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第 2 章 第 2 章 神経心理学の方法 1. 症例研究 1.1 症例研究の目的神経心理学における症例研究 すなわち脳血管障害 脳腫瘍 頭部外傷 脳変性疾患などの脳疾患に伴う高次脳機能障害の有無 性質 程度を明らかにすることを神経心理学的評価と呼ぶ 神経心理学的評価の目的は二つある 第一は脳疾患の診

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第2章

神経心理学の方法

1 . 症 例 研 究 1 . 1 症 例 研 究 の 目 的 神 経 心 理 学 に お け る 症 例 研 究 、 す な わ ち 脳 血 管 障 害 、 脳 腫 瘍 、 頭 部 外 傷 、 脳 変 性 疾 患な ど の 脳 疾 患 に 伴 う 高 次 脳 機 能 障 害 の 有 無 、 性 質 、 程 度 を 明 ら か に す る こ と を 神 経 心 理 学的 評 価 と 呼 ぶ 。 神 経 心 理 学 的 評 価 の 目 的 は 二 つ あ る 。 第 一 は 脳 疾 患 の 診 断 と 治 療 で あ り 、第 二 は 高 次 脳 機 能 の 神 経 機 構 の 解 明 で あ る 。 神 経 心 理 学 的 評 価 の 第 一 の 目 的 は 医 学 的 介 入 の 一 環 、 す な わ ち 脳 の ど の 領 野 に ど の よ う な 病 変 が 存 在 す る か を 明 ら か に し 、 治 療 や リ ハ ビ リ テ ー シ ョ ン の 方 策 を 決 定 す る こ と であ る 。 か つ て 高 次 脳 機 能 障 害 の 存 在 は 原 因 脳 疾 患 の 診 断 お よ び 病 変 部 位 の 同 定 の た め の 有力 な 手 が か り で あ っ た 。 現 在 で も 認 知 症 な ど の よ う に 高 次 脳 機 能 障 害 が 診 断 の 有 力 な 手 がか り と な る 脳 疾 患 も あ る 。 し か し 大 部 分 の 症 例 で は 、 原 因 疾 患 の 診 断 や 病 変 部 位 の 同 定 は画 像 解 析 、 神 経 学 的 検 査 、 生 化 学 的 検 査 な ど の 所 見 に 基 づ い て 行 わ れ る 。 現 代 の 神 経 心 理学 的 評 価 は 脳 疾 患 の 診 断 よ り も 高 次 脳 機 能 障 害 の 存 否 の 診 断 お よ び そ の 治 療 や リ ハ ビ リ テー シ ョ ン の た め の 情 報 を 収 集 す る こ と を 目 的 と し て 行 わ れ る 。 残 念 な が ら 、 現 時 点 で は 高次 脳 機 能 障 害 の 治 療 や リ ハ ビ リ テ ー シ ョ ン の た め の 十 分 効 果 的 な 方 法 が 確 立 さ れ て い る とは 言 い 難 い が 、 神 経 心 理 学 的 評 価 は 患 者 の 「 生 活 の 質 」 の 向 上 、 す な わ ち 患 者 の 健 康 状 態の 回 復 や 社 会 復 帰 に 役 立 つ デ ー タ の 収 集 で あ る こ と を 常 に 念 頭 に お い て 行 う こ と が 重 要 であ る 。 こ の 目 的 を 達 成 す る た め に は 、 単 に 高 次 脳 機 能 の 障 害 が あ る か ど う か 、 ど の 程 度 の障 害 ・ 異 常 で あ る か を 評 価 す る だ け で は 不 十 分 で あ る 。 高 次 脳 機 能 障 害 に よ っ て 患 者 の 日常 生 活 が ど の よ う な 影 響 を 受 け る か を 評 価 す る こ と も 重 要 で あ る 。 学 業 や 職 業 を 継 続 出 来る の か 。 家 族 は 患 者 に ど の よ う に 対 処 す べ き か 。 介 護 保 険 、 障 害 年 金 な ど の 公 的 援 助 の 対象 と な る か 。 こ れ ら の 点 に つ い て 適 切 な 判 断 を す る た め の 情 報 を 収 集 す る こ と は 神 経 心 理学 的 評 価 の 重 要 な 目 的 で あ る 。 2-1

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神 経 心 理 学 的 評 価 の 第 二 の 目 的 は 高 次 脳 機 能 の 神 経 機 構 の 解 明 で あ る 。 心 理 学 の 目 的が 「 こ こ ろ 」 の 解 明 に あ る と す れ ば 、 神 経 心 理 学 は 脳 疾 患 に 伴 う 高 次 脳 機 能 障 害 の 解 析 を通 し て こ の 目 的 に 貢 献 す る こ と が 可 能 で あ る 。 こ れ に は 、 1 ) 脳 各 領 野 の 機 能 局 在 の 解 析 。 高 次 脳 機 能 障 害 の 臨 床 症 状 と そ の 責 任 病 巣 と の 対 応 関 係 を 明 ら か に す る 。 2 ) 高 次 脳 機 能 の 心 理 学 機 序 の 解 析 。 高 次 脳 機 能 障 害 の 解 析 を 通 じ て 健 常 者 に お い て 高 次 脳 機 能 が ど の よ う な 機 序 で 営 ま れ る か を 明 か に す る 。 の 二 つ の ア プ ロ ー チ が あ る 。 両 者 の 役 割 は 多 少 異 な る 。 前 者 の 役 割 は 高 次 脳 機 能 障 害 を発 現 さ せ る 病 理 解 剖 学 的 並 び に 病 態 生 理 学 的 過 程 を 明 ら か に す る こ と で あ り 、 後 者 は メ ンタ ル ・ ア ー キ テ ク チ ャ ー の 構 成 と 妥 当 性 の 検 証 で あ る 。 前 者 は 神 経 心 理 学 の 伝 統 的 ア プ ロー チ で あ り 、 次 項 で 詳 細 に 検 討 す る 。 後 者 は 1970 年代の認知心理学の発展と共に神経心理 学 に 導 入 さ れ た ア プ ロ ー チ で あ る 。 認 知 心 理 学 で は 、 ヒ ト を コ ン ピ ュ ー タ と 同 じ よ う に入 力 情 報 を い く つ か の 情 報 処 理 過 程 を 経 て 出 力 す る 情 報 処 理 系 と み な し 、 ど の よ う な 情 報処 理 過 程 が あ る か を モ デ ル 化 す る 試 み が な さ れ る 。 こ の 情 報 処 理 モ デ ル を メ ン タ ル ・ ア ーキ テ ク チ ャ ー と い う 。 メ ン タ ル ・ ア ー キ テ ク チ ャ ー の 当 否 を ど の よ う に 判 断 す る か 。 通 常の 心 理 学 的 研 究 方 法 で は 観 察 出 来 る の は 出 力 だ け で あ る 。 中 間 の 情 報 処 理 過 程 に つ い て は違 い が あ っ て も 出 力 に 違 い の な い メ ン タ ル ・ ア ー キ テ ク チ ャ ー が 複 数 提 案 さ れ た 場 合 、 いず れ が 妥 当 で あ る か 判 断 す る こ と は 困 難 で あ る 。 脳 損 傷 者 の 場 合 、 損 傷 さ れ た 領 野 が 異 なれ ば 障 害 さ れ る 情 報 処 理 過 程 も 異 な る と 予 想 さ れ る 。 各 メ ン タ ル ・ ア ー キ テ ク チ ャ ー か ら脳 の 特 定 領 野 の 損 傷 に よ り ど の 高 次 脳 機 能 の ど の 情 報 処 理 過 程 が 障 害 さ れ る か 、 そ れ に より ど の よ う な 症 状 が 生 じ る か を 予 想 す る 。 予 想 と 実 際 の 症 状 が 一 致 し た メ ン タ ル ・ ア ー キテ ク チ ャ ー は 妥 当 性 が 高 い と 判 断 さ れ る 。従 来 の 神 経 心 理 学 で は 、ま ず 患 者 の 症 状 を 観 察 し 、 そ の 死 後 病 変 部 位 を 確 認 し て 両 者 の 対 応 関 係 を 検 討 し た 。こ れ は 帰 納 的 ア プ ロ ー チ で あ る 。 現 代 の 神 経 心 理 学 で は 、 ま ず 脳 損 傷 に よ っ て 生 じ る 高 次 脳 機 能 障 害 に つ い て 仮 説 を た て、 そ の 妥 当 性 を 症 例 研 究 に よ っ て 検 証 す る 。 こ れ は 仮 説 ・ 演 繹 的 ア プ ロ ー チ で あ る 。 現 代の 神 経 心 理 学 に お け る 症 例 研 究 は 仮 説 検 証 の 場 で も あ る 。 以 上 、 便 宜 的 に 神 経 心 理 学 に お け る 症 例 研 究 の 目 的 を 二 つ に 分 け て 論 じ た が 、 実 際 の症 例 研 究 で は 両 者 は 密 接 に 関 連 し あ っ て い る 。 科 学 研 究 の 目 的 は 現 象 の 予 測 と 制 御 で あ る。 か つ て は「 こ の 患 者 に は 失 語 が あ る 」「 こ の 患 者 の 視 覚 失 認 の 責 任 病 巣 は 左 後 頭 葉 で あ る 」 と 診 断 す れ ば 神 経 心 理 学 者 の 仕 事 は 終 わ り で あ っ た 。 現 在 で は 失 語 に 対 す る 言 語 治 療 をは 2-2

