四天王寺大学審査学位論文 要旨
身体障害者福祉法における対象規定の 源流に関する研究
藤井 渉
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<博 士 学 位 請 求 論 文 の 主 要 目 次>
序 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
5( 1 ) 身 体 障 害 者 福 祉 法 の 対 象 規 定 の 源 流 と は ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
6( 2 ) 障 害 概 念 の 実 証 的 研 究 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
6( 3 ) 障 害 認 識 の 二 重 性 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
8第 1 章 軍 事 政 策 に お け る 障 害 認 識 の 展 開 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
12は じ め に ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
12第 1 節 徴 兵 令 の 成 立 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
13第 2 節 新 徴 兵 令 の 制 定 と 「 廃 疾 又 ハ 不 具 等 」 規 定 の 登 場 ・ ・ ・ ・ ・ ・
17( 1 )「 廃 疾 又 ハ 不 具 等 」 の 中 身 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
17( 2 ) 体 格 等 位 の 選 別 基 準 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
20( 3 )
1920年 に お け る 徴 兵 検 査 規 則 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
35第 3 節 兵 役 法 下 の 徴 兵 検 査 基 準 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
37( 1 ) 兵 役 法 に お け る 「 兵 役 ニ 適 セ ザ ル 者 」
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
38( 2 ) 合 格 基 準 の 緩 和 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
39第 4 節 除 役 問 題 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
41お わ り に ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
46第 2 章 壮 丁 体 位 低 下 問 題 と 障 害 へ の 対 策 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
48は じ め に ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
48第 1 節 丙 種 ・ 丁 種 の 実 態 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
48( 1 ) 丙 種 ・ 丁 種 の 割 合 と そ の 変 遷 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
49( 2 ) 丙 種 ・ 丁 種 の 実 態 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
51( 3 ) 丙 種 ・ 丁 種 の 実 態 の 考 察 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
53第 2 節 「 兵 力 及 び 労 働 力 の 貯 水 池 」 と し て の 農 村 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
56第 3 節 徴 兵 検 査 に お け る 結 核 問 題 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
61第 4 節 人 口 政 策 と 保 健 国 策 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
65第 5 節 国 民 体 力 法 の 制 定 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
70第 6 節 国 民 優 生 法 の 制 定 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
75お わ り に ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
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第 3 章 社 会 保 障 制 度 に お け る 「 不 具 ・ 廃 疾 」 概 念 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
80は じ め に ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
80第 1 節 医 療 保 険 と 年 金 保 険 に お け る 廃 疾 問 題 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
80第 2 節 年 金 保 険 制 度 の 制 定 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
81第 3 節 船 員 保 険 法 と 労 働 者 年 金 保 険 法 の 制 定 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
82第 4 節 廃 疾 年 金 の 対 象 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
84第 5 節 廃 疾 年 金 の ね ら い ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
87( 1 ) 年 金 保 険 制 度 の 目 的 と 廃 疾 年 金 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
87( 2 ) 可 能 性 と し て 結 核 へ の 対 応 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
88( 3 ) 労 務 災 害 へ の 対 応 と い う 側 面 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
91第 6 節 恩 給 法 に お け る 「 不 具 廃 疾 」
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
95( 1 ) 軍 人 恩 給 の 登 場 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
96( 2 ) 恩 給 法 の 制 定 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
98お わ り に ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
101第 4 章 戦 後 福 祉 改 革 に お け る 身 体 障 害 者 福 祉 法 の 制 定 ・・・・・・・・
103は じ め に ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
103第 1 節 傷 痍 者 保 護 対 策 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
103第 2 節 傷 痍 者 保 護 対 策 の 統 計 か ら み る 対 象 者 像 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
106第 3 節 身 体 障 害 者 福 祉 法 の 成 立 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
