G. (2008) Paradoxical pop-ups: Why are they difficult to catch? American Journal of Physics, 76 (8) : 723-729. Mclntyre, D.R. and Pfautsch, E.W. (1982) Kinematic analysis

of the baseball batting swings involved in opposite-field and same-field hitting. Research Quarterly for Exercise and Sport, 53 (3) : 206-213.

宮澤隆・志村芽衣・城所収二・若原卓・矢内利政(2011) 野球のバッティングにおけるインパクトシミュレーシ ョン.日本機械学会論文集,A77(777):813-822. Sawicki, G.S., Hubbard, M., and Stronge, W.J. (2003) How to

hit home runs: Optimum baseball bat swing parameters for maximum range trajectories. American Journal of Physics, 71 (11) : 1152-1162. 篠塚和典(2013)流し打ちの極意.ベースボール・マガ ジン社,pp.81,122-123. テッド ウイリアムズ・ジョン アンダーウッド(2000) テッド・ウイリアムズのバッティングの科学.池田郁 雄訳,ベースボール・マガジン社;新装版,pp.102. 2017 年 6 月 8 日受付 2017 年 10 月 19 日受理 Advance Publication by J-STAGE

Published online 2017/12/20

Figure 1  One mechanism of opposite-field hitting. Reprinted from Kidokoro, S. and Yanai, T
Figure 2  Simulation model created with Abaqus Student
Figure 3  Definition of the inertial reference frame R xyz  and the bat-embedded coordinate system R X'Y'Z'   ,
Table 1   Input values for simulation Simulation inputs I.1 [m/s] 27.8 I.2 [rps] 30.0 I.3 [deg] 5.0 I.4 [m/s] 32.7 I.5 [deg] 4.0 I.6 [deg/s] 1000 I.7 [deg/s] 2500 I.8 [mm] 692
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参照

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