電界吸収型変調器集積分布帰還型レーザ素子 の高性能化に関する研究
Studies on Improvement of Distributed Feedback Laser Integrated with
Electroabsorption Modulator
2011 年 10 月
早稲田大学大学院 先進理工学研究科
小林 亘
目次
第1章 序論 ... 1
1.1 研究背景 ... 1
1.2 研究目的 ... 3
1.2.1 半導体光源チップ(半導体レーザ+光変調器)の高性能化 ... 3
1.2.2 現状のEA-DFBレーザの使用用途と技術的課題 ... 4
1.2.3 EA-DFBレーザの低消費電力化の課題 ... 5
1.2.4 高周波モジュールの高性能化と課題 ... 7
1.3 従来の研究経過と本研究の目的 ... 9
1.3.1 動作温度範囲拡大にむけた従来技術と本研究の位置づけ ... 9
1.3.2 高周波モジュールの小型化にむけた従来技術と本研究の位置づけ ... 10
1.4 本論文の構成 ... 12
第2章 EA-DFBレーザの基礎 ... 19
2.1 はじめに ... 19
2.2 光導波路理論 ... 21
2.2.1 導波モード ... 21
2.2.2 非対称スラブ導波路の導波モードと等価屈折率 ... 24
2.2.3 光閉じ込め係数 ... 27
2.2.4 3次元光導波路 ... 28
2.2.5 結合効率 ... 29
2.3INP系半導体のバンドギャップと屈折率 ... 30
2.3.1 InGaAsP系混晶 ... 30
2.3.2 InGaAlAs系混晶 ... 31
2.4 半導体レーザ ... 33
2.4.1 半導体レーザの種類 ... 33
2.4.2 FPレーザの動作原理 ... 33
2.4.3 DFBレーザの動作原理 ... 36
2.4.3.1 DFBレーザの研究背景 ... 36
2.4.3.2 ブラックグレーティング(回折格子) ... 36
2.4.3.3 DFBレーザの端面処理とスペクトル形状 ... 37
2.5 電界吸収型(ELECTRO-ABSORPTION:EA)変調器 ... 39
2.5.1 はじめに ... 39
2.5.2 動作原理 ... 40
2.5.3 EA変調器の設計指針とパラメータ ... 41
2.6EA-DFBレーザチップの設計 ... 42
2.6.1 広い温度範囲での動作実現に向けた設計 ... 42
2.6.1.1 材料の選択 ... 42
2.6.1.2 デチューニング量()の設計 ... 45
2.6.2 長距離伝送に向けた設計 ... 46
2.6.2.1 チャープパラメータ ... 46
2.6.2.2 EA 変調器の構造とチャープパラメータの関係 ... 49
2.6.2.3 チャープパラメータの導出方法 ... 50
2.6.2.4 EA 変調器の低チャープ化 ... 52
2.6.2.5 チャープパラメータの測定方法 ... 54
2.6.3 高速動作に向けた設計 ... 56
2.6.3.1 変調速度限界 ... 56
2.6.3.2 CR定数による効果 ... 56
2.6.3.3 キャリア排出時間による効果 ... 59
2.6.3.4 周波数帯域と変調速度の関係 ... 60
2.6.4 作製上の注意点 ... 61
2.6.4.1 ドーピングの制御 ... 61
2.7EA-DFBレーザの構造と種類 ... 63
2.8 まとめ ... 65
第3章 BJ型EA-DFBレーザの設計と動作特性... 70
3.1 はじめに ... 70
3.2BJ型EA-DFBレーザチップの設計 ... 70
3.2.1 DFBレーザの設計 ... 70
3.2.2高出力化実現に向けたMQW構造の設計 ... 70
3.2.2.1 MQW層数の設計... 71
3.2.2.2 Ec及びEvの設計 ... 73
3.2.2.3 内部量子効率i及び内部損失i ... 76
3.2.3 DFB発振波長とPL波長の設計 ... 78
3.2.4 EA変調器部設計 ... 81
3.2.4.1 EA変調器単体の測定系 ... 81
3.2.4.2 EA変調器の構造パラメータと特性 ... 84
3.2.4.3 EA変調器のMQW周期数と動的消光比 ... 86
3.2.4.4 EA変調器長の高速動作のための設計 ... 88
3.3 光導波路の設計 ... 89
3.4 作製方法 ... 91
3.4.1 バットジョイント工程 ... 91
3.4.2 全体の作製法 ... 94
3.4.3 デバイス構造 ... 95
3.5 動作特性 ... 96
3.5.1 10Gbit/s動作特性 ... 96
3.5.2 40Gbit/s動作特性 ... 100
3.6 まとめ ... 102
第4章 装荷型EA-DFBレーザの設計と動作特性 ... 104
4.1 はじめに ... 104
4.2 装荷型EA-DFBレーザチップの設計 ... 104
4.2.1 装荷型構造のMQW設計の注意点 ... 104
4.2.2 DFBレーザ部MQW構造 ... 105
4.2.3 EA変調器部MQW構造 ... 107
4.2.4 装荷型の設計 ... 109
4.2.5 結合効率 ... 110
4.3 作製方法 ... 111
4.3.1 作製手順 ... 111
4.3.2 装荷型構造の利点 ... 113
4.3.3 デバイス構造 ... 113
4.4 動作特性 ... 114
4.4.1 静特性 ... 114
4.4.2 10Gbit/s動作特性 ... 116
4.5 まとめ ... 118
第5章 EA-DFBレーザモジュールの設計と動作特性 ... 120
5.1 はじめに ... 120
5.2 モジュール構成 ... 120
5.3 設計 ... 121
5.3.1 高周波配線板の設計 ... 121
5.3.1.1 基板材料の選択 ... 121
5.3.1.2 マイクロストリップラインの設計 ... 122
5.3.1.3 高周波基板単体の設計と測定結果 ... 124
5.3.2 接続部の設計 ... 125
5.3.2.1 高周波基板材料依存性 ... 125
5.3.2.2 高周波信号線の形状依存性 ... 125
5.3.2.3 エアギャップ依存性 ... 126
5.3.2.4 高さ不整合依存性 ... 127
5.3.2.5 高周波信号線とGND間距離依存性 ... 128
5.3.3 高周波信号線路とTO-CANパッケージの接続方法 ... 129
5.4 動作特性 ... 130
5.4.1 特性インピーダンス測定 ... 130
5.4.2 周波数応答特性 ... 130
5.4.3 40Gbit/s動作特性 ... 131
5.5 まとめ ... 132
第6章 結論 ... 134
謝辞 ... 139
本論文に関わる研究発表リスト ... 141
第 1 章 序論
1.1 研究背景
近年のインターネットの普及に伴い、情報通信量の爆発的な増大が起こっている。図1.1 は1日あたりの日本の国全体のダウンロードトラフィック量を示している。情報通信量は、
