<特集「否定、形容詞と連体修飾複文」>
イタリア語における否定、形容詞と連体修飾複文
Negation, Adjectives and Compound Sentences of Adnominal Modification in Italian
久保 博 Hiroshi Kubo
東京外国語大学非常勤講師 Part-time Lecturer, Tokyo University of Foreign Studies
要旨:本稿は特集「否定,形容詞と連体修飾複文」(『語学研究所論集』第23号, 東京外国語大学)に寄与 する.本稿の目的は33個のアンケート項目に対するイタリア語データを与えることである.
Abstract: This report aims to provide the Iraliian data which answers the thirty three survey questions for the special volume of the Journal of the Institute of Language Research 23, which focuses on the cross linguistic study of
‘negation, adjectives, and compound sentences of adnominal modification’.
キーワード:イタリア語,否定,形容詞,連体修飾,複文
Keywords: Italian, negation, adjective, adnominal modification, compound sentence
特集「否定,形容詞と連体修飾複文」のアンケートについて,各文のねらいを考慮しつつ,以下に回答を まとめた.さらに簡単にではあるが解説も試みた.
アンケートへの回答は北イタリア出身のイタリア語話者にお願いした.イタリア語において興味深い と思われる事象を今回の調査から浮き上がらせるために,インタビューを二度行った.一度目は日本語を 十分に理解するイタリア語話者にこのアンケートを送りその回答を得たのち,二度目に筆者がさらに他 の回答も可能であるかどうかを聞くという手順をとった.
尚,グロスは最低限のみ付してある.
1. これは私の本ではない.[名詞述語文/コピュラ文の否定]
イタリア語において,コピュラ文の否定は1a のように否定辞 non がコピュラ動詞の直前1に現れる.ま た,コピュラ分に限らず,一般的には,否定辞と動詞の間に人称代名詞接語形のみが現れることができる2.
a. Questo non è mio libro.
this.SG.M NEG COP.3SG POSS.SG.M book3
1 人称代名詞接辞形と否定辞がともに現れるときは,否定辞+接辞+動詞という語順になる.
2 ロマンス語における否定辞の分類については,Zanutti(1997)を参照のこと.
3 本アンケートに掲載されているイタリア語の文では,動詞が直説法である場合,その旨は取り立てて明記されていな
い.接続法である場合は,その旨がグロスに示されている.
本稿の著作権は著者が保持し,クリエイティブ・コモンズ 表示 4.0 国際ライセンス(CC-BY)下に提供します.
https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja
2. この部屋には椅子がない.[存在文の否定]
イタリア語には,存在を表すために様々な表現があるが,ここでは最も標準的な動詞 esserci「ある」を 用いた文を2aに示す.また日本語の文を「中立叙述」と解釈する.
a. In questa stanza non ci sono sedie.
in.PREP this.SG.F room NEG there_are.3PL chairs
ここで強調しておくべきことは,形態論上,可算名詞である「椅子」は複数形であり,それに伴い動詞も 複数形に活用する点である.
3. この部屋には一つも椅子がない.[全部否定・モノ]
モノに関する存在文の全部否定の場合,標準的に単数形で否定形容詞の nessuno「誰(何)も...ない」
が用いられる.もしくは,否定副詞 neanche「も…ない」もしくは nemmeno「すら…ない」を不定冠詞お よび存在しないモノの単数形とともに用いる.nessunoやneancheが動詞に後置される場合,二重否定が起 こる.つまり否定辞nonは義務的に表れる.
a. In questa stanza non c’è nessuna sedia.
in.PREP this.SG.F room NEG there_is.3SG nobady.ADJ.SG.F chair b. In questa stanza non c’è neanche una sedia.
in.PREP this.SG.F room NEG There_is.3SG neither.ADV a.SG.F chair
3a,3bともに全部否定であることは確かであるが,前者の場合細かな含みの違いがある.前者は「椅子の
数量がゼロである」と直接明示しているのに対し,後者は「椅子の数量が最も少ない数である1に達し ていない(つまりゼロである)」と間接的に示している.
4. その部屋には誰もいない.[全部否定・ヒト]
ヒトに関する存在文の全部否定の場合も,単数形で否定形容詞 nessuno「誰(何)も...ない」を,「ヒ ト」を表す語(例えばuomo「人間,男」)とともに用いることができる(4a)が,より一般的にはnessuno を否定代名詞として用いる(4b).後者の場合は「ヒト」のみに用いることが可能で,「モノ」に用いる ことはできない.
