博 士 ( 農 学 ) 水 島 学 位 論 文 題 名
農用車両のための航法センサに関する研究 学位論文内容の要旨
晃
21世 紀を 迎え 世界 の 人口 は60億人を突破した。今 後,危惧されている食糧危機 に備えて,世界中で 食料 の 増産 が必 要不 可 欠な 状況にあるにもかかわら ず,日本の自給率は低下し続 けている。農業従事 者の減少と高齢化,それに伴う耕地面積の減少が日本の農業の現状であり,こうした中で「農地の拡大」,
「生産性の向上」 を実現して,食料生産の増大を図るには,作業負担の軽減,省力化や作業効率の拡大,
作業 投資の軽減などが不 可欠である。その解決策とし て農用車両の自動化やPrecision Farmingが挙げ られ,近年盛んに研究されている。
農用車両の自動化やPrecision Farmingの基盤技術は,
1)位置 2)方位
3)傾斜角(姿勢角)
をりアルタイムに計測することにある。現在,農用車両に適用できるような,位置・方位・傾斜角を計測する 航法センサは,高 価なセンサに限られているため実用化の障害になっているという問題がある。そこで,
本論文は「コスト」の問題を解決するために,低コストな航法センサによって位置・方位・傾斜角を計測す る,農用車両の自 動化やPrecision Farmingに 適用できる安価な航法システムを構築することを最終目標 とした。
まず,地磁気方 位センサ(GDS)べースのセン シングシステムによる航法システムを構築して,方位セン サのみによる安価な航法システムの有効性を示した(第2章,第3章)。さらに,GPSべースのセンシングシ ステムによる航法システムを想定した,方位・位置・傾斜角の高精度化手法を考案した(第4章)。最後に,
安価な航法センサ によって方位・位置・傾斜角を観測する航法センサモジュールを開発し,その有効性を 検討した(第5章)。
地磁気方位センサの出力特性と高精度化(第2章)
地 磁気方位センサ(GDS)をべー スとしたセンシングシステ ムを構築し,方位計測の高精 度化手法を考 案した。本システムは方位センサのみで構成されるため,コストを抑えることができる。さらに,使用環境の 制約が少な いといった利点もあり,GPSやマシンビジョンなどが計測できない状況における補償手段とし ても適用することができる。
GDSを使 用する場合,S/N比の低さが 問題となる。そこで,光ファイバージャイロ(FOG)をカルマンフィ ルタによっ てセンサフュージョンする ことで高精度化を図った。そ の結果,速度0.63m/s,距離40m程度 の走行に対 してR.M.S.は3.8cm,最大偏差10cmと振動が少ない直進性の高い走行を実現すること1カミで きた。
さらに,GDSを使用する上で問題となる地磁気の時間・空間変動をりアルタイム補正する手法を考案し,
走 行再 現性 の 向上 を図 った。地 磁気の時間・空間変動を有 する場所では,従来の固定目 標方位制御で
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は,高精度かつ高 い再現性で走行させるには限 界があると考えられた。セ ンサの誤差分散による重み付 き平 均 値(VWA)によ ってGDSとFOGを 融合 し, 目標 方位を逐次更新する可変 目標方位制御を考案した。
VWAに よ る 可 変 目 標 方 位 の自 動直 進走 行に お ける 精度 ,再 現 性を 評価 する ため にGDS単 独 によ る固 定目 標 方位 制御 の自 動直 進 走行 との 比較 を 行っ た結 果,GDSに比 べて 走 行精 度, 再現 性の 向 上が確 認された。
振 動 ジャ イ口 スコ ープ と 地磁 気方 位セ ン サの セン サフ ュ― ジ ョン によ るナ ビゲ ―ショ ン(第3章)
