教本としての『拾口』について −動詞を中心に−
兼 本 敏 S KANEMOTO
はじめに
これまで八重山博物館に所蔵されている複数の中国語の書籍を中国語の学習教本と位置づけ、天理大 学図書館所蔵の『琉球官話集』を基に教本として比較検討してきた。2004 年 2006 年 2008 年と拙論 では動詞の習得の観点から諸資料に記載されている見出し語を動詞を中心に分析し中国語の学習教本と しての有用性を述べてきた1。
八重山博物館には新本家から寄贈された『官話』と『拾口』がある。『官話』に関しては天理大学図 書館の『琉球官話集』との比較対照を行い、教本としての有用性を述べたが、『拾口』に関しては資料 集のデータとして活用したものの、詳細については検討していない。本稿は当該資料を語彙、配列構成、
意味などに分類し 2004 年に書いた拙論に沿って『捨口』の特徴を明らかにしたい。
『官話』と『拾口』は当時の沖縄(少なくとも新本家)で中国語学習を目的に使用されたと推測され る。当該資料は中国語の見出し語が整然と記され、それぞれの語彙(漢語の見出し語)に意味や読みが カタカナや漢字(同音字や語義などを表す漢語)で付記されている。『官話』が 1878 年に、『拾口』が 1874 年に写本或いは学習されたと当該資料内に記されている。両資料を比較すると記載されている語 彙数はそれぞれ 2485、2622 であり、記載語彙、配列、構成も多くの点で類似している。また、両資 料と天理大学図書館の『琉球官話集』(1846)を比較すると、高橋(2002 年:p 13)の述べるように、
「・・・『拾口』は、・・・一部は先行の官話集から写したものであり、一部は講義の際に聞いたことを 備忘のために書き加えられたもの・・・」と判断できる。拙論『琉球における「中国語官話集」の比較』
(南島文化第 28 号 2006 年)で述べたように記載語彙の酷似、配列の相似から写本性が高いが、相互の 写本ではなく底本となった中国語の教科書があったと推定できる。
これまで検討した「琉球官話集」との比較対照を考慮し、今回『拾口』を検討する上で、本稿でも便 宜上、動詞を中心にみることにした。
『拾口』の全体構成
当該資料は次のような分類と配列によって構成されている。
表紙、漢字(声調記号を付記)
1 「教本としての『琉球官話集』について―動詞を中心に―」『沖縄国際大学総合学術研究』
第7巻第 1 号 2004 年
「琉球における「中国語官話集」の比較」『南島文化』沖縄国際大学南島文化研究所紀要 第 28 号 2006 年
「琉球官話の資料集成における“了”に関する考察」『沖縄国際大学日本語日本文化研究』
第 12 号第 2 号 2008 年
「二字話 1376 項目 ( 追加記載字も含む ) 「三字話」 628 項目 ( 追加記載字も含む ) 「四字話」 498 項目 ( 追加記載字も含む ) 「五字話」 99 項目 ( 追加記載字も含む ) 頁末(奥付)
22 行の中国語文が記載されている。
表題には次のように記されている。
拾口
松茂氏杣山假筆者 當能
表紙を開くと、中国語の声調を表す方法として、漢字の四隅に「○」や「、」を打ってあり、声調 記号の見本が示されている。また、発音の声調練習と入声や音声の注意書きがある。
※ 清 (qing1) 情 (qing2) 請 (qing3) 精(jing1)不明瞭文字 睛(jing1)
談(tan2) 淡(dan4) 静(jing4)が読み取れる。 ( )内のピンインは筆者挿入
本体は先ず「二字話」が9列4段に整然と記載されている。ただし一頁は8列で欄外に漢語語 彙が5つ付記されている。『拾口』の頁と提示順の後に『官話』(天理本)の頁と見出し語の記載 順番も示した。意味の記載や他の情報が書き込まれていない語句とそうでない語句が点在してい る事と、相互に補填しあうことで見出し語の意味の確定を正確にするためである。
以下が第一頁に記載されている見出し語である。
※見出し語の詳細な表記は『沖縄国際大学総合学術研究紀要』第5巻第1号に記載されている。(『拾 口』の翻字および注釈:高橋俊三・兼本敏)