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じ め と し て 様 々 の 高 次 脳 機 能 障 害 を 対 象 と し た リ ハ ビ リ テ ー シ ョ ン の 試 み が な さ れ て い る。 ア ル ツ ハ イ マ ー 型 認 知 症 に 対 す る 薬 物 治 療 も 始 め ら れ た 。 効 率 的 な 治 療 や リ ハ ビ リ テ ーシ ョ ン を 行 う に は 高 次 脳 機 能 障 害 が ど の よ う な 機 序 に よ っ て 生 じ て く る の か を 解 明 す る こと が 極 め て 重 要 で あ る 。 現 代 の 神 経 心 理 学 に お け る 予 測 と 制 御 と は 高 次 脳 機 能 障 害 の 機 序の 解 明 と 患 者 の 生 活 の 質 の 向 上 で あ る 。 1 . 2 高 次 脳 機 能 の 機 能 局 在 : 臨 床 解 剖 学 的 ア プ ロ ー チ 前 述 の ご と く 、 神 経 心 理 学 に お け る 症 例 研 究 の 重 要 な 目 的 は 高 次 脳 機 能 障 害 を 発 現 させ る 病 理 解 剖 学 的 並 び に 病 態 生 理 学 的 過 程 を 明 ら か に す る こ と で あ る 。 前 章 で 詳 し く 述 べた よ う に 、 神 経 心 理 学 は 失 語 の 研 究 に 端 を 発 す る 。 ブ イ ヨ や ブ ロ ー カ は 患 者 の 臨 床 症 状 を詳 し く 観 察 し 、 患 者 の 死 後 そ の 脳 を 解 剖 し て そ の 病 変 部 位 を 確 認 し 、 両 者 の 対 応 関 係 を 検討 し た 。 そ し て 前 頭 葉 に 損 傷 が あ る 患 者 で は 言 語 表 出 に 障 害 が あ る が 、 他 の 領 野 の 損 傷 はあ る が 前 頭 葉 に 損 傷 が な い 患 者 で は 言 語 表 出 が 障 害 さ れ な い こ と か ら 、 言 語 表 出 は 前 頭 葉の 機 能 で あ る と 結 論 し た 。 こ の 症 状 と 脳 損 傷 部 位 と の 対 応 関 係 を 明 か に す る 研 究 方 法 を 臨床 解 剖 学 的 ア プ ロ ー チ と い う 。こ の ア プ ロ ー チ は「 解 離(dissociation)」という考え方を背 景 に し て い る 。 解 離 に は 「 単 純 解 離 」 と 「 二 重 解 離 」 が あ る 。 あ る 脳 の 領 野 X の 損 傷 で 高 次 脳 機 能 Fに 関 係 す る 課 題 T1は 障 害 さ れ る が 、高 次 脳 機 能 F2に 関 係 す る 課 題 T2は 障 害 さ れ な い 場 合 、 単 純 解 離 と い う 。 こ れ は 一 見 X が F1に 関 係 し F2に は 関 係 し な い こ と を 意 味 す る よ う に 見 え る 。 し か し 、 T1と T2は 課 題 の 難 易 度 が 異 な り 、T1は 難 し い 課 題 で あ る た め X の 損 傷 で 障 害 さ れ た が 容 易 な 課 題 T2は 障 害 さ れ な か っ た 可 能 性 も あ る 。 単 純 解 離 で は X と T1さ ら に は F1と が 関 連 が あ る と は 言 え な い 。 も う 一 つ の 単 純 解 離 は 領 野 X の 損 傷 で は T1が 障 害 さ れ 領 野 Y の 損 傷 で は T1が 障 害 さ れ な い 場 合 で あ る 。 上 記 ブ ロ ー カ の 推 論 は そ の 具 体 例 で あ る 。 こ の 場 合 、 T1の 障 害 は よ り 一 般 的 な 機 能 ( 例 え ば 一 般 知 能 や 意 識 ) や 要 素 的 機 能 ( 例 え ば 筋 力 や 感 覚 機 能 ) の 障害 に よ っ て 生 じ た と い う 解 釈 も 成 立 す る 。 実 際 、 前 述 の ご と く 、 マ リ ー は ブ ロ ー カ の 症 例の 言 語 障 害 は 一 般 知 能 障 害 に よ る 二 次 的 な も の で あ る と 主 張 し た 。 こ の よ う に 単 純 解 離 だ け で は 高 次 脳 機 能 の 機 能 局 在 を 確 定 出 来 な い 。 そ こ で 単 純 解 離 に 代 わ っ て 提 出 さ れ た 概 念 が 二 重 解 離 で あ る 。領 野 X の 損 傷 で T1が 障 害 さ れ る が T2は 障 害 さ れ な い 。領 野 Y の 損 傷 で は T1は 障 害 さ れ ず T2が 障 害 さ れ る 。二 重 解 離 と は こ の 両 条 件 が 同 時 に 成 立 こ と で あ る 。こ の 場 合 、T1と T2は 課 題 の 難 易 度 が 異 な る と は 言 え な い 。何 2-3

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故 な ら T1が よ り 困 難 な 課 題 で あ る な ら 常 に T2よ り 強 く 障 害 さ れ る は ず で あ る が 、実 際 は そ う で は な い か ら で あ る 。ま た 、T1と T2の 障 害 が 一 般 知 能 障 害 や 要 素 的 機 能 障 害 に よ っ て 生 じ た の で は な い こ と も 明 ら か で あ る 。 も し そ う で あ る な ら 両 者 の 障 害 の 程 度 に 正 の相 関 が 認 め ら れ る は ず で あ る が 、 二 重 解 離 の 場 合 に は 負 の 相 関 と な る 。 す な わ ち 二 重 解 離の 原 則 が 成 立 す れ ば X の 損 傷 は T1を 障 害 し 、Y は T2を 障 害 す る と 結 論 出 来 る 。こ の こ と を 敷 衍 す れ ば 、 X は Tの 背 景 に あ る Fに 欠 く べ か ら ざ る 領 野 で あ り 、 Y は Tの 背 景 に あ る F2に 欠 く べ か ら ざ る 領 野 で あ る と 言 え る 。 臨 床 解 剖 学 的 ア プ ロ ー チ に お け る 高 次 脳 機 能 の 機 能 局 在 と は こ の こ と を 意 味 す る 。 図 2 - 1 は 左 大 脳 半 球 損 傷 者 群 と 右 大 脳 半 球 損 傷 者 群 に 言 語 性 知 能 検 査 と 視 覚 認 識 性 知 能 検 査 を 実 施 し た 結 果 で あ る 。 縦 軸 は 知 能 指 数 (I Q )で 健 常 者 の 平 均 が 100 と な る よ う 基 準 化 し て あ る 。 こ の 図 は 典 型 的 な 二 重 解 離 を 示 し て い る 。 左 大 脳 半 球 損 傷 者 群 で は 言 語性 I Q は 低 下 し て い る が 視 覚 認 識 性 I Q は 低 下 し て い な い 。逆 に 、右 大 脳 半 球 損 傷 者 群 で は 、 言 語 性 I Q は 低 下 し て い な い が 視 覚 認 識 性 I Q は 低 下 し て い る 。 こ の 結 果 は 左 大 脳 半 球損 傷 が 言 語 機 能 を 障 害 し 、右 大 脳 半 球 損 傷 が 視 覚 認 識 機 能 を 障 害 す る こ と 明 瞭 を 示 し て い る 。 図 2 - 1 左 右 大 脳 半 球 損 傷 群 の 知 能 検 査 結 果 二 重 解 離 の 原 則 は 1955 年アメリカの心理学者チューバーによって提唱され、以後神経 心 理 学 に お い て 高 次 脳 機 能 の 脳 局 在 を 証 明 す る た め の 「 絶 対 的 基 準 (golden standard)」 と な っ た 。 2-4

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症 例 研 究 に 二 重 解 離 の 原 則 を 適 用 す る 場 合 、 用 い ら れ る 課 題 は 困 難 度 が 等 し い 必 要 が あ る 。 し か し 困 難 度 が 等 し い 課 題 を 準 備 す る こ と ( あ る い は 困 難 度 が 等 し い こ と を 証 明 する こ と ) は 実 際 上 非 常 に 困 難 で あ る 。 そ こ で 、 通 常 は 年 齢 や 社 会 経 済 的 背 景 等 が 脳 損 傷 患者 と 等 し い 健 常 者 に 課 題 を 遂 行 さ せ 、 患 者 の 成 績 を 健 常 者 の 成 績 で 基 準 化 す る 方 法 が 用 いら れ る 。 各 課 題 に お い て 、 患 者 の 成 績 をx、 健 常 者 の 平 均 値 をm、 標 準 偏 差 を σ と す る と、 患 者 の 標 準 得 点zは 次 式 で 定 義 さ れ る 。 z= 10(m-x)/σ +100 課 題 間 で 標 準 得 点 を 比 較 す る こ と に よ り 障 害 程 度 を 比 較 す る こ と が 出 来 る 。 図 2 - 1 に示 し た デ ー タ は そ の 具 体 例 で あ る 。 課 題 が 同 じ で も 、 刺 激 属 性 に よ っ て 障 害 程 度 が 異 な る 形 で 二 重 解 離 が 認 め ら れ る 場 合 も あ る 。 伝 導 失 語 と い う 失 語 類 型 が あ る1。 伝 導 失 語 で は 、 他 の 課 題 に 比 し て 復 唱 が 特 に 障 害 さ れ る 。 6 例 の 伝 導 失 語 を 対 象 と し て 、 復 唱 す べ き 語 が 有 意 味 語 か 無 意 味 語 か に よ って 成 績 が 異 な る か ど う か を 検 討 し た 。 結 果 は 図 2 - 2 に 示 す ご と く で あ っ た 。 有 意 味 語 より 無 意 味 語 で 正 答 率 が 高 い 症 例 と 逆 に 無 意 味 語 よ り 有 意 味 語 で 正 答 率 が 高 い 症 例 が い る こと が 判 る 。 刺 激 属 性 の 違 い が 二 重 解 離 を 生 じ さ せ た の で あ る 。 病 変 部 位 を 検 討 す る と 、 有意 味 語 で 正 答 率 が 低 い 症 例 で は 頭 頂 ・ 側 頭 葉 領 野 に 損 傷 が あ り 、 無 意 味 語 で 正 答 率 が 低 い症 例 で は 前 頭 葉 領 野 に 損 傷 が 認 め ら れ た 。 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 1 2 3 4 5 6 症例 正答率 有意味語 無意味語 図 2 - 2 語 の 有 意 味 度 と 復 唱 正 答 率 1 第 6 章 参 照 。 2-5

