著者 木下 健
雑誌名 同志社政策科学院生論集
巻 7
ページ 23‑36
発行年 2018‑02‑25
権利 同志社大学政策学部・総合政策科学研究科政策学会
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000017007
概 要
本稿は、インターネット調査を用いて、情報 技術が国会の信頼を高めるかを検証している。
また、政治文化による先行研究を踏まえて、解 放に向けた価値観及び他者信頼が政治信頼に与 える影響を検証している。分析の結果、3つの ことが明らかとなった。第
1
に、「議会HP
への アクセス視聴は、国会の信頼を向上させる。」と いう仮説が支持されたことである。第2
に、社 会関係資本を示す他者信頼は、国会、政府、政 党、政治家の信頼、全てに対して正の効果があ るということを明らかにしたことである。第3に、
政治に関する対話が、国会の信頼には影響を与 えていないものの、政府の信頼及び政治家の信 頼に正の影響を与えていることである。国会の 信頼は代議制民主主義を支える上で重要な指標
となるため、低すぎる信頼は協調行動を伴わず、
非効率な立法に陥る危険性がある。この状況を 改善するために、国会の信頼を高めるための
1
つの方策として、議会HP
へのアクセス視聴が 挙げられる。1.はじめに
国会の信頼は、極めて低い状況にあるといえ る。それは、他の組織の信頼と比較しても、顕 著に低いことがうかがえる(図
1)。図 1
は、各 組織の信頼を示すグラフである。信頼の高い組 織としては、自衛隊、裁判所、銀行、大学など が上位に挙がっている。他方で、信頼の低い組 織として、国会、地方議会、政党、政治家と並 んでおり、政治に関する信頼が極めて低いこと国会の信頼への情報技術の及ぼす影響
木 下 健
図 1 各組織の信頼
2016年2月実施の政治意識に関するインターネット調査アンケートより作成。N=500、各信頼は1「信頼できない」から、
5「とても信頼している」までの5点のリッカート尺度で測定している。
が分かる。本稿では、政治制度の中でも、国会 の信頼を中心に扱う。国会の信頼は、代議制民 主主義の重要な要諦であり、これが危機に瀕し ていると考えられるためである。
本稿では、国会に対する信頼をインターネッ ト調査で尋ねている。本稿の目的は、インター ネットが普及する現代社会において、インター ネットによる対話や視聴の効果を検証するため、
バイアスを承知した上で、インターネット調査 を用いている。2014年のインターネットの人口
普及率は
82.8%
となっており(総務省2015)、
今やほとんどの人が利用している。
そこで、インターネットの利用の重要性を考 慮し、国会の信頼に対して、対話と議会
HP
へ のアクセス視聴が効果を持つかを検証する。政 治制度に関する信頼は、政治体制が崩壊する危 機が顕著に現れておらず、代議制民主主義が崩 壊することも考えにくいため、十分に議論され ていない。しかし、果たして低い信頼のまま放 置して良いといえるのであろうか。信頼の低下 は、直ちに体制が崩壊することにならないとし ても、政治的安定性を損なうことに繋がる。政 治制度に対する信頼が、著しく低下すれば、有 権者は不満を抱き、権威に従わないことに繋が る。それは、明確な敵対態度に繋がり、具体的 な行動を伴うことになる。あるいは明示的な態 度や行動となっていなくとも、水面下で着々と 反発として醸成されている可能性がある。また、情報を知り過ぎると不信が高まるとい うパラドックス1が存在している(猪口
2003、
小池
2010)。信頼という目に見えない政治態度
を考えるにあたり、印象に基づく信頼が形成さ れているのか、あるいは情報を踏まえた上で判 断されているのか検証することも必要であると いえる。情報を知り過ぎると不信が高まるとい うパラドックスに対して、インターネットを用 いた対話と視聴が不信に対する克服として効果 を持つかを検証する。これを明らかにすること により、知り過ぎることが悪い訳ではなく、適 切な情報をもとに判断することが重要であると 主張することが可能となる。
本稿の構成は
2.
において国会の信頼について 検討を行い、信頼の判断基準として経験的シス テムと合理的システムがあることを指摘した後、対話の重要性に言及する。その後、3.において 文化的要因として政治的価値観に関する研究を 概観する。4.において、用いるデータの説明を 行い、仮説を提示する。5.において分析し、
6.
に おいて締め括る。2.情報技術と国会の信頼
2. 1 情報技術とは
国会の信頼は正しい情報に基づいて、評価さ れているのかについて、本稿では焦点を当てる。
それは、国会の信頼は、印象に基づいて評価さ れているのではないかという懸念があるためで ある。本稿での分析に先立ち、情報技術とは何 かを言及しておく必要がある。情報技術を本稿 では、コンピュータを用いて、他者と対話し、
情報入手する行為であると捉える。国会への信 頼に焦点を当てるため
、この他者と対話という
行為を、政治的な対話に限定し、情報を入手す る先を議会HP
へのアクセスと限定する。2. 1. 1 信頼を評価する判断基準
人はいかにして、信頼を評価するのであろう か。人の判断は、認知と感情に分けられるように、
2
つの思考システムが混在している。Epstein(1994)は、直感や感情をベースにする経験的シ
ステムと、論理・分析の合理的システムという2
つの思考方法を指摘している。これは二重過 程理論とされ、経験的システムは、無意識、自 動的な思考であり、感情や連想にベースを置く 一方で、合理的システムは、時間を要するが、比較的精緻な判断を下す意識的、意図的な思考 であるとされる(中谷内
2015b)。
同様の思考システムは、Margolis(1990, 2007)
の二重効用論にも見られる。二重効用論とは合
1 情報を知りすぎると不信が高まるというパラドックスは、ある程度の知識を持っている人に生じる現象であると考えられる。全く情報
を知らずに判断を下して信頼しない場合と、情報を知った上で信頼しない場合の二通りの不信があると考えられる。本稿では、全く情 報を知らずに判断を下す場合に、情報技術の効果があると考えている。情報を知りすぎて不信が高まる場合については、制度改革を行 うことが求められると考えられる。
