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(1)

九州大学学術情報リポジトリ

Kyushu University Institutional Repository

災害時の緊急支援物流システムとその運用実態の分 析にもとづく物流システムの改善に関する研究

胡, 雨吟

https://doi.org/10.15017/4060147

出版情報:九州大学, 2019, 博士(工学), 課程博士 バージョン:

権利関係:

(2)

災害時の緊急支援物流システムと その運用実態の分析にもとづく 物流システムの改善に関する研究

令和 2 年

胡 雨吟

(3)

1

目 次

第1章 序 論 ... 3

1.1 研究の背景 ... 5

1.1.1 世界の主な自然災害の情況 ... 5

1.1.2 震災後の救援物資輸送に関する研究の必要性 ... 8

1.2 震災時道路交通における緊急支援物資輸送に関する既往研究 ... 9

1.3 研究の目的 ... 12

1.4 論文の構成 ... 14

参考文献 ... 15

第2章 震災時の緊急支援システムの現状 ... 19

2.1 緊急支援物流システムの定義と特徴 ... 21

2.1.1 緊急物流システムの定義 ... 21

2.1.2 緊急支援物流と一般物流の比較 ... 22

2.2 緊急支援物流システムに関する基礎的理論の既往研究 ... 24

2.3 各国の緊急支援物流システムの構成 ... 25

2.3.1 アメリカの緊急支援物流システム ... 25

2.3.2 日本の緊急支援物流システム ... 30

2.3.3 中国の緊急支援物流システム ... 33

2.3.4 発展途上国の緊急支援物流問題と事例 ... 35

2.4 地震災害時物流システムの必要機能 ... 36

2.5 道路ネットワークの損害が物資輸送に及ぼす影響分析 ... 36

2.6 まとめ ... 36

参考文献 ... 37

第3章 救援物資輸送経路選択の理論的研究 ... 39

3.1 輸送経路選択の既往研究 ... 41

3.2 時間最小化モデル ... 44

3.3 デュアル目的最適化モデル ... 50

3.4 モデルの適用性検証 ... 54

3.5 まとめ ... 64

参考文献 ... 65

(4)

2

第4章 熊本地震における通行止めが九州の広域道路網の機能低下に及ぼした影響

とその回復過程 ... 67

4.1 熊本地震の概況... 69

4.2 災害後の道路交通機能に関する既往研究 ... 71

4.2.1 過去の災害後道路網の被害が交通機能・交通量に与えた影響に関する研究 ... 71

4.2.2 熊本地震に関する交通システムの研究や報告書レビュー ... 71

4.3 分析の方法 ... 73

4.4 通行止め段階の分類 ... 75

4.5 交通量配分計算結果 ... 80

4.6 まとめ ... 87

参考文献 ... 88

第5章 熊本地震における中小輸送事業者による救援物資の輸送実態及び輸送経路 の把握 ... 89

5.1 緊急救援物資輸送実態の概要 ... 91

5.2 震災に関する物資輸送実態の研究レビュー... 94

5.3 輸送経路と輸送実態に関するアンケート調査 ... 95

5.4 アンケート調査結果の分析 ... 96

5.5 トラック協会へのヒアリング調査 ... 117

5.6 過去の震災における熊本地震で改善した問題点 ... 119

5.7 まとめ ... 121

参考文献 ... 122

第6章 緊急支援物流システムに対する改善策の提案 ... 123

6.1 分析結果のまとめ ... 125

6.2 改善策の提案 ... 126

6.3 まとめ ... 128

第7章 結 論 ... 129

7.1 総括 ... 131

謝辞 ... 134

付録 ... 135

(5)

3

第1章

序 論

(6)

4

(7)

5

1.1 研究の背景

1.1.1 世界の主な自然災害の情況

近年、世界中に大規模な自然災害が多発している。自然災害に対する予測技術は相当 なレベルに発展しているが、突然の自然災害は、世界中の人々に壊滅的な打撃を与えて いる。地球温暖化、森林伐採、人口増加と都市化などの原因により、最近の約30年間を 見ると、発生件数、被災者数ともに増加しているという深刻な状況である。1987年~

2016年の年間平均値は、被災人数で約2億2千万、犠牲者数で約6万、被害額約350憶 ドル以上である(図1-1参照)。また、世界全体に占めるアジアの被害状況は、発生件数 で世界の約4割、死者数の約6割、被災者数の約9割、被害額で約5割にも及ぶことが 分かる。2

自然災害の中で、地震は発生する時点、場所および影響範囲などに関して、ほかの災害 より予測が難しく、有効な事前の避難指示や予告もなかなか出せず、地震による山崩れ、

地割れ、建物の崩壊や火災および地盤の液状化と津波など様々な二次災害の影響が大き い。そのため、地震の防災・減災と災害後の救援活動に関する研究は世界中で難題とされ ている。

1970年以降、世界の主な自然災害の状況(図1-2参照)を見ると、地震に伴う津波で遭 難した人数はほかの災害(火山噴火、台風など)より上回っていることが分かる。また、

20 世紀を通じ、全体的には、地震や風水害による大規模災害が、アジア地域で多発して いる点が目立っている。1970年以来、東アジアの主な大規模災害を表1-1で示す。

出典:EM-DAT: The OFDA/CRED International Disaster Database – www.emdat.be, Université catholique de Louvain, Brussels (Belgium)

図 1-1 世界中の自然災害の推移(1987~2016)

0 50 100 150 200 250 300 350 400 450 500

1987-1991 1992-1996 1997-2001 2002-2006 2007-2011 2012-2016 発災件数 死者数(千人/年) 被災者数(百万人/年) 被害額(10億ドル/年)

(8)

6

(注)死者・行方不明者数 5000 人以上の自然災害を表示 出典:内閣府「防災白書」(令和元年版)

図1-2 世界の主な自然災害の状況3)