※上記表には取り上げていないが、「『拾口』の翻字および注釈」において 2609 番と 2610 番は 見出し語と『官話』での意味解釈において齟齬が見られる。
拾口頁 拾口番号 官話頁 官話番号 見出し語 訓悶忖 二字話→二字官話 1 1 212 611 今日 書晩・書爺 ×→キヲ
1 2 212 612 明日 苧晩・苧爺 ×→アキヤ 1 3 212 613 後日 朔晩・朔爺 ×→アサテ 1 4 212 614 昨日 恍晩・恍爺 ×→キイノ
1 5 213 615 前日 念晩・念爺 ウツテイ→ヲツテヘ
1 6 213 616 下日 及屈爺 ×→アキヤ
1 7 213 617 翌日 及屈爺 ×→アキヤ
1 8 213 618 次日 肝爺・及屈爺 ×→アキヤ
1 9 213 619 毎日 耽爺 ×→マニキ、如字
1 10 213 620 整日 屁爺 ×→マニキ
1 11 213 621 終日 嶮爺 ×→ヒジヨ
1 12 213 622 天々 爺爺 ×→如字
1 13 213 623 明天 苧爺 ×→アキヤ
1 14 213 624 昨天 恍爺 ×→キイノ
1 15 214 625 天亮 爺疏 ×→ヨヲアキル
1 16 214 626 天明 爺苧 ×→與上同
1 17 214 627 清早 賠壼 ×→ステメテ
1 18 214 628 早上 壼貧 ×→與上同
1 19 214 629 早晨 壼蛙 ×→×
1 20 214 630 上午 貧怜 ×→ヒルマ
1 21 214 631 下午 和怜 ×→ヒルマサガイ
1 22 214 632 夜間 匚寂 ×→バンガタ
1 23 214 633 晩頭 絡遊 ×→與上同
1 24 214 634 黄昏 仔肢 ヨサンテ→クレカタ
1 25 215 635 夕陽 櫓剩 ×→與上同
1 26 215 636 天晩 爺絡 ×→ヨサンリ
1 27 215 637 晩了 頼阻 ×→與上同
1 28 215 638 黒暗 菜圧 ×→クラスン
1 29 215 639 黒夜 菜匚 ×→ヤミノヨ
1 30 215 640 亮夜 疏匚 ×→チキノヨ
1 31 215 641 月亮 埖疏 ×→與上同
1 32 215 642 終夜 嶮匚 ×→ヨモスガラ
1 33 355 2109 要晩 勣絡 ×→ヨサンテ
1 34 356 2110 要黒 勣菜 ヨサンテ→上仝
1 35 356 2111 靠晩 真絡 ×→上仝
1 36 要暗 勣圧 ×
1 37 盒子 歳徨 トンダブン
見出し語の特徴
名詞
中国語の学習教本として『拾口』を検討した場合、当該資料の見出し語では名詞が最も多くを占めて いる。しかし、中国語では次のような語彙は単純に名詞として判断する事はできない。例えば、中国語 の“形容詞+的=”の造語的用法では、日本語の“名詞+の”や“形容動詞”と比較対照されるが、語 義の上では名詞として分類されるケースもある。当該資料の場合、84 個の見出し語がこれに相当する。
誰のものですか。→ 私のものです:私の(省略)です。→ 我的 彼はとても健康です。 → 他非常健康 健康:名詞、形容動詞
他(是)非常健康的 (強調、名詞化による断言文)
この類の見出し語は、教室内の習得段階では“形容詞”の習得と同時に“形容詞の名詞的用法”或 いは“・・・是・・・的”の強調構文の理解と活用へ導入する語句となる。
また、動詞の活用形を持たない中国語では、次のような語句も名詞として扱う。
名詞=主語+動詞 地震、国産、
=動詞+目的語 念仏、
更に、中国語の形容詞は単独では判断しにくく、文脈に依存する。日本語の形容詞が“語幹(名詞)
+い”と分析できるように、中国語の形容詞も“名詞”および“動詞”として機能する場合がある。
紅(赤) 葉子非常紅 (葉は非常に赤い) 葉子紅了 (葉が赤くなった)。
『拾口』に収録されている語句では名詞として分類される語句が少なくない。特に、「形容詞+的=名詞」
の形式が顕著である。以下はその語句の一部である。
拾口頁 拾口番号 官話頁 官話番号 見出し語 訓悶忖 二字話→二字官話注
※見出し語の意味 8 274 277 1249 平的 峠議 ×→マツタヲバシ
ヤウルモノ
