水溶 液 中の 酸 ・
塩 基 の構 造 と強度
加
治
有
恒*・ 中
原
勝*
Structure
and Strength
of Acid-Base
in Aqueous
Medium
Aritsune KAJI* and Masaru NAKAHARA*
水 に石 油 を加 えて か き まぜ て も,石 油 は水 に溶 け ない が,ア セ トン な ら水 に容 易 に溶 け る。 後者 の場 合 は,水 と溶 質 との 間 に何 か相 互 作用 が 働 い た に 相 違 ない 。 こ の 作用 が溶 媒 和(水 の とき水 和)で あ る。 フ ノ化物 イ オ ン F-は ア セ トニ トリル や ク ロ ロホ ル ム 中 で は 強 塩 基 で あ って1∼3),後 者 で は ジ ク ロ ロ カル ベ ン を生 ず るが,少 し で も水 が 加 わ る と,単 に 溶 解 す る だ けで あ る4)。ハ ロ ゲ ン化 物R-Xを 他 の ハ ロゲ ン化 物 イ オ ン で 置 換 す る (Fmkelstein反 応)と き の強 さ の序 列 は,ア セ トニ ト リ ル 中 で はF->Cl->Br->I-で,ハ ロゲ ン の電 気 陰性 度 の順 に な る が,水 中 で は全 く逆 に1->Br>Cl->F− で あ って,水 和 の影 響 は絶 大 で あ る。 水 中 で の酸 や 塩 基 の 反 応 を取 り扱 う場 合 は,常 に,水 和 が 決 定的 影 響 を及 ぼ す こ と を念 頭 に置 か ね ば な らな い 。 水 中 で の酸,塩 基 の 解 離 や,構 造 と強 度 に つい て,若 干 の 物 理 化 学 的解 析 を 通 じて,理 解 を深 め る こ とを試 み よ う。 1. 酸 ・塩 基 の 概 念 定 義 酸 は そ の水 溶 液 が 酸 味(す っぱ さ)を 示 し,金 属 をお か して水 素 を発 生 す る もの で あ る こ とが経 験 的 に知 られ て い た 。最 初,通 常 の 酸 の 多 くが酸 素酸 で あ る こ とか ら 帰 納的 に酸 とは 酸 素 を 含 む もの で あ る と考 え られ て い た 。後 に酸 とはむ し ろ水 素 を含 む こ とが 本質 で あ る と認 識 され る よ うに な った 。 酸,塩 基 の概 念 が どの よ うに発 展 して き た か を簡 単 に ま と めて み る。 1. Arrhenius の定 義 (1887年)* 酸 とは HCl や CH3CO2Hの よ うに 分子 内 にHを も ち,水 中で 水 素 イ オ ン を放 出 す る もの で あ り,塩 基 とは NaOHの よ うに 分 子 内 にOH基 を も ち,水 中 で水 酸 化 物 イ オ ン を放 出 す る もの で あ る 。H+とOH}に 着 目 して お り,こ の 定 義 か ら酸 と塩 基 との 反 応,H++OH→H2Oが"中 和 反 応"と 呼 ばれ, CH3CO2-+ H20→ CH3CO2H+OH一 が "加水 分 解 反 応"と 呼 ば れ る 。 2 Bronsted- Lowry の定 義 (1923年) 酸 とは プ ロ トン を放 出す る物 質 で あ り,塩 基 と はOH一 や ア ミ ンの よ うに プ ロ トン と結 合 す る物 質 で あ る。こ れ は プ ロ トンの 授 受 た け に着 目 した もの で,こ の 定 義 に よ って 塩 基 の 範 囲 が定 義1)の 揚 合 よ り広 くな り,プ ロ トン性 非 水 溶 媒 や 気 相 中 で の反 応 に も酸 ・塩 基 の概 念 の 適 用 が 可 能 と な る。 この 定 義 は 次 式 (1) に集 約 され,こ の関 係 で結 ば れ る一組 の 酸 ・塩 基 が"共 役 酸 塩 基対"で あ る 。 こ の基 本 式 あ るい は そ の組 み 合 わ せ に よ って,中 和 反 応,加 水 分 解 反 応 は も ちろ ん,他 の プ ロ トン移動 平 衡 を取 り扱 うこ とが で き る。 た とえ ば, CH3CO2H⇒ CH3CO2-+H+の 平 衡 で, CH2CO2ーは,OH基 を もた な くて も CH3CO2Hの 共 役 塩 基 で あ る。ま た,非 水 溶 媒 中 で CH3CO2H+H+⇒ CH3CO2H2+の プ ロ トン移 動 平 衡 が あ る とき,CH、CO、H はHを も っ てい るが, CH3CO2H2+の 共役 塩 基 と呼 ばれ る 。 こ の よ うに酸 ・塩 基 の 区 別 は," 反 応 が 指 定 され た とき"初 めて 明 確 と な り,プ ロ トン の供 与体 で あ り,受 容 体 で も あ る物 質 を両 性 で あ る とい う。 3 Lewis の 定 義 (1938年)** 酸 とは H+, BF3, 遷 移 金 属(ま た は そ のイ オ ン)の よ うに非 共 有 電 子対 を 受 け入 れ 得 る 空軌 道 を有 す る も の で あ り,塩 基 とは 非共 有 電 子対 を有 す る もの で あ る 。両 者 は反 応 して 共 存 性の 配 位 結 合 を形 成 す る***。 こ れ は電 子 対 の 授 受 だけ に着
* 京都大学理学部化学教室
* Department of Chemistry, Faculty of Science, Kyoto University
* 1884年 とす る説 もあ る。 ** 1923年 とす る説 もあ る。
*** 結 合 に 関 す る こ の 言 葉 は多 分 に非 現 実的,形 式 的 てあ る。 H2O + HCl→ H2O++ Cl-, Al2Cl6+ 2COCl2→ 2AlCl4-+ 2COCl+
とい った イオ ン反 応 をLewls流 に 解 釈 す る には,そ れ ぞ れ H2O HCI(水 素 結 合 に よ る),Cl3Al = ClCOCl(配 位 結 合 に よ る)と い っ
た一 時 的付 加 化 合 物 を仮 想 しな い と うま くい か ない5)。
