シリーズ:成長戦略としてのコーポレートガバナンス
資本市場の環境変化:高まる被買収リスク
深澤 寛晴 EY総合研究所株式会社 未来経営研究部 上席主任研究員EY Institute
29 October 2014はじめに
安倍政権は日本経済の再生に向け、金融・財政政策に続く第三の矢として成長戦略を掲げて おり、その中でコーポレートガバナンス改革を打ち出している。これは日本企業のグローバル競 争力強化に資本市場の力を生かそうとする同政権の意図を反映しており、企業(経営者)に資本 市場との良好な関係の構築を促すものと考えられる。これを踏まえてEY総合研究所では、「シリ ーズ:成長戦略としてのコーポレートガバナンス」として関連する情報を発信している。 本稿では日本企業を取り巻く資本市場の環境変化について、金利低下・カネ余り、企業規模、 株式市場の評価および株主構成といった被買収リスクに関連する要因に注目して概観する。被 買収リスクに注目するのは、資本市場との関係構築と密接な関係にあることに加え、近年、フィ ナンシャル・バイヤーおよびストラテジック・バイヤー両方の視点から同リスクの上昇を示す環境 変化が多く見られるためだ。EY | Assurance | Tax | Transactions | Advisory EYについて EYは、アシュアランス、税務、トランザクションおよびアドバイザリーな どの分野における世界的なリーダーです。私たちの深い洞察と高品質 なサービスは、世界中の資本市場や経済活動に信頼をもたらします。 私たちはさまざまなステークホルダーの期待に応えるチームを率いる リーダーを生み出していきます。そうすることで、構成員、クライアント、 そして地域社会のために、より良い社会の構築に貢献します。 EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバル・ネットワ ークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは 法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、 英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。詳しくは、 ey.com をご覧ください。 EY総合研究所株式会社について EY総合研究所株式会社は、EYグローバルネットワークを通じ、さまざ まな業界で実務経験を積んだプロフェッショナルが、多様な視点から先 進的なナレッジの発信と経済・産業・ビジネス・パブリックに関する調査 及び提言をしています。常に変化する社会・ビジネス環境に応じ、時代 の要請するテーマを取り上げ、イノベーションを促す社会の実現に貢 献します。詳しくは、eyi.eyjapan.jp をご覧ください。
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EY総合研究所株式会社 03 3503 2512 [email protected] <専門分野> ► コーポレートガバナンス ► IR ► 敵対的買収対応世界的な金利低下≒カネ余り
最初に世界的な金利低下に注目する。フィナンシャル・バイヤーを含む投資家にとって長期金 利はリスクフリー・レートであり、投資を検討する際の損益分岐点に相当する。高金利下ではリス クが高いあるいはリターンが低いため投資に値しないと判断される買収案件であっても、低金利 下では判断が変わる可能性がある。金利の低下は被買収リスクに直結する要因と言える。 図表1に主要国の長期金利(10年国債利回り)を示す。米英独では2000年代には4%を超え ていたが2010年代は2%台へと大きく低下している。特にドイツでは直近は1%を割り込んでい る。従前から金利水準の低い日本では低下幅は欧米ほどではないものの、金利が低下している 点では同様だ。このような金利低下と密接に関係にあり、かつ見逃せない要因が世界的な資金量の増大であ る。ボストン・コンサルティング・グループの調査(※1)によると、世界の資産運用会社の運用資 産額は2002年の32.6兆米ドルから2012年の62.4兆米ドルへと10年間でほぼ倍増している。 同社が直近に行った調査(※2)では2013年には68.7兆米ドルに達している。東証の株式時価 総額は4.5兆米ドル(※3)だから、資産運用会社が運用資産の6.6%を用いるだけで東証上場 企業を全て買収できる計算になる。 