上昇率22%/年という爆発的な増大を続けていることが分かる。
この増大を維持している背景には光通信の普及がある。図 1.2 は自宅のパソコンからの インターネット接続回線の種類の変遷を示している。2009年には光回線は、メタル系回線 の合計(ケーブルテレビ回線と DSL(Digital Subscriber Line)回線の合計)を押さえ第一イ ンフラとなっている。
0 200 400 600 800 1000 1200
2009 2007 2008
2006 2004 2005
[G bit]
Year
22 %UP 2007 → 2008
国全体ダウンロード トラフィック量/1日 988 Gbit (2008年末)
(総務省.2010.7調査資料)
図1.1 1日あたりの国全体のダウンロードトラフィック量
2007 2008 2009
0 10 20 30 40 50
18.9 17.3
16.6 17.1 17.1
18.5 31.3
39.0
DSL回線 ケーブルテレビ回線
[%]
Year
光回線
(総務省.2011.1調査資料) 自宅回線 41.1
図1.2 自宅パソコンからインターネット接続に使用する回線種類
このような背景の下、図 1.1 に示したような割合で、光通信の消費電力やインフラコス トが増大していっていいか?と考えると答えは、NO である。では、急増する光通信の情 報通信量に対抗して、光通信の消費電力やインフラコストの増大を抑えるためにはどうす ればいいのか、という課題への解決が本研究のモチベーションである。
図 1.3 は光通信システムの構成例を示している。光通信システムは、情報源となる電気 信号を光信号に変換する光送信機、光送信機から出射される光信号を伝送する光ファイバ、
そして伝送されてくる光信号から電気信号を取り出す光受信機で構成されている。本研究 では光送信機に着目する。光送信機は図 1.3に示されているように、大きく3 つの部品で 構成されている。以下、各部の説明とそこで必要とされる機能について書くと、
1. 半導体レーザ: 搬送波となる光を出射
2. 光変調器: 搬送波に0及び1の強度変調を印加
3. 高周波信号給電モジュール(高周波モジュール): 毎秒ギガビット級の電気信号を
光変調器まで低損失で給電
である。本研究では 1 及び 2 をあわせた部品として半導体光源チップ(半導体レーザ+
光変調器)、3として高周波モジュールの高性能化を目指した。
光変調器 光ファイバ フォトダイオード
情報 (光信号) 光送信機
(電気信号→光信号変換器)
光受信機
(光信号→電気信号変換器)
情報源
(電気信号) 伝送情報
(電気信号) レーザ
光通信用
半導体光源モジュール
(強度変調)
高周波電気信号 給電モジュール
図1.3 光通信システムの構成例
1.2 研究目的
1.2.1 半導体光源チップ(半導体レーザ+光変調器)の高性能化
まず半導体光源チップの高性能化について説明する。本研究では、半導体光源チップと して、電界吸収型変調器集積分布帰還型レーザ(Distributed feedback laser integrated with Electro-absorption modulator: EA-DFB レーザ)[1-1,2]を研究対象とした。図 1.4 に EA-DFBレーザの模式図を示す。EA-DFB レーザの動作原理の詳細の説明について は、本論文の第2章で説明する。ここではEA-DFBレーザの研究目的について説明する。
またEA-DFBレーザの構造について簡単に説明する。
図 1.4 に示されているように、EA-DFB レーザは、同一のウェハに分布帰還型 (Distributed feedback: DFB)レーザと電界吸収型(Electro-absorption modulator: EA)変 調器を集積した半導体光源チップである。DFBレーザは、回折格子と呼ばれる周期的な屈 折率変化を与えることができる構造を用いて、単一の波長の光を選択して出射する。DFB レーザから出射された光は、DFBレーザの外部に集積されているEA変調器内部を伝搬さ れる。EA変調器は、電圧をオン/オフすることで、光を吸収(オフ)/透過(オン)させ変調をか ける機能を持つ。そのためEA変調器は、外部変調器、強度変調器とも呼ばれている。
本研究では、半導体光源チップの高性能化として、このEA-DFBレーザの高性能化を 目的とした。大きく3つの高性能化を目指したので以下に示す。
1. 消費電力の削減: EA-DFBレーザモジュールの消費電力を削減するために、
EA-DFBレーザの温度調節素子に頼らない動作の実現。
~
EA 変調器集積 DFB レーザ (EA - DFB*) レーザ
*DFB** laser integrated with electro-absorption modulator: EA-DFBレーザ
EA 変調器
DFB レーザ
**DFB (Distributed Feed Back): 分布帰還
変調後 光出力
ブラッググレーティング (回折格子)
(外部変調・強度変調)
変調前 光出力 高周波電気信号
図1.4 EA-DFBレーザの模式図
2. 長距離伝送化: EA変調器から出射される光の伝送可能な距離を伸ばす。変調光の位相 ゆらぎ(チャープパラメータ)の制御が重要。
3. 高速動作: 毎秒ギガビット(Gbit/s)級の電気信号に対応可能なEA変調器の実現。
これらの目的に対して、現状のEA-DFBレーザの使用用途と、その実用の際の技術的 課題について次節で述べる。
1.2.2 現状のEA-DFBレーザの使用用途と技術的課題
光通信システムは図 1.3 に示したように、光ファイバを用いて伝送を行う。光ファイバ の伝送損失の値は、1.55m波長の光に対して最小の値である約0.2dB/kmになる。このた め、光通信システムでは主に 1.55m 波長の搬送波を用いて通信を行う。このような理由
で、EA-DFBレーザも1.55m帯の波長で開発と実用が進んできた。
図 1.5 は光通信システムの一例と、そこで使用されている光源、光変調器の構成を示し ている。図 1.5(a)は光通信システムのすみわけを示している。光通信システムは、伝送距 離とコストに応じて光源と光変調器を使い分けている。コアネットワークと呼ばれる、シ ングルモードファイバ(single mode fiber: SMF) で80km以上伝送する光通信システムで
光源及び 光変調器
伝送 距離
波長 [m]
コア DFBレーザ
+LN変調器 * > 80 km 1.55 メトロ EA-DFB レーザ < 80 km 1.55
アク セス
DML **
EA-DFBレーザ 10 km 1.3
1.57
インター
コネクト EA-DFB レーザ < 2 km 1.55
変調速度:40 Gbit/s アクセス: 10 km
コアネットワーク : > 80 km
メトロ: 80-40 km 日本、北米
etcで使用
変調速度:10 Gbit/s
* LN変調器: LiNbO3変調器
** DML (Directly modulated laser):直接変調レーザ
(a) (b)
データセンタ: < 2 km (インターコネクト)