理的選択論の修正モデルであり、個人は自己利 益の最大化を追求する一方で、社会的善に貢献 することを望むと考えるものである。いわば、
選好を私的選好と公的選好の二種類を考えるも のである。この私的選好について後藤
(2002)
は、個人の私的選好の情報的基礎が本人の状態のみ ならず、他者の状態や他者の厚生を含むものへ と拡張される場合、私的選好とは質的に異なる ものへと変化するとし、選好変容のメカニズム にして説明している。これは他者の観点を考慮 に入れることにより、私的選好が洗い出され公 的選好に近づくものであると考えられる。田村
(2008)は、二重効用論に対して、自己利益の
追求か共通善の促進かという二者択一ではなく、規範と自己利益とのバランスをとることである としている。このように人が信頼を評価する場 合、認知と感情、公的選好と私的選好の
2
種類 があり、双方を踏まえて判断しているものと考 えられる。2. 1. 2 政治に関する対話
政治に関する対話は、何故重要であると考え られるのか。第
1
に、対話を行うことによって、有権者の選好が変容する可能性がある。山口
(2016)は対話の重要性を指摘しており、異なる
意見との対話によって、より妥当な結論が見つ け出されることが期待されるとしている。対話 によって、相手の意見を知り、その意見に理屈 があることが分かれば、相手の意見を尊重する といえる(木下2016)。第 2
に、政治に関する 対話は、有権者個々人の能力を高め、感性を磨 くためである(ミル1997, Heywood 2013)。民主
主義の教育機能といわれるものであり、人々が 選挙権を持つことによって、政治と関わり、参 加することとなる。それに伴い、政治に関する 対話がなされ、人々が成長することが期待され る。選好の変容は短期的に得られる効果として 期待されるが、民主主義の教育機能は、長期的 な効果であり、民主主義を持続させることに寄 与するものである。政治に関する実践として、実際に人々が集ま り、話し合いをする形式に限らず、オンライン 上での対話もなされている
(松下 2013)。
例えば、ボナー他(2013)は連邦環境保護庁とカリフォ ルニア州立立法委員会において、政策立案者を
含めて、オンラインでの対話の事例を明らかに している。当該事例では、コミュニケーション がお互いを尊敬した建設的なものであると感じ、
議題に関して、他人の物の見方を学んだと指摘 されている(ボナー他
2013)。このように対話
を通して、人は熟慮を行い、自身の選好を変容 させる可能性があるといえる。2. 1. 3 議会 HP へのアクセスと視聴 インターネットは政治にどのような影響を与 えるのか。インターネットの影響は正負の両方 の側面があることが指摘されている。政治と インターネットの関係について、インターネッ トの中の政治、政治のインターネットへの浸 透、政治家のインターネット利用(Margolis and
Resnick 2000)に分けられるが、本稿では政治
のインターネットへの浸透を扱う。有権者のイ ンターネット利用の正の面として、有権者の投 票が促進されるというものがある(Norris 1999a, 岡本・
石橋・
脇坂2015)。岡本 ・
石橋・
脇坂(2015)では、2013年参議院選挙のネット選挙解禁の効 果を検証している。候補者ウェブサイトへの接 触があった場合に、2010年と比較して
2013
年 参院選の方が、その候補者に投票することになっ た確率が高かったことを示している。また、三浦・
小林(2010)によると、討論番組・国会中継を 見ながらツイッターで書き込みをする人が12%
(複数回答 , n=1032)
いることが指摘されており、SNS
の利用により政治に関する議論が広く行わ れる可能性が示唆されている。他方で、インターネット利用の負の側面とし て、深い思考がなされないことが指摘されて いる(カー
2010)。カー(2010)によると、イ
ンターネットでは、リンク先にアクセスするか どうかの判断が目まぐるしく促されるため、本 を読み、熟考するという思考がなされないとし ている。また、インターネット利用者の関心に 基づいて、アクセスされるため、無関心な人と 関心がある人の間で二極化すると考えられる(Norris 1999b)。加えて、インターネット特有の
サイバーカスケード効果の存在が指摘されてお り(Sunstein 2001=2003)、特定の議論に流され やすいという批判もある。インターネットユーザーはどれくらい議会
HP
へアクセスし、国会審議を視聴しているといえるのか。衆参それぞれの
HP
へのアクセスと、審議の視聴の頻度を尋ねている。議会
HP
への アクセスと視聴は極めて、低位な状況にある。衆議院及び参議院への
HP
へのアクセス視聴と もに、全くしないという人が88% 〜 90%
に上っ ている。これはアクセス視聴する人がインター ネットユーザーの中で、1割程度に過ぎないこ とを意味している。加えて、議会
HP
を視聴する人は、国会審議 を視聴するという傾向が見られる。例えば、衆 議院HP
へのアクセスと視聴の順位相関係数ケ ンドール(タウ)τ=.654, n=500, p<.01
であり、相関している。そのため、衆議院
HP
にアクセ スする人は、衆議院HP
で中継を視聴するとい える。その他の議会HP
へのアクセスと視聴は、いずれもτ
=.654
よりも高く、強い相関を示し ている。そこから、議会HP
へのアクセスと視 聴は、一部の人に限定されているといえる。そ こで、本稿では、議会HP
へのアクセスと視聴 を合算し、一つの変数として取り扱う。
2. 2 国会の信頼
政治制度に関する信頼は、政治意識と位置付 けられており、国民、有権者の考えや態度であ る。ただし、政治制度に関する信頼の中には、
一度形成されれば変化しにくい政治的価値観を 含んでいると考えられる。それは、
Easton (1965)
の指摘にあるように、特定支持と一般支持の区 別に見受けられる。特定支持は、アウトプット がシステム構成員の要求を満たすときに高まる。
他方で一般支持は、政治システムに対して疑心 なく忠誠を寄せるとされる。そのため、一般支 持は政治的価値観であり、容易に変容するもの ではないと考えられる2
。ただし、一般支持がど
