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産学連携検討委員会 調査研究報告書

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平成20年度

産学連携検討委員会 調査研究報告書

(概要版)

平成21年3月

社団法人 研究産業協会

この事業は、競輪の補助金を受けて実施したものです。

http://keirin.jp JRIA20 産学連携

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はしがき

一昨年のサブプライムローン問題に端を発し、昨年のリーマンショック以降に深刻化し た経済不況は、100 年に一度の経済危機とも言われている。その影響により、各企業の研 究開発投資の削減は余儀なくされている。1990 年代後半より、インターネットの普及がも たらした情報の均一化、BRICs、VISTAなどで代表される新興国の台頭などにより、技術が コモディティ化するスピードは、それ以前に比べると驚くほど増している。これらが要因 となって、企業間の国際競争は益々激しさを増し、それに打ち勝つため、各企業では独創 性を生み出すようなイノベーションをこれまで以上に求めるようになっていた。技術の多 様化による自前主義からの脱却、収益の低下による研究開発予算の削減などにより、イノ ベーションの源泉を大学に期待することの重要性が一段と認識されるようになってきた。

1980 年代、産業力の低下にあえいでいたアメリカ合衆国は、バイ=ドール法制定により、

大量の連邦政府資金がアメリカ国内の有力な大学に注入されることとなった。また、その 後のヤングレポートの提言により製造業の競争力の向上が図られ、アメリカ合衆国での産 学連携は飛躍的に発展を遂げることができた。一方、日本では、産業活力の再生を図るこ とを目的として産業活力再生特別措置法が 1999年に施行された。さらに2000 年に、新事 業あるいは新市場を創出するためのイノベーションを可能とするような技術開発体制の構 築を目的として、産業技術力強化法が施行され、国立大学の特許料削減や、その教員に対 する規制緩和がなされることになり、産学連携の発展への弾みがつけられた。そして、2004 年 4月の国立大学の国立大学法人化は、大学の置かれている環境を大きく変革するもので あった。

このような背景のもと、産学連携委員会は 2004 年度よりその活動を行ってきており、

これまで、産学連携の様々な現状を調査し、その問題点やあり方について考えてきた。

2004 年度は、国立大学の独立行政法人化を背景とした、その当時の産学連携の現状を調 査した。特に、大学と企業といった、組織対組織の連携、すなわち包括連携について注目 し、その代表的な大学や企業の事例を取り上げることを中心に、産学連携のありようにつ いて調査を行った。

2005 年度は、引き続き日本における産学連携の実態の調査を行うともに、あるべき姿の 想定とそれに関する調査を実施した。日本における産学連携の実態調査として、まずは有 識者による講演会を実施したが、この過程で地域において企業と大学が連携を深めること (例えばサイエンスパーク)が、産学連携を成功させるヒント、あるべき姿を提供してくれ るのではないかという仮説に至った。そこで、「日本におけるサイエンスパーク」、「海外に 研究拠点を有し、現地の大学と深い連携を構築している企業」についての調査とともに、

地域での企業と大学の連携が最も進んでいると考えられる英国の実態を、Web サイトや大 学の窓口へのメールでの問い合わせを中心に調査した。

2006 年度は、地域における企業と大学との連携を主題として、「日本における、地域連 携が成功している例の実態把握」、「英国における、地域での企業と大学の連携の実態把握」

を活動の中心に据えた。また、その活動に基づき、「人材ネットワークの構築」、「地域行政

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の産学連携への支援」、「大学の産業創出意欲の獲得」といった提言を行った。

2007 年度は、前年度までの地域連携に関する調査から、大学発ベンチャー企業が産学連 携の重要な役割を担っていると考え、大学発ベンチャー企業の実態調査と、これまでの活 動より得られた知見を元にした、日本型産学連携ベンチャー支援とベンチャー育成人材デ ータベースに纏わる提言を行った。

本年度(2008年度)は、海外企業のオープンイノベーションに対する取り組みを調査す ることにより、前年度の提言を発展させた日本型オープンイノベーションの方法について 提言を行った。また、これまでの日本や欧米の調査活動で地域連携の重要性を見出してき たが、近年経済成長が著しく、なおかつ地理的にも近接しているアジア諸国での産学連携 の実態を調査した。