システム の種類
システム構成 の特徴
図1.5 光通信システムと使用光源、光変調器
(a) 光通信システムのすみわけ (b) 変調速度と使用光源、変調器
は、長距離伝送による変調光波形劣化を抑えることが可能なLiNbO3変調器(LN変調器)を 用いる。搬送波としては DFB レーザからの出射光を用いる。メトロネットワーク(伝送距
離SMF40-80km)の光通信システムでは、波形品質よりコストを重視し、1.55m帯波長の
EA-DFB レーザが使用されている。アクセスネットワーク(伝送距離 SMF10km 程度)で は 、 メ ト ロ ネ ッ ト ワ ー ク よ り さ ら に コ ス ト を 重 視 し て 、 直 接 変 調 レ ー ザ(Directly
Modulated Laser: DML)とEA-DFBレーザが登り回線、下り回線で分けて使用されてい
る。これらメトロ・アクセスネットワークで使用されているEA-DFBレーザには、消費 電力の削減と長距離伝送化が求められている。
一方、近年、データセンタ内の光通信の使用用途も増大している。これは Google や
Facebookに代表されるインターネットサービス会社のデータ処理用途で、PCラック間や
ビル内でのデータ処理とデータ通信で使用される光通信である。この用途はインターコネ クト用途ともよばれ、伝送距離がSMF2km以下と短いが、毎秒40Gbit/sの変調速度が要 求されている。そして、この用途に対しても EA-DFB レーザが使用されている。この
EA-DFBレーザには高速動作化と低コスト化が同時に求められている。
将来、インターコネクト用途の光通信の伝送距離が伸びていき、もともと低コストで高 速動作という特徴を武器に、アクセスネットワーク、メトロネットワークと融合していく という見方もある。このためEA-DFBレーザの消費電力の削減、長距離伝送化、高速動 作、低コスト化の実現は重要な課題であると考えられる。
1.2.3 EA-DFBレーザの低消費電力化の課題
本節では、EA-DFBレーザの低消費電力化の課題について説明する。通常、EA-DFB レーザは高周波モジュールに搭載されて使用されている。高周波モジュールの高性能化に 関しては、インターコネクト用途で小型化・高速動作化・低コスト化の検討が進められて おり、その内容については次節で詳しく述べる。ここではEA-DFBレーザモジュールの 消費電力の削減のための課題と、課題解決のアプローチを述べる。
図1.6はEA-DFBレーザモジュールの一例とその断面図を示している。(a)はEA-DFB
レーザモジュールの写真、(b)は EA-DFB レーザモジュールの断面図を示している。(b) に示したように、EA-DFB レーザモジュールには、EA-DFB レーザチップ、ドライバ IC、温度調節素子(温調素子)、1stレンズ、アイソレータが搭載されている。EA-DFB レ ーザから出射される光は、1stレンズでコリメート光に変換され、アイソレータを通り、モ ジュール外部の2ndレンズで光ファイバに集光される。
EA-DFBレーザモジュール全体の消費電力は、EA-DFBレーザチップ、ドライバIC、
温調素子の消費電力の合計となる。従来のEA-DFBレーザチップは広い温度範囲で一定 の特性を確保することが難しかったため、温調素子を用いて、チップ温度を一定に保ちな がら駆動する必要があった。しかし温調素子を使用することが、モジュール全体の消費電 力を大幅に増大させてしまっていた。EA-DFBレーザチップの消費電力は、DFBレーザ 部とEA変調器部消費電力の合計で求めることができる。各部の一般的な消費電力は、
DFBレーザ部消費電力: 約100 mA×1.5 V = 0.15 W EA変調器部消費電力: 約15 mA × 3 V = 0.045 W
であるため、EA-DFBレーザチップの消費電力は約0.2 W程度である。
表1 EA-DFBレーザチップ動作温度と温調素子の一般的な消費電力値
cooled semicooled uncooled EADFBチップ
動作温度
25℃ 固定
50℃
固定 制御無 温調素子
消費電力 1~2 W 0.6W
程度 無
*EA-DFBレーザチップ消費電力0.2 W程度 EA-DFB
レーザチップ
温度調節素子(温調素子) 光出射方向 ドライバIC
(a)
(b)
EA-DFBレーザチップを搭載
高周波モジュール
2ndレンズ アイソレータ
1stレンズ
図1.6 (a)EA-DFBレーザモジュール写真 (b) EA-DFBレーザモジュール断面図
一方、表 1 は EA-DFB レーザチップの動作(駆動)温度と温調素子の消費電力の関係を 示している。温調素子の消費電力は、EA-DFB レーザチップの動作温度と、外気温度の 差にも依存する。図は市販の一般的な温調素子を用いた場合の消費電力値を示している。
25CでEA-DFBレーザチップを使用する場合、温調素子の消費電力は約1~2Wとなる。
温調素子の消費電力が一般に最小となる 50C での使用(Semicooled 動作)においても、温 調素子はEA-DFBレーザチップの約3倍の電力を必要とする。このことから温調素子に 頼らずに動作可能なEA-DFBレーザチップを実現し、無温調動作(Uncooled動作)が実現 できれば、非常に大きな消費電力の削減が可能であることがわかる。EA-DFB レーザチ ップの無温調動作を実現するためには、EA-DFB レーザチップが広い温度範囲で特性劣 化無く使用可能であることが要求される。
1.2.4 高周波モジュールの高性能化と課題
1.2.2 節でインターコネクト用途の EA-DFB レーザモジュールの高速動作と低コスト
化の要求について述べた。この用途の高周波モジュールは、図 1.7 に示したように、光送 信機から送られてくる40Gbit/sという高速電気信号を低損失でEA-DFBレーザチップま で給電するために、従来は高周波コネクタや高周波ケーブル(以下両者を合わせて「高周波 部品」と略す)を用いた構成になっていた。しかしながら、高周波部品に頼る構成では、高 周波モジュールの大きさやコストが高周波部品の規格値で規定されてしまう問題があった。
本節では、40Gbit/sの高速電気信号を、高周波部品に頼らずにEA-DFBレーザチップ まで給電するための課題と課題解決の方法を述べる。
本研究では、40Gbit/s の動作を実現するために、高速電気信号を伝搬する高周波信号 線路全体の伝搬損失の低減と反射の抑制の実現を課題とする。
光送信機
高速電気信号 (40 Gbit/s) k コネクタ
図1.7 高周波モジュールの課題説明図
図 1.8 は本研究の高周波モジュールの模式図である。従来の高周波モジュールに対して 大幅な小型化・低コスト化が実現可能な TO(Transistor Outline)-CAN を用いての
40Gbit/s動作を目指した。光送信機から給電されてくる高速電気信号は、青線の矢印方向
に伝搬され、EA-DFB レーザチップに給電される。図 1.9 は高速電気信号の伝搬線路の 模式図を示している。高速電気信号は、高周波配線板、同軸ピン、高周波配線板、ワイヤ の順に伝搬されEA-DFBレーザチップに入力される。