5,100 10,000

12,000 6,000

11,000 12,000 22,000

36,000 10,000

12,000 10,000

70,000

300,000 10,000

10,000 20,000

28,700 10,000

24,000

242,000 20,000

25,000 17,000 10,000 10,000 22,000 5,000

25,000 41,000

137,000 6,000

9,800 6,300 17,000 15,500 9,500

30,000 20,000

26,800

226,000 75,000

5,800

87,500 138,400

222,600 21,800

6,200 9,000

0 100,000 200,000 300,000 400,000

日本・伊勢湾台風(台風)1959 バングラデシュ(洪水)1960 モロッコ(地震)1960 チリ(地震/津波)1960 バングラデシュ(サイクロン)1961 イラン(地震)1962 バングラデシュ(サイクロン)1963 バングラデシュ(サイクロン)1965 バングラデシュ(パキスタン)1965 イラン(地震)1968 中国雲南省(地震)1970 ペルー(地震/地すべり)1970 バングラデシュ(サイクロン・ボーラ)1970 インド(サイクロン)1971 ニカラグア・マナグア地震(地震)1972 中国雲南省・四川省(地震)1974 バングラデシュ(洪水)1974 中国遼寧省(地震)1975 グアテマラ(地震)1976 中国天津(地震)1976 インド(サイクロン)1977 イラン(地震)1978 メキシコ(火山噴火)1982 バングラデシュ(サイクロン)1985 メキシコ(地震)1985 コロンビア(火山噴火)1985 エクアドル北西部(地震)1987 アルメニア(旧ソ連)(地震)1988 イラン・マンジール地震(地震)1990 バングラデシュ、チッタゴン等(サイクロン/高…

フィリピン(台風・アイク)1991 インド・マハラシュトラ地震(地震)1993 日本・阪神淡路大震災(地震)1995 ホンジュラス、ニカラグア(ハリケーン・ミッ…

トルコ(地震)1999 インド(サイクロン)1999 ベネズエラ(洪水)2000 インド(地震)2001 イラン(地震)2003 スリランカ、インドネシア、モルディブ、イン…

パキスタン、インド(地震)2005 インドネシア(地震/火山噴火)2006 中国・四川大震災(地震)2008 ミャンマー(サイクロン・ナルギス)2008 ハイチ(地震)2010 日本・東日本大震災(地震・津波)2011 フィリピン(台風・ハイヤン)2013 ネパール(地震)2015

死者・行方不明者数(概数)(人)

(9)

7

2011 年 3 月 日本 東日本大震災 死者 1 万 9,000 人

地震の規模はモーメントマグニチュード 9.0 で、日本の地震観測史上最大となっている。この地震で発生した 津波により、宮城県、岩手県、福島県で甚大な被害が発生した。これらの地域では、これまでも 1896 年6月 に明治三陸大津波(犠牲者 2 万 1,959 人)、1933 年の昭和三陸大津波(犠牲者 3,064 人)など、度々、津波に より大きな被害が発生している。また、福島県の東京電力福島第一原子力発電所で電源喪失により原子炉の冷 却が不可能となり、重大な原子力事故が生起した。

2010 年 7 月 中国長江流域 豪雨・土石流 死者 1,800 人 2010 年 4 月 中国青海省 青海地震 死者 3,000 人

中国青海省玉樹チベット族自治州玉樹県で発生、地震の規模は 6.9(モーメントマグニチュード)であった。

2008 年 5 月 中国 四川大地震 死者 8 万 7,500 人

中国四川省アバ・チベット族チャン族自治州汶川県で発生。地震の規模はモーメントマグニチュードで 7.9 だ った。直下型地震としては最大規模といわれている。建築物の倒壊により大きな被害となったが、とりわけ学 校校舎の倒壊が目立ち、これによる教師、生徒の死者が2万人近くにも及んだ。

1999 年 9 月 台湾 集集地震 死者 2,300 人

台湾中部を震源に発生した。地震の規模はモーメントマグニチュードで 7.6 である。地震の発生した 9 月 21 日は、その後、台湾の「防災の日」となった。

1998 年 8 月 中国長江等沿岸 洪水 死者 3,700 人

1996 年 中国南部7省等 洪水・台風 死者 2,800 人

1995 年 5 月 ロシア、サハリン北部 ネフチェゴルスク地震 死者 1,800 人

1995 年 中国湖南省等 洪水 死者 1,200 人

1995 年 1 月 日本 阪神・淡路大震災 死者 6,300 人

地震の規模はマグニチュード 7.3。都市直下型の地震で神戸市を中心に甚大な被害をもたらした。死 因の大半は建物の倒壊等による圧死であった。また、厳寒期の避難所生活が原因の震災関連死が問 題となった。震災火災も発生したが、当日は風が弱かったこともあり、大規模な延焼は免れた。

1994 年 中国南部6省 台風・洪水 死者 1,000 人

1991 年 中国江蘇省 洪水 死者 1,900 人

1989 年 中国四川省 洪水・地すべり 死者 2,000 人

1988 年 11 月 中国雲南省 地震 死者 1,000 人

1976 年 7 月 中国河北省 唐山地震 死者 24 万 2,000 人

中国河北省唐山市で発生。モーメントマグニチュードは 7.5 と推定されている。当時、中国有数の産業・港湾 都市であった唐山市はこの地震によって壊滅的な被害を受けた。なお、死者の数については、公表された死者 数を大きく上回った 65 万人から 70 万人と推定する説もある。

1975 年 2 月 中国遼寧省 海城地震 死者 1,300 人

地震の規模はマグニチュード 7.3 であった。行政当局があらかじめ警報を出し、住民の避難が行われていた地 区もあったことから、地震の予知に成功したといわれたが、その後の検証では、この地震には前震が多かった ため予知が成功したとされ、普遍性はないとされている。

1974 年 5 月 中国四川省 大関地震 死者 1,400 人 1973 年 2 月 中国四川省 炉霍地震 死者 2,200 人

1970 年 1 月 中国雲南省 通海地震 死者 1万人

雲南省通海県で発生した。地震の規模はマグニチュード 7.7 といわれている。

表1-1 東アジアの主要な震災(1970年以来)4)

(10)

8

1.1.2 震災後の救援物資輸送に関する研究の必要性

現在の技術で地震を防止することはできないが、災害による損失を大幅に減少させるた めに、以下の四つの手段が考えられる:

第一は地震モニタリングと予測を強化し、地震が発生する前に救援活動の訓練と人員や 資材の備蓄をする。第二は早期震災対策を立て、建物の耐震設計・補強、減災に対する科 学理論の普及などを通して、社会全体の防災能力を高める。第三は災害の救援物資備蓄、

緊急対応、災害緊急救助活動を強化する。第四は災害後の救援と復興活動をする。

現在の技術水準を考えると、事前に確実な地震予知をすることはほとんど不可能であ る。したがって、震災の防災・減災は適時的かつ効果的な緊急救援活動に依存している。

災害に対する脆弱性を減らし、被害を軽減していくことは国際社会の重要課題の一つであ る。

自然災害は災害自身の直接破壊だけではない。例えば震災に関しては、強い地震で起き た自然の崩壊のほか、電力・水道、道路、河川堤防などのインフラの被災、震災後の伝染 病の流行などの間接災害と二次災害が存在している。特に震災直後の数日間は負傷者と生 存者の人命救助のための重要な時間である。しがしながら、この時期の通信、電力、情報、