未曾有の不況の中ではあるが、日本企業の競争力を維持し、不況後の世の中で発展を遂 げるには、技術開発の手を休める訳には行かない。そこで、技術開発の効率化のためのオ ープンイノベーションはさらに重要になると考えられる。そして、そのための日本らしい やり方も見つけねばならない。本報告書がそのために少しでもお役に立てることを願って いる。

今回の調査を実施するに当たり、関係機関の皆様方には多大なご協力を頂いたことを深 く感謝する次第である。

平成 21 年 3 月

社団法人 研究産業協会 産学連携検討委員会 委員長 北 口 貴 史

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産学連携検討委員会 名簿

(平成 21年 3 月現在)

<委員長>

北口 貴史 (株)リコー グループ技術開発本部 グループ技術企画室 技術戦略室 副室長

<副委員長>

新谷 洋一 (株)日立製作所 研究開発本部 研究アライアンス室 担当部長 橘 正人 古河電気工業(株) 研究開発本部 横浜研究所 ナノテクセンター

マネージャー

<委員>

江口 秀一 シャープ(株) 研究開発本部 産学協同開発センター 協業推進室 係長

太田 与洋 国立大学法人東京大学 産学連携本部 産学連携研究推進部長 理学博士 教授

井関 貴資 (株)日本総合研究所 総合研究部門 産業政策・技術戦略クラスター 主任研究員

金井 順子 日本電気(株) 研究企画部 産学連携推進エキスパート 平林 久明 (株)日立製作所 研究開発本部 研究戦略統括センタ

研究アライアンス室 主任技師

足立 明宏 三菱電機(株) 開発本部 開発業務部 産学官連携・国際標準化推進 グループ 開発業務部 専任

<委員代理>

筧 一彦 国立大学法人東京大学 産学連携本部 産学連携研究推進部 博士(情報科学) 特任准教授

(50音順)

<事務局>

舩津 貞二郎 研究産業協会 専務理事 松井 功 研究産業協会 調査研究部長 松田 香織 研究産業協会 企画部 主任

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(社)研究産業協会 平成 20 年度報告書

平成 20 年度 産学連携検討委員会調査研究報告書概要

背景と目的

昨年のリーマンショック以降に深刻化した経済不況により、各企業の研究開発投資の削 減は余儀なくされている。しかしながら、日本の企業が将来においての競争力を確保する ため、技術開発力を衰えさせてはならない。そのためには、技術開発の効率化を図る手段 としての、産学連携を始めとするオープンイノベーションの重要性は益々重要になるであ ろう。このような背景のもと、産学連携委員会は 2004 年度よりその活動を行ってきており、

これまで、産学連携の様々な現状を調査し、その問題点やあり方について考えてきた。2008 年度は、以下のような活動を行った。

今年度の活動

(1)海外企業のオープンイノベーションに対する取り組みをヒアリングすることによっ て考察した日本型オープンイノベーションの方法についての提言

○調査結果

・ GE:コアコンピタンスを損なうことなく研究開発をビジネス化

・ BASF:製造と物流の統合による自社の強みを発揮

・ 日立グループの米国法人:大学からのインターンシップを有効活用

・ CAR:ベンチャー企業でありながら、マーケティング研究や政策提言、標準化を実 施

・ Intel:積極的なベンチャー投資と大学活用

・ HP:世界中のリソースを活用するために共同研究の公募を実施

・ EFI:シリコンバレーの土壌の下に、積極的な M&A を展開して成長

・ スタンフォード大:大学発ベンチャーを生み出す技術と資金を形成し、シリコンバ レーの土壌を構築

○日本流オープンイノベーションの方法論の前提

日本と米国のオープンイノベーションに関する環境の違い

・ ベンチャー投資資金の違い

ベンチャー企業への投資資金を国、地域で比較すると日本は米国の 1/10 程度と言われ るように、そもそもベンチャー企業を資金的に育成できる市場が成長していない。欧州 でも国により差が大きく、英国は盛んでドイツは保守的といわれる。アイデアが同じだ け出たとしても、投資対象を早期に絞り、無駄な投資を減らすと同時に、絞ったベンチ ャー企業の成功確率を上げる工夫をしないと、最終的に生き残るベンチャーの数で米国 並みを実現することは困難である。

