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Academic year: 2021

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博 士 ( 医 学 ) 佐 々 木 浩 子

     学位論文題名

Anaerobic Threshold を基準とした運動強度の脳波 および心電図 R‑R 間隔変動におよぼす影響

学位論文内容の要旨

    目的

  適度な運動は,身体的および精神的スト レスを緩和させることが知られている.これまで運動 の精神心理的効果に関しては,急性運動後 の自己記入式調査票を用いた調査で,不安および鬱の 減少 や気 分の 改善 が認 めら れ ,そ れら と脳 波alpha波バ ワ ー値の増加との 相関が報告されてい る.しかし,急性運動後の脳波のパワー値 の増加には否定的な報告もあり,統一した見解は得ら れていない.この理由として,これまでの 研究の運動強度の設定が不十分であることが考えられ る.身体運動のためのエネルギー供給は, 運動強度の増加に伴い好気的から嫌気的なエネルギー 供給が主となる,そのため,このようなエ ネルギー供給システムの変化が,急性運動後の脳波変 化の差をもたらすことが推測される.本研 究では,工ネルギー供給システムの変化点を示すとさ れるAnaerobic Threshold(AT)を基準にそれより低い強度と高い強度の3種の急性運動負荷を与え て,脳波および心電図のR‑R間隔変動(heart rate variability: HRV)に及ばす影響を明らかにし,健康 の 維 持 増 進 に 有 用 か つ 適 正 な 運 動 強 度 を 予 防 医 学 的 に 検 討 す る こ と を 目 的 と し た .

    対象および方法

  対象は,年齢20歳から26歳の右利きの健康成人男子11名(平均22.0歳,SDl.5歳)で,各被験者の AT測 定 は , 自 転 車 エ ル ゴ メ ー タ ー を 用 い て ラ ン プ 負 荷 法(0.2kp/min)で 心 拍 数 が170か ら 180bpm(beats per minute)に達するまで運動を行わせた時の呼気ガスからV‑slope法により算出し た.実験条件 は,(1) 20分間の安静開眼座位条件(rest),(2)自転車エルゴヌーターによる3種の運 動 負荷 でATより20%少ない強度20分間(‑20),(3) AT強度を維持してAT時点での心拍数が1.2倍に なるまでの時 間(AT),(4) AT+20%の強度20分間(十20)を行わせた.各実験条件の前後15分間に安 静閉眼座位状 態の脳波を測定し,各運動条件終了直前に自覚的運動強 度を測定した.脳波は国際 規 格10‑20法に従い 両耳朶を不関電極とし,単極誘導でCz,Pz,01および02より導出し,同時に 眼球運動,心電図,呼吸曲線を測定した.

  脳波 およ び心 電図 のR‑R間隔 変動(HR¥Oの解 析に はMEM(maximum entropy method)による周波 数スペクトル 解析を用いた.脳波解析は,10msec毎10秒間(1000点)を1エポックとして,各条件 の直前(pre)と終了直後(post)5分間30エポックについて,周波数スベクトル解析を行い,全周波数 (0.5‑30H)と ,delta (0.5‑4Hz),thetaく4‑8Hz),alphal(8‑11Hz),alpha2(11‑14Hz),betal(14‑

20Hz),beta2く20‑30Hz)波のパワースベクトル積分値(power spectral density: PSD)および各帯域の 全パワー積分 値に対する比率(power time percent: Time%)を求めた.さらに,Pzにおける全周波

(2)

