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明治期日本語訳聖書における訳語「悪魔」について

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Academic year: 2022

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(1)九州大学学術情報リポジトリ Kyushu University Institutional Repository. 明治期日本語訳聖書における訳語「悪魔」について 尊田, 佐紀子 九州大学大学院博士後期課程. https://doi.org/10.15017/9359 出版情報:語文研究. 91, pp.15-24, 2001-06-02. 九州大学国語国文学会 バージョン: 権利関係:.

(2) 明治期 日本 語訳聖書 にお ける 訳語 「 悪 魔」 について 尊 1.は. 田. 佐紀子. じめ に. 1880年(明 か ら1887年(明. 治13年)に 治20年)に. 『新 約 全 書 』(新 約 聖 書)が. 、 また1882年(明. 治15年). か け て 旧約 聖 書 が 出版 され た。 これ らの 日本 語 訳 聖 書. は1872年 横 浜 で 開催 され た 教 派 合 同 の宣 教 師 会 議 にお い て 企 画 され た もの で あ り、 「翻 訳 委 員 会 訳 」 と呼 ば れ る 日本 語 訳 聖 書 で あ る。 当時 の 聖 書 和 訳 業 に つ い て の 様 子 が 、『福 音 新 報 』1088号 所 収 の 井 深 梶 之 助 氏 の 談 話 「新 約 聖 書 の 日本 訳 に 就 て」 に詳 し く述 べ られ て い る。 それ に よ る と、 そ の 翻 訳 委 員 は ブラ ウ ン、 ヘ ボ ン、 グ リー ンで あ り、そ の 補 佐 にそ れ ぞ れ 高橋 五 郎 、 奥 野 昌綱 、 松 山 高吉 が あ た って い た 。 そ の 訳 業 に あ た って用 い られ た 聖 書 が 何 で あ った か と言 え ば 、井 深 氏 の 談 話 に 「そ の テ ー ブ ル の 上 に開 て あ る書 物 は ブ ラ オ ン氏 と グ リー ン氏 の 前 に は二 三 種 の 希臓 原 文 の 聖 書 、 ヘ ボ ン氏 の 前 に英 訳 の新 約 註 解 書 、 日本 人 の 前 に は 文 理 や 官 話 や そ の 他 の支 那 翻 訳 の聖 書 とい ふ 風 で あっ た様 に 記 憶 す る」 と あ る よ う に 、 ギ リ シ ア原 典 、 英 訳 の注 解 書 、 文 理 訳 ・官 話 訳 ・そ の 他 の 中 国 語 訳 聖 書 で あ った 。 ギ リシ ア原 典 は も と よ り、 英 語 を母 語 とす る委 員 た ちが 英 訳 を参 考 に す るの は 当 然 の こ とだ が 、 中 国 語 訳聖 書 が そ の 場 に あ った 、 とい う こ とが 、翻 訳 委 員 会 訳 の 文 体 ・語 彙 に大 き な影 響 を 与 え て い る。 井 深 氏 の 言 う 「文 理 や 官 話 や そ の 他 の 支 那翻 訳 の 聖 書 」 と は 、「代 表 訳 」 「ブ リ ッジ マ ン ・カル バ ー トソ ン訳(BC訳)」 「官 話 訳 」 と 呼 ば れ る 中 国 語 訳 聖 書 で あ った 。 翻 訳 委 員 た ち は 、 三 種 の 中 国 語 訳 聖 書 の う ち特 に米 国系 のBC訳. を 重 視 した と 言わ れ て い る。. 実 際 、 語 彙 の面 か ら見 て も、 翻 訳 委 員 会 と代 表 訳 ・BC訳 く、 森 岡 健 二 氏 の調 査 に よ れ ば 語 形 が 一 致(ま. で は一 致 す る語 が 多. た は 一 部 一 致)す. る率 は77.7%に. の ぼ る。 中 で もキ リス ト教 用 語 の 一 致 率 は 高 く、 実 際 に 「天 使 」 「福 音 」 「聖 書 」 な ど とい った 用 語 は 、翻 訳 委 員 会 訳 と代 表 訳 ・BC訳. とで 語 形 が 一 致 して い る。. しか し、〈悪 魔 〉 の 翻 訳 に 関 して は代 表 訳(「 魔 鬼 」)・BC訳(「. 魔 鬼 」)と い っ. た 中 国 語 訳 聖 書 と 、翻 訳 委 員 会 訳(「 悪 魔 」)で は 語 形 が 一 致 して い な い 。 上 述 の 〈天 使 〉 な ど と違 って 、 なぜ 〈悪 魔 〉 に 関 して は 語 形 が 異 な っ て い るの か 。 そ の 背後 に あ る文 化 的 ・宗 教 的 背 景 を 手 が か りに 、 そ の理 由を 探 って い き た い 。. 一47.