本研究では、高速電気信号の反射を抑制するために、図 1.9 に示した各部の特性インピ ーダンスが50になるような、信号線の幅・厚さ、配線板の材質、同軸ピンの太さ、同軸 ピン絶縁部の太さ・材質、について述べる。信号線路において、特性インピーダンスが50
から不整合の箇所があると、伝搬される高速電気信号に対して反射が生じ、入力電気信号 強度を劣化させてしまうからである。また各部の特性インピーダンスだけではなく、各部 の接続部でのインピーダンス不整合を抑制するために、接続方法を提案し、その接続方法 の有効性を数値計算により示す。具体的には、
1. 低損失な高周波配線板の設計
2. インピーダンス不整合を抑制する高周波配線板とTO-CANの同軸ピンの接続法
について述べる。
EA-DFBレーザチップ TO CAN*
TO CAN*: Transistor Outline 缶の略語
高速電気信号 40Gbit/s方向 同軸ピン
高周波配線板 高周波配線板
変調後 光出力
高速電気信号 40Gbit/s方向
図1.8 本研究の高周波モジュールの模式図
接続部
高周波配線板 同軸ピン 高周波配線板 EA-DFBレーザチップ
50 50 50
ワイヤ
図1.9 高速電気信号の伝搬線路の説明図
1.3 従来の研究経過と本研究の目的
1.3.1 動作温度範囲拡大にむけた従来技術と本研究の位置づけ
1.2.3節で述べたEA-DFBレーザモジュールの消費電力削減を実現するために、各研究
機関でEA-DFBレーザチップの高温動作及び動作温度範囲の拡大が報告されている。変
調速度10Gbit/sにおいては、最初のEA-DFBレーザチップの動作温度範囲拡大の報告は、
2003年に報告された[1-3]。この報告では、1.3m波長のEA-DFBレーザチップを10C から 85C で動作させている。この報告では、全ての温度で EA 変調器に印加する変調振 幅バイアス(Vpp)は一定に保ちながら、EA変調器に印加する逆バイアスのDCバイアス(Vb) は、温度の上昇に対して低バイアス側に変化させる、バイアスオフセット法(Voltage offset 法)を用いて広い温度での動作を実現している。その後、同様にバイアスオフセット法を用 いて、異なる構造の1.3m波長のEA-DFBレーザの広温度範囲動作の報告がされている [1-4,5]。
一方、変調速度10Gbit/sにおける、1.55m波長のEA-DFBレーザチップの広温度範 囲動作の最初の報告は2007年に報告された[1-6]。この報告では1.55m波長のEA-DFB レーザチップを 15Cから 95Cの範囲で温度変化に対して Vpp及びVbを変化させながら 動作させている。しかし先行して実用化されている直接変調レーザ(Directly Modulated
Laser: DML)チップの動作温度範囲に着目すると、より広い温度範囲での動作が報告され
ている[1-7,8,9]。具体的には0Cより低い温度(-45C[1-9]、-20C[1-7])から100Cより 高い温度までの範囲の動作が報告されている。
本研究では、1.55m 波長の EA-DFB レーザチップの動作温度範囲を、従来は報告が なかった0Cより低い温度まで広げることを目的とした。
光通信で使用されるEA-DFBレーザの特性は光出力、消光比、動作帯域、チャープパ ラメータ、変調光波形の形状などで多面的に評価される。低温時と高温時では、これらの 特性の中のどの特性が劣化してくるかは異なる。そして各特性はそれぞれがトレードオフ の関係にあり、どの特性を向上させれば広い温度範囲で動作可能と述べることが難しい。
(例えば、光出力を多く得るために EA 変調器の印加バイアス Vbを小さくすると、消光比
が小さくなる。) だが確かなことは、広い温度範囲で動作可能な EA-DFB レーザの実現 にはDFBレーザ部は従来より高温下で高光出力が要求され、EA変調器には従来より低温 下で高消光比が要求されることである。従来に比べ高温下で高い光出力を得、低温下で高 い消光比を得るため、本研究ではInP 基板に整合する InGaAlAs(Al系)材料を用いてチッ プ作製を行った。Al系材料は従来のInGaAsP(P系)材料に比べ伝導帯のバンドオフセット
(Ec)が大きく、価電子帯のバンドオフセット(Ev)が小さい特徴を持つ[1-10]。そのため高 温下で、レーザ(Laser Diode: LD)部の量子井戸(Multiple Quantum Well: MQW)構造に注 入した電流(電子と正孔)が発光に寄与できずに MQW からあふれ出るオーバーフローの効 果を抑制でき、高温下の光出力の劣化を抑制することが出来る。一方、変調器として Al 系材料を使用した場合、MQW 構造での電子の波動関数の閉じ込めが強いために、消光比 を大きく取ることができる。だがAl系材料は、半導体の加工方法の報告が少なく、そのた め加工プロセス自体が未確立であった。
このような背景に立って、本研究では従来は加工が難しいとされていたAl系材料を用い て、DFB レーザ部と EA 変調器部[1-11]を作製した。EA-DFB レーザチップの構造とし ては、LDのMQW層にEA変調器のMQW層をバットジョイント(butt joint: BJ(突合せ)) 接続した構造を採用した。Al系材料を用いたBJ接続方法の加工プロセスは報告が無かっ たため、まず加工方法の実現を目指した。そしてDFBレーザ部とEA変調器部を独立に設 計・高性能化し、変調速度 10Gbit/sで-25~100C の温度範囲でSMF80km 伝送を実現 した[1-12,13]。またBJ構造に比べ、簡便な作製方法で実現可能な装荷型構造についても、
チップ設計・作製・評価を行い、良好な特性を確認した。本論文では Al 系材料を用いた DFBレーザ及びEA変調器の設計・チップ作製方法・動作特性について述べる。
1.3.2 高周波モジュールの小型化にむけた従来技術と本研究の位置づけ
1.2.2 節、1.2.4 節でインターコネクト用途の高周波モジュールの高速動作化・低コスト
化の重要性とその技術課題について説明した。この用途のEA-DFBレーザモジュールに
は 40Gbit/s という高速動作が要求される。そのため、モジュールの内部に搭載される
EA-DFB レーザチップの高速動作化及び、チップまでの高速電気信号の低損失な給電が 課題となる。まずそれぞれの課題に対して、現在までの各研究機関の開発状況について説 明する。
1.55m波長のEA-DFBレーザチップの40Gbit/s動作は、従来は固定温度で報告され
てきた[1-14,15,16,17]。これらの報告の高周波モジュールは、標準化で規格化されている XLMD(40Gbit/s Miniature Device)タイプ(18mm12mm8.9mm)[1-18]を主に用いてき た。しかしこのタイプの高周波モジュールは、40Gbit/s の高速電気信号を低損失に EA-DFBレーザチップまで給電するために、K コネクタ®やGPPO®コネクタを用いて電 気信号の給電を行っていた。近年、フレキシブル高周波ライン(Flexible printed circuit,