数 ,delta+thetaお よ びbetaの 指 数 ス ベ ク ト ル の 傾 きkを 算出 した ,HRVは ,preお よびpost5分 問 の デ ー タ に つ い て1分 ご と に ス ベ ク ト ル 解 析 を 行 い , 日 本 自 律 神 経 学 会 の 定 義 に よ り 低 周 波 成 分 (low frequency: LF,0.04‑0.15Hz)と高周波成分(high f:requency: HF,0.15‑0.4Hz)について帯域別PSDを 求 め ,HF成 分 を 副 交 感 神 経 系 の 指 標 と し て ,HF成 分 に 対 す るLF成 分 の 比(L/IDを 交 感 神 経 系 と 副 交 感 神 経 系 の バ ラ ン ス を 示 す 指 標 と し て 求 め た ,PSDお よ びTime%はpreか ら の 変 化 率 を 算 出 し 検 討 し た . さ ら にpre,post各5分 問 と4条 件 の 負 荷 中 の 心電 図R‑R間 隔 デー タか ら, 心拍 数(bpm)も 算 出した.

    . 結 果

  脳 波 全PSDの 変 化 率 は , 安 静 後 に 比 ぺ て 運 動 後 に 増 加 す る 傾 向 が 認 め ら れ ,Pzで は+20条 件 で ,01で は‑20条 件 で ,02で は‑20お よ び+20条 件 で 安 静 と の 間 に 有 意 差 が 認 め ら れ た . 脳 波 各 帯 域 のPSD変 化 率 は ,theta波 を 除 く 各 帯 域 で 安 静 時 に 比 べ て 運 動 後 に 増 加 す る 傾 向 が認 め られ ,他 の 帯 域 に 比 べ て 特 にalpha波 の 増 加 が 大 き く ,01お よ び02で は ,ATよ り 少 な い 低 強 度 運 動 負 荷 条 件(‑20)で 安 静 に 比 べ てalpha1波の 変化 率 が有 意に 増加 した , また ,運 動強 度 の増 加に 伴っ てdelta お よ びbeta2波 のPSD変 化 率 が 増 加 す る 傾 向 が 認 め ら れ た . 脳 波 各 帯 域 のTime%変 化 率 に 関 し て は , 安 静 時 に 比 ぺ て 運 動 後 のtheta波 が 減 少 し ,+20条 件 のbeta2波 が01で は 安 静 ,‑20,AT条 件に 比 べ て ,02で は 安 静 に 比 べ て 有 意 に 増 加 し た . 心 電 図R‐R間 隔 変 動 のPSD変 化 率 に 関 し て は , 安 静 時 に 比 べ て 運 動 後 で はHF成 分 が 有 意 に 減 少 し , 低 強 度 に 比 べ て 高 強 度 運 動 負 荷 条 件 で はUH比 が 有 意 に 増 加 し た , 自 覚 的 運 動 強 度 は 低 強 度 運 動 負 荷 条 件(‑20)に 比 べ て 高 強 度 運 動 負荷 条件(AT お よ び+20)で 増 加 し た が ,ATと+20条 件 で は 差 が 認 め ら れ な か っ た , 脳 波 と 心 電 図R‑R間 隔 変 動 の 関 係 で は , 脳 波alpha2波 の パ ワ ー 値 と 心 電 図R‑R間 隔 変 動 のL/H比 と の 相 関 関 係 が 認 め ら れ た . 脳 波 指 数 ス ベ ク ト ル の 傾 き は , ど の 条 件 で も 運 動 負 荷 前 と 運 動 負 荷 後 で 差 は 認め ら れな かっ た .