これまでにない低リターンあるいは高リスクを許容できる巨額の投資資金が資本市場を飛び回 っている現状をひと言で表現すると、まさに「カネ余り」ということになろう。カネ余りの中、懸念さ れるのは一部の投資ファンドなどが議決権の過半数取得を目指すといった狭義の被買収リスク だけではない。通常の機関投資家であっても、運用資産額が増えれば特定企業の株式を大量 保有するケースが増えることが想定される。その場合、株価低迷が長期化すれば、株式を大量 保有する機関投資家と経営陣の間で意見が対立する可能性は否定し難い。実際、機関投資家 が面談や書簡などを通じて経営改善を要求する、株主総会における議決権行使で会社提案に 反対する、といった行動に出ることも珍しくないようだ。投資ファンドのみならず(通常の)機関投 資家を含むフィナンシャル・バイヤーによる、広義の被買収リスクが高まっていると考えるべきだ ろう。
(※1)The Boston Consulting Group ”GLOBAL ASSET MANAGEMENT 2013: Capitalizing on the Recovery”より。
(※2)The Boston Consulting Group “GLOBAL ASSET MANAGEMENT 2014: Steering the Course to Growth”より。なお、
“GLOBAL ASSET MANAGEMENT 2014…”では本文中の2012年の数値を改訂している(60.9兆米ドル)。2002年の数値には
言及していないが改訂されている可能性があり、データの連続性については注意が必要。 (※3)世界取引所連盟より。 資本市場の環境変化:高まる被買収リスク EY Institute 03 EY Institute 02 資本市場の環境変化:高まる被買収リスク 図表2に東証の時価総額の世界の株式市場に占める割合の推移を示す。2006年から11年ま ではリーマン・ショック直後を除くとほぼ一貫して低下傾向が続き、水準は従前の10%前後から 6%台へと切り下がっている。安倍政権誕生後の株価上昇局面でも円安や米国の株高に相殺さ れたこともあって従前の水準を取り戻すには至っていない。株式市場の単位で見た場合、日本 企業の相対的な規模(時価総額)が小さい、すなわち日本企業より規模の大きな外国企業が多 い状況が常態化していることの表れと言える。 次に、個別企業の単位で見てみよう。図表3に先進国の主要な株式市場における上場会社の 平均時価総額を示す。東証は1,313百万米ドルと平均の53%に止まり、全18市場の中で6番 目に小さい。NYSE、NADAQ OMX(ともに米国)、ユーロネクスト(フランスなど)、ドイツ、および ロンドンといった主要市場に比べると、際立って小規模な企業が集まっていることが分かる。 このように個別企業で見た場合でも日本企業の相対的な規模が小さいということは、事業会社 を中心とするストラテジック・バイヤーによる被買収リスクを示す、大きな要素の一つとして指摘 できよう。 図表1 主要国における長期金利(10年国債利回り)の推移 資料:QUICKよりEY総合研究所作成 注:直近は2014年10月15日 1.44% 4.42% 4.62% 4.15% 0.89% 2.50% 2.61% 2.00% 0.49% 2.14% 1.95% 0.71% 0.0% 0.5% 1.0% 1.5% 2.0% 2.5% 3.0% 3.5% 4.0% 4.5% 5.0% 日本 米国 英国 ドイツ 2000年代平均 2010年以降平均 直近 図表2 東証時価総額の世界の株式市場に占める割合 資料:世界取引所連盟よりEY総合研究所作成 注:同連盟非メンバーを含む 5% 6% 7% 8% 9% 10% 11% 12% 2 0 0 3 2 0 0 4 2 0 0 5 2 0 0 6 2 0 0 7 2 0 0 8 2 0 0 9 2 0 1 0 2 0 1 1 2 0 1 2 2 0 1 3 2 0 1 4 図表3 上場企業の平均時価総額(100万米ドル,2014年9月末) 資料:世界取引所連盟よりEY総合研究所作成
* ユーロネクストはパリ、フランス、オランダ、ベルギー、ポルトガル。NAXDAQ OMX Nordicはスウェーデン、デンマー ク、フィンランドなど
企業規模:日本企業は相対的に小さい