※平たい物、平た くなっている物 18 621 273 1209 用的 喘議 モチヨウルモノ→
モモヨルモノ
※ モ チ ヰ ル モ ノ の誤記
19 650 276 1238 方的 圭議 ×→カクニアルモノ ※四角な物 19 651 276 1239 円的 垈議 ×→マルサルモノ ※丸い物 19 652 277 1240 直的 岷誼 ×→スグサルモノ ※真直の物 19 657 277 1244 厚的 搾議 アツサルモノ ※厚みのある物、
厚い物 19 658 277 1245 薄的 院議 ヒスモノ→ウスサ
ルモノ ※薄い物
19 659 277 1246 硬的 啣議 クハサルモノ→ク ハモノ
※ こ は も の ( 強 物、硬物 ) 19 660 277 1247 湾的 羅議 曲ムノ→マガイモノ ※曲っている物
上記のように形容詞が名詞と判断されるケース以外に、動詞と名詞との区別が困難になる場合もある。
次のような見出し語がそれにあたる。
(主語+動詞)
例 地震(地震・地面が振動する)、月亮(月・月が輝く)
見出し語を品詞分類する場合、中国語の語の構造に沿って判断するのか、或いは語義に沿って判断 するのか、また、語義の決定を日本語にするか中国語にするかで多少の相違が生じる。しかし、中国 語の学習において『拾口』から中国語の単語以外に文節、句(フレーズ)およびその用法が学べるか が重要な要因となる。
学習者が中国語を習得していく段階で、単語のみの発話、句(フレーズ)そして文節の発話と次第 に習得度を深めていく。つまり、教本にはその段階に応じた見出し語、および用法が含まれているか を検証することが当該資料の教科書としての有用性を顕かにすることができると考える。
『拾口』の構成は二字話から五字話へ順次数少ない語彙から多い語彙(句や節)へとなり、学習者にとっ ては簡単な単語から複雑な語句、節へと段階を経ていくことになり、教本として理想的だと思える。
文節を構成している要素としては、中国語の場合 VO 言語に属し、主語+動詞+目的語・補語が基本 文型となる。動詞を修飾する副詞は動詞の直前に配置され動詞に係る場所、時間、様態、方法などを 示す。一方、名詞などは造語上、日本語(OV 言語)と同様で修飾語は被修飾語の前に位置する。
主語 副詞 動詞(動詞+マーカー) 目的語(修飾語+被修飾語)
我 去年 買了(買う) 他畫的山水畫(彼・描く・マーカー・山水画)
19 661 277 1248 扁的 奄議 ヒラモノ ※扁平なる物 19 662 277 1249 平的 峠議
マツトウバアルム ノ→マツタヲバシ ヤウルモノ
※平たい物
19 663 277 1250 尖的 錫議 トカイモノ→トガ
イモノ ※尖っている物。
19 664 278 1251 禿的 雄議 モシモノ→モシリモノ ※毛をむしった物 19 665 278 1252 重的 嶷議 ンボキモノ→ンボ
サルモノ ※重い物 19 666 278 1253 軽的 煤議 カツサアルモノ→
ガルサルモノ ※軽い物 19 668 278 1254 軟的 罷議 ヤハラサアルモノ
→ヤハラサルモノ※軟かい物 19 669 278 1256 短的 玉議 インチヤモノ→イ
ンキヤモノ ※短い物 19 670 278 1257 長的 海議 ナカサアルモノ→
ナカモノ ※長い物
中国語の統語上の規則(語順・文法)を習得するための項目では、基本文型と修飾法、特に動詞を 中心とした用法が重要である。中国語では形容詞が動詞と判別できない用例や、形容詞か名詞か断定 できない場合が多くある。
例えば、葉子紅了(葉が赤くなった)や他非常健康(彼は非常に健康である)等である。
L & T は、これらの語句は S V(SV) と分類し、状態を表す動詞の語彙(形容詞 および状態を示す名詞)とする。
SV を判別するにはその語句を“非常”や“很”などの副詞によって修飾が可能か、或いは語句の 後に“了”などのマーカーを持つかで判断する。
以上のことから、学習者は動詞に関連する用法を習得することが中国語上達への必須条件となる。
動詞について
日本人にとって中国語の動詞は漢字の意味から容易に推測できるが、中国語の表記上ではアスペク トを示す“了”、“過”、“着”および“起来”を伴うのがその特徴である。
