様式8の2の2 別紙2
論文審査の結果の要旨
氏 名 青木 達也
現在,我が国における公害問題については,国による監督管理と企業による防止策,さらに は関連する地域や人々の協力によって対応がなされるような仕組みが築かれている.この仕組み は,関連法規に基づいて成り立っているものではあるが,これらの仕組みや関連法規は,歴史的 に見れば,原始のころから存在するものではなく,主に,近代そして現代にかけてのさまざまな 経験を通じて形成されてきたものである.被害に対する訴えとその事実関係,被害の範囲や程度,
公害の現象と原因,対策における役割分担と技術,これらの知見の積み重ねが現在の公害対策を 支えている.我が国の未来を築くため,今後とも公害対策に関する知見の整理および継承がなさ れていくべきであることは明白である.
本論文は,近代から現代にかけて,足尾地区内で実施された鉱害対策の変遷を明らかにした ものである.鉱害や足尾の鉱毒を扱った既存研究や文献などは,かなりの数が存在し,その一部 を挙げようとすれば,次のようなものがある.①環境問題・公害・鉱害に関する法制度や対応策 を記し,課題を論じているもの,②鉱山保安に関する法規や組織の変遷を記したもの,③足尾の 鉱毒問題を解決していく過程において鉱毒調査会で議論された内容を記したもの,④鉱毒調査会 の意見を反映して執り行われた古河による工事や国による治山・治水工事の内容を記したもの,
⑤またその後の経緯を併せて概略的に対策事業の経緯を記したもの,⑥被害者側の観点に立ち,
政府や古河が行ってきた対応を記し,それを批判する内容を論じているもの,⑦煙害の広がりや その原因などを古河の銅山経営の変遷とともに記したもの.
本研究は,これらの既往の研究と比較すると,政府が鉱害の原因を特定していく過程を経な がら,足尾銅山における鉱害の全容についても認識を変化させていく様子を捉えて論じているこ と,そして,それに伴って試行錯誤を繰り返す「鉱毒水」,「土砂の流出対策」,「鉱煙処理」,「山 林復旧」といった主に発生源で行われるべき対策の内容について,古河機械金属所蔵の一次史料 を用いてこれまで語られることのなかった史実を加え,さらに現地調査やヒアリング調査などの 結果も踏まえて考証を重ね,包括的かつ具体的に論じているところに新規性があり,足尾銅山に おける鉱害の発生源対策の全容を初めて示し得たものといえる.すなわち既往研究が結果論的に 足尾の鉱害対策を論じるに止まざるを得なかったことに比べ,本論文はより実証的に論じている 点で一線を画すものであるといえる.
本論文については,2015年8月10日,本学8号館825教室において,審査委員全員および学内外のこの分野の 研究者,実務者などの出席のものとで公聴会が開催され,その研究内容の発表と質疑応答が行われた.そして,
その公聴会の後に,審査委員全員による学位審査委員会が開催され,本論文の内容を詳細に検討した.その結 果,本論文は工学的に価値があり,研究内容の学術レベルならびに論文としての独創性及び実用性において優 れているとの判断に至った.
したがって,本論文を博士(工学)の学位論文に値するものと認める.