ホットスタンプにおける亜鉛めっき鋼板の液体金属 脆性に関する研究
著者 ?橋 克
著者別表示 Takahashi Masaru
雑誌名 博士論文要旨Abstract
学位授与番号 13301甲第4818号
学位名 博士(工学)
学位授与年月日 2018‑09‑26
URL http://hdl.handle.net/2297/00053033
doi: 10.2355/tetsutohagane.TETSU-2017-076
Creative Commons : 表示 ‑ 非営利 ‑ 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by‑nc‑nd/3.0/deed.ja
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学 位 論 文 要 旨
ホットスタンプにおける亜鉛めっき鋼板の 液体金属脆性に関する研究
Liquid metal embrittlement of hot-stamped galvanized boron steel sheet
金沢大学大学院自然科学研究科 物質化学専攻
髙 橋 克
2 Abstract
LME (liquid metal embrittlement) of galvanized boron steel was investigated to clarify the effects of various factors relating to the hot-stamping process. Specimens of galvannealed boron steel sheet were heated at 900 °C in a combustion gas furnace, and hot-stamped on a cooled V-shaped die in laboratory. The depth of LME cracks, chemical composition of the Zn-coating layer, and the metallography of the metal substrate were examined. LME cracking resulted from liquid Zn penetration of the coating layer into the prior austenitic grain boundaries of the metal substrate.
LME became prominent when the coating-layer composition corresponded to the biphasic Fe-Zn ferrite/liquid Zn structure of the binary Fe-Zn phase diagram during heating in the furnace. The amount of strain at hot-stamping exerted some influence on LME crack growth. LME cracking took place at sites where the liquid Zn directly contacted the prior austenitic grain boundaries of the metal at the Zn-coating/metal interface. Direct contact of liquid Zn with the prior austenitic grain boundaries was necessary but not sufficient to initiate LME, since cracking resulted only at 23 -36 percent of these “possible” sites. Comparing the interface energy of hcp-Zn/fcc-Fe system by utilizing first principle calculation with the grain boundary energy of fcc-Fe crystal, grain boundary texture of fcc-Fe was suggested to influence the occurrence/absence of LME.
3
1.
緒言
自動車部品には衝突安全 性と燃費向上のため高強 度化と軽量化が強 く求められている.ホットスタン
プ(以下
HS)は成形と熱処理強化を同時に行う工法で,ニーズ増加に伴い適用が拡大している.利便性や防 食 性 向 上ニーズも生 まれ,それに対 応 した各 種 めっき鋼 板 が開 発された.合 金 化 溶 融
Znめっき
(以下GA),溶融Zn
めっき(以下
GI)といっためっき鋼板は,汎用性がある反面HS加熱時にめっき皮膜
に生成する液体
Znが鋼 のオーステナイト(以下
γ)粒界に侵入してクラックを発生させる液体金属 脆性 (Liquid Metal Embrittlement以下
LME)が課題と指摘され1),その克服により実用化に至った経緯があ る
2)3).HS 時に生じる
LMEの関係因子の一つとしてめっき皮膜組成があり,HS の加熱中に地鉄から
Feがめっき皮膜へ拡散することにより経時的に組成変 化 が生じることが特徴である.これらを踏まえ
HSの
LMEに関する研究として,工業的側面から
LME発生・防止要件,機構面から
LMEクラック侵入・伝播 機構の研究が行われているが,LME は液体
Zn生成 ,粒界侵入・伝播,クラック発生という一連の複合 現象であるにも関わらず,それらを関連付けた研究例は少ないのが現状である.
本研究は
Znめっき鋼板の
HS時の
LMEにおよぼす諸因子の寄与を明確にすることを目的とした.ま た液体金属として
Zn,固体金属としてFeの
LMEを一例として取り上げ,LME 機構の総合的な理解に 向けた取り組みとして,第一原理計算を用いて現象の説明を試みた.
2.
ホットスタンプにおける
GA鋼板の
LMEにおよぼす加熱時間の影響
4)5)前述のように
Znめっき鋼板の
HSでは液体
Znの
LMEによるクラックのリスクが指摘されたものの
1),
Znの地鉄
γ粒界への侵入と,めっき皮膜組成との関連付けは不明確であった.本節では
GAの
HS時 のめっき皮膜組成を加熱時 間の変化により系統的に調べ,めっき皮膜組成が
LMEにおよぼす影響を 明確にすることを目的とし検討を行った.
