浮
土
教
思
想
に
現
わ
れ
た
﹁力
﹂
の
信
仰
岡
邦
俊
一 宗 教 の 本 質 宗 敏 の 本 質 が 何 で あ る か、 に つ い て は 學 説 は 必 ず し も 一 致 し て い な い が、 私 は 廣 義 の ﹁ 力 信 仰 ﹂ を 以 て 宗 敏 の 本 質 と 考 え て い る。 ウ ィ リ ア ム ・ ゼ ー ム ス は ﹁ よ り 高 き カ と 適 當 な る 結 合 を な す こ と に よ つ て、 不 安 の 根 源 で あ る 不 正 か ら 救 い 出 さ れ る ﹂ を 宗 教 の 本 質 と 考 え た。 又、 G・F・ム ー ア は ﹁ 危 機 に 直 面 し た 人 間 が 持 つ 力 の 信 仰、 こ の 力 が こ の 世 の 安 寧 と 幸 幅 と を 決 定 す る ﹂ を 宗 教 の 本 質 と 考 え た。 か く て、 宗 教 感 情 な り 宗 敏 生 活 の 根 底 に は 常 に 人 間 の ﹁ 無 力 感 ﹂ か ら 出 獲 す る ﹁ よ り 高 き 力 ﹂ へ の 憧 れ、 奪 崇、 所 願 が 切 實 に 働 い て い る よ う で あ る。 人 間 に と つ て よ り 高 き 力 と 感 ぜ ら れ る も の こ そ、 宗 教 に 於 け る 崇 拝 封 象 と し て の マ ナ で あ り、 精 塞 で あ り、 無 限 者 で あ り、 聖 で あ り、 紳、 佛 で あ ろ う。 か か る 人 間 以 上 の 力 の 信 仰 な し に は 宗 敢 は 成 立 し 得 な い と 云 わ な け れ ば な ら な い。 こ の カ の 内 容 を 如 何 に み る か、 そ の カ が 人 間 の 中 に あ る 内 在 的 の も の か、 外 に あ る 超 越 的 の も の か、 等 に よ つ て 諸 宗 敏 は い く つ か の 類 型 に 分 類 さ れ よ う。 二 浮 土 敏 思 想 と 力 信 仰 私 は 既 に 宗 敢 研 究 の 一 六 六 號 に 於 て、 佛 敢 思 想 一 般 に 現 わ れ た 力 信 仰 に つ い て の 見 解 を 述 べ た。 今 こ こ で は 浮 土 敢 思 想 に 現 わ れ た こ の 力 信 仰 の 概 要 に つ い て 述 べ て み た い。 尚、 こ こ に は 紙 数 の 關 係 で、 出 來 る だ け 多 く の 事 例 と し て の 力 信 仰 の 具 髄 的 表 現 を 浮 土 敢 關 係 の 経 典、 論 繹 の 中 か ら 直 接 の 資 料 と し て 取 り 上 げ て み た い。 そ こ に は、 切 實 な る 人 間 の 無 力 感 か ら 出 議 す る 浮 土 敢 思 想 が、 如 何 に ﹁ 力 ﹂ へ の 憧 れ と 奪 崇 と を 中 心 と し て 展 開 し た か が 極 め て 明 か に、 而 も 生 き 生 き と 示 さ れ て い る。 ( 1 ) 智 力、 食 力、 慧 力、 忍 力、 善 力、 威 力、 十 力、 本 願 力、 因 力、 縁 力、 意 力、 願 力、 方 便 力、 常 力、 定 力、 多 聞 力、 施 戒 忍 辱 精 進 輝 定 智 慧 力、 通 明 力、 如 法 調 伏 諸 衆 生 力、 力 一 切 具 足、 威 紳 力、 諸 大 力 ( 無 量 壽 経 よ り ) ( 2 ) 佛 力、 法 藏 比 丘 願 力、 無 上 力、 心 力、 宿 願 力、 十 力 威 徳、 浄 土 敬 思 想 に 現 は れ た ﹁ カ ﹂ の 信 仰 ( 岡 )-279-浮 土 教 思 想 に 現 は れ た ﹁ 力 ﹂ の 信 仰 ( 瞬 ) 光 明 神 力 ( 観 無 量 壽 経 ) ( 3 ) 五 根 五 力 ( 阿 彌 陀 経 ) ( 4 ) 無 漏 根 力、 具 足 成 十 力、 佛 無 量 力、 本 願 力、 大 智 慧 