の程度の割合を占めているかを明確に区別する ことは難しい。そのため、本稿では、国会の信 頼を政治意識と位置付け、変容可能な態度とし て捉える。人に対する信頼と制度に対する信頼は区別さ れている(Easton 1965, ルーマン
1990, ギデンズ 1993, Norris 1999b, 田中 2002)。ギデンズ(1993)
は、熟知の関係にみる信頼と抽象的システムに 対する信頼を区別している。抽象的システムに 対する信頼にはシステムに責任を負う人間や集 団との出会いが必要であり、その出会いを抽象 的システムのアクセスポイントとしている。そ のため、抽象的システムに対する信頼と専門家 システムに対する信頼は密接に関係しており、
人間に対する信頼には顔の見えるコミットメン トが必要である一方で、システムに対する信頼 は顔の見えないコミットメントの形をとるとさ れている。この区別は、政治家に対する信頼と 国会に対する信頼にそのまま当てはまり、国会 というシステムの中に存在する政治家が重要で あるといえる。
ルーマン(1990)は、信頼は社会的な複雑性 を縮減し、それ故リスクを引き受けることを通 して生活態度を単純化させる機能を持つとして いる。つまり、複雑化した社会において、貨幣 制度を用いて流通する貨幣を信頼することで等 価交換が可能になることや、道路の信号や整備 状況を信頼することで生活が行いやすくなると される。また、ルーマン(1990)は、洞察に基 づく信頼は、自然発生的な信頼と比べると、一 層熟慮が求められる点で、複雑性の縮減という 機能に照らすと、行為者により多くの負担を課 す点で劣っているとする。この背景には、信頼 の成立には、幻想と情報の
2
つが必要であると いう信頼の特異な性質がある。何の情報もなく、システムを信頼できるものであると実感する場 合と、情報を踏まえて信頼できるものであると 実感できる場合の双方が混在している。複雑化 した社会においては、特に、専門家の情報判断 が重要であると指摘される(ルーマン
1990)。
国会の信頼がどのようなものであるか、ルー マン(1990)の政治システム論に基づいた理解 を示しておく。政治への信頼は、政策過程に基 づいて理解される。人々によって様々な利害が 表明され、そこから政治指導者の合意の可能性 が読み取られる。そして、官僚機構を通じて政 策を実施する人材が配置され、一般的な政策プ ログラムとして提案されたものが吟味される。
立法や政策に関する政治的な決定を通して、法
2 Easton(1965)は一般的支持を増やすために、体制に対する正統性の意識を植え付けること、共通の利害を象徴するシンボルを利用す
ること、個々人と政治的共同体との一体感を促進し、強化することを指摘している。
案となったものが拘束力を持つこととなる。こ れらの段階を通して、新たな情報が人々に取り 入れられ、選択肢が減らされるという過程を経 て、複雑性が縮減されていく。この過程を信頼 に足るものとしているのは、人々があらゆる段 階で情報を受容し得るためであるとされる
(ルー
マン
1990)。このような理解は、政治システム
論(Easton 1965)に基づくものであるが、政治 システムに対する信頼が人に対する信頼と異 なる特異性を持つことを示している。ルーマン
(1990)は、信頼を寄せられている社会制度は、
信頼しているということが再投影されることを 通して、シンボルの複合体になるというように 表現しており、シンボル的な価値を通すために 一つの失策によって信頼が失われるという脆さ があることを指摘している。つまり信頼を築く ためには、時間を要する一方で、信頼を失うの は一つの失敗で十分であり、脆いということで ある。
2. 2. 1 政治不信の由来
政治信頼を考えることは、政治不信を考える ことと同じ意味合いを持つ。政治に対する信頼 が損なわれてきたのは何故かに関する先行研究 をレビューする。ヘイ(2012)によると、公共 選択論の台頭と新自由主義の接近、及びグロー バル化による課題の浮上が政治の信頼を傷つけ ているとする。特に市場志向的なカナダ、ニュー ジーランド、アメリカ、イギリス、アイルラン ドといった自由主義型市場経済国と比べ、ノル ウェー、デンマーク、スウェーデンは投票率の 低下の速度が緩やかであり、生じたタイミング も遅いことが指摘されている。
政治不信が蔓延した理由として、政治マーケ ティングによる選挙競争が激化したことが考え られる。これは、選挙報道がゲーム的側面を強 調し(Patterson 1993)、マスメディアのフレーミ ングが、有権者におけるシニシズムを蔓延させ たとされる(Cappella and Jamieson 1997=2005)。
特に、戦略型フレームは政治家の行動を叙述す る中で、その行為が政治家の自己利益に基づい
ていることを示唆し、政治家についての否定的 な性格付けを促すものである。このシニシズム の蔓延は、理想としての民主主義の価値を認め るが、政治制度の成果には満足しないという批 判的市民を増加させていると指摘される(Norris
1999b)。このように政治不信が蔓延した理由と
しては、新自由主義の台頭という経済的な要因 に加えて、マスメディアによる報道の仕方によっ て、政治に対する嫌気が増し、政治不信が増加 してきたと考えられる。2. 2. 2 信頼の規定要因
ナイ・ゼリコウ・キング(2002)では、政治 信頼に影響を与えるものとして、有権者への情 報、評価基準、マクロ経済指標で測定される代 議制民主主義のパフォーマンスの
3
つが影響し ており、有権者の要望をかなえる能力が低下し たこと、政治家に対する忠誠心の低下、社会関 係資本の悪化が政治信頼を衰退させたとしてい る。政治への信頼に関して、善教(2013)は、政 治への信頼を認知的な信頼と感情的な信頼に区 別している。操作的定義として、認知的な信頼 は「国会議員の応答性、国会運営の目的、派閥 争いや汚職の平均値」としており、感情的な信 頼は「政党の応答性、選挙の応答性、国会の応 答性の平均値」としている。これは、従来の政 治家信頼と制度信頼の区別を、認知と感情とい う異なる意識を操作化したものであるとしてい る。
中谷内(2015a)は、信頼の要因として、専門 性、実績、人柄に加えて、価値の共有によって 決まると考える主要価値類似モデルを指摘して いる3
。また、信頼は非対称であるとされ、信頼