(3) 2う 〈悪 魔 〉 と は何 か 〈悪 魔 〉 とは 何 な の か 、 まず そ の 概 念 を 規 定 した い 。 は じめ に述 べ て お か ね ば な ら ない の は 、 〈悪 魔 〉 に は 、 大 き く分 け て 二 っ の 性 質 が あ り、 ギ リシ ア 原 典 に お い て は 、 そ の 二 種 類 の 〈悪 魔 〉 は そ れ ぞ れ 別 の語 で あ らわ され て いた 、 と い う こ とで あ る。 まず 一 つ め の 〈悪 魔 〉 の性 質 は く人 に取 り愚 き 災 い を も た らす 悪 しき た ま しい〉 とい う も の で あ る。 旧約 聖 書 で は 、 ヘ ブ ラ イ語ruahra'ah(悪. 霊)で. あ り、全. て の 疾 病 、 殊 に精 神 的 病 苦 は く神 か ら来 る悪 霊 〉 に よ る もの と信 じ られ て き た 。 新 約 聖 書 に お い て は 、 大 部 分 は 人 に は い り人 にっ く悪 霊 、 これ が ギ リ シ ア 語 daimonion. (神 々 と 人 類 の 間 を 取 り持 っ 霊 の こ と)、(邪 pneuma. akathartos 霊)、 また は(汚. pneuma. れ た 霊)と. 悪な. poneron. い う語 で あ らわ され る く悪 魔 〉. で あ った 。 生 理 的 ま た は精 神 的 な種 々 の疾 病 は 、 しば しば 悪 霊 に よ る も の と され て い る。 〈愚 か れ る〉 と い うの は 、 悪 霊 の 力 の 下 に あ る とい う意 味 で 、 種 々の 疾 病 に悩 ま され る とは 、 悪 霊 が 肉体 に入 り人 に 愚 い て 疾 病 で 悩 ます こ と で あ り、 そ れ を癒 す と は悪 霊 を 追 い 出す こ と で あ った 。 す なわ ち、 人 に取 り愚 き 災 い を もた らす 悪 しき た ま しい 、 と い う性 質 を持 った 〈悪 霊 と して の悪 魔 〉、 そ れ が く悪 魔 〉 の重 要 な一 つ の 特 質 で あ った 。 二 っ め の く悪 魔 〉 は 、「悪 」 の 起 源 の不 可 解 さ と神 秘 さ を説 明 す る た め に 生 じ た観 念 で あ り、 誘 惑 者 、 虚 言者 、 と い う性 質 を 持 った く悪 魔 〉 で あ る。 新 約 聖 書 :dia bolos で1(非. 難 者 、 中 傷 者 と い う意 味 を 持 っ)と. され た。. この性 質 の 起 源 は 、 世 界 を善 神 と悪 神 、 光 と闇 と の闘 争 の場 とみ る古 代 ペ ル シ ア宗 教 の 神 話 論 的 二 元 論 に あ る と さ れ る。 この 二 元 論 が 原 始 キ リス ト教 に影 響 し て 、神 の 光 に満 ちた 創 造 世 界 に 対 抗 す る撹 乱 的 要 素 、世 界 破 壊 原 理 を サ タ ンお よ び そ の 使 者 デ ー モ ン た ち と 見 る表 象 が 発 生 した 。 例 え ば ア ダム の 堕 罪 は 、蛇 と い う表 象 で 言 い表 され る 〈悪 魔 〉 の 誘 惑 と教 唆 に よ る も の 、 と解 釈 され る。 っ ま りは 、 〈悪 を 表 現 し正 しい道 か らの 堕落 を 誘 惑 す る悪 魔 〉、 これ が 〈悪 魔 〉 の 二 っ 目の 重 要 な特 質 な の で あ る。 た だ し、 こ の 二 種 類 の 〈悪 魔 〉は 、 欽 定 英 語 訳 聖 書 King. James •rersion. (KJ〉)に お い て はす で に混 同 され て い た 。 例 え ば 、 マ タ イ4章 第1節. の く悪 を. 表 現 し正 しい道 か らの 堕 落 を誘 惑 す る悪 魔 〉 diabolos. が 、KJ•r で はdevil. れ て い るが 、 ル カ11章 第14節 の く悪 霊 と して の 悪 魔. daimonion. と訳 さ. も 、KJ〉 で は. devilと 訳 され て い る。 す で に 西 欧 に お い て 二 種 類 の 〈悪 魔 〉 が 混 同 され て い た こ と は 明 らか で あ る。. 3う 翻 訳 委 員会 訳 に お け る 二 種 類 の 〈悪 魔 〉 翻 訳 委 員 会 訳 で は 、〈悪 を表 現 し正 しい 道 か らの 堕 落 を 誘惑 す る悪魔 〉は 「悪 魔 」 一46一 侠).

(4) (「倦 イ エ ス 聖 霊 に 導 か れ 悪 魔 に (diabolos) 4章 第1節))、. 試 み られ ん為 に 野 に往 り」(マ タ イ. 〈悪 霊 と して の 悪 魔 〉 は 「悪 鬼 」(イ エ ス痔 唖 な る悪 鬼 を逐 出 しけ. る に悪 鬼 (daimonion). い で ゝ瘤 も の い ひ しか ば人 々骸 け り」(ル カ11章 第14節)). と ギ リシ ア 語 原 典 に忠 実 に訳 出 され て い る。 そ れ で は 、 中 国 語 訳 聖 書 で は ど うだ った の だ ろ う 。 翻 訳 委 員 会 訳 の席 上 に あ っ た 代 表 訳 ・BC訳. と も に 、 〈悪 を 表 現 し正 しい 道 か らの堕 落 を誘 惑 す る悪 魔 〉 は. 「魔 鬼 」(「聖 神 引 耶 蘇 適 野 、 見 試 於 魔 鬼 (diabolos) 」(代 表 訳 ・マ タイ4章 第1 節)、 「當 時 、耶 蘇 被 聖 霊 導 之 適 野 、致 見 試 於 魔 鬼 (diabolos) 」(BC訳 〈悪 霊 と して の 悪 魔 〉 は 「鬼 」(「耶 蘇 逐 瘤 鬼 、 鬼 (daimonion). ・同))、. 出、瘤者言 、衆. 奇 之 」(代 表 訳 ・ル カ11章 第14節)、 「耶 蘇 逐 一 鬼 、 乃 瘡 者 、 鬼 (daimonion) 出、 瘤 衆 奇 之 」(BC訳. 既. ・同)」)と して い る。. 