798 有 機 合 成 化 学 第 33 巻 第 11 号 (1975) (2) 目 した もの で,こ の定 義 に よ ってHを もた ない 酸,“Le-wis酸"が 生 まれ る 。塩 基 の範 囲 は拡 張 され ず ほ とん ど 定 義2)と 同 じで あ る。 非 プ ロ トン性 非 水 溶 媒,気 相, 固 相 中 で の反 応,金 属 錯 体 形 成 反 応,触 媒 作 用 等 に酸 ・ 塩 基 の概 念 が適 用 し得 る よ うに な る。 4. さ らに 拡 張 さ れ た定 義Lewisが 電 子対 に 着 目 した こ とを も う一 歩 進 め る と,一 電 子 授 受 に まで酸 ・塩 基 概 念 を拡 張 で き る可 能 性 が あ る。 この 考 え 方 に よれ ば 「す べ て の カ チ オ ン は酸 で,す べ て の ア ニ オ ン は塩 基 」の とも い え よ う。 しか し,プ ロ トン を放 出 す る酸 に は,中 性 分 子 も あれ ば カ チオ ン もア ニ オ ン もあ る。一 電 子 授 受 に 関 し て は,酸 化 ・還 元 の 概 念 との類 似 性 も生 じて く る。Cramら に よ っ て,不 完 全 な酸 化 還 元 反 応 ともい う べ き電 荷 移 動 錯体 形成 反 応 の 一 部 に対 して,こ の よ うな 拡 張 定 義 が 利用 され,π 酸 ・π塩 基 の名 称 が生 み 出 され て い る。 II. 酸 ・塩 基 の 強 さ 1. プ ロ トン移 動 平 衡 の 例 i. 水 の 電 離 平 衡 水 分 子,H2O中 の酸 素 は(sρ3混 成 軌 道 に よ り),さ ら に2分 子 の 水 と 正 四 面 体 角(約 109。)に 近 い 角 度 で水 素 結 合 を形 成 す る。 こ うして 形成 さ れ る三 次 元 的 水 の 構 造 は,熱 運 動 に よ って 激 し くか く 乱 され,早 い 速 度 で 消 滅 生 成 し液体 と して の特 徴 を保 つ 。 この 水 分 子 間 の,方 向 性 を も った配 位 数 の低 い(多 くの 液 体 金 属 の 配 位 数 は8∼107)で あ る が,Nartenら8) に よれ ば 水 の そ れ は,4.4)特 異 な分 子 間 相 互 作 用 が 水 を きわ めて興 味 深 い9'10)液体 と してい る 。酸 ・塩 基 と し て の 水 は,i-式(1)に 対 応 して 次 の 式(1),(2)で 示 され るよ うな (1) (2) 早 い可 逆 反 応 を示 す 両 性 物 質 で あ る。 式(1),(2)よ り式 (3)を 得 る 。 (3) 式(3)は 水 のautoprotolysisを 表 わ し,式 中 のH3O+, OH一 は さ ら に 水 和 を う け て い る 。 た と え ば,プ ロ ト ン の 水 和 はEigen流11)に 描 く と,次 式(4)の よ う な 分 子 構 造 で 表 わ さ れ る(O-H結 合 とO…H水 素 結 合 と は "cooperative"に 相 互 に 変 換 さ れ て い る の で ,両 者 の 区 別 を 省 略 した)。 常 温 常 圧 に お け る プ ロ ト ン の 水 和 の エ ン タ ル ピ ー は,-269.8kcal/mol12)で,無 限 希 釈 で の 部 分 分 子 容 は,-5.4cm3/mol13)で あ る 。 前 者 は 水 中 の フ. (4) ロ トンが エ ネ ル ギ ー 的 に極 め て安 定 で あ る こ と を意 味 す る。 後 者 は1個 のO…H水 素 結 合 形 成 に伴 う体 積 収 縮 の 程 度 で しか な い 。 プ ロ トン が例 外 的 に微 小 な イ オ ンで あ る こ とを考 え る と,プ ロ トン が4分 子 の 水 に非 局在 化 し た(4)の 構 造 は真 実 に近 い とい え るか も知 れ な い 。 しか し,プ ロ トン の水 和 の 実 体 は 実 証 され て お らず,構 造 式 (4)で 表 わ され るHgO4+も さ らに 水 和 を受 け て い よ う。 この よ うに 水 和 され た プ ロ トン をH3O+,あ るい はH9O4+ と書 い て も真 に正 しい記 述 に は達 しない の で,水 和 され てい る こ と を念頭 に おい てH+と 略 記 す る。水 和 を厳 密 に考 慮 した 電 離 平 衡 は式(5)で 示 され る 。 (5) しか し,あ ま り濃 くない 溶 液 の場 合,平 衡 の 表 現 を式 (5)→(3)→(1)と 簡 略 化 す る の が通 例 で あ る。 式(1)に 対 して (6) 式(6)の 平 衡定 数 が定 義 され る。 溶 液 が あ ま り濃 くな い とき水 の活 量7(H2O)は 一 定 の 温 度 と圧 力 下 で 不 変 とみ なせ る の で,式(7)のKw (7) が定 義 され る。 このKwが 水 の イ オ ン積 で,H+,OH一 の濃 度 が 極 め て低 い とき は(活 量 ≒ 濃 度 で あ る か ら) (8) と書 け る。Kwのmolal scal(1kg溶 媒 中 のモ ル 数) に よ る値 を 表1に 示 した 。水 に酸 ・塩 基 が溶 け てい な い と き,電 気 的 中性 の原 理 に よ り 〔H+〕=〔OH-〕 で あ る 表 1 水 の イオ ン積(Kw)
(3) 水溶液 中の酸 ・ 塩基の構造 と強度 799 か ら,式(8)よ り式(9)を 得 る 。
(9)