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1 . 3 機 能 局 在 の 単 位 : モ ジ ュ ー ル 前 述 の ご と く 、 ク ラ イ ス ト は 徹 底 的 な 脳 局 在 論 者 で あ り 、 話 す 、 聞 く 、 読 む 、 書 く など の 言 語 機 能 を は じ め 、 認 識 、 行 為 、 記 憶 さ ら に は 道 徳 心 や 信 仰 心 ま で 脳 の 特 定 領 野 に 局在 す る と 考 え た ( 図 1 - 5 ) 。 ク ラ イ ス ト は 極 端 な 例 で あ る が 、 か つ て の 脳 局 在 論 者 の 多く は 言 語 機 能 で あ れ ば 「 語 を 話 す 」 「 語 を 書 く 」 の よ う な 課 題 、 視 覚 的 認 識 で あ れ ば 「 顔」 「 色 彩 」 の よ う な 対 象 を 機 能 局 在 の 単 位 と 考 え て い た 。 「 語 を 話 す 」 こ と と 「 語 を 書 く」 こ と は 別 の 課 題 で あ る か ら 当 然 異 な る 脳 の 領 野 が そ の 機 能 を 担 っ て い る と 考 え 、 「 発 話中 枢 」 や 「 書 字 中 枢 」 を 想 定 し た の で あ る 。 こ の 考 え 方 は ち ょ っ と お か し く は な い か 。 例 え ば 文 字 を 知 ら な い 個 人 も 当 然 存 在 す る 。 こ の 人 達 の 「 書 字 中 枢 」 は ど ん な 機 能 を 担 っ て い る の か 。 書 字 中 枢 は 例 え ば 感 覚 情 報 を運 動 情 報 に 変 換 す る 機 能 を 担 っ て お り 、情 報 が 文 字 で あ る 場 合 書 字 と い う 運 動 に 変 換 さ れ る 。 局 在 の 単 位 は 課 題 や 対 象 で は な く 、 課 題 を 遂 行 す る あ る い は 対 象 に 何 ら か の 働 き か け を行 う 「 情 報 処 理 過 程 」 と す べ き で あ ろ う 。 こ こ で 現 代 の 神 経 心 理 学 に お け る 機 能 局 在 を 考え る 上 で 極 め て 重 要 な 概 念 「 モ ジ ュ ー ル 」 が 登 場 す る 。 モ ジ ュ ー ル(module)とは本来「単位」という意味であり、工学では一定の機能を遂行 す る い く つ か の 下 位 機 能 を 集 め た ま と ま り の あ る 機 能 を 持 っ た 部 品 を 意 味 す る 。 全 体 的な シ ス テ ム は い く つ か の モ ジ ュ ー ル か ら 構 成 さ れ る が 、 そ の 組 み 合 わ せ を 変 え る こ と に よっ て 様 々 な 機 能 を 持 つ シ ス テ ム を 作 る こ と が 可 能 と な る 。 神 経 科 学 に モ ジ ュ ー ル の 概 念 を導 入 し た の は フ ォ ー ダ ー で あ る 。 時 期 は 1980 年代初頭である。彼によれば、モジュールは 遺 伝 的 に 規 定 さ れ た 入 力 過 程 や 出 力 過 程 に 固 有 の 情 報 処 理 機 構 で あ り 、 脳 の 特 定 領 野 に局 在 す る 。 モ ジ ュ ー ル は 反 射 的 自 動 的 に 機 能 し 、 そ の 内 容 が 意 識 さ れ る こ と は 殆 ど な い 。聴 覚 、 視 覚 、 運 動 な ど の モ ジ ュ ー ル が あ る 。 そ れ に 対 し 、 記 憶 、 問 題 解 決 、 推 理 な ど は 固有 の モ ジ ュ ー ル で は な く 、 脳 の 特 定 領 野 に 局 在 し て い な い 。 こ の モ ジ ュ ー ル 概 念 は そ の 後 多 く の 神 経 心 理 学 者 に 受 け 入 れ ら れ 、更 に 発 展 さ せ ら れ た 。 現 代 の 神 経 心 理 学 で は 、 入 力 過 程 、 出 力 過 程 の み な ら ず あ ら ゆ る 情 報 処 理 の 基 本 が モ ジュ ー ル で あ り 、 各 モ ジ ュ ー ル が 脳 の 特 定 領 野 に 局 在 す る と 考 え る 。 ま た モ ジ ュ ー ル は フ ォー ダ ー が 考 え た よ う に 全 て 遺 伝 的 に 規 定 さ れ て は お ら ず 、 発 達 の 過 程 で 種 々 の モ ジ ュ ー ルが 生 じ て 来 る と 考 え ら れ て い る 。 言 語 、 行 為 、 記 憶 な ど の 高 次 脳 機 能 は 複 数 の モ ジ ュ ー ルの 組 み 合 わ せ に よ っ て 営 ま れ る 。 例 え ば 「 音 韻 情 報 を 構 音 運 動 に 変 換 す る モ ジ ュ ー ル 」 を考 え る 。 こ れ は 種 々 の 音 声 を 話 す た め に 口 、 舌 、 喉 頭 、 咽 頭 な ど の 筋 肉 を 動 か す 命 令 を 発す 2-6

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る モ ジ ュ ー ル で あ り 、 「 構 音 モ ジ ュ ー ル 」 と 呼 ぶ こ と に す る 。 構 音 モ ジ ュ ー ル は 他 の モジ ュ ー ル と 共 同 で 作 動 す る こ と に よ り 様 々 な 高 次 脳 機 能 を 遂 行 す る 。 文 構 成 の モ ジ ュ ー ルと 共 同 す る こ と に よ り 自 発 発 話 が 生 じ 、 音 声 受 容 モ ジ ュ ー ル と 共 同 す る こ と に よ り 復 唱 がな さ れ る 。 従 っ て 、 構 音 モ ジ ュ ー ル が 障 害 さ れ れ ば 、 自 発 発 話 、 復 唱 な ど 様 々 の 高 次 脳 機能 が 障 害 さ れ る こ と に な る 。 古 典 局 在 論 に お け る 「 〇 〇 中 枢 」 と 現 代 の 「 〇 〇 モ ジ ュ ー ル」 は ど こ が 違 う か 。 あ る 症 状 、 例 え ば 発 話 障 害 が あ れ ば そ れ に 対 応 し て 「 発 話 中 枢 」 が ある と 考 え る 。 こ れ が 古 典 局 在 論 で あ る 。 現 代 で は 、 症 状 の 成 立 機 序 を 詳 細 に 検 討 す る 。 そこ で 明 ら か に さ れ た 機 序 に 対 し て 「 〇 〇 モ ジ ュ ー ル 」 を 想 定 す る こ と に な る 。 各 症 状 固 有の モ ジ ュ ー ル が 想 定 さ れ る 場 合 も あ る 。 上 記 の 構 音 モ ジ ュ ー ル の よ う に い く つ か の 症 状 に共 通 す る モ ジ ュ ー ル が 想 定 さ れ る 場 合 も あ る 。 ど の よ う な モ ジ ュ ー ル が 存 在 す る か 、 各 モジ ュ ー ル が 障 害 さ れ た 場 合 ど の よ う な 症 状 が 生 じ る か を 明 ら か に す る こ と が 現 代 の 神 経 心理 学 の 課 題 と な る 。 1 . 4 機 能 系 第 1 章 で 述 べ た よ う に 、1970 年代以降数々の画像解析技法が開発された(詳細は次節参 照 ) 。 こ れ ら の 技 法 を 用 い る こ と に よ り 、 課 題 遂 行 時 の 「 健 常 な 脳 」 の 活 動 を 評 価 す るこ と が 可 能 に な っ た 。 そ の 結 果 、 殆 ど の 場 合 、 高 次 脳 機 能 関 連 課 題 遂 行 時 に 活 動 性 増 大 を示 す 領 野 は そ の 損 傷 に よ っ て 当 該 高 次 脳 機 能 障 害 を も た ら す 領 野 と 同 一 で あ る こ と が 確 認さ れ た 。 ブ ロ ー カ は 左 前 頭 葉 に 言 語 表 出 の 中 枢 が あ る と 主 張 し た 。 実 際 、 言 語 表 出 時 左 前頭 葉 の 活 動 性 が 増 大 す る こ と は 健 常 者 を 対 象 と し た 実 験 で 確 認 さ れ た 。 し か し 、 同 時 に 言語 表 出 時 活 動 性 増 大 を 示 す 領 野 は 左 前 頭 葉 に 限 局 さ れ な い こ と も 明 ら か に さ れ た 。 イ ン ダー フ ェ イ ら は1999 年までに報告された音声表出時の脳活動性に関する 32 件の研究報告の結 果 を 次 の よ う に 要 約 し て い る 。 1 ) 左 前 頭 葉 で は 32 件中 22 件で、右前頭葉では 32 件中 2 件で活動性増大が認められ た 。 2 )左 側 頭 葉 で は 32 件中 20 件で、右側頭葉では 32 件中 12 件で活動性増大が認められ た 。 3 )左 頭 頂 葉 で は 32 件中 4 件で、右頭頂葉では 32 件中 3 件で活動性増大が認められた。 4 ) 左 後 頭 葉 で は 32 件中 11 件で、右後頭葉では 32 件中 5 件で活動性増大が認められ 2-7

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た 。 す な わ ち 脳 の か な り 広 範 な 領 野 が 言 語 表 出 に 関 与 し て い る 。 古 典 局 在 論 は そ の ま ま の 形で は 成 立 し な い こ と は 明 ら か で あ る 。 脳 の 機 能 局 在 に 関 す る 新 た な 理 論 的 枠 組 み が 必 要 とな っ た 。 そ こ で 登 場 し た の が 機 能 系 の 概 念 で あ る 。 常 識 的 に 考 え て も 、 言 語 や 記 憶 の よ う な 複 雑 な 高 次 脳 機 能 が 脳 の 限 局 さ れ た 領 野 の み で 営 ま れ て い る は ず が な い 。 そ こ で 次 の 考 え 方 が 提 案 さ れ た 。 特 定 の 高 次 脳 機 能 の 遂 行 には 様 々 の 領 野 が 関 与 し て い る が 、 領 野 に よ っ て 関 与 の 仕 方 が 異 な る 。 多 数 の 領 野 の 活 動 が統 合 さ れ て 高 次 脳 機 能 が 営 ま れ る 。 こ の 特 定 の 高 次 脳 機 能 に 関 与 す る 領 野 全 体 を 機 能 系 と呼 ぶ 。 最 も よ く 知 ら れ て い る 機 能 系 は 記 憶 に 関 す る ペ ー プ ス の 回 路 で あ る ( 図 2 - 3 ) 。類 似 の モ デ ル は 様 々 な 高 次 脳 機 能 に つ い て 提 案 さ れ て お り 、 そ の 詳 細 に つ い て は 以 下 の 各章 で 検 討 す る 。 図 2 - 3 ペ ー パ ス の 記 憶 機 能 系 当 初 、 ペ ー ペ ス の 回 路 は 帯 状 回 、 視 床 前 核 、 乳 頭 体 、 海 馬 よ り 構 成 さ れ 、 情 動 に 関 す る機 能 系 と し て 提 案 さ れ た 。 後 に 新 皮 質 、 視 床 下 部 、 扁 桃 体 な ど を 含 む 記 憶 に 関 す る 機 能 系と し て 理 解 さ れ る よ う に な っ た 。 詳 細 は 第 1 1 章 参 照 。 2-8