席 上 に あ った ギ リシ ア 原 典 ・英 訳 注 解 書 ・中 国 語 訳 聖 書 、 そ の うち 、 二 種 類 の 〈悪 魔 〉 を それ ぞ れ 別 の 語 で 表 して い た の は ギ リシ ア 原 典 と 中 国 語 訳 聖 書 で あ っ た 。 〈悪 魔 〉 に 関 して は 、 訳 語 が混 同 され て い た 英 訳 で は な く、 ギ リシ ア 原 典 ・ 中 国語 訳 聖 書 の翻 訳 方 針 に従 った と 見 られ る。 4う 訳 語 「悪 鬼 」 に つ い て 翻 訳 委 員 会 訳 で 〈悪 霊 と して の 悪 魔 〉 が 「悪 鬼 」 と され た 理 由 を 探 る に は 、 BC訳. ・代 表 訳 の 翻 訳 方 針 を考 え て み る と よ い。. 「鬼 」 とい う字 は 、 も と も と 「死 人 の た ま しい 、 祭 られ た 死 人 の 幽魂 」 と い う 意 味 を 持 ち 、 確 か に 〈た ま しい 〉 とい う点 で 、 〈悪 霊 と して の 悪 魔 〉 と共 通 点 を 持 っ が 、 よ り詳 細 な理 由 を探 るた め に は 、 マ タ イ12章 第43節 にお け る 〈悪 霊 と し て の 悪 魔 〉 を め ぐ る 訳 語 を 検 証 す る 必 要 が あ る 。 中 国 語 訳 聖 書 で は 、 「邪 神. ( akathartos (akathartos. pneuma) pneuma). 代 表 訳 ・BC訳. 離 人 、 遊 行 旱 地 、 求 安 不 得 日 」(代 表 訳)、 「夫 汚 鬼 既 離 人 、 遊 於 旱 地 、 求 安 不 得 」(BC訳)と. な って い た。. が そ れ ぞ れ 訳 語 「邪 神 」 「汚 鬼 」 を採 用 した 理 由 に は 、 プ ロテ. ス タ ン ト中 国語 訳 聖 書 に お け る用 語 問 題(タ. ー ム ・ク エ ス チ ョン)が 関 わ って い. る。 代 表 訳 の 共 同事 業 が 決 議 され て 以 降 、 主 にtheos. と pneuma. の訳語 をめ ぐっ. て、 「上 帝 」 「(聖)神 」 を主 張 す る ロ ン ドン伝 道 会 の メ ドハ ー ス ト、 レ ッグ らと 、 「神 」 「(聖)霊 」 を主 張 す る米 国 長 老 会 の ラ ウ リー 、 米 国 聖 公 会 の ブ ー ン ら と の 間 で 、所 謂 タ ー ム ・クエ ス チ ョ ン(用 語 問題)の pneuma. 論 争 が 繰 り広 げ られ た 。. の 訳 語 に 「神 」 を 用 いれ ば 、(「神 」 は悪 霊 や 汚 れ た 霊 の 訳 に も用 い る. こ とが で き るの で)マ. タ イ12章 第43節 の akathartos. pneuma を 「邪 神 」 と訳 す こ. とが で き る 。 これ が メ ドハ ー ス トの意 見 で あ り、 代 表 訳 で は メ ドハ ー ス トの意 見 を採 用 して この 〈悪 霊 と して の悪 魔 〉 を 「邪 神 」 と訳 して い る。 一 方 、 ゴ ダ ー ド(代 表 委 員 を 脱 会 し て い る)が1847年 に 発 表 した 考 察 に 一45一 に).

(5) の 翻 訳 に 対 す る意 見 が 見 られ た 。 彼 は 「風 」 「鬼 」 「霊 」 の う ち、 どの語. pneuma. が 最 もpneuma. と よ く対 応 す るか を 検 討 し、 「霊 」 は 、 pneuma. に完全 に一致 し. て い る とは い え な い が 、 幾 っ か の 重 要 な類 似 点 が あ るの で pneuma. には 「霊 」 を. 用 い るの が 良 く、 「鬼 」 は 人 の 死 後 の 霊 及 び他 の 霊 的 存 在 を 表 す の に 用 い られ る が 、 そ れ 自体 に 下 等 で 堕 落 の 観 念 を 含 ん で い る、 と 述 べ た 。 っ ま り 、 当 該 部 分 (〈悪 霊 〉)の よ う な 場 合 は(「 霊 」 は 善 良 ・卓 越 の よ う な 良い 意 味 しか 持 た な い の で)「 霊 」 を用 い る こ とが で きず 、「汚 鬼 」 の よ う に 「鬼 」 を 用 い る のが 妥 当 だ と い う こ と に な る。BC訳 thartos. は ゴ ダー ドの主 張 と同 じ くpneuma. を 「霊 」 と し、 aka-. の よ う な 〈悪 霊 と して の悪 魔 〉 に は 、 「汚 鬼 」 の よ う に 「鬼 」. pneuma. を 用 い て い る。 日本 で の 聖 書 和 訳 業 に お い て は 、 翻 訳 委 員 会 はBC訳 theosを. 「神 」、 pneuma. を 「霊 」 と し、 akathartos. の 翻 訳 方 針 を踏 襲 して 、 の よ う な 〈悪 霊 〉. pneuma. の 時 は 「悪 鬼 」 と して い る。 また 、 こ の場 合 「鬼 」 を 用 い た 理 由 にっ い て は 、 翻 訳 委 員 会 の 中 心 で あ った ヘ ボ ン に手 に よ る 『和 英 語 林 集 成 』 初 版(1868)和 部 で は 「ONIオ で は 「ONIオ an epithet. also. dead. ニ A devil,. ニ A devil, for. demon. demon,. a powerful. NIA. 」 で あ るが 、 第 二 版(1872). Syn. fiend,. or bad. 英の. the man.. spirit. of. dead,. one. 」 と な り、 the. spirits. a ghost; of. one. (死 ん だ も の の 霊 魂)が 加 え られ て い る こ とが そ の 裏 付 け と な ろ う。. っ ま り、 横 浜 の教 派 合 同 の 宣 教 師 会 議 が 開催 され 、 日本 語 訳 聖 書 の 出版 が 企 画 され た1872年 の段 階 で 、 ヘ ボ ン は 「鬼 」 ニ 「死 ん だ もの の 霊 魂 」 と い う知 識 、 前 述 の ゴ ダー ドの 「鬼 」 に 関 す る見 解 と 同様 の 知 識 を 持 ち始 め て い た の で あ る。 