表1の 値 に式(9)を 適用 す れ ば,25℃,1atmで 酸 性 度 の尺 度pHの 原 点 で あ る中 性 点 は7で あ り,温 度 圧 力 の上 昇 に よ り6の 方 側 に 移 動 す る こ とが わ か る。 ii. 酸 の 電 離 平 衡 脂 肪 族 モ ノ カル ボ ン酸 水 溶 液 中 で は式(10)∼(13)の よ うな 化 学 平 衡 が考 え られ る。 (10) (11) (12) (13) 酸 濃 度 が ∼5×10-2M以 下 で は 平 衡 式(10)が 支 配 的 で あ り,そ れ 以 上 の 濃 度 で は 分 子 間 水 素 結 合 に よ る 会 合 を 含 む 平 衡(11∼13)も 共 存 す る 。 プ ロ ピ オ ン酸,酪 酸 で は0.7∼1.0Mの 範 囲 で さ ら にH2A3ーや,(HA)3等 の trimerも 生 じ る16,17)。 ア ル キ ル 基 が も っ と 長 い 有 機 酸 や 塩 基 は,親 水 基 の 水 和 と疎 水 基 の 水 和 と の バ ラ ン ス から,c.m.c.(critical micelle concentration)以 上 で は, さ ら に 高 次 の 会 合 ミ セ ル が 形 成 さ れ る 。 ま た,濃 い 溶 液 中 で 生 じ るdilner (AH)2に つ い て は 分 子 間 水 素 結 合 に よ り (14) さ らに式(14)の 平 衡 が存 在 す る こ とが知 られ て い る17' 18) 。 一 般 に 酸HAの 強 さ は 平 衡 定 数(acidity , ionization, dissociation, instability constant等 と 呼 ば れ る)Ka
(15) の 大 小 に よ って 比 較 され る。 希 薄 溶 液 の活 量 係 数 につ い て は,γ(HA)=1と 仮 定 され,γ(H+),γ(A-)はDebye-Huckel理 論 式 等 に よ っ て求 め るの が 普 通 で あ る。 プ ロ トン濃 度 の 近 似 計算 等 にお い て は,活 量 係 数 をす べ て1 と仮 定 す る場 合 が 多 い 。 この とき式(15)か ら 式(16) を得 る。 (16) この 式 は 〔A-〕/〔HA〕が1前 後 の とき,系 のpH変 化 を 最 小 にす る よ うな"緩 衝 作用"を 表 現 す る式 と して重 要 で あ る。 式(15)に 対 して熱 力 学 よ り式(17)が 与 え られ る。 (17) 式(16),(17)よ り式(18)を 得 る 。 (18) つ ま り,pK、 は酸 の標 準 状 態 にお け る電 離 のGibbs自 由エ ネ ル ギ ー 変 化 量 を2.303RTを1単 位 と し て 測 っ た,酸 強 度 に対 す る無 次 元 の尺 度 とい え る。25℃ 付 近 で は,1.4kca1/mo1の 標 準Gibbs自 由 エ ネル ギ ー 変 化 に よ っ てpKaは1,K。 は10変 化 す る 。い うま で も な く, 強 い 酸 はK、 が大 き く,pK、 が小 さい 。 表2に 脂 肪族 モ ノカ ル ボ ン酸 のpKa値 を例 示 した 。 とこ ろ で,あ ま り濃 くな いHCl,HNO3等 の強 酸 は水
中 で は1eveling effectに よ って,HA型 で は溶 存 せ ず,
すべ て酸H3O+に な っ て し ま うの で,上 に述 べ た水 中 の 平 衡 定 数 を 目安 に して強 さ を比 較 す る こ とが で き な い 。 水 よ りも酸 性 で低 誘 電 率 の 酢 酸 を溶 媒 と して電 離 を抑 制 して 比較 した結 果, (19) の順 で あ る とされ てい る20)。これ ら強 酸 の場 合,式(15) の 〔HA〕 は0に き わ め て近 い の で,あ えてpKa値 を 見 積 る と大 き な負 の値 とな る。 実 際 に,濃 厚 水 溶 液 のNMRに よ る プ ロ ト ン の 研 究21) Rarnanス ペ ク トル に よ る 対 称 ア ニ オ ン,NO3-の 研 究22)に よ っ て,HNO3のKaは ∼2×102(NMR),∼2× 10(Raman)と 推 測 さ れ て い る 。 他 の 種 々 の 酸 のpKa値 に つ い て は 文 献19,23∼25を 参 照 さ れ た い 。 iii. 塩 基 の 電 離 平 衡 有 機 塩 基 の 代 表 的 な も の は ア ミ ン 類 で あ る 。 水 中 で ア ミ ン は プ ロ トン 受 容 体 と し て 働 き,式 (20) (20) 表2脂 肪 族 モ ノ カ ル ボ ン 酸 のpKa19) (25℃, 1atm)
800 有 機合 成 化 学 第 33 巻 第 11 号 (1975) (4) の 平 衡 を もつ 。酸 の場 合 と 同様 に,濃 くな い 溶 液 で は, 塩 基 の 電 離 定数Kbは 溶 媒 の活 量 を一 定 とみ な して,式 (21)で 与 え られ る 。 (21) 一 方 塩 基B:の 共 役 酸BH+の 電 離 定 数Kaは 式(22) で 示 され る。 (22) 式(21),(22)よ り式(23)が,こ れ と 式(7)よ り式 (24)が 得 ら れ る 。 (23) (24) よ って 酸 も塩 基 もすべ てBronsted-Lowly流 に は,L 式(1)の プ ロ トン放 出形 式 で電 離 を表 現 す る こ とが で き る。 い くつ か の ア ミン のpKa値 を 表3に 示 した。い う ま で もな く,pKaが 大 き い ほ ど強 い 塩 基 で あ りそ の 共 役 酸 は 弱 い 酸 とな る 。 NaOH等 の 強 塩 基 は 強 酸 の 場合 と 同 様 に完 全 電 離 を 示 す 。 これ は水 のleveling efectに よ って,強 い 塩 基 が す べ てOHー とな る た め で あ る。 他 の 種 々の 塩 基 のpKa値 に つい て は文 献19,23,24, 26, 27を 参 照 され た い 。 iv. ジ プ ト ロ ン 酸 の 電 離 平 衡 表3の ジ ア ン モ ニ ウ ムH3+N(CH2)nNH3+や ア ン モ ニ ウ ム 酸H3+N-(CH,)n CO2Hは2個 の プ ロ トン を放 出 す る2塩 基酸 で あ る。 こ の 場 合 (a) (b) で示 され る よ うな4つ の 微 視 的 平 衡 定数,KA-Dが 存 在 す る が,状 態(a)と(b)と の 区 別 が む つ か し く,観 測 され る 巨視 的 平 衡 定 数 は次 の2つ で あ る。簡 単 にす る た め活 量 係 数 を省 略 す る と,K1a.K2aは そ れ ぞれ 式(26), (27)で 与 え られ る。 (26) (27) KA∼Dを 式(26),(27)に 代 入 す る と 式(28) (28) が得 られ る 。一 方 熱 力 学 的 状 態 量 は 最 初 と最 後 の状 態 に だ け依 存 す る か ら,式(29)が 成 り立 つ 。 (29) 式(17),(29)よ り式(30)を 得 る 。 (30) い ま式(31)の よ う に,状 態(a)と(b)と が 同 じ 自 由 エ ネ ル ギ ー を も つ と考 え る と, (31) こ の と き 式(28),(31)よ り式(32)の よ う に な る 。
