• 検索結果がありません。

博士(文学)学位請求論文審査報告要旨

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2022

シェア "博士(文学)学位請求論文審査報告要旨"

Copied!
2
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

博士(文学)学位請求論文審査報告要旨

朝 克 図 「チンギス・ハンの大ジャサに関する研究」

審査要旨

「チンギス・ハンの大ジャサ(ヤサ」とはチンギス・ハンの定めた法であり、それ を成文化したのが「大ジャサ」という法典だと考えられてきた。この見方を批判し、

このジャサjasa (jasaG)/ヤサ yāsā(yāsāq)をはじめ、ジャルリグjarliG、ビリグ bilig、

ヨスン yosun 等の関連用語を取上げ、個々の概念、相互の関係を分析し、この時代の 法の実態を解明しようとしたのが本論文である。構成と内容は、次のとおりである。

第一章では、主にイスラーム史料のヤサ関係記事を分析し、そこでは、チンギス・

ハンのヤサとされたものが基本的には様々な状況や局面において発されたチンギス・

ハンの意思そのものと関係があり、その中には法規も、訓言も、国家制度も、対外政 策も含まれていると理解されていたことを確認する。またハンの指示や命令に従わな い場合には罪に問われ、ハンの命令そのものがヤサとして機能していたと論じる。

第二章では、モンゴル語史料『モンゴル秘史』におけるジャサグ(ジャサ)を分析 し、それは具体的な内容をもつ命令・規定・制度そのものを意味するのではなく、具 体的な内容は命令から規定、制度までをも含むジャルリグ(仰せ)にこそあり、ジャ ルリグに反すれば制裁・罰を加えるという文脈において、この語が現れることを確認 する。従ってジャサグとは、違反者には制裁・罰則が伴うという属性を示す抽象的な 概念であると論じる。

第三章では、ジャルリグを分析し、それが天命を受けたチンギス・ハンと彼の継承 者であるハーンたちの仰せであり、ジャサグを属性としてもつ言葉(ウゲ)が、天命 を受けたハン、ハーンの仰せ(ジャルリグ)として発されたもののうち、持続性をも つ命令が法として機能したと理解すべきであると論じる。

第四章では、ヤサとビリグの関係を分析し、モンゴル支配下のイスラーム教徒にと って、チンギス・ハンが定めた、罰則を伴う規定がヤサであり、チンギス・ハンが発 し、罰則は伴わなかったとみられる箴言・教訓がビリグであること、各々文字化され て書物として歴代君主に継承されたこと、を確認する。また元代漢語史料に「太祖金 匱宝訓」、「太祖宝訓」とあるのはチンギス・ハンのビリグであり、ジャサとは関係が ないと推測する。

第五章では、まずペルシア語史料のヨスン yūsūn は、モンゴル語のヨスン yosun と は若干異なり、イスラーム法的な観念のもとに解釈された、法的規範をもつ慣習すな わち慣習法という意味で使われていたと指摘する。またペルシア語史料のヤサ・ヨス ン yāsā wa yūsūn のヤサとヨスンは別の意味をもつのではなく類義語であって、イラ ン人ムスリムの観念に基づいて解釈された慣習法という意味であることを確認する。

次いで『モンゴル秘史』のヨスンおよびそれと同語根の用例を分析し、ヨスンは慣習 法という意味に限定されるものではなく、物事の経緯や原因などを指す語として使わ れていたこと、törö、döröという語も、物事の道理・原理・原則という意味で、ヨス ンとほぼ同義であることを確認する。そしてヨスンとは、正当な理由に基づく規定で あり、永続的に守り続けることが求められているものであり、その意味でジャサグ的

(2)

な属性をもつものであると論じる。

第六章では、まず漢語史料やペルシア語史料に見られる大ジャサ(ヤサ)を分析し、

それは、先行研究において言われてきたような成文法典としてのジャサを意味するも のではなく、単に「偉大なジャサ」の意味に過ぎないとみる。そして本来違反者への 制裁・罰を伴うという抽象的な属性を示すだけのモンゴル語のジャサが、ペルシア史 家たちによって、具体的な法的規範や守るべき規則として認識され、この観念がマム ルーク朝エジプトのマクリーズィーに踏襲され、さらにヨーロッパ人研究者たちにも 受容され、今日に至るまでのジャサに関する通説の基底となったと指摘する。次いで

