博士論文審査報告書
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(2) 音声認識技術を援用した音声インタフェース、会議記録システムなどの開 発が進んでいる。人間共存ロボットにおいても,音声対話あるいは音響によ る環境認識のための音響処理が行われる。これらのシステムでは、受音部分 での信号品質が後段処理の容易さや全体の性能を決定するため、マイクロホ ンシステムの設計はきわめて重要である。いずれの用途においても、通常の 単一マイクロホンでは、十分な雑音抑制や方向選択性が得られないため、複 数のマイクロホンによるマイクロホンアレイの利用が効果的である。 通 常 の マ イ ク ロ ホ ン ア レ イ( 以 下 、位 相 型 マ イ ク ロ ホ ン ア レ イ と 呼 ぶ )は 、 複数のマイクロホンを異なった位置に設置し、到来音響の位相や音圧が異な ることを利用して雑音除去や音源定位を実現している。しかしながら、電波 に対するアレーアンテナと異なり、音響は波長が長いためシステムの小型化 が難しいという本質的な問題がある。 本 論 文 の 著 者 は 、同 位 置 に マ イ ク ロ ホ ン を 配 置 す る 新 し い 型 の 小 型 マ イ ク ロホンアレイ(集中型マイクロホンアレイ)を提案し、その理論的な枠組み と具体的な処理アルゴリズムを示すとともに実音響による実験によってその 有効性を実証した。 本 論 文 は 、 英 文 で 書 か れ て お り 11 章 よ り な る が 、 以 下 に 各 章 の 概 要 を 記 し評価を加える。 本 論 文 の 第 1 章 で は 、研 究 の 背 景 を 述 べ 、本 研 究 の 動 機 と 目 的 お よ び 意 義 を述べている。 第 2 章 か ら 第 6 章 は 、集 中 型 マ イ ク ロ ホ ン ア レ イ の 理 論 的 な 検 討 の 記 述 に あてられており、第2章では、複数マイクロホンシステムの一般的な数式表 現を与え、位相型マイクロホンアレイと提案する集中型マイクロホンアレイ を比較して、それぞれの特徴を明らかにしている。著者の定式化によれば、 位相型マイクロホンアレイが各マイクでの受信音の位相差に着目するのに対 し て 、集 中 型 マ イ ク ロ ホ ン ア レ イ で は 、各 マ イ ク の 指 向 特 性 の 違 い に よ り 様 々 な信号処理が可能であることが判る。これが著者の優れた着眼点であり、マ イクロホンアレイの小型化ばかりでなく多様な処理を可能にしている。 第3章では、前章で示した数学的な枠組みの中で、パワーインバージョン ア ダ プ テ ィ ブ ア レ イ 及 び 方 向 拘 束 付 ( DCMP) ア ダ プ テ ィ ブ ア レ イ の ア ル ゴ リズムを集中型マイクロホンアレイに適用する方法を述べている。パワーイ ンバージョンアダプティブアレイは、ひとつの素子ウェイトを一定値に固定 した状態で、アレイ出力を最小化する手法であり、振幅の大きい信号ほど、 そ の 方 向 に 深 い ヌ ル 点 が 形 成 さ れ る 。 一 方 、 DCMP ア ダ プ テ ィ ブ ア レ イ は 、 目的とする方向に対して出力を拘束しながら、アレイからの出力を最小化す ることで雑音を抑制する手法であり、到来方向が既知の場合、広帯域信号や 1.