(32)
一(CH,)バ が無 限 に長 く,1次 電 離 と2次 電 離 とが 互 い に干 渉 しない とき,KA=Kcと な るか ら,式(33)が 成 り立 つ 。 (33) 表3の 例 で は1次 電 離 と2次 電 離 のpKa値 の 差 は,式 (33)で 表 わ さ れ る0.6021よ り も 大 き い 。 ア ミ ノ酸 の 場 合,(a): H2N- (CH2) nCO2H, (b): H3+N-(CH2)nCO2-(zwitterion)の 両 状 態 が 存 在 す る 。 こ の 場 合 も式(26∼30)は 成 立 す る が,分 子 の 対 称 性 が な い か ら,KA≒KB,Kc≒KDで あ る 。 グ リ シ ン(n=1)の 場 合 〔b〕-2.6×105〔a〕 で あ り,他 の タ ン パ ク 質 を 形 成 す る ア ミ ノ 酸 も 中 性 分 子 〔a〕 よ り もzwitterion(b)の 方 が よ り安 定 で あ る29)。 ポ リ プ ロ ト ン酸 に 関 し て は 文 献28を 参 照 さ れ た い 。 v. 電 離 に 対 す る 温 度,圧 力 の 影 響 酸 の 解 離 定 数K 表 3 ア ミ ン の pKa19) (25℃, 1atm)(5) 水溶液中の酸 ・ 塩基 の構造 と強度 801 に対 す る温 度 係 数,圧 力 係 数 は, (34) (35) よ り,そ れ ぞれ,標 準 状態 に お け る エ ン タル ピー変 化, ΔH° と体 積 変 化 ΔV°に よ って支 配 され る 。電 離 定 数 に 対 す る温 度 の影 響 を表 わ す 式 と して は式(36) (36) が よ く使 わ れ る19,23)。 圧 力 の 影 響 に つ い て は, (37) 式(37)がEl'yanov-Hamannに よ っ て経 験 的 に見 出 さ れ,中 原 に よ って 理 論 的 に導 か れ た30)。常 温 常 圧 以 外 の 条 件 下 での 酸 ・塩 基 を取 り扱 う場 合 は,以 上 の式 が有 用 とな る 。詳 し くは 文献30∼32を 参 照 され たい 。 2. 平 衡 定 数 の 決 定 法 多 くの酸 ・塩 基 に つ い て 測 定 デ ー タ が あ るの で,何 か のKaを 知 りた い 場 合 は,ま ず デ ー タ を探 す 方 が早 い 。 測 定 値 が な い場 合,1)伝 導 度 法,2)セ ル 起 電 力 法,3)分 光 学 的方 法,そ の 他 を駆 使 して平 衡 定 数 を決 定 しな け れ ば な らない 。 この 場 合 方 法 を熟 知 しな けれ ば正 確 な値 を求 め る こ とは む つ か し い 。 それ に十 分 な説 明 を与 え る こ とは,本 稿 の 目的 で な い の で割 愛 す る。 測 定 をす る場 合 は,文 献24,29,31,33 お よび それ らに 引用 され た 論 文 が 良 い 参考 とな ろ う。 3. プ ロ トン移 動 平 衡 の 熱 力 学 水 中 の酸HAの 電 離 過程 は 図1に 示 す 通 り3つ の過 程 に 分解 して考 え る こ とが で き る。過 程(D)→(V)→ (S)と 過 程(W)と は等 価 で あ るか ら,熱 力 学 よ り式 (38∼40)が 与 え られ る。 (38) (39) (40) i. 気 相 で の 電 離 過 程(V)の 統 計 熱 力 学 図1に 示 され た気 相 で の酸 ・塩 基 平 衡 定 数 を簡 単 な統 計 熱 力 学 を 使 って導 い て み る 。統 計 力 学 にお い て は 平 衡 定 数 を式 (41)の よ うに分 子 の分 配 関 数9(分 配 関 数 に つ い て は 文 献35参 照)で 表現 で き る 。 (41) (42) 酸 の構 造 と強 度 を考 え る とき,プ ロ トン は共 通 で あ るか らK*の 分 子 構 造 に よ る差 違 を調 べ て み る 。並 進 運 動 の分 配 関 数 の 寄 与 につ い て は 式(43)で 表 わ され る。 (43) 分 子 が 古 典 的 剛 体 回 転 体(分 子 内 回 転 の寄 与 を無 視)と み なせ る と き,式(44)と な り (44) 分 子 内 の振 動 が 互 い に独 立 な 調 和振 動 子 とみ なせ る とき は式(45)が な りた つ 。 (45) 電 子 エ ネ ル ギ ー が各 結 合 に 分 離 して 考 え得 る とす れ ば (縮退 の ない 場 合)式(46)を 得 る。 (46) 式(43∼45)に つ い て 次 の よ う な 近 似 を 行 な う。 式(43) に お い て,プ ロ ト ン は 軽 い の で 他 の 原 子 の 質 量 の 和 に 対 し て 無 視 で き る。式(44)で も 同 様 に プ ロ ト ン が 軽 く小 さ い か ら(注,Ix= Σmir2ix),式(44)の 右 辺 第 一 因 子 は1に 近 い と す る 。 式(45)でA-の 各 振 動 数(vi)Aが 電 離 前 の(レ づ)HAと あ ま り変 ら な い とす れ ば,右 辺 第 一 因 子 は1に 等 しい 。 式(46)に お い てA一 内 の 各 結 合 エ ネ ル ギ ー(解 離 エ ネ ル ギ ー+ゼ ロ 点 エ ネ ル ギ ー)(Dづ)A-が 電 離 前 の(Dげ)HAに 近 い と す れ ば,右 辺 指 数 項 の 中 の 最 初 の 項 は 打 ち 消 し合 う。 以 上 の 近 似 が 可 能 な と き,q=qtrqrotqvibqelで あ る か ら,式(42∼46)よ り式(47)が 導 か れ る 。 (47) 上 式 のD(H-A)を プ ロ トン結 合 力 と呼 ぶ こ と にす る。 これ は 式(48)の よ うに, (48) 図 1 酸HAの 電離の熱力学的サ イクル