109第 4 節 身 体 障 害 者 福 祉 法 案 に お け る 統 計 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
114第 5 節 身 体 障 害 者 福 祉 法 別 表 の 登 場 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
121お わ り に ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
126第 5 章 身 体 障 害 者 等 級 表 は ど こ か ら 来 た か ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
129は じ め に ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
129第 1 節 等 級 表 の 規 定 内 容 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
130第 2 節 等 級 表 の 登 場 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
133第 3 節 等 級 表 は ど こ か ら 来 た か ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
137第 4 節 等 級 表 の 比 較 検 証 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
139第 5 節 等 級 表 の 特 徴 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
149第 6 節 等 級 表 の そ の 後 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
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お わ り に ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
158終 章 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
161第 1 節 本 研 究 の 成 果 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
161( 1 ) 身 体 障 害 者 福 祉 法 の 対 象 規 定 の 源 流 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
161( 2 ) 結 核 と 障 害 と の 関 係 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
162( 3 )「 不 具 廃 疾 」 と 障 害 概 念 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
164( 4 ) 障 害 認 識 の 二 重 性 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
166第 2 節 本 研 究 の 限 界 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
169注 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
172参 考 文 献 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
2014
博 士 学 位 請 求 論 文 要 旨
Ⅰ 研 究 の 目 的
本 稿 は 、身 体 障 害 者 福 祉 法 に お け る 対 象 規 定 の 源 流 を 明 ら か に す る こ と で 、 今 日 の 障 害 者 福 祉 の 対 象 規 定 が ど の よ う な 歴 史 的 社 会 的 要 因 に よ っ て つ く ら れ て き た の か を 明 ら か に し 、 障 害 者 福 祉 が 対 象 と す る 障 害 概 念 の 検 証 を 行 う こ と を 目 的 と す る 。
昨 今 、 障 害 者 福 祉 は め ま ぐ る し く 変 化 を 見 せ 、 障 害 者 自 立 支 援 法 が 度 重 な る 反 対 運 動 や 政 治 的 変 動 に よ っ て 障 害 者 総 合 支 援 法 へ と 変 化 し て い る 。 そ の 過 程 で は 対 象 規 定 に も 変 化 が 見 ら れ 、 発 達 障 害 や 難 病 を 新 た に 障 害 福 祉 サ ー ビ ス の 対 象 に 加 え る な ど の 動 き を 見 せ て い る が 、 依 然 、 い わ ゆ る 「 谷 間 の 障 害 」 な ど 、 障 害 福 祉 サ ー ビ ス の 対 象 に な っ て い な い 人 た ち の 問 題 は 解 決 さ れ て い な い 。
福 祉 政 策 で は 必 ず し も 福 祉 を 必 要 と す る 人 々 の 実 態 に 即 し て 対 象 の 設 定 を 行 う 訳 で は な く 、 そ の 時 々 の 政 策 目 標 が 深 く か か わ っ て 規 定 さ れ る こ と に な る 。 と り わ け 昨 今 の 福 祉 抑 制 政 策 で は 、 障 害 支 援 区 分 に よ っ て 障 害 者 へ 給 付 す る 対 象 者 や サ ー ビ ス の 上 限 を 厚 生 労 働 省 が 事 実 上 細 か く コ ン ト ロ ー ル す る 仕 組 み が 導 入 さ れ 、 障 害 福 祉 サ ー ビ ス の 受 給 対 象 の 拡 大 に 制 限 が 加 え ら れ て い る 。
す な わ ち 、 実 態 と し て 障 害 に よ り 生 活 に な ん ら か の 公 的 な 援 助 を 必 要 と し て い た と し て も 、福 祉 政 策 が 対 象 課 題 と し て 認 識 す る 問 題 の 範 囲 は 限 定 さ れ 、 結 果 的 に 福 祉 サ ー ビ ス の 対 象 か ら 除 外 さ れ て し ま う 場 合 が あ る 。
こ の よ う な 福 祉 政 策 に お け る 対 象 の 限 定 は 、 今 日 に な っ て 問 題 視 さ れ た も の で は な く 、 障 害 者 福 祉 が 始 ま っ た 段 階 、 つ ま り は 身 体 障 害 者 福 祉 法 の 成 立 期 か ら 指 摘 さ れ て き た こ と で あ る 。 そ の な か で 、 障 害 者 福 祉 は 対 象 を 徐 々 に 拡 大 し て き た 歴 史 が あ る 。
で は 、 な ぜ 福 祉 政 策 は 生 活 問 題 を 抱 え る 障 害 者 を よ り 正 確 に 捕 捉 し な い の
か 、 何 に よ っ て そ の 範 囲 は 拡 大 縮 小 す る の か が 問 わ れ る 。 本 稿 の 大 き な ね ら
い は 、 そ の 疑 問 に つ い て 検 証 し 、 障 害 者 の 福 祉 政 策 に お け る 対 象 の 限 定 に ど
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の よ う な 論 理 や 法 則 性 が 働 い て い る か 、 反 対 に 対 象 を 拡 大 す る 要 因 と は 何 か を 明 ら か に す る こ と で あ る 。
本 稿 は こ の よ う な 問 題 意 識 か ら 次 の 3 点 に つ い て 検 証 を 行 う 。
第 一 に 、 身 体 障 害 者 福 祉 法 の 対 象 規 定 が ど の よ う な 経 緯 で 登 場 し て き た か を 明 ら か に す る こ と で あ る 。
身 体 障 害 者 福 祉 法 で は 別 表 に 対 象 と す る 障 害 が 規 定 さ れ 、 さ ら に そ の 具 体 的 な 内 容 を 定 め て い る も の が 身 体 障 害 者 福 祉 法 施 行 規 則 別 表 の 身 体 障 害 者 障 害 程 度 等 級 表 で あ る 。 そ の 表 に ど の よ う な 障 害 や 程 度 が 規 定 さ れ る か が 、 障 害 者 に と っ て は サ ー ビ ス を 利 用 で き る か ど う か を 決 定 づ け る 分 水 嶺 と な っ て い る 。
と こ ろ が 、 そ の 身 体 障 害 者 福 祉 法 の 対 象 が ど の よ う な 論 理 や 根 拠 で 決 め ら れ て き た か は 、 ほ と ん ど 明 ら か に さ れ て い な い 。 つ ま り 、 今 日 の 対 象 を 決 定 づ け て い る 制 度 の 論 理 や 根 拠 は 極 め て 不 明 瞭 に あ り 、 こ の 部 分 を 明 ら か に し な い 限 り 、 今 後 の 対 象 規 定 の あ り 方 を 考 え る う え で 大 き な 欠 陥 を 抱 え た ま ま で あ る と い わ ざ る を 得 な い 。
