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中国のキリスト教団体及び活動の特徴について :  上海朝鮮族の「家庭教会」を事例に

著者 徐 ?

雑誌名 評論・社会科学

号 118

ページ 47‑69

発行年 2016‑09‑30

権利 同志社大学社会学会

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000014693

(2)

要約:中国の社会福祉は大変遅れをとっている中,宗教を社会資本とする認識は強まりつ つある。しかしながら,中国におけるキリスト教の実態,特に「家庭教会」に関して明ら かにされていない部分が多い。そこで,本稿では主にインタビュー調査を通して,上海朝 鮮族の「家庭教会」の事例をもとに,「家庭教会」の実態,及びその活動の特徴を明らかに する。また,朝鮮族キリスト教団体が地域社会における福祉活動への参加を通して,朝鮮 族のニューカマーの上海都市生活の適応に果たした役割,地域社会に与えた影響について も検討する。さらに,中国における「家庭教会」の課題を分析し,解決策への提示を試み る。

キーワード:上海朝鮮族キリスト教,家庭教会,社会福祉,慈善活動

目次 はじめに

1.先行研究及び研究意義

2.上海市朝鮮族及びキリスト教団体 2-1.「万邦教会」

2-2.「上海市キリスト教会」

2-3.上海朝鮮族のその他の教会 3.朝鮮族キリスト教団体活動の特徴

3-1.「万邦教会」

3-2.「上海市キリスト教会」

3-3.「弟子教会」

3-4.上海朝鮮族キリスト教会と韓国人教会との関係 4.上海朝鮮族キリスト教の社会福祉活動について

4-1.中国における社会福祉と宗教慈善状況 4-2.外部社会に向けての福祉慈善活動 4-3.内部社会に向けての朝鮮族への支援活動

4-4.朝鮮族キリスト教の「内外活動」参加における課題 5.「家庭教会」が置かれている立場

6.考察 おわりに

────────────

同志社大学客員研究員,上海応用技術大学人文学院副教授

2016629日受付,201671日掲載決定

論文

中国のキリスト教団体及び活動の特徴について

──上海朝鮮族の「家庭教会」を事例に──

47

(3)

は じ め に

中国の社会福祉は大変遅れをとっている。中国では社会福祉(英語は:Social Wel-

fare)を社会福利と称し(以下社会福祉と統一する),計画経済から市場経済への移行

に伴い,専門分野として

1990

年代から,急速に発展している。しかしながら,長い間 社会福祉は社会救済と単純に理解され,社会福祉が政策に反映されるようになったの は,2000年代に入ってからのことである。社会福祉は,実践レベルにおいては高齢者,

児童,障碍者など社会的な弱者を対象に,物質援護及び関連サービスを含む多岐にわた る内容を含む保障体系である。ここでは物質保障のみならず,精神的及び心理的な支援 も含まれると提起する(鄭

2013)。2000

年代以降から,民間資本が少しずつ参入するよ うになったが,キリスト教など宗教による社会福祉事業への参入は,さらに遅れを取っ ている。

イデオロギーの影響で,中国における宗教の地位に関して理解に苦しむ部分があるか もしれない。中国では,民族と宗教の管理部門として,中央には国家民族事務委員会,

国家宗教事務局が設置されている。そして各地方には民族宗教事務委員会がある。キリ スト教(1)全国「両会」とは「中国キリスト教三自愛国運動委員会」と「中国キリスト教 協会」を指し,略称で「両会」と呼ぶ(以下「両会」と称する)。「両会」はキリスト教 の行政管理部門である(徐

2014)。

中国のキリスト教には大きく分けて政府公認の「三自教会」(略称:「三自」)と政府 非公認の「家庭教会」がある。「三自教会」(即ち三自愛国教会)とは,中国政府及び共 産党のリーダーの下,国外教会の管理や干渉を受けず,自伝,自養,自治を原則とする 教会のことである(2)。「家庭教会」とは中国ではまだ認可を受けていないキリスト教信 者が自発的に組織した団体である。「家庭教会」といっても実は家庭とは関係なく,当 初,教会堂がないために家庭で集会を行ったことが名前の由来である(劉

2011)。2012

年の統計では,上海にはキリスト教職が

287

人,信者

22.36

万人,教会堂が

169

ヶ所あ った(3)。この統計には「家庭教会」が入ってないが,推定ではおよそ「三自教会」の

1

〜3倍とも言われる。

「家庭教会」が公的な場で初めて言及されたのは,2008年

11

月の「キリスト教と協 調社会シンポジウム」である(4)。それから,以前ほど「家庭教会」の存在が問題視され ることはなくなり,徐々に「家庭教会」を人民内部の矛盾(劉

2011)として認識する

ようになった。そのため,多くの「家庭教会」の存立条件が大きく緩和され,政治介入 をせず,カルトでなく,また社会秩序に悪影響を与えなければ,その活動が黙認される ようになったのである。現段階で政府は「家庭教会」の登録を認めておらず,政府とし

中国のキリスト教団体及び活動の特徴について 48

(4)

てはキリスト教はすべて「三自教会」にまとまってほしいものの,「家庭教会」は「三 自教会」には入りたがらないのである。

実際のところ「家庭教会」といっても典型例だけで語ることはできない。家庭教会で は,教職者が不足しているため,宣教内容,宣教方式などにおいて任意性が高く,宗教 実践に迷信が混入していることも少なくない。特に地方の教会では信者の教育レベルも 低く,合法か非合法かの区別さえつけることも難しく,宗教と邪教及び宗教と迷信の境 界が定かではないと言われている(5)。また,海外の異端的キリスト教会やカルトの侵入 にも抵抗力がないために,信徒は騙されやすく,このような教団の支部になったりする 可能性もある。

上海

2400

万人口の中で,朝鮮族は僅か

3〜4

万人に過ぎないが,そのうち約一割がク リスチャンである(6)。本稿でいう上海の朝鮮族クリスチャンは少数民族という民族性を 持つニューカマーのキリスト教「家庭教会」のことである。朝鮮族は人数的には多くな いが,少数民族である他,上海のニューカマーという独特な位置にあり,さらに中国に おける「家庭教会」という微妙な地位を加えると複雑な問題を孕んでいると言える。し たがって,上海朝鮮族「家庭教会」の活動の特徴はどのようなものであるか,その実態 を明らかにする必要がある。

以上のような問題意識を踏まえ,本稿の研究目的は,(1)朝鮮族の「家庭教会」の全 貌及び活動の特徴(2)朝鮮族キリスト教団体の地域社会における福祉活動の参加,及 び朝鮮族のニューカマーの上海都市生活の適応に果たした役割(3)「家庭教会」が置か れている立場を明らかにすることである。また,朝鮮族は上海ではマイノリティであ り,独特な民族文化を持つ。このことを踏まえ,なぜ「家庭教会」が「三自教会」に入 りたがらないのか,そして,朝鮮族の「家庭教会」に対して政府のどのような対応が適 切であるかを検討する。