交通は寸断され、救援活動は非常に困難な状況となる。

1995年の阪神淡路大震災、2011年の東日本大震災において見られたように、都市を襲 った未曾有の大災害のため、交通網は至るところで寸断され、限られた通行可能な道路に 大量の車が集中し渋滞を発生させるなど、交通が混乱した。避難所に必要な救援物資が必 要なときに届かない、到着した大量の物資が溢れ出し配送ができなくなる、あるいは物資 が道路の途絶で滞ってしまう、また公民の連携がうまくできないなどの様々な課題があ り、救援物資の輸送はきわめて混乱した。同じような救援物資配送問題は、中国における 2008年と2013年の四川大震災や2010年の青海大震災のときにも発生した。また、異な る被災地は異なる特性を有する。2008年の四川大震災と1976年の唐山大震災を比較する と、四川大震災は険しい山岳地帯で発生し、ちょうど梅雨の季節であったため、地震によ って、地すべりと土砂崩れが発生した。唐山大震災は平野で発生したが、地震発生時刻は 夜間であったため、死傷者が多数に及ぶ悲劇を起こした。この結果、災害時に市民の命を 守り、生活を支える迅速な災害対応支援政策と事前計画の重要性が再認識されることとな った。

震災後に、救援車両を調達し、緊急救援物資を調達して配送することは主要な任務にな る。救援物流システムを構築し、有限な資源の最適な調達フローの対策を立て、短時間で 確実に救援物資を被災地に輸送することが救援活動の重要な内容である。このように、災 害時物流の研究は重大な社会的な意義がある。

(11)

9

1.2 震災時道路交通における緊急支援物資輸送に関する既往研究

震災時道路網に基づく救援物資輸送活動に関する既往の研究は、主に(1)地震前と地 震後における輸送経路選択と配送計画に着目した研究、(2)地震発生後の道路網の被害が 交通機能・交通量に与えた影響に関する研究、(3)救援物資輸送と支援活動の実態と課題 分析に関する研究がある。既往研究の概要について以下に記述する。個別の研究の詳細は 2章以降の各章で述べる。

(1)輸送経路選択と配送計画に着目した研究

多目的、複数の輸送手段、複数の物資種類などの制約条件の存在によって、救援物資緊 急輸送の経路選択と配送計画問題は非常に複雑である。その問題を解決するため、研究者 たちは様々な着目点から、多数の数理モデルを構築、検証をした。

配送経路の選択について、災害時の道路網整備状況は重要な制約条件であり、動的な変 化がある。この点に着目し、Jae(2003)の研究では、道路網状況が不確定条件になる場合を 想定し、配送車両の調達と輸送モデルを構築し、計画を立つ方法を提案した。また、Zou ら(2008)は、灰色理論に基づき、複数の合理的なルートのメリットとデメリットを評価し、

最適なルートを選択した。近藤ら(2010)の研究では、救援物資輸送問題と関連性があり、

目的と研究方向が類似している道路網上の医療施設問題に着目し、道路と医療施設の整備 計画を提案した。具体的には、道路途絶リスクと周辺都市で医療施設の享受可能なサービ ス機会数を考慮した道路網評価指標を提案し、提案指標の特性を明らかとした。その上で、

ある予算制約の下で道路と医療施設の整備計画が構築できた。この研究より、道路と災害 備蓄の物流施設の整備計画に関する研究に方向性を示すと考えられる。それ以外、大澤ら (2017)は、地震による道路被害の推定と、推定結果に基づく道路網の脆弱区間の評価手法 を構築・提案することを目的とし、構築した手法を実際の緊急輸送道路網へ適用し、手法 の適用性を検討した。

一方、既存の道路網整備条件での輸送経路問題は、一般的なロジスティクス問題に繋が るが、いくつのキーポイントの相違点がある。この点について、Sheu(2007)は、災害時の 物流の定義が平常時の物流と比べて未だ曖昧であるとし、災害時の物流において、運用の 指針や物資に対する緊急性の相違などを明確にすることが必要であると指摘した。そして 災害時の物流を「被災状況下の人々の緊急の要請に対し、起点から終点への救援物資や情 報・サービスの効率的な流れを計画・運営・管理する過程」と定義した。それを前提とし て、輸送経路選択(Vehicle Routing Problem, VRP)と拠点―経路選択(Location Routing Problem, LRP)に関する研究が多数存在している。例えば、Rathiら(1992)、Equiら(1997)、首藤(2002)、

Tzengら(2007)とDessoukyら(2013)はVRPに関するモデルについて研究した。Fiedrichら (2000)、Wangら(2014)、Rathら(2014)、Chenら(2016)とSongら(2017)はLRPに関するモ デルについて研究した(内容については第 3 章で紹介)。

これら以外に、輸送経路選択と物資需給問題を組み合わせて考慮した研究も存在してい る。Barbarsogluら(2004)は、二段階・複数輸送手段と多種類物資のモデルを構築し、救援 物資の輸送計画を立て、災害直後、被災状況に関する詳細情報が取れない条件を想定し、

物資の供給と需要のバランス問題を解決した。その後、岡林ら(2011)は、災害時における 供給不足の状況を想定し、避難所への救援物資配送量及び配送順序を決定する多目的最適 化モデルを構築した。橋本ら(2016)は、土生ら(2013)が提案した支援物資のマッチングモ デルに、車両配送計画の求解が容易な Yi ら(2007)のアルゴリズムを組み合わせ、マッ チングモデルを混合整数計画問題として定式化した。

(12)

10

(2)地震発生後の道路網の被害が交通機能・交通量に与えた影響に関する研究

震災時の道路交通に関する既存研究は、多くが交通規制と交通需要の変化、交通渋滞に 関するものであり、道路の途絶・通行止めが地域全体に及ぼす影響については高橋ら

(1997)の研究があるのみである。高橋ら(1997)は、雲仙普賢岳の火山災害における交通の

途絶が地域に及ぼす影響を調査した。長期化する火山災害に対して導入された道路及び鉄 道の応急復旧および緊急対策費を調査するとともに、代替交通利用による交通コストの増 加の計測を行った。都市間と都市内の交通量変化について、倉内ら(1998)は阪神淡路大震 災の際に記録された交通量感知器のデータを用いて、OD交通量を推計し、交通発生状況 の把握を試みた。また、交通量感知器データを用いてリンク交通量に関する考察を実施し、