そ こ で 、 本 稿 で は 、 身 体 障 害 者 福 祉 法 の 対 象 規 定 が ど こ か ら 来 た も の な の か 、 そ こ に あ る 論 理 と は い っ た い 何 な の か に つ い て 検 証 を 行 う 。
第 二 に 、 対 象 規 定 の 源 流 を 探 る こ と で 、 障 害 者 福 祉 が 規 定 す る 障 害 概 念 に つ い て 検 証 を 行 う 。
当 然 な が ら 、 医 学 的 に 障 害 の 名 の 付 く も の を 有 す る 者 す べ て が 制 度 的 に 障 害 者 と し て 認 め ら れ る 訳 で は な い 。 医 学 的 な 診 断 が 、 そ の ま ま 制 度 に 反 映 さ れ る 訳 で は な く 、 そ こ か ら 部 分 的 に 制 度 上 で 障 害 と し て 取 り 上 げ ら れ 、 一 般 的 に も 認 知 さ れ る こ と に な る 。 そ の 間 に は ど う い っ た 論 理 が 介 在 し て い る の か 、 特 に 障 害 者 福 祉 が 具 体 的 に 障 害 と し て 捉 え て き た も の と は い っ た い 何 な の か を 、 本 稿 で は 歴 史 的 に 検 証 を 行 う 。
第 三 に 、 福 祉 の 制 度 ・ 政 策 に お け る 「 障 害 認 識 の 二 重 性 」 に つ い て 提 唱 す る 。
制 度 的 に 障 害 が ど の よ う に 認 識 さ れ て き た か を 考 え た 場 合 、 こ れ ま で の 歴
史 を 鑑 み る と 、 次 の 二 つ に 大 別 で き る も の と 思 わ れ る 。 第 一 は 、 障 害 を 固 定
的 な も の と し て 捉 え 、 国 家 や 軍 隊 な ど 、 組 織 集 団 に と っ て 望 ま し く な い も の
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と し て 排 除 対 象 と 認 識 す る も の で あ る 。 第 二 は 、 障 害 を 動 態 的 な も の と し て 捉 え 、 生 存 権 に と っ て の 課 題 と し て 認 識 す る も の で あ る 。
当 然 な が ら 、 生 存 権 や ソ ー シ ャ ル ・ イ ン ク ル ー ジ ョ ン が 理 念 と し て 掲 げ ら れ る 現 代 社 会 に お い て は 、 第 二 の 捉 え 方 が 好 ま し い こ と は い う ま で も な い 。 と こ ろ が 、 実 際 に は 第 一 の 捉 え 方 が 多 く 見 ら れ て き た こ と が 考 え ら れ る 。 そ こ で 本 稿 で は 、 障 害 に 対 し て 制 度 ・ 政 策 で は 二 つ の 捉 え 方 が な さ れ て き た こ と を 仮 説 と し て 設 定 し 、 そ の 検 証 を 行 う 。
Ⅱ 研 究 の 内 容
本 研 究 の 目 的 を 達 成 す る た め 、 本 稿 で は 次 の 内 容 に つ い て 述 べ て い る 。 第 1 章 で は 、 軍 事 政 策 に お い て 障 害 が ど の よ う に 認 識 さ れ て き た か を 明 ら か に し て い る 。
近 代 に お い て 障 害 が 制 度 ・ 政 策 の な か で 取 り 上 げ ら れ る よ う に な っ た の は 軍 事 政 策 で あ る 。 と り わ け 、 軍 事 政 策 の な か で も 障 害 を 具 体 的 に 取 り 扱 っ て き た 分 野 が 徴 兵 制 で あ る 。 徴 兵 制 で は 、 徴 兵 検 査 に お い て 「 不 具 廃 疾 」 を 程 度 別 に 細 か く 分 類 し 、 判 定 す る 仕 組 み が 展 開 さ れ て き た 。
徴 兵 制 は
1873年 の 徴 兵 令 に は じ ま る 。 徴 兵 制 は 幕 藩 体 制 か ら 天 皇 を 中 心 と し た 中 央 集 権 体 制 、 さ ら に は 近 代 国 家 へ と 移 行 さ せ て い く 手 段 と し て 欠 か せ な い も の で あ っ た が 、 そ の 制 度 は 強 引 に つ く ら れ た こ と で 事 実 上 皆 兵 と な ら ず 、
12条 も の 免 役 規 定 が 設 け ら れ 、そ の な か に 障 害 の 存 在 は 埋 没 し て い た 。 中 央 集 権 体 制 の 整 備 が 一 段 落 す る と 、 新 徴 兵 令 が
1889年 に ス タ ー ト し 、 国 民 皆 兵 を 行 う べ く 免 役 規 定 が 「 廃 疾 又 ハ 不 具 等 」 に 限 定 さ れ 、 障 害 の 存 在 は 兵 役 免 除 対 象 と し て 浮 き 彫 り に な っ て い っ た 。 新 徴 兵 令 で は 、 壮 丁 を 、 兵 隊 と し て の 能 力 を 基 準 に 甲 ・ 乙 ・ 丙 ・ 丁 に ラ ン ク 付 け し 、「 廃 疾 又 ハ 不 具 等 」 を 丁 種 不 合 格 と 位 置 づ け た 。 丁 種 不 合 格 は 様 々 な 障 害 の 種 類 と 程 度 を 並 べ 、 極 め て 詳 細 に 示 さ れ た 基 準 に よ っ て 判 別 さ れ る 仕 組 み に な っ て い た 。 そ の 基 準 は あ く ま で 近 代 兵 器 を 扱 う 兵 士 と し て の 能 力 を 前 提 に 組 み 立 て ら れ て い た の で あ る 。
第 2 章 で は 、 徴 兵 検 査 成 績 の 実 態 に 焦 点 を 当 て 、 そ の 成 績 は 兵 役 法 成 立 後
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低 下 し て い た こ と 、 戦 時 に 入 る と 成 績 低 下 と 関 連 し な が ら 社 会 保 障 制 度 の 展 開 に つ な が っ て い っ た こ と を 明 ら か に し て い る 。
徴 兵 検 査 の 成 績 低 下 に と っ て 深 刻 な 様 相 を 示 し て い た の が 結 核 で あ っ た 。 戦 時 に な る と 国 家 政 策 は そ れ を 重 大 視 し 、 矢 継 ぎ 早 に 人 的 資 源 の 確 保 の た め の 対 策 が と ら れ て い っ た 。 そ の 一 つ が 社 会 保 障 制 度 の 活 用 で あ り 、 医 療 保 障 分 野 で は 国 民 健 康 保 険 法 の 成 立 に よ っ て 主 に 農 村 部 の
sick poor対 策 が 講 じ ら れ て い っ た 。
ま た 、 徴 兵 検 査 成 績 の 低 下 を 受 け 、 成 績 を 引 き 上 げ る た め の 手 段 と し て 国 民 体 力 法 が 制 定 さ れ た 。 そ こ で 中 心 的 な 対 象 と さ れ た の が 筋 骨 薄 弱 者 や 結 核 要 注 意 者 で あ っ た 。 こ れ は 、 兵 役 法 で は 主 に 乙 種 お よ び 丙 種 と な る 者 に 該 当 す る 者 で あ っ た 。 そ の 対 象 は い わ ば 虚 弱 児 で あ り 、 障 害 が 重 度 な 者 は そ の 対 象 か ら 注 意 深 く 除 外 さ れ て い た 。障 害 が 重 度 な 者 に は 国 民 優 生 法 が 準 備 さ れ 、
「 断 種 」 の 対 象 へ と 位 置 づ け ら れ て い っ た の で あ る 。
第 3 章 で は 、 年 金 保 険 制 度 の 成 立 期 に 焦 点 を 当 て 、 廃 疾 年 金 を 取 り 上 げ て そ の 中 身 や ね ら い に つ い て 明 ら か に し て い る 。 ま た 、 恩 給 制 度 に つ い て も 取 り 上 げ 、 恩 給 制 度 で は 障 害 を ど の よ う に 捉 え て い た か を 検 証 し て い る 。 年 金 保 険 制 度 で は 、廃 疾 年 金 が す で に 労 働 者 年 金 保 険 法 成 立 時 か ら 登 場 し 、 そ の 対 象 は 労 働 能 力 に 基 づ い て 考 え ら れ て い た 。 た だ し 、 運 用 の 場 面 で は 具 体 的 な 「 廃 疾 」 の 種 類 や 程 度 が 勅 令 に よ っ て 定 め ら れ 、 官 僚 が コ ン ト ロ ー ル で き る 仕 組 み が 導 入 さ れ て い た 。