以下は各アスペクトマーカーを伴う動詞の例である。
了:169 個が記載されている。
過:27 個。
枯了 酢阻 カリル ※枯れる
断了 僅阻 キリタン ※切れた
完了 頼阻 ウハル→ウワル、スマキヤン ※終る、済ました 用了 喘阻 モチイタン→モキイル ※用いる
罷 * 了 意阻 ×→スミヨン ※済んでいる
歪了 浴阻 ×→ヨカモ ※ユガム ( 歪 ) の誤記
漏了 息阻 モル→モル ※漏る
隠藏了 咨茄阻 ×→カクリクン ※隠れた
講和了 讐才阻 ×→ナカナフヱシヤン ※仲直りした 診了脉 寶阻琢 ×→ミヤクンギヨン ※脈を診る
罪過 恟狛 ハチカンジヨン→チメカンタン ※罰を被った、罪を被った
挿過 峨狛 ×→サ□ ※挿す
躱 遇 了 → 躱 過了
吟囑阻? 上仝 ※隠れる、避難する
跳過來 柳狛栖 クイテクウ→クイテイケヲ ※越えて来い。『二字』に「クヱ テ来、クジヨステクウ」、「三字口」
に「トノギクヱテコヲ」とある (「攷」)、跳んで来い
着:39 個。
起:36 個。
搖過來 辧狛栖 コキヨシテクフ→カケヨシテク ヲ、クヲジヨテクヲ
※漕ぎ寄せて来い ( 手 + 龍 ) 過
来 → ( 手 + 龍 ) 過了
贈狛栖 上仝 ( ヨシテクウ ) →ツケテクヲ、
上仝
※寄せて来い
轉過來 廬狛栖 メグテクウ→メグテクヲ ※巡って来い ( 走 + 干 ) 過
來
枯狛栖 ウ イ ツ キ( ク ) ウ → ウ テ ク ヲ、
ウヘチケテクヲ
※追って来い、追いついて来い 錯過了 危狛阻 アヤマチシヤン→アヤマリタン ※過ちをした
看過了 心狛阻 ×→ミタン ※見た、見えた
打着 嬉彭 アテル→ウツヨルクト ※打つこと
架着 尺彭 カキヨルコト→カケリ ※かける、架ける
穿着 刊彭 キンキル→ツンチヨン ※衣を着る
撞着 弉彭 ウツツキル、ハリイキヤル→ツ
キヤアル ※ばったり会う、打ちつける
照着 孚彭 テリツキ→テリツケル、マトサ
ラメル ※照りつける、「的定める」
墜着 弭彭 ×→ヒキヱシル ※ ( 引き据える ) 睡着了 鋒彭阻 ×→ネンキツケタン ※眠りついた 買着了 択彭阻 ウイハテラン→カウタン ※買えた
売不着 沢音彭 ウイハテラン→ウヱツケララン ※売りつけられない 用不着 喘音彭 ×→モキイララン、ヨニタタン ※用に立たない、必要ない 捜得着 朴誼彭 サグイツキタン→サグヘツケタン ※探りつけた
拈起 堤軟 タツミツノ イヒニテトル→ヒルル ※ ( 両手で ) ひねり取る 撮起 父軟 ミツヨツノ ヱイビテトル→ヒルル ※数本の指でつかみ取る
挽起 洛軟 ×→ヒキウクシ ※引起しの義
當得起 輝誼軟 ナヨン→ナヨン ※成る。出来る
當不起 輝音軟 上仝 ( ナラン ) ※成らない。出来ない 繞起來 汎軟栖 カラゴテクウ→カラマケ、カラ
クリ ※からくりて(繰て ) 来い
巻起來 壌軟栖 ×→マケ ※巻け
側起來 迦軟栖 カタンキレ→カタンケリ ※傾けよ 剔 起 來 → 剔
出來 勿軟栖 カチヤキレ→カキヤゲリ ※掻き上げよ 掻きあける 鋪起來 凸軟栖 シキ→ヒキクヲ、セケ ※敷いて来い。敷け
以上、これら「了、過、着、起(来)」4 つのマーカーを基に動詞を判別したが、そのほか動詞に直 結する補語による判別が可能である。
中国語には「結果、方向、可能、様態、数量」を表す補語がある。
結果補語:
方向補語:
可能補語:
2145 番 趕得去 (追いつく)のみである。
様態補語:
2151 空手回來 (空手で戻ってきた)
2175 小心走々 (注意して歩く)
2460 打扮得好 (化粧 / 身形が整っている)
2391 剛々就來 (先ほど来たばかり)
数量補語:
1463 賤一點 (ちょっと安い)
1529 差一点 (ちょっとした違い)
などが記載され、その数も少なくない。また、これらの用法から発展的に文章の作成が可能であると 推測できる。
78 2568 事情完了麼 * ※用事が終わったか 78 2569 事情辨完了→事情 ( 辛 + 力 + 辛 ) 完了 ※用事を終えたか 78 2572 官話学完了→官話読完了 ※官話は学び終えた