近年、多くの業界で世界的な合従連衡が進み、諸外国の企業に比べて日本企業が規模で劣 後するケースが増えている。M&Aにおいて「小が大を飲み込む」ケースがないわけではないが、 規模の大きな企業が小さな企業を買収するケースが大半なのが実際である。特にストラテジッ ク・バイヤーによる被買収リスクを想定する場合、相対的な企業規模はM&Aおよび被買収リスク を考える上で重要な要因の1つと言える。ここでは、企業の規模(時価総額)に注目して最近の状 況を見てみよう。 340 460 465 595 1,267 1,313 1,616 1,624 1,673 1,926 1,929 2,499 2,765 2,804 3,708 3,753 6,389 9,863 0 2,000 4,000 6,000 8,000 10,000 BME(スペイン) テルアビブ ニュージーランド TMX(カナダ) ウィーン 東京 オスロ シンガポール NASDAQ OMX Nordic* ロンドン 香港 平均 NASDAQ OMX(米国) ドイツ ユーロネクスト* アイルランド SIX(スイス) NYSE(米国)このような金利低下と密接に関係にあり、かつ見逃せない要因が世界的な資金量の増大であ る。ボストン・コンサルティング・グループの調査(※1)によると、世界の資産運用会社の運用資 産額は2002年の32.6兆米ドルから2012年の62.4兆米ドルへと10年間でほぼ倍増している。 同社が直近に行った調査(※2)では2013年には68.7兆米ドルに達している。東証の株式時価 総額は4.5兆米ドル(※3)だから、資産運用会社が運用資産の6.6%を用いるだけで東証上場 企業を全て買収できる計算になる。 これまでにない低リターンあるいは高リスクを許容できる巨額の投資資金が資本市場を飛び回 っている現状をひと言で表現すると、まさに「カネ余り」ということになろう。カネ余りの中、懸念さ れるのは一部の投資ファンドなどが議決権の過半数取得を目指すといった狭義の被買収リスク だけではない。通常の機関投資家であっても、運用資産額が増えれば特定企業の株式を大量 保有するケースが増えることが想定される。その場合、株価低迷が長期化すれば、株式を大量 保有する機関投資家と経営陣の間で意見が対立する可能性は否定し難い。実際、機関投資家 が面談や書簡などを通じて経営改善を要求する、株主総会における議決権行使で会社提案に 反対する、といった行動に出ることも珍しくないようだ。投資ファンドのみならず(通常の)機関投 資家を含むフィナンシャル・バイヤーによる、広義の被買収リスクが高まっていると考えるべきだ ろう。
(※1)The Boston Consulting Group ”GLOBAL ASSET MANAGEMENT 2013: Capitalizing on the Recovery”より。
(※2)The Boston Consulting Group “GLOBAL ASSET MANAGEMENT 2014: Steering the Course to Growth”より。なお、
“GLOBAL ASSET MANAGEMENT 2014…”では本文中の2012年の数値を改訂している(60.9兆米ドル)。2002年の数値には
言及していないが改訂されている可能性があり、データの連続性については注意が必要。 (※3)世界取引所連盟より。 資本市場の環境変化:高まる被買収リスク EY Institute 03 EY Institute 02 資本市場の環境変化:高まる被買収リスク 図表2に東証の時価総額の世界の株式市場に占める割合の推移を示す。2006年から11年ま ではリーマン・ショック直後を除くとほぼ一貫して低下傾向が続き、水準は従前の10%前後から 6%台へと切り下がっている。安倍政権誕生後の株価上昇局面でも円安や米国の株高に相殺さ れたこともあって従前の水準を取り戻すには至っていない。株式市場の単位で見た場合、日本 企業の相対的な規模(時価総額)が小さい、すなわち日本企業より規模の大きな外国企業が多 い状況が常態化していることの表れと言える。 次に、個別企業の単位で見てみよう。図表3に先進国の主要な株式市場における上場会社の 平均時価総額を示す。東証は1,313百万米ドルと平均の53%に止まり、全18市場の中で6番 目に小さい。NYSE、NADAQ OMX(ともに米国)、ユーロネクスト(フランスなど)、ドイツ、および ロンドンといった主要市場に比べると、際立って小規模な企業が集まっていることが分かる。 このように個別企業で見た場合でも日本企業の相対的な規模が小さいということは、事業会社 を中心とするストラテジック・バイヤーによる被買収リスクを示す、大きな要素の一つとして指摘 できよう。 