3の場合同様,nessunoやneancheが動詞に後置されるので,否定辞nonは義務的に表れる. a. In quella stanza non c’è nessuno.
in.PREP that.SG.F room NEG COP.3SG nobady.PRN
b. In quellas stanza non c’è nessun uomo.
in.prep that.SG.F room NEG COP.3SG nobady.ADJ.SG.M human
また,以下のように「ヒト」にのみ使える最小化詞(minimizer)4を用いた回答も得た.
c. In quella stanza non c’è un cane.
in.prep that.sg.f room neg cop.3sg a.M dog
d. In quella stanza non c’è un’ anima viva.
in.prep that.SG.F room neg cop.3SG a.F soul living.ADJ
5. その本はこの部屋にない.[所在文の否定]
所在文は,通常,主語+essere 動詞(コピュラ)+場所という構文を取り,それを否定する場合,コピュラ動
詞であるessereに否定辞が前置される(5a).
a. Quel libro non è in questa stanza.
that.SG.M book NEGCOP.3SG in.PREP this.SG.F room.SG.F
6. この犬は大きくない.[形容詞文の否定]
形容詞文の否定では,コピュラ動詞に否定辞non が前置される(6a). a. Questo cane non è grande.
this.SG.M dog NEG COP.3SG big.ADJ.SG.M
7. この犬はあまり大きくない.[形容詞文の部分否定]
形容詞分の部分否定では,molto「とても」 やcosìといった程度を表す副詞を伴った文で動詞に否定辞 が前置される.ここではmoltoを用いた文を示す(7a).
a. Questo cane non è molto grande.
this.SG.M dog NEG COP.3SG very.ADV big.ADJ.SG.M
8. eこの犬はあの犬より大きい.[比較級]
伝統的なイタリア語文法では,比較級に関して優等比較級,劣等比較級,同等比較級の三種の文法事項が ある.前者二つは,修飾する二つも物体や概念などの差異を表すのに対し,同等比較級は二つの物体や概念
44aの文との対比を鮮明にするために「この部屋には何もない」という文の場合についても調査を行い次のような
回答を得た.以下のa, bでは、否定代名詞nienteおよびnullaが、cでは否定形容詞nessunoが用いられている.dでは標 準イタリア語ではないが、「モノ」にのみをしめす最小化詞(minimizer)が用いられる.
a. In questa stanza non c’è niente.
b. In questa stanza non c’è nulla.
c. In questa stanza non c’è nessuna cosa.
d. In questa stanza non c’è un cazzo.
さらに、nienteが名詞に前置され形容詞として「モノ」の全部否定に使われるケースもあるが、標準イタリア語 においても「特別」な事例であるため、その詳細に関してはGarzonio / Poletto (2008)およびMoscati(2006)を参照され たし.
最小化詞の定義、その通域的なヴァリアントについて、さらにロマンス語において最小化詞がフランス語の動詞 に後置される否定辞pasのように文法化する通時的プロセスについてはGarzonio / Poletto (2008)およびそこに掲載さ れている参考文献を参照のこと.
また、否定代名詞や否定形容詞が動詞に前置される場合、否定辞nonがあらわれず二重否定にならないが、それに ついての解説は省略する。
などの類似点を表す.
優等比較級では,più+形容詞+di+比較される対象,劣等比較級では meno+形容詞+di+比較される対象,と いう構文をとる.
文8は,優等比較級を用いるのが一般的だが(8a),劣等比較級を用いても似たような意味の文を作る ことができる(8b).
a. Questo cane è più grande
this.SG.M dog COP.3SG more.ADB. big.ADJ.SG.M
di quell’ altro.
than.PRE that.SG.M other.PRN.SG.M
b. Questo cane è meno piccolo
this.SG.M dog COP.3SG less.ADV small.ADJ.SG.M
di quel cane.
than.PRE that.SG.M dog 9. この犬がその犬たちの中で一番大きい.[最上級]
伝統的なイタリア語文法では,比較最上級と絶対最上級の区別があり,前者はある一定の範囲内で「最 も…である」という意味を客観的に表すのに対し,後者は主観的に「とても…である」「非常に…であ る」といった意味をあらわす.