実ネットワークにおいて推計計算を行い、得られた結果から震災時の交通発生集中パター ンの分析をし、交通規制が道路網交通量に大きな影響を及ぼしていることを示した。また、

同じ地域を対象として、秋田ら(2000)の研究では阪神淡路大震災発生から3日間に焦点を あて、震災当日に運転免許証を保有していた震災経験者を対象としたアンケート調査結果 をもとに、震災直後の大渋滞を引き起こした一因である自家用車の利用について、自家用 車利用に対する交通規制の実施が、自家用車トリップを減少させる可能性を持つことを示 し、交通規制下においても自家用車の利用意向が強い被験者の属性要因を明らかにした。

東日本大震災発生後、清田ら(2012)は東日本大震災で発生したグリッドロック(注1現象に 着目して分析を行った。震災時におけるグリッドロック現象の時空間の拡大のプロセスの 分析、ボトルネック箇所の抽出を行い、特に首都高速出口周辺の道路に注目したグリッド ロック構造を考察した。また、災害後の交通施策を立つため、大口ら(2013)は、東京23区 を対象に、大規模ネットワークに対応した交通シミュレーションモデル「SOUND」を用 いて、通常時と震災時のOD交通量を仮定し、通常時及び東日本大震災時の現況再現シミ ュレーションを実施し、交通渋滞状況に対応する緩和施策について評価を行った。それ以 外、地引ら(2015)の研究では、東日本大震災における高速道路走行中の運転者の行動につ いて、地震情報による運転者への影響など様々な検証が行った。

(3)救援物資輸送と支援活動の実態と課題分析に関する研究

日本は震災頻発している国として、震災から学ぶ教訓を踏まえ、将来の救援物資輸送活 動経験を活かすことは防災の重要な一環である。そのため、過去の震災時救援物資輸送活 動の実態調査も不可欠である。例えば、中下ら(1996)は阪神淡路大震災の一つの避難所で の記録と関係の救援者への調査結果をもとに、震災後 1 ヶ月間における救援物資輸送の 実態を明らかにし、問題点を考察した。永田ら(2004)は、震災時における早期被害推定結 果をもとにした迅速かつ的確な応急対策を実施するための支援システムのあり方と物資 輸送オペレーションについて、情報活用の方法論を提案するとともに、発災直後の混乱期 における飲食料供給を補完する役割としてのコンビニエンスストアの活用可能性につい て検討を行った。東日本大震災の後、苦瀬ら(2012)は緊急物資輸送を、①被災地外から各 県の集積場所まで、②次に県から市町村の集積場所まで、③市町村から避難場所までの三 段階に分けた。東日本大震災で緊急輸送物資の過不足が生じた五つの原因を挙げ、その問 題点に対して、緊急支援物資輸送計画を提案し、「プッシュ型」支援の実施が提言された。

そして、集積所の物流作業に着目し、桑原ら(2012)は支援物資に関する定量的な記録の収 集と分析を行った。一次集積所における主要物資の搬入/搬出記録をもとに、各物資の運 搬傾向の違い、物資間の傾向の比較等を行い、分析結果およびヒアリングを踏まえ、緊急 支援物資ロジスティクス構築の課題を提言した。物資輸送の問題点について、宮下ら (2012)は、道路の不通による輸送障害、避難者と避難所を確実に把握することの困難さ、

(13)

11

情報通信手段の制約により輸送の停滞などを指摘されている。苦瀬ら(2011)は、集積所ま での荷卸し作業や仕分けが非効率であったことも指摘している。伊藤ら(2017)は、災害時 の支援物資のロジスティクスの観点から二次拠点の中継作業の非効率性に言及し、二次拠 点の廃止を提案している。

上記の既存研究レビューより、海外の緊急支援物流問題に関する研究は理論研究に集中 している一方、日本国内の研究は災害後の実例分析は比較的に多いであることが分かる。

しかしながら、それらの研究で、どちらでも緊急支援物流システムにおける輸送、配達、

需要予測等構成要素の一つの着目点について調査し、最適化研究をしたが、全般的な観点 から緊急支援物流体制を検討するものは欠けている。

(14)

12

1.3 研究の目的

道路交通における緊急支援活動は災害対策の重要な一部分である。災害時物流の目標は 大規模災害が発生した時、道路交通手段を用いて、特定の品目と数量の救援物資を指定し た被災地へ迅速に輸送する物流活動である。自然災害の発生は近年増加する傾向があり、

特に東アジアの発生件数は世界中で比較的に多い。災害損失を抑えるため、物資支援活動 の段階別対策を立て、物流拠点と施設の整備、物資支援活動の事前計画と実行状況等につ いて研究し、汎用性と実現可能性がある迅速かつ的確な緊急支援システムを構築すること が必要であり、災害時物流の研究は重大な社会的な意義がある。

災害後の緊急支援物流システムについて、過去の研究では、仮想の道路網や物流拠点整 備と物流配送計画を対象とした数学モデルを構築、解析するなどの理論のみの研究か、災 害後の交通需要変化や渋滞状況の実態研究や物資輸送と集積拠点の実態研究など実践の みの研究がある。それらの研究で、どちらでも一つの着目点について考察し、その点に対 して理論的かつ実践的な観点から改善策を提案する形のものが多い。

本研究は、道路運輸に関わる緊急支援物流システムの体制から、全般的な観点について 考察し、事前計画に適用性がある数理モデルについて検討し、物流システムの構成や道路 網整備から災害後の物資輸送、集積拠点の運営管理まで、様々な災害後で発生しやすい問 題点を分析し、将来の災害対策に実現可能性が高い改善策を提案する。具体的な目的は以 下の通りである。

(1)震災後の道路交通における緊急支援物資輸送に着目し、過去の震災後の緊急支援活 動の物流に関する課題を分析した上で、防災・減災の観点から有用な事前計画のための意 思決定支援モデルの構築を目指す。一方、実際の被災状況を正確に把握し、モデルに適用 することは被災時の混乱した状況では困難であるため、事前計画の段階では、平常時に 様々な状況設定を行い、分析する。理論的な研究をする際には、災害時の救援物資を被災 者に迅速に配送するとともに、需要に対して供給が十分である場合を想定した。輸送ネッ トワークの信頼性と輸送時間のデュアル目的最適化問題に着目し、より効率的に最適経路 を選択できる方法を開発する。このため、陸上のトラックを用いた避難所への救援物資配 送について、輸送時間と道路信頼度の二つの要因を同時に考慮したデュアル目的配車配送 モデルを構築し、効率的かつ確実な救援物資配送について検討を行う。