力 ( 龍 樹、 易 行 品 ) ( 5 ) 佛 本 願 力 (天 親、 浮 土 論 ) ( 6 ) 佛 願 力、 如 來 神 力、 本 願 不 可 思 議 騨 力、 五 種 不 可 思 議 力、 大 願 業 力、 十 力 無 畏、 三 寳 力、 善 力、 構 佛 名 力、 嘗 在 神 力、 本 瓢 力、 五 種 功 徳 力 ( 曇 鷺、 論 註 ) ( 7 ) 卒 等 力、 大 心 力、 佛 本 願 力、 佛 神 力、 神 力 本 願、 神 力 廣 大 ( 同、 讃 阿 彌 陀 偶 ) ( 8 ) 紳 通 力、 大 乗 経 威 力、 一 念 之 力、 念 佛 三 昧 力 ( 道 紳、 安 樂 集 ) ( 9 ) 佛 願 力 ( 善 導、 観 経 玄 義 分 ) ( 10 ) 通 力、 善 友 力、 聖 力 ( 同、 観 経 序 文 義 ) ( 11 ) 聖 力、 願 力、 心 力 ( 同、 定 善 義 ) ( 12 ) 乗 彼 願 力 ( 同、 散 善 義 ) ( 13 ) 佛 願 力 ( 同、 法 事 讃 )。 ( 14 ) 願 力、 功 徳 力、 幅 力、 三 力、 佛 力、 佛 大 願 等 業 力 ( 同、 観 念 法 門 ) ( 15 ) 願 力、 佛 力、 繹 迦 如 來 力、 幅 善 根 力 ( 同、 般 舟 讃 ) ( 16 ) 因 此 得 力、 具 足 神 通 力、 無 上 力、 願 力、 佛 力、 大 悲 大 願 力、 智 力、 心 力、 宿 願 力、 掻 持 力、 小 力 申 力 大 力、 如 來 十 力、 如 來 自 在 力、 定 恵 力、 念 佛 功 力 ( 源 信、 往 生 要 集 ) ( 17 ) 佛 願 力、 佛 力 住 持、 願 力 ( 法 然、 撰 澤 集 ) ( 18 ) 願 力、 佛 力、 慈 悲 力、 智 恵 力、 三 昧 力、 威 神 力、 擢 邪 力、 降 魔 力、 信 力、 方 便 力、 弘 誓 力、 本 師 力、 善 力、 業 力、 功 徳 力、 食 力、 心 力、 聖 力、 編 力、 自 在 力、 脚 通 力、 忍 力、 因 縁 力、 六 波 羅 蜜 力、 稻 名 力、 大 降 魔 力、 天 眼 達 見 力、 天 耳 遙 聞 力、 他 心 徹 堕 力 ヽ 光 明 遍 照 撮 取 衆 生 力、 不 可 思 通 功 徳 力、 他 力、 本 願 力、 自 在 紳 力 ( 親 鷺、 教 行 信 謹、 行 巻 ) 如 來 加 威 力、 大 悲 鷹 恵 力、 信 力、 自 力、 方 便 力 ( 同、 信 巻 ) 善 力、 李 等 力、 大 願 業 力、 三 昧 棘 力、 神 力 加 勧 ( 同、 誼 巻 ) 具 足 十 力、 知 諸 根 力、 不 可 思 議 力、 功 徳 力、 業 力、 善 佳 持 力、 業 力、 龍 力、 暉 定 力、 佛 法 力 ( 同、 眞 佛 土 巻 ) 自 力 假 門、 自 力 心、 横 超 他 力、 佛 力、 佛 願 力 ( 同、 化 身 土 巻 ) 以 上 は 私 が こ れ ら の 経 典、 論 繹 を 通 讃 し て メ モ し た も の で あ つ て、 こ れ で そ の 全 部 を 紹 介 し 得 た と は 思 わ な い。 そ れ に し て も、 こ れ ら の 経 典、 論 繹 の 中 に こ れ 程 多 く の 表 現 が ﹁ 力 ﹂ に つ い て な さ れ て い る こ と は 驚 嘆 せ ざ る を 得 な い。 そ こ に は 人 間 の 力 が い か に 無 力 で あ つ て、 佛、 本 願 の 力 が い か に 強 力 な も の で あ る か が 理 解 さ れ る で あ ろ う。 而 も、 同 一 の 表 現 が 同 一 の 書 中 に 幾 同 と な く 繰 り か へ さ れ て 居 り、 殊 に、 佛 本 願 力、 佛 願 力 等 は 十 敷 同 も 同 一 表 現 を 以 て く り か へ さ れ て あ る こ と は 注 目 に 値 い す る で あ ろ う。 浄 土 敢 思 想 は、 人 間 の 側 に 於 け る 一 切 の ﹁ 力 ﹂ を 否 定 す る と こ ろ