文 9 は,前者の比較最上級にあてはまり,比較級同様,優等最上級(9a)と劣等最上級(9b)の区別があ る.前者は,定冠詞+più+形容詞+di+比較される範囲,後者では,定冠詞+meno+形容詞+di+比較される範囲,と いう構文をとる.
a. Questo cane è il più grande this.SG.M dog COP.3SG the.SG.M more.ADB big.ADJ.SG.M
di quei cani.
than.PRE that.PL.M DOG.PL
b. Questo cane è il meno piccolo
this.SG.M dog COP.3SG the.SG less.ADV small.ADJ.SG.M
di quei cani.
than.PRE that.PL.M DOG.PL 10. 今日はあの人は来ない.[自動詞文の否定]
10aのように,コピュラ動詞と同様,否定辞nonを動詞に前置する.
a. Oggi lui non viene.
today.ADV he NEG come.S.3SG
11. あの人はその本を持って行かなかった.[他動詞文の否定]
自動詞,他動詞にかかわらず文を否定するときには通常non が動詞に前置される(11a).
a. Lui non ha portato via
he NEG have.AUX.3SG bring.PAST.PTCP away.ADV
il libro.
the.SG.M book
12. 全ての学生が参加しなかった/学生は全員参加しなかった.[数量の全部否定]
イタリア語では「すべての…」を表すのに,tutto/i + 定冠詞 + 名詞句が用いられることから,文12の回 答として 12a のような文を予測していたが,有標だという事であり,アンケートの答えとしては,12b のよ うな回答を得た.
a. Tutti gli studenti non hanno partecipato.
all.ADJ.PL.M the.PL.M students NEG have.AUX.3PL participate.PAST.PTCT
b. Gli studenti non hanno partecipato tutti.
the students NEG have.AUX.3PL participate.PAST.PTCT all.ADJ.PL.M
13. 全ての学生が参加したわけではない.[数量の部分否定]
数量の部分否定では,否定辞non が数量を表す形容詞に前置される.本回答では,tuttiがnonによって修 飾される(13a)5.
a. Non tutti gli studenti non hanno
NEG all.ADJ.PL.M the.PL.M students NEG have.AUX.3PL
partecipato.
participate.PAST.PTCT
14. (私は買わなかった.しかし,決して)値段が高いというわけではない.[文の否定]
14a のように,否定される文が従属節として補語標識により導入され,主節は否定辞とコピュラ動詞の みで構成される.
a. Non è che era caro.
NEG COP.3SG COMP COP.IPFV.3SG expensive.ADJ
日本語の場合同様,ただ従属節の命題を単純に否定しているのではなく,別の作用を持っている6. さらに,標準イタリア語ではないが,聞き手の「前提」を否定するととらえた場合,14b のように,しばし ばmicaという動詞に後置される否定の副詞が使われる7.
5 ほかに14 の二つの構文を使って同じような意味を表すこともできるが,ただこの二つの場合,聞き手の前提などを
否定しているのであり,ここでの質問の意図である「部分否定」とは多少なりとも違うように思われる.
6 より詳しい解説はGarzonio / Poletto (2015)を参照のこと.
7 micaの詳細については,Cinque (1976)およびPenello-Pescarini(2008)を参照のこと.
b. Non era mica caro.
NEGCOP.3SG COP.IPFV.3SG NEG expensive.ADJ
15. 走るな![禁止]
イタリア語では,禁止を表すために数種類の回答を得た.
最も一般的と考えられるものは,否定命令法である.伝統的なイタリア語文法における否定命令法は,二 人称単数の場合,否定辞non +動詞の不定法(15a),敬称(三人称単数)の場合,否定辞non+命令法三人称 単数が用いられる(15b).形態論上,後者は接続法現在と一致する.
a. Non correre!
NEG run.INF
b. Non corra!
NEG run.S.IMP.3SG
そのほかにも,以下のような構文をもちいても否定を表すことができる.
非人称のsiを用い,一般的にある行動をしないことを表し,言語外の含みとして禁止を表す(15c).この構文 は,頻繁に子供をしつけるために用いられる.
c. Qui non si orre.
here.ADV NEG CLT run.S.3SG.
義務や可能性を表すモダリティー動詞を否定辞nonと共に用いる(15d,15e).
d. Non devi correre.
NEG must.MOD.2SG run.INF
e. Non puoi correre
NEG can.MOD.2SG run.INF
16. 大きな声を出すな![他動詞文の禁止]
イタリア語で,大きい声を出すに最も近い表現では,自動詞が用いられため,「大声でその言葉を言う な」という文を基本に考える.自動詞の時と同じく二人称単数の場合,否定辞non+動詞の不定法(16a), 敬称(三人称単数)の場合,否定辞non+命令法三人称単数が用いられる.
a. Non dire la parola ad altra voce.