FPC)と呼ばれる高周波信号線を積層セラミックパッケージに接続する XMD(10Git/s
Miniature Device)タイプ[1-19]の高周波モジュールで、高周波部品に頼らずにチップまで の高速電気信号の給電を行う方法が報告されている[1-20,21,22]。これらは、積層セラミッ クのパッケージに、FPC を接続する方法で 40Gbit/s の電気信号を低損失でチップまで給 電し、良好な特性を報告している。
一方、近年、積層セラミックパッケージではなくTO(Transistor-Outline)-CANパッケ ージでの高速動作の報告がなされている。TO-CAN パッケージは金属の板からプレス加 工のみで作製することが可能である特徴を持ち、その結果積層セラミックパッケージに比 べ低コスト化や小型化、量産に適するという利点を持つ。図1.10は各タイプの高周波モジ ュールのサイズを示している。
現在までに、TO-CANパッケージを高周波モジュールとして用いて、10Gbit/sの動作 報告 [1-23,24]及び25Gbit/sの動作報告がされている[1-25]。
これらの報告を踏まえ、本研究ではTO-CANパッケージを用いて40Gbit/s動作の実現 を目的とした。パッケージの内部に搭載するEA-DFBレーザチップは40Gbit/s動作が可 能なように設計・作製した。EA-DFBレーザチップ自体の40Gbit/s動作実現のための設 計についても、後で詳しく述べる[1-26]。また EA-DFB レーザチップまで高速電気信号 を給電するための高周波配線板は、低誘電率材料の液晶ポリマー(Liquid Crystal Polymer、
LCP)[1-27]を用いて、その特性インピーダンスが50になるように、高周波信号線路の幅
と配線板厚を最適化した。また、TO-CAN パッケージと高周波配線板の接続方法を新た に提案し、接続部でのインピーダンス不整合を抑制し、40Gbit/sの良好な特性を得ること ができたので後で詳しく述べる[1-28,29]。
0 500 1000 1500 2000 2500 3000
Volume [mm3 ]
Package Type Butterfly
[1-18] XLMD
[1-29]
TO-CAN [1-19] XMD 標準化済サイズ
図1.10 高周波モジュールの種類(名称)とサイズ
1.4 本論文の構成
本論文の構成は、全体で6章からなる。各章の関連を図1.11に示し各章の概略を述べる。
第1章は序論として、光通信におけるEA-DFBレーザの使用用途、各使用用途におけ る特性改善の要求について確認する。そして従来の研究について説明し、本研究の従来技 術に対する位置づけを明らかにする。そして本論文の構成について述べる。
第 2 章では、EA-DFB レーザの動作原理について物理を含めて説明する。そして、
EA-DFB レーザの高性能化を実現するための、設計パラメータの最適化の方法について 明らかにする。まず光導波路の解析法について整理する。ここでは、スラブ導波路のモデ ルを用いて、Maxwell方程式から結晶基板垂直方向の導波モードと等価屈折率について述 べ、半導体レーザを設計する上で重要なパラメータになる光閉じ込め係数や結合効率につ いて述べる。また、3 次元光導波路を設計する上で重要な等価屈折率法について述べる。
次に、1.55m波長帯で発光するInP基板上のInGaAsP材料及びInGaAlAs材料の屈折率
の導出法について整理する。その後、半導体レーザの各種構造について説明し、その動作 原理について述べる。また EA 変調器について、動作原理を説明し、長距離伝送を実現す るための最適化について説明する。EA 変調器の高速動作を実現するための構造について も明らかにする。また EA-DFB レーザの各種構造について説明し、InGaAsP 材料と
InGaAlAs材料を用いた従来報告の動作特性の比較を行う。
第 3 章では、BJ 型 EA-DFB レーザチップの動作特性について明らかにする。広い温 度範囲での動作の実現を目指して、Al系材料を用いることの利点について量子井戸構造の 実効的な障壁値を計算しながら説明する。DFBレーザの高温下での高出力化を実現するた めのMQW構造の最適化について、MQW周期数や障壁層のバンドギャップ波長などを変 化させた素子の特性を比較し、明確にする。DFBレーザの発振波長と利得ピークの設定に ついて、高出力化に向けた設計方法を明らかにする。EA 変調器部に関しては、広い温度 範囲で長距離伝送が可能となるようなMQW構造について、MQW周期数や、井戸層厚、
障壁層のバンドギャップ波長、第一量子準位からの実効的障壁値について明らかにする。
高速動作可能な EA 変調器の長さについて、素子容量と帯域を計算して求め、測定値と比 較する。Al系材料のエッチング工程について、エッチング溶液選定の注意点と実際の加工 形状を比較しながら明確にする。実際に作製したEA-DFBレーザチップの動作特性につ いて述べ、考察を加える。
第4章では、装荷型EA-DFBレーザチップの動作特性について明らかにする。装荷型 構造は BJ 型構造に比べ簡便な作製方法で実現できるため、作製工程短縮化による歩留ま
り向上、低コスト化が期待される。本構造のDFBレーザとEA変調器の間の結合効率を、
各々のリッジ導波路幅をパラメータとして最適化する。DFBレーザ部の高出力化について、
コア層の厚さを固定しながらMQW周期数を変化させた素子の特性比較を行う。本構造の 作製方法の特徴について述べる。実際に作製したEA-DFBレーザチップの動作特性につ いて説明し、考察を加える。
第5章では、第3章で作製したBJ型EA-DFBレーザチップを搭載したEA-DFBレ ーザモジュールの高性能化に関する取り組みについて説明する。ここでは高周波部品に頼
らずに、40Gbit/s動作を実現するための取り組みについて明らかにする。TO-CANパッ
ケージと高周波配線板を用いて40Gbit/s動作を実現するための、高周波配線板及び同配線 板とTO-CANパッケージの接続方法について説明する。高周波配線板に低誘電率材料を 用いることの有効性について説明する。高周波配線板とTO-CANパッケージの接続方法 について、本研究で提案した方法の従来方法に対する有効性を計算を用いて明らかにする。
実際に作製したTO-CANパッケージにEA-DFBレーザチップを搭載し、40Gbit/sの動 作特性を示す。
第6章では本論文を総括する。
第6章 結論 第2章・・EA-DFBレーザの基礎
動作原理
• DFBレーザ
• EA変調器
設計方法
• DFB部高出力化
• EA変調器・・高速動作、長距離伝送
本論文を理解する上で必要な知識
第3章
・・BJ構造での高性能化
Butt Jointプロセス
広温度範囲動作特性 [EA-DFBレーザチップに関して]
第4章
・・装荷型構造での高性能化
作製上の特徴
広温度範囲動作特性
[高周波モジュールに関して] 第5章・・小型パッケージ
設計
•高周波配線板
• TO-CANパッケージ
•接続法
40Gbit/s動作特性
図1.11 本論文の構成