(2)被災地に止まらず震災が地域全体に及ぼす影響を時間軸に沿って把握することが重 要である。そこで、九州全域の道路網を対象として、熊本地震による道路の被災状況に関 する時間的推移のデータを整理し、時間経過に伴う道路網の変化に対する広域交通流動の 時間的変化を明らかにする。そして、地震発生から2017年末までの間の九州全域の総走 行時間の変化に基づく時間損失額を推定することによって熊本地震の広域交通への影響 の評価を試みる。

(3)道路網データ、土木計画学・熊本地震調査報告および筆者らが行った福岡、熊本県 内中小規模の物流・輸送業者とトラック協会への調査結果をもとに、震災後における救援 物資輸送の実態を明らかにする。また、九州地区内の救援物資輸送の実際走行経路を調査 し、その結果をもとに、地震後の道路通行止めや規制により輸送経路の迂回、輸送時間、

渋滞状況に与えた影響を明確にし、集積所での荷卸しと仕分け作業等の物流現場作業の実 態を把握する。

(4)東日本大震災時に避難所に物資が届かなかったことへの対策として、内閣府と関係 省庁が、それ以後の災害が発生した場合、物資輸送として「プッシュ型支援」を行うこと

(15)

13

が決定されていたため、熊本地震の支援体制と実施状況は既往の災害と異なることにな る。それにもかかわらず、熊本地震では、緊急支援物資輸送において大きな問題が発生し た。このことから、熊本地震における支援体制の問題点に着目し、汎用性と実現可能性が ある迅速かつ的確な緊急支援システムを構築する方法について考察する。

(16)

14

1.4 論文の構成

本論文は、序論、本論および結論を含む7章で構成されている。

第1章では、序論として、本研究の背景及び目的について述べ、既往の研究を整理し、

本研究の構成を示す。

第 2 章では、近年の海外および日本国内の緊急支援物流システムに関する基礎的理論 研究と技術研究の進捗状況を文献に基づいて考察したものである。まず、災害後の緊急支 援物流システムの定義、特徴と果たすべき役割について述べ、災害頻発国の自然災害発生 状況を調べた上で、代表的な3種類の緊急支援システムの構成、現状の問題点を分析し、

相互に比較する。そして、これらの研究と事例についての分析を通して、日本の緊急支援 物流システムの現状とともに、将来の緊急支援物流システムの構築、計画と実施のメカニ ズムの科学性、確実性と効率性の改善について考察する。

第 3 章では、緊急支援物流システムに対して重要な一部である支援物資の道路輸送に 関する理論について、過去の研究成果を整理した上で、代表的な最短時間と最高信頼度を 目的関数とした緊急支援物資輸送問題の最適化モデルを紹介し、これら 2 つの目的を同 時に考慮するデュアル目的の最適化モデルを提案し、事例分析を通して、適用性を考察す る。

救援物資輸送に対して、震災後の道路網の交通処理機能は重要な影響要因の一つである ため、第4章では、熊本地震による道路の通行止めが九州全域の広域道路網の機能低下に 及ぼした影響を全体的にかつ定量的に評価することを目的とし、熊本地震による九州全域 の通行止めデータを収集、整理し、九州全域の通行止め箇所の分布と時間的変化を明らか にした。また、通行止めの解除段階を設定し、各段階の通行止め状況に応じて道路網デー タを変更し、交通量配分計算によって、各段階の総走行時間と時間損失額を算出する。

第5章では、災害時の支援物資体制や物資輸送計画の課題に対して、自治体や民間組織 による輸送の実態と定量的な分析は有意義である。このため、災害時の初動、緊急対応等 に関する救援物資輸送の実態、緊急輸送道路の交通状況を明らかにすることを目的とし て、熊本地震における中小輸送事業者の輸送実態と輸送経路および物流現場での実態の把 握を行った。その結果として、政府主導による輸送は、集積地と輸送ルートが定められ、

統一管理システムがある程度機能していたのに対して、自治体や民間組織による輸送で は、情報が遅延したため、需要と供給のバランスがとれず、さらに輸送ルートの選択と輸 送時間は多様であったこと、物流現場での様々な混乱をその原因について明らかにし、熊 本地震で、東日本大震災の教訓が生かされた点とそうでない点を明らかにした。

第6章では、各章で得られた成果についてまとめ、第3、4、5章で得られた結果をもと に、震災後の道路交通と支援物資に関する課題の対応策と物流システムの改善について提 案する。

最後に第7章では、各章の結果を総括した。

(17)

15

参考文献

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35)宮下侑子, 福本潤也. 「東日本大震災における支援物資の流動実態の解明」,土木計画 学研究・講演集.Vol.45, 2012.

36)苦瀬博仁,矢野裕児.「市民を兵糧攻めから守る『災害のロジスティクス計画』」,都市 計画.Vol.60(3), p87-90, 2011.

37)伊藤秀行.「南海トラフ巨大地震における政府調達物資供給計画の実行可能性の検討」,

(19)

17 実践政策学.Vol.3(1), p31-38, 2017.

補注

1)グリッドロック:交差点への進入車両が極度に増えた場合、隣接する交差点まで車両の 列が伸びて渋滞が連鎖的に増える「超渋滞」現象。

(20)

18

(21)

19

第2章 震災時の緊急支援システムの

現状

(22)

20

(23)

21

緊急支援物流システムが効率的に機能できるかどうかは、災害後の救援活動において重 要なことである。本章では、近年の海外および日本国内の緊急支援物流システムに関する 基礎的理論研究と技術研究の進捗を考察し、整理する。そして、災害後の緊急支援物流シ ステムの定義、特徴と果たすべき役割について述べ、災害頻発国の自然災害発生状況を調 べた上で、代表的な 3 種類の緊急支援システムの構成、現状の問題点を分析し、相互に比 較する。

2.1 緊急支援物流システムの定義と特徴

2.1.1 緊急物流システムの定義

緊急支援物流(Emergency Logistics)1とは、突発的な自然災害などの緊急事態が発生 した際に、緊急支援物資を提供することを目的として、時間効率の最大化と災害損失の最 小化を目的とした特殊な物流活動である。一般物流システムの6つの要素:流通物資、運 送業者、流通方向、フロー、プロセスと流通速度に比べると、緊急支援物流のプロセスに は需要時間の制約があるため、緊急支援物流システムにも特殊な要素――時間がある 2。 一般物流は、物流の効率を重視するだけではなく、物流の効果と利益も重視する。一方、