NEG say.3SG THE.SG.F word aloud.ADV
15 の自動詞を用いた文と大差はなく,そのほかの同じ表現を用いて禁止を表すことができる.唯一の違 いは,「義務」「必要性」をあらわすandare「行く」 + 過去分詞の受け身構文であり,これは自動詞に用い ることはできない.これに否定辞nonをつけることで,「禁止」を表すことができる(16b).
b. La parola non va detta ad alta voce.
THE.SG.F WORD NEG go.AUX.3SG say.PAST.PTCT aloud.ADV
17. 明日は雨は降らないだろう.[推量の否定]
推量は様々な方法で表すことができるが,17aのようにforse「おそらく,たぶん」などのモダリティの 副詞を用いるのがもっとも簡易かつ基本的な表現であろう.また,17bのように,credere「思う,考える」,
pensare「考える」等の認識に関するモダリティ動詞,もしくは17cのように蓋然性や可能性を表す
probabile, possibileなどの形容詞を主節に用いて,推量を表すこともできる.以下のように,推量される内容
が従属節で示される場合,動詞は接続形をとる.
または,può darsi, può essere などの可能性を表す成句を用い(17d),推量を表すことがきる.
a. Forse domani non piove
maybe.ADV tommorow.ADV NEG rain.3SG
b. Penso che domani non piova.
think.1SG COMP tommorow.adv NEG rain.SBJV.3SG c. È probabile che domani non piova.
be.AUX.3SG probable.ADJ COMP tommorow.adv NEG rain.SBJV.3SG
d. può darsi che domani non piove.
can.MOD.3SG give.REFL.INF COMP tommorow.adv NEG rain.SBJV.3SG
18. あの人に聞こえないように,小さな声で話してくれ.[目的節の否定]
目的節は,前置詞per,もしくはperché, affinché, acciocché, ché, onde等の接続詞によって導入される.前者 の場合,動詞は不定詞が,後者の場合,否定文であるかにかかわらず接続法が用いられる.ここではperché を用いた文を示す(18a)が,興味深いことに,perchéを直説法の動詞と用いると,目的ではなく理由を表す
(18b).
a. Parla piano per favore, perché
speak.IMP.2SG quietly.ADV please so_that.CONJN
quella persona non lo senta
that.SG.F person NEG it.CLT.SG.M hear.SBJV.3SG
b. Parla d alta voce per favore, perché
speak.IMP.2SG aloud.ADV please because.CONJN
quella persona lo sente.
that.SG.F person it.CLT.SG.M hear.3SG
19. 私はあなたを怒らせようと思ってそう言ったんじゃない.[否定のスコープの調節]
否定のスコープの調節に関しては,19a,19bの二種類の回答を得た.前者の目的節は否直前に否定辞が置 かれ,統語的に否定のスコープが調節されていることが明示される.後者の場合,否定辞は無標の位置にあ るが,目的節全体が強いアクセント(大文字で強調)を伴って発音される.つまり,ここでは統語的には否
定のスコープの調節が明示されない.
a. Te l’ ho detto non
you.CLT.SG it.CLT.SG have.MOD.1SG say.PAST.PTCT NEG
per farti arrabbiare.
for.PRE CAUS.INF-you.REFL.CLT.SG get_angry.INF
b. Non te l’ ho detto
NEG you.CLT.SG it.CLT.SG have.AUX.1SG say.PAST.PTCT
PER FARTI ARRABBIARE.
for.PRE CAUS.INF-you.REFL.CLT.SG get_angry.INF
20. 私が昨日買ってきた本はどこ(にある)?[内の関係の連体修飾節・目的語]
イタリア語では内の関係の連体修飾節・目的語は,cheやil quale などのいわゆる関係代名詞によって 導入される従属節によってあらわされる.本アンケートでははcheを用いた回答を得た(20a).
a. Dov’ è il libro che ho
where COP.3SG the.SG.M book COMP have.AUX.1SG
comprato ieri.
buy.PAST.PTCP yesterday
21. その本を持って来た人は誰(か)?[内の関係の連体修飾節・主語]
内の関係の連体修飾節・主語も,目的語同様,cheやil quale などのいわゆる関係代名詞が導入する関係 節によって表される.