第1章 参考文献
[1-1] M. Suzuki, Y. Noda, H. Tanaka, S. Akiba, Y. Kushiro, and H. Isshiki, “Monolithic integration of InGaAsP/InP distributed feedback laser and electroabsorption modulator by vapor phase epitaxy,” IEEE Journal of Lightwave Technology, vol.5, no.9, pp1277-1285, September 1987.
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[1-13] W. Kobayashi, M. Arai, T. Yamanaka, N. Fujiwara, T. Fujisawa, T. Tadokoro, K. Tsuzuki, Y. Kondo, and F. Kano, "Design and Fabrication of 10-/40-Gbit/s, Uncooled Electroabsorption Modulator Integrated DFB Laser with Butt-Joint Structure," IEEE Journal of Lightwave Technology, vol.28, no.1, pp164-171, January 2010.
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[1-15] K. Yoshino, T. Takeshita, I. Kotaka, S. Kondo, Y. Noguchi, R. Iga, and K. Wakita,
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[1-21] T. Yagisawa, and T. Ikeuchi, "Compact 40-Gbps EML module using broadband FPC connection technique," in Proc. OFC, San Diego, USA, 2010, Paper OThC3.
[1-22] T. Yagisawa, T. Watanabe, and T. Ikeuchi, “Compact 40-Gbit/s electroabsorption monolithically integrated DFB laser (EML) module integrated with a driver IC for very short reach application,” in Proc. OECC, Sydney, Australia, 2008, Paper WeC-1.
[1-23] N. Okada, T. Uesugi, A. Matsusue, T. Fujita, S. Takagi, T. Hatta, A. Sugitatsu, and H.
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[1-24] H. Yamamoto, M. Hirai, O. Kagaya, K. Nogata, K. Naoe, N. Sasada, and M. Okayasu,
"Compact and low power consumption 1.55-m electro-absorption modulator integrated DFB-LD TOSA for 10-Gbit/s 40-km transmission," in Proc. OFC, San Diego, USA, 2009, Paper OThT5.
[1-25] T. Ban, Y. Lee, S. Makino, H. Hayashi, H. Toyoda, M. Shishikura, T. Sugawara, S.
Tanaka, S. Tsuji, M. Aoki, M. Sasada, H. Takamatsu, H. Yamamoto, and M. Okayasu, "25-Gbps receiver for 100-Gbps ethernet employing cost-effective small coaxial package," in Proc. ECOC, Brussels, Belgium, 2008, Paper We 1.C.6.
[1-26] W. Kobayashi, T. Yamanaka, M. Arai, N. Fujiwara, T. Fujisawa, K. Tsuzuki, T. Ito, T.
Tadokoro, and F. Kano, "Wide temperature range operation of a 1.55-m 40-Gb/s electroabsorption modulator integrated DFB laser for very short-reach applications," IEEE Photonics Technology Letters, vol.21, no.18, pp1317-1319, September 2009.
[1-27] K. Tsuzuki, T. Ishibashi, T. Ito, N. Kikuchi, and F. Kano, "80 Gb/s InP Mach-Zehnder module using liquid crystal polymer (LCP) transmission line," in Proc. ECOC, Vienna, Austria, 2009, Paper 5.2.2.
[1-28] W. Kobayashi, K. Tsuzuki, T. Tadokoro, T. Fujisawa, N. Fujiwara, T. Yamanaka, and F.
Kano, “Large bandwidth TO-CAN module with LCP based transmission line as serial 40-Gb/s 1.3/1.55-m light source,” in Proc. ISLC, ThB4, Kyoto, Japan, September, 2010.
[1-29] W. Kobayashi, K Tsuzuki, T. Tadokoro, T. Fujisawa, N. Fujiwara, T. Yamanaka, and F.
Kano, "40-Gb/s operation of 1.3/1.55-m InGaAlAs electroabsorption modulator integrated with DFB laser in compact TO-CAN package," IEEE Journal of Selected Topics of Quantum Electronics in Semiconductor Lasers, accepted for publication.
