九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
圃場排水にともなう窒素流出に関する数理的研究
白谷, 栄作
https://doi.org/10.11501/3106967
出版情報:Kyushu University, 1995, 博士(農学), 論文博士 バージョン:
権利関係:
第W章 圃場の窒素流出の簡略モデル
第1節 序 論
水質管理計画の策定に当たっては, 集水域内の負荷源からの発生負荷, 流出 負荷, 流達負荷を評価し, 当該水域の水質予測を行う. 農業地帯を流域に持つ 水域の水質保全上, 農地からの流出負荷の把握は重要な課題であるが, その定 量的評価が難しい. このため, 農地については発生負荷原単位を係数法によっ て与える場合が多い.
しかし, 多くの調査結果で示されているように, 農地からの負荷流出は時期 的変動が大きく, 計画水域の滞留日数を超える時間スケールでの変動がある場 合には, 水質予測の際にはこれを考慮、する必要がある.
そこで, 農地からの負荷流出の時期的変動特性を考慮、した発生負荷の把握手 法が必要となるが, 実用のためには所要の精度を持ち, 取り扱いが容易なもの であることが必要である.
第E章では, 土層中の窒素循環を6個の状態変量の反応で記述したモデルを 開発した. しかし, その中では理論や実験によって決定できないパラメータや,
現地圃場を対象とした場合には圃場内の各物質量の把握自体が困難な場合が多 い. 一般に, 土層内の複雑な水流動および物質挙動に関する全ての素過程を組 み合わせて, モデルを構築することは状態、変数が多くなり, さらにそれにとも なうパラメータ数が増大する. しかし, 反面で現場において計測不能な状態変 数と順問題によって決定できないパラメータが多数存在する. このようなモデ ル化のレベルと現場計測能力の不一致という不合理が生じるなかで, 出来るだ
け筒略で再現性の高いモデルの構築が重要となる.
そこで, 本章では, 前章で提案した圃場からの窒素流出モデルをもとに, よ り簡略で実用的なモデルを開発する. 簡略化は, 窒素循環モデルをもとに, 感 度解析とモデル分析から土層内の複雑な反応過程の一部を捨象または集約化す ることによって行う.
92
E 一一
第2節 簡略化手順
2. l 感度解析
第皿章で作成した数理モデルで使用した各ノミラメータの変化に対する推定値 の感度について検討を行う. 感度解析の方法は, ①与えたパラメータに対して 感度関数(sensitivity functions)を時系列的に計算し, その時間的な変化から,
系のダイナミックな特性を把握する方法, ②各ノミラメータ値を合理的な範囲で 数種類与え, それぞれについて系のシミュレーションを行い, 計算値のずれを 観る方法がある.
ここでは, 時間変化の評価が重要となるため, 感度関数によって評価してそ の時間変化を観察する方法が有効と考えられる.
第皿章のモデルの基礎方程式は, 反応の温度依存をlj/iで表現して[4.1]式で 書くことができる.
今= α l'�NmH +a2'�NN
一( β
1'lf/3 + げ Y l '呪引叩叫K引州肌)川μN 札 mω O
会守苧三じ=イ叩イy仇打lJr町 今竿壬L勺=づβ
一(αl'� +α3'只+ Y2呪 )NmH
-
,yN mH
, y •
Âp(
1 __E_ )
ノ NmH+λ
r
N" , P∞/
2 5 L z MNm H 一 (α2 、 'lf/2 + Y 3 ' �
0)N
ノ N _NmH+NN .
�N N λ�p ", P∞/ (
1- _E_ I -
EN N. 0
dN;u
五 " α3'lf/gN mH - ß3' lf/6N1H
2 乙 = -ß./lf/7Nu
」こで,
NiO
:難分解性有機態窒素量(kg) Nmo 易分解性有機態、窒素量(kg)NiH :不溶性アンモニア態窒素量(kg)
93
[4.1]
E ・・・・・・・・七 � 二 三
NmH 可溶性アンモニア態、窒素量(kg) NN 硝酸態窒素量(kg)
Nu 尿素態、窒素量(kg)
αl F~αγ, βl'~β4rおよび(1''''''''_' Y3'は温度アにおける反応比速度で,
αl F:可溶性アンモニア態窒素の易分解性有機物への 移行比速度(day-l)
α2F:硝酸態、窒素の易分解性有機物への移行比速度(day-l) α3':可溶性アンモニア態窒素の不溶性アンモニア態窒素への
移行比速度(day-l)
βlF:易分解性有機物の無機化比速度(day-l) β2':難分解性有機物の無機化比速度(day-l)
β3':不溶性アンモニア態窒素の可溶性アンモニア態窒素への 移行比速度(day-l)
ム, 尿素態窒素のアンモニア態窒素への移行比速度(day'l) Yl' 易分解性有機物の難分解性有機物への移行比速度(day-l) Y2 ' 硝化比速度(day-l)
Y3' 脱窒比速度(day-l)
ヂ; ::各反応速度に関する温度の換算係数
p
:作物体内窒素量(kg)
P∞:作物体内窒素量の収束値(kg) λ:生長速度定数(day-l)
Q:暗渠流量(m3.day-l) ε :定数(m-3)
まず,
[4.1]式を[4.2]式のように書き換える.
芸=μk, t)
ここで, Z:状態、変数の行列
k
:パラメータ行列94
[4.2]
画冨・・・・・・・・・・・・・七「 三 二
t 時間
感度関数は, 次のように定義される(Holmbergら,1982)・
Zk
=一一dZ dk
各パラメータの感度関数の変化は,
となる.
dZk df
マdf
一一一=一一t. k 十
一-dt dZ dk
ただし,Zk(O)=O
[4.3]
[4.4]
具体的に, [4.1]式をもとに[4.4]式にしたがって書くと, αl rについて[4.5]式 のようになる.
ここで,
ヂi
o
dZ
_ '1-1[1;
τd;' =A必ι仏Za九α向l' +山|ハ01凡AλN凡札仇I人んル fんιμr庁m
O
。
Nmo N,o
Z= I NmH
λrN
NiH Nu
[4.5]
95
置置・・・・・・・・・・・・・ヘF 二 三
ただし,
α11
。σ13 α14
。 。a21σ22
。 。 。 。A
= I α31 a32 a33 a34σ35 a36
。 。
σ43 a↓4
。 。C 。
a53
。α55
。。 。 。 。 。
α66
a11 =ーβl' 'P; - Y1'lJf4 a13 =α1'�
α14 =α2'�
a21 =Y1''P_.