を失う場合は、一度の出来事で十分で、短時間 で失われてしまうことが指摘されている。裏切 らないことを担保するための制度として、監視 と制裁のシステムがあり、自発的に監視と制裁 のシステムを自らに導入することが、相手から の信頼を高めるとされている(中谷内 2015a)。西澤(2008)は、政治的信頼の測定に関して、
3 中谷内(2015a)では、人に対する信頼を中心に扱っているが、政府に対する信頼も扱っており、監視と制裁は人に対する言及に限定さ
れていないと考えられる。
目的と機能を区別し、質問の仕方によって異な る評価が得られることを指摘している。ただし、
従来の信頼指標と比較した上で、政治的態度・
行動への共分散構造分析を行った結果を踏まえ て、修正した指標を採用するべきであるという 強い主張までは行っていない。
これまでの政治信頼に関する研究において は、信頼に関する言葉の定義の精緻化、区別を 行うものが多く、いかにして信頼を回復するか については、十分に検討されてきていないとい える。特に中谷内(2015a)によって、信頼回復 のためには、自発的に監視と制裁のシステムを 自らに導入することが、相手からの信頼を高め るとされている。ルーマン(1990)においても、
制裁の重要性が指摘されており、制裁の可能性 が予見可能な仕方で示されていれば、自分も相 手もこの可能性を考慮に入れることが出来ると 指摘されている。
ただし、議院内閣制下における国会の信頼を 考えた場合、国会独自の制裁を導入することは 難しいといえる。それは、国会が求められる機 能を果たさなかった場合の制裁としては、国会 を運営する政府与党に向けられることになり、
世論が反応すれば、内閣支持率が低下し、倒閣 に向かうことになる。そのため、政府は政権の 重要な政策を実現できなかった際に、国会を解 散すること(憲法第
7
条に基づく解散)が是認 されるべきといえる。つまりシステムとしての 国会は、議院内閣制下において、信頼を異なる 意味合いで計測できたとしても、制裁を導入す る際は内閣に委ねざるを得ないということにな る。あるいは、国会の機能不全、立法機能や行 政府監視機能が不十分であった場合に、政党が 次期選挙の公約として、議員定数の削減を行う ということを打ち出す可能性があるが、これも 国会と政党の制裁導入の区別が難しいことを意 味する。そこで、本研究では、国会の信頼を回 復する要因として、合理的システムに訴えかけ るために、対話と視聴の重要性を検討する。
3.文化的要因としての政治的価値観
信頼の規定要因の
1
つとして、文化的要因で ある政治的価値観が挙げられる。これは異なる 文化圏や個々人によって異なるものであり、政治信頼に影響を与えていると考えられる。政治 的価値観としては解放に向けた価値観(Welzel
2013)及び社会関係資本(Putnam 1993)が重要
となる。イングルハート(1978)は、美しい町・自然、
思想の重視、言論の自由、非人間的でない社会、
職場・地域社会で多くの発言権、政府に対する 多くの発言権の調査項目より、脱物質主義的価 値観を提示した。脱物質主義的価値観と対比し て、生理的欲求があり、それが安全欲求と生存 欲求で構成され、防衛力や犯罪との戦い、秩序 の維持、経済の成長、経済成長、物価上昇との 戦いであるとされる。そして、世代や教育によ り、物質主義的価値観から脱物質主義的価値観 になったと指摘している。
イングルハート(1993)では、日本が特異な 事例であることを指摘している。それは、工業化、
都市化、豊かさの獲得やその他の近代化の局面 が、日本ではあまりに急激に生じたため、一部 の国民は今なお前工業的な価値からの離脱の途 上にあるとしている。これは調和のある人間関 係を重視する集団的文化があることを意味して いる。
Inglehart and Welzel
(2005)では、現代におい
ては脱物質主義的価値観が浸透していることか ら、男女平等や自己表現の価値観が中心となっ ていることを踏まえて、解放に向けた民主主義 の理論となることを提示している。時代の変化を踏まえて、Welzel
(2013)によっ
て、解放に向けた価値観(Emancipative Values)が提示された。解放に向けた価値観は①選択
(中
絶に対する容認、離婚に対する容認、同性愛に 対する容認)、②平等(男女の平等:政治、教 育、仕事)、③発言(地方の発言の優先権、国 家の発言の優先権、言論の自由)、④自律性(独 立の質、従わない質、問題解決力の質)の4
つ の要素から合成され、作成されている。これら は世界価値観調査(World Values Survey)より、脱物質主義的価値観の指標を一部用いて、12の 変数から合成されている。本稿では、解放に向 けた価値観を用いることとする。
この解放に向けた価値観に加えて、信頼を考 える上では、社会関係資本(Social Capital)が 重要となる。社会関係資本は、Putnam
(1993)
によって指摘された概念である。市民的伝統を もつ共同体は、信頼関係、互酬性の規範、ネッ
トワークの形成、市民の積極参加といった形で 社会関係資本を形成すると考える。この社会関 係資本を操作化した変数として、他者一般への 信頼を用いる。山岸・小見山(1995)は、「開か れた社会における自立した個人の持つ、他者一 般ないし人間性一般に対する信頼
(一般的信頼)
が、今後の日本社会の中でその重要性を増して 行くであろう」と指摘している。
4.データと仮説の設定
4. 1 データ
対話と視聴が不信に対する克服として効果を 持つかを検証するため、楽天リサーチを通じて、
2016
年2
月5
日から2
月8
日かけて、インターネット調査を実施した。調査対象は、楽天リサー チを使用しているインターネットユーザー
500
名 であり、日本全国の20
歳から79
歳を対象にし ている。なお、インターネットユーザーの特性を 反映させるため、年代別の調整は行わず、性別 のみを均等となるようにデータを収集している。表
1
は、記述統計量を示している。従属変数 となる信頼は、国会の信頼を中心的に扱うが、比較のために、政府の信頼、政党の信頼、政治 家の信頼を含めている。政治的な信頼のうち、
信頼の高いものは、政府の信頼の平均値
2.618
であり、他方で低いものは政治家の信頼の平均値
2.116
である。また、国会の信頼の平均値は2.442