第 2 章 EA - DFB レーザの基礎
2.1 はじめに
伝搬する光は、伝搬と共に回折現象によって、次第にビーム系が拡がっていく。光導波 路は、光を小さな断面積に閉じ込め、そしてその閉じ込めを長距離にわたって維持する機 能を持ち、半導体レーザや半導体光変調器にとって不可欠な機能である。EA-DFB レー ザもDFBレーザから出射される光を、EA変調器部まで伝搬し、変調し、そして出射する ため光導波路としての機能を有する。そのためEA-DFBレーザの動作原理を理解するた めには、光導波路について理解する必要が有る。光導波路は、図 2.1 のように光の伝搬方 向zに垂直な2つの方向x方向y方向の領域に光を閉じ込める機能を持つ。そのため光導 波路は、基本構造としては、光が閉じ込められて伝搬する屈折率の大きいコア層と、これ を 囲 む 屈 折 率 の 小 さ い ク ラ ッ ド 層 か ら な る 。 こ の 構 造 は DH 構 造(Double Hetero structure)とよばれている。
この光導波路の内部で光を発生させて伝搬させる機能を持つデバイスが半導体レーザで ある。DH構造の内部にいかに光を生成するか説明する。半導体レーザでは、DH構造をp
-i-nの層構造で結晶成長する。(別にn-i-pでも構わないが、ここでは一例としてp-
i-nの層構造を説明する。) この半導体レーザに順バイアスを印加し、電流を注入すると、
p 型半導体層側からは正孔が、n 型半導体層側からは電子が注入され、利得を持たせるこ とが出来る。図 2.2 は光導波路のエネルギーバンド模式図を示す。コア層に注入された電 子と正孔により反転分布が生じる。この反転分布とDH構造による光閉じ込めにより光の 増幅作用が生じ、その結果レーザ発振に至る。発光波長はコア層のエネルギーギャップ Egに対して、 [m]=1.2398/Eg [eV]で決まる。
以下2.2節では、光導波路をスラブ導波路(2次元平面導波路)と見なし、Maxwell方程式 から結晶基板垂直方向の波動方程式の導出までの過程を概説するとともに、EADFB レー ザの性能を理解する上で必要な光閉じ込め係数、結合効率について説明する。2.3 節では
1.55m波長で発光可能な代表的な材料であるInGaAsP/InP基板及びInGaAlAs/InP基板
の屈折率の導出法を概説する。2.4節では、各種半導体レーザの構造と特徴、ファブリペロ ーレーザとDFBレーザの発振条件について示す。2.5節では電界吸収型(EA)変調器の動作 原理について概説する。2.6 節では EADFB レーザの高性能化実現のための設計について 説明する。2.7 節では EADFB レーザの各種構造とその特徴を示し、InGaAsP 材料及び
InGaAlAs材料を使用する場合の特性について説明する.
なお、2.2節の参考図書は、[2-1,2,3,4]、2.3節の参考図書は、[2-5,6]がある。
x
y
z
コア層
クラッド層(結晶基板) クラッド層
y
屈折率分布 n0 n1
y
光強度分布
図2.1 半導体光導波路の模式図と屈折率分布、光強度分布
y方向位置
Energy Energy
コア層 (i層)
クラッド層 (n型) クラッド層
(p型)
伝導帯
価電子帯 Ec
Ev
Ec
Ev Energy gap
Eg
+++++
+++++
正孔
--- ---
電子
+++++
+++++
正孔
--- ---
電子
++
--
図2.2 平衡状態のバンド模式図及び順バイアス時のバンド模式図
2.2 光導波路理論 2.2.1 導波モード
DH 構造では、光は屈折率の高いコア層に閉じ込められて導波される。コア層とクラッ
ド層の境界で光が全反射される条件は、図2.3に示されている入射角が以下の条件を満た す必要が有る。
) ( sin
1 1 0
n n
c c
(2.1.1)
光導波路内の光は全反射を繰り返しながら伝搬されていくが、光線の傾きは(2.1.1)を満た す全てのの値が許されるわけではない。特別の角度の場合のみ伝搬可能となる.この離 散的な値の角度の光の形態を導波モードと呼ぶ。
まずスラブ導波路の導波モードが満たすべき条件を考える。半導体デバイスでは、結晶 基板と格子整合する材料をコア層上のクラッド層に用いるため、結晶基板とクラッド層が 同一の材料、つまり屈折率が同じ(図 2.3 の場合 n0)場合について考える。光線がクラッド 層で全反射される場合、反射の前後で位相シフトが生じる。この位相シフト量は
偏光それぞれに対して及びとすると、
cos ]
) / ( [ sin
tan 2
2 1 0 2
1
TE
n n (2.1.2)cos ] ) / (
) / ( [ sin
tan
2 2
1 0
2 1 0 2
1
n n
n n
TM
(2.1.3) で与えられる[2-2]。
コア層
n1 クラッド層
n0
結晶基板(下部クラッド層) n0
z y
x
伝搬方向
図2.3 光導波路の基本構造(スラブ導波路)
図 2.4 は導波モードを説明するための位相条件を示す図である[2-1]。赤で示された光線 が導波モードになるためには、青で示した光線と位相が整合しなければいけない。TE偏光 について考えた場合、赤で示した光線の位相は、位置 1 でTE変化し、位置 1 から位置 2 に移動するのにL1×k n1変化し、位置2で再度TE変化する。一方、青で示した光線の位 相は位置1'から位置2'に移動するのに、L2×k n1変化する。両者の位相差が2の整数倍に なる場合に、導波モードになることが出来る。よって数式で示すと、
cos /
1 2a
L (2.1.4)
2 cos cos
/
2 2a a
L (2.1.5) より、
m
L L
kn1( 1 2)2 TE 2 (m: 整数) (2.1.6) (2.1.6)を整理すると、
n n makn ] 2
cos
) / ( [ sin
tan 4 cos 2
2 1 0 2
1
1
(2.1.7)
さらに整理して、
cos 1 2 cos
) / ( ) sin
cos 2 2
tan(1 2
2 1 0 2
1
m n n
akn (2.1.8)
ただし、
2 1
2 0 2 1
2n n n
(2.1.9)
(2.1.8)の意味を考える。光導波路の構造 (クラッド屈折率、コア層屈折率、コア層厚)つま
り、(n0,n1,a)が与えられた場合、(2.1.8)を満たす特定の伝搬角のみが伝搬可能となる。平 面波の真空中における波長をとすると、コア層内での波長は/n1となり、波数は k n1と なる。
2a
波数: k n1 位置1
位置2 位置1’
位置2’
L1 L2