廃 疾 年 金 が つ く ら れ た 要 因 に は 、 結 核 と の 関 係 が 推 察 さ れ 、 ま た 業 務 災 害 へ の 対 応 と い う 側 面 が あ っ た 。
そ し て 、
1944年 の 厚 生 年 金 保 険 法 へ の 改 正 で は 障 害 用 語 が 用 い ら れ 、業 務 災 害 に よ る 「 廃 疾 」 に 対 応 す る た め に 等 級 表 の 仕 組 み が 登 場 し て い た 。 そ れ 以 前 に 、 恩 給 制 度 で は 少 な く と も
1892年 か ら 傷 痍 疾 病 を 細 か く 分 類 す る 等 級 表 の 原 型 の よ う な も の が 登 場 し て い た 。 軍 人 と 官 吏 の 恩 給 を 統 合 し た
1923年 の 恩 給 法 で は 、 そ れ を 基 礎 に し な が ら 「 不 具 廃 疾 」 の 中 身 を 細 か く 分 類 し 、 補 償 を 進 め て い く 手 段 と し て 等 級 表 が 登 場 し て い た 。
第 4 章 で は 、 身 体 障 害 者 福 祉 法 の 成 立 期 に 焦 点 を 当 て 、 福 祉 政 策 で は 対 象
を ど の よ う に 認 識 し 、 身 体 障 害 者 福 祉 法 の 別 表 が ど の よ う な 論 理 で 登 場 し て
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き た か を 明 ら か に し て い る 。
身 体 障 害 者 福 祉 法 案 が 検 討 さ れ る 前 段 階 に 実 施 さ れ た 傷 痍 者 保 護 対 策 で は 、 対 象 を 失 明 者 、 四 肢 切 断 者 、 結 核 患 者 、 頭 部 損 傷 者 と い っ た 分 類 で 把 握 し 、 対 策 が 行 わ れ て い た 。 そ の 資 料 と さ れ た 統 計 で は 、 傷 痍 者 全 体 で 元 傷 痍 軍 人 の 割 合 は 多 く を 占 め て い た が 、 そ の う ち 保 護 を 必 要 と す る 対 象 と し て は 低 く 抑 え ら れ 、 元 傷 痍 軍 人 と 一 般 人 と を ほ ぼ 半 数 ず つ と し て い た 。 そ の 背 景 に は
GHQに よ る 「 無 差 別 平 等 」 の 原 則 か ら の 厳 し い チ ェ ッ ク が あ っ た 。
身 体 障 害 者 福 祉 法 の 制 定 に あ た り 、 資 料 と さ れ た 統 計 を 見 て い く と 、 次 の 点 が 確 認 で き る 。ま ず 、身 体 障 害 者 全 体 は お よ そ
80万 人 と い う 数 値 を 出 し 、 そ の う ち 身 体 障 害 者 福 祉 法 が 対 象 と す る 数 は
25万 人 と し て い た 。 そ し て 、 障 害 原 因 別 に よ る 統 計 が 詳 し く 採 ら れ て お り 、 そ の 内 訳 を 見 て い く と 、 対 象 と し て 認 識 し て い た 障 害 原 因 の 大 半 は あ く ま で 先 天 性 を 含 む 疾 病 に よ る も の で 、傷 痍 軍 人 に 当 た る 旧 軍 人 軍 属 は わ ず か
15% に 過 ぎ な い 。つ ま り 、身 体 障害 者 福 祉 法 の 制 定 過 程 で は 、 一 般 の 障 害 者 を 主 た る 対 象 に 認 識 し て い た 形 跡 が あ り 、 身 体 障 害 者 福 祉 法 が 元 傷 痍 軍 人 を 対 象 と し て い た と す る 通 説 に 修 正 を 加 え ざ る を 得 な い 結 果 が 明 ら か と な っ た 。
身 体 障 害 者 福 祉 法 で 対 象 を 規 定 し た 別 表 の 論 理 に つ い て 検 討 す る と 、 そ の 論 理 に は 「 職 業 能 力 が 損 傷 さ れ て い る 」 と い う 観 点 が あ り 、 そ れ が 高 齢 者 概 念 と の 違 い を 示 す 論 拠 に も な っ て い た 。 ま た 、 身 体 障 害 者 福 祉 法 の 審 議 過 程 で は 、 主 に 精 神 病 や 結 核 を 対 象 と し て 含 め る か ど う か が 争 点 と な り 、 結 果 的 に 除 外 さ れ て い た 。
第 5 章 で は 、 こ れ ま で 明 ら か に し た 内 容 を 踏 ま え な が ら 、 身 体 障 害 者 障 害 程 度 等 級 表 が ど の よ う な 経 緯 で 登 場 し て き た か を 明 ら か に し て い る 。
身 体 障 害 者 障 害 程 度 等 級 表 の 起 源 を 探 っ て い く と 、 少 な く と も
1949年 の 身 体 障 害 者 福 祉 法 の 制 定 過 程 で 原 型 と な る も の が 登 場 し て い た こ と が 明 ら か と な っ た 。 こ の と き の 等 級 表 が 、 何 を 参 考 に つ く ら れ た も の で あ る か を 探 る 手 が か り と し て 、 次 の 4 点 が 考 え ら れ る 。
第 一 に 、「
P.H.W.か ら の 質 問 事 項 に 対 す る 答 」 の 文 書 で 、 恩 給 法 や 労 働 基
準 法 の 等 級 表 が 持 ち 出 さ れ て 説 明 を 行 っ て い た こ と 、 第 二 に 、 本 法 別 表 が 国
際 労 働 会 議 の 「 労 働 能 力 損 傷 度 」 を 参 考 に し た と の 記 述 が あ り 、 労 災 分 野 と
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の 結 び つ き が 示 さ れ て い た こ と 、 第 三 に 、 等 級 表 に 「( 厚 )」 と 「( 労 )」 と の 記 載 が あ り 、 こ れ は 労 働 者 災 害 補 償 保 険 法 と 第 4 章 で 明 ら か に し た 戦 時 の 厚 生 年 金 保 険 法 の 業 務 災 害 に お け る 障 害 等 級 と 一 致 し た こ と 、 第 四 に 、 法 制 定 後 に 等 級 表 の 導 入 を 検 討 す る 際 の 資 料 と し て 厚 生 年 金 保 険 法 や 労 働 者 災 害 補 償 保 険 法 、 恩 給 法 が 参 照 さ れ て い た こ と で あ る 。
こ の よ う な 手 が か り を も と に 、 実 際 に 法 案 段 階 で 登 場 し た 等 級 表 と 、 厚 生 年 金 保 険 法 ・ 労 働 者 災 害 補 償 保 険 法 ・ 恩 給 法 に お け る 等 級 表 と 比 較 検 討 を 行 っ た 結 果 、 次 の 4 点 が 得 ら れ た 。 第 一 に 、 法 案 段 階 の 等 級 表 と 、 厚 生 年 金 保 険 法 ・ 労 働 者 災 害 補 償 保 険 法 ・ 恩 給 法 に お け る 等 級 表 を 比 較 す る と 、 両 者 が
「 類 似 」 す る 項 目 は
89.3% で 、「 ほ と ん ど 類 似 」 す る 項 目 を 含 め る と
96.4%に 及 び 、 こ れ ら を 参 考 に し て 作 成 し た こ と は 明 ら か で あ る こ と 、 第 二 に 、 そ の う ち 労 働 者 災 害 補 償 保 険 法 や 厚 生 年 金 保 険 法 と の 一 致 率 が 高 い た め 、 主 に 労 災 分 野 を 参 考 に つ く ら れ た も の で あ る こ と 、 第 三 に 、 法 案 段 階 の 等 級 表 は 精 神 障 害 や 内 部 障 害 を 除 外 し て い た こ と 、 第 四 に 、 と り わ け
4級 の 一 致 率 が 高 く 、 そ れ を 中 心 に 障 害 程 度 を 振 り 分 け て 作 成 し て い っ た 可 能 性 が 指 摘 で き る こ と で あ る 。
Ⅲ 研 究 結 果
こ こ で は 、第 1 章 ~ 第 5 章 で 明 ら か に し た 研 究 結 果 と 考 察 を 整 理 し て い る 。
( 1 ) 身 体 障 害 者 福 祉 法 の 対 象 規 定 の 源 流
身 体 障 害 者 福 祉 法 別 表 は 、 「 職 業 能 力 の 損 傷 」を 念 頭 に 基 準 が 定 め ら れ て お り 、 労 働 政 策 的 な 論 理 に 基 づ い て 対 象 が 規 定 さ れ て い た 。 そ し て 、 身 体 障 害 者 障 害 程 度 等 級 表 の 起 源 を 辿 る と 次 の 点 が 明 ら か と な っ た 。
第 一 に 、身 体 障 害 者 障 害 程 度 等 級 表 は 法 運 用 上 の 参 考 資 料 と し て 作 成 さ れ 、 法 施 行 後 の
1954年 に 登 場 し て き た と い わ れ て き た が 、 そ の 原 型 と な る 等 級 表 は 少 な く と も