本研究では主に文献資料とフィールドワークの研究方法をとっている。フィールドワ ークの実施期間は

2011

年から

2014

年にかけてであり,合計数十回以上断続的に教会の 集会に参加した。また,その間

7

名の牧師,10名以上の信者,数名の政府関係者に対 するインタビュー調査も行った。

1.先行研究及び研究意義

少数民族と宗教信仰は中国にとって従来デリケートな問題であることは言うまでもな い。社会変容が激しい中で,社会問題や衝突の減少を考えるためには,宗教がもつ多機 能への新たな認識が必要であり,そして,調和の取れた社会の構築には,理論的な根拠 が必要である。以下,現代中国宗教の研究に関して先行研究をレビューする。

中国のキリスト教団体及び活動の特徴について 49

(5)

A.宗教の本質,機能に関する研究

呂(2007)が指摘するように,宗教はただ一種の「社会のイデオロギー」であるだけ でなく,一種の「文化形式」でもある。李(2008)は中国の宗教研究における三段階論 のパラタイム,すなわち「鴉片−文化−倫理」という構図を提示し,宗教は人々が享受 できる「社会資本」であると指摘した。劉(1996)は哲学的な視点から,宗教の本質は 限られた人生への不安がある中,来世への希望を現世の有限性に盛り込むことだと論証 した。このような現世への不満感が理性に合うかどうかは別にして,人間性として理解 できる部分があると指摘した。

B.宗教とイデオロギー及び道徳関係に関する研究

宗教と科学の関係において,李(1997)は,宗教は人間の信仰であり,科学は自然界 解釈であるという認識を持っている。陳・陳(2003)は宗教と倫理道徳の関係におい て,宗教倫理構造は,人と神の関係における神本位,人と人の関係における人本位,人 と自然関係における生態本位によって成立していると指摘し,三者の異なる次元は人類 意識のレベルによって変わってくると述べた。趙(2001)は「地球倫理」(7)目標の実現 は神聖な価値と世俗的価値の融合であり,宗教的な次元からグローバル化する趨勢に神 聖な価値観の資源を提供したと指摘している。

C.中国少数民族のキリスト教伝播に関する研究

銭(2000)は,雲南省少数民族社会におけるキリスト教の伝播について,民族性と宗 教は互いに影響し合い,ときに衝突する過程であること,またキリスト教が少数民族の 文化や伝統,生活習慣に適応する中で土着化する特徴をもつことを指摘した。

D.宗教と中国における社会変容に関する研究

何(2006)は系統的に中国の五大宗教と中国現代社会の基本的な関係を論じ,それら の宗教は中国の社会歴史の変容に応じて,著しく変化していると述べた。梁(2004)は 社会構造の変化と宗教への帰依の内在関係について論じ,人々が最も関心を持つ宗教信 仰とアイデンティティの実際問題を取り上げた。呉・李(2009)はグローバル化とロー カル化が連動する背景の下,中国都市キリスト教の制度変遷及び認可へのモデルチェン ジについて論じた。

E.宗教とアイデンティティの研究

現代中国の宗教社会学研究では,キリスト教宗教信者のアイデンティティの研究が目 立つが,その他の宗教信者のアイデンティティの研究もある(梁

2004;李 2007

など)。

楊(2008)はアメリカ華人キリスト教の民族誌研究を通して,宗教信仰における「多次 元アイデンティティ」という概念を打ち出した。

F.宗教と社会福祉に関する研究

張(2008)は宗教の社会的側面について中国宗教の公益事業の視点から論述を展開し

中国のキリスト教団体及び活動の特徴について 50

(6)

た。劉(2005),左(2007)はキリスト教の倫理は欧米の主流文化の源であり,社会福 祉及びソーシャルワークの価値観を提供していると論じた。曹・陳(2010)はキリスト 教の民間組織が中国の市民社会に与える影響を論じ,両者はパートナシップであると述 べ た。ま た,社 会 転 換 期 に お け る 政 府,宗 教 と 慈 善 関 係 に 関 す る 研 究 も あ る(劉

2007;崔・孫 2014)。

G.「家庭教会」に関する研究

「家庭教会」に関する研究は「家庭教会」の定義,現れた原因,存在する問題点及び 解決策(高

2006;于 2008;劉 2011)などであり,「家庭教会」は中国において未だ認

可されていないという現状描写にとどまる研究が多い。

以上述べたように,この

30

数年の間に中国の宗教研究は多大な成果を収め,宗教の 特徴,規律及び役割などの認識をより深めている。また,これらの成果は急速な社会転 換期において,宗教と社会の相互影響及び宗教と社会福祉の相互関係を正確に把握する ためにも貢献しており,宗教の発展趨勢を理解する上で方法論を提示したと思われる。

ただし,「家庭教会」の研究については,まだ分析を深める余地が十分あり,特に朝鮮 族の宗教信仰に関する研究は非常に少ない。管見の限りでは,金の「中国朝鮮族宗教信 仰歴史変遷」(2009)と江(2007)の「東北朝鮮族の民間信仰及び変遷」,黄他(2014)

「東北朝鮮族地域におけるキリスト教の伝播史」くらいである。そして,上海における 朝鮮族のキリスト教の研究は,現時点ではほとんどみられない。そのため,本研究の資 料的価値がここにある。また,「家庭教会」の特徴を整理し,朝鮮族のキリスト教団体 の社会福祉活動を通して「家庭教会」が少数民族の社会適応に果たした役割,上海地域 社会への影響を考察し,さらに,「家庭教会」の課題を検討し,解決策を模索する手か がりになり得るという点においても,研究意義があると考える。

2.上海市朝鮮族及びキリスト教団体

上海にはおよそ

3〜4

万人の朝鮮族がいる。閔行区の龍柏,虹橋地域に朝鮮族が集住 しているほか,近年不動産の値上がりによって,郊外に位置する松江区の九亭地域及び 浦東新区にも集中している。上海朝鮮族の中で数千人のクリスチャンは約十分の一を占 め,朝鮮族のニューカマーに限ってみれば,多くの割合を占めている。ごく一部の上海 の朝鮮族が政府認可の「三自教会」に通い,多くは自民族言語で伝道する「家庭教会」

に通っている。

現在上海にはおよそ数十個の「家庭教会」があり,そのうち規模が大きいものとして は「万邦教会」,「弟子教会」,および閔行区の「上海市キリスト教会」などが挙げられ る。「上海市キリスト教会」は政府の暗黙の了解のもとに活動しており,暗黙の了解に

中国のキリスト教団体及び活動の特徴について 51

(7)

は朝鮮族の家庭教会を統合してほしいという政府の意味合いも込められている。つま り,「上海市キリスト教会」が政府の黙認を得ているが,その他の団体はまだ認可を得 ていない。いずれにしても,牧師への給料の支給,教会の運営,宣教活動などすべて自 ら行わなければならない。以下いくつかの代表的な教会団体を簡単に紹介する。