位置1-位置2間距離: L1 位置1’-位置2’間距離: L2
図2.4 導波モードを説明するための位相条件を示す図
そのためx方向及びz方向の伝搬定数は、
x方向: kn1cos (2.1.10) z方向: kn1sin (2.1.11) よって伝搬定数も離散的な値となる。
(2.1.8)において、
cos/ 2
と置いて整理すると、
)/ (cos 2
2 2
1 1
kn m
a
となる。横軸に、縦軸に(cos1 m/2)/ をプロットすると図 2.5 のようになる。プロ ット方法としては、例えばExcelを用いて、まずモード番号m (0,1,2,・・・・)の値を任意 に決め、その後、からまでの値の値に対して、(cos1m/2)/ の値を計算させる 方法がある。
縦軸(cos1 m/2)/ とvakn1 2/2の交点から、モード番号 m に対するの値mを 求めることが出来る。特にvvc /2の場合には、m=0の基底モードしか存在し得ないこ とが図 2.5 から分かる。光導波路がvcの値を与える構造の時に、その光導波路が単一モー ド導波路としての性質を有する。よってこのときのvcの値を、カットオフv値と呼ぶ。
0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0
0 2 4 6 8 10
2 3/2
(cos
-1 +m /2)/
m=0 1 2 3
4 /2
図2.5 伝搬定数を与える式の図
2.2.2 非対称スラブ導波路の導波モードと等価屈折率
本節では非対称スラブ導波路に対する、波動的な解析法について説明する。Maxwell方 程式[2-7]から、電界e、磁界hは
t e h
(2.2.1)
t h e
(2.2.2)
及びは媒質の誘電率及び透磁率である。取り扱っているモデルが誘電体光導波路である
ことを考慮し、 0n2,0と置き、さらにe E,hH と置き換えると、
t E H
0 (2.2.3)
t n E
H
2
0 (2.2.4)
と表される。ここで平面波の伝搬を考えるため、
) (
exp ) ,
(x y i t z
E
E (2.2.5)
) (
exp ) ,
(x y i t z
H
H (2.2.6)
と置くことができる。(2.2.3)及び(2.2.4)に、(2.2.5) 及び(2.2.6)を代入して整理すると、
(2.2.7)及び(2.2.8)が得られる。
y z x
伝搬方向
コア層n1 クラッド層
n0
クラッド層(基板) ns 2a
図2.6 非対称のスラブ導波路
z y x
y z
x
x y
z
H y i
E x E
H x i
E E i
H i E y i E
0 0 0
(2.2.7)
z y x
y z
x
x y
z
H n y i
H x H
H n x i
H H i
H n i H y i
H
2 0
2 0
2 0
(2.2.8)
図 2.6 のようなスラブ導波路ではE/y0,H/y0であるため、この条件を(2.2.7)
(2.2.8)に代入すると、2つの独立な電磁界モードが得られる。これらはTEモード及びTM
モードと呼ばれ、以下のように表すことができる。
TEモードは、
TE: E (0, Ey, 0) H (Hx, 0, Hz) 0 ) ( 2 2 2
2 2
y
y k n E
dx E
d (2.2.9a)
y
x E
H
0
(2.2.9b)
dx i dE
Hz y
0
(2.2.9c) TMモードは、
TM: E (Ex, 0, Ez) H (0, Hy, 0)
0 )
( 1 )
( 2
2 2
2 y Hy
k n dx dH n dx
d
(2.2.10a)
y
x H
E n2
0
(2.2.10b)
dx dH n
Ez i 2 y
0
(2.2.10c)
次にTEモードを例にとって、電磁界分布の求め方を示す。
(2.2.9a)の解は、x=±aでのEyの連続性を考慮して、
) (
)]
( exp[
) cos(
) (
) cos(
) ( )]
( exp[
) cos(
a x a x a
A
a x a x
A
a x a x a
A Ey
(2.2.11)
ただし、
2 2 2
2 0 2 2
2 1
ns
k n k kn
(2.2.12)
次に、Hzのx=±aでの連続性を考慮すると (2.2.9b)よりdEy/dxがx=±aで連続という条 件より、
) cos(
) sin(
) cos(
) sin(
a A
a A
a A
a
A (2.2.13)
(2.2.13)よりAを消去して整理すると、(2.2.14)が得られる。各記号の意味は(2.2.15)に示す。
b b b
m b b
v
tan 1 tan 1
1
2 1 1 (2.2.14)
2 2 1
2 0 2
2 2 1 2 2 1
2 2
s s
s s s e
n n
n n
n n ka v
n n
n b n
(2.2.15) x
n (屈折率) n0
n1 ns a
-a 0
図2.7 スラブ導波路の屈折率分布
ここで
ne k (2.2.16)
を考えている光導波路の等価屈折率という。(2.2.14)に着目すると、この式を満たすbが分 かれば、が分かり伝搬定数が分かる。また等価屈折率も(2.2.16)から求めることができる。
2.2.3 光閉じ込め係数
2.2.2節で求めたと(2.2.11)を用いて各部での電界分布が求まり、そして電界強度を求め
ることができる。全光強度(光電力)はコア層、基板、クラッド層での電界強度の合計から 求めることができる。そのため(2.2.11)から求まる、電界強度の合計と測定される光強度の 合計が等しいという条件から、(2.2.11)のAを求めることができる。
各層の光強度合計のうち、着目する層に存在している光強度の割合を、その層の光閉じ 込め係数と呼ぶ。TEモード及びTMモードのコア層の光閉じ込め係数は、
) (
| 1 | /
| 1 |
) (
|
| /
|
|
2 2
12 2
2 1
2 2
モード
モード
TM dx n H
dx n H
TE dx E dx E
y a
a y
y a
a y
(2.2.17)
ただしn12は図2.7の各領域で屈折率を変化させることを意味する。
今n0 nsの場合の、TEモードのコア層のを求めると、
) / 1
( b
v
b v
(2.2.18)
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1.0
正規化伝搬定数b
正規化周波数v
0.5
=0
=3
=3
=0
=3
=0
m=2 m=1
m=0
図2.8 スラブ導波路のTEモードの規格化周波数と規格化等価屈折率