1949年 の 身 体 障 害 者 福 祉 法 案 段 階 で 登 場 し て お り 、 通 説 を く つ が え す こ と が 明 ら か と な っ た 。
第 二 に 、 身 体 障 害 者 福 祉 法 の 対 象 規 定 に は 労 働 分 野 と の つ ら な り を 看 取 す
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る こ と が で き 、 身 体 障 害 者 福 祉 法 の 対 象 を 詳 細 に 規 定 す る 身 体 障 害 者 障 害 程 度 等 級 表 は 、 厚 生 年 金 保 険 法 、 労 働 者 災 害 補 償 保 険 法 、 恩 給 法 を 参 考 に つ く ら れ こ と が 明 白 で あ り 、 と り わ け 労 災 に よ る 障 害 等 級 表 を 参 考 に し て つ く ら れ た も の で あ っ た こ と が 明 ら か と な っ た 。
第 三 に 、 障 害 者 福 祉 の 対 象 を 広 げ る 要 因 に 、 戦 争 の 論 理 か ら 切 り 離 さ れ た 非 軍 事 化 ・ 民 主 化 政 策 を 見 る こ と が で き た 。 ま た 、 身 体 障 害 者 福 祉 法 の 制 定 過 程 で は 、 あ く ま で 対 象 と し て 想 定 し て い た 者 は 、 先 天 性 を 含 む 疾 病 に 基 づ き 障 害 を 負 っ た 者 を 中 心 に 据 え て お り 、 元 傷 痍 軍 人 は わ ず か で あ っ た 。 こ の こ と は 、 従 来 通 説 と さ れ て き た 、 身 体 障 害 者 福 祉 法 が 元 傷 痍 軍 人 対 策 で あ っ た と す る 見 解 に 修 正 を 加 え ざ る を 得 な い も の で あ る 。
( 2 ) 結 核 と 障 害 と の 関 係
身 体 障 害 者 障 害 程 度 等 級 表 は 労 災 分 野 の 障 害 等 級 表 を 参 考 に つ く ら れ て き た も の で あ っ た が 、 そ の 労 災 に よ る 障 害 で 深 刻 な 衛 生 問 題 と な り 、 政 策 課 題 と さ れ て い た の が 結 核 で あ っ た 。
健 康 保 険 法(
1922年 )は 、労 災 に よ る 結 核 対 策 と し て も 期 待 さ れ て い た が 、 年 金 保 険 制 度 に そ の 対 策 が 託 さ れ 、 登 場 し た の が 「 不 具 廃 疾 」 を 対 象 と す る 廃 疾 年 金 で あ っ た 。そ の 廃 疾 年 金 が 、
1944年 に 労 災 分 野 の 各 法 と 結 合 し て 登 場 し た の が 厚 生 年 金 保 険 法 に お け る 障 害 年 金 で あ り 、 障 害 等 級 表 で あ っ た 。 戦 後 に な る と 、 結 核 は 身 体 障 害 者 福 祉 法 で 対 象 と す る か が 争 点 と な り 、 結 果 的 に は 財 政 的 理 由 な ど で 対 象 か ら 除 外 さ れ た 。 後 に 特 効 薬 が 開 発 さ れ 、 結 核 は 治 癒 可 能 な 疾 病 と し て 医 療 制 度 の 対 象 へ と 移 さ れ て い っ た 。
こ の よ う に 、 制 度 ・ 政 策 で は 具 体 的 な 障 害 の 中 身 と し て 結 核 が 問 題 と な っ て き た こ と が 指 摘 で き る 。
( 3 )「 不 具 廃 疾 」 と 障 害 概 念
制 度 的 に 障 害 の 状 況 を 評 価 す る 場 合 に 、視 機 能 や 言 語 ・ 聴 覚 機 能 、四 肢 の 状
態・運 動 機 能 、精 神 疾 患 、内 臓 疾 患 、手 足 の 指 の 状 態 と い っ た 部 分 に 着 目 し 、
と り わ け 視 機 能 や 四 肢 、 指 に つ い て は 詳 細 に 分 類 し た 表 を 作 成 し 、 そ れ を 基
に 現 場 の 医 師 が 診 査 す る と い う 行 政 手 法 は 、 戦 前 か ら 戦 後 に か け て ど の 制 度
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に お い て も 基 本 的 に 一 貫 し て い た 。そ の 方 法 が 確 立 し た の は 徴 兵 制 で あ っ た 。 徴 兵 制 で は 「 不 具 廃 疾 」 の あ る 者 を 丁 種 不 合 格 者 と し て ふ る い 分 け 、 少 な く と も
1910年 か ら 登 場 し た 体 格 等 位 基 準 に よ っ て 程 度 別 に 詳 細 に 選 別 す る 行 政 的 仕 組 み が 登 場 し た 。
ま た 、 障 害 用 語 は 労 働 者 災 害 扶 助 責 任 保 険 法 な ど の 労 災 分 野 で す で に 用 い ら れ て い た が 、 労 働 者 年 金 保 険 法 が 厚 生 年 金 保 険 法 へ と 改 正 す る 段 階 で 労 災 分 野 か ら 年 金 保 険 分 野 に 広 が っ た 。こ の と き 、 「 廃 疾 」用 語 か ら 障 害 用 語 へ と 変 更 し た 理 由 に は 、 国 に 貢 献 し た 者 に 対 し て は 、 先 天 性 な ど 他 の 障 害 者 と の 差 別 化 を 図 る 手 段 と さ れ た 経 緯 が 見 ら れ た 。
( 4 ) 障 害 認 識 の 二 重 性
制 度 ・ 政 策 に お け る 障 害 認 識 は 二 つ に 大 別 で き る こ と を 仮 説 と し て 提 示 し て い た 。
第 一 の 障 害 の 捉 え 方 に つ い て は 、徴 兵 制 や 戦 時 政 策 に 明 確 に 示 さ れ て い た 。 同 じ 障 害 者 で あ っ て も 、 国 や 経 済 社 会 へ の 貢 献 を 基 準 に 、 そ の 原 因 に よ っ て 包 摂 す る か 、 ま た は 排 除 対 象 と す る か を 明 確 に 差 別 化 し て い た 。 戦 時 体 制 で は よ り 多 く の 労 働 力 や 兵 士 を 必 要 と し 、 健 兵 ・ 健 民 政 策 に よ っ て 虚 弱 で あ っ た り 障 害 を 負 っ た り し た 場 合 に は そ の 程 度 を 注 意 深 く ふ る い 分 け て い た 。 特 に 、 障 害 は 国 民 の 健 康 を 害 す る も の で あ り 、 先 天 性 の 障 害 な ど を 「 治 ら な い も の 」 や 「 遺 伝 す る も の 」 と し て 、 世 代 を 超 え て 固 定 し た も の と し て 捉 え ら れ て い た 。 そ の た め 「 断 種 」 に よ る 生 殖 防 止 の 対 象 と し て 位 置 づ け ら れ て い た の で あ る 。
第 二 の 障 害 の 捉 え 方 に つ い て は 次 の 点 が 見 ら れ た 。 戦 後 、 福 祉 制 度 の 存 立 根 拠 に 生 存 権 が 据 え ら れ 、 福 祉 政 策 は 絶 え ず そ の 整 合 性 が 問 わ れ る こ と に な っ た 。こ れ は 身 体 障 害 者 福 祉 法 も 例 外 で は な く 、
GHQか ら の 厳 し い チ ェ ッ ク に よ り 、 元 傷 痍 軍 人 へ の 優 遇 策 と な ら な い よ う 、 障 害 原 因 を 問 わ な い 普 遍 的 な 対 象 規 定 へ と 軌 道 修 正 が 行 わ れ た 。
し か し 、 障 害 を 常 に 動 態 的 な も の と し て 捉 え 、 個 別 的 に 判 定 し て い く 仕 組
み は 戦 後 も ほ と ん ど 実 現 さ れ な か っ た 。 特 に 、 生 存 権 と 対 峙 す る 優 生 政 策 が
戦 後 に 大 き く 展 開 し て き た 歴 史 は 、 障 害 を 固 定 的 な も の と 見 な し 、 排 除 対 象
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と す る 捉 え 方 が よ り 強 化 さ れ た 側 面 が あ る こ と を 示 し て い る 。 今 後 の 福 祉 政
策 で は 、 こ の よ う な 障 害 認 識 と ど う 切 り 結 ん で い く か が 問 わ れ る 。
四天王寺大学審査学位論文
内容の概要および審査の結果の要旨
平成
27年
4月
四天王寺大学
は し が き
本編は、学位規則(昭和28年4月1日文部省令第9号)第8条による公表 を目的として、平成27年3月14日に本学において博士の学位を授与した者 の論文内容の概要および論文審査の結果を収録したものである。