47 1694 推落去 容鯛肇 ×→ウシウトス ※押し落す
48 1704 進城去 序廓肇 ×→グスクンカヱイキヨン ※城へ行く、街へ入る 48 1705 那裡去 椎໎肇 ×→マアンザアガ ※何処に行って来たか 48 1726 去了來 肇阻栖 ンジクウ→ンヂクヲ ※行って来い
50 1768 拿進去 鎮序肇 ×→トツテケ ※取って行け
否定形
動詞の否定は“不”と“没”の二つの形がある。
“不”を含む動詞は 91 個の見出し語がある。
また、複合動詞の否定形も提示されている。
動詞の肯定形と否定形で形成する「選択疑問文」の例文も記載されている。
6 193 音形 サハラン 差し支えない 6 194 音殿 上同
6 195 音悪 上同
6 204 音刃 ンバ→ンパ しない(肯定しない)
6 205 音彈 ヨルサン 許さない
37 1385 佳音栖 サツシララン ※察しられない 37 1388 臥音竃 ×→アラタメララン ※調べられない 38 1404 音嶄吭 ×→キニイラン ※気に入らない 38 1406 照音試 スクイヤナラン→ヤマヱノウモク
ナタン
※救うことができない、病が重く なった。
39 1435 音宴阻 ×→タヨヱンナラン ※頼りにならない 39 1450 悳音栖 ×→スビテクヲン ※皆来ない
39 1454 恂音栖 ナラン ※成らない、できない 40 1455 聞音誼 上仝 ( ナラン ) ※成らない。出来ない 40 1456 恂音誼 ナラン ※成らない。成せない 40 1457 輝音軟 上仝 ( ナラン ) ※成らない。出来ない 40 1464 音岑祇 ×→シラン ※知らない
40 1465 音∮誼 ×→シラン ※知らない
39 1440 択音択 ×→カウヨメカウラネ ※買うか、買わないか 39 1441 沢音沢 ×→ウヨメウラネ ※売るか、売らないか 39 1449 栖音栖 ×→キヨメコヲネ ※来るか来ないか 40 1456 恂音誼 ナラン ※成らない。出来ない 40 1476 校音校 タリトミ タレラニ ※足りているか、足りないか 40 1479 嬬音嬬 タリトミタリラン→タリトミタリ
ラニ→ナヨメナラネ ※為るか、為らないか
41 1513 刃音刃 ×→ウケグモメウケグマニ ※うけがう ( 肯 ) か、うけがわな いか
41 1514 彈音彈 ×→ヨルシヨメヨルサニ ※許すか、許さないか
“没”による否定形 17 個が記載されている。
1758 番目の“没有了”における訳は『拾口』には記載されてないが『官話』に同一見出し語があり、
これから“没有(ない)”と“没有了(なかった)”との対比で時制の相違ではなくアスペクトの標示 が反映された訳語になっている。
これまで見てきたように『拾口』に記載されている語句には中国語の動詞のアスペクトおよび補語
(結果、可能、方向、様態、数量)を示す見出し語が存在し、その用法が分かるような補足的記述が 認められる。以上のことから、『拾口』は語彙集の形態を持ちながら語彙の品詞、発話で実際に使用 される表現語句を提示している。これは教える側が語義以外に語順や語の構造を教授するには十分な 量の語数である。言い換えれば、名詞と動詞を中心にした中国語会話の実用的教材でありながら造語 構造、統語的関連をも教授できる一冊だと言える。
5 152 ᑵ嗤 ×→ナシ ※無い
9 293 ᑵ ヤクタタン→ヤクンタタン ※役に立たたない
10 329 ᑵ嗤 ナシ ※無い
21 730 ᑵ映 ハナナシ→ハナモノアモフ ※鼻の無いもの 37 1391 ᑵ圭隈 ノウンナラノ→シカタカナヘラ
ン、ホウギンナヘン ※仕方が無い 38 1409 ᑵ麼吭 ホンビツナシ ※分別が無い 38 1415 ᑵ輝遊 シツモツナシ→シキモツンナイン ※質物がない 38 1416 ᑵ和不 カカルカタ、スカルカタ、ニイラ
ン→カルカタ スカルカタ ナイン
※掛かる方、すがる方が無い。頼 りにするあてがない。梢は ( 手 + 肖 ) の誤り (「記」)
38 1422 ᑵ社縮 ×→ヤアナラヘンナイン ※家習いも無い
40 1460 ᑵ鴇象 ×→ヒヨクンナヱン ※証拠も無い。方言ではショと ヒョが混同