0.21 wt.%C
を含む鋼板に付着量
61g/m2の
GAを施した鋼板を準備し,900℃の炉で加熱時間を変
化させ,その後炉から鋼板を取出し速やかに
V字金型で成形焼入を行った試料を準備した.断面観察 によりクラック発生状況を観察し,その深さ測定,めっき皮膜の化学分析と地鉄の組織観察を行った.
加熱時間とクラック深さの関係を
Fig.1に示す.加熱時間が
120 sから
LMEクラックが発生し
150 sで 最大クラック深さは最大となったが,その後漸減し
240 sでは
LMEはほぼ確認されなくなった.Fig.2 に 加熱時間が
180 sの試料で見られたクラック周辺の
Znマッピング像と
SEM像を示す.クラック側壁に
Zn侵入が見られ,クラックの輪郭と
Zn侵入痕が旧
γ粒界に沿うことから,クラック発生が
LMEによる現象で あることがわかった.
各試料の加熱時の最高温度とめっき皮膜の
Zn濃度を測定し,各条件で
LME発生有無を関連付け,
Fe-Zn
二元平衡状態図上にプロットした結果を
Fig.3に示す.LME の発生はフェライトと液体
Znの固液
Fig.1
加 熱時間とクラック深さの関係
Fig.2
試 料のクラック周辺の
Znマッピングと
SEM像
*LME未発生
4
二相域に位置し,固相域では発生しなかった.この結果から,LME は加熱時に液体
Znが生成し,成形 時 に も残 留 し た 結 果 発 生 するこ とが わ かっ た.加 熱 時 の 液 体
Znが 固 化 して 常 温 で 析 出 する
δ相
(FeZn7,FeZn10)と η相(Zn)の XRD 強度の和と最大クラック深さの関係を
Fig.4に示す.ここで
XRD強 度の和は加熱時の液体
Zn量を反映すると考えられる.Fig.4 から液体
Zn量の増加とともに最大クラック 深さは増加するが,一定量以上の液体
Zn量の存在下では最大クラック深さが飽和することがわかった.
3.
ホットスタンプにおける
GA鋼板の
LME現象の解析
6)前節では
GAの
HS加熱時に液体
Znがめっき皮膜に生成し,それが成形時に残留して地鉄の
γ粒 界に侵入することで
LMEクラックを発生させることがわかった.一方液体
Znの侵入経路やその発生要 件,LME クラック頻度やその伝播および停止に関して不明な点が多い.本節ではめっき皮膜の液体
Znと地鉄の
γ粒界,めっき/地鉄界面
(以下界面)の位置関係,およびクラック周辺の地鉄に焦点をあてた 金属組織観察および解析を行った.
クラックが顕著に発生した加熱時間
150 sの試料の成形部の界面に沿って金属組織を観察した.観 察結果の一例を
Fig.5に示す.成形部全体で観察された金属組織上の特徴点を
Fig.6のように分類の 上カウントし,その数を
Table.1に整理した. LME クラック起点および
Zn侵入の見られた"A" は,液体
Znが存在していたと考えられる
Zn固溶フェライト(以下 Fe-Zn ferrite)の粒間と旧
γ粒界が,全て界面で 接しており,LME 発生の幾何学要件を充足した.一方クラックは未発生だが
LME発生の幾何学要件を 充 足 す る
"B"は
"A"よ り 多 か っ た .
LME発 生 要 件 を 充 足 し か つ
LME発 生 箇 所 の 割 合 を 示 す
"A"/("A"+"B")は23~36 %に留まっていた.