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高 次 脳 機 能 を 心 理 学 的 概 念 、 モ ジ ュ ー ル を 生 理 学 的 概 念 、 機 能 系 を 解 剖 学 的 概 念 、 と 見 る と 、 健 常 者 に お け る 高 次 脳 機 能 の 機 能 局 在 は 次 の よ う に な る 。 そ れ ぞ れ の 機 能 系 で 営ま れ る 種 々 の モ ジ ュ ー ル の 活 動 が 統 合 さ れ て 高 次 脳 機 能 と し て 発 現 す る 。 前 述 し た メ ン タ ル ・ ア ー キ テ ク チ ャ ー は 本 来 心 理 学 的 概 念 で あ る が 、 神 経 心 理 学 か ら 見 れ ば 、 機 能 系 、モ ジ ュ ー ル 、 高 次 脳 機 能 、 の 三 者 の 関 連 性 に 関 す る モ デ ル と し て 措 定 さ れ る 。 1 . 5 場 所 局 在 論 と 位 相 局 在 論 実 は 、 今 述 べ た 機 能 系 の 考 え は 神 経 心 理 学 に お い て 目 新 し い も の で は な い 。 神 経 心 理 学 の 黎 明 期 に お い て 、 機 能 系 の 考 え は 既 に 明 瞭 に 示 さ れ て い る 。 ウ ェ ル ニ ッ ケ の 失 語 模 式図 ( 図 1 - 2 ) を 見 て み よ う 。 彼 は 複 数 の 言 語 中 枢 を 想 定 し 、 そ れ ら 中 枢 間 の 相 互 作 用 によ っ て 言 語 機 能 が 営 ま れ る と 考 え た 。 ウ ェ ル ニ ッ ケ は 言 能 に 関 す る 機 能 系 の 概 念 を 明 瞭 に持 っ て い た の で あ る 。 と こ ろ で 、 ウ ェ ル ニ ッ ケ の モ デ ル で も う 一 つ 注 目 す べ き 点 が あ る 。 彼 は 言 語 中 枢 の 損 傷 だ け で は な く 、 中 枢 間 の 線 維 連 絡 に よ っ て も 失 語 が 生 じ る と 考 え た 。 こ の 考 え を 積 極 的に 拡 大 し た の が ゲ シ ュ ヴ ィ ン ド で あ る 。彼 は 、1965 年の論文において、神経心理学的症状は 大 脳 皮 質 領 野 間 の 線 維 連 絡 の 離 断 に よ り 生 じ る と 考 え 、「 離 断 症 候 群 」の 考 え を 提 唱 し た 。 ウ ェ ル ニ ッ ケ の 時 代 は も ち ろ ん ゲ シ ュ ヴ ィ ン ド の 論 文 が 発 表 さ れ た 当 時 も 個 々 の 症 例 に つ い て 皮 質 領 野 の 損 傷 な の か 領 野 間 の 線 維 連 絡 の 離 断 な の か を 実 証 す る 方 法 は 存 在 し なか っ た 。従 っ て 、彼 ら の 考 え は あ く ま で も 仮 説 に 止 ま っ て い た 。次 節 で 詳 し く 述 べ る よ う に 、 近 年 に お け る 画 像 解 析 技 法 の 発 展 は 著 し く 、 領 野 間 の 連 絡 線 維 の 走 行 や そ の 損 傷 を 画 像化 す る こ と が 可 能 に な っ た 。 そ の 結 果 、 神 経 心 理 学 的 症 状 が 実 際 に 領 野 間 の 線 維 連 絡 の 離断 に よ っ て 生 じ る こ と が 明 ら か に な っ て き た 。模 式 的 に 表 現 す れ ば 、神 経 心 理 学 的 症 状 は「 皮 質 領 野 の 損 傷 」 で は な く 「 皮 質 領 野 間 の 線 維 連 絡 の 損 傷 」 に 起 因 す る 。 カ タ ニ ら は 前 者を 「 場 所 局 在 論 」 、 後 者 を 「 位 相 局 在 論 」 と 呼 び 、 位 相 局 在 論 か ら の ア プ ロ ー チ の 重 要 性を 強 調 し た ( 図 2 - 4 参 照 ) 。 ウ ェ ル ニ ッ ケ に よ っ て 提 唱 さ れ た 考 え は 百 数 十 年 の 時 を 経 て や っ と 実 証 的 研 究 の 対 象 と な っ た の で あ る 。 神 経 心 理 学 の 歩 み の 遅 さ を 感 じ ざ る を 得 な い 。 反 面 、 ウ ェ ル ニ ッ ケ の慧 眼 に 改 め て 驚 か さ れ る 。 2-9

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図 2 - 4 臨 床 解 剖 学 的 研 究 に お け る 場 所 論 的 ア プ ロ ー チ と 位 相 論 的 ア プ ロ ー チ の 違 い 場 所 局 在 論 的 ア プ ロ ー チ ( A ) で は 、 同 じ 神 経 心 理 学 的 症 状 を 示 す 4 人 の 患 者 ( 1 、 2、 3 、 4 ) に 共 通 す る 損 傷 領 野 ( b ) を そ の 症 状 の 責 任 病 巣 と 見 な す 。 位 相 論 的 ア プ ロ ーチ ( B ) で は 、 4 人 全 員 で 損 傷 さ れ て い る A ― C 間 の 連 絡 線 維 の 損 傷 に よ っ て 当 該 の 症 状が 生 じ た と 考 え る 。 2 . 画 像 解 析 2 . 1 主 要 な 画 像 解 析 技 法 神 経 心 理 学 に お け る 画 像 解 析 研 究 の 歴 史 的 経 緯 に つ い て は 第 1 章 で 簡 単 に 触 れ た 。 画 像 解 析 に は 主 と し て 脳 の 形 態 を 解 析 す る 形 態 画 像 解 析 と 機 能 を 解 析 す る 機 能 画 像 解 析 が あ る。 現 在 こ の 分 野 は 発 展 著 し く 、 新 し い 撮 像 技 法 や 得 ら れ た 画 像 の 高 度 の 処 理 技 法 が 次 々 と開 発 さ れ つ つ あ る 。 こ こ で は 方 法 論 が 確 立 さ れ て お り 、 研 究 報 告 も 多 い 画 像 解 析 技 法 を 紹介 す る 。 形 態 画 像 解 析 技 法 と し て は コ ン ピ ュ ー タ 断 層 撮 影 お よ び 磁 気 共 鳴 画 像 、 機 能 画 像解 析 技 法 と し て は 陽 電 子 断 層 撮 影 法 、 単 一 フ ォ ト ン 断 層 撮 影 法 、 機 能 的 核 磁 気 共 鳴 、 脳 磁図 お よ び 脳 波 を 取 り 上 げ る 。 2 . 1 . 1 コンピュータ断層撮影(CT) CT(computed tomography) は、通 常のX線画 像と同じよ うに、身体 を通過した X 線 を 検 出 器 で 捉 え て 画 像 化 す る 方 法 で あ る 。 通 常 の X 線 撮 影 で は X 線 は 一 つ の 方 向 か ら のみ 照 射 さ れ る 。CT では様々な方向からX線が照射される。X線の吸収率(通りにくさ)は 組 織 に よ っ て 異 な り 、吸 収 率 が 高 い 組 織( 骨 な ど )は 白 く 表 示 さ れ 、吸 収 率 の 低 い 組 織( 内 2-10

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臓 な ど ) は 黒 く 表 示 さ れ る 。 X 線 が ど の 方 向 か ら 照 射 さ れ る か に よ っ て 得 ら れ る 画 像 は異 な っ て 来 る 。 影 絵 で 光 を 当 て る 方 向 が 異 な る と 陰 が 違 っ て 見 え る の と 同 じ 原 理 で あ る 。多 数 の 検 出 器 か ら 得 ら れ た X 線 吸 収 率 を 基 に 方 程 式 を 立 て こ れ を 解 く と 身 体 を 輪 切 り に した 画 像 ( 断 層 画 像 ) が 得 ら れ る 。 こ れ が CT である(図2-5)。 図 2 - 5 脳 の CT 画像 CT は 1971 年イギリス EMI 社のハウンスフィールドによって開発された。従来の方法 で は 画 像 化 し 得 な か っ た 脳 血 管 障 害 や 脳 腫 瘍 に よ る 脳 内 の 変 化 が 映 像 化 さ れ た こ と は 医学 の 世 界 に 極 め て 大 き い 衝 撃 を 与 え た 。 そ れ か ら30 年余りが経過して CT は大きく進歩した。その一つは撮影速度の向上である。 CT では「被検者は撮影中動かない」という前提で計算をする。CT 画像を得るための計算 は 被 検 者 を 様 々 の 方 向 か ら 同 時 に 撮 影 し た デ ー タ を 基 に 画 像 を 再 構 成 す る 手 続 き で あ るか ら 、 撮 影 中 に 被 検 者 が 動 く と 再 構 成 画 像 が 乱 れ て し ま う 。 こ れ に 対 し て は 、 走 査 中 に 呼吸 を 止 め る な ど の 努 力 で あ る 程 度 の 解 決 が 計 ら れ て き た が 、 心 臓 や 消 化 器 官 な ど 意 識 的 に動 き を 止 め る こ と が 出 来 な い 臓 器 に 関 し て は 適 用 に 限 界 が あ っ た 。 そ の 解 決 策 の 一 つ が X線 を 電 気 的 に ス キ ャ ン さ せ る タ イ プ の 超 高 速 CT の出現である。また、一時に複数の画像を 撮 影 す る マ ル チ ス ラ イ ス CT も開発された。これらの方法により1秒から数秒程度で多量 の 断 層 画 像 が 得 ら れ る よ う に な っ た 。 も う 一 つ の 発 展 は 解 像 度 の 向 上 で あ る 。 通 常 の CT では、1回の撮影で得られるのは数 2-11

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ミ リ メ ー ト ル な い し 1 センチメートルの厚さの一断面であり、大きな臓器全体についての 情 報 を 得 る た め に は 、 一 断 面 ず つ ず ら し な が ら 繰 り 返 し デ ー タ 取 得 を 行 な っ て い た 。 これ に は 複 数 回 の 走 査 が 必 要 と な る た め 、 撮 影 に は 十 数 分 以 上 と い う 相 当 の 時 間 を 必 要 と する し 、 断 面 と 断 面 の す り あ わ せ も 位 置 精 度 が 不 十 分 で あ っ た 。 そ の 解 決 策 と し て 開 発 さ れた の が 「 ら せ ん CT」 (ヘリカル CT、スパイラル CT などとも呼ばれる)である。らせん CT では、X線管を患者の周りで連続的に回転させ、そのなかを通り抜けるように患者の 体 を 移 動 さ せ る こ と に よ り 、 体 軸 方 向 ( 頭 か ら 足 へ の 方 向 ) に も 連 続 的 な 画 像 を 得 る こと が 可 能 に な っ た 。 CT の利点は、①検査が短時間で終了、②磁気を利用しないのでペースメーカーなどの 金 属 使 用 者 に も 適 用 可 能 、 ③ ア ー チ フ ァ ク ト ( 画 像 の 乱 れ ) が 少 な く 、 広 範 囲 の 撮 影 が可 能 、④ 出 血 巣・骨 な ど が 明 瞭 に 描 出 さ れ る 、⑤(MRI と異なり)騒音がない、などである。 欠 点 は 、 ① 放 射 線 被 曝 が あ る 、 ② 軟 部 組 織 ( 筋 肉 な ど ) の 変 化 が 余 り 描 出 さ れ な い 、 ③脳 底 、 下 顎 な ど の 骨 に 囲 ま れ た 部 分 は ア ー チ フ ァ ク ト が 出 や す い 、 ④ 消 化 器 官 な ど の 中 空の 器 官 の 撮 影 に は 造 影 剤 が 必 要 で あ る 、 な ど で あ る 。

2 . 1 . 2 磁 気 共 鳴 画 像 (magnetic resonance imaging、MRI)