41 1496 ᑵ然中 上仝 ※
44 1600 ᑵ嗤嗟 ×→アンラノナイラン ※油がない 45 1634 ᑵ麼綱 ホンベツナイラン→アキナヱノウ
ララン、ホンベキノニヤン
※分別が無い 商いが悪い 顧客がない 47 1676 ᑵ然討 ×→メンボクンナイラン ※面目がない 48 1720 ᑵ悶中 メンボクンナイラン→上仝 ( メン
ボクンナイラン )
※面目もない。「休」は「体」の 誤り
49 1735 ᑵ栂採 ×→キヤンナラン ※どうにもならん
49 1758 ᑵ嗤阻 × ※なかった
対語表現
中国語の独特な表現であり、二つの文で(3870 番と 3871 番)(3872 番と 3873 番)で前文の内 容に対して後文で同様な論理を用いて主旨を反語的に述べている。
拾口頁 番号 官話頁 官話番号 見出し語
山高遮不着太陽(3870 番) 高い山でも太陽は遮ることはできない。
官高壓不住爺娘(3781 番) 位の高い人でも父母を抑えることはできない。
遠水難救近火(3872 番) 遠くにある水では近くの火災の助けになり難い。
遠親不如近鄰(3873 番) 遠くにいる親(族)は近隣の(助けに)は及ばない。
など上記の文が“五字話”の項目に記載されている。
最後に
『拾口』を拙論「教本としての『琉球官話集』について―動詞を中心に―」と同様の手法で中国語 の学習教本として考察してみた。
『拾口』では『官話』には記載されていない“我們(われわれ)”、“你(きみ、あなた)”の主格を 表すのに必須語彙も記載されている。
『琉球官話集』同様に動詞に関してはその用法である、アスペクト、各種の補語、複合動詞の否定 形など中国語動詞の基本的な事項は網羅されていると言える。
収録されている語彙は『琉球官話集』には及ばないが、日常で使用される頻度の高い語彙が多く網 羅されており実用的だと言える。おそらく、学習過程で現実的な場面設定が行われ、語彙学習と発話 練習が行われたのであろうと推測できる。
早期に写本された教本であることを考えると、中国語の堪能な人物に師事して学習されたと考える。
『拾口』は語彙集の形態を採ったものだが、中国語学習の教本としても十分に活用できる有用性を 持つ教本と言える。
81 2631 529 頁 3871 番 官高押不住爺娘→官高壓不住爺娘 81 2630 529 頁 3870 番 山高遮不住太陽→山高遮不着太陽 81 2635 529 頁 3872 番 遠水難救近火
81 2636 529 頁 3873 番 遠親不如近鄰
参考文献
1. 宮良當荘(ミヤナガ マサモリ)「『琉球官話集』について」(『国語学会会報』第八号)1948 2. 崎山理 「『琉球官話集』を紹介す」(『沖縄文化』第 7 号)1976
3. L. & T “MANDARIN CHINESE : A F R G”
U. C .P 1981
4. 高橋俊三 「『拾口』の翻字および注釈」『沖縄国際大学総合学術研究紀要』第 5 巻 2001 「『拾口』における動詞の形態」『沖縄国際大学日本語日本文化研究』第 6 巻 1 号 2002 「新本家文書『官話』の翻字および注釈」『南島文化研究所地域研究シリーズ NO32』2004 5. 兼本敏 「教本としての『琉球官話集』について―動詞を中心に―」『沖縄国際大学総合学術研究』
第7巻第 1 号 2004 年
「琉球における「中国語官話集」の比較」『南島文化』沖縄国際大学南島文化研究所紀要 第 28 号 2006 年
「琉球官話の資料集成における“了”に関する考察」『沖縄国際大学日本語日本文化研究』
第 12 号第 2 号 2008 年 6. 李臨定 『中国語文法概論』光生館 1993 7. 劉月華 『実用現代漢語語法』師大書苑
8. 劉綺紋 『中国語のアスペクトとモダリティ』大阪大学出版会 2006
A “S(拾口) ” C
I - R K M D C. T R C . I , C . T “S” C Y M O. T C . T “S” C , . T “S”
C, . T “S”
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