九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
振動刺激を用いた人関節動作変更量制御特性に関す る研究
本田, 功輝
https://doi.org/10.15017/4060162
出版情報:九州大学, 2019, 博士(工学), 課程博士 バージョン:
権利関係:
(様式2)
氏 名 : 本田 功輝
論 文 名 :振動刺激を用いた人関節動作変更量制御特性に関する研究 区 分 :甲
論 文 内 容 の 要 旨
視覚・聴覚といった環境認知機能の衰え・制限により,人間が自らの身体の動きと周囲の環境と のインタラクションを適切に認識することができないことにより生じる事故を未然に防ぐために,
危険な動作を安全な動作へと自動的に補正するロボット技術である「認知アシスト」が提案されて いる.認知アシストにおいては,人間の動作を目標となる安全で適切な動作へと自動変更する技術 が重要となる.これまで,認知アシストにおける動作変更は,使用者に装着した外骨格型パワーア シストロボットのアクチュエータから発生される外力をもちいて実行されてきた.
一方で,バイブレータによって生成される振動刺激を,皮膚を通して人体の筋肉へと伝えること によって錯覚現象や筋反射を生起し,人間の動作を意図する動作と異なった動作へと変化させる手 法を認知アシストへ応用する試みもなされている.しかし,これまでに先行研究においては,振動 刺激による動作変更が生起されると確認された体の部位は限られており,例えば上肢においては肘 関節運動においてのみ動作変更が可能であるとわかっているが,上肢運動時の認知アシストを考え ると,その他の関節運動においても振動刺激による動作変更が可能であるか調べる必要がある.そ こで本研究では,上肢認知アシストを実現することを念頭に,まず上肢リーチング動作において重 要な役割を果たしている前腕回内・回外動作の動作変更が可能であるかについて検討を行った.
振動刺激による動作変更を認知アシストへと応用するためには,目標となる安全・適切な動作へ の動作変更量を制御する必要がある.一方で,これまでの振動刺激を用いた人間の動作変更に関す る研究においては,動作変更量の増減にかかわる特性や,動作変更量の制御手法は研究されていな かった.神経生理学における錯覚現象や筋反射の研究を参照すると,振動刺激の周波数などのパラ メータ,あるいは被刺激筋の負荷条件などを変化させることによって,これらの現象の強さを変化 させることができることが示唆されている.本研究では,人体への振動刺激による動作変更手法を 用いた上肢運認知アシストを実現することを目指し,上肢運動中における錯覚現象や緊張性振動反 射といった神経生理学的な現象のメカニズムを踏まえて,振動刺激周波数や被刺激筋の負荷条件を 変化させた際の振動刺激による動作変化特性を調べ,動作変更量の制御手法を提案した.
第一章では,まず,加齢・障害・作業環境などによって運動機能・環境認知機能が低下あるいは 制限が加えられた状況下にあるとき,これらの機能の低下・制限に対処し生活動作をアシストする 手法に関する先行研究を紹介している.次に,環境認知機能の低下により発生する事故を未然に防 ぐためのロボット技術として,「認知アシスト」について述べ,これまでの外骨格型パワーアシスト ロボットを用いた認知アシスト技術に関する研究を示すとともに,人体へ機械的な振動刺激を加え ることによって人間の動作を意図する動作から変化させる手法を認知アシストへ応用することがで きる可能性があることについて述べている.また,振動刺激による動作変更の原因として考えられ る運動錯覚現象と緊張性振動反射について,神経生理学的観点からその特性について調べた先行研
究を紹介し,振動刺激の周波数などのパラメータを変化させることにより認知アシストにおける動 作変更量の制御手法へと応用できる可能性があることを述べ,最後に,本研究の目標を説明してい る.
第二章では,上肢動作において重要な役割を果たしている前腕回内・回外運動に着目し,振動刺 激による動作変更が生成可能であるかどうか検討している.振動刺激を回内・回外運動中に拮抗筋 へ加えることにより,前腕回内・回外運動を本人が意図する運動から変化させることを試みており,
実験の結果,回内・回外運動ともに全被験者において,拮抗筋への振動刺激による意図する運動か らの変化を生成することが可能であることを示し,振動刺激による上肢認知アシスト時に,上肢多 関節運動の動作変更を行うことができる可能性を述べている.
第三章では,肘関節運動に着目し,振動刺激による動作変更の諸特性の評価について述べている.
まず振動刺激による動作変更量を周波数変化によって変化させることが可能であるかどうか検討を 行い,その後,動作変更の速応性について評価している.続いて,被刺激筋への負荷条件を変化さ せつつ,振動刺激周波数変化の動作変更量に対する影響を調べている. これらの実験により,振動 刺激周波数の増加により,動作変更量を増大させることが可能であること,また,被刺激筋の負荷 条件が動作変更量に影響を与えることが示されている.
第四章では,第三章で明らかとなった,動作変更量が振動刺激周波数増加とともに増大する性質 に着目し,目標となる関節角度と実際の関節角度との差に基づいて振動刺激周波数を変化させ,動 作変更量を制御する手法を提案している.肘関節伸展運動に着目し,目標肘関節角度軌道へ向け,
被験者の肘関節伸展動作変更量を制御する実験を行い,制御精度を検討することにより提案手法の 有効性を確認している.
第五章では,本研究を総括しており,本研究で得た知見により示唆される今後の研究展望につい て述べている.