-280-に 出 護 す る も の と さ れ て い る ひ も し 人 間 の 側 に 於 て、 佛 に な る 力、 さ と り を 得 る 力、 佛 性 を 實 現 す る カ、 信 ず る 力、 等 々 の 所 謂 す べ て の 人 間 力、 人 力、 自 力 が 肯 定 さ れ る な ら ば ﹁ 絶 封 他 力 ﹂ と 云 わ れ る 浄 土 教 思 想 は 成 立 し 得 な い で あ ろ う。 か く て 浄 土 教 は ﹁ 人 力 ﹂ を 否 定 し て、 ﹁ 佛 力 ﹂ を 仰 ぎ、 信 じ、 佛 力 に 乗 托 し、 一 切 を 佛 力 に 心 底 か ら 委 ね る と こ ろ に 成 立 す る も の で あ る。 三 浄 土 教 思 想 の 根 本 的 理 解 私 は ﹁ 力 信 仰 ﹂ の 立 場 に た つ て 一 鷹 漂 土 教 思 想 に 現 わ れ た 力 信 仰 の 資 料 的 整 理 を し た の で 訪 る が、 こ の よ う な 浮 土 教 思 想 の 力 信 仰 を 理 解 す る に 當 つ て、 一 つ の 大 き な 問 題 が 残 さ れ て い る よ う に 思 わ れ る の で あ る。 そ れ は、 浄 土 敏 思 想 の 根 本 的 理 解 に と つ て、 從 來 よ り 專 門 の 宗 學 者 の 間 で も は げ し い 論 職 の な さ れ た 問 題 で あ る。 魅即 ち、 私 が 以 上 に 於 て 列 學 し た 力 信 仰 の こ の ﹁ カ ﹂ が 全 面 的 に 人 間 の 側 に 於 て 否 定 さ れ る と の 傳 統 的 解 繹 に つ い て で あ る。 一 見 し て な る 程 漂 土 教 思 想 に 現 わ れ た こ の 力 は 全 く 外 的、 客 観 的、 超 越 的 力 で あ つ て、 人 間 の 側 に 認 め ら れ た 力 で は な い よ う で あ る。 即 ち、 絶 封 の 他 力 で あ つ て、 こ の 思 想 を 代 表 す る 親 鷺 に あ つ て は、 人 間 が た だ ﹁佛 の 願 力 と し て の 救 濟 力 を 信 じ て 念 佛 す る 生 活 を 説 い た の で あ る。 こ の 際 特 に 注 目 す べ き こ と は、 救 濟 九、 本 願 力 が 人 間 の 外 な る 力、 他 力 で あ る こ と は 勿 論 で あ る が ﹂ こ の 救 濟 か 本 願 力 を ﹁ 信 ﹂ じ、 念 佛 し、 ﹁ 構 名 ﹂ す る こ と ま で も 佛 の 側 の 力 の 働 き か け、 本 願 力 の 廻 向、 他 力 の 廻 向 で あ る と な し た 鮎 で あ る。 全 く の 他 力 の 作 働 で あ る と な す の で あ る。 こ れ が 從 來 よ り の 傳 統 的 解 繹 の よ う で あ る。 も し そ う だ と す れ ば、 信 ず る 力 も 、 念 佛 す る 力 も 人 間 に は な く て、 佛 の 側 よ り の 廻 向 で あ る と す る な ら ば、 果 し て そ こ に 宗 教 的 救 い と 云 う も の が 人 間 の 側 に あ つ て 生 々 と、 ひ し ひ し と 感 ぜ ら れ る で あ ろ う か。 そ れ は 佛 の 一 人 相 撲 で あ つ て、 人 間 は 宗 敏 の 場 か ら 完 全 に 隔 離 さ れ た 形 と は な ら な い で あ ろ う か。 ラ ジ オ や テ レ ビ の ス ゥ イ ッ チ を い れ る こ と、 電 波 を 調 整 す る こ と ま で も 人 間 の 側 に は 認 め ら れ な い、 と 云 つ た よ う な ﹁ 絶 封 他 力 廻 向 の 信 仰 ど 救 濟 ﹂ を 果 し て 宗 敢 と し て、 い の ち の 救 い と し て 實 感 す る こ と が 出 來 る で あ ろ う か。 