α22=ーβ2'只
a31 =βl'lJf3 a32 =β2' 'Fs
α33 = - �α1 '� +α3'民+γ2 'lJf 9
+N
N _ÂV(
1- L ì l
l ' - - (
NmH + N
N
Y � \. p co) r
G34=( NJL )2 4 1- 去)
a35 =β3'�
σ36 =β4Fチ'l
σ43 =γ2'lf/ç + (NmH NN +λr λD( 1 -乙)
N
Y
�\. pco )
九=
-J α l .,
-'lJf., +γ/
- ,- �
•(l
-+ (
NmH NmH + N N Y 1n(, - T \ - - LÎ+d7l p co) . -� r
σ53 =α/'Ps
σ55 = -ß3'チia66 = -ß/ lJf7
同様にして, αzrについて
96
E ・・・・・・・・・・ヘ� ... 三
N
い0OJY00
+ Z A
ι 7
[4.6]
α3rについて,
0 0
H
NVo
+ α Z A
仇一d
[4.7]
'1/8 o
ßI'について,
o
NJYO払
0 0 0
+ nμ' Z A
仇一d
[4.8]
ß:_'について,
。
o
NJY机
0 0 0
+ RY Z A
仇7
[4.9]
ß/について,
97
E ・七七「 二 一
H N
0 0
机OJYO
+ β'
Z A今
[4.10]
ß/について,
。
。 dZp..
ー__!::_
=
AZ P'.' 十dt r 司
�
7INu
O
[4.11]
-lf/7
YI'について,
竺 と = AZγ , +
dt l '
JY机
0 0 0 0
Nmo
[4.12]
Y2 'について,
H N
O O
JYれ00
+ γ'
Z Aι 7 [4.13]
Y3
'について,
98
� 司司・・・・・・・・・・・園田・・・・・・・・・・園田園園田園園田 _-
l 宅d,
。
。 dZv..
I 0
で午 = AZYJ'
+I INN
al
I - lj/ l o
。
。
[4.14]
である. さらに, λ, εについてはそれぞれ[4.15], [4.16]式のようになる.
∞
一N
M 一 N
P一+ト 一 副 バ 一 N
) ) d
N
1 c c凡
N c o
Z
仏
A
一d
[4.15]
o o
d7_
1 0
一 弓ニ =
dtAZ c 一 I
1(ノ� I NN
。
。
[4.16]
[4.1]式で1985年麦作圃場の暗渠排水中のT-N濃度をシミュレーションした 結果(第皿章)とその際に使用したパラメータ値を使って, 各ノミラメータに関す
る感度関数を[4.5]'""[4.16]式で計算する.
感度解析の結果は, パラメータ相互の大小を考慮するため, 硝酸態窒素量 NNに対する感度をk
j
3000gで無次元化し, 図-IV-1'""4に示す.ハラメータのうちで感度の高いものは, 可溶性アンモニア態、窒素, 硝酸態、窒 素の有機化に関するパラメータ, 易分解性有機態、窒素の無機化に関するパラメ ータおよび硝化に関するパラメータである. また, 特に感度の低いものは難分 解性有機態、窒素の無機化に関するパラメータ, 易分解性有機態、窒素の難分解性 への移行に関するパラメータおよび作物の吸収速度に関するパラメータである.
99
1.0
0.8
巨
世住目
1
Q
0.2々、 0.0
ス -0.2
位
、λ
ー-5
P.JrHp拘u-
150 2001[' :::: -0.4
-0.6
施肥後の経過日数 (日)
-1. 0
図- rv-1
αlF, α2F, α3Fに関する感度関数の時間変化
1.0 0.8
1-
ヨ
機
闘Q
0.2 0.4/勺ι
々、
ーー. ..・'..ー....・-
・・-:.・,・圃 .ー.'回・ ・・ - -
1[' -0.2 50 100 150 200
。〆'
施肥後の経過日数 (日)
-0.6 -0.8 一1.0
図- rv - 2
βl', J32F , β3F, AFに関する感度関数の時間変化
100
44‘』← I
園調・・・・・・・・・・・・・・・・・・・F
1.0 0.8
住H
::l/\ 巴
世?
Q 0.2
々、
京、
0.0
1['\
-0.2 � 50 100 150 200
。戸戸
h、、 施肥後の経過日数 (日)
-0.6
-0.8 -1. 0
図-N-3 Yl', Y2'に関する感度関数の時間変化
1.0 0.8
t
世Q t
Hj 0.4 白
々、
0.2
1、
0.0
J D -0.20
� ちQ100
ー150戸/200
h、、
-0.4
施肥後の経過日数 (日)
-0.8
-1 .0
図-N-4 λ, εに関する感度関数の時間変化
101
ae
一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一-�-'
_.-E・・・・・・・・・・・・七,
.�なお, 脱窒に関するパラメータr/は第皿章でこれを無視することができる ことを示しているため, r3'=Oで感度は計算されない.
モデルの簡略化のために, これらの結果をもとにパラメータの感度の高い反 応過程を中心にモデル構成を行うこととする. すなわち, 土層中の窒素循環に おいて考慮、すべき状態変数は, 無機化に関わる易分解性有機態、窒素, 有機化 ・ 無機化, 硝化および施肥に直接関わる可溶性アンモニア態窒素と有機化および 硝化に関わる硝酸態、窒素である. また, 主要な物質反応は有機化, 無機化, 硝 化である.
2. 2 簡略化モデルの構築
1 )地力窒素循環系概念の導入
Stanfordら(1972)をはじめ杉原ら(1986)などは, [4.17]式をもとにインキュ ベーション試験から地力窒素の無機化速度を無機化定数kで求めている.
N
=No [
l一 叫(-
kt)]
ここで, N :生成した無機態窒素量(kg) No 反応前の有機態窒素量(kg)
k :無機化定数(day-l)
[4.17]
しかしながら, 彼らの行った無機化速度の推定法では施肥条件下の無機化速 度を求めるには困難であることも考えられる. つまり, 無機化速度試験では,
インキュベーション試験で土壌中に集積してきた現存無機態、窒素を無機化量と しており, 土壌中で実際に行われている有機化, 脱窒を別に考慮していない見 掛けの無機化量である.
土接中の無機化と有機化反応を1次反応式で説明できる場合には, 土壌中の 無機態窒素の動態は[4.18]式で与えられ, NoとNJとの割合により見掛けの無 機化速度は異なり, 施肥などで無機態、窒素割合が大きい場合には無機化速度は 負の値となる.
102
量調・・・・・・・・・・・・・・・
d
N
,----μJNoーんN1
dt
=μJNo -μ2NlS -μ:_NJF
ここで, N1 土壌中の無機態窒素量(kg)
N1S 土壌窒素由来の無機態窒素量(kg) NJF 施肥窒素由来の無機態、窒素量(kg) μJ 無機化比速度(day-I)
μ2 有機化比速度(day-I)
[4.18]
しかし, この方法で求められた無機化速度には多くの研究蓄積があり, 無施 肥条件では簡略なモデルを構築しやすい.
斉藤(1988)は, 寒冷地において夏作期間の畑土壌の窒素無機化量は零次反応 モデルによって推定することが可能であることを示している. これは, 易分解 性有機態、窒素量の変動が無視されることである. さらに, 斉藤(1990)は, クロ ボク土畑圃場の無施肥 ・無作付区における窒素動態、を, 零次反応モデルによる 無機化推定法を用いて簡略なシミュレーションモデルを提案している. 同時に,
施肥 ・作付区については作物吸収, 硝酸化成反応をモデル化する必要があるこ とを述べているが, その場合には無機化速度試験では有機化反応が卓越するこ とが考えられるため, 無機化反応を零次反応式で評価できるとは限らない.