・ 人材の流動性と雇用形態の違い

労使ともに終身雇用の考え方が根強い日本では、ベンチャー企業で必要な有能な人材を 素早く集めることは大変な仕事である。米国は企業間の人材の流動性が高いため、ジョ ブディスクリプションにあった人材を募集し、タイムリーにチームを編成することは比 較的容易と言える。ここで言う人材には、CEO など、ベンチャー企業の幹部クラスだけ

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でなく、製品設計、顧客サービスなどの技術系業務、さらに人事、経理、資材、法務等 の総務系業務も含めている。

・ 企業経営理念の違い

米国の企業経営の狙いは、やや乱暴に括れば投資家利益至上主義といえる。従って、

ベ ン チ ャ ー 企 業 へ の 投 資 が 先 々 に 期 待 し た レ ベ ル の 回 収 に 繋 が ら な い 恐 れ が あ る 場 合 は、売却などにより早目に資産の流動化を図る。当該ベンチャー企業を購入した投資家 は、買った技術を必ずしも創業者の狙いに沿って事業化するとは限らず、自社の事業目 的のために使える部分のみ流用し、使えない部分は処分するなどする場合も少なくない。

このような場合は、結局創業者(アイデアの発案者)の意図は実現しないこととなる。

一方、日本の典型的な大企業における企業経営の考え方は社会貢献主義ということが 可能で、顧客にとって価値のある製品やサービスを提供する企業活動を通じて社会に貢 献することであるといえる。従って、ベンチャー企業に投資するのは、狙っている新製 品やサービスを社会に出すためであり、その実現の過程で困難に遭遇した場合、リスク 覚悟でなんとか乗り越え、初志貫徹しようと考える。製造業などの事業会社ではキャピ タルゲインを期待してベンチャー企業に投資する、いわゆる財テク投資はマイナーな活 動と考えられる。

○日本流オープンイノベーションの方法論の提言 (i)企業理念の前提と研究開発論

・ 日本流オープンイノベーションの方法論に関して述べるにあたり、前提となる企業経 営理念を明らかにする必要がある。オープンイノベーションはあくまで方法であって、

目的があって初めて方法論の是非が議論できるからである。しかしながら、産学連携 検討委員会のメンバー企業やその活動成果の活用を考えている研究産業協会の会員企 業には様々な業種の企業が含まれているため、経営理念について合意することは困難 である。従って、ここでは、勝手ながら本委員会のメンバー企業に比較的多いのでは ないかと考えられる、上記「企業経営理念の違い」にて日本の典型的企業経営理念の 例として紹介した社会貢献主義を前提として論ずることとする。

・ 革新的技術の創生からパラダイムシフトにつなげるプロセスはいくつかのステージに 分けて考えるべきであるが、ここでは簡単のため研究開発ステージと事業化ステージ にわけて考える。研究開発ステージは、革新的技術のアイデア着想から原理実験、研 究レベルの機能試作あたりまでで、研究者のイニシアチブの下で比較的少ない投資で 進められる反面、要する時間も長い。事業化ステージでは、製品開発や販売チャネル 開拓が進められるが、組織のイニシアチブの下、具体的な目標を設定の上でより大き な投資でより短期間に進められる。オープンイノベーションという方法論は、対象と するこれらのステージによっておのずと異なるものとなる。

・ 研究開発ステージは、S.クラインが提唱した市場プル型で進める方法と、技術プッシ ュ型で進める方法があり、クラインによれば成功確率は市場プル型が高いとされてい る。一方で、カーボンナノチューブの発見とその応用には様々な可能性が秘められて いるように、技術プッシュ型には予測のつかない様々なパラダイムシフトに繋がる可 能性もあり、いずれかに拘る必要もないといえる。いずれであっても、研究開発は、