    考 察

  安 静 条 件 と 運 動 条 件 と の 比 較 か ら , 急 性 運 動 後 に 脳 波 バ ワ ー 値 が 増 加 す る こ と が 認 め ら れ, こ れ ま で の 報 告 よ り も 低 強 度 の‑20条 件 の 運 動 強 度 で も 脳 波 パ ワ ー 値 が 増 加 す る こ と が 明 ら か に な っ た .ATよ り 低 い 運 動 強 度 とATお よ びATよ り 高 い 運 動 強 度 と の 比 較 か ら , 運 動 強 度 の 増 加 に 伴 っ て 脳 波 の パ ワ ー 値 がalpha1波 で 減 少 し ,delta波 で 増 加 し ,beta2波 の パ ワ ー 値 お よ び 比率 が 増 加 し , 運 動 強 度 に よ り 各 帯 域 の 構 成 比 が 異 な る こ と が 認 め ら れ た . ま た , 急 性 運 動 後 に は副 交 感 神 経 系 の 緊 張 の 減 少 が 認 め ら れ ,ATよ り 低 い 運 動 強 度 で も 副 交 感 神 経 系 の 活 動 が 減 少 す る こ と が 明 ら か と な っ た , し か し , 交 感 ・ 副 交 感 神 経 系 の バ ラ ン ス で は ,‑20条 件 は 安 静 条 件 と 比 べ てL/H比 は 変 わ ら な い が ,ATお よ びATよ り 高 い 運 動 強 度 は‑20条 件 と 比 べ てL/H比 が 増 加 し ,AT を 境 と し て 交 感 ・ 副 交 感 の 自 律 神 経 系 の バ ラ ン ス が 著 し く 変 動 す る と 考 え ら れ た . さ ら に ,自 覚 的 運 動 強 度 はATよ り 低 い 運 動 強 度 とATお よ びATよ り 高 い 運 動 強 度 と の 間 で 差 が 認 め ら れ た , こ れ ら よ り , 脳 波 , 心 電 図R‑R間 隔 変 動 お よ び 自 覚 的 運 動 強 度 の 結 果 は ,ATよ り 低 い 強 度 の 運 動 が ATお よ びATよ り 高 い 強 度 の 運 動 に 比 べ て , 自 覚 的 , 身 体 的 に 負 担 が 少 な い た め の 変 動 と 考 え ら れ た , ま た , 脳 波alpha2波 の バ ワ ー 値 お よ び 比 率 と 心 電 図R‑R間 隔 変 動 のL/H比 と の 相 関 関 係 か ら , こ れ ら を 同 時 に 変 動 さ せ る 系 の 存 在 が 示 唆 さ れ た . 脳 波 の 指 数 特 性 を 示 す 脳 波 指 数 ス ベク ト ル の 傾 き で は ど の 条 件 も 負 荷 前 と 負 荷 後 で 変 化 が 認 め ら れ な か っ た が , 運 動 負 荷 に よ る カ オス 性 の 変 動 の 有 無 は 今 後 さ ら に 詳 細 な 検 討 が 必 要 と 考 え ら れ た .

(3)

    

結語

  AT

より低い強度の運動後は,

AT

を超える強度の運動後に比ぺて脳波alphal 波パワー値の増加

が大きく,安静と比べて交感・副交感神経系のバランスは変化せず,さらに自覚的にも負担が少

ないことが明らかになった.これらから,

AT

より低い運動強度が,自覚的および身体的にも負

担が少ないことから,この程度の負荷が健康の維持増進のために有用かつ適正な運動強度として

予防医学的に重要な意味をもっと考えられた.

(4)

学位論文審査の要旨

     学位論文題名

Anaerobic Threshold を基準とした運動強度の脳波 および心電図R‑R 間隔変動におよぼす影響

  

適度な 運動は,身 体的およ び精神的 ストレス を緩和さ せること が知られて いる.急性 運動後 の脳波に関 しては,

alpha

波バワー 値の増加 が報告されているが,否定的な報告も あり, 統一した見 解は得ら れていな い.本研 究では, エネルギ ー供給の変 化点を示 すと されるAnaerobic Threshold( 」邨を基準にそれより低い強度と高い強度の

3

種類の急性運動 負荷を与えて,脳波および心電図の

R

R

間隔変動(HRV )からその評価を行うことを目的と した.対象は,年齢

20

歳から

26

歳の右利きの健康成人男子n 名(平均

22

.0 歳,SD1 .5 歳)で,

各被験 者のAT 測定は ,ランプ 運動負荷 による呼 気ガスを 分析し,

V

s10pe

法により 行っ た.実験条件は,安静開眼座位20 分間(rcst ),

AT

より20 %少ない強度20 分間(‐20 ),

AT

強 度で心拍数がAT 時点の

1

2

倍になるまで(´邨,AT より20 %多い強度20 分間(十20 )で,各条 件の前 後15 分間に安 静閉眼座 位状態の 脳波およ び心電図 を測定し ,さらに, 運動中は自 覚 的運 動 強度 を 測 定し た .脳波 およびHRV の 解析には 最大エン ト口ピー 法を用いて 周波 数スベクトル解析を行った.脳波は,