そこで, 本論文では無施肥条件での無機化速度が零次反応式で表現できるこ とを利用しつつ, 施肥条件下での土壌中の窒素挙動を図- IV - 5のように考え る. つまり, 土壌中の窒素循環を施肥窒素循環系と地力窒素循環系に分け, 地 力窒素循環系からは零次反応にもとづく一定量のアンモニア態窒素を施肥窒素 循環系に供給し, 施肥窒素循環系からは有機化過程をとおして地力窒素循環系 へ施肥窒素の一部が移行するとともに作物, 園場排水によって系外へ出力され る構造である.
また, 感度解析の結果から, 不溶性アンモニア態窒素, 難分解性有機態窒素 に関わる反応と脱窒は比較的感度が低かったため, 図- IV - 5では考慮、してい ない
103
ad‘』ー一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一
一,ι
E
// \\
/
地力窒素循環系\ I (断続;時時素〉\ \
I I ( アンモー素 ) よ詳ょ〉肥窒素旬 、\
\ (…吋 プ / 〉 \\\\
\/ ,f \ \\// \
\ 、、 / \移行 I
ーー.. -ーー ..,.,.・
2 )仮定の検証
\
\
\
、、 句、 "
圃圃圃圃 ・-
/
図- IV -5 簡略化された窒素循環系
/ /
ノ
ÅÅ 作物吸収
可
溶脱
図- IV -5の窒素循環系の考えは, 無機化反応の基質となる易分解性有機態、
窒素量が一定と仮定できる場合に成り立つ概念である. 対象期間内について易 分解性有機態窒素量の変動率を第E章の麦作期圃場からの窒素流出モデルで検 証する.
図- IV - 6に第皿章の窒素循環モデルで計算された易分解性有機態、窒素量と 難分解性有機態窒素量の麦作期間内での変動を示す. 土層内のそれぞれの有機 態窒素量は初期値からほとんど変化が見られず, その変動係数は易分解性有機 態窒素については約8%以下, 難分解性有機態窒素については0.1%程度であっ
このことから, 有機物の無機化速度の変化は期間内で8%以下の変動で, 見 掛けの無機化速度が第E章の調査園場における物質収支から0.041,...,O.054kg.
day-l程度と考えられることから, その変動量は, 約10kgの施肥量に対して実
用上無視できると考えられる.104
E ー
F ト ト ト ト ト トャト0ハunUハunUハUハUハUハUハunUnopU』μ寸門/」ハUnopO』μ寸つ/」(切さ酬wm制治饗悔
1・E圃圃司冒
難分解性有機態窒素
易分解性有機態宣素
」
50 100 150 200
施肥後の経過日数 (日)
1
第E章のモデルから計算された土層内の有機態窒素量の変動 図- IV -6
モデルの定式化
3
2.
1
)物質収支式施肥窒素循環系を定式化すると[4.19]式の物質収支式 図- IV - 5について,
が得られる.
[4.19]
�=-H dNu dt
空ι=M+H-UH-X一九
dt
竺
竺=x
-UN 一 九 - Ldt
Nu 尿素態、窒素量(kg)
λfH アンモニア態窒素量(kg)
ここで,NN 硝酸態窒素量(kg)
M:地力窒素循環系からの無機態窒素の供給速度(kg.day-l) :尿素態窒素の分解速度(kg.day-l)
105
H臨調 ・・・・・・・・・・・・・・聖 一 一
2
)各反応式UH アンモニア態、窒素の有機化速度(kg.day-l) UN 硝酸態窒素の有機化速度(kg.day.l)
X :硝化速度(kg.day'l)
ん
:アンモニア態窒素の作物吸収速度(kg.day.l)
九 :硝酸態、窒素の作物吸収速度(kg.day'l)L :硝酸態窒素の溶脱速度(kg.day'l)
地力窒素循環系からの無機態窒素の供給を零次反応式, その他の反応につい てはすべて基質に関する1次反応式で与える.
また, 反応速度の温度依存についてはArrhenius員Ijによって250Cを基準温度 として設定する. すなわち,
M =M'exp(ゆ'oK)
H
=k!叫(ゆ!K)Nu
X =k2叫(φ2K)NH
U H = k3exp(φ3K)NH
UN =丸町(Ø4K)N N
ここで,M' 基準温度における地力窒素循環系から無機態窒素の
供給速度(kg.day'l)[4.20]
[4.21J [4.22]
[4.23J [4.24]
ki それぞれの反応に関する基準温度における反応比速度(day-l)
伶:それぞれの反応に関する活性化エネルギーと気体定数の比(K)
T- T'
また, K=
一一一
で, T, Tはそれぞれ地温と基準温度(K)Tア
作物吸収速度P
(
=九十�v)
は, 第E章と同様にロジスティック方程式で与え,アンモニア態窒素と硝酸態窒素の選択性は考慮、しないで, 土層中の両態窒素の 存在比率によるとする. つまり,
106
ん=
JN
N4
1-去) [4.25]
ん=
JN N 4 1一 目 [4.26]
また, 窒素の排水負荷量は土層内の硝酸態、窒素量に対して比例関係にあると 考えることができ,
L
= ENN 'Q [4.27]
ここで, ε:定数(m-3)
Q:暗渠流量(m3.day-l)
である.
第3節 シミュレーション
3. 1 パラメータの同定
地力窒素循環系からの無機態窒素の供給(地力窒素の無機イヒ〉に関するパラ メータについては, 第皿章のパラメータを使用し, 表- IV - 1に示す条件で遺 伝的アルゴリズム(GA:Genetic Algorithm)によって無機化に関するパラメー タM'および。。の最適値を探索することとした.
表-
IV-1
遺伝的アルゴリズムによるパラメータ探索条件基本モデル 一様交叉率 突然変異率
個体数 世代数
適応度比例戦略+エリート保存戦略 50%
107
5%
60個体 100世代
この値を基準 このことから無機化速度の
暗渠排水量 見掛けの無機化速度はおおよそ0.041 --- 0.054kg.day.lであった.
温度に換算すると,
0.082---0.27kg.day.lであり,
探索範囲は0.04---
0.50kg.day.lとした.
パラメータの探索は, まず1985年麦作期の暗渠排水 に対して,
地温は大場ら(1990)の推定式([3.14]式)を使って実施する.
本論のモデル構成が地力窒素循環系と施肥窒素循環系を分離し は実測イ直,
初期条件は,
実際の 施肥 施肥窒素循環系を計算するものであるため,
土層内の物理的移動は考えず, 対象園場を1 たものとなっており,
量を与えることができる. なお,
ボックスの反応槽として取り扱う.
時間間隔0.05dayで・計算を進める.