2-1.「万邦教会」

上海で最も早く形成され,最も規模の大きい朝鮮族のキリスト教団体である。2006 年朝鮮族の崔権氏により設立され,政府から注目されている。崔氏によると,クリスチ ャンになったのはクリスチャンである母親の影響よりも,若いころ交通事故にあったの が主なきっかけであるという。崔氏は東北神学院を出て,上海に進出して「万邦教会」

を作り上げた。長年の努力によって教会は急速に発展し,2009年までの状況をみると,

人数が最も多い時で

1700

人前後に達した。しかし,その後周辺住民との摩擦があって,

政府から注意を受け,数回解散,分解し,松江の九亭に拠点を置くようになった。

筆者の

2012

年下半期の調査によると,九亭にある「万邦教会」に通う人はおよそ

280

人前後であった。2012年

4

月,周辺住民と村委員会の反対により,集会所が取り締 まりを受け,再び解散し,「万邦教会」は

7

つの家庭集会に分かれた。しかし,牧師と 伝道師は崔氏を入れても

4

人しかおらず,彼ら

4

人が

7

つの集会所(家庭)を回りなが ら伝道している。2013年の夏に,九亭で新しい集会所が確保され,そこだけでも

100

人以上の人がいる。2014年現在は合計

500

人前後の規模になっている。

2-2.「上海市キリスト教会」

2011

7

月末にできた教会である。閔行区の古い空き工場の三階を信者の文氏によ る全額出資で改装し,およそ

200

人余りを収容できる。筆者の観察によると,毎回礼拝 に来る人は

60-70

人程度にとどまっている。牧師は朴永浩氏であり,元々は吉林省龍井 市キリスト教会長,三自愛国教会の主席,延辺朝鮮族自治州の人民代表,政協委員など の職を歴任した。龍井地域では名高い牧師であったという。

朴牧師は政府の人材政策によって上海市閔行区に呼び寄せられた。なぜなら朴氏は

「三自教会」の出身で,身分が合法的であるからである。調査によると,朴氏は上海に 来る前,閔行区民族宗教管理部門の責任者と数回面会した。区政府は彼を呼び寄せるこ とによって,上海在住の朝鮮族キリスト教組織を整理し,それぞれの教会勢力を統合し て上海朝鮮族のキリスト教の発展が政府の思う方向に進められることを期待していた。

因みに,現在「上海市キリスト教会」集会場はすでに政府管理下に置かれており,上海 市においては唯一「合法身分」を持つ団体になっている。しかし,その故に「上海市キ リスト教会」はその他の朝鮮族キリスト団体と比べると活動方式が伝統的で,保守的で

中国のキリスト教団体及び活動の特徴について 52

(8)

ある。ゆえに,上海在住のキリスト教信者を統合するまで,まだまだ時間を要すると思 われる。

2-3.上海朝鮮族のその他の教会

前述した「万邦教会」,「上海市キリスト教会」以外にも,閔行区には例えば「弟子教 会」など数百人規模の教会がいくつかある。しかも各教会の集会所が隣り合わせに位置 する。その中でも「上海市キリスト教会」と「弟子教会」は向かい合って位置してお り,本来なら競争関係にあるはずなのだが,両者の関係は穏やかである。

浦東新区はもう一つの朝鮮族が集居している地域である。30人以上の朝鮮族の教会 が十数個ある。近年不動産の値上がりで,割安な上海近郊の松江区九亭地域にも新しい 朝鮮族の集居区ができた。筆者の朝鮮族の知人のなかにも閔行区からそこに引っ越した 人や業務や事務室を移した人が数人いる。このような背景から朝鮮族の家庭教会もその 地域において広がりをみせている。

上海朝鮮族のキリスト教団体の全体的な特徴は,数が多く,規模が小さく,集会所が 点在しており,かつ場所が不特定で,通っている人々の多くが非上海戸籍の朝鮮族であ ることである。

3.朝鮮族キリスト教団体活動の特徴

3-1.「万邦教会」

万邦教会は数回にわたって政府の取り締まりを受けてきたが,他の朝鮮族教会と比較 すると,強い生命力を持っていると言える。万邦教会は周辺住民との摩擦などの原因 で,幾度も取り締まりを受け,一部の信者は離れたが,朝鮮族の教会の中では依然とし て人数が最も多い。現在集会所は

7

つに分かれているが,主に閔行区と松江区にある。

集会所の人数はそれぞれで,数十人から百人の規模である。そして,信者に対する若者 の割合が高い。

万邦教会の規模は急速に拡大している。その要因としては,以下のようなものが考え られる。

第一に,牧師の説教において,毎回目新しい内容が盛り込まれていることである。牧 師は難解な神学の意味を分かりやすく解析しており,しかもその内容が日常生活とよく 結びついているため,人々の共鳴を起こし,信者に受け入れられている。

第二に,礼拝面が活発であることである。伝統教会と比較すると活動が活発で,活気 にあふれ,強い感銘を受けられる。賛美歌の時間も長めに設けられており,前後合わせ て一時間以上ある。賛美歌の内容は随時更新され,礼拝の仕方から雰囲気まで活気にあ

中国のキリスト教団体及び活動の特徴について 53

(9)

ふれている。しかも,礼拝時に比較的流行している「敬拝賛美」形式をとり,熱烈で活 気いっぱいの歌が若者に人気があるように見えた。礼拝時に人々は心身ともに溶け込 み,より深い宗教体験ができるようである。

第三に,崔氏がリーダーシップ及び個人的な魅力を持っていることである。崔氏の宗 教体験内容が非常に感動的であり,信者の気持ちを充分高めることができる。信者同士 の宗教体験の分かち合いも心の本音からであり,「イエス」との出会いの喜びは涙を流 しながらのものが多い。

第四に,祈祷時間が比較的長いことである。多くの信者が長い時間の祈祷は精神的に 解放感があると語った。

第五に,崔氏夫人が韓国人であるため,海外のクリスチャンと連携しやすく,交流に も支障がないことである。万邦教会は礼拝形式などの面で,随時,海外特に韓国の最新 のやり方を導入することができる。

第六に,信者の教会組織の運営に参加する度合が高いことである。信者は教会の組織 の仕組みに意見を述べ,また参加することによって,自主性が発揮でき,主体意識を十 分に表現できる。故に,信者は教会の各種活動に積極的に参加し,教会への帰属意識を 共感できる。

第七に,崔氏及び宣教団体が宣教活動を熱心に行っていることである。「三自教会」

は少なからず官僚化の気質を持っている。ところが,対照的に万邦教会の各集会所は早 朝から需要のある信者のために開室し,時には簡単な朝食も提供する。夜の閉室も遅 く,信者は修道したり,各種活動に励んだりする。スタッフの人数は少ないが,崔氏及 びその団体はすべての信者の面倒を見るように努めている。時間があったら,必ず信者 の家を訪ねたりして,最善を尽くしている。