となっている。本稿では、Welzel(2013)に従い、調査項目 を設定し、解放に向けた価値観の抽出を試みた
(表 2)。選択及び発言権に関しては、同様の結
表 1 記述統計量
n
平均値 標準偏差 最小値 最大値政府の信頼
500 2.618 1.040
01 05 政党の信頼500 2.370 0.944
01 05 政治家の信頼500 2.116 0.972
01 05 国会の信頼500 2.442 1.028
01 05 解放に向けた価値観500 0.000 0.804 -2.647
02.306 性別(女性ダミー)500 0.500 0.501
00 01年齢
500 46.526 12.570 20 77
教育
493 3.830 1.386
01 06議会
HP
へのアクセス視聴500 4.728 2.170
0416
家族・友人との政治に関する対話500 2.020 0.788
01 04 国会の応答性500 2.968 0.834
01 05 派閥争いや汚職問題500 3.830 0.987
01 05左右軸
500 6.182 1.502
0111
主観的経済評価(悪い)
500 3.608 0.853
01 05 政治的有効性感覚500 3.140 0.946
01 05 一般的信頼500 3.194 0.866
01 05政治関心
500 2.660 1.177
01 05(注) 2016年2月実施の政治意識に関するインターネット調査アンケートより作成。
果が得られたが、平等及び自律性に関しては、
構成要素として十分に含まれていない。これは、
日本固有の男性優位な社会、家族制度といった 文化的側面が残っていることを反映しており、
まとまりのある因子として抽出されなかったも のと考えられる。ただし、選択及び発言権が現 れていることから、Welzel(2013)の価値観と は同一のものであるといえないものの、解放に 向けた価値観を構成するものとして、本稿では 捉えることとする。
同じ要因が抽出されなかった理由としては、
文化的な差異があるためであると考えられる。
Welzel(2013)は、1995
年から2005
年までの世 界価値観調査(World Values Survey)及びヨー ロッパ価値観調査(European Values Survey)を 用いており、同質な文化圏であり、まとまりの ある因子を抽出できたものと考えられる。しか し、日本は儒教の影響もあり、集団主義的な文 化圏であると指摘される(アイエンガー2010)。
日本では、自己を家族や職場、国など、自分の 属する集団との関係で捉える。日本が集団主義
的な文化圏に属しているとされるのは、歴史的 に狩猟採集社会では互いの面倒を見ることが全 員の生存確率を高めたことと、儒教の教えより 人を思いやることに由来しているとされる。こ うした文化圏の違いにより、異なる因子が抽出 されたと考えられる。
4. 2 仮説の設定
ここまでの先行研究を踏まえて、情報技術を 用いた対話の重要性及び、政治とインターネッ トの正の側面より、次の
2
つの仮説を設定する。仮説
1:
政治に関する対話は、国会の信頼を向 上させる。仮説
2:
議会HP
へのアクセス視聴は、国会の 信頼を向上させる。これらの仮説は、政治に関する対話及び議会
HP
へのアクセス視聴の効果を検証するものであ り、それらが国会の信頼に正の影響を与えてい るかどうかを検証する。仮説1
は、対話の効果 を測定するものであり、政治に関する対話が国 表 2 解放に向けた価値観項目 負荷量 構成 負荷量 構成
中絶に対する容認 ■0.622 選択 ■0.409 解放に向けた価 値観
(Emancipative
Values)
離婚に対する容認 ■0.730 同性愛に対する容認 ■0.828
女性の平等:政治 ■0.724 平等
-0.756
女性の平等:教育 ■0.813女性の平等:仕事 ■0.690
発言の優先権:地方 ■0.968 声 ■0.470 発言の優先権:国家 ■0.330 (発言権)
言論の自由 ■0.159
独立の質 ■0.816 自律性 ■0.073
従わない質 ■0.303
問題解決力の質 ■0.837
KMO
■0.648 ■0.501Cronbach
α ■0.418説明される分散
50.0% 39.8%
(注) Welzel(2013) p.71を参照.インターネット調査アンケートのデータを用いて算出している。なお、Welzel (2013)
に従いオブリミン回転をかけている(Δ: 0.20)。
会の信頼を向上させるかを検証する。情報技術 を用いて他人と意見を交換することにより、政 治について考慮が促され、他者の見方を知るこ とで、国会を信頼しても良いと考えるものであ る。
仮説
2
は、衆議院及び参議院のHP
にアク セスし、情報を入手することによって、国会の 活動を知り、国会の信頼が高まるかを検証す るものである。議会HP
へのアクセス視聴は、Epstein(1994)の指摘する論理・分析の合理的
システムの判断を促すと考えられる。本稿で扱う従属変数は、国会、政府、政党、
及び政治家の信頼である。質問文では「ここに 挙げる組織や団体などについて、一般的にいっ て、あなたはどの程度、信頼できると思いますか」
とし、「1.信頼できない」から「5.とても信頼で きる」の
5
点尺度で尋ねている。独立変数としては、性別、年齢、教育レベル、
解放に向けた価値観、議会
HP
へのアクセス視 聴、政治に関する対話、他者信頼、国会の応答性、派閥争いや汚職問題、左右軸、経済評価(悪い)、
有効性感覚、政治関心としている。
文化的要因として、解放に向けた価値観に加 えて、他者信頼を含めている。他者信頼は社会 関係資本を意味する独立変数である。また、本 章の中心となる独立変数として、議会
HP
への アクセス視聴、政治に関する対話を含めている。議会
HP
へのアクセス視聴は、多くがアクセス 視聴しないに分布しているため、標準化した値 を用いている。これは、-1SDから1SD の効果
量として、実質的な効果があるかどうかを検証 するためである。経験的システムに基づく判断 か、あるいは合理的システム判断かを示すもの として、国会の応答性及び、派閥争いや汚職問 題を含めている。国会の応答性については、「国 会があるからこそ、庶民の声が政治に反映する ようになる」に対して、「1.