図表1 主要国における長期金利(10年国債利回り)の推移 資料:QUICKよりEY総合研究所作成 注:直近は2014年10月15日 1.44% 4.42% 4.62% 4.15% 0.89% 2.50% 2.61% 2.00% 0.49% 2.14% 1.95% 0.71% 0.0% 0.5% 1.0% 1.5% 2.0% 2.5% 3.0% 3.5% 4.0% 4.5% 5.0% 日本 米国 英国 ドイツ 2000年代平均 2010年以降平均 直近 図表2 東証時価総額の世界の株式市場に占める割合 資料:世界取引所連盟よりEY総合研究所作成 注:同連盟非メンバーを含む 5% 6% 7% 8% 9% 10% 11% 12% 2 0 0 3 2 0 0 4 2 0 0 5 2 0 0 6 2 0 0 7 2 0 0 8 2 0 0 9 2 0 1 0 2 0 1 1 2 0 1 2 2 0 1 3 2 0 1 4 図表3 上場企業の平均時価総額(100万米ドル,2014年9月末) 資料:世界取引所連盟よりEY総合研究所作成
* ユーロネクストはパリ、フランス、オランダ、ベルギー、ポルトガル。NAXDAQ OMX Nordicはスウェーデン、デンマー ク、フィンランドなど
企業規模:日本企業は相対的に小さい
近年、多くの業界で世界的な合従連衡が進み、諸外国の企業に比べて日本企業が規模で劣 後するケースが増えている。M&Aにおいて「小が大を飲み込む」ケースがないわけではないが、 規模の大きな企業が小さな企業を買収するケースが大半なのが実際である。特にストラテジッ ク・バイヤーによる被買収リスクを想定する場合、相対的な企業規模はM&Aおよび被買収リスク を考える上で重要な要因の1つと言える。ここでは、企業の規模(時価総額)に注目して最近の状 況を見てみよう。 340 460 465 595 1,267 1,313 1,616 1,624 1,673 1,926 1,929 2,499 2,765 2,804 3,708 3,753 6,389 9,863 0 2,000 4,000 6,000 8,000 10,000 BME(スペイン) テルアビブ ニュージーランド TMX(カナダ) ウィーン 東京 オスロ シンガポール NASDAQ OMX Nordic* ロンドン 香港 平均 NASDAQ OMX(米国) ドイツ ユーロネクスト* アイルランド SIX(スイス) NYSE(米国)ここでは株式市場の評価に注目する。企業の実力の割に株式市場の評価が低い場合、すな わち株価が割安で放置されている場合には被買収リスクの高まりが懸念される。 図表4は横軸にROE(自己資本利益率=業績)、縦軸にPBR(株価純資産倍率=市場の評価) をとり、安倍政権誕生前後の2011年と2013年で比べたものだ。通常は業績が高いほど市場の 評価も高くなるから概ね右上がりの分布になっている。 2011年には12カ国中9カ国でROEが10%を超える中、日本企業は5.6%と平均(12.1%)を 大きく下回る最下位となっている。PBRも同様に外国企業を大きく下回る1.0倍に止まっている。 全体の傾向線をやや下回っているから割安ではあるものの、概ね低業績に見合う低評価(低株 価)ではあったと言える。 次に2013年を見ると欧州やカナダの企業でROEが大きく低下した結果、10%を超えるのは6 カ国へと減っている。日本企業は平均(10.4%)には及ばないものの12カ国中8番目の9.0%へ と大きく改善しているが、PBRは1.2倍と小幅な改善に止まっている。その結果、2011年と比較 すると傾向線からの乖離は0.4倍から0.7倍へと大きく拡大した。業績の改善に比べると株式市 場の評価の改善は限定的であり、したがって株価は一層割安になっていると言える。 足元のROEが改善しているのに株価が割安となっているのは、株式市場がROE改善の持続性 を疑問視しているためと解される。潜在的な買収者が、今後もROE改善は持続する、あるいは自 らが買収することによりROE改善を持続させることができる、と考えた場合、その買収者の目に は日本企業は極めて「お買い得」な状態に映るだろう。 EY Institute EY Institute 04 資本市場の環境変化:高まる被買収リスク
株式市場の評価