3-2.「上海市キリスト教会」

この教会は現在政府に黙認されている。責任者の朴永浩牧師は,『聖経』及びその教 義における学識レベルが高く,またアメリカ牧会学の博士学位を取得しており,個人の 権威が強いイメージがある。しかし,朴氏は延辺の龍井「三自教会」の出身で,伝統教 会の特徴も継承している。因みに,形式上にしても,伝道内容についても伝統から抜け 出せない部分がある。礼拝も伝統形式を受け継ぎ,厳粛な雰囲気の中で行われる。牧師 と信者の関係においてもより公式的であり,公務のような雰囲気さえある。牧師の地位 がもっと権威を持ち,物事に対する観念などがもっと伝統的で,保守的である。例え ば,朴氏は

2013

年時点でスマートフォンを使うことすら賛成しなかった(8)

「万邦教会」などその他の教会と比べると,「上海市キリスト教会」の礼拝儀式は情熱 に欠けているように見える。礼拝時に歌う讃美歌も中国「両会」が決めた『新編讃美歌

中国のキリスト教団体及び活動の特徴について 54

(10)

400

首』を使い,他の家庭教会が流行的なものや新作を次々と入れるのと異なる。又一 部の讃美歌は毎週必ず歌われるため,若者にとってはあまり魅力がなく,変化に乏し い。特に宗教体験を分かち合う場面では,信者の感情を盛り上げることができず,た だ,形式だけのものという感じを与え,信者との共感が伴わず,理性的すぎる。祈祷の 時間も比較的に短く,信者は「霊的に飢餓感」があるようで,心身共に満足感や解放感 が低いようである。因みに信者の中には「上海市キリスト教会」に一時通ったものの,

その後に別の教会に移った人もいる。

3-3.「弟子教会」

この教会の責任者は具牧師であり,年齢は崔氏と朴氏より若い。礼拝や宗教体験を分 かち合う場面で特徴がある。特に心に響く体験を述べる時は,涙を流させるような雰囲 気を醸し出し,全員に感動を与える。因みに,「弟子教会」には大勢の若者が参加して いる。

以上述べてきた教会以外に,近年「企業家グループ」(又は工商グループ)(9)というキ リスト集会が活発になっている。一部の朝鮮族キリスト教信者が異なる教派の壁を超 え,「朝鮮族キリスト教企業家グループ」を立ち上げた。彼らはみんな企業家であり,

毎週例会があり,教会色薄めの企業の発展方針や企業の社会貢献などのモラルの勉強を している。このグループに参加している人は朝鮮族企業界の精鋭であり,上海朝鮮族社 会において模範的な役割を果たす人が多い。またこのグループは,朝鮮族キリスト教組 織において異なる教派間の協議,連絡を行う役割も果たしている。

3-4.上海朝鮮族キリスト教会と韓国人教会との関係

一部の朝鮮族の信者は韓国人教会にも通ったことがある。同じ民族で言葉も通じ,習 慣も似ている。しかし,彼らはそこにとどまろうとしない。何故ならそこで帰属感やア イデンティティに共感することができなかったからである(10)。政府には規定があり,

そして,外国籍の教会が中国人信者を受け入れないことを望んでいる。故に,今のとこ ろ韓国人教会と中国朝鮮族教会は互いの往来が少ないと思われる。

4.上海朝鮮族キリスト教の社会福祉活動について

朝鮮族キリスト教の社会福祉活動に触れるには,まず中国における社会福祉や慈善状 況の把握が必要であろう。ゆえに,この章では,まず中国における社会福祉及び慈善事 業の全体像を描き出し,社会福祉と宗教慈善事業の関係を明らかにする。そのうえで,

朝鮮族キリスト教の対外向けの社会福祉活動,対内に向けての支援活動を検討し,朝鮮

中国のキリスト教団体及び活動の特徴について 55

(11)

族キリスト教の社会福祉参加における課題を明らかにする。

4-1.中国における社会福祉と宗教慈善状況

中国において社会福祉とは国民の生活の質を向上する社会保障制度の一環である。従 来の社会保障体系の中で,社会福祉は社会保険,社会救済と合わせて三大柱の一つであ る。社会福祉事業とは,高齢者,児童,障碍者など社会的な弱者に対する物質的な援護 及び精神的,心理的なケアを指す。政府の「第

12

次五ヶ年計画」(11)の中には確かに社 会保障,基本的な社会サービス,及び高齢者事業,障碍者事業などの内容が盛り込まれ ている。しかし,社会福祉制度は依然として制度的に不完備であり,投入不足かつ体制 が整っておらず,秩序が混乱している状態にある(鄭

2013)。社会福祉法は未だに成立

しておらず,社会の強いニーズに対し,福祉サービスの提供が不足しているのが現状で ある。

このような社会状況の中で,2007年〜2012年の僅か

5

年間で,宗教界による慈善事 業への寄付は,仏教界の

18.6

億元に次いで,キリスト教会は

3.5

億元に達した(12)。つ まり,中国の社会的ニーズに対して,社会福祉が極めて不足している状況の中,宗教界 の慈善事業を認めるようになり,2012年

2

月中央政府より『宗教界が公益慈善活動に 関わることに励み,また規範する意見』(13)が発表された。その中に定められた宗教界が 関わってよいとする慈善事業は,災害救助,障害者扶助,養老,託幼,貧困扶助,就学 支援,医療衛生サービス,環境保護,社会公共施設建設など,法律または政策が許す範 囲で,宗教界の人や団体ができるその他の公益慈善活動に参加するなどの内容である。

定められた活動形式は,(1)公益慈善事業に物質や金銭の寄付,(2)公益慈善プログラ ムの立ち上げ,(3)公益慈善団体の設立などである。

しかしながら,実際のところ宗教公益慈善団体の登録はそう簡単ではない。また,多 くの民間公益慈善団体が法人資格を得ることは極めて難しい状況であり,政府は民間慈 善団体にかなり厳しい入門制度を設けている。因みに現在影響力を有する宗教慈善団体 の多くは,政府と手を組んでいる(徐

2011)。「上海羅山会館」

(14)がその一例である。宗 教団体が提供した社会的サービスは積極的な社会効果をもたらし,社会資本に変わり,

社会のニーズを満たし,市民社会の形成に貢献している(曹・陳

2010)。宗教背景なし

のボランティア活動は主に政府主導のものが多く,民間組織によるものは影響力が限ら れているのが現状である。

敬虔なクリスチャンにとっては,積極的な社会参加,慈善事業に時間や金銭を費やす ことが,宗教信仰や道徳原則の最も良い実践である(劉

2001)。しかし,「家庭教会」

自身は身分も非合法であるため,慈善事業を組織的に行うことができるまでかなり時間 を要すると考えられる。非常に限られている状況の中,上海朝鮮族キリスト教信者はチ

中国のキリスト教団体及び活動の特徴について 56

(12)