図-N-7に探索された最適パラメータの場合の計算結果を示すが,
Euler法で差分化して,
数値積分は,
実測値 そのときのパラメータを表-N-2に示す に良く適合していることがわかる.
無機化に関するパラメータ以外は第E章で使用したパラメータと同ーの値 が,
地力窒素の無機化速度は園場の物質収支から推定した値より若干高
。0=5000 Kであった.
めでムダ'=0.314 kg.day.l,
であるが,
一一計算値 実測値
•
• •
70 60 50 40 30 20 10 (7一切E)制純一Zlト
50 100 150 200
施肥後の経過日数(日)
。
。
1985年麦作期の暗渠排水の窒素水質変動のシミュレーション
108 図-N-7
E盟・・・・・・・・・・・七七回F一
使用したパラメータ
5.000 12.000 5.100 12.000
ハHU 'EE
・ 、
, u 、‘ J 必ー マ AYAUT AY AV Aur
表-N-2
0.314 0.44 0.079 0.15 んダ'
kl
kヲ k3
k4 11.950
0.04 λ
0.15 0.012
ε
モデルの検証
2 3 .
同ーのパラメ 構築したモデルおよび推定されたパラメータを検証するため,
ータを用いて1984年麦作期の暗渠排水についてシミュレーションを行う.
図-N-8に示すように実測値に対して2個のデータについて 計算結果は,
ほぼ 全体的傾向は麦作期間の水質変動をよく表現しており,
満足できるものである.
は開きがあるが,
一一計算値 実測値
•
•
•
•
70 60 50 40 30 20 10
(735Mm縦一Zlト
、
50 100 150 200
施肥後の経過日数(日)
。
。
1984年麦作期の暗渠排水の窒素水質変動のシミュレーション
109 図-N-8
a色←ー一一 ーー」
匝盟 ・・・・・・・・・・・・・聞V
これらのことから, 図- rv
-
5のモデルは施肥された麦作園場の暗渠排水の 窒素水質予測モデルとして有効なものであるといえる. また, パラメータ数が 少なく, 初期条件の設定が容易であることから, 取り扱いが簡単で実用性は高 いものであるといえる.第4節 一般的問場条件への適用の可能性
窒素循環系の各反応の温度依存に, Arr heni usJ!1jに基づく温度換算法を採用 しているため, 夏イ乍園場の窒素循環問題に対しでも適用できる可能性は高い.
作物の窒素吸収ノマターンが知られていれば, それを定式化して本論文で取り扱 った大麦の代わりに種々の作物をモデルに組み込むことで, 一般的な適用が可 能である. さらに, 本論では施肥条件は基肥のみであったため計算の初期条件 として取り扱ったが, [4.19]式に施肥速度の項を付加することで, 分施など多 様な施肥管理の圃場条件にも対応できる.
また, 土壌窒素の無機化速度については従来から多くの研究蓄積があり, そ れらの結果を用いて1次反応式または零次反応式で本モデルの地力窒素循環系 からの出力として与えることができる.
このように, 本モデルは種々の作物, 多様な施肥条件に対しても適用が可能 で, 汎用性の高いモデルであるといえる.
第5節 結 言
第皿章で開発した麦作期園場の窒素循環モデルをもとに, 取り扱い易さと実 用性を目的に, 感度解析から反応過程と状態変数の集約を図るとともに, 地力 窒素循環系を独立したサブシステムとした窒素循環概念モデルを開発した
このモデルによると, 必要なパラメータ数は物質循環系内の反応に関わるも のが10個で, 作物吸収, 硝酸態、窒素の溶脱に関わるものが2個となり, 第E章 のモデルに対して10個のパラメータが削減された. さらに, 地力窒素循環系 と施肥窒素循環系を独立の概念とすることにより, 計算の初期条件には実際の 施肥量を与えることで計算が可能となった.
110
本モデルの主な特徴をまとめると次のとおりである.
①状態、変数は, アンモニア態、窒素, 硝酸態窒素, 尿素態、窒素である.
②「地力窒素循環系」と「施肥窒素循環系」を分離し, 地力窒素循環系から の出力(地力窒素の無機化速度〉を零次反応式で与えた.
③計算の初期条件は, 基肥として施肥量を与えた.
④モデルは2か年の麦作期圃場の暗渠排水の窒素水質変動を良く表現できた.
⑤モデル構成が簡略なため, 取り扱いが容易で実用性は高い.
⑥モデルは他の様々な作物条件, 施肥条件などに適用可能で, 汎用性が高い.
今後, 様々な闘場条件に対して本モデルの適用が望まれる. また, 園場排水 モデルとの組み合わせにより, 畑地圃場からの窒素流出負荷量の予測問題への 適用が容易にできる.
111
第V章 園場からの窒素流出の制御
第1節 序 論
圃場排水にともなう窒素流出の制御は, 農業地帯の水質保全上最も正当な方 策である. そのためには, さまざまな施肥条件, 園場条件および降雨条件に対
して負荷流出特性を事前に把握し, 最も合理的な圃場管理を行う必要がある.
本章では, 施肥の特性, 施肥方法について, いくつかの園場排水条件のもと での窒素流出解析を行い, 合理的な施肥方法に対して基本的な考え方を提案す るものである.
圃場の負荷流出解析に際して必要となるものは一連続排水における排水量と 平均水質であるが, 園場からの栄養塩流出のモデルは, ①園場排水のモデル,
②土層内の窒素循環モデルの2つのサブモデルによって構成される.
本論では麦作圃場を対象に, 土層内の窒素循環モデルは, 第IV章で開発した 簡略化した窒素流出モデルを採用するが, これと組み合わせる圃場排水モデル は本章で開発するものを使用する.
第2節 閏場排水モデル
2. 1
基本的考え方
園場排水のモデルについて, 亀裂を含まない均一土層内の水流動については マトリックポテンシャル勾配に比例するとしたFickの拡散方程式によって記述 されることが知られているものの, 圃場レベルの不均一な土層で亀裂を含む場 の水流動については, 物理モデルによって解析を行ったものは現在のところ見 受けられない.
そのような中で, 圃場排水のモデルは井上(1985)のマクロポア理論に基づい た排水系統を組み込んだ2段並列タンクモデルや, 原(1993)の3段直列タンク モデルにマクロポア排水系統を付加したものなどが提案されており, いずれも 圃場排水過程を精度良く計算している.
112
A』←一一一一一一一一一一 一 I
E 1�� 七聞 r=
これらのタンクモデルは一連続流出に対する解析モデルであるが, 本論文に おいて流出負荷量の算出に最も必要な一連続総排水量または降雨に対する流出 率の解析のためには長期のモデルが必要となる. 太田ら(1992)は長期のタンク モデルを開発し, 南九州クロボク土地帯の農地からの硝酸態窒素による地下水 汚染の解析のため, 約2m深さの土層内における約3ヶ月間の水分移動を5段直 列タンクモデルでシミュレーションしている. タンク配置には土層構造を反映 させ, タンク定数の設定については土壌の物理性を考慮、し たものを用いている.