MRI は生体で生じる核磁気共鳴現象を利用して、その構造を画像化する方法である。物 質 は 原 子 か ら 構 成 さ れ て い る 。 原 子 は 中 央 に 原 子 核 が あ り 、 そ の 周 り を 電 子 が 公 転 し てい る 。 水 素 原 子 の 原 子 核 で あ る プ ロ ト ン は 電 荷 を 有 し て お り 、 回 転 運 動 を し て い る 。 こ の原 子 核 の 角 運 動 量 を 核 ス ピ ン と い う 。 核 ス ピ ン を 持 つ 原 子 核 は そ れ に よ っ て 極 め て 小 さ い磁 気 を 持 つ が 、 そ の 方 向 は 通 常 原 子 核 に よ っ て 異 な っ て い る 。 し か し 、 強 い 外 部 磁 場 が 存在 す る と 核 ス ピ ン は 一 定 の 方 向 へ 整 列 す る 。 こ の 時 、 磁 場 強 度 に 比 例 し た 周 波 数 の 電 磁 エネ ル ギ ー を 吸 収・放 出 す る 。こ れ を 核 磁 気 共 鳴(NMR)という。放出エネルギーの強度は被 検 者 の 回 り に 配 置 し た 受 信 コ イ ル で 検 出 出 来 る 。 こ れ を NMR 信号という。核磁気共鳴の 起 こ る エ ネ ル ギ ー は ち ょ う ラ ジ オ の 電 波 が も つ エ ネ ル ギ ー と 同 程 な の で 実 際 の 核 磁 気 共鳴 に は ラ ジ オ 波 が 用 い ら れ る 。 こ れ を 励 起 パ ル ス と 呼 ぶ 。 放 出 さ れ る 信 号 の 振 幅 は 原 子 核間 の 互 い の 磁 場 の 影 響 に よ り ス ピ ン の 位 相 に ば ら つ き が 生 じ る こ と で 次 第 に 弱 く な る 。 この 過 程 を T2 緩和、横緩和、スピン−スピン緩和などと呼ぶ。この時の時定数(信号が最初の 強 さ の 36.8%まで減衰するのに要する時間)を横緩和時間(T2)と呼ぶ。T2 は 10 秒から 100 秒程度であるが、実際には磁場の不均一性による減衰の影響を受けずっと短くなる。 2-12

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一 度 信 号 を 出 し た 後 、 次 に 共 鳴 周 波 数 の ラ ジ オ 波 を 照 射 し て 信 号 を 出 さ せ る た め に は 元の 状 態 ま で 戻 ら な け れ ば な ら な い た め 、そ れ ま で の 回 復 時 間 が 必 要 で あ る 。こ の 回 復 過 を T1 緩 和 、縦 緩 和 、ス ピ ン−格子緩和などといい、その時の時定数を縦緩和時間(T1)と呼ぶ。 T1 は 100 ミリ秒から1秒で程度である。 核 磁 気 共 鳴 に よ っ て 組 織 か ら 放 出 さ れ る エ ネ ル ギ ー は 組 織 の 水 分 子 含 有 量 に よ っ て 異 な る の で NMR 信号から組織の情報が得られる。水分子の含有量によって T1 も変化する。 通 常 、脂 質 が 多 い 組 織 は 比 較 的 短 い T1 を示し、炎症を起こしたりしている組織は長い T1 と な る 。こ の 違 い を 画 像 と し て 再 構 成 す る こ と に よ り 、診 断 に 使 う こ と が 出 来 る 。MRI で 位 置 情 報 を 得 る た め に 例 え ば 被 検 者 の 足 か ら 頭 の 方 向 に 向 か っ て 次 第 に 強 度 が 強 く な る 磁 場 ( 傾 斜 磁 場 ) を か け る 。 こ れ に よ っ て 身 体 の 場 所 に よ り 異 な っ た 周 波 数 の 電 磁 波 が か け ら れ る こ と に な る 。 フ ー リ エ 解 析 と い う 手 法 を 用 い て NMR 信号を解析すればどの周波数 帯 域 で 巨 視 的 磁 化 が 生 じ て い る か が 判 り 、 位 置 情 報 が 得 ら れ る 。 こ れ ら の 情 報 を CT と同 じ 方 法 で 処 理 す る 。 得 ら れ た 画 像 が MRI 画像である(図2-6)。 図 2 - 6 脳 の MRI 画像 2-13

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T1、T2、TR(パルスの繰り返し時間)、TE(パルスをかけてから最大の信号が得られ る ま で の 時 間 ) 、 の 四 つ の パ ラ メ ー タ に よ っ て 次 の よ う な 画 像 が 得 ら れ る 。 1 )T1 強調画像~TR と TE を共に短くすると、主として縦緩和の信号が強調された画 像 が 得 ら れ る 。 皮 下 脂 肪 、 骨 髄 、 脂 肪 組 織 の 信 号 強 度 が 最 も 高 く な る 。 水 の プ ロ ト ン の緩 和 時 間 は 長 い の で 、 脳 室 、 く も 膜 下 腔 の 脳 脊 髄 液 は 最 も 信 号 が 低 く な る 。 白 質 は 灰 白 質よ り 水 分 が 少 な い た め 、 や や 高 輝 度 と な る 。 2 )T2 強調画像~TR と TE を共に長くすると、横緩和の信号が強調された画像となる。 脳 脊 髄 液 が 最 も 高 輝 度 と な り 、 灰 白 質 は 白 質 よ り や や 高 輝 度 と な る 。 同 じ 白 質 で も 水 分含 有 量 の 違 い に よ っ て 信 号 強 度 が 異 な っ て く る 。 3)プロトン強調画像~TR を長くし TE を短くすると、プロトン密度の差を強調した画 像 が 得 ら れ る 。 脂 肪 組 織 の 輝 度 が 高 い 点 は T1 強調画像に類似するが、脳脊髄液の信号輝 度 が 高 く な る 点 や 灰 白 質 が 白 質 よ り 高 い 輝 度 と な る 点 は T2 強調画像に類似する。 4 )フ レ ア 法 ~T2 強調画像では脳脊髄液のような長い緩和時間を有する部分は高信号に な る 。 こ の 高 信 号 を 抑 制 す る 撮 像 法 が フ レ ア 法 で あ る 。 こ れ に よ っ て 脳 溝 近 傍 の 病 変 (高 信 号 ) が 検 出 し や す く な る 。 5 )拡 散 強 調 画 像 ~ 信 号 読 み 取 り 前 に 、正 負 の 同 じ 強 さ の 傾 斜 磁 場 を か け る こ と に よ り 、 組 織 に お け る 水 の ブ ラ ウ ン 運 動 の 強 さ を 信 号 強 度 に 反 映 さ せ る 方 法 で あ る 。 脳 梗 塞 で は健 常 な 部 位 に 比 し て 梗 塞 部 位 が 高 輝 度 画 像 と し て 造 影 さ れ る 。 6)拡散テンソル画像~生体構造が一定の方向を持つ際に水分子の拡散方向が制限を受 け る 。 神 経 細 胞 に 比 べ て 神 経 線 維 は 水 含 有 量 が 少 な い の で 、 拡 散 強 調 画 像 で は 神 経 細 胞に 比 べ 神 経 線 維 は 拡 散 量 が 少 な く 高 輝 度 に な る 。 テ ン ソ ル 解 析 と い う 数 学 的 手 法 を 用 い てこ の 拡 散 の 異 方 性 を 画 像 化 し た も の が 拡 散 テ ン ソ ル 画 像 で あ る 。 こ れ 方 法 に よ り 神 経 線 維の 走 行 や そ の 損 傷 を 画 像 化 す る こ と が 可 能 で あ る 。 こ れ を 「 ( 拡 散 テ ン ソ ル ) ト ラ ク ト グラ フ ィ ー 」 と い う 。 MRI の利点は、①放射線被曝がない、②骨の影響を受けない、③軟部組織の変化を捉え 易 い 、 ⑤ 造 影 剤 を 必 要 と し な い 、 な ど で あ る 。 欠 点 は 、 ① 撮 影 時 間 が 長 い 、 ② ペ ー ス メー カ ー な ど 金 属 使 用 者 に は 適 用 出 来 な い 、 ③ 撮 影 時 に 著 し い 騒 音 が 生 じ る 、 ⑤ 狭 い 装 置 内に 被 検 者 を 固 定 す る た め 閉 所 恐 怖 が あ る 個 人 に は 適 用 困 難 、 な ど で あ る 。 2-14

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2 . 1 . 3 陽 電 子 断 層 撮 影 法 (positron emission topography、PET) 物質を構成する原子は原子核とその周囲を回転する電子から構成されている。通常電子 は 負 に 帯 電 し て い る が 、正 に 帯 電 し て い る 電 子 が 存 在 す る 。陽 電 子( ポ ジ ト ロ ン )で あ る 。 PETは陽電子を放出する放射性同位元素2( 核 種 ) で 標 識 ( 印 を つ け る ) さ れ た 薬 物 を 被 検 者 に 投 与 し 、 放 射 能 の 臓 器 内 の 分 布 を 検 出 器 ( コ リ メ ー タ 、 後 述 ) に よ っ て 検 出 し て画 像 化 す る 方 法 で あ る 。 PET で用いられる電子放出核種にはフッ素(18F)、酸素(15O)、炭素(11C)などが あ り 、 小 型 サ イ ク ロ ト ロ ン ( 粒 子 加 速 装 置 ) で 製 造 さ れ る 。 い ず れ も 生 体 を 構 成 す る 元素 で あ り 、 生 体 活 性 物 質 な ど を 標 識 す る こ と が 容 易 で あ る 。 核 種 で 標 識 さ れ た ガ ス を 吸 入さ せ る か 蒸 留 水 に 溶 か し て 静 注 す る と 、 心 臓 か ら 動 脈 を 介 し て 体 内 組 織 に 蓄 積 さ れ て 行 く。 8~10 分後には臓器に入る放射能と出ていく放射能が物理的に平衡状態に達する。核種は 不 安 定 な 物 質 で エ ネ ル ギ ー の 高 い 状 態 か ら 低 い 状 態 に 移 ろ う と し て 陽 電 子 を 放 出 す る 。陽 電 子 は 組 織 内 の 自 由 電 子 と 結 合 し て 消 滅 す る 。 こ の 時 二 つ の ガ ン マ 線 ( 光 子 ) が 互 い に反 対 方 向 に 放 出 さ れ る 。 そ こ で 被 検 者 の 周 囲 に 多 数 の 検 出 器 を 図 2 - 7 の よ う に 円 形 に 並べ ガ ン マ 線 を 観 測 す る 。 例 え ば A と B で ガ ン マ 線 が 検 出 さ れ た ら A と B を 結 ぶ 直 線 上 に ガン マ 線 を 放 出 し た 核 種 が あ る こ と を 意 味 す る 。 多 数 の 検 出 器 か ら の デ ー タ を 収 集 し て 解 析処 理 を 行 い 画 像 化 す る ( 図 2 - 8 ) 。 現 在 PET を用いて測定されている生体現象と使用さ れ る 核 種 は 表 2 - 1 の ご と く で あ る 。 図 2 - 7 PET におけるガンマ線検出器配置の模式図 2 同 一 元 素 に 属 す る( す な わ ち 同 じ 原 子 番 号 を も つ )原 子 の 間 で 原 子 量 が 異 な る 原 子 を 同 位 元 素 で あ る と い う 。18F の よ う に 表 記 さ れ 、左 肩 の 数 字 は 原 子 量 で あ る 。こ の う ち 放 射 線 を 出 す 能 力 す な わ ち 放 射 能 を も つ 同 位 元 素 を 放 射 性 同 位 元 素 と 呼 ぶ 。 2-15