一般的には研究者の着想のよさ、研究能力、そしてアイデアを実現する想いの強さが

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大切であり、他者がそのアイデアのよさを直感的に感じることのできる形になるまで は、リニアモデルで育成が進む。つまり、市場ニーズが明確であろうがなかろうが、

技術開発のプロセスそのものは、着想した研究者によるリニアなプロセスにて進むと いうことであり、ここで言っているリニアモデルには、市場プル型で着想した技術開 発も含んでいることに注意されたい。このプロセスを強化、加速する方法としては、

研究環境の整備が重要であることは言うまでもないが、さらにアイデアの事業化成功 確率を上げることが重要であり、そのためには、市場プル型の考え方を適用し、アイ デアをどのような市場を対象にどのような商品にするかという事業化出口に関する適 切な方向付けをすることが重要と考える。

・ この方向付けは、組織の事業戦略に沿って研究開発ステージの最初から最後の段階ま で適切に行われる必要がある。すなわち、初期段階から事業戦略に沿ったアイデア創 出に努力してもらうべきであるが、結果として事業戦略にそった成果になるかどうか わからないこと、またパラダイムシフトにつながるようなアイデアはそもそも想定し た事業戦略にはのらないことも覚悟する必要がある。そのようなアイデアの事業化出 口は、①社内の新規事業立ち上げ、②ベンチャー企業設立、③他社との協業、④知財 のライセンスなどがありうる。日本流オープンイノベーションとして提案したいのは、

①と②の組み合わせである。

(ii)パラダイムシフトを目指す日本流オープンイノベーション

・ リニアモデルにより社内にて開発した革新的技術を事業化し、パラダイムシフトにつ なげるという目標に対しては、事業計画の策定の後、開発チームをカーブアウト(切 り出し)してベンチャー企業を設立する。この場合、もとの企業がスポンサー企業と なって、出資のみならず、設計業務、総務系業務等の支援を行うなどして、ベンチャ ー企業の運営を支援する。但し、当該ベンチャーが事業立ち上げに向けて効率よい運 営ができるように、不必要にスポンサー企業の諸規則を適用することは控え、運営の 自律性を確保することが大切。また、出資者としてはスポンサー企業だけでなく、ベ ンチャー・キャピタルや他の協業企業もあればなお好ましいであろう。CEO は発案者た る研究者が経営者としての適性を備え、経営に従事する余力がある場合は兼任するや り方もあるが、そうではない場合は、適切な能力を有したものを社内外から登用する ことが望ましい。しかしながら、当該技術の何が革新的で、どのように育てていくか については、研究者がよくわかっており、研究者の意図・想いの連続性は大切にすべ きである。すなわち、研究開発ステージから事業化ステージに移っても、コア技術の 開発・事業化プロセスはリニアモデルが基本であると考える。従って、革新的技術に よるパラダイムシフトを起こし、社会に貢献するには所詮時間がかかることを覚悟す る必要がある。

・ 上記カーブアウトベンチャーの運営において、従業員の処遇は大切である。スポンサ ー企業がつくといっても、しばらく売り上げのないベンチャー企業であるから、人件 費を抑えることが重要である。一方で、新しい価値の創造に向けて元気よく力を発揮 してもらうことも必須である。基本給を元の企業に比べて大きく下げることは抵抗が 大きいが、例えば賞与の大きな部分をストックオプションとすることで、ハイリスク ハイリターン型にする必要がある。また、スポンサー企業から移った研究者や総務系

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業務担当者の身分は本人の希望により出向を選択できるとよい。この場合、当該ベン チャーがうまくいかなかった場合、元の企業に復帰が保証される。反面、ストックオ プションの付与率を低くするなどリスクとリターンのバランスをとるためのきめ細か い工夫は必要であろう。当該ベンチャーが成功した場合、スポンサー企業はキャピタ ルゲインだけでなく、当該新事業をポートフォリオに加えることが可能であり、価値 は大きい。一方、移籍した従業員は身軽な経営環境にて目指す事業化に専念できる上 に、成功したときのリターンをキャピタルゲインで享受できる可能性がある。失敗し た場合はスポンサー企業への復帰の道が残されているので、安心感もある。こうした、