緊急支援物流は物流効率化を実現することを通じて物流の効果と利益を実現する。

緊急支援物流活動の主な目的は、緊急事態が発生した際に、被災した範囲内に救援物資 を供給し、緊急事態に対応できる基本的な物資を全体的に管理することである。大まかに 言うと、緊急事態における救援物資の時間、空間上でのすべての輸送は、緊急支援物流

(Emergency Logistics)と呼ばれる。しかし、物流活動を起こす原因、物資が求められる

時間、とその他様々な制約条件から分析すると、緊急事態の影響を受ける地域に物資を供 給する物流活動は 2つの種類に分類できる。1 つ目は、継続的な救援物資の供給であり、

これは主に難民活動や地域の飢饉救助などの長期に維持するための物流活動である。物資 の数量、物資配給する場所や環境などの救援物資流通の制約条件は確定している。2つ目 は突発事象の救援物資供給である。突発事象の発生では、ただちに大量な救援物資の需要 が発生するので、この状況で救援物資供給の納入リードタイムが極めて短く、短期間で支 援物資を調達し、物資供給ネットワークを構築し、輸送車両を調達し、最速で緊急事態に 対応するのに必要な物資需要を確保すべきことになる。このような物流活動は、物資供給 の数量や利用できる輸送車両の場所などの制約条件は時々刻々変化する。本研究では緊急 支援物流という言葉に対して、第2のタイプの物流活動に注目する。

また、災害には突発性と予測不可能性があり、そして災害時物流が営利団体物流とは異 なるパターンを有するため、震災時の緊急支援物流システムは以下の特性がある。3

(1)突発性

緊急支援物流を開始する原因は突発事象、本論文では突発の自然災害であるより、最も 明らかな特徴は、突然性と予測不能性である。

(2)不確実性

緊急支援物流の不確実性は災害時における情報の共通ができなくなることに起因する。

(3)非従来性

自然災害のハザードが急速に広がるという特徴のために、一般的な物流活動のような作

(24)

22

業プロセスと必要な機能は、緊急支援物流作業中に簡単化または省略され、物流配送ネッ トワークの構成が非常に軽減化になる。

(4)弱経済性

緊急支援物流では、「緊急」が一番重視されているので、一般物流の理論と方法(物資 の需要量、種類、場所などのパラメータを決定してから、物資配送ネットワークを設計、

構築し、物資供給の入札を募集し、コストを最小化する輸送案を選択する方法)を使用す れば、緊急事態に対応することができなくなる。

(5)複雑性と柔軟性

緊急支援物流は複雑であり、問題が及ぶ範囲で複数の分野をカバーしている。

2.1.2 緊急支援物流と一般物流の比較

一般的な商業物流とは、社会生産プロセスにおける生産物を生産者から消費者へ引き渡 す、時間と空間上の価値を生み出す共通性と一般性がある物的流通過程である。これは多 数の業界に適用される物流プロセスである。しかし、緊急支援物流は、災害の発生による 特定の物流活動であり、災害の突然の発生と情報共有ができなくなることのため、一般物 流とは大きな違いがある。緊急支援物流は非定常なプロセスであり、あらゆる種類の物流 システム中で最もダイナミックなシステムである5。一般的な商業物流は、物資の種類が 確定し、物資配送ネットワークが完成されており、輸送と配達計画や供給ルートも明確に されているなどの安定的な環境で実行される物資流通過程である6。一方、緊急支援物流 は、災害後の短時間(通常は24時間以内)7に救助活動を実行するには必要な物流活動 であるため、一般物流とは全く異なる。それに対して、緊急支援物流を実施する主体は、

緊急事態の物資需要情報を充分に把握できないままに、救援物資の調達、組織、荷役、輸 送及び配布の支援作業をすぐに開始し、短時間に大量の救援物資のニーズを満たす。そし て、注文と配達のリードタイムがないため、救援物資の輸送を最速で実現すべきである。

遅延する場合、災害の影響が広がり、損失拡大など深刻な結果になる可能性がある。従っ て、災害直後、政府の災害対策管理部門が災害対策本部を設立し、救援物資輸送の実施機 関(通常は被災した地方政府がリードする)より被災地の必要な物資を確保する。実施機 関は通常、災害の情報を完全に把握できないままに、被災者と救助活動に必要な物資の種 類を分析・予測し、各救援物資の備蓄場所を通じて緊急調達、寄付などさまざまのルート より支援物資を募集する。それと同時に、災害の種類とレベルに応じて、物資供給ネット ワークが構築され、運輸機関を徴集し、供給側から需要側までの物資移動が促進される。

上記の緊急支援物流の運用プロセス分析により、目的、物資流通ネットワーク、物流推進 力、物資備蓄および外部環境などの点で、一般的な商業物流とは大きな違いがある。その 相違点は表2-1の示すものである。

(25)

23

表2-1 緊急支援物流と一般物流の相違点

一般物流 緊急支援物流

目的 コスト最小化または利益最大化 ①遅延時間を満たすために需要を 最小限に抑える(主要)

②コスト最小化 物資流通

ネットワーク

①施設特徴:常設性

②ネットワーク構成:ニーズに 応じて配送ネットワークのノー ドと機能を設計する

③物流活動に参加する関係者:

製造業者、流通業者、運輸業者な ど、様々な密接に関連している 経済主体

①施設特徴:臨時性

②ネットワーク構成:合理化された 構造と簡素化された機能

③物流活動に参加する関係者:政府 機関、NGO、様々なドナー、一時的 に設立された期間など密接に関連 していない組織

物流推進力 デマンドプル 反応段階はプッシュ型であり、回復 段階はデマンドプルである 計画案 長期:施設計画

中期:運輸機関の規模 短期:車両の経路選択

関 連 デ ー タ の 詳 細 を 把 握 し た 上、最適またはほぼ最適な決定 を行い、短期間で基本的に変更 しないこと。

通常時:物資と資材の備蓄 災害時:物資輸送と車両調達 緊急性があり、短期間の限られた情 報で可能の限り最適な意思決定を 行い、災害時の計画に大きく変更す る場合が多い。

物資備蓄 品目と数量は限られる 品目は限らず、数量も多い。

運輸機関 長期使用 一時使用

外部環境 完全な情報と安定性がある 情報が不足しており、制約条件の変 更が多い。

(26)

24

2.2 緊急支援物流システムに関する基礎的理論の既往研究

緊急支援物流システムの理論的研究は、欧米では日本より以前から研究が開始されてい た。初期の研究で、主に数学的な分析を通して、モデルを構築してから研究をする方法が 用いられ、緊急支援物流の輸送、配達、備蓄と組織管理などに関する理論が築かれている。