a. Chi è la persona che ha
who COP.3SG the.SG.F person COMP have.AUX.3SG
portato quel libro?
bring.PAST.PTCP that.SG.M book
22. この部屋が私たちの仕事をしている部屋です.[内の関係の連体修飾節・場所]
内の関係の連体修飾節・場所は,関係副詞dove,前置詞+cui(関係代名詞), 前置詞+定冠詞+ quale(関 係代名詞)が導入する従属節によってあらわすことができる.ここではdoveを用いた回答を得た
(22a).
a. Questa è la stanza dove lavoriamo.
this.SG.F COP.3SG the.SG.F room where work.1PL
23. 足が一本折れたあの椅子はもう捨ててしまった.[内の関係の連体修飾節・所有者]
内の関係の連体修飾節・所有者を表すために,23a,23bの二種類の回答を得た8.
a. Ho già buttato via
have.AUX.IMFV.1SG already.ADV throw.PAST.PTCT away.ADV
la sedia che aveva una gamba rotta.
the.SG.F chair COMP have.IMFV.1SG a.F leg break.PAST.PTCT
b. Ho già buttato via
have.AUX.IMFV.1SG already.ADV throw.PAST.PTCT away.ADV
la sedia della quale una gamba era rotta.
the.SG.F chair of_the_which a.F leg be.COP.3SG break.PAST.PTCT
前者は,補文標識cheで導入される従属節によって所有者が示され,後者では所有を表す前置詞diを伴 った関係代名詞 il quale9によって導入される従属節によって所有者が示される.
24. ドアを叩いている音が聞こえる.[外の関係の連体修飾節]
この文には知覚動詞を使うのが最も一般的だと思われるが,あえて rumore「音」という語を使っても らった場合,24aのような回答を得た10.
a. Sento il rumore di qualcuno che
hear.1SG the.SG.M sound of.PRE someone COMP
sta bussando la porta.
stay.AUX.3SG knock.GER the.SG.F door 25. あの人が結婚したという噂は本当(か)?[外の関係の連体修飾節]
voce「噂」という語の場合は外の関係の連体修飾節を伴うことができ,主にche によって従属節を導入
する(25a).
a. È vera la voce che quella persona
COP.3ST true.ADJ the.SG.F rumor COMP that.SG.F person
si sia sposata?
CLT.REFL be.SBJV.3SG get_marry.PAST.PTCT
26. 私はその人が来た時にご飯を食べていた.[時間節]
時間節は,quando「…の時」(26a)や mentre「…の間」(26b)などの接続詞,もしくは時間を表す先行 詞とともに用いられる前置詞を伴った関係代名詞cui等(26c)によって導入される.
8 この二つの回答以上に一般的なものは,“Ho già buttato via la sedia con una gamba rotta”のようにcon「…とともに」に
よって導入される前置詞句を用いることだが,ここでは出題の意図にそぐわないため脚注に記す.
9 回答では,先行詞sediaの数と性が一致したla qualeが用いらている.また23bはあまり一般的な構文ではない.
10 直訳すると,「ドアをノックしている誰かの音が聞こえる」となる.
a. Quando stavo mangiando, lui è entrato.
when.CONJN stay.IMPF.1SG eat.GER he be.AUX.3SG enter.PAST.PTCT b. Mentre stavo mangiando, lui è entrato.
while.CONJN stay.IMPF.1SG eat.GER he be.AUX.3SG enter.PAST.PTCT
c. Nel momento in cui stavo mangiando, lui è
in_the moment in_which stay.IMPF.1SG eat.GER he be.AUX.3SG
entrato.
enter.PAST.PTCT
27. 私はその人が待っている所に行った.[場所節]
場所節を示すために,関係副詞doveやal posto in cui / doveなどの場所を表す語を先行詞としてとる関 係副詞を用いることができるが,本アンケートでは27aを回答として得た.
a. Sono andato dove mi stava.
be.AUX.1SG go.PAST.PTCT where me.CLT.1SG stay.AUX.3SG aspettando.
wait.GER
28. 私はその人が走っていったのを見た.[補文節・視覚]
知覚動詞は,視覚28,聴覚29ともに,a, b二つの構文で表すことができる.28aは,知覚動詞+不定動詞とい う構文をとり,知覚動詞の直接目的語で表されている語が,不定動詞の意味上の主語となる.この不定詞節 の代わりに,28bのように活用した動詞を含む従属節を用いることもできる.
a. Ho visto quella persona correre.
have.AUX.1SG see.PAST.PTCT that.SG.F person run.INF
b. Ho visto quella persona che correva
have.AUX.1SG see.PAST.PTCT that.SG.F person COMP run.IMPF.3SG
28bの文は一見普通の関係詞節が有るようにみえるが,いくつかの関係代名詞とは違う性格を持つこと からpseudorelativa(疑似関係詞節)などと呼ばれている.(Salvi / Vanelli 1994).