今回授与した学位は、博人福乙第1号人間福祉学博士である。
氏名(本籍) 藤井 渉(大阪府)
学位の種類 博士(人間福祉学)
学位記番号 博人福乙第1号
学位授与年月日 平成27年3月14日
学位授与の要件 四天王寺大学学位規定第3条第3項
学位論文題目 「身体障害者福祉法における対象規定の源流に関する研究」
審査委員長 倉田 義之(本学 人文社会学部 教授)
主 査 愼 英弘(本学 大学院 教授)
副
査 近藤 祐昭(本学 大学院 教授)
外部審査委員 三田 優子(大阪府立大学地域保健学域 准教授)
平成27年1月31日 博士論文審査報告書
学位論文題目「身体障害者福祉法における対象規定の源流に関する研究」
提出者氏名 藤井 渉(大阪府)
審査委員長 倉田 義之(本学 人文社会学部 教授)
主 査 愼 英弘(本学 大学院 教授)
副
査 近藤 祐昭(本学 大学院 教授)
外部審査委員 三田 優子(大阪府立大学地域保健学域 准教授)
1. 論文内容の概要
身体障害者福祉法の成立を巡る歴史研究は比較的存在するが、同法が対象としている身 体障害者がどのような基準で定められたかの「対象規定」に関する先行研究は少ない。な かでも、対象規定がどのようになされたか、すなわち身体障害者障害程度等級表が何を基 準にして作成されたかの先行研究は皆無である。本論文は、従来の社会事業史において明 確にされていなかった身体障害者福祉法の対象がどこから来たかを明らかにした実証研究 である。
本論文では、1870年代から1950年代のおよそ80年間の時期を分析の対象にし て、軍事政策・年金制度等を緻密に分析し、身体障害者福祉法の対象の源流がどこから来 ているかを、そしてそれは排除と包摂の論理で対象が規定されたことを明確に実証分析し ている。
本論文の概要は次の通りである。
序章では、研究目的や研究対象等が記されている。
本論文は、身体障害者福祉法における対象規定の源流を明らかにすることで、今日の障 害者福祉の対象規定がどのような歴史的社会的要因によってつくられてきたのかを明らか にし、障害者福祉が対象とする障害概念の検証を行うことを目的としている。
本論文は、この目的を達成するために次の3点について検証を行っている。
第一に、身体障害者福祉法の対象規定がどのような経緯で登場してきたかを明らかにす ることである。
身体障害者福祉法では別表に対象とする障害が規定され、さらにその具体的な内容を定
めているものが身体障害者福祉法施行規則別表の身体障害者障害程度等級表である。その 表にどのような障害や程度が規定されるかが、障害者にとってはサービスを利用できるか どうかを決定づける分水嶺となっている。
ところが、その身体障害者福祉法の対象がどのような論理や根拠で決められてきたかは、
ほとんど明らかにされていない。つまり、今日の対象を決定づけている制度の論理や根拠 は極めて不明瞭であり、この部分を明らかにしない限り、今後の対象規定のあり方を考え るうえで大きな欠陥を抱えたままであるといわざるを得ない。そこで、本論文では、身体 障害者福祉法の対象規定がどこから来たものなのか、そこにある論理とはいったい何なの かについて検証を行っている。
第二に、対象規定の源流を探ることで、障害者福祉が規定する障害概念について検証を 行っている。
医学的に障害の名の付くものを有する者すべてが制度的に障害者として認められる訳で はない。医学的な診断が、そのまま制度に反映される訳ではなく、そこから部分的に制度 上で障害として取り上げられ、一般的にも認知されることになる。その間にはどういった 論理が介在しているのか、特に障害者福祉が具体的に障害として捉えてきたものとはいっ たい何なのかを歴史分析を通して検証している。
第三に、福祉の制度・政策における「障害認識の二重性」について指摘している。
制度的に障害がどのように認識されてきたかを考えた場合、これまでの歴史を鑑みると、
次の二つに大別できるとしている。第一は、障害を固定的なものとして捉え、国家や軍隊 など、組織集団にとって望ましくないものとして排除対象と認識するものである。第二は、
障害を動態的なものとして捉え、生存権にとっての課題として認識するものである。
当然ながら、生存権やソーシャル・インクルージョンが理念として掲げられる現代社会 においては、第二の捉え方が好ましいことはいうまでもない。ところが、実際には第一の 捉え方が多く見られてきたように考えられる。そこで本論文では、障害に対して制度・政 策では二つの捉え方がなされてきたことを仮説として設定し、その検証を行っている。
研究の目的を達成するため、本論の第1章から第5章では次の内容について分析してい る。
第1章では、軍事政策において障害がどのように認識されてきたかを明らかにしている。
近代において障害が制度・政策のなかで取り上げられるようになったのは軍事政策であ る。とりわけ、軍事政策のなかでも障害を具体的に取り扱ってきた分野が徴兵制である。
徴兵制では、徴兵検査において「不具廃疾」を程度別に細かく分類し、判定する仕組みが 展開されてきた。
徴兵制は1873年の徴兵令に始まる。徴兵制は幕藩体制から天皇を中心とした中央集 権体制、さらには近代国家へと移行させていく手段として欠かせないものであったが、そ の制度は強引につくられたことで事実上皆兵とならず、12条もの免役規定が設けられ、
そのなかに障害の存在は埋没していた。
中央集権体制の整備が一段落すると、新徴兵令が1889年にスタートし、国民皆兵を 行うべく免役規定が「廃疾又ハ不具等」に限定され、障害の存在は兵役免除対象として浮 き彫りになっていった。新徴兵令では、壮丁を、兵隊としての能力を基準に甲・乙・丙・
丁にランク付けし、 「廃疾又ハ不具等」を丁種不合格と位置づけた。丁種不合格は様々な障 害の種類と程度を並べ、極めて詳細に示された基準によって判別される仕組みになってい たことを明らかにしている。その基準はあくまで近代兵器を扱う兵士としての能力を前提 に組み立てられていたのであると指摘している。
第2章では、徴兵検査成績の実態に焦点を当て、その成績は兵役法成立後低下していた こと、戦時に入ると成績低下と関連しながら社会保障制度の展開につながっていったこと を明らかにしている。
徴兵検査の成績低下にとって深刻な様相を示していたのが結核であった。戦時になると 国家政策はそれを重大視し、矢継ぎ早に人的資源の確保のための対策がとられていった。
その一つが社会保障制度の活用であり、医療保障分野では国民健康保険法の成立によって 主に農村部の
sick poor対策が講じられていった。
また、徴兵検査成績の低下を受け、成績を引き上げるための手段として国民体力法が制 定された。そこで中心的な対象とされたのが筋骨薄弱者や結核要注意者であった。これは、
兵役法では主に乙種および丙種となる者に該当する者であった。その対象はいわば虚弱児で あり、障害が重度な者はその対象から注意深く除外されていたことを明らかにしている。
障害が重度な者には国民優生法が準備され、 「断種」の対象へと位置づけられていったので ある、としている。
第3章では、年金保険制度の成立期に焦点を当て、廃疾年金を取り上げてその中身やね らいについて明らかにしている。また、恩給制度についても取り上げ、恩給制度では障害 をどのように捉えていたかを検証している。
年金保険制度では、廃疾年金がすでに労働者年金保険法成立時から登場し、その対象は 労働能力に基づいて考えられていた。ただし、運用の場面では具体的な「廃疾」の種類や 程度が勅令によって定められ、官僚がコントロールできる仕組みが導入されていた。
廃疾年金がつくられた要因には、業務災害への対応があり、また、結核との関係が推察 される。
そして、1944年の厚生年金保険法への改正では障害用語が用いられ、業務災害によ る「廃疾」に対応するために等級表の仕組みが登場していたことを明らかにしている。
それ以前に、恩給制度では少なくとも1892年から傷痍疾病を細かく分類する等級表 の原型のようなものが登場していた。軍人と官吏の恩給を統合した1923年の恩給法で は、それを基礎にしながら「不具廃疾」の中身を細かく分類し、補償を進めていく手段と して等級表が登場していたことも明らかにしている。
第4章では、身体障害者福祉法の成立期に焦点を当て、福祉政策では対象をどのように
認識し、身体障害者福祉法の別表がどのような論理で登場してきたかを明らかにしている。
身体障害者福祉法案が検討される前段階に実施された傷痍者保護対策では、対象を失明 者、四肢切断者、結核患者、頭部損傷者といった分類で把握し、対策が行われていた。そ の資料とされた統計では、傷痍者全体で元傷痍軍人の割合は多くを占めていたが、そのう ち保護を必要とする対象としては低く抑えられ、元傷痍軍人と一般人とをほぼ半数ずつと していた。その背景には
GHQによる「無差別平等」の原則からの厳しいチェックがあった。
身体障害者福祉法の制定にあたり、資料とされた統計を見ていくと、次の点が確認でき る。まず、身体障害者全体はおよそ80万人という数値を出し、そのうち身体障害者福祉 法が対象とする数は25万人としていた。そして、障害原因別による統計が詳しく採られ ており、その内訳を見ていくと、対象として認識していた障害原因の大半はあくまで先天 性を含む疾病によるもので、傷痍軍人に当たる旧軍人軍属は15%に過ぎないことを実証 している。