これらは園場排水における土層内の水流動の概念をタンクモデル法によって モデル化した「概念モデル」であり, 水流動の物理現象そのものをモデル化し た物理モデルではない. このため, タンクモデルの場合にはそれぞれのタンク 定数に物理的な意味付けをすることが困難な場合が多く, その結果多くのパタ ーンの流出に対して普遍的に再現性を持たせることは一般には不可能である.
しかし, 不均一な土層状態、の存在する圃場レベルにおいては, 場の把握自体 が困難でありー そのような状況のなかでは園場排水に対するタンクモデルの適 用は有効な手段の1つである.
また, 園場の排水負荷量の予測に際しては, 一連続排水ノ\イドログラフの形 状の表現能力よりむしろ, 一連続排水量を良く計算することが重要である. し たがって, モデルでは単位降雨に対する排水過程を詳細に表現する必要はなく,
物質反応速度の時間スケールにあわせた長期 的傾向が評価されれば十分である.
そこで, 本節では井上(1985)の圃場排水タンクモデルをもとに, 長期タンク モデルを同定する.
2. 2 園場排水の概念とモデル化の方法
第E章の調査圃場の土層構造は, 飽和透水係数が図- n-4に示すように,
耕盤層を境に作土層と心土層で大きく異なる. また, 安中ら(1987)の考察した ように, 畑作転換によって乾燥が心土層まで進み, 土壌の収縮
・
亀裂形成が進 んでいると考えられる. その結果, 国場排水は作土層から亀裂や弾丸孔等の水 みちへ, さらに本暗渠に至る流れが主な排水経路ということができ, 土層中の 亀裂による水みちが重要な役割を果たす.113
a‘』一一一一一一一一一一一一一一一 -z'
E ・・・・・・・・田r
井上(1985)の提案した圃場排水のタンクモデルは, 図- V-1に示すように,
亀裂の発達した圃場排水に対する亀裂の機能が組み込まれているが, 亀裂の水 みち機能と同時に亀裂中とマトリックスの聞の水移動を評価する点で, 対象を 同じくする原(1993)や太田ら(1992)のタンクモデルとは基本的に異なる. むし ろ, 原や太田のタンクモデルは水文学分野で使われる直列タンクモデルの延長 上にあるのに対して井上のモデルは園場スケールを対象とした比較的小スケー ルの水移動を概念化した独自のものである.
日音渠流出
亀裂 マトリックス部分
心土亀裂間流出
|
心 土地表排水
図- V-1 土層の亀裂を考慮、した排水タンクモデル
亀裂中の水分はほとんどが自由水と考えられ, この排水が進むと続いてマト リックスから水分が補給され, 同じく亀裂を通して排水される. また, 亀裂と マトリックスの水分状態関係によって亀裂からマトリックスへの浸潤をも表現 することが必要となる. 井上のタンクモデルでは, 亀裂とマトリックスに相当 するそれぞれのタンクを側面配置することによってこの現象を表現しており,
排水の概念としても自然なものとなっている.
また, タンクの側面配置の考え方は水文学の分野において菅原(1983)の土壌 水分構造っきタンクモデルでもみられる. 図- V-2に示すように菅原は, 土
114
ー‘』←ー一一 z'
E=・・・・・・・・・・・・・園田 ピ ー
層内の水分移動に係わる土壌構造を2つの概念に分け, 降雨の際に雨水の侵入 しやすい部分を1次土壌構造タンクとし, 次いで侵入しにくい部分を2次土壌 構造タンクとして1次土壌構造タンクの側面に付けている.
1段目タンク
2次土壌構造
2段目タンク
図- V-2 菅原の土壌水分構造つきのタンクモデル
菅原のタンクモデルでは1段目のタンクでは拘束水と自由水で2段目以下の タンクでは自由水のみが表現されており, 1段目のタンクは自由水までは排除 される構造となっている. これを園場に当てはめるとおそらくマトリックスが l段目タンクの1次土壌構造と2次土壌構造に相当し, 1段目タンクの流出孔の 高さが圃場容水量を表し, 亀裂や暗渠孔などのマクロポアは2段目以下のタン クに相当するといえよう. しかし, 排水強度の強い場合にはマクロポアは満流 で排水されるため, 以降の排水は1段目タンクと2段目タンクの水理圧力関係 に規律される. つまり, 1段目と2段目を直列に配置した場合には, これらの 現象を表現することは困難であり, 園場排水への適用には馴染まない.
一方, 圃場排水に適用された井上のモデルでは, マクロポアのタンクをマト リックスのタンクの側面に配置することで, マクロポアとマトリックスの間の 水理圧力関係に基づく水移動の表現を可能にしている. つまり, マトリックス
115
a‘』一一一一一一一一一 I
E週・・・・・・・・・・・・・・・・ F 二
のタンクは菅原のモデルの1次土壌構造および2次土壌構造に相当し, これを1 つのタンクで表し, 2段目タンクを1段目タンクの側面に付けた構造になって いる.
本論文における圃場の排水モデルでは, 降雨時の圃場排水と無降雨期間の土 層水分状態を評価する長期タンクモデルを同定するにあたり, 井上のタンクモ デルの構造を踏襲するとともに, 菅原のタンクモデルにおける土壌水分構造の 表現方法を土壌の浸透機構に基づき改良を加えたタンクモデルを開発する.
2. 3 園場排水のタンクモデル
1 )タンクモデルの構造
上述の考え方に従って, まず心土層を1次土壌水分構造, 2次土壌水分構造 およびマクロボアの3つの概念に置き換えタンクモデルを構築する. 心土の上 には耕盤層と表土層があるが, 耕盤層と表土層の境界は比較的明確に観察する ことができ, 土壌物理性によっても区別することができるものの, 心土層と耕 盤層の境界は明確ではない. このため, モデルでは表土層, 耕盤層および心土 層のマトリックス部分を概念的に分割しないで, 一体として1つのマトリック スタンクとして表現し, そのなかで水の侵入しやすい1次土壌構造, 侵入しに くし"2次土壌構造に分割する. また, マクロポアはマトリックスとの聞に水理 圧力関係を考慮、するため, マクロポアに相当するタンクをマクロポアタンクと してマトリックスタンクの側面に配置する. つまり, 図-V-3に示すような タンクモデルが構成される.
ここで, 1次土壌構造タンクの流出孔は上から地表排水孔, マクロポアタン クへの流出孔, 2次土壌構造タンクとの水分移動孔および蒸発 ・ 蒸散孔であり,
マクロポアタンクの流出孔は暗渠流出孔を意味する. Tj r-..-んはそれぞれの水分 移動に関する係数である. また, 一般的なタンクモデルでは, タンクを作る管 の断面積は単位面積1として, 水の貯留量が貯留高(水深〉で表される場合が 多い. ここでは, 2次土壌構造とマクロポアタンクを側面において水理圧力関 係を考慮するようにしたことから, 1次土壌構造のタンクの断面積を単位面積
とし, 2次土壌構造およびマクロポアタンクでは貯留量を貯留高に直すため,
116
E ・・・・・・・・・・七回置 「 二-
断面積をそれぞれBI' ふとして貯留高を換算する.