眞 宗 學 の 根 本 問 題 と し て、 こ の 鮎 は 今 一 度 反 省 さ れ な け れ ば な る ま い。 も と も と 宗 教 と は、 何 ら か の 形 式 に 於 て、 廣 義 の 神 と 人 間 と の 關 係 で あ り、 内 在 が 超 越 化 す る か、 超 越 が 内 在 化 す る こ と で あ る と 云 え よ う。 而 も 佛 敏 は キ リ ス ト 敢 型 の 宗 教 と 異 な り、 人 間 が 佛 と な り、 内 在 が 超 越 化 す る 類 型 の 宗 教 で あ る こ と を 思 う 時、 浮 土 敏 思 想 の み が 例 外 で あ つ て は な ら な い。 如 來、 本 願、 他 力、 超 越 が 内 在 化 す る が 如 き、 紳 中 心 圭 義 的、 從 つ て、 キ リ ス ト 敢 と 一 見 し て 何 ら 異 な る な き 浄 土 敢 思 想 の 根 底 に は、 ど こ か に 内 在、 佛 性、 自 力 が 超 越 化 す る が 如 き、 キ リ ス ト 敢 と は 異 な つ 浄 土 教 思 想 に 現 は れ た ﹁ 力 ﹂ の 信 仰 ( 岡 )
-281-浮 土 教 思 想 に 現 は れ た ﹁ 力 ﹂ の 信 仰 ( 岡 ) た、 人 間 中 心 圭 義 的 要 素 が 何 ほ ど か 存 在 し な け れ ば な ら な い。 そ れ は た と い 生 地 の ま ま で は 存 在 し な い と し て も、 所 謂 ﹁ 他 力 の 廻 向 ﹂ ﹁ 信 心 佛 性 ﹂ を 媒 介 す る と 云 う 間 接 的 方 法 に よ つ て、 人 間 性 の 中 に 佛 性 が 成 立 す る と 云 わ ね ば な ら な い。 こ の 際 蝕 り に も 廻 向 や 他 力 を 強 調 し す き る た め に、 こ の よ う な 廻 向 や 他 力 を 受 容 す る 人 問 の 側 の 何 ら か の ﹁ 力 ﹂ の 内 在 を 無 視 し て は な ら な い。 そ の 何 ら か の 力 と は 三 髄 ど の よ う な も の で あ ろ う か。 抽 象 的 に は そ れ は 人 間 の ﹁ 圭 髄 性 ﹂ で あ り、 具 髄 的 に は そ れ は 人 間 の ﹁ 宗 敏 燈 験 ﹂ そ の も の で あ る と 申 さ ね ば な ら な い。 廻 向 や 他 力 を 受 容 す る 力 ま で も 否 定 し、 人 間 の 圭 髄 性 と 宗 教 髄 験 を 否 定 す る な ら ば、 如 何 な る 宗 敢 も 成 立 し 得 な い で あ ろ う。 人 間 に は こ の よ う な ﹁ 宗 敢 す る 心 ﹂ が 本 來 あ つ て こ そ、 む し ろ 他 力 や 廻 向 の 宗 敢 と し て の 浄 土 敏 思 想 が 成 立 し 得 る も の で あ つ て、 こ れ を 逆 に 考 え る と ﹁ 逆 立 ち し た 人 間 ﹂ と な る で あ ろ う し、 又 そ こ に は 嚴 密 な 意 味 で の 宗 敬 生 活 は あ り 得 な い。 と も あ れ、 浄 土 教 思 想 の 中 で 從 來 全 的 に 否 定 さ れ て 來 た ﹁ 人 間 性 の 中 の 佛 性 ﹂ に つ い て は 充 分 に 検 討 す る 必 要 が あ り は し ま い か。 印 ち、 人 間 性 の 中 に 如 來、 本 願、 佛 性 を 受 け 容 れ る 力 が 全 く な い で あ ろ う か、 に つ い て の 傳 統 的 解 繹 に つ い て ﹁ 力 信 仰 ﹂ の 立 場 か ら 私 は 問 題 を 提 起 し た の で あ る。