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図 2 - 8 PET による脳グルコース代謝画像(上段)および同一領野の剖検 (Post-mortem)、CT(X-ray CT)および PET 画像(PET/FDG)の 対 応 関 係 ( 下 段 )

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表 2 - 1 PET の測定対象と使用される核種 1 ) 脳 循 環 測 定 a ) 脳 血 液 量 ~11CO、C15O b ) 脳 血 流 量 ~H15O、C15O262Cu-PTSM c)代謝 ~酸素代謝:15O2 グ ル コ ー ス 代 謝 :18F-FDG ア ミ ノ 酸 代 謝 :11C-メチオニン 2 ) 神 経 伝 達 物 質 測 定 a)ドーパミン~ドーパミン代謝貯蔵:18F-フルオロドーパ D1レ セ プ タ ー :11C-SCH23390 D2レ セ プ タ ー :11C-メチルスピペロン、11C-ラクロプライド 再 取 り 込 み 部 位 :11C-ノミフェインシン b ) ア セ チ ル コ リ ン ~ ム ス カ リ ン 性 レ セ プ タ ー :11C-デキセチミド ニ コ チ ン 性 レ セ プ タ ー :11C-ニコチン c ) オ ピ オ イ ド ~μ レセプター:11C-カーフェインタニル d)セロトニン~5-HT2レ セ プ タ ー :11C-ケタンセリン 再 取 り 込 み 部 位 :11C-シアノイミプラミン e ) ヒ ス タ ミ ン ~ H1レ セ プ タ ー :11C-ピリラミン、11C-ドキセピン f ) ベ ン ゾ ジ ア ゼ ピ ン ~ 中 枢 性 レ セ プ タ ー :11C-フルマゼニル g ) モ ノ ア ニ ン 酸 化 酵 素 ~MAO-A:11C-クロルジリン MAO-B:11C-デブレニル 3 ) そ の 他 a ) 脳 血 液 関 門 ~68Ga-EDTA b ) 腫 瘍 ~18F-FDG、11C-メチオニン PET の利点は、①空間解像能が高い(理論的な最大分解能は 2~5mm 程度)、②解像 度 は 脳 の 部 位 に 殆 ど 依 存 し な い 、 ③ ガ ン マ 線 の エ ネ ル ギ ー が 高 い た め に 吸 収 の 影 響 が 小さ く 、 ま た 吸 収 補 正 が 容 易 に 行 え る 、 な ど で あ る 。 欠 点 は 、 ① サ イ ク ロ ト ロ ン の 設 置 な ど装 置 の 導 入 に 多 額 の 費 用 を 必 要 と し 、 年 間 の 運 用 経 費 も 高 額 で あ る 、 ② 時 間 分 解 能 が 数 分~ 十 数 分 と 極 め て 不 良 で あ る 、③ 放 射 線 被 曝 が あ る た め 繰 り 返 し 測 定 出 来 な い 、な ど で あ る 。 2-17

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2 . 1 . 4 単 一 フ ォ ト ン 断 層 撮 影 法 (single photon emission tomography、SPECT) SPECT は PET と同様に体内における核種の分布を画像表示する方法である。PET との 違 い は SPECT で用いられる核種が違う点である。SPECT の核種は1個のガンマ線を放出 し て 崩 壊 す る 単 一 フ ォ ト ン 放 出 核 種 で あ る 。 こ の ガ ン マ 線 は あ ら ゆ る 方 向 に 放 出 さ れ るの で 、 あ る 特 定 の 位 置 か ら 見 て ガ ン マ 線 が ど の 方 向 か ら 飛 来 し た か を 解 析 し ( コ リ メ ー ショ ン ) 、 核 種 の 分 布 状 態 を 画 像 と し て 表 示 し た 画 像 が SPECT である(図2-9)。 図 2 - 9 SPECT に よ る 脳 血 流 量 画 像 SPECT や PET の画像処理装置がコリメータである。核医学で最も一般的に用いられる コ リ メ ー タ は 平 行 多 孔 型 コ リ メ ー タ で あ り 、こ れ は 厚 さ 1~4 cm 程度の鉛板に多くの穴を 平 行 に 開 け た も の で あ る 。 ほ と ん ど の 平 行 多 孔 型 の コ リ メ ー タ で は 、 こ の 穴 は 検 出 器 の面 に 対 し て 垂 直 に 開 け ら れ て い る 。 こ の 穴 を 通 じ て 飛 来 し て く る ガ ン マ 線 を 光 電 子 増 倍 管に よ っ て 検 出 し 、 そ の 結 果 を 演 算 回 路 に 導 い て 画 像 再 構 成 を 行 う 。 通 常 の SPECT 専用装置 2-18

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で は コ リ メ - タ を 被 検 者 の 周 囲 に 2 ~ 5 個 設 置 し 、 こ れ を 患 者 の 周 り で 回 転 さ せ る こ とに よ っ て デ ー タ の 収 集 を 行 っ て い る 。

表 2 - 2 SPECT の測定対象と使用される核種 1 ) 脳 循 環 測 定

a ) 脳 血 液 量 ~99mTc-RBC、99mTc-HSA

b ) 脳 血 流 量 ~133Xe、123I-IMP、99mTc-ECD、99mTc-HMPAO

2 ) 神 経 伝 達 物 質 測 定 a)ドーパミン~D1レ セ プ タ ー :123I-SCH23982 D2レ セ プ タ ー :123I-IBZM、123I’-ヨードスピペロン 再 取 り 込 み 部 位 :123I-β-CIT b ) ア セ チ ル コ リ ン ~ ム ス カ リ ン 性 レ セ プ タ ー :123I-QNB c ) ベ ン ゾ ジ ア ゼ ピ ン ~ 中 枢 性 レ セ プ タ ー :123I-イオマゼニエル 3 ) そ の 他

a ) 脳 血 液 関 門 ~98mTcO498mTc-DTPA、99mTc-HSA

b ) 腫 瘍 ~98mTcO4201TI-TICI c ) 脳 脊 髄 液 循 環 動 態 ~111In-DTPA PET と比べて SPECT には、①サイクロトロンを必要としない、②装置導入の経費が廉 価 で あ る 、 ③ 撮 影 時 間 が 短 い 、 な ど の 利 点 が あ る が 、 ① 空 間 解 像 度 が 低 い 、 ②S/N 比(信 号 と 雑 音 の 比 率 ) が 小 さ い 、 な ど の 欠 点 を 有 す る 。 2 . 1 . 5 機 能 的 核 磁 気 共 鳴 (functional MRI、fMRI) MRI を利用して、脳の局所血流量の変化を測定する方法が fMRI である。脳の細胞活動 が 活 発 に な る と 脳 血 流 量 (CBF)が増加する。局所の CBF が増加することは、毛細血管 や 静 脈 中 の 還 元 ヘ モ グ ロ ビ ン の 量 が 相 対 的 に 減 少 す る こ と を 意 味 す る 。 酸 化 ヘ モ グ ロ ビン は 磁 気 モ ー メ ン ト を 持 た な い が 、 還 元 ヘ モ グ ロ ビ ン は 磁 気 モ ー メ ン ト を 持 つ 。 還 元 ヘ モグ ロ ビ ン の 磁 性 は ま わ り の 水 の プ ロ ト ン の ス ピ ン ー ス ピ ン 緩 和 過 程 を 促 進 す る の で 、 還 元ヘ モ グ ロ ビ ン が 増 え る と 、見 か け 上 T2 は長くなる。そこで T2 強調画像では、血流量の増加 し た 部 分 は よ り 明 る く な る こ と に な る 。 静 脈 血 中 の 還 元 ヘ モ グ ロ ビ ン は 、 そ の 磁 気 モ ーメ 2-19

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ン ト に よ り 、MRI の静磁場内(励起パルスが付加されていない状態)で赤血球の周りおよ び 血 管 の 外 に 帯 磁 率 の 相 異 か ら く る 磁 場 の 歪 を 生 じ さ せ る 。MRI 画像のボクセル(画像単 位 ) 内 で は こ の 磁 場 の 歪 の 分 布 が 出 来 、 検 出 さ れ る 信 号 の 位 相 に 分 散 が 起 き る 。 水 の 見か け の 横 緩 和 時 間 T2 を短縮し信号減衰を速める。従って、ベクトル和で与えられるボクセ ル 内 で の 信 号 の 総 和 が 小 さ く な る 。 こ れ に 対 し て 、 動 脈 の 血 液 に は 反 磁 性 で あ る 酸 化 ヘモ グ ロ ビ ン だ け が あ る で 、 赤 血 球 の 内 外 お よ び 組 織 体 と の 間 に 帯 磁 率 の 相 異 が な く 磁 場 の歪 が 表 れ な い 。 脳 活 動 に 伴 う 血 流 の 増 加 は 、 組 織 の 酸 素 消 費 量 の 変 化 が 比 較 的 少 な い た め酸 素 供 給 量 の 余 剰 を も た ら し 、 静 脈 血 中 の ヘ モ グ ロ ビ ン の 酸 素 吸 収 度 が 上 り 、 こ れ に 相 応し た 磁 場 の 歪 の 減 少 か ら 信 号 強 度 の 上 昇 が も た ら さ れ る 。 こ れ は 「 ボ ー ル ド 効 果 」 と 呼 ばれ て い る 。fMRI はこのボールド効果を画像化する技法である。 図 2 - 1 0 は 音 声 (Speech)および雑音(Noise)を提示した時の左一次聴覚野および 左 言 語 野 の fMRI 信号の変化である。左一次聴覚野は音声、雑音いずれの刺激時にも信号 増 大 を 示 す が 、 言 語 野 は 音 声 刺 激 時 に の み 信 号 が 増 大 し て い る 。 図 2 - 1 0 音 声 お よ び 雑 音 刺 激 時 の fMRI 信号の変化 上 : 左 第 一 次 聴 覚 野 、 下 : 左 言 語 野 2-20