802 有 機 合成 化 学 第 33 巻 第11 号 (1975) (6) H-A結 合 の絶 対0度 で の 解 離 エネ ル ギ ーD0,H-A振 動 の ゼ ロ点 エ ネ ル ギ ーhv/2,Hの イ オ ン化 ポ テ ンシ ャル I,A・ の電 子 親 和 力Aに よ って 表 わ され る 。 と こ ろで この新 し く定義 され た プ ロ トン結 合 力D(H-A)と,こ れ ま で に 定 義 され て い る気 相 中 のA-の"プ ロ トン親 和 力PA"と の 関係 は,式(47)にH+の 並 進 運 動 の 項 を 加 え,さ らに右 辺 第二 項 をhv(H-A)/2kTに 等 しい と近 似 す れ ば,式(41)に よ り次 式(49)で 表 現 で き る。 (49) 上 式 は3RT/2=0.9kcal/moleで あ り,分 子 に よ っ て 変 わ ら な い こ と と,表4の 値 を 参 考 に す る と,さ ら に 式 (50)の よ う に 近 似 で き る 。 (50) 以上 の こ とか ら式(47)の 右 辺 にお い て,酸 強 度 に寄 与 す る因 子 の大 き さの順 は(51)の 通 りで あ り, 第 三 項(結 合 力 項)〉 第 二 項(振 動 数 項) (51) 実 際 に結 合 力項,振 動 数 項 が どれ く らい の も ので あ るか は,肝 心 な有 機 酸 の よ うな多 原 子 酸 に つい て は ま だ デー タ が な い の で,2原 子 酸 に つい て 表4に 示 した(こ の とき式(44)を 簡 略 化 す る近 似 は使 え ない の で,式(47) に 回 転運 動 の 項 を加 え る必 要 が あ る)。 対 称 数 σの 項 は σ(CH4)=12,σ(C6H6)=6,σ(C2H4)=4,σ(H20)=2 で あ る か ら,電 離 に よ っ て変 化 して も,小 さい 場 合 が 多 い で あ ろ う。 以 上 の考 察 か ら酸 ・塩 基 の強 さ と分 子 構 造 との 関 係 を 表 わ す 重 要 な 近 似式(従 来 の.PAだ け か ら強 度 を比 較 す る よ りは 正確)と して式(47)が 得 られ た こ とが わ か る。 ま とめ る と酸H-Aは,1)H-A結 合 のMorseポ テ ン シ ャル 関 数 の深 さ,D0+hv/2kTが 小 さい ほ ど,2)A・ の 電 子 親和 力 が大 き い ほ ど,3)H-A結 合 の 振 動 数 が 大 きV・ほ ど,4)HAがA− よ り高 い 対 称 性 を もつ ほ ど強 く な る とい え る。 い ま,か りに大 き な多 原 子酸HAのH-A結 合 を弱 くす る よ うな"電 子 吸 引 性"の 置 換 基 をAの ど こか に導 入 した場 合,酸 の強 度 が 如 何 に変 化 す るか を 新 し く導 か れ た式(47)を 使 って考 え てみ る 。電 子 吸 引 性 の 置 換 基 の導 入 に よ っ て普 通,式(48)の 右 辺 のD。, v(v= √f/μ,f:カ の定 数,μ:換 算 質 量)は 減 少 し, 電 子 親 和 力Aは 増加 す る。 よ って,(47)式 の第 三 項 は 酸 強 度 を高 め る方 向 に 寄 与 す る。 しか し,第 一 項 の 寄 与 が 小 さい 場 合 を考 え る と,第 二 項 の変 化 は力 の 定 数fの 減 少 に よ り酸 を弱 くす る方 向 に働 くで あ ろ う。 第 三 項 の 変 化 が 第 二 項 の 変 化 よ り大 きい とき,全 体 と して 酸 は よ り強 くな るで あ ろ う。各 項 の絶 対 値 は式(51)の 序 列 で あ るが,"変 化 量 は必 ず し も同 じ 順 で は ない か も"知 れ ない 。 真 の 酸 強 度 は 自 由エ ネ ル ギ ー変 化(式(18),(39)を 見 よ)に 対 応 す るか ら,エ ンタ ル ピー変 化(PA)を も っ て 強 度 を 比 較 で き るの は,エ ン トロ ピー変 化 が小 さい か,ま た はエ ン タル ピー 変 化 に 比 例 す る とき だ け で あ る。 気 相 中の ア ミ ンのB:H+≒BH+の ΔG°,PAを 表5に 示 す 。PIA値 は ΔGOやpKa値 と同様 に大 きい ほ ど強 い 塩 基 性 を示 す が,表5に 示 され た脂 肪 族 ア ミン で はP且 の変 化 と ΔGoの 変 化 とが よ く対 応 してい る 。 この 対 応 性 と Δ5。が 小 さい こ とは他 の酸 ・塩 基気 相 反 応 に も共 通 して 見 られ るの で,酸 ・塩 基 の強 度 の 目安 と して プ ロ トン親 和 力PAが 利 用 され る わ け で あ る 。 ii.水 中 の 電離過 程(w)を 支 配 す る 分 子 内 因子 と 溶 媒 和 因 子 の 分 離 図1の 過程DとSと は互 い に逆 の も の で あ る。A-の 水 和 に寄 与 す る 因 子(静 電気 的 な も の, 分 散 力 的 な もの 等)の う ち負 の電 荷 が あ る こ とに起 因 す る水 和 ΔG°h.c(A-)以 外 の もの(注,III-1の 因子1-b ∼f)を 指 す)はHAの 水 和 と近 似的 に相 殺 す る と仮 定 (Aの 分 散 力 に よ る水 和 とHの 分散 力 に よ る水 和 を足 し た もの がHAの 分 散 力 に よ る水 和 と考 え,小 さいHの 分 散力 に よ る水 和 が,全 体 量 に 比 して小 さい の で 無 視 で き る とす る。 ま たH-A結 合 のイ オ ン性 が 低 くH-A結 表 4 ハ ロゲ ソ化 水素 の プ ロ トン親 和 力34)と振 動 数31) 表 5 気相中のア ミンの塩基度