反対」から「5.賛成」まで
5
点尺度で測定している。派閥争いや汚職 問題については、「日本の政党や政治家は派閥の 争いや汚職問題に明け暮れて、国民生活をなお ざりにしている」という意見に対して、「1.そう 思わない」から「5.そう思う」まで5
点尺度で 測定している。左右軸を含めるのは、国会を運 営する政府与党が調査時点においては、自民党 及び公明党であり、中道右派であるためである(Anderson and Guillory 1997)。
なお、経済評価を含めているのは、経済的要因が政治信頼に影 響を与えていることを考慮するためである。分 析モデルについては、従属変数が
5
点尺度であ ることから、順序ロジットモデルによる推定を 行う。5.分析結果
表
3
は、順序ロジットモデルによる国会の信 頼の規定要因の推定結果を示している。仮説2
で予想した通り、議会HP
へのアクセス視聴が 正の係数で有意となっている。これは、議会HP
にアクセスし、国会審議を視聴している人の方 が、国会に対する信頼が高まることを示してい る。他方で、政治に関する対話は、有意となっ ておらず、対話することで、国会に対する信頼 が高まるとはいえないことが分かる。それ故、仮説
1
は支持されないといえる。文化的要因として、設定した解放に向けた価 値観は、負の係数であるものの、有意とはなっ ていない。また、社会関係資本を示す他者信頼 は、有意となっており、正の係数が得られている。
そのことから、社会関係資本の形成は、国会の 信頼を高めるといえる。
国会の応答性については、正で有意な係数が 得られている。他方で、派閥争いや汚職問題に ついては、負で有意な係数が得られている。国 会が応えてくれるという感情や汚職に明け暮れ ているのではないかという認知が、国会という 政治制度に対する信頼に影響を与えているもの であるといえる。
また、コントロール変数として含めた、左右 軸及び経済評価(悪い)に関して、有意な結果 が得られており、国会の信頼と関係しているこ とがうかがえる。左右軸のうち、自分の立場が 右側と認識している方が、国会の信頼が高い。
これは、調査実施時点の
2016
年2
月において、自民党連立政権が、政府与党であり、国会を主 導していることと関係していると考えられる。
また経済評価を悪いと考える方が、国会の信頼 が低くなっていることから、政治評価と経済評 価が密接不可分に関係しているものであるとい える。経済評価に関しては、内閣支持率に影響 を与えることが知られており(三宅他
2001)、
その結果と整合的であるといえる。
モデル
1
とモデル2
に関して、政治関心を追 加しているのがモデル2
となっている。政治関 心を追加した理由は、議会HP
へのアクセス視 聴と、政治に関する対話の間で、相関関係がみ られることを懸念して、結果を載せている。実際、政治関心と議会
HP
へのアクセス視聴との順位 相関係数、ケンドール(タウ)τ=-.261, n=500,
p<.01
であり、緩やかな負の相関関係があるといえる。また、政治関心と政治に関する対話 の順位相関係数、ケンドール(タウ)τ
=-.103, n=500, p<.01
も同様に緩やかな負の相関関係で あるが、係数は小さい。そのため、政治関心と、議会
HP
へのアクセス視聴・政治に関する対話 の間には、それほど関係がなく、政治関心が高 いからといって、議会HP
へアクセス視聴する・政治に関する対話をする訳ではないことを確認 した。それ故、議会
HP
へのアクセス視聴は、国会の信頼を取り戻すための有効な手段である と考えられる。
表
4
は、順序ロジットモデルによる政府、政党、政治家の信頼の規定要因の推定結果を示してい る。これは政治制度に関する信頼(政府の信頼、
政党の信頼)及び政治家信頼を国会の信頼と比 較するために、行っている。
表 3 国会の信頼の規定要因―順序ロジットモデルによる推定結果 国会 モデル
1
国会 モデル2
β 頑健な
標準誤差 β 頑健な 標準誤差 議会
HP
へのアクセス視聴(標準化)
0.219** 0.095 0.224** 0.096
政治に関する対話
0.153 0.125 0.178 0.139
性別(女性)-0.240 0.177 -0.266 0.185
年齢
0.025*** 0.008 0.025*** 0.008
教育レベル
0.107* 0.065 0.108* 0.065
解放に向けた価値観-0.115 0.137 -0.113 0.136
他者信頼
0.786*** 0.124 0.793*** 0.126
国会の応答性
0.467*** 0.140 0.470*** 0.140
派閥争いや汚職問題-0.661*** 0.123 -0.661*** 0.123
左右軸
0.219*** 0.073 0.219*** 0.073
経済評価(悪い)
-0.444*** 0.106 -0.450*** 0.105
有効性感覚0.028 0.103 0.023 0.104
政治関心 ― ―
0.047 0.101
cut1 1.200 1.062 1.384 1.165
cut2 2.993 1.067 3.177 1.169
cut3 5.349 1.081 5.532 1.179
cut4 7.836 1.077 8.016 1.158
n 493 493
Waldχ
2(12)178.46 182.75
log likelihood -573.673 -573.538
Pseudo R
20.1612 0.1614
***: p<.01, **: p<.05, *: p<.10不均一分散に対応するため、頑健な標準誤差を採用してい る。多重共線性を確認するため、それぞれの独立変数間の順位相関係数を算出し、順位 相関係数が0.3未満であることを確認している。また、重回帰分析においてVIFを確認 したところ、1.2以下となっていることを確認している。
共通している箇所から確認すると、第
1
に社 会関係資本を示す他者信頼は、それぞれの信頼 に正の影響を与えていることが分かる。ここか ら、社会関係資本の形成が、あらゆる政治信頼 を高めるものであるといえる。第2
に、国会の 応答性は、それぞれの信頼に正の影響を与えて いる。そのため、国会の応答性を高めることが 求められるといえる。具体的には、内閣提出法案、議員提出法案の双方の可決数を向上させること 等が求められる。それに加え、国会に対する認 知であると捉えるならば、どのような法案を可 決したかという広報活動も必要であると考えら れる。
第
3
に、派閥争いや汚職は、あらゆる政治信頼に有意に負の影響を与えている。派閥争いや 政治スキャンダルといった問題は、政治の悪い 印象を抱かせるため、当然のことであるが、政 治家は留意しなければならないといえる。これ は、政治家の資質のみならず、マスメディアの 取り上げ方、取り上げる回数といったことも影 響していることが考えられる。国会の応答性及 び派閥争いや汚職の結果より、印象に基づく信 頼が形成されていることに加えて、情報を踏ま えた上での判断もなされていることが分かり、
双方の面が現れているといえる。
国会の信頼との違いとして、政治に関する対 話が、政府の信頼及び政治家信頼に正の影響を 与えていることである。政治に関する対話は、
表 4 政府、政党、政治家の信頼の規定要因―順序ロジットモデルによる推定結果
政府 政党 政治家
β 頑健な
標準誤差 β 頑健な
標準誤差 β 頑健な 標準誤差 議会
HP
へのアクセス視聴(標準化)
0.099 0.128 0.259** 0.128 0.229* 0.122
政治に関する対話0.222* 0.120 0.194 0.122 0.331*** 0.123
性別(女性)-0.293 0.185 -0.117 0.178 -0.011 0.187
年齢
0.022*** 0.007 0.017** 0.007 0.012 0.007
教育レベル