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fMRIは PETの よ う に 放 射 性 元 素 を 含 ん だ 化 合 物 を 静 注 す る 必 要 が な く 繰 り 返 し 測 定 を 行 う こ と が 可 能 で あ り 、空 間 分 解 能 も1.5mmと高い。当初時間分解能は不良であり、刺激 が 与 え ら れ て か ら 信 号 が 発 生 す る ま で 2 秒 か ら 3 秒 を 要 し た 。 最 近 で は 0.5 秒程度の速い 神 経 活 動 を 捉 え る こ と も 可 能 に な り つ つ あ る 。fMRIの問題点はボールド効果が神経細胞活 動 の ど の 側 面 を 反 映 し て い る か の 解 明 が 未 だ 完 全 で は な い 点 で あ る3 2 . 1 . 6 脳 磁 図 (magnetoencephalophy、MEG)4 こ れ ま で 述 べ て き たPET、SPECT、fMRI などは脳血量や脳代謝過程を測定する方法で あ り 、 神 経 細 胞 の 活 動 を 直 接 測 定 す る 方 法 で は な い 。MEG と次に述べる脳波は神経細 胞 の 活 動 を 直 接 記 録 す る 方 法 で あ る 。 脳 に お け る 電 気 活 動 の 多 く は 錐 体 細 胞 の 活 動 に 由 来 す る 。 錐 体 細 胞 に は 視 床 そ の 他 の皮 質 下 細 胞 や 他 の 皮 質 細 胞 か ら の 線 維 連 絡 が あ る ( 図 2 - 1 1A:表 在視床皮質 投射および 深 部 視 床 皮 質 投 射 ) 。 こ れ ら の 投 射 線 維 は 錐 体 細 胞 の 樹 状 突 起 先 端 部 に 興 奮 性 シ ナ プ ス電 位 を 発 生 さ せ る 。 す る と 、 樹 状 突 起 が プ ラ ス の 荷 電 を 持 ち 、 細 胞 体 が マ イ ナ ス の 荷 電 を持 つ 電 流 双 極 子 と な っ て 細 胞 内 、 細 胞 外 に 電 流 が 流 れ る ( 図 2 - 1 1B) 。前者 を第一次電 流 、 後 者 を 体 積 電 流 と い う 。 電 流 が 流 れ る と 磁 場 が 発 生 す る 。 磁 場 の 方 向 は 電 流 の 流 れる 方 向 に 進 む 右 ね じ れ の 回 転 と な る 。 脳 磁 図 に 寄 与 す る の は 第 一 次 電 流 で あ り 、 体 積 電 流は 相 互 に 打 ち 消 し 合 っ て 脳 磁 図 に は 寄 与 し な い と 考 え ら れ て い る( 図 2―11C、D)。星状 神 経 細 胞 は 樹 状 突 起 が 対 称 に 拡 が っ て 閉 回 路 を 構 成 す る の で 外 部 に 電 流 は 流 出 し な い (図 2 - 1 1E)。抑制性 シナプス電 位は細胞膜 内外の電位 差が小さい ので電流の 流入/流出 は な い ( 図 2 - 1 1F) 。頭 皮に対 して 平行に 存在 してい る電 流双極 子( 正の電 流源 と負 の 電 流 源 が 一 定 距 離 離 れ て 存 在 す る 状 態 ) で は 、 そ の 周 り に 時 計 回 り に 磁 場 が 出 来 て 頭皮 に 磁 場 の 吹 き 出 し と 吸 い 込 み が 出 来 、 磁 場 の 測 定 が 可 能 と な る 。 頭 皮 に 対 し て 垂 直 に 向う 電 流 双 極 子 で は 、 大 き な 電 位 勾 配 が 出 来 る た め 脳 波 上 大 き な 電 位 変 動 が 記 録 出 来 る が 、磁 場 は ほ と ん ど 記 録 出 来 な い 。 2 個 の 互 い に 逆 向 き の 電 流 双 極 子 が あ る 場 合 に は 、 電 流 は電 流 双 極 子 の 近 傍 だ け を 流 れ る た め 、 頭 皮 上 か ら 記 録 さ れ る 脳 波 に は 電 位 差 は 殆 ど 生 じ ない が 、 磁 場 は 重 な り 合 っ て 強 く 表 れ る 。MEG は脳の電気現象を脳波とは異なる側面から測 3ボ ー ル ド 効 果 は 神 経 細 胞 の 膜 電 位( 第 4 章 参 照 )の 変 化 に 伴 う 細 胞 膜 周 辺 に 発 生 す る 電 場 電 位 の 反 映 で あ る と の 説 が 有 力 で あ る 。 4 以 下 の 記 述 に お け る 用 語 の 詳 細 は 第 3 章 お よ び 第 4 章 参 照 。 2-21

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定 し て い る こ と に な る 。 電 流 が つ く る 磁 場 の 大 き さ は 、 電 流 回 路 を 小 部 分 に 分 け て 、 その 各 部 分 が 一 つ の 点 で 作 る 磁 場 の 大 き さ を ベ ク ト ル と す る と 、 磁 場 全 体 の 大 き さ は 、 小 部分 の 磁 場 を 回 路 に 添 っ て 積 分 す る こ と に よ っ て 与 え ら れ る 。 図 2 - 1 1 脳 磁 図 発 生 機 序 の 模 式 図 Apical dendrite:樹状突起、EPSP:興奮性シナプス電位、IPSP: 抑制性シナプス電位 Pyramidal neuron:錐体細胞、Stellate neuron:星状神経細胞、Thalamus:視床

Superficial T-C projection:表在視床皮質投射、Deep T-C projection:深部視床皮質投射

以 上 の よ う な 機 序 で 発 生 す る 脳 の 磁 場 は 地 磁 気 の 一 億 分 の 一 か ら 十 億 分 の 一 と い う 極 め て 微 弱 な 現 象 ( 約 10 ー14T ) で あ り 、 そ の 測 定 が 可 能 に な っ た の は 1970 年代である。図 2 - 1 2 は 脳 磁 場 計 測 装 置 の 構 造 で あ る 。 装 置 の 中 心 を な す の は 超 伝 導 量 子 干 渉 素 子 (SQUID)と検出コイルであり、デュワー瓶と呼ばれる筐体内に収められている。デュワ ー 瓶 中 に は 真 空 層 を 挟 ん で 液 体 ヘ リ ウ ム が 溜 め て あ り 、内 部 の 装 置 を 4.2°K に冷やしてい る 。 底 部 の 外 側 は 凹 み に な っ て お り 、 こ の 部 分 を ヒ ト の 頭 部 に 密 着 さ せ る こ と に よ り 、脳 磁 場 を 計 測 す る 。 デ ュ ワ ー 瓶 の 底 部 に 、 多 数 の 超 伝 導 状 態 の 検 出 コ イ ル が 設 置 さ れ て おり ( 図 2 - 1 2A)、直径 14cm の範囲の頭部表面から磁場変化を拾うことが出来る。検出 2-22

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コ イ ル の 面 は 頭 部 表 面 に 対 し て 平 行 に 設 置 さ れ て お り 、 頭 部 表 面 に 対 し て 垂 直 な 磁 場 の変 化 ( 図 2 - 1 2B、Br) を 検 知 す る よ う に な っ て い る 。 ま た 、 互 い に 逆 方 向 に 巻 い た 検 出 コ イ ル を 直 列 に 繋 ぎ 、 空 間 的 な 差 分 を と る こ と に よ り 、 地 磁 気 の 変 動 、 あ る い は 都 市 雑音 な ど の 遠 来 の ノ イ ズ を 軽 減 し 、 脳 由 来 の 信 号 だ け を 検 知 す る 工 夫 が な さ れ て い る 。 検 出コ イ ル に よ っ て 拾 わ れ た 磁 場 は 、 超 伝 導 ト ラ ン ス を 介 し て SQUID に伝えられる(図2-1 2 、A)。SQUID は超伝導を利用した超高感度磁気センサーであり、磁気変化を電圧変化 に 変 換 し て 出 力 す る 。 図 2 - 1 2 脳 磁 図 測 定 装 置 と そ の 原 理 神 経 心 理 学 で は 種 々 の 課 題 遂 行 時 の MEG 電位を評価することになる。課題に関連した MEG 電位は小さく通常は検出出来ないが、多数回のデータを加算すると、課題に関連 の な い 変 動 は 互 い に 相 殺 し 合 っ て 課 題 に 関 連 し た 電 位 変 動 が 明 ら か に な っ て く る ( 図 2 -1 3 ) 。MEG は時間分解能、空間分解能ともに優れ、脳の活動を実時間で測定しうる点で 極 め て 有 用 で あ る 。 2-23

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図 2 - 1 3 聴 覚 刺 激 提 示 時 に お け る 加 算 脳 磁 図

図 2 - 1 4 核 磁 気 共 鳴 ス ペ ク ト ロ ス コ ピ ー 画 像 2-24

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2 . 1 . 7 核 磁 気 共 鳴 ス ペ ク ト ロ ス コ ピ ー (magnetic resonance spectroscopy、MRS) MRI 技法の一つである。分子中の原子核の磁場は付近に存在する原子核によって作られ る 磁 場 の 影 響 を 受 け 、 同 じ 原 子 核 で あ っ て も 周 囲 の 環 境 に よ り わ ず か に 共 鳴 周 波 数 の 違い が 生 じ る 。 こ れ を 「 化 学 シ フ ト 」 と い う 。 シ フ ト の 大 き さ と 信 号 強 度 か ら 生 体 内 の 分 子の 種 類 ・ 成 分 な ど を 検 出 / 測 定 す る こ と が 可 能 で あ る 。 原 子 核 の 中 で プ ロ ト ン1H を利用し た も の を 1H-NMR スペクトロスコピー、31P を利用したものを 31P-NMR スペクトロスコ ピ ー と い う 。現 在 、主 と し て コ リ ン(Co)、クレアチン(Cr)、N アセチルアスパラ銀酸(NAA) を 対 象 と し た 測 定 が 多 く 行 わ れ て い る ( 図 2 - 1 4 ) 。 2 . 1 . 8 脳 波 (electroencephalography、EEG) 脳 の 活 動 は 基 本 的 に 電 気 現 象 で あ る 。 頭 皮 上 に 電 極 を 置 き 、 そ こ か ら 導 出 さ れ た 電 気活 動 を 交 流 増 幅 器 に よ っ て 約 一 万 倍 に 増 幅 し て 表 示 し た も の を 脳 波 と い う 。 脳 波 が 如 何 なる 機 序 に よ っ て 発 生 す る か は 未 だ 完 全 に は 解 明 さ れ て い な い 。 電 極 の 周 囲 数 千 個 の 神 経 細胞 の 活 動 の 総 和 で あ ろ う と 考 え ら れ て い る 。 脳 波 の 変 動 は 睡 眠 / 覚 醒 の サ イ ク ル 、 て ん かん 発 作 な ど 密 接 な 関 連 を 有 し 、 古 く か ら 脳 疾 患 診 断 の た め の 有 力 な 情 報 を 提 供 し て き た 。 神 経 心 理 学 で は 高 次 脳 機 能 課 題 遂 行 時 に お け る 脳 波 の 変 化 が 問 題 と な る 。 視 覚 、 聴 覚 、 体 性 感 覚 な ど の 末 梢 感 覚 器 へ の 刺 激 に 対 応 し て 、 脳 波 に 生 じ る 電 位 変 動 を 誘 発 電 位 (EP) と い う 。 通 常 EP は小さいため、刺激に関係しない電位変動に隠れてこれを検出すること は 出 来 な い 。し か し 、1960 年代ドーソンによって平均加算法と呼ばれる EP の記録法が開 発 さ れ た 。 刺 激 開 始 時 点 を 基 点 と し て そ の 後 の 脳 波 を 加 算 す る と 、 刺 激 に 関 係 の な い 成分 は 相 互 に 打 ち 消 し 合 い 、 刺 激 に 対 応 し た 信 号 成 分 が 明 瞭 に 表 れ て く る 。 こ の 平 均 加 算 法の 出 現 に よ っ て 、EP の研究は基礎、臨床両面において急速に進歩した。 図 2 - 1 5 は 聴 覚 誘 発 電 位 の 例 で あ る 。 (A)では、出現頻度の高い刺激(frequent) お よ び 低 い 刺 激 (rare)に対する EP が、被験者が刺激の数を数えることを教示された場 合 (attend)、本を読むことを教示された場合(ignore)の各条件で記録された(このよ う な 実 験 手 続 き を「 オ ッ ズ ボ ー ル( 変 異 ) 課 題 」 と 呼 ぶ ) 。“attend”条件では、“rare”に す る EP に潜時 300 ミリ秒付近に大きな陽性成分が認められるが、“frequent”に対する EP で は こ の 成 分 は 殆 ど 認 め ら れ な い 。 こ の こ と は“rare”から“frequent”を減じると(“rare - frequent”)より明瞭となる(図右、P3b)。“ignore”条件でもこの陽性成分は認められる が ( 図 右 、P3a)、振幅は“attend”条件の方が大である。記録部位別に検討すると(図2 2-25