情報提供者によるとこの二つの構文の意味上の違いは以下のとおりである.一方で,28a では走り始め てから止まる,もしくは消え去るまでのすべてを目撃したのに対し,29b ではすでに走っているところを 目撃したという違いがあるという.
29. 昨日の夜,私は彼らがしゃべっているのを聞いた.[補文節・聴覚]
a. Ieri notte li ho sentiti
yesterday night them.CLT.SG.M have.AUX.1SG hear.PAST.PTC
parlare.
talk.INF
b. Ieri notte li ho sentiti yesterday night them.CLT.SG.M have.AUX.1SG hear.PAST.PTC
che parlavano.
COMP talk.IMPF.3PL
30. 私はその人が昨日ここに来たことを知っている.[補文節・知識]
知識を表す動詞に関しては,知覚動詞と同様の構文をとることはできない.「知っている」内容は補文 標識cheによって導入される従属節として示される(30a).
a. So che ieri lui è stato qui.
know.1SG COMP yesterday he be.AUX.3SG be.PAST.PTCT here.ADV
31. (昨日)彼は彼が今日ここに来たと言った./(昨日)彼は,「私は今日ここに来た」と言った.[補文節・直接発 話/間接話法]
間接話法の場合,前置詞di + 不定詞(31a),もしくは補文標識che(31b)によって従属節を導入する. 前者は主文と従属節の動詞の主語が一致している場合につかい,それ以外の場合は後者が用いられる.
直説話法の場合には,日本語の「と」やサンスクリット語の iti のような引用節を示すマーカーは存在 しない(31c).
a. Lui ha detto di essere
he have.AUX.3SG say.PAST.PTCT of.PRE be.AUX.INF. venuto oggi.
come.PAST.PTCT today.ADV
b. Lui ha detto che è
he have.AUX.3SG say.PAST.PTCT COMP be.AUX.3SG
venuto oggi.
come.PAST.PTCT today.ADV
c. Lui ha detto: “Sono venuto
he have.AUX.3SG say.PAST.PTCT be.AUX.1SG come.PAST.PTCT
qui oggi”.
here.adv today.ADV
32. 私はリンゴが(あの)皿の上にあったのを食べた.[内在節・従主・主主]
イタリア語では,内在節は存在しない構文であり,32 の場合「リンゴ」は主節の直接目的語として明示 される(32a).
a. Ho mangiato la mela che stava
have.AUX.1SG eat.PAST.PTCT the.SG.F apple COMP stay.IPFV.3SG
su quel tavolo on.PRE that.SG.M table.
33. 私はネコが家に入ってきたのを捕まえた.[内在節・従主・主目]
32の場合と同じく,ネコは主節の直接目的語として明示される(33a).
a. Ho afferrato il gatto
have.AUX.1SG grab.PAST.PTCT the.SG.M cat
nel momento in cui stava per entrare in casa in_the_moment_in_which stay.IPFV f or.PRE enter.INF in.PRE home
参考文献
Cinque, G. 1976. Mica. Annali della Facoltà di Lettere e Filosofia dell'Università di Padova, 1: 101-112.
Garzonio, J. / Poletto, C. 2008. Minimizer and quantifiers: a window on the development of negative markers.
Studies in Linguistics CISCL Working Papers, 2: 59-80.
Garzonio, J / Poletto, C. 2015. On Preverbal Negation in Sicilian and Syntactic Parasitism. Isogloss, Special Issue:
133-149.
Moscati, V. 2006. The Scope of Negation. PhD: Thesis, University of Siena.
Salvi, G.P. / Vanelli, L. 2004. La nuova grammatica. Bologna: Il Mulino.
Penello, N. / Pescarini, D. 2008. Osservazioni su mica in italiano e alcuni dialetti veneti. Quaderni di lavoro dell’ASIt, 8: 43-56.
Zanuttini, R. 1997. Negation and Clausal Structure. New York & Oxford: Oxford University Press.
執筆者連絡先:[email protected] 原稿受理:2019年5月7日