ャリティーや社会福祉活動に積極的に参加してきた。これらの実践は,信仰の一面を表 現する社会的な貢献の一般的意義を表すと同時に重要な機能を持つ。それはすなわち,

ニューカマーである朝鮮族が上海社会に溶け込むことや民族伝統文化を維持することで ある。

4-2.外部社会に向けての福祉慈善活動

上海朝鮮族クリスチャンは不定期に老人ホームを訪れ,高齢者の散髪や話し相手にな るようなボランティア活動を行っている。また電気製品を寄付するなど様々なチャリテ ィー活動を行っている。すでに

2006

年には,朝鮮族教会は上海市共青団委員会とチャ リティー活動に関する協力関係を築いた。共青団委が要援助名簿を提供し,教会が慈善 活動を展開する形で連携をとっていたのである。しかし,「万邦教会」が

2009

年取り締 まりを受け,このような連携は続かなくなった。

「万邦教会」は現在も毎年数十人の青壮年信者が献血に行き,信者間で献血活動がす でに定着している。ほかに,朝鮮族の教会も募金や古着などを集めたりして,支援の行 き届かない地域の子供たちに寄付をしている。そして慰問団を貧困地域へ派遣すること もある。汶川地震の際も真先にクリスチャンを派遣し,救済活動に参加した。

また,朝鮮族のキリスト教会は,無料の韓国語クラスを設けている。浦東の「地球村 教会」の李氏(15)は敬虔なクリスチャンで,貿易会社を経営している。彼女は大学生の 時宣教師に出会い,卒業後,教会の紹介で韓国の障碍者福祉施設で三ヶ月間ボランティ アとして働いた。その時に深く感銘を受けたようである。それから感謝の気持ちを常に 持つようになり,恨みを持たなくなったという。現在は出張さえなければ,毎週日曜日 午前は礼拝をして,午後はボランティアで韓国語を教える。李氏によると,このような 生活に充実感を覚えているとのことである。また,韓国語を学びたい人々にとっては,

月に

100

元くらいの教材費の支払いで済むため,月謝を支払わなければならない韓国語 の教室に比べて魅力的である。以上の事例からキリスト教の社会福祉活動は「社会資 本」として利用者に消費されていると言える。

しかし,多くのキリスト教会は非合法身分であるため,慈善活動や社会福祉活動は小 規模なものに留まっている。

4-3.内部社会に向けての朝鮮族への支援活動

外部社会に向けた社会福祉活動は様々な規制があるのに対して,朝鮮族クリスチャン の自民族向けに行う支援活動には規制が少ないため,その活動はより活発である。すな わち,「内に向かう発展」(16)である。以下簡単に紹介する。

一つ目は,朝鮮族の大学生への支援である。現在上海に朝鮮族の大学生は約

500

人い

中国のキリスト教団体及び活動の特徴について 57

(13)

る。毎年

10

月ごろ朝鮮族科学技術委員会の主催で華東地域の朝鮮族大学生の新入生歓 迎パーティーが開催される。主催するのは科学技術委員会(認可組織)であるが,実際 に動いているのは

9

割がクリスチャンである。筆者も

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年連続で出席したが,ボランテ ィアのほとんどがクリスチャンで,しかも一回のみではなく,毎年定例になっている。

もし彼らの奉仕がなければこの新生歓迎会の開催は非常に難しかったと思われる。多く の準備に加え,2013年には

150

人のホテルの確保,食事の手配,および資金繰りや図 書の配布などを行ってきた。もちろん,学生はすべて無料である。毎回十数人のクリス チャンが全力で動くことで,活動経費の大半は募金で賄うことができ,新入生歓迎会は 滞りなく行われるのである。その活動経費の多くは,企業家からの数千元から数万元に のぼる献金である。この献金は,新入生歓迎会以外に,朝鮮族大学生のために設けられ た奨学金として,毎年約

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人の学業能力の優れた学生に与えられる。また,経済力が 厳しい学生のための生活補助金としても使われる。

2

つ目は,信者の子女への支援である。これは教会の日曜学校の伝統に由来するもの である。朝鮮族教会はみな日曜学校を設け,親が礼拝するとき子供たち用のプログラム を用意している。上海の朝鮮族キリスト教団体は,できる限り子供たちに内容豊富なカ リキュラムを用意しようと努めている。そして,これらの支援は,その親たちの支援に も通じていると言える。

第三は,民族儀礼の維持である。朝鮮族が上海に移住してきたのはこの

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年近くの ことである。1992年中国と韓国の国交正常化に伴い,多くの韓国企業が上海に進出し てきた。中国語と韓国語を使用できる朝鮮族は,チャンスを掴み東北地域から上海へ移 住してきた。因みに移住歴が長い人は

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年余りで,そのうち両親を呼び寄せた人も少 なくない。少数民族である朝鮮族にも,当然ながら生活習慣などの民族特徴を有してい る。特に,朝鮮族は,人生儀礼の中の一歳誕生祝い,結婚,還暦及び葬式を重視してい る。これらの人生儀礼の時には,宴会席を設け親戚や友人を招待する(徐

2009)。その

中では,民族的象徴を表す内容も沢山盛り込まれている。儀礼の中で,祝宴に関して は,司会者から演出ショー,撮影録画まで適切な人手(業者)を探すのは簡単である。

しかし,葬式の場合は,民族儀礼を理解し,進行できる人を探すのは大変である。その 時の牧師の役割が大きい。筆者の友人の母親がクリスチャンで,持病を持ちながら上海 で生活していた。そして,大連の息子宅に一時滞在していた時に脳梗塞で亡くなった。

葬式の段取りなどがわからない子女は,窮地に陥った。その時に,友人が上海で通って いた教会の牧師が大連まで飛んで行き,葬式を進行し無事に終わらせたのである。友人 の娘はクリスチャンではないが,牧師の行為に実に感謝の気持ちで一杯であると語っ た。

これらの「内に向かう発展」が,朝鮮族ニューカマーの上海における生活に適応する

中国のキリスト教団体及び活動の特徴について 58

(14)

ために,大きな役割を果たしたと考えられる。

4-4.朝鮮族キリスト教の「内外活動」参加における課題

朝鮮族キリスト教は,外部社会への福祉慈善活動と内部社会への支援を行ってきた。

これらの機能のバランスがうまく取れれば,アイデンティティに違和感なく,上海都市 生活に適応することができるだろう。しかし,ほとんどの朝鮮族のキリスト教団体は,

合法的身分を持っていないため,「内に向かう発展」傾倒する可能性がある。なかには,

対外的な社会福祉活動よりも,朝鮮族や教会員のための活動プログラムを拡充する方向 で進行しているところもある。民族文化伝統の維持及び少数民族身分の認証において強 調しすぎる一方,外部社会との「隔たり」が生じる可能性がある。