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- 1 5 、B)、振幅は前頭葉(Fz)で最大となる。この成分は 1965 年サットンらによっ て 最 初 に 報 告 さ れ た 。 以 来 、 脳 に お け る 情 報 処 理 過 程 を 直 接 的 に 反 映 す る 現 象 と し て 注目 さ れ 、 今 日 ま で に 非 常 に 多 数 の 研 究 報 告 が あ る 。 こ の 成 分 は 内 因 性 誘 発 電 位 あ る い は 事象 関 連 竜 位(ERP)と呼ばれている。特に刺激提示後 300 ミリ秒付近で出現する成分は後期 陽 性 成 分 (LPC) 、 P300、 P3、 な どさま ざま な名称 で呼 ばれて いる 。注意 、認 識、記 憶 な ど の 高 次 脳 機 能 を 反 映 す る 成 分 と 考 え ら れ て い る 。 通 常 の 脳 波 の 記 録 は 時 定 数( 増 幅 器 の 出 力 が 1/e、約 36%に減少するまでの時間)が 0.1 ~0.3 秒の交流増幅器を用いて行われる。直流増幅器あるいは時定数の大きい(3秒以上) 交 流 増 幅 器 で 記 録 す る と 、 よ り 緩 徐 な 脳 波 変 動 を 記 録 出 来 る 。 こ れ に は 、 一 定 の 時 間 間隔 を お い て 二 つ の 刺 激 を 提 示 し 、 第 一 の 刺 激 が 第 二 の 刺 激 の 予 告 と な る 条 件 で 出 現 す る 随伴 陰 性 変 動 (CNV)、随意運動時に記録される運動関連電位などがある。 図 2 - 1 5 事 象 関 連 電 位 2-26

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図 2 - 1 6 心 的 回 転 課 題 ( 第 9 章 参 照 ) 遂 行 時 の 脳 波 周 波 数 成 分 の ト ポ グ ラ フ マ ッ ピ ン グ 各 周 波 数 帯 域 ( 図 の 下 部 に 記 載 ) の パ ワ ー 値 ( 1 0 秒 間 の 脳 波 振 幅 位 の 積 分 値 ) を 表 示。 赤 は 高 い パ ワ ー 値 、 青 は 低 い パ ワ ー 値 を 意 味 す る 。 上 方 が 頭 蓋 前 方 に 対 応 。 右 頭 頂 葉 領野 で 10Hz 以上の帯域の脳波のパワー値が高い。 脳 波 、 誘 発 電 位 、 事 象 関 連 電 位 な ど の 頭 皮 上 の 電 位 分 布 を 頭 部 に 似 せ た 図 上 に 表 示 す る 方 法 を 脳 波 ト ポ グ ラ フ マ ッ ピ ン グ あ る い は 脳 波 マ ッ ピ ン グ と い う 。ま ず 多 数 の 電 極(32 カ 所 、64カ 所、あるいはそれ以上)から脳波を記録する。脳波の場合にはフーリエ解析と い う 数 学 的 手 法 を 用 い て 周 波 数 帯 域 別 に 電 気 活 動 の 大 き さ ( 電 位 ) を 算 出 す る 。 誘 発 電位 2-27

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や 事 象 関 連 電 位 の 場 合 は 加 算 を 行 っ て 成 分 を 同 定 し 、 そ の 大 き さ を 算 出 す る 。 電 極 を 置い て な い 部 位 に つ い て は 周 囲 の 電 極 の 電 位 か ら 電 位 の 大 き さ を 推 定 す る ( 補 間 ) 。 等 し い電 位 の 部 位 を 結 ん で 等 電 位 図 を 作 成 し 、 頭 部 に 似 せ た 図 形 上 に カ ラ ー 表 示 し た も の が 脳 波ト ポ グ ラ フ で あ る ( 図 2 - 1 6 ) 。 多 数 の 電 極 か ら 記 録 さ れ た 脳 波 、 誘 発 電 位 、 事 象 関 連電 位 の 情 報 量 は 膨 大 で 、 そ の 特 性 を 直 感 的 に 理 解 す る こ と は 困 難 で あ る 。 脳 波 ト ポ グ ラ フマ ッ ピ ン グ に よ り 、 脳 の 電 気 活 動 の 時 間 的 ・ 空 間 的 特 性 を コ ン パ ク ト な 視 覚 情 報 と し て 表示 し 、 脳 の 電 気 活 動 の 全 体 像 を 直 感 的 に 理 解 す る こ と が 可 能 と な っ た 。 脳 波 に は 、 ①PET、fMRIなどに比較して空間解像度で劣る5が 時 間 分 解 能 で 優 る 、 ② 脳 の 活 動 性 を 実 時 間 で 測 定 出 来 る 、 ③ 比 較 的 廉 価 で 記 録 装 置 が 導 入 可 能 で あ る 、 な ど の 利点 が あ る 。 種 々 の 画 像 解 析 法 が 開 発 さ れ た 現 在 で も 有 力 な 研 究 方 法 で あ る 。 2 . 2 画 像 処 理 画 像 解 析 に よ り 得 ら れ た 画 像 デ ー タ を 処 理 す る た め の 様 々 な 方 法 が 提 案 さ れ て い る 。こ こ で は 最 も 広 く 使 用 さ れ て い る SPM(Statistical Parametric Mapping)について紹介する。 こ れ は ロ ン ド ン の“Institute of Neurology”から配布されている画像処理のフリーソフト で あ る 。 図 2 ― 1 7 に 示 し た 画 像 処 理 を 行 う 。 ま ず 撮 像 機 器 か ら 取 り 込 ま れ た 画 像 デ ータ ( デ ー タ セ ッ ト ) か ら 体 動 な ど に よ る ア ー チ フ ァ ク ト を 除 去 す る た め の 補 正 (Realignment)を行う。次にガウスフィルターによって平滑化する(Smoothing)。こ の 個 人 デ ー タ が 標 準 脳 ( タ ラ イ ラ ッ ク の 脳 図 譜 が 用 い ら れ る こ と が 多 い ) に 変 換 さ れ る (Normalization)。次に脳全体を 0.5cm3程 度 の 小 立 方 体 ( ボ ク セ ル ) に 分 割 し 、 操 作 し た 変 数 が 脳 の 形 態 や 活 動 性 に 有 意 な 影 響 を 及 ぼ し て い る か ど う か を ボ ク セ ル ご と に 統計 的 に 検 定 す る(Statistical inference)。この手続を容量計測法という。有意な所見を示した ボ ク セ ル は 多 数 の 被 験 者 の デ ー タ を 平 均 し て 構 成 さ れ た 3D 脳画像に貼り付けて表示され る ( 図 2 ― 1 8 ) 。 ま た 、 同 一 の 特 性 を 有 す る 被 験 者 群 や 同 一 の 課 題 を 遂 行 し た 複 数 の被 験 者 の デ ー タ を 統 合 し て 、 共 通 す る 所 見 を 可 視 化 す る 解 析 も 行 わ れ て い る 。 他 の 画 像 解 析 ソ フ ト も ほ ぼ 同 様 の 論 理 に よ っ て 操 作 変 数 が 有 意 な 影 響 を 与 え た 領 野 を可 視 化 し て い る 。 5 128 チャンネル、256 チャンネルなどの高い空間解像度を有する脳波記録装置も開発さ れ て い る 。 2-28

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図 2 ― 1 7 SPM におけるデータ処理の流れ

図 2 - 1 8 SPM 処理結果の3D 表示

作 業 記 憶 課 題 遂 行 時 、 健 常 者 に 比 し て 軽 度 認 識 障 害 患 者 で 有 意 に 活 性 化 が 大 で あ っ た 領 野 が 赤 で 表 示 さ れ て い る 。

図 2 - 4   臨 床 解 剖 学 的 研 究 に お け る 場 所 論 的 ア プ ロ ー チ と 位 相 論 的 ア プ ロ ー チ の 違 い   場 所 局 在 論 的 ア プ ロ ー チ ( A ) で は 、 同 じ 神 経 心 理 学 的 症 状 を 示 す 4 人 の 患 者 ( 1 、 2、 3 、 4 ) に 共 通 す る 損 傷 領 野 ( b ) を そ の 症 状 の 責 任 病 巣 と 見 な す 。 位 相 論 的 ア プ ロ ーチ ( B ) で は 、 4 人 全
図 2 - 8   PET による脳グルコース代謝画像(上段)および同一領野の剖検
表 2 - 1   PET の測定対象と使用される核種  1 ) 脳 循 環 測 定  a ) 脳 血 液 量 ~ 11 CO、C 15 O          b ) 脳 血 流 量 ~H 15 O、C 15 O 2 、 62 Cu-PTSM          c)代謝  ~酸素代謝: 15 O 2 グ ル コ ー ス 代 謝 : 18 F-FDG  ア ミ ノ 酸 代 謝 : 11 C-メチオニン  2 ) 神 経 伝 達 物 質 測 定       a)ドーパミン~ドーパミン代謝貯蔵: 18 F-フルオ
表   2 - 2   SPECT の測定対象と使用される核種  1 ) 脳 循 環 測 定
+5

参照

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