緊急支援物流(Emergency Logistics)に関する理論研究の歴史を見ると、救援物資の調 達プロセス中で物流管理の方法を用いることで、物資の輸送効率を高めることができると いう観点が 1984 年に Kenball ら(1984)より初めて提言された。また、Aikens ら(1985)は 1985 年当時の物流輸送の技術条件で、数学モデルを用いた分析と計画の方法を通して、

初めて緊急時物流における、物資保存倉庫の最適な位置選択基本モデルを9つ構築した。

その後、Carterら(1992)が1992年に出版した「A Disaster Manager’s Handbook」の中で、東 南アジアと太平洋地域の自然災害についての研究を通して、災害発生後、国と地方政府は 有効な手段で対応し、救援物資を適当に分類、管理してから、物資を需要度が一番高い被 災地へ最短の時間内に輸送すべきという提言をした。また、Suleyma ら(1998)は「緊急支 援物流管理プロセスの本質は多目的の最適化プロセスである」ことを基本方針として提言 した。その後、Ouら(2004)は、過去の研究を総括した上で、最初に緊急支援物流の概念に ついて、「緊急時物流は自然災害やその他の緊急事態に対応するために必要な資材を提供 することを目的とした物流活動」と提言した。Sheu(2007)は、災害時の物流の定義が平常 時の物流と比べて未だ曖昧であるとし、災害時の物流において、運用の指針や物資に対す る緊急性の相違などを明確にすることが必要であると指摘した。そして災害時の物流を

「被災状況下の人々の緊急の要請に対し、起点から終点への救援物資や情報・サービスの 効率的な流れを計画・運営・管理する過程」と定義した。

(1)緊急支援物流段階の区分

緊急支援物流システムの運用段階について、最初はCollrillnら(2002)より緊急支援物流 の実施段階を計画、減災、避難予告、リアクションと回復の5段階に分ける観点が提案さ

れたが、Lee ら(2003)は緊急支援物流の情報システム運用の状態変化を考慮した上、

Collrillnら(2002) の段階区分理論を修正し、準備段階、処理段階とアフター処理段階に分

けた。各段階間の変化時点は災害発生前、発生後と被災地復興開始時である。Altayら(2006) の研究で、災害管理の観点から人道支援サイクルと呼ばれるものの4つの段階、すなわち 減災、準備、反応、および回復に分けられる。これまで大部分の緊急支援物流のオペレー ションリサーチ(MS)・経営科学(MS)領域での研究は減災段階に着目していた。

(2)要素と構成

緊急支援物流システムの要素と構成を初めて分析した研究として、Thomas(2002)の研究 では、緊急支援物流は救援に必要な物資、資材、人員の調達、配布、保管、輸送を含む一 連のプロセスと方法で構成されたことを提案し、緊急支援物流のライフサイクル理論を要 約した。このプロセスは、部署、維持と再構成の3つの段階に分かれている。また、イン ド洋津波災害後の緊急支援物資サプライチェーンの事例について の調査分析より、

Russell(2005)の研究では、救援物資サプライチェーンのプロセスは物資準備、災害後の物

資の評価、支援要請、物資調達と寄付物資の募集、及び物資輸送中の追跡と配送に構成さ れたと提案した。

このように、ロジスティクス業界における様々な理論と事例より、災害発生時に具体的 かつシステム的な計画を決め、状況によってスケジューリングを変更することが重要であ ることがわかる。この点に関して、本研究の第6章で提言した物流段階区分を用いた。緊

(27)

25

急支援物流システムを提言した。このシステムは災害後の外部制約条件の変化に応じて運 用することができる。

2.3 各国の緊急支援物流システムの構成

災害直後から政府、自治体や民間企業が被災地へ緊急物資を輸送する方法として、「プ ル型」と「プッシュ型」の二つの物資支援方法がある。被災地で必要な物資の要請を受け てから調達するのは「プル型」であり、「プッシュ型支援」とは、支援物資について、被 災地のニーズを聞き取ることなく、これまでの災害事例から各時間フェーズで必要とする 物資を先に被災地に送る形式である。緊急支援物流システムの構成について、主に3種類 に分けられる。①欧米および日本を代表とする多層的構造では、各階層は上下関係がある が、相対的に独自性もある。②中国を代表とした国の指揮管理を中心としたシステム構成 では、地方自治体と民間組織はほとんど独自性がない。③大部分の発展途上国の緊急支援 物流は、自国自身の力で救援活動の実施することが困難であり、国際協力に依存する。

2.3.1 アメリカの緊急支援物流システム

(1)アメリカの災害発生状況

アメリカ本土の災害は、メキシコ湾岸の集中豪雨、メキシコ湾岸と大西洋岸南部の巨大 ハリケーン、中央部の平原に多い竜巻、カリフォルニア州の地震、南カリフォルニアの夏 のスモッグと山火事、五大湖や東海岸の大雪などの自然災害が発生している。近年では、

ハリケーンによる被害が特に深刻で、2005年のカトリーナ、2017年のハービー、マリア など非常に強力なハリケーンが甚大な被害をもたらしている。

(2)アメリカの緊急支援物流システムの構成20

FEMAによりアメリカの緊急支援物流システムについての説明がある。アメリカでは、

突発的災害の対応について、緊急支援物資の供給計画は地方、州、連邦、それぞれの政府 機関が協力して対応する。災害の大きさによって、救援対応を主導する主体と対応方法は 連邦対応計画(Federal Response Program, FRP)に定められている。被災の程度は地方と州政 府の独自の対応が困難であると判断した場合、被災した州の災害局より連邦政府に申請 し、連邦緊急対応管理局(Federal Emergency Management Agency, FEMA)が災害のクラスを 評価し、連邦緊急対応計画(Federal Response Program, FRP)を基に、支援活動を実施する。

(図2-1参照)

(28)

26

図2-1 アメリカの連邦対応計画22 提供

指名

支援 設置 参加

必要に応じ支援要請 災害の発生

地元の第一次対応機関(ボランティア機関と協力)

市長、郡の執行部(地方災害対策本部に必要な指示)

州知事(州災害対策本部に必要な指示)

州災害宣言の発令 FEMA地域事務所長

大統領災害宣言の要請 FEMA長官

大統領 報告

報告

報告

協議

大統領災害宣言の発令

連邦対策調整官 州対策調整官(州による指名)

現地災害事務所

災害対策チーム

災害支援復興プログラム 避難対策

(29)