(7) 水溶液 中の酸 ・ 塩基の構造 と強度 803 合 と水 との双 極 子 相 互作 用 も無 視 で き る と仮 定 す る)す れ ば,式(G°s52)が 成 立 し (52) 式(38),(52)よ り式(53)を 得 る ° (53) ア ン モ ニ ウ ムBH+の よ うに共 役 塩 基 が 中 性 分子 の場 合, BH+の 水 和 の うち正 の 電 荷 が あ る こ とに起 因す る水 和 ΔGQh.c(BH+)以 外 のものはBの 水 和 と相 殺 す る と近似 す れ ば(水 素 結 合 的 水 和 は 問 題 に な る),式(54)が 与 え られ る 。 (54) こ こ で酸HA分 子 の構 造 を HA(0) → HA (x) (x はA内 の構 造 変 化 を反 映 し得 る適 当 な構 造 パ ラ メー タ) に変 化 させ た とき の 式(53)の 変 化 量 δΔG。wは,式(55) の通 りで, (55) 式(47),(49),(50)の 近 似 を 使 用 す れ ば,式(56) (56) が 得 られ る。 こ の式 は水 中 の酸 ・塩 基 の強 さを支 配 す る 因 子 と して,分 子 内 因子(右 辺 第 一項)と 溶 媒 和 因 子 (右 辺 第二 項)が あ り,両 者 が 加 成 的 で あ る こ とを示 す 近 似 式 で あ る 。 こ れ を さ ら に近 似 す る とHammett式37) が 導 か れ る 。い ま"一 定 系 列"の 酸{HA}が 水 中 で, ``一 定 の 共通 した電 離 反 応 の 機 構'を もつ とす る。 酸HA の 構 造 が系 統 的 に変 化 した と き,ΔG°wと ΔG°h.cと が 構 造 変 化 を反 映 す る適 当 なパ ラ メー タxに よ って次 の よ うに 式(57),(58)xの 一 次 まで の展 開 式 で近 似 で き る揚 合 を老 え てみ よ う。 (57) (58) (`一 定 系 列"は 式(57),(58)に お い て化 合 物 の群{HA (記)}に 一 定 の共 通 した 構 造 変 化 を 表現 し得 るパ ラ メ ー タ ωが存 在 す る こ と を 保 証 す る とい う意 味 で あ る。"一 定 の共 通 した電 離 反 応 機 構"と は 群{HA(x)}に 共 通 す る 関数 君 σ が存 在 す る こ とを保 証 す る とい う意 味 で あ る)。 式(17),(56),(58)よ り式(59)を 得 る 。 10gK(記)/K(0)= ρx, (59) 構 造 パ ラメ ー タ が互 い に独 立 な 多 変 数{xi}で あ る と き は,式(60)に な る。 (60) 式(59),(60)を 水 中 の酸 ・塩 基 平 衡 に関 す る"直 線 自 由 エ ネル ギ ー関 係 式(LFER)"と い う。式(59)は 芳 香 族 の化 学 反 応 にお け る平衡 定 数 や 速 度 定 数 のデ ー タの 相 関法 的 処 理 に よ ってHammettに よ り経 験 的 に見 出 され た 。 Hammettは25℃,水 中 の安 息 香 酸 とそ の メ タ,パ ラ 置 換 誘 導 体 の解 離定 数 を式(59)に 代 入 し,ρ =1と 仮 定 して得 られ た と ころ の 灘を それ ぞ れ σmeta,σparaと し た 。典 型 的 な σ値 を 表6に 示 す 。 σは置 換 基 の極 性 を 表 わす 置 換 基 定 数 と呼 ば れ る 。 こ の よ うな仮 定 か ら,ひ とたび σ値 が 定 め られ る と,そ の値 を他 の タイ プの 反応 シ リーズ に適 用 す る こ とが で き る。も し式(59)が 満 足 され れ ば,そ の反 応 の反 応 定 数 ρが求 ま る。 式(60)に 対 す る簡 単 な2変 数 式 の例 は式(61) (61) で あ る。こ れ は σを誘 起 効 果 に基 く σ1と共 鳴 効 果 に 基 く σRに 分離 し,置 換 基 の変 化 に対 す る標 準 自由 エ ネ ル ギ ー差 の"感 応 性"を 表 わすf'(0),σ'(0)が 誘 起 効果 と共 鳴 効 果 に 共 通 な 関 数 で あ る こ とを仮 定 してい る。 LFERは 多 くの仮 定 を含 む 近 似 式 で あ るか ら,特 に精 度 よ く自然 現 象 を観 測 した場 合,そ の現 象 が 非 線 型 構 造 を示 し て も不 思 議 で は な い 。式(60)を 二 次 の展 開 項 ま で 拡 張 す る方 法 も考 え られ てい る が,物 理 的 に しっか り した 意 味 を もつ σを定 義 す る 困 難 さ は ど の揚 合 に もあ る。 Taftの 極 性 パ ラ メー タ σ*等色 々 な σの定 義方 法,そ の 他LFERの 詳細 につ い て は,文 献37∼43を 参 照 さ れ た い 。 III. 酸 ・ 塩 基 の 構 造 と 強 度 の 関 係 を示 す 具 体 例 と 解 釈 1. 強 度を 支配 す る因 子 の 分 類 i. 溶 媒 和 因 子 1-a) 静 電 気 的 水 和(詳 細 は文 献34参 照) 1-b) 双 極 子 間 相 互 作 用 的 水 和 1-c) 疎 水 的 水 和 1-d) 水 素 結 合 的 水 和 1-e) 分 散 力 的 水 和 表 6 Hammettの σ 値 42)