た だ し、〈悪 霊 と して の 悪 魔 〉 を 訳 す と き、BC訳 akathartos. pneuma. で1もdaimonion. は 「鬼 」、. は 「汚 鬼 」 と、 訳 語 を 一 定 さ せ て い な いが 、 翻 訳 委 員 会 訳. )akathartos. 「悪 鬼 」 と し、 一 っ の 訳 語 に統 一 して. pneuma. い る。 そ の点 に お い て 、 翻 訳 委 員 会 訳 は 、BC訳 BC訳. で は daimonion. の 翻 訳 方 針 を踏 襲 しな が ら も、. よ りも 〈悪 霊 と して の 悪 魔 〉 の訳 語 を 統 一 しよ う とす る意 識 が 強 か った も. の と思 わ れ る。 5.訳. 語 「悪 魔 」 に つ い て. 明治 期 の新 漢 語 創 出 に大 き な役 割 を果 た した 英 華 字 典 類 は 、翻 訳 委 員 会 訳 が 訳 語 「悪 魔 」 を採 用 した 経 緯 に は関 係 して い ない 。 なぜ な ら、 日本 へ の 影 響 が 大 き か った 以 下 の三 字 典 と も、 「魔 鬼 」 は 採 用 して い る が 、 「悪 魔 」 は どの 字 典 も採 用 して い な い か らで あ る。. (R・. モ リ ソ ン 英 華 字 典(1820)). ・DE•rIL. , is by the. Mahomedans. called 一44「 σり. 魔 首;被 Seduced. by the. devil ,.

(6) 魔 之 誘;天 Devils,. deification ・DEMON,. or. of Sacya. bad. celestical. spirits,. by an evil. spirit,. 鬼;. These. opposed. 神;魔. 鬼;邪. 神;悪. the. Budh.. 鬼 ,悪expressed. 鬼;狂. 惇 的悪神 (メ ドハ ー ス ト英 華 字 典(1847)) ・DEMON. 鬼 、 魔 、 天 怪 、 魔 鬼 、 邪 神 、 悪 鬼 、 汚 神 、 鬼 魅(後. ・DE•rIL. 魔 鬼 、 悪 鬼 、 邪 鬼(後. 略). 略). (ロ ブ シ ャ イ ド英 華 字 典(1866‑7)) ・Demon,. 鬼 、 魔 鬼 、 邪 神 、 鬼 怪 、 妖 精 、 汚 神 、 悪 鬼;. demons, Devil,. 鬼 魁;鬼 demon. an evil. devils,鬼. spirit. and. spirits,. or being,. chief. the. of. 神. 鬼 、 魔 鬼 、 悪 鬼 、 邪 鬼;. chief. the. of the. 魁 、鬼 頭. も と も と 「悪 魔 」 と い う語 は 仏 典 語(パ ー リ語mara、 サ ン ス ク リ ッ ト語 =(魔 羅))で あ り mara 、〈仏 道 を 妨 げ る一 切 の 悪 神 、 仏 に敵 対 す る鬼 神 〉 の こ と で あ っ た 。 最 初 期 仏 教 に お い て 、 『相 応 部 』 経 典 中 の 「悪 魔 相 応(パ. mara - sarhyuttaM). ー リ語. 」 の 中 に悪 魔 の 古 い物 語 が収 め られ て い る。. この 「悪 魔 相 応 」 中 に 、 悪 魔 波 旬 が 世 尊 波 羅 奈(パ ー ラナ シー)に 人 との/悪 魔 の係 蹄 に か ゝれ り。/汝. は悪 魔 の 縄 に て 縛 られ ぬ 。/沙. 「汝 は 天 と 門よ、汝は. 未 だ 我 よ り免 れ じ」 と語 り、世 尊 が 「我 は天 と人 との/悪 魔 の係 蹄 よ り脱 れ ぬ。/ 我 は 悪 魔 の縛 よ り脱 れ ぬ 。/破 壊 者 よ 、汝 は 敗 れ た り」 と答 え る場 面 が あ る。 悪 魔 は 「破 壊 者 」 と呼 ばれ 、世 尊 を 堕 落 へ と誘 惑 しよ う と して い る。 この 〈破 壊 者 〉 〈堕 落 へ の誘 惑 〉 とい う点 にお い て 、〈悪 を 表 現 し正 しい 道 か らの 堕 落 を 誘 惑 す る悪 魔 〉 と共 通 点 を持 って い た 。 また 、漢 訳 の 仏 典 にお い て も、 東 晋 の 吊. 梨蜜 多羅 訳 の仏 典 「仏 説 灌 頂 経 」 に、. 仏 陀 の こ とば と して 「使 我 来 世 擢 伏 悪 魔 及 外 道 」 と あ り、mara一. の 漢 訳 語 「悪 魔 」. が 仏 に 敵 対 し降 伏 され る存 在 と な って い る。 日本 に 目 を転 じる と 、 ま ず 『梁 塵 秘 抄 』 に 「不 動 明 王 恐 しや 、 怒 れ る姿 に剣 を 持 ち、 索 を 下 げ 、 後 に 火 焔 燃 へ 上 る と か や な、 前 に は 悪 魔 寄 せ じと て降 魔 の 相 」 (巻第 二. 仏 歌 十 二 首)と. あ り、 悪 魔 は 仏 に 敵 対 す る存 在 と して 書 か れ て い る。. また 、 謡 曲 『調 伏 曽我 』 に も 「東 方 降 三 世 明王 は 、 降 三 世 明 王 は 、 青蓮 の砒 に 、 悪 魔 を降 伏 して 、 壇 上 に翔 り給 へ ば」 と あ り、 日本 に お い て仏 教 的 な 文脈 で 用 い られ て い た仏 典 語 「悪 魔 」 は 、 日本 に お い て も仏 道 か らの引 き離 しを 企 む 存 在 で あ り、神 へ の 信 仰 か らの 引 き離 しを 企 む キ リス ト教 の 悪 魔 と 同様 の役 割 を 担 っ て いた た め 、翻 訳 委 員 会 訳 で は 〈悪 を 表 現 し正 しい 道 か らの堕 落 を 誘 惑 す る悪 魔 〉 に 「悪 魔 」 とい う訳 語 を採 用 した の だ と思 わ れ る。 う43一 G⇒.