Fig.3 Fe-Zn
二元 状態図における加熱時の最高温度 と
めっき皮膜の
Zn濃度の関 係
Fig.4 δ
相
η相の
XRD強 度の和と
最大クラック深さとの関係
Fig.5 LME
クラック侵入箇 所 周辺の断面金 属組織
Fig.6 LMEクラック周辺金 属 組織の特徴点(模式図
)5
加熱時間が
150 sの試料のクラック底部の地鉄の金属組織と硬さ測定結果を
Fig.7に示す.クラック側 壁部は底部に比べマルテンサイトと旧
γ粒界が明瞭である.一方底部は通常の
LMEクラックで見られる 稲 妻 状 ではなく円 弧 状であり,引 張 方 向 に層 状 組 織 が見られ側 壁 部に比 べ軟 化 していた.これは底 部 が成 形 時 に熱 間 で塑 性 変 形 を受 けた後 ,急 冷 されることでフェライトもしくはベイナイト変 態 のいずれか あるいは両方が生じたためと考えられる
7).この結果から塑性変形に足る引張応 力が印加されても,クラ ック底部より下方向へ
Znが侵入して,クラックがこれ以上伝播しないことが示唆された.
4.
ホットスタンプにおける
GA鋼板の
LMEにおよぼす成形ひずみの影響
HS
部品は種々形状への適用が想定されること, LME クラック伝播速度と引張時のひずみ速度との 相関が示されている
8)ことから,HS 成形時のひずみが
LMEクラックにおよぼす影響を把握することは重 要である.HS 加熱時に液体
Znが残存する条件を選択し,V 曲げのパンチ先端半径を変えることでひず み量 を変 化 させ,試 料 の真 ひずみ
(以 下 ひずみ)ごとにクラック深さの測 定 ,金 属 組 織 観 察 を行 った.結果を
Table.2に示す.パンチ半径を
0.5 mmから
30 mmに大きくして,ひずみを
0.45から
0.04に変化さ せた.ひずみを
0.04まで小さくしても最大クラック深さは
46 μmとなり,液体
Znが存在する場合,ひずみ が小さくても
LMEクラックが発生することがわかった.
ひずみに対する最大クラック深さの依存性は特徴があり,ひずみが
0.45から
0.12の範囲では,最大ク ラック深さは
100μm超で変化が小さく,めっき皮膜/地鉄界面単位長さあたりのクラック頻度
("A"/"R"),LME
発生要件を充足した箇所の中で
LME発生箇所の割合を示す"A"/("A"+"B")いずれも大差なかっ た . 一 方 ひ ず み が
0.12か ら
0.04の 範 囲 で は , 最 大 ク ラ ッ ク 深 さ が 小 さ く な り ,
"A"/"R"お よ び
"A"/("A"+"B")ともに小さくなった.本実験のひずみをひずみ速度(以下ε.
)と同義と考え,低ε.
域でのクラ ック伝播速度は
ε.に律速される一方,高
ε.域では最大クラック深さは一定となったことから,γ 粒界への液 体
Zn侵入速度に上限があることを示唆していた.低
ε.域ではクラック発生頻度も小さくなったことから,
Zn
侵入を受ける
γ粒界性格によりクラックを発生させる
ε.の臨界値が異なる可能性が考えられた.
Table.1
クラック周辺の特 徴 点の数とクラック頻度
Fig.7
クラック底 部の金属組 織と硬さ測定結 果
Table.2
クラック周 辺の特徴 点の数とクラック頻度におよぼす成形ひずみの影響
6
5. LME
による液体金属の結晶粒界侵入機構の解析
-第一原理計算を用いた hcp-Zn/fcc-Fe
界面エネルギーの評価-
GA
の
HS後のめっき皮膜/地鉄界面で
LME発生の幾何学要 件を充足する箇所において,クラック発生および
Zn侵入が起き ない箇 所 が見 られた.その理 由 として地 鉄 の粒 界 性 格 ,例 えば 粒界エネルギー(以下
Egb)の大小が液体 Znの粒界 侵入の難 易に影響を与えることが考えられた.
Smith
らは固 体 金 属 と液 体 金 属 の接 触 界 面 において,液 体 金 属 と固 体 金 属 の界 面 エネルギー(以 下
Eint)と固 体 金 属 の粒界エネルギーE
gbの関係から,液体金属粒界侵入要件を提案し た(Fig.8)
9).
本節では
Smithの要件を用いて,液体
Znの粒界侵入の難易
が生じる現 象 を説 明 できるか検 討を行った.その際
Eintは未 知 でありかつ実 測 は困難 であることから,第 一 原 理 計算 により求め,
Egb
の文献値と比較した.