造の流出孔の高さである.
蒸発散プ
降雨1次土壌構造
2次土壌構造
BI
X2A
S2 ...5l-
XI
B、
マクロポア
TI
早乙-...
X3
なお,
図-V-3 園場排水のタンクモデル
2 )水移動の定式化
SI'
Sゥは1次土壌構づ
日音渠流出
それぞれのタンクについて貯留高の時間変化は次式で表される.
竺 _!_ =R-�ー夙一夙-ET
dt
dX2 w;
dt
BI
dX3 似 - W4)
dt
B"
ここで,
XI 1次土壌構造タンクの貯留高(mm) X2 : 2次土壌構造タンクの貯留高(mm) X3 マクロポアタンクの貯留高(mm) BI 2次土壌構造タンクの断面積(-)
117
[5.1]
E・・・・・・・・・・・岡田 V
ム:マクロボアタンクの断面積(-)
R :降水量(mm.day-l)
W; 1次土壌構造タンクからマクロポアタンクへの 流出量(mm.day-l)
W2 1次土壌構造タンクから2次土壌構造タンクへの
水分移動量(mm.day-l) W3 地表排水量(mm.day-l)
肌:暗渠排水量(mm.day-l)
ET
:蒸発・蒸散量(mm.day-l)
1次土壌構造タンクからマクロポアタンクへの流出量W;は, マクロポアタン クの貯留高ふと1次土壌構造タンクからマクロポアタンクへの流出孔の高さSI の条件から,
所=rl . I
[
XI - m以(SI,X3)]
ここで, x注Oのとき, I
[
x]
= xxくOのとき, I
[
xJ
= 0[5.2]
である. また, 1次土壌構造タンクと2次土壌構造タンク間の水分移動量夙は,
両タンクの貯留高差によって流動する.
X2 �SIのとき, W2 = r2 (XI - X2)
である 地表排水量W3は, 地表排水の流出高(SI十S2)との関係で,
民=r3
'I [
XI -(SI +S2)J
となる. 暗渠排水量院は, 次の式で与えられる.
W4 = r4B:_ X3
118
[5.3]
[5.4]
[5.5]
E・・・・・・・・・・・・・回 開 閉 F
ただし, 蒸発
・
蒸散の概念に相当するETは, 麦作期間内の福岡管区気象台 (福岡市)における計器蒸発量の月合計値を日平均した値を使用したが, 欠測が ある場合には下関地方気象台(下関市)の観測値とした. また, 降雨日はET=Q (mm.day-l)とした.3 )闇場排水のシミュレーション
まず, 前作が大豆の転換畑である1984年麦作期圃場を対象に, 実測排水量 に対する最適ノマラメータを, 試行計算によって探索しながらシミュレーション を行った. その結果, 表- V-1に示すノマラメータにおいて図- V-4に示す ように実測による圃場の積算排水量曲線にほぼ適合する計算結果を得た.
なお, 降水量には現地で測定した日平均降水量を使用した.
次に, 前作が水田の1985年麦作期園場については表- V-1に示すように,
タンクモデルの2次土壌構造タンクの断面積を小さくすることにあわせて, 1 次土壌構造タンクの流出孔の高さSIを高くし, その結果として地表流出孔高S2 を低くするとともに, 1次土壌構造と2次土壌構造聞の水分移動係数ηを小さく
し, 1次土壌構造タンクからマクロポアタンクへの流出係数rl を大きくした.
なお, 地表流出係数η, マクロポアタンクからの流出係数んは同ーの値とした.
その結果, 図- V-5に示すようなほぼ満足される計算値が得られた. また,
1984年麦作期の先行降雨が1985年麦作期に比べて比較的少なかったため, 初 期圃場水分率を表すXI, Xゥの初期条件が両年では, 若干異なった値となった.
このような両年のパラメータ値の違いは, 前作が転換畑の麦作圃場の場合に は特に作土層における砕土性の向上および土壌構造の発達などによって土層中 の間隙が増大 することによる地 表流出の減少や1次土壌構造と2次土壌構造の 聞の通水性が向上すること, および耕盤層 ・ 心土層の乾燥密度の増大にとも な う保水力の減少による1次土壌構造タンクの 流出孔の高さSIの低下を表してい るものと考えられる.
これらのことから, 亀裂を含む圃場の長期間の排水問題に対して, 1次土壌 構造タンク, 2次土壌構造タンク, マクロポアタンクの側面配置型タンクモデ ルが有効であることが確かめられた. また, 圃場履歴によりパラメータ値に違
119
E岡田.".-
いがみられ, このことは転換畑と水田による土壌物理性の変化現象によって説 明できるものである.
表-
V-1 圃場排水シミュレーションに使用したタンク定数
E E
ml副
200
150
長100
制眠妹
… 50
。
。
タンク定数 1984年麦作 1985年麦作
SI 28.0 39.0
S2 27.0 25.0
B1 8.0 7.0
Bヲ 0.5 0.5
rl 0.70 0.90
r、 0.30 0.10
r3 0.93 0.93
r斗 0.97 0.97
初期条件 X1 = X2 = 27 I X3 = 0(1984) X1 = X2 = 28 I X3 = 0 (1985)
実浪IJ値
計算値 暗渠排水
50 100 150
11月30日からの回数(日)
地表排水
200
図-
V -4 1984年麦作期圃場における積算排水量曲線
120
E聞困問 F
E
400 350 300
-5 250 ml耐 長200 抹150
州町
…100
実況IJ値 計算値
暗渠排水
50 r fí
地表排水o 50 1 00 150 200
11月30日からの日数(日)
図-V-5 1985年麦作期圃場における積算排水量曲線
第3節 窒素流出のモデル解析
3. 1 モデルケースの設定
圃場からの窒素流出量は, 圃場排水量によって異なる. このため, モデルケ ースは麦作期園場(12月'"'"'5月)を対象として, 降水量の大きい作期(豊水年),
標準的な降水量の作期(平水年)および降水量の少ない作期(渇水年)について設 定する必要がある.
表-
V-2に近年20年間の佐賀地方気象台における麦作期( 12月�5月)の月 降水量および期間内総降水量を示す. このうち降水量の最も多い1977年麦作 期を豊水年, 最も少ない1978年麦作期を渇水年とした. 平水年の設定は, 各 月について月降水量の20年間平均値に最も近い年の当該月の降水を採用し,
121
連結して模擬的に麦イ乍期間の降雨ノミターンを作成した.