804 有 機 合 成 化 学 第 33 巻 第 11 号 (1975) (8) 1-f) 水 和 に対 す る 立体 障害 ii. 分 子 内因 子 2-a) 誘 起 効 果(電 気 陰 性度) 2-b) 共 鳴 効 果 2-c) 静 電 気 的 分 子 内 相 互作 用 2-d) 分 子 内 水 素結 合 2-e) 立体 障 害 2-f) 分 子 の対 称 性 2-g) H-A結 合 の振 動 数 2-h) A-の プ ロ トン結 合 力 2-i) A-の プ ロ トン親 和 力 2-j) A・の電 子 親 和 力 2-k) 軌 道 混成 化 エ ネ ル ギ ー 3-a) 統 計 的 因 子 以 上 の因 子 の 具体 的 意 味 は 次 のIII-2に お け る使 用 例 の 中 で理 解 され よ う。 解 釈 で は()内 に よ の記 号 を示 し,因 子 の種 類 を示 した 。 2. 具 体 例 と解 釈 i. 肪 脂 族 モノ カル ボ ン 酸 誘 導体 に つ いて カル ボ ン 酸 RCO2Hの pKaは, 表2に 示 した通 り,大 体4∼5 の範 囲 に あ る。 と こ ろで アル コー ルROHのpK-aは ∼ 16と さ れ てい る。こ の よ うにRCO2Hの 方 がROHよ り(ΔG° の 差 =1.4×11∼12kcal/mo1)強 い酸 で あ る理 由 をPauling44)は 共 鳴 効 果(2-b)で 説 明 し て い る 。 (1) RCO2一 は(1)の よ うに 共 鳴 安 定 化 を して い るが,RO-の場 合 に は こ の よ うな効 果 が ない 。 またKing34)は 水 和 に対 す る水 素 結 合 の寄 与(1-d)がRCO2->RCO、Hで あ る か ら,ア ニ オ ン は よ り 安 定 化 して い る と述 べ て い る 。 ア ニ オ ン は 中性 分 子 と違 っ て,電 荷 に よ る水
和(1-a)に よ っ て も安 定 化 してい る。Bornの 式(半 径riの
剛体 荷 電 球 が誘 電 率 εの連 続 媒 体 中 にあ る と した モ デ ル)よ り式(62)が 与 え られ る。 (62) 静 電 気 的 水 和(1-a)は 酸 を 電 離 させ る大 きな 要 因 で あ るが,共 鳴(1)は この効 果 を逆 に弱 め る方 向 に働 く。 た とえ ば-CO2-が あ る有 効 半 径riを も っ て表 現で き る と 仮 定 した とき,共 鳴 に よ っ て荷 電qがq/2ず つ2個 の酸 素 原 子 上 に 分離 す れ ば式(63)を 得 る。 (63) す な わ ち 共 鳴(1)は 分 子 内 の電 子 エ ネ ル ギ ー を安 定 化 さ せ る反 面,静 電 気 的水 和 を弱 め る。RCO2HとRCO2-の 両 方 に共 通 して存 在 す る アル キ ル 基Rは,周 囲 の水 の構 造1生を安 定 化 させ る こ とに よ っ て起 る疎 水 的 水 和(1-c) を受 け てい る。し か し,こ れ は電 離 の前 後 で打 ち消 し合 うか ら濃 い 溶 液 を取 り扱 う場 合 を 除 き問 題 に な らない 。 同 様 に アル キル 基 のvan der Waais力 に よ る水和(1-e)
もpKaに は影 響 しな い 。 分子 の対 称 性 の効 果(2-f)を ギ酸 に つい て考 え てみ る。σ(HCO2H)/σ(HCO2つ =1/2で あ るか ら,式(47)よ りこ の寄 与 に よ ってpKaが1092 だ け増 加 し酸 強 度 が減 少 す る こ とが わ か る 。RCO2Hの 場 合,σ(RCO2H)/σ(RCO2-)が1よ り大 き くな る 分 子 内原 子 配 列 の確 率 は小 さい で あ ろ う。 次 に直 鎖 状 の アル キ ル 基Rの 長 さ とpK、 の 関係 を調 べ る と,n− 酪 酸 は例 外 と して,ア ル キ ル基 が長 くな る ほ どpKaが 大 き くな る傾 向 が認 め られ る 。普 通 これ は ア ル キ ル基 の電 子 供 与 的誘 起 効 果(2-a)で 説 明 され る。ア ル キ ル基 の電 子 供 与 性 は,O-H結 合 の電 子 雲 の 平 衡 位 置 をや やH側 に押 しや り,0に 多 少 の負 電 荷 を帯 び させ る 。 こ の とき,正 電 荷 を帯 び て離 れ る プ ロ トン を アル キ ル基 が短 い とき よ りも強 く引 っ張 る。II-(47)式 を用 い て説 明す れ ば,電 子 供 与 性 基 が プ ロ トン結 合 力(2-h)を 増 加 させ る 。 酢 酸 の モ ノハ ロゲ ン誘 導 体XCH2CO2HのpKaの ハ ロゲ ンの違 い に よ る変 化 を見 る と,酸 の強 度 は (2) の 順 で 変 化 してい る 。 これ はハ ロゲ ン原 子 の 電気 陰性 度 の序 列 とよ く対 応 してい る。 これ は ハ ロゲ ンの電 子 吸 引 的誘 起 効 果(2-a)で 説 明 され よ う。 す な わ ち アル キ ル基 の 効 果 と逆 で あ る 。別 の解 釈 とし て,静 電 気 的 分子 内相 互 作 用(2-c)を 考 え る こ とも で き る。 アニ オ ンに つ い て (3) (3)の よ うな 点電 荷,点 双 極 子 モ デル を考 え る と,双 極 子C→Xの 存 在 がCO、 ー 電 荷 と相 互 作 用 して式(64) の よ うな ポ テ ンシ ャル σ を生 じ る。 (64) アニ オ ンの 安 定 化 を促 進 す る エネ ル ギ ー σ は μ(X-C) に依 存 して い る こ とが わか る。X-C結 合 の 双極 子 モ ー メ ン トμは電 気 陰性 度 と対 応 し(4)の 順
(4)