計算の簡略化のため液体
Znは
hcp-Znとし,鋼は
LMEが発生する際の結晶系である
fcc-Feとした.
Zn/Fe
界面は
a軸を共有した
hcp-Zn/fcc-Fe超格子をモデルとして作成し(Fig.9 上),各
Zn/Feの相対
原子位置
(Fig.9下)を変化させて,超格子,hcp-Zn,fcc-Fe それぞれの形成エネルギーを
VASP(注:代表的な第一原理計算用パッケージ)
10)を用いて第一原理計算で求め
Eintとした.
Eint
の計算結果を
Fig.10に示す.超格子の
a軸長増加に伴い
Eintは低下した.一方各
Zn/Feの相対 原子位置により
Eintは異なった.計算の前提では
Znは固体の
hcp-Znであるものの,実現象では液体で あり
Znと
Feの相対原子位置は常に変化すると考えられるので,E
intは
Fig.10記載の全計算値の平均 値として考えた.その結果
1.1 J/m2の値が得られた.E
gbは文献
11)記載の最大値である
1.6 J/m2とした.
これらを
Fig.8に示したエネルギー釣り合い条件に代入し算出された
θは約
87°となり,液体 Znの粒
界侵入 は起きないことになる.これは引張 応力が付 与 されていない場合
LMEが発生しないことに対応 する結果である一方,E
intおよび
Egbがほぼ同オーダーの数値をとることもわかった.
Fig.8 Smith
の固液界面のモデルと 液体金属 粒界侵入 要件
9)Fig.9.
第 一原理 計算に用 いた
Zn/Fe界 面のモデル
(上:Zn/Fe超格 子 下:Zn/Fe 界面の原 子配置
)Fig.10
第 一原理 計算で求 めた
Zn/Fe界 面
エネルギーにおよぼす
a軸長の影響
7
次に上記結果を元にして液体
Znの粒界侵入の可能性について検討した.前述のように
Eintと
Egbが ほぼ同 オーダーの数 値 をとり,無 応 力 の場 合
θは
87°となる.これは比 較 的 鋭 い粒 界 溝 が形 成 され,Fig.11 (a)に近い状態と推定される.Fig.11 (b)に示すようにfcc-Fe
の粒界に引張応力が加わると,粒界 を構成する鉄原子間距離が大きくなり,それにより
Egbが増大して
θの減少により粒界溝に対する応力集 中が進む.これが繰り返されると,液体
Znが粒界侵入する可能性が生じる.
まとめると第一原理計算で求めた
Eintと
Egbの最大値が,同オーダーで近接した数値をとることが定量 的にわかった.3 節でみられた
LMEの粒界性格による影響が,粒界毎の
Egbの違いによりもたらされる可 能性は十分あることがわかった.
6. 総括
本研究では
Znめっき鋼板のホットスタンプ時の液体金属脆性(LME)に関わる一連のプロセス因子の 影響を明確にすることを目的とした.Zn めっき鋼板として合金化溶融亜鉛めっき鋼板
(GA)を用いて,900 ℃にて加熱後 V
曲げ加工を行い,LME によるクラック深さ測定と金属組織観察およびめっき皮膜 の化学分析を行った.その結果,LME クラックの発生が鋼板の
γ粒界に沿った
Zn侵入によることを明瞭 に示した.まためっき皮膜の液体
Znは
Fe-Zn二元平衡状態図にしたがって生成し,成形時にもめっき 皮膜に残存する結果,LME を発生させたことがわかった. LME 発生要件として,液体
Znと鋼の
γ粒界 がめっき/地鉄界面で接することが必要条件であることを金属組織観察から示すとともに,その条件充足 下でも
LMEに至らないケースが多いことを示した.その理由として液体
Znの侵入を受ける
Fe結晶粒界 性格による影響を検討した結果,第一原理計算を用い算出した
Znと
Feの界面エネルギーと
Feの粒界 エネルギーの文献値との比較から,両エネルギーはほぼ同オーダーの数値をとることが判り,Fe 結晶の 粒界性格が
LMEに影響する可能性があることがわかった.
参考文献
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Fig.11 Smith
のモデルをベースとした引張応力 印加時の液体金属 粒界侵入の推定 機構
8
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