表-
V-2
20年間の麦作期の降水量(mm)麦作年 12月 l月 2月 3月 4月 5月 12-5月順 位 1974 21.0 34.0 64.0 106.0 241.5 160.5 627.0 13 1975 67.5 72.5 99.0 22.0 310.0 51.5 622.5 14 1976 27.5 9.0 155.5 98.5 157.0 233.0 680.5 10 1977 95.0 14.0 54.0 150.0 272.5 300.0 885.5 1978 39.0 35.0 59.0 59.5 125.0 43.5 361.0 20 1979 54.5 79.5 150.5 139.0 630.0 12 1980 69.5 45.0 30.5 148.5 116.0 237.0 646.5 11 1981 43.5 23.5 84.0 87.5 177.0 170.5 586.0 17 1982 15.0 51.0 65.0 101.0 103.0 115.5 450.5 19 1983 19.0 34.5 73.0 202.0 224.0 286.0 838.5 2 1984 20.0 57.0 41.5 81.5 187.0 86.5 473.5 18 1985 57.5 29.5 137.0 153.5 103.0 312.5 793.0 4 1986 46.5:山 50.0 132.0 160.5 261.5 699.5 9 1987 72.5 74.0 76.5 181.0 129.0 179.5 712.5 8
1988 15.0 35.0 47.0 18-1.5 151.0)485:::5: 618.0 15 1989 14.0 129.5 187.5 111.5 30.0 264.0 736.5 6 1990 22.5 109.5 145.5芯主$.$xr 140.0 164.0 716.5 7 1991 30.5 24.0 146.0 210.0 148.0 217.0 775.5 5 1992 43.5 60.5 72.5 278.0 197.5 176.5 828.5 3 1993 59.5 31 .5 ::::::::::::88.、$: 108.0 205.0 117.5 610.0 16 平 均 41.0 48.6 87.8 135.0 167.1 185.1 664.6
注)佐賀地方気象台
は平水年に採用
モデルケースの窒素流出特性の検討に先立ち, まず, 前イ乍が水田と転換畑の 場合の圃場排水特性が異なるため, 豊水年, 平水年および渇水年に対して,
71<
田後の麦作, 転換畑後の麦作について圃場排水のシミュレーションを行い, おF 水特性の違いを明らかにした.
圃場排水モデルで使用するパラメータは, 表- V-1から転換畑後の麦作画 場については1984年麦作圃場のパラメータ値を, 水田後の麦作園場では1985 年麦作圃場のものを使用した.
次に, 圃場排水量および排水特性の違いによる窒素流出特性をみるため, 水 田後圃場と転換畑後圃場を対象に豊水年, 平水年および渇水年について園場排
122
水モデルと窒素流出モデルから窒素流出現象をシミュレーションした(ケース1
� 3, 5 �
7).
さらに, 麦作期間の降水分布の違いによる窒素流出特性を検討するため, 作期前半に降水量の偏っている1989年麦作期を検討ケースに加えた
(ケース4, 8).
また, 園場からの窒素流出制御のためには施肥方法および肥料の性質に関す る検討が重要であることから, 平水年の水田後圃場を対象として施肥方法とし て基肥(尿素硫化燐安)のみの場合と分施を行う場合, 肥料の性質として基肥に 硝化抑制剤入り肥料を使用する場合についてモデルケースを設定して計算した (ケース2, 9,-.._, 10).
すなわち, 表-V-3に示すようなケース設定を行い, それぞれの場合につ いて窒素流出現象をシミュレーションして窒素流出特性を検討した.
表- V-3 モデルケースの設定
豊 水年 平 水年 渇 水年 前期多雨年 (1977年) (模擬年) (1978年) (1989年) 基肥のみ ケース1 ケース2 ケース3 ケース4
水田後麦作 分 施 ケース9
硝化抑制基肥 ケース10
転換畑後麦作 基肥のみ ケース5 ケース6 ケース7 ケース8
なお, 窒素流出モデルの外部条件として使用する地温は, 1984年麦作期と1 985年麦作期において佐賀地方気象台で観測された日平均気温を[5.6]式の3次 曲線で近似し, 大場ら(1990)の式([3.14]式)にあてはめて推定した. (図-V-
6) .
乙=11.031- 0.3291t + 0.004t2 - 0.00001t3
ここで, 乙:日平均気温(OC)
t 11月30日を基準日(0日)とした経過日数(日)
123
[5.6]
30
。
25
20
",..._
ρ15
制10 回目。 1985年麦作気温
・ 1984年麦作気温
一一
気温(計算値)一一地温(計算値)
5
100 150 200 250
「ヘu
11月30日からの経過日数 (日)
図- V-6 麦作期の日平均気温と日平均地温
3. 2 園場排水量と窒素流出
1 )園場の作付履歴による閏場排水特性
図-V-7�9に それぞれ豊水年, 平水年および渇水年麦作期の降水量に対 する水田後の麦作圃場排水(以下「水田後圃場」とよぶ)と転換畑後の麦作圃場 排水(以下「転換畑後圃場」とよぶ)を示す. また, 表-V-4に は降水量と圃 場排水量および圃場排水率をまとめる.
豊水年の降水量に対する圃場排水率( [地表排水+暗渠排水]/降水量)は, 水田 後圃場で4 6.7%, 転換畑後園場では48.9%と転換畑後の圃場が多少大きくなっ ているが, 地表排水率はそれぞれ3.0%, 1.6%と水田後園場が大きかった. こ の結果は, 1985年麦作圃場(20年閣の麦作期総降水量では第4位)で実測された 圃場排水率(44.5%, そのうち地表排水率1.2%)に対して大きめであった. また,
一連続排水ごとにみると, 降雨量の比較的小さい場合に転換畑後圃場の暗渠排 水量が大きくなった.
平水年については, 園場排水率が水田後圃場と転換畑後圃場でそれぞれ37.
124
E・・・・・・・・・・・・岡田 .,,-- 一一
5%, 42.7%, そのうち地表排水率がl.3%, 0.9%と豊水年の場合より低くなっ たが, 困場履歴による排水特性は豊水年のものと類似している. また, この結 果は1985年麦作固場の実測値と近い値である.
渇水年の回場排水は豊水年または平水年の場合と同様の傾向を示すが, 困場 排水率はイ尽く, 水田後困場が2.4%に対して転換畑後圃場が8.5%と作付履歴に よる差が大きかった. 地表排水率については水田後圃場, 転換畑後固場ともに 発生しなかった. この傾向は, 1984年麦作圃場(20年間の麦作期総降水量では 第18位)で観測された園場排水率(2l.5%)と比較すると極端に小さい.
表-v -4 園場排水量と排水率mm,(%)
水田後麦作画場 転換畑後麦作闇場 対象年 降 雨 地表排水 暗渠排水 地表排水 暗渠排水
豊水年 881.5 26.8 384.5 13.8 416.9
(100) (3.0) (43.6) (1.6) (47.3)
平水年 664.5 8.6 240.5 6.3 277.6
(100) (1.3) (36.2) (0.9) (41.8)
渇71<年 361.0 。。 8.8 。。 30.8
(100) (0.0) (2.4) (0.0) (8.5)
)内は降雨量に対する比率
50
40
,..-.._
E E '--"
rnl副 30
耗会 20
� 園
一一暗渠排水(水田後) 一一暗渠排水(転換畑後)
ハHU4EEE.,
0
o 50 100 150
11月30日からの経過日数 (日)
。
E E
20 '--"
rnl副
40
益
60
80
図-
V-7 豊水年における水田後麦作と転換畑後麦作の圃場排水
125
言
。 50
酬リムハ樹一
20
40
60
80
一一暗渠排水(水田後)一一暗渠排水(転換畑後)
40
30
20
10
言酬長会問有国
150 (日)
50 100
11月30日からの経過日数
。
。
平水年における水田後麦作と転換畑後麦作の園場排水
/ー\E
、』ノE
。
20
酬υ4h樹一40
一一暗渠排水(水田後)
60
一一暗渠排水(転換畑後) 図- V-8
50
20 40
".-....