0.057 0.067 -0.013 0.067 0.057 0.067
解放に向けた価値観-0.169 0.142 -0.220 0.134 -0.291** 0.126
他者信頼
0.775*** 0.128 0.785*** 0.127 0.561*** 0.124
国会応答性
0.553*** 0.145 0.382*** 0.133 0.392*** 0.134
派閥争いや汚職問題-0.576*** 0.110 -0.620*** 0.116 -0.865*** 0.121
左右軸
0.290*** 0.080 0.105 0.080 0.084 0.080
経済評価(悪い)
-0.548*** 0.114 -0.511*** 0.113 -0.367*** 0.109
有効性感覚0.081 0.107 -0.039 0.107 0.045 0.109
cut1 1.544 1.183 -0.265 1.266 -0.128 1.201
cut2 3.429 1.192 1.861 1.261 1.776 1.193
cut3 5.643 1.202 4.453 1.277 4.196 1.192
cut4 8.612 1.217 6.597 1.272 6.400 1.239
n 493 493 493
Waldχ
2(12)243.41 155.22 164.9
log likelihood -575.224 -551.811 -538.041
Pseudo R
20.1745 0.1492 0.1597
***: p<.01, **: p<.05, *: p<.10不均一分散に対応するため、頑健な標準誤差を採用している。多重共線性を確認するため、
それぞれの独立変数間の順位相関係数を算出し、順位相関係数が0.3未満であることを確認している。また、重回帰 分析においてVIFを確認したところ、1.2以下となっていることを確認している。
国会の信頼には影響を与えているとはいえない ものの、政府及び政治家の信頼の向上に役立っ ているといえる。恐らく
、政治に関する対話の
内容が、ニュースで報道されることや、現政権 の評価に関するものであり、政府や政治家信頼 には影響を与えるものの、国会の信頼には影響 を与えないものと考えられる。加えて、議会HP
へのアクセス視聴は、政府の信頼には影響を与 えないものの、政党及び政治家の信頼には正の 影響を与えている。議会HP
で政党や議員の活 動を確認することによって、信頼が向上するも のと考えられる。ただし、政府に対する信頼に 影響が見られなかったのは、政府がアクターと して、十分に認識されなかったことが考えられ る。6.おわりに
本稿においては、インターネット調査データ を用いて、情報技術の有用性の観点から、国会 の信頼に加え、政府、政党、政治家の信頼に関 する規定要因を明らかにした。本稿によって明 らかになったことは次の
3
点である。第1
に、仮説
2
の「議会HP
へのアクセス視聴は、国会 の信頼を向上させる。」が支持されたことである。このことから、適切な情報を入手することによ り、国会の活動を知ることで、国会の信頼が高 まるといえる。衆議院及び参議院の
HP
には、会議録や議案情報、議員情報、請願、質問主意 書など膨大な情報が掲載されている。印象に基 づいて判断するよりも、情報をもとに合理的シ ステムを用いて判断する方が、信頼は高まると いえる。これは、ギデンズ(1993)のシステム に対するアクセスポイントの考え方の実践であ るといえる。システムに責任を負う人間や集団
(政治情報)と、判断する人々である有権者の間
の出会いとして、インターネット上の情報があ るといえる。事務局スタッフによる政治家、政党、国会、内閣といった政治情報の提示は、有権者 とのアクセスポイントとなり、信頼を向上させ るといえる。
第
2
に、社会関係資本を示す他者信頼は、国会、政府、政党、政治家の信頼、全てに対して正の 効果があるということが明らかとなった。しか し、Putnam(2000)の指摘するように、社会関
係資本は衰退しており、このままでは、信頼関 係が薄れ、政府が政策を実施することが困難に なることが予想される。そのため、社会関係資 本の構築は、極めて重要な問題であるといえる。
第
3
に、政治に関する対話が、国会の信頼に は影響を与えていないものの、政府の信頼及び 政治家の信頼に正の影響を与えていることであ る。このことから、国会の信頼と他の政治制度 信頼は異なる要因で規定されていることが示さ れ、他の政治信頼の向上によって、国会の信頼 が高まることが予想される。そのため、国会の 信頼を考えるにあたっては、副次的効果として、政治に関する対話が重要であるといえる。情報 技術の有用性に関して、対話により、意見・態 度が変容することが期待されるが、政府の信頼 及び政治家の信頼に対話が正の影響を与えるこ とで、政治意識が変容する可能性が示唆された といえる。
本研究における課題を
4
点指摘しておく。第1
は、インターネット調査により、議会HP
へア クセス視聴しているかを尋ねているが、実際に アクセス視聴したかどうかは定かではないとい う点である。より正確なデータを用いるのであ れば、サーチエンジンから提供を受けたデータ を用いる方が望ましいといえる。第2
に、議会 を信頼していないからアクセスする可能性が否 定出来ていない点である。議会を信頼していな いために、アクセスをするという因果経路も考 えることが可能であり、その場合は、アクセス 量と信頼は負の相関関係があると考えられる。分析した結果より、正の係数が得られていたこ とから、今回用いたデータからは、信頼してい ないためにアクセスするという現象は見られな いと考えられる。しかし、実際の因果経路は、
事例研究を行う必要があるといえる。第
3
に、インターネット調査を用いたことにより、サン プルセレクションバイアスが生じている点であ る。ネットユーザーと実際の有権者は、異なる 考え方や態度を示す可能性がある。ネットユー ザーの特性として、高学歴であるものの、政治 行動には積極的ではない等が指摘されており
(川上 2003, 石生 2004, 佐藤他 2003)、現実社会
とは異なる特性が存在すると考えられる。その ため、議会HP
へのアクセス視聴の効果が一般 の有権者にまで有効であるとは限らないといえ る。以上の点を踏まえて、結果の解釈や含意には、留意する必要があるといえる。第
4
に、解放に 向けた価値観の効果は、政治的有効性感覚とい う政治意識を含めているため、過小推定されて いる可能性がある。最後に、国会の信頼は代議制民主主義を支え る上で重要な指標となるため、低すぎる信頼は 協調行動を伴わず、非効率な立法に陥る危険性 がある。この状況を改善するために、国会の信 頼を高めるための一つの方策として、議会
HP
へのアクセスと視聴が挙げられる。加えて、政 府や政治家の信頼を高める方策の一つとして、政治に関する対話を行うことが挙げられる。こ れらの取り組みによって、安定した国会運営が なされるようになると考えられる。特に、衆議 院や参議院の
HP
では、多くの情報を公開して いるものの、有権者は積極的に情報を入手して いないことに問題の一因があるといえる。この 状況を改善するためには、議会事務局による積 極的な広報活動に加えて、有権者が関心を持ち、正しい情報を入手する姿勢が求められるといえ る。正しい情報に基づく判断が促されることに よって、国会、政府、政党、政治家の評価が変 わる可能性があるといえる。
参考文献
日本語文献
アイエンガー, シーナ(2010)『選択の科学』櫻井祐子(訳), 文藝春秋.
石生義人(2004)「インターネット選挙情報接触者の政治的特殊 性―多変量懐石による検証」『社会科学ジャーナル』52, 31-52.
猪口孝(2003)「グローバリゼーションはよいガバナンスをもた らすか?―政治制度に対する市民の信頼からみた分析」『年報 政治学2003』199-227.