(7) しか しなぜ 「魔 鬼 」 と い う 中 国 語 訳 を そ の ま ま採 用 せ ず に 、 訳 語 「悪 魔 」 を採 用 した の だ ろ うか 。 翻 訳 委 員 会 訳 は 、 二 種 類 の 〈悪 魔 〉 を 原 典 に忠 実 に訳 出 して い た 。 そ の た め 、 〈悪 を表 現 し正 しい 道 か らの 堕 落 を 誘 惑 す る悪 魔 〉 を 中 国語 訳 聖 書 に倣 って 「魔 鬼 」 とす れ ば 、 ど ち らの 〈悪 魔 〉 も 「鬼 」 字 を含 む こと に な り、 二 種 類 の悪 魔 が と も に 「鬼(た. ま しい)」 と い う共 通 点 を 持 っ よ う な誤 解 を生 む. お そ れ が あ る。 そ の混 同 を避 け るた め に、 中 国 語 訳 聖 書 の 「魔 鬼 」 を採 用 せ ず に 、 日本 にあ った 仏 典 語 「悪 魔 」 を 訳 語 と して採 用 した の だ ろ う。 こ の点 に お い て 、 〈悪 を 表 現 し正 しい 道 か らの 堕 落 を 誘 惑 す る悪 魔 〉 を も 「鬼 」 字 を 含 む 訳 語 「魔 鬼 」 を採 用 した 中 国語 訳 聖 書 とは 一 線 を画 して い る。 また 、 「魔 鬼 」 よ り も 「悪 魔 」 が 日本 人 には 分 か り易 い と判 断 した 面 も あ ろ う 。 例 え ば 、 ヘ ボ ン ・ブ ラ ウ ン訳 と呼 ばれ る聖 書 で は 「さ て耶 蘇 られ ん た め に. 聖霊 に. あ く まに ご ゝろ ミ. 野 に ミち びか れ り」(マ タ イ4章 第1節)の. よ う に 、「悪. 魔 」 が 仮 名 で 書 かれ て い る。 また 翻 訳 委 員 会 訳 以 前 に翻 訳 され た 中村 正 直 の 『西 国立 志 編 』(明 治4年. 出版)に. は 「魔 鬼 ノ会 堂 ト為 ル ベ キ ナ リ」 と、 「魔 鬼 」 に. 「あ く ま」 とル ビが 振 られ て い る。 そ こに は 、 日本 人 に は 「魔 鬼 」 は 分 か り に く く、 「悪 魔 」 は 分 か りや す い と い う両 者 の意 識 が うか が え る。 だ か ら こそ ヘ ボ ンは 自 らの私 訳 聖 書 で 「あ くま」 と 仮 名 を 使 う こ と が で き 、 中 村 は(お. そ ら く ロ ブ シ ャイ ドの 字 典 を参 考 に した). 「魔 鬼 」 とい う語 に 、 日本 人 に 馴 染 み 易 い 「あ くま 」 と い う ル ビを振 ら なけ れ ば な らな か った の で あ る。. 馴 染 み 易 い 語 、 と い う観 点 か ら考 え る と、 翻 訳 委 員 会 訳 以 前 の 日本 語 訳 聖 書 で 〈悪 魔 〉 の訳 語 と して 採 用 され て い た 「鬼(お. に)」 が あ る。 翻 訳 委 員 会 訳 で 二種. 類 の 〈悪 魔 〉 が 原 典 に忠 実 に 訳 出 され て いた こ と は 前 述 した が 、 それ 以 前 の 日本 語 訳 聖 書 に お い て は 、 以 下 の よ う に 二 種 類 の く悪 魔 〉 は と も に 「鬼(お. に)」 と. 訳 され て きた 。 (ギ ュツ ラ フ 訳 ・ヨハ ネ13章 第2節) ・フル マ井 ドキ ニ 、 ア ニ (daimonion) ハ ラ ニハ イ デ. ガ ノ ヒ トハ. ヱ ズ ゝヲ. バ. (ベ ッテ ル ハ イム 訳 ・ヨハ ネ13章 第2節) ・ユ ウバ ンナ テ カ ラ ヲ ニ (daimonion). カ リ ヨ トロ ニ ン. ユ ダズシモ ンノ. ツゲ タ イ ヤ. ヨ ダス. イ シ カ リ ヨテ. スマ ン. ガク (ゴ リ ブ ル 訳 ・マ タ イ4章1節) ・さ て イ エ ス お に (diabolos) たまに. さそわれ. ゝ. た まふ た. 「42「 俸). そ ゝの か さ る ゝ. や うに. のべゑ. ミ.