そこで,朝鮮族キリスト教の外部社会に向けての社会福祉,慈善活動を通して,朝鮮 族のクリスチャンは狭い地域性宗教団体から外部世界と触れ合う機会を作り,日常生活 や仕事の領域を超えたところに溶け込もうとすることに意義を持つ。また,このような 行動を通して,外部社会と接し,真心をささげ,キリスト教信仰を実践することができ る。さらに,重要なのはこれらの活動を通して,朝鮮族のクリスチャンが地域社会によ ってより認知されることである。さらに朝鮮族のクリスチャン自身も上海という地に対 して社会的責任感をもつようになり,その結果社会への関心や真心が認められる機会が 生まれる。これらの互いの交流を通じて,朝鮮族の社会適応にもプラスになり,上海市 民社会の形成にも影響を与えていると考えられる。

内部社会における朝鮮族への支援活動は,朝鮮族の生活基盤の構築及び,民族文化や 特徴の保持において大きな役割を果たしたと考えられる。そして,この支援活動には,

キリスト教団体の人的資源,情報,団体資源及び組織能力が生かされた。しかしなが ら,上海地域社会との連携がなく,「内に向かう発展」ばかりでは,内外のバランスが 崩れ,自民族中心の集団になる恐れがある。そして,上海在住の朝鮮族が閉鎖的集団に なり,次世代の上海での生活基盤構築に影響を与えると考える。

ゆえに,この両者のバランスをとることが大切である。朝鮮族の自民族集団に固まら ないように,限られた社会福祉領域で懸命に「内外活動」のバランスをとりながら,市 民社会の形成に積極的に参加することが今後の課題でもある。

5.「家庭教会」が置かれている立場

上述したように,朝鮮族キリスト教団体は上海地域社会において積極的に役割を果た しているが,社会福祉活動への参加は小規模なものに限っている。「家庭教会」は依然 として政府からの認可を得ておらず,非合法団体の立場におかれている。ゆえに,中国

中国のキリスト教団体及び活動の特徴について 59

(15)

の宗教事務管理において難題であると言えよう。では,なぜ難題になったのか,そし て,なぜ「家庭教会」は「三自教会」に入りたがらないのだろうか。以下政府,「両 会」,「家庭教会」三者の立場から分析を試みる。

政府の立場から言えば,「家庭教会」をいまだに認可しておらず,その一部を「両会」

系統に入っていない信者たちと称している。そして,彼らが「三自」の傘下に入るよう に要請し続け,キリスト教「両会」を通して政府に登録するように呼びかけ,「両会」

の管理を受けるように勧めている。「家庭教会」は認可されていないため,宗教活動の 詳細は把握されていない。政府は「家庭教会」の状況をある程度把握しているものの,

カルトや異端として活動していないか注意を向けている。また,「家庭教会」の海外と の繋がりが内政に影響を及ぼす可能性があると恐れている。ゆえに,宗教事務管理にお いて「家庭教会」は難題であると言えよう。政府が望んでいるのは,キリスト教会が

「両会」系統にまとまって,政府の思惑に沿って教会活動を行い,内政安定に貢献する ことである。

「両会」の立場から言えば,多くの「家庭教会」が存在することは,キリスト教「両 会」の影響力及び代表性を弱め,より多くのキリスト教信者に影響を及ぼすことができ なくなることを意味する。しかし,地方「両会」の牧師は体制外の団体や信者を団結す ることにあまり関心を持たず,事実上彼らを統合することに興味がない。むしろ,政府 が彼らに直接関与することを望み,現状維持を希望している。このような傾向は地方の

「両会」幹部に一般的に見られる(17)。一部の教職者は,長期に渡って体制外に存在して いた信者らは,仮に「両会」に入ったとしても,場合によっては独自性を強調し,完全 に管理を受け入れることはありえないのではないかと心配している。また,一部の幹部 は,彼らが入ったあと,管理ができればよいが,もし完全に統合することができなけれ ば,却って「両会」の運営に影響が及ぼされ,「両会」の分裂に繋がり,「家庭教会」に コントロールされる可能性すらあるかもしれないと心配している。特に一部の「家庭教 会」は海外との繋がりが緊密で,海外の神学思想の影響を強く受け,独自の体系を作っ ている。このような組織が「両会」に入ると,神学思想,礼拝形式,及び組織統制面に おいて強い独自性を持つと考えられ,そのうえ合法化されると,その教勢が猛スピード で広がる可能性があると懸念されている。

「家庭教会」が「三自教会」に入りたがらない理由について,以下五点から分析を試 みる。

第一は,神学への理解が異なる。「家庭教会」の立場から言えば,キリスト教義への 理解において,「三自教会」はスピリチュアリティに欠けていると思われている。「家庭 教会」の牧師である崔氏は,政府を後ろ盾にしている「三自」の牧師の神学に対する解 釈が自分たちとは異なり,政府の言うとおりに宣教活動を行い,それは真のキリスト教

中国のキリスト教団体及び活動の特徴について 60

(16)

精神とかけ離れていると話した。ゆえに神学思想への強い信念が通せなくなり,神様と の真の交流が切断される恐れがあると考えている(18)。過去に幾度も危険にさらされ,

集会所が取り締まりを受けるばかりか,牧師及び幹部らが公安局や政府の管理部門から 度々呼び出されたことがある。例えば,「万邦教会」は

2009

11

10

日,『社会団体 登記管理条例』第十三条の規定(19)及び『上海市宗教事務条例』第五十二条の規定より,

解散した(20)。しかし,家庭教会の信者は神様に命すら捧げる覚悟があるため,「三自」

には入りたがらない。

第二は,教会の利便性の問題である。上海は国際都市であるが,都市規模が大きく,

教会の分布は決して便利な場所にあるとは言えない。朝鮮族の信者が言葉も通じない遠 い中国語教会に行くのはまず選択肢に入らない。現在上海にある朝鮮族の「家庭教会」

はいずれも朝鮮族の集居地域にある。「家庭教会」は教会堂がないため,信者のニーズ に合わせて集会所をいつでも比較的に便利な場所に変えることができる。

第三は,「三自教会」自身に問題がある。官僚化が進み,信者への関心が行き届かな い。大きい教会なら数千人単位の人が集まって礼拝をするので,場面は壮大ではある が,一人一人に目が行き届く礼拝はできない。牧師は政府の任命でなることができ,神 学への追及精神が欠けている。宣教レベルも「家庭教会」の牧師と比べると,人々に与 える感動が全く異なる。筆者も数回「三自教会」の礼拝に行ったが,説教内容の言葉は 巧みではあるが,心に響くような感動は体験できなかった。

第四は,権利を失う恐れがある。「家庭教会」がようやく築き上げた組織が「三自」

に入ることによって,人・物・金に対する支配権を失ってしまう(21)という危機感があ る。

第五は,少数民族の特性を持つ。上海朝鮮族キリスト教は中国の一般のキリスト教信 者とは異なる特徴を持つ。朝鮮族はニューカマーであり,移住歴は僅か

20

年余りであ る。上海という大都会に出てきて,社会への適応に戸惑い,少なからず寂しさを感じ,

自分に目を向けてくれる人や心が通い合う話し相手がほしい。宗教はまさにこういうニ ーズを捉え,人々に心身ともに安らげる場を提供していた。教会に行けば,皆朝鮮語と いう共通の言葉を使用しており,朝鮮族という民族のアイデンティティを共有すること が出来る。特にニューカマーにとっては教会が温かく親切に迎えてくれる場所である。