スポンサー企業バックアップ付きカーブアウトベンチャーを基本とした新事業創生の 方法論を日本流オープンイノベーションとして提案する。

・ 以上の説明において技術のルーツはスポンサー企業としていたが、大学や他の研究機 関発の革新的技術であっても、同様のアプローチが可能である。すなわち、外部機関 発の革新的技術の事業化に挑戦したい企業は、技術評価、事業計画策定等をした上で、

上記で言うスポンサー企業になり、当該技術開発チームをカーブアウトし、起業する ことになる。大学の場合、研究者が移籍できないことが障害になる可能性があるので、

そのような場合は技術を担う研究者を別途、例えば社内の研究所から調達する必要が ある。このためには、当該技術の研究開発のプロセスにおいて、当該外部機関と共同 研究などで連携し、技術のみならず人的ネットワークを構築しておくことが重要とな る。

・ 上記のように、革新的技術の開発プロセスはリニアモデルにならざるを得ないため、

時間がかかる。また時間をかけても期待する技術が得られないリスクもあるので、い くつかのアイデアを異なる方法にて開発できればいずれかがあたる可能性も高まる。

しかし、これを自社で投資しきれる企業はないので、外部機関の成果に期待するわけ である。したがって、そうした多数の外部機関によるイノベーションプロセスも含め た全体を眺めれば、同時進行する多数のリニアプロセスと、それらから目的にあった いくつかのプロセスを選択するプロセスからなる、より大きなイノベーションプロセ スが走ることになる。この大きなプロセスから社会が望むパラダイムシフトが起きる ためには、そのコンセプトを創生し、ビジョンを描画したリーダー(研究者の場合も あり、また市場プル型アプローチにて事業企画を策定したものの場合もある)が、ス ポンサー企業の実務的バックアップをえながら、機動的に動けるカーブアウトベンチ ャー企業を舞台として、一貫して研究ステージから事業化ステージにかけて意図の実 現に向けて尽力できるスキームが有効と考える。

・ 日本の大学発ベンチャーの多くはアイデアが出たばかりのフェーズにあると考えられ るが、その場合は事業化を議論するには早すぎるのではと推測する。ベンチャー企業 の設立に相応しいレベルまで原理実験と機能試作などを進めるべきではないかと考え る。事業化を検討すべきフェーズとなった場合、日本流オープンイノベーションの手 法を摘要するならば、ベンチャー・キャピタルからの資金調達の前に、事業化のバッ クアップをしてもらえるスポンサー企業を探すことが重要である。資金があっても製 品設計力、組織運営体制、マーケティング力などのリソースをバラバラに確保するこ とは容易ではなく、事業立ち上げがうまくいかないのが我が国の現状であるからであ

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る。

・ また、市場プル型アプローチを適用するならば、大学における研究テーマ選択の段階 から企業との技術交流を行い、適切なステージからの共同研究を行うことで事業化に 向けた方向を定め、カーブアウトに向けた企業内研究者の育成を行うことも効果的と 考える。

・ スポンサー企業が要となるという前提にたてば、スポンサー企業がその経験やリソー スを効果的に適用し、適切なリスクのもとに当該ベンチャー企業による事業化に取り 組めるための制度的支援が望まれる。特に、大学発ベンチャーであれば、産学連携政 策の出口でもあるので、政策的支援の意義は十分あると考える。具体策の検討は今後 の課題である。