イングルハート, ロナルド(1978)『静かなる革命−政治意識と 行動様式の変化』三宅一郎・金丸輝男・富沢克(訳), 東洋経 済新報社.
イングルハート, ロナルド(1993)『カルチャーシフトと政治変 動』村山皓・武重雅文・富沢克(訳), 東洋経済新報社. 岡本哲和・石橋章市朗・脇坂徹(2015)「ネット選挙解禁の効果
を検証する―2013年参院選での投票意思決定に対する影響の 分析」『関西大学法学論集』64 (6), 1-22.
カー, ニコラス(2010)『ネット・バカ―インターネットがわた
したちの脳にしていること』篠儀直子(訳), 青土社. 川上和久(2003)「2000年総選挙におけるインターネットユー
ザーの投票行動」『明治学院論叢 法学研究』75, 27-52.
ギデンズ, アンソニー(1993)『近代とはいかなる時代か?―モ
ダニティの帰結』松尾精文・小幡正敏 (訳), 而立書房. 木下健(2016)「熟議による合意の可能性―「エネルギー・環境
の選択肢に関する討論型世論調査」を用いて」『同志社政策科 学研究』17 (2), 17-33.
小池治(2010)「アジアにおける政府の信頼と行政改革」『年報 政治学2010Ⅰ』49-67.
後藤玲子(2002)『正義の経済哲学―ロールズとセン』東洋経済 新報社, 204-205.
佐藤哲也・杉岡賢治・内藤孝一(2003)「インターネット利用者 の政治意識」『日本社会情報学会学会誌』 15 (2), 27-38.
善教将大(2013)『日本における政治への信頼と不信』木鐸社. 総務省(2015)『平成27年版情報通信白書』日経印刷株式会社. 田中愛治(2002)「政治的信頼と世代間ギャップ―政治的システ
ム・サポートの変化」『経済研究』53 (3), 213-225.
田村哲樹(2008)『熟議の理由―民主主義の政治理論』勁草書房.
ナイ, ジョセフ・フィリップ ゼリコウ・デビッド キング編著
(2002)『なぜ政府は信頼されないのか』嶋本恵美(訳), 英治 出版.
中谷内一也(2015a)『信頼学の教室』講談社現代新書. 中谷内一也(2015b)「原発事故における風評被害の問題と対策」
『Progress in Medicine』 35 (5), 85-88.
西澤由隆(2008)「政治的信頼の測定に関する一考察」『早稲田 政治經濟學雜誌』370, 53-64.
ヘイ, コリン(2012)『政治はなぜ嫌われるのか―民主主義の取
り戻し方』吉田徹(訳), 岩波書店.
ボナー, パトリシア・ロバート カーリッツ, ローズマリー ガン,
ローリー マーク, チャールズ ラトリフ (2013)「オンラインの 対話が市民と政府をつなげる」ジョン, ギャスティル・ピー ターレヴィーン編『熟議民主主義ハンドブック』森達也(訳), 現代人文社.
松下啓一(2013)『熟議の市民参加―ドイツの新たな試みから学 ぶこと』萌書房.
三浦基・小林憲一(2010)「テレビの見方が変わる―ツイッター の利用動向に関する調査」『放送と調査』60 (8), 82-97.
ミル, ジョン・スチュアート (1997)『代議制統治論』水田洋(訳), 岩波文庫.
三宅一郎・西澤由隆・河野勝(2001)『55年体制下の政治と経 済―時事世論調査データの分析』木鐸社.
山口裕之(2016)『対話の技術』日本実業出版社.
山岸俊男・小見山尚(1995)「信頼の意味と構造―信頼とコ ミットメント関係に関する理論的・実証的研究」『Jonrnal of Institute of Nuclear Safety System』2, 1-59.
ルーマン, ニクラス(1990)『信頼―社会的な複雑性の縮減メカ
ニズム』大庭健・正村俊之(訳),勁草書房.
外国語文献
Anderson, C. and C. Guillory (1997) “Political Institutions and Satisfaction with Democracy: A Cross-National Analysis of Consensus and Majoritarian Systems,” The American Political Science Review, 91 (1), 66-81.
Cappella J. and K. H. Jamieson (1997) Spiral of Cynicism: The Press and the Public Good, Oxford University Press. (=邦題『政治報道 とシニシズム』平林紀子・山田一成(訳), ミネルヴァ書房 2005.)
Easton, D. (1965) System Analysis of Political Life, the University of Chicago Press, 171-219.
Epstein S. (1994) “Integration of Cognitive and the Psychodynamic Unconscious,” American Psychologist, 49 (8), 709-724.
Heywood, A. (2013) Politics (Fourth edition), Palgrave Macmillan.
Inglehart, R. and C. Welzel (2005) Modernization, Cultural Change, and Democracy: The Human Development Sequence, Cambridge University Press.
Margolis, H. (1990) “Dual-Utilities and Rational Choice,” in J.
Mansbridge (eds.), Beyond Self-interest, The University of Chicago Press, 239-253.
Margolis, H. (2007) “Dual-Utilities,” Harris School Working Paper Series06-05D.
Margolis, M. and D. Resnick (2000) Politics as Usual: The Cyberspace Revolution, Sage Publications.
Norris, P. (1999a) “Who Surfs?: New Technology, Old Voters and Virtual Democracy in the 1996 and 1998 US Elections” E. C.
Kamarck and J. Nye (eds.), Democracy.Com: Governance in a Networked World, Hollis Publishing Corporation, 71-94.
Norris, P. (1999b) “Conclusion: The Growth of Critical Citizens and its Consequences,” P. Norris (eds.), Critical Citizens: Global Support for Democratic Government, Oxford University Press, 257-72.
Patterson, T. (1993) Out of Order: An Incisive and Boldly Original Critique of the News Media's Domination of America's Political Process, Vintage.
Putnam, R. (1993) Making Democracy Work: Civic Traditions in Modern Italy, Princeton University Press.
Putnam, R. (2000) Bowling Alone: The Collapse and Revival of American Community, Simon & Schuster.
Sunstein, C. (2001) Republic.com, Princeton University Press, 51-88(=
邦題『インターネットは民主主義の敵か』石川幸憲(訳), 毎 日新聞社, 2003, 67-101).
Welzel, C. (2013) Freedom Rising Human Empowerment and the Quest for Emancipation, Cambridge University Press.