現実社会では,少数民族のニューカマーとして社会的に孤立しがちであるが,教会に通 えば心が癒される気分になり,それで,ますます熱心に教会に通うようになる(22)

6.考 察

社会福祉の起源は宗教と切り離せない。中国は計画経済から市場経済移行に伴い,社

中国のキリスト教団体及び活動の特徴について 61

(17)

会福祉へのニーズが高まった。中国の社会福祉,慈善団体は政府主導が多く,例え民間 であっても政府の管理と監査を受けなければならない。今日,全国的に見て規模が大き く,洗練された福祉財団は数が少なく,慈善金の集まりが非常に限られている。加えて 運営体制が整備されておらず,効率も透明度も低い。また,社会福祉や慈善団体には専 門家が少ない。現時点では主に西欧の慈善事業のモデルを参照しながら,経験を積み,

同時に中国の情勢に合う社会福祉,慈善事業への展開を模索する段階にある。このよう な社会情勢の中,朝鮮族キリスト教は,信仰を実践する一環として,それなりに社会福 祉事業に携わってきた。

上海朝鮮族のキリスト教団体の全体的な特徴としては数が多く,規模が小さく,集会 所の場所が不特定で,通っている人々はニューカマーの朝鮮族である。本稿で主に紹介 した「万邦教会」「上海市キリスト教会」「弟子教会」の共通の特徴はいずれも「三自」

に入っておらず,礼拝の共通語は朝鮮語であり,牧師の給料,教会の運営宣教活動な ど,そのすべてが独自で行われている。また,信者への関心,ニューカマーの居場所づ くり,上海地域社会における福祉活動,社会資源共有,市民社会づくりなどの点におい ても共通点がある。

また,上海朝鮮族のキリスト教団体の管理者や幹部らは体制外の存在であるため,無 収入である。彼らは教会に頼るしかない。また,伝道,牧会,および日常生活の配慮な どの面で,全身全霊を捧げ,信者を団結させなければならない。全体的にみると,これ らの団体の「教職者」は「三自」の教職者に比べてプレッシャーがより大きく,仕事の 強度も強い。なお,教会が小規模であるがゆえに,信者の満足度も高いかもしれない。

宗教の本質は元々「愛」や「善」を歌い,人々に心の安らぎの場を提供し,来世への 希望をもたらすものである。筆者は「家庭教会」と「三自教会」の礼拝に幾度も参加し たことがあるが,やはり「家庭教会」では受けられた感動的な場面が多かった。王・羅

(2012)によると,人は生まれてから死ぬまでアイデンティティを求め続けている。そ のために最も有効な方法は直接自分に合う組織に加入することであり,その組織を通し て個人がアクティブでポジティブな「主体」になる。人間の帰属感が生まれる根本的な 要因は人類の進化の中で定められた社会性である。因みに人間は社会性を持つ者であ り,社会化することによって真の成長を成し遂げていく。しかし,現実の社会では,特 に目まぐるしく変化している上海のような大都会では,これらの合理的な願望がなかな か達成できない。すなわち,朝鮮族にとっては自民族の文化,習慣を分かち合う交流の 場がほしい。「家庭教会」はこういう場づくりに取り組んでおり,信者から信頼を受け ている。したがって,ニューカマーの朝鮮族の社会適応生活が潤滑に行われるように促 した。

では,上海朝鮮族「家庭教会」の活動特徴の相違点はどこにあるのか。「万邦教会」

中国のキリスト教団体及び活動の特徴について 62

(18)

「弟子教会」の活動方式は活気に溢れ,牧師の説教が感動的で,信者の心に響く内容が 多く,よりよい宗教体験を与えている場になっている。讃美歌も新しいものを随時導入 し,「敬拝賛美」形式をとり,礼拝は活気であふれ,若者に受け入れられている。信者 の宗教体験が非常に感動的である。祈祷の時間も長めで,信者が心身ともに解放感を得 られる。また信者の参加度が高く,教会への帰属意識が強いと感じられた。それに対し て,「上海市キリスト教会」は牧師が「三自」の出身者であるゆえ,少なからず「三自 教会」の影響が残っているように見えた。牧師の地位が権威を持ち,礼拝時の雰囲気,

そして説教内容などが伝統的で,保守的である。讃美歌も政府規定のものが毎週あり,

祈祷の時間が短めである。そして,信者の宗教体験の分かち合いに形式的な部分がある ように見え,理性的であり,心に響く感動的な場面が少ない。「上海キリスト教会」は 政府の黙認を受けているものの,上海の朝鮮族キリスト教各組織を統合し,政府の思惑 に達するまでにはまだまだ時間を必要としている。

上述のように各教会の特徴における相違点はあるものの,各自の活動を通して,朝鮮 族のニューカマーが上海地域社会に適応していくことに貢献している。各教会の壁を破 り社会福祉活動の連携を図るには,「企業家グループ」の役割が否定できない。

内部社会への活動のみが活発になると「内に向かう発展」にとどまりがちであるが,

外部社会への福祉活動も行うことで,朝鮮族の集団作りにならないようにバランスを取 り,上海地域社会への責任感を強めることができた。例えば,貧困地域への支援,老人 ホームへの支援及び慈善活動,献血活動,韓国語の教室など,様々な領域にわたって,

社会福祉活動を行い,地域社会との連携を図り,地域社会における朝鮮族に対する認知 度を強め,市民社会形成にも影響を与えてきた。

そして,内部社会への支援活動を通して,自民族の文化を再確認し,信者同士のアイ デンティティを共有することで,社会適応をより円滑に進められたと思われる。教会に 通えば,心身とも癒され,現実社会の不平等や不公平からも逃れる。

しかし,朝鮮族キリスト教の「家庭教会」が置かれている立場には変わりがない。

「家庭教会」は依然として「三自」には入りたがらず,非公認の状態である。「両会」体 制内の教会団体は合法的な地位を持っているものの,多くの面で制限を受けている。例 えば,「両会」のトップや財政,牧師の任命や給料などはすべて政府の指示を受けなけ ればならない。また神学院のシラバスや人事,日常の事務及び宣伝においても政府の同 意を受けなければならない。それ以外にも,「三自」の出版物は政府の許可なく出版す ることができず,『聖書』も新華書店で販売することができないなど,様々な制限があ る(高・何

2011)。「家庭教会」が慈善事業の規模を拡大して,活発に活動する環境整

備はまだ整っていない。

一方「家庭教会」は非公認であるものの,政治に介入せず,カルトでなく,政府のル

中国のキリスト教団体及び活動の特徴について 63

(19)

ールに反することがなければ,不安定ではあるが広範囲の活動が許されている。もちろ んその活動範囲は政策や環境によっていつでも変わる可能性があり,いつでも取り締ま りを受ける可能性も十分ありうるため,不安定と言わざるを得ない。