(8) また 、 ギ ュツ ラ フ とべ ッテ ル ハ イ ムが 参 考 に し、 ヘ ボ ン も見 た こ と の あ る(手 沢 本 あ り)メ. ドハ ー ス トに よ る語 彙 集 『英 和 和 英 字 彙 』(1830)に. も 「Devil.. ヲ ニ」 と あ る。. 0-ni.. も と も と 日本 の 鬼 は 、 仏 教 の影 響 に よ って 凶 悪 で 威 嚇 の表 情 を積 極 的 に 持 ち始 め た 。 馬 場 あ き子 氏 に よれ ば 、 日本 に お い て 鬼 が 造 形 化 され て い くの は 、 仏 教 の 影 響 も あ るが 、 「鬼 門(艮)に. 居 座 す る ゆ え 」 と い う 語 呂合 わ せ 的 俗 説 も 考 え ら. れ る 、 と 言 う。 「かみ 」 「お に」 の居 所 と して は、 民俗 学 で は海 の 彼 方 や 山 の む こ う に 、 一 種 の 異 郷 を想 定 して い る。 陰 陽 道 で は 艮 の隅(東. 北)を 魔 神 の 出入 す る. 方 向 と して い るが 、 これ は鬼 星 の あ る方 向で も あ り、 陰湿 な 北 東 の 風 〈鬼 北 〉 と 呼 ばれ る風 の 吹 く方 向 で あ る。 この 艮の 方 向 を 、牛 と 虎 の 要 素 よ り造 形 され て ゆ く鬼 の 塑 像 の 原 因 に あ て た 俗 説 は 、 た ぶ ん に結 果 論 的 で は あ るが 、 お そ ら く貴 重 この 上 ない 虎 皮 の美 へ の 瞠 目 と、 そ れ を ま と う者 が 持 っ で あ ろ う圧 倒 的 な 力へ の 空 想 が な さ しめ た も の と して お も しろ い 、 と の説 が 説 か れ て い る。 ま た 、『訓 蒙 図 彙 』 に 「鬼 (き)」 の 図 が 掲 載 され て い る が(図. 参 照)、 この 図 に つ い. て は 和 田 正 路 の 随 筆 『異 説 ま ち〈. 』(寛 延 元 年(1748). 八 月 奥 書)に. 、 「鬼 の 絵 に 虎. の 皮 の腰 あ て を 書 く事 、古 法 眼 元 信 よ り と云 。 訓 蒙 図彙 に あ り。 絵 は 土 佐 風 也 。 鬼 の体 着 た る も の な ど別 の も の也 。 今 で は夜 叉 と いふ も 、獄 卒 と い ふ も 混 じた る や う 也 。」 と あ る。 『異 説 ま ち 〈. 』 の 説 の 真 偽 の ほ どを 確 か め るす べ は今 は な いが 、 仏 教 の影 響. や 「艮」 か らの連 想 、 ま た 『山 海 経 』 か らの影 響 な ど に よ っ て 、鬼 が だ ん だ ん と 『訓 蒙 図 彙 』 に あ る よ う な姿 に造 形 化 さ れ て い った 、 と考 え て 良 い よ うで あ る。 す なわ ち 、 日本 で は 、 鬼 は 上 述 の よ う な様 々 な過 程 を 経 て造 形 化 され て い った もの で あ り、 当然 日本 人 には 非 常 に馴 染 み 深 い(も. しか す る と仏 教 に お け る 「悪. 魔 」 以 上 に)も の で あ った 。 そ れ に も関 わ らず 、 ヘ ボ ンは 翻 訳 委 員 会 訳 で は く悪 魔 〉 を 「鬼(オ. ニ)」 とは. 訳 さ な か った 。 なぜ なの か 、 そ の理 由 を探 る には 、 プ ロ テ ス タ ン ト主 義 の 聖 書 に 対 す る態 度 を 考 慮 に入 れ る のが 有 効 で あ る。 プ ロテ ス タ ン トは 、〈信 仰 の み 〉 と い う原 理 を持 っ 。 そ の原 理 は す な わ ち 聖 書 一41 ←).

(9) の み (sola. の 原 理 に通 ず る。 そ うす る と 〈悪 魔 〉 は 、 聖 書 に 書 か れ た. scripta). 〈悪 魔 〉 の み が 真 実 で あ って 、 民 間 の迷 信 と 〈悪 魔 〉 を結 び っ け る こ とは 、 プ ロ テ ス タ ン ト主 義 に基 づ け ば 大 き な過 ち と な る ので あ る。 時 代 を 通 して さ ま ざ ま な も の と結 び っ い て造 形 化 され て ゆ き、 日本 人 に と って 想 像 (image). しや す か った 鬼 、 そ れ を プ ロ テ ス タ ン トの 「聖 書 の み 」 と い う 原. 理 に 照 ら して考 え る と 、 日本 で 「鬼 」 を 〈悪 魔 〉 の訳 語 と して 採 用 す る の は 著 し く不 適 当 だ った の で あ る 。 6.お. わ りに. 翻 訳 委 員 会 訳 は 、二 種 類 の 〈悪 魔 〉 をギ リシ ア原 典 に 忠 実 に訳 出 し、 それ ぞ れ の 〈悪 魔 〉 の 持 っ 性 質 を 考 慮 した 上 で 「悪 鬼 」 「悪 魔 」 と い う訳 語 を 選 定 した 。 二 種 類 の 〈悪 魔 〉 の性 質 の 混 同 を 避 け 、 よ り 日本 人 に 分 か りや す くす る た め に 中 国 語 訳聖 書 の 「魔 鬼 」 は し りぞ け られ 、 か つ 、 プ ロテ ス タ ン トが持 っ 「聖 書 のみ 」 の 原 理 に照 ら して 「鬼 」 は しりぞ け られ た の で あ る。 そ れ は キ リス ト教 に お け る 〈悪 魔 〉 の と らえ 方 、 ま た 、 翻 訳 者 自身 の宗 教 的 背 景 、 さ ら に 日本 の 文 化 的 背 景 な どが 複 雑 に絡 み 合 って 訳 語 採 用 が 行 わ れ た 結 果 で あ った 、 と言 え よ う。 