地 磁気 方位 セン サ(GDS),振 動 ジャ イ口 スコ ープ 及 び静 電容 量型 傾 斜計 を使 用して, 第2章のGDS をべースとしたセンシングシステムをさらに低コスト化した航法センサによる方位推定法を考案した。はじ め に,傾斜計のノイズを適応線スペクトル強調器(ALE)によって除去を試みた結果,R.M.S.誤差がロール 角,ピッチ角,共に約80%以上精度を改善することができた。次に,振動ジャイロスコープのドリフトを最小 二乗法によって推定した結果,高精度にドリフトを推定することができた。さらに,GDSと振動ジャイロスコ ー プ の補 正出 カを 分散 重 み付 け平 均(VWA)で融 合し ,ALEで 生じた時間遅れを振動ジャイ ロスコープ で 補償することで,ジャイ口ス コープにFOGを使用した場合と同程度の精度が達成された。最後に構築し た 方 位推 定法 の精 度を 評 価す るた めに 自 動直 進走 行試 験を 行った結果,本論文で考案し た方位推定 法 によって,傾斜計と圧電振動 ジャイロスコープおよびGDSを適用した場合でも精度の 高い自動直進走 行が可能であった。
GPS利用による方位・位置情報の高精度化(第4章)
地磁気 方位センサ(GDS)をべースの センシングシステムは,位置の取得にデッドレコニングを使用する ため誤差 が積算するため,長時間使用 することはできない。また ,その計測位置も初期位置からの相対 位置であることも問題となる。そこで,GPSをべースとしたセンシングシステムによる,方位・位置情報の高 精度化手法を構築した。
まず ,GPSとGDSを併 用し てGDSの磁気環境 をりアノレタイムに推定し補 正すると同時に,GDSの方位 をGPS座標 系に 一致 さ せて 絶対 方位 を取 得 する 手法 を考 案し た 。RTK‑GPSとDGPSを使用してシミュレ ーション を行った結果,提案した方位 推定値は歪みをほとんど生 じず,リアルタイムでGPSとGDSの座標 系を―致させて磁気環境を補正する機能を有していることが明かとなった。
次に ,公 称 精度Im, 計測 周期1HzのDGPSと振 動ジ ャイロを併用した, 絶対方位の取得法及びドリフ ト推定法を考案した。走行データを使用して方位推定のシミュレーシヨンを行った結果,良好にドリフト値 を推定し絶対方位を計測できることがわかった。
さらに,傾斜角 がGPS計測に与える影響を補 正する手法を考案して,位 置情報の高精度化を図った。
傾斜を与えた走行データよルシミュレーションを行った結果,傾斜による影響をほぼ除去することができた。
傾 斜補 正を 適 用し た場 合と ,傾 斜 補正 を適 用し な ぃで生のGPSデータを 使用した場合の自動走行試験 を 行 な っ て 走 行 精 度 を 比 較 し た 結 果 , 誤 差 のR.M.S. で 約64% 走 行 精 度 が 向 上 し た 。
農用車両のための航法センサモジュ―ルの開発(第5章)
第4章 の航法シス テムを導入した位置・方位計 測に加えて傾斜角の3要素を 推定する低コストな航法 システムを開発した。
振 動 ジャイロスコ ープを3個,静電容量型傾斜 計を2個使用して相対方位と 傾斜角を計測する姿勢角 セ ン サ パ ッケ ー ジを 試作 した 。縦 幅150mm, 横幅l10mm, 高さ65mm,重 量540gと従 来の 姿勢 角 セン サ(IMU)に比べ小型・軽量・低コスト化できた。さらに,試作した姿勢角センサパッケージとGPSをハイブリ ットして絶対方位・位置・傾斜角を計測できる航法センサモジュールを構築した。振動ジャイロとGPSを使
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学位論文審査の要旨 主査 教授 寺尾日出男 副 査 教授 端 俊一 副査 助教授 野口 伸
学 位 論 文 題 名
農用車両のための航法センサに関する研究
本論 文は, 図124 , 表 17 ,引 用文献179 ,総 頁数181 の和文論 文で,他に参考論文4 編が添え られている,
位置・方位・傾斜角をりアルタイムに精度よく計測でき,農用車両の自動化にも適用できる航 法センサ類は,現在のところ,航空機向け仕様に開発された機器が流用されており,きわめて高 価で,汎用ロボットシステムの実用化とその普及にとって大きな障害のーっに数えられている.
本研究は,低価格な航法センサによって農用車両の位置・方位・傾斜角を計測し,汎用ロボッ トの航法システムが取得するデータの精度補償と処理手法を提案し,これらを組合わせることに よって,手頃な農用車両用の航法システム開発を最終目的としたものである,得られた成果は下 記に要約される.