資本市場の環境変化:高まる被買収リスク 05 最後に持ち合い解消について指摘したい。従前、日本企業の株主構成は株式持ち合いに代表 される安定株主が主体で、被買収リスクを意識する必要性は乏しかった。1980年代から今日に 至る長いトレンドの中で、日本企業の株主構成は安定株主中心から機関投資家中心へとシフト しており、被買収リスクを意識せざるを得ない環境になってきている。この点については拙稿 (※4)にて述べたため、本稿では従前は安定株主の代表格とされた金融機関の動向について 補足する。 図表5にリーマン・ショック以降の主要金融機関による政策保有株式(※5)の売却額の推移を 示す。2009年度の売却額は1.92兆円だったが、その後は徐々に減少し11年度には1.45兆円 に止まっている。当時は金融機関による持ち合い解消が一巡したとの見方もあった。 しかし安倍政権誕生後に株式市場が上昇に転じると、銀行を中心に売却額が増加に転じている。 またリーマン・ショック直後に比べると損保の売却額が増えている点も特徴として指摘できる。こ の5年間で売却額の累計は8.47兆円と東証の時価総額(※6)の2.6%に達しているが、今後、 株式市場の上昇局面が続けば金融機関による持ち合い解消はさらに進む可能性も指摘される。 (※4)<シリーズ:成長戦略としてのコーポレートガバナンス> 企業と資本市場の良好な関係の構築に向けて(総論) http://eyi.eyjapan.jp/knowledge/future-business-management/2014-10-01.html (※5)会計上、「その他有価証券」として処理されている株式。 (※6)この間の平均時価総額は320兆円。 図表4 主要国企業のROEとPBR 資料:Capital IQ、QUICK、及び有価証券報告書よりEY総合研究所作成 注:日本は日経平均株価(電力除く)、米国はS&P500、英国はFTSE100、フランスはCAC40、ドイツはDAX、香港は Hang Seng、豪州はS&P ASX200、カナダはS&P/TSX、スペインはMadrid Ibex35、オランダはAmsterdam AEX、ス ウェーデンはOMX Stockholm、スイスはスイスSMIの各指数の採用銘柄。暦年(日本のみ年度)。 日本 米国 英国 フランス ドイツ 香港 豪州 カナダ スペイン オランダ スウェーデン スイス y = 10.326 x + 0.862 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 0.0% 5.0% 10.0% 15.0% 20.0% (P B R 、 倍 ) (ROE) 【安倍政権誕生前(2011年)】 日本 米国 英国 フランス ドイツ 香港 豪州 カナダ スペインオランダ スウェーデン スイス y = 8.745 x + 1.053 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 0.0% 5.0% 10.0% 15.0% 20.0% (P B R 、 倍 ) (ROE) 【安倍政権誕生後(2013年)】株主構成:進む持ち合い解消
図表5 主要金融機関による政策保有株式売却額の推移(兆円) 資料:各社有価証券報告書よりEY総合研究所作成 注:会計上のその他有価証券の売却額 1.92 1.72 1.45 1.52 1.87 0.00 0.25 0.50 0.75 1.00 1.25 1.50 1.75 2.00 2.25FY09 FY10 FY11 FY12 FY13
生保 (上場大手2社) 損保 (大手3社) 銀行 (大手5行) か い り
ここでは株式市場の評価に注目する。企業の実力の割に株式市場の評価が低い場合、すな わち株価が割安で放置されている場合には被買収リスクの高まりが懸念される。 図表4は横軸にROE(自己資本利益率=業績)、縦軸にPBR(株価純資産倍率=市場の評価) をとり、安倍政権誕生前後の2011年と2013年で比べたものだ。通常は業績が高いほど市場の 評価も高くなるから概ね右上がりの分布になっている。 2011年には12カ国中9カ国でROEが10%を超える中、日本企業は5.6%と平均(12.1%)を 大きく下回る最下位となっている。PBRも同様に外国企業を大きく下回る1.0倍に止まっている。 全体の傾向線をやや下回っているから割安ではあるものの、概ね低業績に見合う低評価(低株 価)ではあったと言える。 次に2013年を見ると欧州やカナダの企業でROEが大きく低下した結果、10%を超えるのは6 カ国へと減っている。