27

救援物資供給に関わる施設と機能は以下の通りである。

①FEMA物流センター

救援物資を受け取り、保管および出荷する常設施設。全国共通物資備蓄倉庫4ヶ所、特 定物資備蓄倉庫3ヶ所と海外共通物資備蓄倉庫2ヶ所が含まれている。

②民間の物資備蓄センター

公的機関以外の民間企業や組織が所有と管理する物資備蓄の場所

③OFAS(Other Federal Agencies Sites)

FEMA以外の救援物資を提供できる連邦政府所属機関。

④物資供給センター(Mobilization Centers, MOB)

被災地の需要に応じて設置された臨時施設、主に救援物資を受け取る役割を担う同時 に、いくつかの州に救援物資を供給することができる。通常は3日間程度の緊急物資を保 有する。

⑤連邦物資供給支部(Federal Operational Staging Areas, FOSAs)

被災地の需要に応じて設置された臨時施設、指定した一つの州に向けて、救援物資の受 け取りと出荷する役割を担う。通常は1-2日の緊急物資を保有する。

⑥州物資供給支部

被災地の需要に応じて州政府より設置された臨時施設、所属する州が被災した際に救援 物資の受け取りと出荷する役割を担う。

⑦物資配給点(Points of Distribution Sites, PODs) 臨時施設。被災者に救援物資を配る場所。

地震を例として、救援物資輸送活動の流れを図2-2のように示す。

アメリカの連邦緊急対応管理局は専門家が集まった物流管理部門を設置している。平常 時は救援物資の備蓄計画と各種災害の救援物資の需要予測をしており、災害が発生した 時、物流管理部門は災害の需要に応じて、救援物資の供給、受け取り、出荷、配給および 輸送ルートの選択等、全面的に指揮をする。

(30)

28

再備蓄段階 対応段階 アラート段階 (プッシュ型) 災害の発生

救援物資輸送計画を起動

各地の物資供給点を起用

MOBを設立 FOSAs拠点の選択

救援物資の需要予測 輸送車両を募集 一定量の物資を備蓄

3日間の物資備蓄

救援物資を輸送

地方、州と連邦政府の同時対応が開始

FEMA物流センター 民間の物資備蓄センター

OFAS

MOB FOSAs 州物資供給支部

FODs

物資輸送

余剰物資を再備蓄

災害事前計画の 備蓄物資を補充

図2-2 アメリカの緊急支援物流のフロー

(31)

29

(3)アメリカの緊急時物流システムの問題点

アメリカの災害と突発事件(テロなど)対応体制は FRP に基づいて実現させており、

国家突発事件管理システム(NIMS)は 3 段階の階層構造である。災害発生後、従来の初動 対応モードでは、地方級の緊急対応部門から行動し、必要な時は州レベルの行政部門に協 力を求める。州政府が独自に対応できないと判断する場合、連邦級の救助を求める。この モードで、FRPは典型的な「プル型」システムである。

一方、災害のレベルが大幅に地方や州政府の緊急対応能力を超えた時、FRPはNIMSを

「プル型」より「プッシュ型」の初動対応モードに切り替え、連邦政府は受動的に物資需 要に応じる役割ではなく、支援活動を全面的に計画し、実行する。すなわち、人員と資材 の配置、指揮管理などをする役割である。

2005 年のカトリーナハリケーンの事例より、上記の緊急時物流システムの問題点を分 析すると、表2-2で示すものである。

表2-2 カトリーナハリケーン事例により緊急時物流システムの問題点

問題発生の根本原因 具体的な表現 実際の影響 緊急時物流システムの構成 州と連邦レベルの物流情報

システムがうまく統合され ていない

各段階の救援行政部門の情 報が共有できず、効果的な 意思決定の情報伝達が遅れ る

主要な調整機関の不安定性 と人員訓練の不足

連邦、州と地方政府の組織 間協力が不足、専門家の不 足により効率的な支援活動 ができていない

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2.3.2 日本の緊急支援物流システム

(1)日本の災害発生状況

日本は、世界で最も自然災害が多い国の一つである。北米プレート・ユーラシアプレー ト・太平洋プレート・フィリピン海プレートという4つの大きなプレートが交差する境界 に位置している地震大国で、各地に無数の活断層が存在している。1995 年の阪神淡路 (M6.9)、2004年新潟県中越地震(M6.6)、2011年東日本大震災(M9.0)、2016年熊本地震(M7.0)、

2018年北海道胆振東部地震(M6.6)など震度7クラスの地震が多数発生している。また、日 本は台風の通り道に位置するため、毎年の台風による被害が発生しており、近年では地球 温暖化の影響により「数十年に一度の大雨」という豪雨が数回観測され、大規模な洪水や 土砂災害が発生するなど各地に甚大な被害をもたらしている。さらに、数多くの火山を有 しており、日本最大の火山である富士山で大規模な噴火が発生する場合を想定すると、首 都圏を含む東海~南関東に大きな被害が発生すると考えられている。

(2)日本の緊急支援物流システムの構成

アメリカの緊急支援物流より、日本の災害管理システムの発展は早く、構成も比較的に 複雑かつ完成度が高い。1880年~2011年間、日本の災害対策管理に関する法案と政策は 6回の大きな変化と改善があり、危機管理計画と災害対応システムの更新と変革も数回あ る。

東日本大震災以前、日本の緊急支援システム構成も国、県と市町村という3段階の階層 構造であるが、各階層の独立性が高いため、災害の対応は被災地方の行政を主体に、行政 区域により指揮する。このシステムはアメリカの階層構造とは相違点があり、各段階の行 政部門は災害対応管理機関と民間の協力組織を設置しており、責任範囲を分けている。

緊急救援物資供給の主要フローは、図2-3のように整理される。23

このような救援物資供給は「プル型支援」で行っている。主に①被災地市町村の公的備 蓄の供給、②被災地市町村の流通在庫備蓄の供給、③県の公的備蓄の供給、④県の流通在 庫備蓄の供給、⑤国からの供給、⑥県、市町村の防災協定等がある他地方自治体からの供 給、⑦一般企業、個人からの供給という7種の供給ルートが含まれている。

図 1-1  世界中の自然災害の推移(1987~2016) 0501001502002503003504004505001987-19911992-19961997-20012002-2006 2007-2011 2012-2016発災件数死者数(千人/年)被災者数(百万人/年)被害額(10億ドル/年)
図 4-5  九州全域通行止め箇所(H29 年 12 月 20 日)図 4-4  九州全域通行止め箇所(4 月 30 日)
図 4-8  熊本県通行止め箇所(H29 年 12 月 20 日)
図 5-2   支援物資輸送体制図 2)
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参照

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