『モンゴル秘史』および元代漢語史料の『青冊』に関する記述を分析し、『青冊』に記 された内容には、モンゴル王侯たちに与えられた分民(戸口)に関する規定や、ジャ ルグ(裁判)審理の記録 ─ 判例法に当たる ─ が含まれ、それらはいずれも、「ヨス ン」として子々孫々に至るまで変更してはならず、それに違反する者には処罰が科せ られるという「ジャサ」としての属性を有していたと論じる。

以上から、論者は、天命を受けたチンギス・ハンと彼の後継者であるハーンのウゲ

(言葉)であるジャルリグ(仰せ)の中に、ジャサ的な属性をもつものが含まれ、そ れらのうち、持続性のあるものが法として機能した。そして、モンゴル帝国の成立後、

天の力を得たチンギス・ハンの権力が絶対化されたことから、彼がジャルリグ(仰せ)

によって定めた諸々の基本政策や制度は、変更してはならない拘束力をもつヨスンと なった。ヨスンは、ヨスンに違反する者は罰するという権威を有しており、正しくジ ャサ的な属性を備えている。従って主にペルシァ語史料の分析から慣習・慣習法と見 られてきたヨスンこそが、守るべき規定、制定法であったとする。つまり、モンゴル 帝国の法を考察する場合、対象とされるべきは、ジャサの内容ではなくヨスンの内容 であることを明らかにした。この見解は、「チンギス・ハンの大ジャサ」についてのこ れまでの研究に、根本的な見直しを迫るものであり、チンギス・ハンのジャサの研究 は、本論文によって、新たな段階を迎えたと評することができる。

問題点として、『青冊』に関する引用史料の一部に、そこに附籍されているものを分 民とみることに疑問を抱かせるものがあることなどが挙げられる。またジャサがもと もと成文化されていないものであれば、『元典章』・『経世大典站赤』等所収の当時の法 令に見える「大札撒」・「札撒」の用例はどう理解されるべきか、ということも検討す べきであったかもしれない。

いずれにせよ、これらの問題点の存在は、本学位請求論文の価値を損なうものでは ない。よって本学位請求論文は、博士(文学)の学位を授与するにふさわしい内容で あると認めるものである。

2006年6月30日

主任審査委員 早稲田大学教授 吉田 順一 早稲田大学教授 近藤 一成 埼玉大学名誉教授 海老沢 哲雄

参照

関連したドキュメント

主任審査委員 早稲田大学文学学術院教授 博士(文学)早稲田大学 ドイツ神秘思想 田島照久 審査委員 早稲田大学文学学術院教授 文学博士(パリ第 4

審査委員 早稲田大学 文学学術院・教授 博士(文学)早稲田大学 中国宋代史 近藤 一成 審査委員 早稲田大学 文学学術院・教授

主任審査委員 早稲田大学 教育・総合科学学術院 教授 博士(文学)早稲田大学 石見 清裕 審査委員 早稲田大学 文学学術院 教授 博士(文学)早稲田大学 近藤

主任審査委員 早稲田大学文学学術院 教授 博士(文学) 日本美術史 内田 啓一. 審査委員 早稲田大学 名誉教授 博士(文学)

主任審査委員 早稲田大学文学学術院・教授 博士(文学)早稲田大学 仏教美術史 肥田 路美

主任審査委員 早稲田大学文学学術院・教授 博士(文学)京都大学 日本近代史 鶴見 太郎 審査委員 早稲田大学文学学術院・教授 博士(文学)早稲田大学

審査委員 早稲田大学文学学術院 教授 中島 国彦 日本近代文学 博士(文学)早稲田大学 審査委員 早稲田大学文学学術院 教授 十重田 裕一

審査委員 早稲田大学文学学術院・教授 博士(文学) 早稲田大学 平安時代史、東国史 川尻秋生