10msec

毎10 秒間(1 ,

000

点)を1 エポックとして,各 条件の直前Qre 冫と終了直後(pos り5 分間のスベクトル解析を行い,全周波数(O .5 ‐30HZ 冫と,

delta

,theta ,

alpha1

alpha2

beta1

,beta2 波のパワースペクトル積分値(PSD )および各 帯域の全バワー積分値に対する比率く

Time

%)を求めた.HRV は,

pre

および

post5

分間のデ ータについて1 分ごとにスベクトル解析を行い,低周波成分(LF )と高周波成分(HF )につい て

PSD

を求 め,HF 成分を 副交感神 経系の指 標,

HF

成分 に対する

LF

成分の比 (L 凪)を交感 神経系 と副交感神 経系のパ ランスを 示す指標 とした.

PSD

およぴ

rime

% はprc からの変化 率 を算 出 し検 討 し た. 心 電図か ら,心拍 数も算出 した.脳 波全

PSD

の変 化率は,安 静後 に比べ て運動後に 増加する 傾向が認 められ, 急性運動 後にこれ までの報告 よりも低 強度 の.

20

条 件でも脳波 パワー値 が増加す ることが 明らかに なった.脳波各帯域のPSD 変化率 は,他 の帯域に比 べて

alpha

波の増加が大きく,運動強度の増加に伴ってdclta およびbeta

雄 司

和  

  秀

藤 山

齋 小

授 授

教 教

査 査

主 副

(5)

2 波が増加する傾向が認められた.脳波各帯域のTime% 変化率は,安静時に比べて運動後 の theta 波が減少し,強度に伴い beta2 波が増加した.PSD およびTimeo/o の結果より,運動 強度により脳波各帯域の構成比の異なることが認められた.HRV の PSD 変化率は,安静 時に比ぺて運動後のHF 成分が有意に減少し,‑20 条件に比べてAT および +20 条件ではL/H 比が有意に増加し,AT を境として交感・副交感の自律神経系のパランスが著しく変動す ることが示唆された.さらに,運動後心拍数と自覚的運動強度は‑20 に比ぺてAT および +20 条件で有意に増加した,これら脳波,HRV ,運動後心拍数および自覚的運動強度の 結果から, AT を超える強度の運動は生体への負担が大きいことが推測され,AT より低 い運動強度が,健康の維持増進のための運動強度として重要な意味をもっと考えられ た.脳波と心電図R‑R 間隔変動の関係では,脳波alpha2 波のバワー値と心電図R‑R 間隔変 動の L/H 比との相関関係が認められ,これらを同時に変動させる系の存在が示唆され た.

   審査にあたって副査の小山教授から被験者の運動以外の影響因子の有無,実験日の設 定,脳波測定が行われた安静閉眼時の状態,AT より20 %低い負荷条件が健康増進に役立 っとした根拠について,次いで副査の川口教授から運動負荷の順序,慣れ,AT を境とす る自律神経系のバランス,脳波と心電図の同時測定の意味,脳波アルファ波の増減とり ラクゼーションおよびストレスとの関連について質問があった.申請者は研究結果と文 献引用からいずれの質問に対しても妥当な回答を行った.

   以上,得られた知見はトータルヘルスプ口モーションプランに関連して健康体育の面

で有益であり,審査員一同はこれらの成果を高く評価し,大学院課程における研鑽や取

得単位などを併せ,申請者は博士(医学)の学位を受ける十分な資格を有するものと判

定した,

参照

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