翻 訳 語 の 問題 の 本 質 は 、 この よ う に様 々 な要 素 を複 合 的 に考 え な くて は 見 え て こ な い。 本 稿 で は 、 この よ う な個 別 的 検 証 を行 う こ とに よ っ て、 そ の 本質 の 一 端 を わ ず か なが ら示 した っ も りで あ る。. 注1旧. 約聖 書 は、 複 数 の 人 間 に よ る分 担 翻 訳 とい う形 を と り、 『旧約 聖 書 16年)『 旧 約聖 書. 2「. 代 表訳 」rBC訳. 詩 編 』(明 治19年)等. 創 世 記 』(明 治. と分 冊 出版 され た。. 」 の あ らま しにっ いて は 土 岐健 治 「邦 訳 聖 書 の 源 流 と して の漢 訳 聖. 書 」(『月刊 しに か 』9月 号 、1993)に 宣 教 師 の代 表 た ち (delegates). 詳 しい。1843年 、 英 米 各 宣 教 師会(教. 派)の. の 共 同作 業 に よ る 従 来 の 中 国 語 訳 聖 書 に 代 わ る新 た. な聖 書 改 訳 が 企 画 され 、1852年 に 「新 約 全 書 」 が 完 成 、 「代 表 訳 」 (The Delegate's. version). と 呼 ばれ た 。 しか し、 この 過 程 で 、 まず バ プ テ ス ト派 の代 表(委 員)が 辞 任 し、 次 いで 、 英 国系 と米 国系 の 委 員 力:theos とpneuma の 訳語 を 巡 って対 立 し、 い っ た ん は 妥協 が 成 立 した が 、結 局英 国 系 委 員 と米 国系 委 員 は 分 裂 し、 英 国系 は1854年 に 「旧約 全 書 」 を刊 行 、 米 国 系 は1859年 に新 た な 「新 約 全 書 」 を、1862「3年 に 「旧 約 全 書 」 を 発 行 した 。 こ の 米 国 系 委 員 に よ る翻 訳 が 、 訳 業 の 中 心 的 役 割 を 担 った ブ リ ッ ジ マ ン と カ ル バ ー トソ ン二 名 の 名 に よ り 「ブ リ ッジ マ ン 「 カル バ ー トソ ン訳 (BC訳)」 3代. と呼 ばれ る こ とに なる 。. 表 訳 ・BC訳. は 「文 理 訳 (Wenli) 」 と総 称 さ れ るが 、 翻 訳 委 員 会 訳 で 参 照 され た. の は北 京 官 話 に よ る 「官 話 訳 (Mandolin) 」 で 、 シ ェ レシ ェフス キ ー の 手 に よ る。 そ の 「新 約 全 書 」 は1866年 な い し8年 頃 完 成 、 「旧約 全 書 」 は1874年 にそ れ ぞ れ 完 成 し て 出版 され た(合 本 は1878年)。 本稿 で は官 話 訳 は 参 照 して い な い。 4川. 島 第 二郎 「初 期 の 日本 語 訳聖 書 と 中 国語 訳 聖 書 」(『月 刊 しにか 』11月 号 、1993)に. 一40「 (∋.

(10) よ る。 5. 森 岡 健 二編 『近 代 語 の成 立 ・明 治期 語 彙 編 』(1964、 明 治 書院)中. 「新 約 聖 書 の 和 訳」. に よ る。 6. た だ し、森 岡 氏 の調 査 で はBC訳. と翻 訳 委 員 会 訳 の み が調 査 の対 象 で 、 他 の 中 国 語訳. 聖 書 は参 照 され てい な い。 7. た だ し、翻 訳委 員 会 訳 は 全 て の 〈悪 魔 〉 を 「悪 魔 」 と 訳 したわ け で は な く、 中 国 語訳 聖 書 も全 て を 「魔 鬼 」 と訳 した わ けで は ない。 そ の 理 由 につ いて は 後述 す る。. 8. た だ し、 ヘ ブ ライ 語 のsatanは も と も と 「敵 対 者 」 以 上 の 意 味 は 持 た な か ったが 、紀 元前 三 百 年 以 前 に 旧約 聖 書 が ギ リシ ア語 に訳 され た 時 、ヘ ブ ラ イ語satanを 語diabolosに. 9. ギ リシ ア. 置 き換 えた ア レクサ ン ドリア のユ ダヤ 人た ちに よ って混 同 が 始 ま った 。. イギ リス の 国王 ジ ェー ムス ー世 が54人 の学 者 を 集 め て翻 訳 に あた らせ た 英 訳 聖 書 で あ る。7年 の歳 月 を か け1611年 に 出版 され た。. 10. 〈悪 霊 と して の悪 魔 〉 の翻 訳 に関 して は 、中 国語 訳 聖 書 の う ちBC訳. の翻 訳 方 針 を踏. 襲 して い た。 詳 し くは後 述 。 11. 鈴 木広 光 「漢 訳 聖書 にお け るpneuma. の翻 訳 に っ い て」(『キ リス ト教 史学 』49、1995). に よ る。 12. 〈悪 霊 と して の 悪 魔〉 の訳 語 だ った ギ リ シア 語 daimonion. は 、 も とも と 死 ん だ英 雄 の. 霊 を 表す こ とが 多 か った 。 13. 「悪 鬼 (akathartos. pneuma). 人 よ り 出 て旱 た る地 を巡 り安 息 を求 れ ど も得 ず して 日. け るハ 」(マ タイ12章 第43節) 14. 日本 語 訳 は 『南伝 大 蔵経 』 第 十 二巻 相 応 部 経典 一 に よ る。. 15. 本文 は 新 日本 古 典 文学 大系56『 梁塵 秘 抄. 16. 青 い蓮 華 は仏 眼 の喩 え 。. 17. 本文 は 日本古 典 文 学 大 系41『 謡 曲集. 18. しか し、 日本 に は、 取 り愚 いた 悪霊 を取 り除 くため の ま じな い 「悪魔 祓 い」 が あ った。. 