身体障害者福祉法で対象を規定した別表の論理について検討すると、その論理には「職 業能力が損傷されている」という観点があり、それが高齢者概念との違いを示す論拠にも なっていた。また、身体障害者福祉法の審議過程では、主に精神病や結核を対象として含 めるかどうかが争点となり、結果的に除外されていた。
第5章では、これまで明らかにした内容を踏まえながら、身体障害者障害程度等級表が どのような経緯で登場してきたかを明らかにしている。
身体障害者障害程度等級表の起源を探っていくと、少なくとも1949年の身体障害者 福祉法の制定過程で原型となるものが登場していたことが明らかとなった。このときの等 級表が、何を参考につくられたものであるかを探る手がかりとして、次の4点が考えられ るとしている。
第一に、 「P.H.W.からの質問事項に対する答」の文書で、恩給法や労働基準法の等級表を 持ち出して説明を行っていたこと、第二に、同法別表が国際労働会議の「労働能力損傷度」
を参考にしたとの記述があり、労災分野との結びつきが示されていたこと、第三に、等級 表に「(厚) 」と「 (労) 」との記載があり、これは労働者災害補償保険法と第4章で明らか にした戦時の厚生年金保険法の業務災害における障害等級と一致したこと、第四に、法制 定時に等級表の導入を検討する際の資料として厚生年金保険法や労働者災害補償保険法、
恩給法が参照されていたことである。
このような手がかりをもとに、実際に法案段階で登場した等級表と、厚生年金保険法・
労働者災害補償保険法・恩給法における等級表を比較検討した結果、次の4点が得られた。
第一に、法案段階の等級表と、厚生年金保険法・労働者災害補償保険法・恩給法における
等級表を比較すると、両者が「類似」する項目は89.3%で、 「ほとんど類似」する項目を
含めると96.4%に及んでいることを実証しており、これらを参考にして作成したことは
明らかであること、第二に、そのうち労働者災害補償保険法や厚生年金保険法との一致率
が高いため、主に労災分野を参考につくられたものであること、第三に、法案段階の等級
表は精神障害や内部障害を除外していたこと、第四に、とりわけ4級の一致率が高く、そ
れを中心に障害程度を振り分けて作成していった可能性が指摘できること、である。
終章では、本論で実証したことを踏まえ、研究結果を整理し考察をしている。
2. 論文審査の結果の要旨
第1回審査委員会において、審査の進め方と論点について議論した。審査の主要ポイン トは ① 論述された内容に事実関係の誤りはないか、② 矛盾点はないか、③ 新しい知見 はあるか、④ 学会に与える影響があるか、⑤ 分析方法に独創性があるか、⑥ 設定されて いる研究目的が達成されているか、そして ⑦ 盗作や剽窃がないことを確認することとし た。これらのポイント等を基本にして論文の審査をした。
本論文は、徴兵制という軍事政策と所得保障という年金制度に着目してそれらを分析し、
徴兵制からはとりわけ重度障害者は排除されるという事実、年金制度ではとりわけ重度障 害者は障害年金の対象者として包摂されるという事実に基づいて、排除と包摂の論理を本 論文の研究において組み立て、それらの対象の源流から戦後の身体障害者福祉法の対象規 定がなされていることを実証した極めて水準の高い力作であると評価できる。
第1章と第2章において、徴兵制から障害者が排除される状況を法令等を用いて実証し、
軍事政策において障害をどのように認識していたかを明らかにしている。そして、第3章 では、戦前・戦中の「社会保障制度」において障害者は「不具廃疾」概念としてどのよう に認識されていたかを明らかにしている。これらを踏まえて、第4章と第5章において、
戦後の身体障害者福祉法の別表において掲げられている身体障害者障害程度等級表がどこ から来ているかを明らかにしており、徹底した実証研究によって研究目的を達成している。
身体障害者福祉法の別表は、 「職業能力の損傷」を念頭にして基準が定められており、労 働政策的な論理に基づいて対象が規定されていた。その別表の身体障害者障害程度等級表 の起源を辿るなかで、次の3点を明らかにしている。
第一に、身体障害者障害程度等級表は、身体障害者福祉法施行後の1954年に登場し、
その原型は施行直前の1950年3月に登場したといわれてきたが、その原型となる等級 表は遅くとも同法案成立直前の1949年11月段階で、同法運用上の参考資料として作 成され登場していたことを、社会事業史研究では初めて資料に基づいて実証している。
第二に、身体障害者福祉法の対象規定には労働分野との繋がりを看取することができる とし、同法の対象を詳細に規定する身体障害者障害程度等級表は、厚生年金保険法・労働 者災害保償保険法・恩給法を参考にしてつくられたものであったことを、社会事業史研究 としては初めて実証している。
第三に、障害者福祉の対象を広げる要因として、戦争の論理から切り放された非軍事化・
民主化政策を見ることができ、したがって、身体障害者福祉法の対象としては先天性を含
む疾病等に基づき障害を負った者を中心に据えており、元傷痍軍人は15%程度であった
ことを統計資料によって明らかにしている。身体障害者福祉法は傷痍軍人対策のためでは
ないとする研究論文はあるが、それは実証に基づくものではなく単に見解を示すに止まっ
ているに過ぎず、本論文はそのことを統計資料を用いて実証しているものであり、その点 で非常に高く評価できる。
以上のほかに、障害の状況を制度的に評価する場合に、視機能や言語・聴覚機能、四肢 の状態、精神疾患等の心身障害の状態を詳細に分類した表を作成し、それを基にして医師 が審査するという行政手法は、戦前から戦後にかけてどの制度においても基本的に一貫し ており、その方法が確立したのは徴兵制であったことを明らかにしている。すなわち、徴 兵制では「不具廃疾」のある者を丁種不合格者としてふるい分け、遅くとも1910年に は登場している体格等位基準によって障害程度別に詳細に選別する行政的仕組みが登場し たとしている。
戦後においても長い間法令等で広く使われていた「廃疾」という語に替わって「障害」
という語が用いられるようになったのは、戦前の労災分野や年金制度においてであること をも明らかにしている。
障害認識の二重性というものについて、実証研究に基づいて指摘している。すなわち、
制度・政策における障害の捉え方は、二通りの方法でなされているとしている。
第一の障害の捉え方は、徴兵制や戦時政策に明確に示されていたことを実証している。
同じ障害者であっても、国や経済社会への貢献や障害の原因によって包摂するか、または 排除対象とするかを明確に差別化していたとしている。特に、先天性の障害を「治らない もの」や「遺伝するもの」として固定したものとして捉えられていたとしている。
第二の障害の捉え方は、戦後の福祉政策の整合性が生存権との関連で問われるなかで捉 えられてきたとしている。そして、戦後は特定の障害に偏するのではなく、障害原因を問 わない普遍的な対象規定へと軌道修正がなされてきたとしている。しかし、障害を常に動 態的なものとして捉え、個別的に判定していく仕組みは戦後も充分には実現されず、障害 を固定的なものと見なして排除対象とする捉え方がより強化された側面があることを指摘 している。 「今後の福祉政策では、このような障害認識とどう切り結んで行くかが問われる」
としており、障害認識の二重性を明らかにしている。
これまでに述べてきたことからして、本論文は非常に水準の高い研究であると評価でき る。しかし、課題もある。徴兵制における「不具廃疾」概念が、 「恤救規則」における「廃 疾」概念や「救護法」における「不具廃疾」概念にどのような影響を及ぼしたか、また、
それらの法規における「不具」や「廃疾」はどのような基準で対象規定がなされたのか、
そしてそれは戦後の等級表の作成に何らかの影響を与えたのか、これらの課題を今後の研 究でぜひ明らかにしてもらいたい。今後の更なる研究に期待する。
以上のように、本論文は、その構成によって研究目的が達成されており、独創的な方法
論に基づく論理展開と徹底した実証研究によって、これまでに明らかにされてこなかった
歴史を解明しており、高く評価できる。その新たな知見は学会に大きな影響を及ぼすとと
もに後学に大きな示唆を与えるものと考えられる。以上のことを総合的に判断したとき、
審査委員会として本論文は博士(人間福祉学)の学位を授与されるに値するものと認める。
以上
四天王寺大学審査学位論文
身体障害者福祉法における対象規定の 源流に関する研究
藤井 渉
1
目 次
序
... 5( 1 ) 身 体 障 害 者 福 祉 法 の 対 象 規 定 の 源 流 と は
... 6( 2 ) 障 害 概 念 の 実 証 的 研 究
... 6( 3 ) 障 害 認 識 の 二 重 性
... 8第 1 章 軍 事 政 策 に お け る 障 害 認 識 の 展 開
... 12は じ め に
... 12第 1 節 徴 兵 令 の 成 立