日本企業は平均(10.4%)には及ばないものの12カ国中8番目の9.0%へ と大きく改善しているが、PBRは1.2倍と小幅な改善に止まっている。その結果、2011年と比較 すると傾向線からの乖離は0.4倍から0.7倍へと大きく拡大した。業績の改善に比べると株式市 場の評価の改善は限定的であり、したがって株価は一層割安になっていると言える。 足元のROEが改善しているのに株価が割安となっているのは、株式市場がROE改善の持続性 を疑問視しているためと解される。潜在的な買収者が、今後もROE改善は持続する、あるいは自 らが買収することによりROE改善を持続させることができる、と考えた場合、その買収者の目に は日本企業は極めて「お買い得」な状態に映るだろう。 EY Institute EY Institute 04 資本市場の環境変化:高まる被買収リスク
株式市場の評価
資本市場の環境変化:高まる被買収リスク 05 最後に持ち合い解消について指摘したい。従前、日本企業の株主構成は株式持ち合いに代表 される安定株主が主体で、被買収リスクを意識する必要性は乏しかった。1980年代から今日に 至る長いトレンドの中で、日本企業の株主構成は安定株主中心から機関投資家中心へとシフト しており、被買収リスクを意識せざるを得ない環境になってきている。この点については拙稿 (※4)にて述べたため、本稿では従前は安定株主の代表格とされた金融機関の動向について 補足する。 図表5にリーマン・ショック以降の主要金融機関による政策保有株式(※5)の売却額の推移を 示す。2009年度の売却額は1.92兆円だったが、その後は徐々に減少し11年度には1.45兆円 に止まっている。当時は金融機関による持ち合い解消が一巡したとの見方もあった。 しかし安倍政権誕生後に株式市場が上昇に転じると、銀行を中心に売却額が増加に転じている。 またリーマン・ショック直後に比べると損保の売却額が増えている点も特徴として指摘できる。こ の5年間で売却額の累計は8.47兆円と東証の時価総額(※6)の2.6%に達しているが、今後、 株式市場の上昇局面が続けば金融機関による持ち合い解消はさらに進む可能性も指摘される。 (※4)<シリーズ:成長戦略としてのコーポレートガバナンス> 企業と資本市場の良好な関係の構築に向けて(総論) http://eyi.eyjapan.jp/knowledge/future-business-management/2014-10-01.html (※5)会計上、「その他有価証券」として処理されている株式。 (※6)この間の平均時価総額は320兆円。 図表4 主要国企業のROEとPBR 資料:Capital IQ、QUICK、及び有価証券報告書よりEY総合研究所作成 注:日本は日経平均株価(電力除く)、米国はS&P500、英国はFTSE100、フランスはCAC40、ドイツはDAX、香港は Hang Seng、豪州はS&P ASX200、カナダはS&P/TSX、スペインはMadrid Ibex35、オランダはAmsterdam AEX、ス ウェーデンはOMX Stockholm、スイスはスイスSMIの各指数の採用銘柄。暦年(日本のみ年度)。 日本 米国 英国 フランス ドイツ 香港 豪州 カナダ スペイン オランダ スウェーデン スイス y = 10.326 x + 0.862 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 0.0% 5.0% 10.0% 15.0% 20.0% (P B R 、 倍 ) (ROE) 【安倍政権誕生前(2011年)】 日本 米国 英国 フランス ドイツ 香港 豪州 カナダ スペインオランダ スウェーデン スイス y = 8.745 x + 1.053 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 0.0% 5.0% 10.0% 15.0% 20.0% (P B R 、 倍 ) (ROE) 【安倍政権誕生後(2013年)】株主構成:進む持ち合い解消
図表5 主要金融機関による政策保有株式売却額の推移(兆円) 資料:各社有価証券報告書よりEY総合研究所作成 注:会計上のその他有価証券の売却額 1.92 1.72 1.45 1.52 1.87 0.00 0.25 0.50 0.75 1.00 1.25 1.50 1.75 2.00 2.25FY09 FY10 FY11 FY12 FY13
生保 (上場大手2社) 損保 (大手3社) 銀行 (大手5行) か い り