1 .地磁気方位センサ GDS .圧電型振動ジャイロスコープ・静電容量型傾斜計のセンサ融合技術 の開発
1 )地磁気方位センサ(GDS) べースのセンシングシステムは,方位センサのみで構成されるの で価格を抑えるられ,使用環境に制約されない利点のある反面,地磁気の時間・空間変動をりア ルタイムに補正する必要がある.従来の固定目標方位制御からセンサの誤差分散による重み付け 平均 値によってGDS と FOG の出カデータを融合し,目標方位を逐次更新する可変目標制御法を考 案した,その結果はGDS 単独走行に比べ走行精度,再現性の改善が見られることを明らかにした.
2 )方位推定法として傾斜計出カノイズを適応線スペクトル強調器(ALE) によって除去を試みた 結 果,ロール角,ピッチ角共にrms 誤差精度が約 80% 以上改善されたこと,振動ジャイロスコー プのドリフトを最小二乗法によって推定した結果,高精度にドリフトを予測可能であること,ま たGDS と振動ジャイロスコープの補正出カを分散重み付け平均(VWA) で融合し,ALE で生じた時間 遅れを振動ジャイロスコープで補償することで,上述1 )と同程度の精度が達成できること,こ の方位推定法によって,傾斜計と圧電振動ジャイロスコープおよびGDS を適用した場合でも精度 の高い自動直進走行が期待できること,などを明らかにした.
2. GPS べースによる方位・位置情報の高度センシング技術の開発
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1 ) GDS ベースのセンシングシステムは,位置の取得にデッドレコニングを使用するので誤差が 積算するため長時間使用することはできなぃ.また,その計測位置も初期位置からの相対位置で あるこ とも問 題である ことか ら, GPS とGDS を併用してGDS の磁気環境をりアルタイムに推定し 補正す ると同時に,GDS の方位をGPS 座標系に一致させて絶対方位を取得する手法を考案した,
RTK − GPS と DGPS を使用してシミュレーションを行った結果,提案した方位推定値にはバイアスエ ラーも なく,実時間でGPS と GDS の座標系を一致させて磁気環境を補正する機能のあることが明 かとなった.
2 )公称 精度Im ,計 測周期 1Hz の DGPS と振動ジ ャイロを 併用し た,絶対方位の取得法及びド リフト推定法を考案し,走行データを使用して方位推定のシミュレーションを行った結果,逐次 ドリフト値を推定し絶対方位を計測できた,さらに,傾斜角がGPS 計測に与える影響を補正する 手法を考案して,位置情報の高精度化を図った。傾斜地走行データのシミュレーション結果から は,その影響をほば完全に除去することができた。GPS を使用した自動走行試験結果からは,傾 斜 補 正 を 行 う こ と で 誤 差 精 度 は rms で 約 64% 走 行 性 能 が 向 上 し た , と 述 べ て い る .
3. 農用車 両のための航法センサモジュールの開発
振 動ジャイ ロスコープを3 個,静電容量型傾斜計を 2 個使用して農用車両の相対方位と傾斜角 を 計 測する姿 勢角セン サパッ ケージ( 縦幅 150mm ,横幅 l10mm , 高さ65mm , 質量540g) を試作 し,これとGPS を併用して絶対方位・位置・傾斜角を計測できる航法センサモジュールを構築し た ,振動ジ ャイロと GPS 出カからドリフト量を推定すると同時に絶対方位を取得し,GPS の傾斜 補正を行い,また,GPS の計測周期間の位置データをデッドレコ三ングによって補償する機能も 内蔵した.アスファルト平坦路面・傾斜草地路面・人工悪路面と3 種類の走行条件下での試験結 果からは,航法センサモジュールの誤差精度は rms 値でロール角0 .30 °,ピッチ角 O . 42 °,方 位角0 . 62 °,位置 4 . 4cm ,これらの値は当初の目標仕様を十分にみ哉て.j んと述べている,
以上より,「農用車両のための航法センサに関する研究」は,農用ロボッ卜車両の普及への契機 となる 成果であると農業機械学会から高く評価されている,よって審査員一同は,水島晃が博 士(農学)の学位を受けるのに十分な資格があるものと認めた.
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