(3) 角度的に広がりを持つような入力に対しても適用可能である。 第4章では、音響到来方向の推定法について検討している。著者は、位相 型マイクロホンアレイにおける代表的な到来方向推定技術として、線形予測 法 、 Capon 法 お よ び MUSIC 法 を 取 り 上 げ て い る 。 線 形 予 測 法 は 、 到 来 方 向 に 対 し て ヌ ル 点 を 形 成 す る こ と で 、 到 来 方 向 推 定 を 行 う も の で あ る 。 Capon 法は、ある方向にメインローブを向けると同時にほかの方向からの出力への 寄 与 を 最 小 化 す る こ と で 、推 定 精 度 を 向 上 さ せ た 手 法 で あ る 。M U S I C 法 は 、 相関行列の特徴を積極的に利用することで、推定精度を向上させた手法であ る。著者はこれらのすべてを集中型マイクロホンアレイで実現することに成 功した。 第 5 章 で は 、 最 近 注 目 さ れ て い る 音 源 分 離 手 法 SAFIA に つ い て 検 討 し て い る 。S A F I A は 、音 源 が 周 波 数 軸 上 で 互 い に 重 な ら な い 調 和 構 造 を 持 つ と 仮 定し、周波数成分毎に到来方向を予測し目的音と雑音のどちらに属するかを 判 断 す る こ と で 2 つ の 音 源 を 分 離 す る 手 法 で あ る 。著 者 は 、S A F I A を 集 中 型 マイクロホンアレイで実現し音源分離システムの小型化が可能であることを 示した。 第6章では、集中型マイクロホンアレイの特性を生かした新しいブライン ド音源分離法について述べている。通常の音源分離手法の多くは、マイクロ ホンの伝達特性を事前に知る必要があるが、著者の手法はマイクロホンの特 性 を 事 前 に 知 る 必 要 が な い 。ま た 、SAFIA と 異 な り 、周 波 数 軸 上 で 音 源 の 大 部分が重なっていても分離可能である。また、その周波数軸上での重複に関 する事前情報を必要としないという利点がある。これらの特徴は、マイクロ ホンアレイで必要となるマイクロホンの伝達特性の事前測定を簡略化できる 可能性を示唆しており、応用可能性を大きく拡げるものである。 第 7 章 か ら 第 10 章 は 、 提 案 し て い る 集 中 型 マ イ ク ロ ホ ン ア レ イ の 実 験 結 果とその考察が述べられており、第7章では、パワーインバージョンアダプ テ ィ ブ ア レ イ と DCMP ア ダ プ テ ィ ブ ア レ イ そ れ ぞ れ に つ い て 最 適 な 重 み の 設定方法と、実現した指向特性を示している。パワーインバージョンアダプ ティブアレイでは、振幅の大きな信号の方向に指向特性のヌルが形成され、 D C M P ア ダ プ テ ィ ブ ア レ イ で は 、雑 音 方 向 と し て 設 定 さ れ た 方 向 に ヌ ル が 形 成されることを実証した。 第 8 章 で は 、 線 形 予 測 法 、 Capon 法 、 MUSIC 法 に 対 し 、 そ の 実 験 環 境 と 実 験 結 果 を 述 べ て い る 。 そ の 結 果 、 線 形 予 測 法 、 Capon 法 、 MUSIC 法 、 そ れぞれについて、実環境で集中型マイクロホンアレイを用いて有意な音源定 2.
(4) 位結果が得られることが明らかにされた。 第 9 章 で は 、 SAFIA に よ る 音 源 分 離 の 結 果 に つ い て の 実 験 結 果 を 報 告 し 、 その可能性について述べている。実験結果は、集中型マイクロホンアレイに よ る SAFIA は 従 来 の SAFIA と 同 程 度 の 性 能 を 持 ち な が ら 、 小 型 で 携 帯 性 の 高い音源分離システムを実現することができることを示している。 第 1 0 章 で は 、著 者 の 提 案 す る ブ ラ イ ン ド 音 源 分 離 手 法 に つ い て 、人 工 音 、 楽器音、人の声で実験を行った結果が示されている。一部はシミュレーショ ン 実 験 で あ る が 、 提 案 手 法 は SAFIA に 比 べ て は る か に 頑 健 な 音 源 分 離 が 可 能であり、具体的な応用範囲も広いものと評価できる。 第11章では、本研究を総括し、結論及び展望を述べている。 以上要するに、著者は、位相型マイクロホンアレイと集中型マイクロホン アレイは数学的に同じ枠組みで記述できることを示し、位相型マイクロホン アレイで可能なことは集中型マイクロホンアレイでも可能であることを理論 および実験により示した。集中型マイクロホンアレイは、接近してマイクロ ホンを配置するため計算回路も含めて集積化できるという大きな利点がある。 さらに、著者は、集中型マイクロホンアレイ特有の性質を用いて、前提条件 の 少 な い 新 し い ブ ラ イ ン ド 音 源 分 離 手 法 を 考 案 し 、実 験 に よ る 確 認 も 行 っ た 。 こ れ ら の 成 果 は 、音 響 工 学 お よ び 情 報 工 学 の 進 歩 に 寄 与 す る と こ ろ 大 で あ る 。 よって、本論文は博士(工学)の学位論文として価値あるものと認める。. 2006 年2月 審査員(主査)早稲田大学教授. 工学博士(早大). 橋本周司. (副査)早稲田大学教授. 博士(工学)早大. 中島啓幾. 早稲田大学教授. 博士(理学)阪大. 竹内. 早稲田大学教授. 工学博士(東大). 森島繁生. 3. 淳.
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