本稿では被買収リスクの視点から、資本市場の環境変化についてまとめた。結論として金利低 下を含むさまざまな要因が、日本企業の被買収リスクの高まりを示しているのが現状と言える。 買収提案など被買収リスクが顕在化した場合には株主の支持がポイントとなるが、株式市場 がROE改善の持続性を疑問視している現状では、株主が買収者側を支持する可能性が存在す ることは否定し難い。このようなケースで企業(経営者)はIRにおいて独自の企業価値向上策を 掲げて対抗するのが通常だ。しかし、経営者は一般株主と利益相反の立場にあるから、これが 買収提案よりも株主共同の利益に資すると主張するため経営者から独立した社外役員等からの 支持が不可欠となる。 買収提案などの有事を想定すると、社内における危機対応体制の整備や買収防衛策導入な どの被買収リスクに限定した対応では不十分なことが分かる。平時からIR戦略およびコーポレー トガバナンスの整備・強化を含む、「点」ではなく「面」での対応が必要と言えよう。 EY Institute EY Institute 06 資本市場の環境変化:高まる被買収リスク
日本企業における対応
資本市場の環境変化:高まる被買収リスク 07 EY総合研究所では、企業が資本市場との関係を「面」で構築するためのご支援するため のサービス・メニューをご用意しています。弊社担当者あるいは表紙の”Contact”までお 問い合わせください。 <サービス・メニューの例> • コーポレートガバナンス強化 • IR戦略の策定・実行 • 被買収リスク対応シリーズ:成長戦略としてのコーポレートガバナンス
資本市場の環境変化:高まる被買収リスク
深澤 寛晴 EY総合研究所株式会社 未来経営研究部 上席主任研究員EY Institute
29 October 2014はじめに
安倍政権は日本経済の再生に向け、金融・財政政策に続く第三の矢として成長戦略を掲げて おり、その中でコーポレートガバナンス改革を打ち出している。これは日本企業のグローバル競 争力強化に資本市場の力を生かそうとする同政権の意図を反映しており、企業(経営者)に資本 市場との良好な関係の構築を促すものと考えられる。これを踏まえてEY総合研究所では、「シリ ーズ:成長戦略としてのコーポレートガバナンス」として関連する情報を発信している。 本稿では日本企業を取り巻く資本市場の環境変化について、金利低下・カネ余り、企業規模、 株式市場の評価および株主構成といった被買収リスクに関連する要因に注目して概観する。被 買収リスクに注目するのは、資本市場との関係構築と密接な関係にあることに加え、近年、フィ ナンシャル・バイヤーおよびストラテジック・バイヤー両方の視点から同リスクの上昇を示す環境 変化が多く見られるためだ。EY | Assurance | Tax | Transactions | Advisory EYについて EYは、アシュアランス、税務、トランザクションおよびアドバイザリーな どの分野における世界的なリーダーです。私たちの深い洞察と高品質 なサービスは、世界中の資本市場や経済活動に信頼をもたらします。 私たちはさまざまなステークホルダーの期待に応えるチームを率いる リーダーを生み出していきます。そうすることで、構成員、クライアント、 そして地域社会のために、より良い社会の構築に貢献します。 EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバル・ネットワ ークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは 法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、 英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。詳しくは、 ey.com をご覧ください。 EY総合研究所株式会社について EY総合研究所株式会社は、EYグローバルネットワークを通じ、さまざ まな業界で実務経験を積んだプロフェッショナルが、多様な視点から先 進的なナレッジの発信と経済・産業・ビジネス・パブリックに関する調査 及び提言をしています。常に変化する社会・ビジネス環境に応じ、時代 の要請するテーマを取り上げ、イノベーションを促す社会の実現に貢 献します。詳しくは、eyi.eyjapan.jp をご覧ください。
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