... 13表
1 徴 兵 令 に お け る 兵 役 免 除 者 数 (1876~
1879年 )
... 15表
2 徴 兵 令 に お け る 兵 役 免 除 者 数 (1880~
1884年 )
... 15第 2 節 新 徴 兵 令 の 制 定 と 「 廃 疾 又 ハ 不 具 等 」 規 定 の 登 場
... 17( 1 )「 廃 疾 又 ハ 不 具 等 」 の 中 身
... 17( 2 ) 体 格 等 位 の 選 別 基 準
... 20表
3 陸 軍 身 体 検 査 に お け る 体 格 等 位 基 準※ 1 ... 21( 3 )
1920年 に お け る 徴 兵 検 査 規 則
... 35第 3 節 兵 役 法 下 の 徴 兵 検 査 基 準
... 37( 1 ) 兵 役 法 に お け る 「 兵 役 ニ 適 セ ザ ル 者 」
... 38( 2 ) 合 格 基 準 の 緩 和
... 39第 4 節 除 役 問 題
... 41表
4 除 役 者 数 の 推 移 (1888~1892年 )
... 42表
5 除 役 者 数 の 推 移 (1909~1937年 )
... 42表
6 除 役 病 類 の 推 移 (1878~1931年 )
... 43お わ り に
... 46第 2 章 壮 丁 体 位 低 下 問 題 と 障 害 へ の 対 策
... 48は じ め に
... 48第 1 節 丙 種 ・ 丁 種 の 実 態
... 48( 1 ) 丙 種 ・ 丁 種 の 割 合 と そ の 推 移
... 492
図
1 徴 兵 検 査 人 員 の 体 格 等 位 実 績 (1919~
1936年 )
... 49図
2 徴 兵 検 査 人 員 の 体 格 等 位 実 績 の 割 合 (1916~1936年 )
... 50( 2 ) 丙 種 ・ 丁 種 の 実 態
... 51表
7 丙 種 の 主 要 「 疾 病 変 常 者 」 の 要 因 別 割 合 ( % ) ... 52表
8 丁 種 の 主 要 「 疾 病 変 常 者 」 の 要 因 別 割 合 ( % ) ... 52( 3 ) 丙 種 ・ 丁 種 の 実 態 の 考 察
... 53表
9 徴 兵 検 査 時 検 出 の ト ラ ホ ー ム 及 び 花 柳 病 患 者 の 推 移 ... 54図
3 精 神 病 に よ っ て 丁 種 と さ れ た 者 の 割 合 ( 百 分 比 ) ... 55第 2 節 「 兵 力 及 び 労 働 力 の 貯 水 池 」 と し て の 農 村
... 56図
4 関 東 圏 の 地 域 別 徴 兵 検 査 成 績 マ ッ プ ... 57図
5 東 京 府 に お け る 職 業 別 丙 種 ・ 丁 種 該 当 者 の 割 合 ( 百 分 比 ) ... 58図
6 1931年 に お け る 都 市 農 村 別 壮 丁 体 格 ( 百 分 比 )
... 59表
10 丙 丁 種 該 当 者 百 分 比 (1936年 調 べ )
... 60第 3 節 徴 兵 検 査 に お け る 結 核 問 題
... 61表
11 1937年 に お け る 徴 兵 検 査 の 丙 種 ・ 丁 種 と さ れ た 主 要 病 類
... 62図
7 「 気 管 支 、 肺 、 胸 膜 ノ 慢 性 病 」 に よ っ て 丙 種 と さ れ た 者 の 割 合 ( 百分 比 )
... 63図
8 結 核 死 亡 者 の 推 移 ... 64表
12 結 核 死 亡 率 及 び 乳 児 死 亡 率 の 国 際 比 較 ... 65第 4 節 人 口 政 策 と 保 健 国 策
... 65図
9 医 療 保 険 被 保 険 者 数 の 推 移 ... 70第 5 節 国 民 体 力 法 の 制 定
... 70第 6 節 国 民 優 生 法 の 制 定
... 75お わ り に
... 78第 3 章 社 会 保 障 制 度 に お け る 「 不 具 ・ 廃 疾 」 概 念
... 80は じ め に
... 80第 1 節 医 療 保 険 と 年 金 保 険 に お け る 廃 疾 問 題
... 80第 2 節 年 金 保 険 制 度 樹 立 の 動 き
... 81第 3 節 船 員 保 険 法 と 労 働 者 年 金 保 険 法 の 制 定
... 82第 4 節 廃 疾 年 金 の 対 象
... 843
表
13 廃 疾 年 金 の 対 象 (1941年
12月 勅 令 第
1250号 )
... 86第 5 節 廃 疾 年 金 の ね ら い
... 87( 1 ) 年 金 保 険 制 度 の 目 的 と 廃 疾 年 金
... 87( 2 ) 可 能 性 と し て 結 核 へ の 対 応
... 88( 3 ) 労 務 災 害 へ の 対 応 と い う 側 面
... 91表
14 障 害 年 金 の 対 象 (1944年
10月
1日 勅 令 第
365号 )
... 92第 6 節 恩 給 法 に お け る 「 不 具 廃 疾 」
... 95( 1 ) 軍 人 恩 給 の 登 場
... 96表
15 「 陸 軍 軍 人 傷 痍 疾 病 恩 給 等 差 例 」 に 規 定 さ れ た 傷 痍 疾 病 の 程 度 . 97( 2 ) 恩 給 法 の 制 定
... 98表
16 恩 給 表 に お け る 「 不 具 廃 疾 」 ... 99お わ り に
... 101第 4 章 戦 後 福 祉 改 革 に お け る 身 体 障 害 者 福 祉 法 の 制 定
... 103は じ め に
... 103第 1 節 傷 痍 者 保 護 対 策
... 103第 2 節 傷 痍 者 保 護 対 策 の 統 計 か ら み る 対 象 者 像
... 106表
17 傷 痍 原 因 の 内 訳 ... 108表
18 傷 痍 の 状 況 と 保 護 ... 109第 3 節 身 体 障 害 者 福 祉 法 の 成 立
... 109第 4 節 身 体 障 害 者 福 祉 法 案 に お け る 統 計
... 114表
19 身 体 障 害 者 福 祉 法 案 参 考 資 料(1949年
11月 )に お け る 身 体 障 害 者
統 計
... 115図
10 身 体 障 害 者 福 祉 法 案 参 考 資 料 に お け る 身 体 障 害 者 統 計 ( 実 数 ) 117図
11 身 体 障 害 者 福 祉 法 案 参 考 資 料 に お け る 身 体 障 害 者 統 計( 障 害 別 割 合 ) ... 118図
12 身 体 障 害 者 福 祉 法 案 参 考 資 料 に お け る 身 体 障 害 者 統 計( 全 体 の 割 合 ) ... 118第 5 節 身 体 障 害 者 福 祉 法 別 表 の 登 場
... 121お わ り に
... 126第 5 章 身 体 障 害 者 等 級 表 は ど こ か ら 来 た か
... 1294
は じ め に
... 129第 1 節 等 級 表 の 規 定 内 容
... 130表
20 身体障害者福祉法施行規則別表5号の2 身体障害者障害程度等級表 ... 130第 2 節 等 級 表 の 登 場
... 133表
21 A等 級 表 (
1949年
1-11月 「 身 体 障 害 者 範 囲 案 」)
... 134表
22 B等 級 表 (
1949年
11月 「 身 体 障 害 者 福 祉 法 案 参 考 資 料 」)
... 136第 3 節 等 級 表 は ど こ か ら 来 た か
... 137第 4 節 等 級 表 の 比 較 検 証
... 139表
23 身 体 障 害 者 福 祉 法 等 級 表 案 と 厚 生 年 金 保 険 法・労 働 者 災 害 補 償 保 険法 ・ 恩 給 法 に お け る 等 級 表 と の 比 較
... 139表
24 C等 級 表 (
1950年
3月 社 会 局 更 生 課 「 身 体 障 害 者 福 祉 法 施 行 に 関 す る 打 合 会 議 資 料 」)
... 146第 5 節 等 級 表 の 特 徴
... 149表
25 関 係 法 に よ る 対 象 規 定 の 比 較 分 析 ... 150第 6 節 等 級 表 の そ の 後
... 155表
26 等 級 表 の 変 遷 ... 156お わ り に
... 158終 章
... 161第 1 節 本 研 究 の 成 果
... 161( 1 ) 身 体 障 害 者 福 祉 法 の 対 象 規 定 の 源 流
... 161( 2 ) 結 核 と 障 害 と の 関 係
... 162( 3 )「 不 具 廃 疾 」 と 障 害 概 念
... 164図
13 身 体 障 害 者 福 祉 法 に 至 る 障 害 概 念 の 変 遷 ... 166( 4 ) 障 害 認 識 の 二 重 性
... 166第 2 節 本 研 究 の 限 界
... 169注
... 172参 考 文 献
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