E E
'-..../
酬リム♀Rmw圃
30
10 80
150 (日)
50 100
11月30日からの経過日数
。
。
渇水年における水田後麦作と転換畑後麦作の圃場排水 図- V-9
126
E七七岡田11
以上の結果は, 1984年および1985年の麦作期圃場で観測された回場排水を 圃場履歴および降雨特性と併せて考えた場合, 両年の園場排水特性はシミュレ ーションで得られた豊水年, 平水年および渇水年の排水特性から理解すること ができる.
なお, いずれのケースも圃場排水のうち95%以上が暗渠排水によるものであ ることから, 以下の窒素流出量の推定は暗渠排水を対象として行った.
2 )排水特性の違いによる窒素流出
窒素流出量の計算は, 第N章で開発した窒素流出簡易評価モデルを用いて,
l.Ohaの麦作画場を対象に 行った. このため,
計算の初期条件は基肥量で与え,使用するパラメータは調査園場で同定された値を使用した. ただし, 圃場内硝 酸態、窒素量と暗渠排水のT-N水質の関係を表すεは,
評価圏場を1.0haとする ことによりε=O.00186m.3(=O.012m.3
x13.75
x113.0m2/ 1.0ha)となる.
表- V-5に豊水年, 平水年, 渇水年および1989年麦作期間内の総窒素流出 量を示す. また, 図-V-10----13に各基準年の水田後麦作期圃場における暗 渠排水のT-N濃度の変動と累積窒素流出曲線を示す.
表-V-5 麦作期間内の総窒素流出量
水田後麦作園場 転換畑後麦作園場
豊水年 (1977) 26.4 30.3
平水年 (疑似年)
24.4 31.2
単位:
kg・ha
-1渇水年 前期多雨年 (1978) (1989)
4.3 11.0
42.7 45.4
総窒素流出量は前期多雨年が最も多く, 42.7----45.4kg・ha.1で施肥量に対す る流出率(総窒素流出量/施肥量)は67'"'"'71%に も達した. また, 豊水年と平水 年では大きな差はみられず24.4'"'"'31.2kg ・ha .1の 窒素流出量であったが, 渇水 年では4.3'"'"'11.0kg・ha.1と平水年より約20kg・ha.1少なかった. 豊水年, 平水年
および渇水年の施肥量に対する流出率はそれぞれ, 41----47%, 38'"'"'49%, 7�
17%であった. また, 水田後圃場と転換畑後園場との比較では転換畑後圃場の 窒素流出量が多い傾向にあった.
127
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50 100
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11月30日からの経過日数
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150 200
(日)
図- V -10 豊水年の圃場排水T-N濃度と累積窒素流出曲線
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11月30日からの経過日数 (日)
図- V -11 平水年の圃場排水T-N濃度と累積窒素流出曲線
128
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11月30日からの経過日数 (日)
図- V - 1 2 渇水年の園場排水T�N濃度と累積窒素流出曲線
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11月30日からの経過日数 (日)
図- V -13 前期多雨年の圃場排水T-N濃度と累積窒素流出曲線
129
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ーー←固場からの窒素流出量は囲場内の硝酸態窒素量が多い時期に悶場排水が発生 する場合に大きくなる. 第E章や第E章の結果から硝酸態窒素量は施肥後60 日程度にピークとなることが示されており, この前後の困場排水が大きい場合 に多量の窒素流出が生じることは容易に推察できる.
表- V-5において, 豊水年の園場排水量が大きいにもかかわらず窒素流出 量が平水年のケースと ほぼ等し いのは施肥後60目前後の圃場排水量が少ない ためである. 前期多雨年のケースでは1月---2月の圃場排水量が大きく, その 結果多量の窒素流出量となったものである.
また, 水田後の麦 作圃場の窒素流出量が転換畑後園場より少ない傾向を示す のは, 一般に作期前半の園場内の硝酸態窒素量が多い時期の降雨強度が比較的 小さく, その際には転換畑後圃場の暗渠排水量が大きいためである.
3. 3 施肥方法と窒素流出
1 )分施
第E章の調査圃場では施肥は基肥のみで栽培されているが, 一般的な麦の 作 業基準(例えば, 筑後市農業協同組合
:1994)によれば, 基肥に次いで1月中旬に
分けつ促進のための第1回追肥, 2月下旬に穂肥としての第2回追肥が行われる.ここでは, 平水年の水田後圃場を対象に, 施肥(N=64.0kg・ha-1)を基肥と第1 回目追肥の2回に分施した場合の暗渠排水のT-N濃度と窒素流出量についてシ ミュレーションを行う. 追肥の時期は12月1日から 50日目として基肥と同一性 状の肥料を散布することとした. 分施割合は, [基肥]: [追肥]=[100%]:[0%],
[9 0%]:[10%], [80%]:[20%], [70%]:[30%], [60%]:[40%], [50%]:[50%]の6ケー
スとした.図- V -14に各ケースごとの暗渠排水T-N濃度の変動を示す. なお, 図中の 凡例は, 各ケースの追肥割合を表す. 12月1日から約80日目までは分施するこ とでT-N濃度は低下するが, それ以降は追肥の硝化によって分施した場合の濃 度が大きくなった. その傾向は, 分施割合にともなって顕著となった.
さらに, 約160日目以降では土壌窒素の無機化による硝酸態窒素の生成が卓 越するため, 分施による影響はほとんどなくなった.
130
60
50
0先圃 圃 圃 1 0先
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11月30日からの経過日数 (日)
図-V -14 分施割合による 暗渠排水のT-N濃度の変動
図-V -15に各分施割合について累積窒素流出曲線を示す. 12月1日から約 110日までは分施した場合の窒素流出量は小さいが, それ以降は分施によって 増大する結果となった. 作期を通じての総窒素流出量は, 分施を行わない場合 が24.4kg・ha.1であったのに対して, 分施割合の増加ととも にほぼ直線的に 大 きくなり, 分施割合が50%では27.5kg・ha-1で約13%の窒素流出の増加となった.
これらの傾向は, 図-V -14に示した暗渠排水のT-N濃度の変動によるもの である が, 特に平水年ではイ乍期の総排水量のうち作期後半の排水量が大きな割 合を占めることが110日以降で分施割合の増加 にともなって窒素流出量が増大
した原因である.