閑吟 集 ・狂 言歌 謡 』 に よ る。. 下 』 に よ る。. 例 え ば近 松 の 浄 瑠 璃 「出世 景 清 」(貞 享2年(1685)初. 演)に 、 小 野 姫 が 父 で あ る大. 宮 司 と夫 の 景清 の無 事 を祈 り、魔 除 け に 弓を 取 る場 面 に 「悪 魔 祓 へ と取 る弓 の」 と い う表 現 が あ る し、 噺 本 に も 「悪 魔 祓 」 とい う噺(安. 永6年(1777)正. 月 刊 「春 岱 」). が あ る。 また 、 「厄 払 」 が 唱 え る文 句 の 中 に も 「イ カナ ル 悪 魔 ガ来 ル トモ 此 厄 払 ガ ヒ ツ トラへ 」 と い う言 い回 しが あ った。 つ ま り 日本 の 「悪 魔 」 には 「悪 霊 」 と い う意 味 もあ った の で あ る。 す なわ ち、 〈悪 を表 現 し正 しい 道 か らの 堕 落 を誘 惑 す る悪 魔 〉 を 「鬼 」 字 を含 ま な い 「悪 魔 」 と訳 して も、 日本 人 が 二 種 類 の 〈悪 魔 〉 の 性 質 を 混 同 し て しまう と い う可能 性 は 残 って いた 。 19. r新 約 聖 書 馬 太 伝 』。 ヘ ボ ン、S・R・. ブ ラウ ンが 、バ ラ、 タム ソ ン らの協 力 を得 た 訳. 業 を 、 前者 の二 人 が 完 成 させ た も ので あ る。 この 『新 約 聖 書 馬 太伝 』 は1873年 に東 京 で 刊 行 され た。 こ の作 業 は 、 ヘ ボ ン と ブ ラ ウ ンは それ ぞ れ 日本 人 教 師 に 中 国語 訳 聖 書 の 書 き下 し文 を作 らせ る ことか ら始 ま った 。 そ の際 、 代表 訳 とBC訳 書 き下 し文 の底 本 と な った の はBC訳. が 参 照 され た が 、. で あ る。 中 国語 訳 聖 書 へ の 依存 度 は 、文 体 ・用. 字 とも極 め て 高 い。 20. 九州 大 学 附属 図 書 館蔵 『西 国 立 志編 』(明 治10年 出版)に よ る。. 21. 『約 翰 福 音 之 伝 』。 この書 の翻 訳 は 、 ギ ュツ ラ フ に よ って1836年 に マ カ オ で尾 張 出身 の 三 人 の 無学 な漂 流 漁 民 相 手 に始 め られ た 。 彼 らは漢 文 を読 め なか った し、 ギ ュ ツ ラ フ. 一39「 (∋.

(11) 自身 も彼 らか ら 日本 語 を 学 ん だ程 度 で は、 中 国 語 訳聖 書 の書 き下 し文 を 作 る こ と は 出 来 なか った 。 訳語 にも 中 国語 訳聖 書 の影 響 を 明確 に見 出せ ない。 22. ア ニ→ ヲニか?. 23. 琉 球 訳 『約 翰 伝福 音 書』。1847年 訳 了 、1851年 香 港 で 出版.ベ. 24. 『摩 太 伝 福音 書 』。1871年 東 京 で 出 版。 ゴー ブ ル に よる 。 ゴー プ ルは アメ リ カバ プ テ ス. ッテル ハ イ ム によ る。. ト派 宣 教 師 。 彼 は1862年 日本 人 助 手 に 、 同 じア メ リカバ プ テ ス ト派 の ゴ ダー ドの訳 に よ る中 国語 訳 聖 書 『聖 経 新 遺 詔全 書 』(ゴ ダー ド訳 と呼 ば れ る)の 書 き下 し文 を作 らせ た 。 この 影 響 は 平仮 名 分 か ち書 き を主 に した 俗 語 訳 の 本 書 に も 、文 章 、 用 字 の 上 に 多 く見 られ る。BC訳. も 、ヘ ボ ン らとの 対抗 上 参照 され て い る。. 25. 馬場 あ き子 『鬼 の研 究 』(ち く ま文庫 、1988、 筑摩 書 房)に よ る。. 26. ま た 馬場 氏 は 、鬼 の造 形 化 に寄 与 した そ の他 の要 因 と して 、『山海 経 』 に あ らわ れ る獣 皮 を まと った 山 の主 神 を挙 げ て い る。. 27. 『 近 世 文 学 資料 類 従. 28. 本文 は 『日本 随 筆大 成. 29. 参 考文 献 編4訓. 蒙 図彙 』所 収 の 複製 に よる。. 第九 巻 』 に よ る。. しか し 『和 英 語 林集 成 』 で は 、 す べ て の版 で 〈悪 魔 〉 の 日本 語 訳 に 「オ ニ」 を 採 用 し て い る。聖 書 とは違 って 、辞 書 で は多 様 な訳 語 を提 示 した のだ と思 わ れ る。. 30. また 、 日本 の 鬼 が持 つ 性 質 自体 が 〈悪 魔 〉 と異 な って い た 、 と い う意 見 が ル ー サ ー ・ リ ンク 『悪 魔 』(高 山宏 訳 、1963、 研 究 社)の 訳 者 に よ って 述 べ られ て い る。 「な るほ どさ ま ざ ま な種 類 の 鬼 は い るが(中 略)第 一 す べ ての 鬼 が 悪 の存 在 で も ない 。 そ れ か ら鬼 の どん な物 語 や 絵 、彫 刻 を見 て も、仏 陀 を表 す 善 き力 に 戦 い を挑 む 鬼 とい う表 現 は な い。 これ らを 考 え てみ る と、 日本 で 言 う 「鬼 」 が 悪 魔 に 当 る存 在 で は ない こ とは 歴然 と して い る。」(『悪 魔』 「日本 の読 者 の ため に」 中 よ り) (そん だ さ きこ ・本学 大 学 院博 士 後 期課 程). 一38一 ㊨.

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参照

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