お わ り に

上海朝鮮族のキリスト教「家庭教会」は,十数年の運営を経て,すでに利益を得る集 団になり,権利意識も強い団体になりつつある。彼らにとっては,民族文化,風俗また 言語などの特徴によって,自民族の教会を成すことを望んでおり,かつ様々な分野にお いて社会福祉活動を行ってきた。彼らが今までの経営を放棄して,「三自」の一員にな る可能性は極めて低い。現段階の政策としては,体制外の教会や信者団体を「両会」に 入れようとしているが,事実上不可能である。

形式上「家庭教会」を「三自」体系に入れ,「両会」体系内の教会団体の数をただ増 やすだけでは何の意味もない。政府が望んでいるのは「両会」が確実に「家庭教会」へ の指導,管理責任を果たし,随時かつ迅速に彼らの動向を把握し,カルトの侵入防止に 役立つことである。手続き上の「両会」に入ったか否かという形式にとらわれず,積極 的に異なる方法を探り,必ずしも「三自」に入らなくでも,「家庭教会」が認められ得 る別の方法を期待したい。それが今現在無理ならば,少なくとも定期的に連絡や交流の 機会を設けるべきであろう。もしくは,連合会議制度を導入し,定期的に地方の「両 会」責任者,朝鮮族キリスト教各団体の責任者及び政府宗教部門の責任者の会議を開く ことを提言したい。例えば,兪牧師(23),朴牧師などの人材を積極的に活用すればよい し,試行錯誤を続けるしかない。そして朝鮮族の各「家庭教会」が定期的に交流するよ うに促し,互いの了解を深め,誤解を解き,繋がりを強調し,共同意識を高めるなどの 工夫をしてほしいと考える。そのためには「家庭教会」の責任者を集めて,お茶会,神 学フォーラムを開催し,または礼拝形式,社会福祉などの面でも互いの連携を深め,情 報共有を進めることが望ましい。それによって,キリスト教「家庭教会」の社会福祉活 動の幅と内容がより大きく広がり,中国におけるキリスト教の「社会資本」が有益に消 費されることを期待したい。

以上述べてきたように,上海朝鮮族キリスト教団体が社会秩序に与える影響はむしろ 積極的な面が多く,政府が心配するようなことはない。これらの団体の運営及び活動を 考察する際,先入観を持つべきではなく,いかに新しい社会ガバナンスの下,大胆な実 践方法を探り,いかに団結,指導,管理を果たし,「家庭教会」を有効な方向に持って いくかが重要である。上海朝鮮族キリスト教団体はまさにその実践モデルに適切だと思 われる。積極的な実践を通じて上海朝鮮族キリスト教団体を有効かつ有益に活用すれ

中国のキリスト教団体及び活動の特徴について 64

(20)

ば,その他の上海における体制外での「家庭教会」との共存にもつながる確実な手がか りを模索できるのではないかと期待したい。

⑴ キリスト教とはプロテスタントのことであり,カトリックは含まない。

⑵ 中国キリスト教ホームページ:http : //www.ccctspm.org/quanguolianghui/lianghuijianjie.html

⑶ 上海民族と宗教ホームページ:http : //www.shmzw.gov.cn/gb/mzw/shzj/jdj/index.html

20081122日,国務院発展研究センター民族発展研究所の主催,普世社会科学研究所の協賛で行 われた(楊2013)。

⑸ 例えば,2014528日山東省招遠市マクドナルド店内で6人の全能神信者がある顧客に電話番号 を求めたところ,拒否され,トラブルになり,その人を殺害した事件。

⑹ 筆者の調査による推測数字である。宗教信仰は敏感で,「家庭教会」の実際の数字はなおさら統計しに くいし,正式な統計数字も出ていないのが現状である。

⑺ 「地球倫理」とは,1993年,アメリカのシカゴにおいて,世界中の各宗教を代表する七千名の人々が 参加して「第二回世界宗教会議」が開催された。この会議において「地球倫理への宣言」が採択され,

大小さまざまな諸宗教の代表者たちがこの宣言に署名した。この宣言は,特定の信仰を持たない人々 も含めた世界中の多くの人々の良心に訴えかけ,その意識の変革をめざしたものである。この宣言に 盛り込まれた倫理は,決して新しいものではない。現代の問題に対応するための倫理は,すでに世界 の宗教の中に存在しているとの考えに基づき,一致するものを抽出しようとする試みである。http : //

www.global-ethics.org/による。

⑻ 牧師の宣教中に筆者が聞いた話である。

CBMCグループの一つである。CBMC(Christian Business Men’s Committee)は福音主義に立つキリス ト教の宣教団体であり,ビジネスマンに向けてイエス・キリストによる罪からの救いを伝えるために 1930年アメリカ合衆国で設立された。現在米国内700個所に18000人,世界70カ国に5万人のメ ンバーを擁する(ウィキペディアにより)。

⑽ 韓国人教会は日曜礼拝を数回に分けてやっているので,教会での交流が少ない。礼拝が終わると,

個々人及び家族ぐるみの交流が盛んに行われている。

⑾ 中華人民共和国国民経済と社会発展第12次五ヶ年計画綱要(2011-2015年),略称で「五ヶ年計画」と 称する。

⑿ 『中国宗教』編集者より:人々を救済し,貧困を補助する。201210

2012216日国家宗教局,中央統一戦線部,国家発展改革委員会,民政部,財政部,国家税務局 など連合で発表した。国家宗教事務教ホームページより:http : //www.sara.gov.cn/nsjg/zfs/gzdt2/13047.

htm

1990年代,上海キリスト教青年会は政府と合作で「上海羅山会館」を創設し,政府の主導と出資で,

上海キリスト教青年会が具体的な事業を実行するという形である。

⒂ 三人兄弟の長女として生まれ,大学在学中に父親が病死し,人生の暗闇に陥り,何とか家族の大黒柱 になろうと自覚があった。そのとき通っていたキリスト系の大学の牧師先生に出会って,深い感銘を 受けたようである。

⒃ 内に向かう発展理論とは,involutionの和訳で巻き込み,包み込み,内巻き,もつれ,混乱など味であ る。因みに「過密化」とも訳する。この理論はおよそ三段階の発展を経ている。第一段階は,カント

(Immanuel Kant),ゴールデンワイザー(Alexander A. Goldenweiser)からギアツ(Clifford Geertz)ま でが代表で,内に向かう発展理論が混沌状態から系統的に整理,成長する段階である。その時期には 内に向かう発展理論が農業生産研究に応用された。第二段階は,杜赞奇(Prasenjit Duara)から黄宗智

(Philip C. C. Huan)まで,内に向かう発展理論が成熟期を迎えた。この時期には,その理論観点が農 業生産から政治領域に拡散した。第三段階は,内に向かう発展理論が応用領域をさらに拡大する時期 を迎え,その主な特徴としては,内に向かう発展理論が多くの学者によって,歴史,社会制度,腐敗,

中国のキリスト教団体及び活動の特徴について 65

参照

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