(iii)基幹事業強化のためのオープンイノベーション

・ 製品開発力の強化のためには、調査した EFI 社や米国の比較的若い急成長企業の立ち 上げ期に典型的に見られるように、社内にない技術や要素部品、補間的製品などにつ いてそれらを有するベンチャー企業を買収、あるいは技術提携するなどにより積極的 に外部から導入する方法がある。厳しい競争下で巨額の資金投入の判断を迅速にして いく必要があるため、複雑かつ不確定なプロセスに見える。このような環境でのオー プンイノベーションは複雑系モデルとみることができ、上述したリニアモデルとは大 分様子が異なる。国内企業にとっては、海外ベンチャーの買収は経験が少ないために ハードルが高く、買収しても言葉の壁などによりうまく使いこなすことができないリ スクも高い。従って、国内のベンチャー企業に適当なものがあればよいが、そもそも ベンチャー企業が少ないことも問題である。複雑系モデルに関しては今後の検討に譲 りたい。

(2)アジアに進出している企業の事例調査

本委員会は 2004 年の国立大学の独立法人化を契機として発足したものであり、日本に おける産学連携の実態把握、あるべき姿の提言を目指した調査活動を行ってきた。その過 程で、「産学連携」を成功させるためには、単なる「産学連携」ではなく、地域を加味した

「産学地域連携」が重要な要素であるという仮説が浮かび上がってきた。

今までの訪問調査では、日本国内での地域連携、英国(スコットランド、ウェールズ、

イングランド)での地域連携についての調査を進めており、その重要性を認識してきた。

そこで、本年度は日本国にとって地理的に最も身近であるアジアを取り上げ、アジアにお ける地域連携の実態を調査することとし、まずはアジアに進出している企業の事例につい て簡易的な文献調査を行った。

検索には日経テレコンを使用し、検索対象は 2000 年以降の記事とした。「研究開発」×

「産学連携」のキーワードでは、7,022 件がヒットし、+「アジア」、+「拠点」、+「研 究開発拠点」と絞り込むことにより、ヒット数は 634 件、278 件、69 件となり、タイトル から関連のありそうな記事を 9 件抽出し、参考文献として本項末尾に記載した。

アジアでの研究開発拠点例として、実施企業、進出国、開始年、実施の内容・目的・規 模を表 3.1-1 にまとめた。多くはIT企業であり、製造業としては、半導体関連企業の進出 が目立っていることがわかる。また、主な日本企業の研究開発トップが述べているグロー

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バル研究戦略(3)について報告書にまとめた。

記載されている企業のうち、本年度は本委員会メンバーの所属企業である、NEC、東芝お よび三菱電機へのヒアリング調査を行った。

今年度のまとめ

本年度の産学連携検討委員会は、

①欧米企業のオープンイノベーションの調査と日本流オープンイノベーションの検討

②アジア地域における産学連携の実態調査 を行った。

① において、欧米企業におけるオープンイノベーションの調査をおこなうことにより、

・ 技術開発だけでなく、業界の方向付け、政策提言なども行う産業支援型 NPO 活動 による新規事業創出

・ 積極的なベンチャー投資と M&A による企業成長

・ ベンチャー企業を支える経営チームと、ベンチャー企業の製品やサービスを積極 的に導入する既存企業や個人といった、ベンチャー企業を支える社会インフラ が日本流オープンイノベーションにとって重要な示唆を与えると考えた。そこで、それら を加味した「社内からの技術を元にした積極的なベンチャー企業の設立と支援」と、「大学 や外部ベンチャー企業などに対する支援」を本委員会の今年度の提言とした。

②の調査では、アジア諸国における産学連携は一般的にはまだ始まったばかりの感はあ るが、アジア諸国の台頭を見据えて準備を行ってきた企業にとっては、今後の飛躍が期待 できることもわかった。

一昨年のサブプライムローン問題に端を発し、昨年のリーマンショック以降に深刻化し た経済不況は、100 年に一度の経済危機とも言われている。その影響により、各企業の研 究開発投資の削減は余儀なくされている。そのような状況の中ではあるが、日本の企業が 将来においての競争力を確保するためには、技術開発力を衰えさせることはあってはなら ない。そのためには、技術開発の効率化を図る手段としての、産学連携を始めとするオー プンイノベーションの重要性は益々重要になるのではないかと考えている。今後は、この 大不況下およびその後の世界を睨んだ、企業におけるオープンイノベーションのあり方に ついて考えていきたい。

参照

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