で あ る とす れ ば,式(64)に よ って酸 の強 度 の序 列(2)(9) 水溶液 中の酸 ・ 塩基の構造 と強度 805 を 説 明 す る こ と が 可 能 で あ る 。 次 に 表2で は 示 さ れ て い な い が,X(CH,) nCO2H (X =OH ,ハ ロ ゲ ン,NH2, CO2H) の 酸 強 度 と メ チ レ ン基 の 数nと の 関 係 を 考 え て み る 。 Maclnnes45) は X=C1, OHの と き (65) 式(65)が デ ー タ に 合 う と し た。 Greenstein46) はX= OH, Cl, Br, I, NH2, CO2Hの と き (66) 式(66)の 方 が よい と した。式(65)は 荷 電 一荷 電 の ポ テ ン シ ャル か ら,式(66)は 荷 電-双 極子 ポ テ ン シ ャル か ら 理 解 され る もの で あ る か ら,XがCO2-やNH3+で な い 限 り式(66)の 方 が 妥 当 で あ ろ う。 ii. ア ミ ン に つい て 気 相 中 の ア ミンの 塩 基 度 を比 較 した 表5を 参 照 す る と,ア ミン の塩 基 度 は アル キ ル 基 の 長 さ と数 の増 加 と共 に大 き く(逆 反 応 を考 え る と, 共 役 酸 ア ンモ ニ ウム の酸 強 度 が小 さ く)な っ てい る こ と が わ か る。Aueら36)は,N原 子 に対 してCaに メ チル 基 1個 を導 入す る とR4が,∼2.2kcal/mole増 加 し,Cβ, Cγ に対 して は それ ぞ れ ∼0.9,∼0.4増 加 す る と した 。 N原 子 上 の孤 立 電子 対 に対 す る メ チル 基 の電 子 供 与 性 の 伝 達 力 は,両 者 の 問 の メ チ レン数 の増 加 と共 に 小 さ くな る。結 合 を通 して伝 達 す る誘 起 効 果(2-a)も 空 間 を 通 し て伝 達 す る静 電 気 的 分子 内相 互 作 用(2-c)も,共 に反 応 点 に対 す る距 離 の増 大 に よ っ て減 少 す る。 表5の 結 果 を 表3に 示 され た対 応 す る ア ミ ン(ア ンモ ニ ウム)に つ い て 比較 す る と興 味深 い 。水 中 の場 合 式(38)右 辺 第一, 三項 の 溶媒 和 効果(1-a∼e)が あ る に もか か わ らず,(5) の よ うに一 級 ア ミン の塩 基 性 の強 さ は対 応 して い る。 (5) よ っ て これ らに対 応 す る水 中 で の ア ンモ ニ ウム の酸 強 度 の序 列 は アル キル 基 の誘 起 効 果 で 支 配 され て い る の で あ ろ う。 しか しア ミン全 体 を よ く見 る と強 度 とア ル キ ル基 の長 さ との対 応 性 は よ くな い 。 これ は 普通 ア ン モ ニ ウ ム イ オ ン の水 和 に対 す る立体 障 害(1-f)で 説 明 され る。 (6)の 図 に (6) 示 さ れ る通 り,N+-H結 合 が 短 くR1,R2,R3が 大 き い の で,水 の 酸 素 が 水 和(1-aま た は1¥d)に 必 要 とす る N+-H結 合 のH側 の 空 間 を,後 方 に あ るR1,R2,R3の 電 子 雲 の 相互 反 揆 力("B-張 力"と 呼ぶ)が 狭 くす る。 この とき ア ン モ ニ ウ ムイ オ ンの 水 和 が 阻 害 され,熱 力 学 的 に よ り不 安 定 とな り,プ ロ トン を 放 出 し 易 くな る。 Hall47)は 水 中 の ア ミ ンのpK。 をTaftの 極 性 パ ラ メー タ σ*(CH、 を基 準(0)に し,こ れ よ り電 子 供 与 的 な もの に負 の値 を与 え る)を 使 って 式(67∼69)の よ うに整 理 した 。 (67) (68) (69) Σ σ*=0の 値 を 比 較 す る とpKaの 序 列 は(7)の よ うに な り, (7) これ は アル キ ル 基 の誘 起 効果 が同 じ状 態 で比 較 して あ る こ と を考 え る と,ア ル キ ル基 の増 大 に よ る ア ンモ ニ ウム イ オ ンの 水 和 に対 す る(B張 力 に よる)立 体 障 害(1-f) の増 大 と考 え ざ るを 得 ない 。 しか し個 々の シ リー ズ 内 で は アル キル 基 の増 大(− Σσ*の増 大)は 誘 起 効 果 に 基 い てpK、 を大 き くし てお り,各 シ リー ズ 内 でB一張 力 は ほ ぼ一 定 なの か も知 れ な い 。興 味深 い こ とに ホ ス フ ィンの 場 合48)は式(70∼72) (70) (71) (72) の よ うで あ る 。 Σσ*-0で 対 応 す るシ リー ズ を 比較 す る とア ミン の方 が ホス フ ィン よ り塩 基 性 が強 い 。 ま た ホ ス フ ィン の場 合,Σ σ*-0で のpKaの 序 列 は(8)の 順 で (8) あ る 。 ア ミン の場 合 と は逆 の順 で あ るか ら,こ れ は立 体 障 害 で説 明 す る こ とは で き な い 。Hendersonら はPがN の 次 の第 三 列 元 素 で あ る こ とか ら,Pが よ り大 き く,P-C結 合 がN-C結 合 よ り長 い の でB-張 力 が 働 か ない と した 。 また(8)ゐ 序 列 は,H3Pの リンが 純 粋 に ρ状 態 で あ る の に対 して,RIR2R3Pで はsρ3混 成 状 態 に移 行 して混 成 エ ネ ル ギ ー(2-k)分 だ け不 安 定 化 してい る こ と か ら説 明 した 。 と ころ で,Briggsら49)は 気 相 で の ア ミ ン の塩 基 度 の序 列 を(9)の 順 (9) と した 。 しか し水 中 で は ア ニ リン,ピ リジ ンが ア ン モ ニ ア よ り弱 い塩 基 で あ る。水 中 で の この序 列 を フ ェニ ル基 の 共 鳴 効果(2-b)や 誘 起 効 果(2-a)で 説 明 す るの は(多 くの教 科書 で そ う書 か れ てい るが)(9)の 結 果 か ら疑 問 で あ り,む しろ溶 媒 和 の効 果 を 重 視 しな けれ ば な らない
806 有 機 合 成 化 学 第 33 巻 第 11 号 (1975) (10)
と主 張 して い る。ま た 表5の 結 果 を 与 え たAueら36)
自身 は,水 中 の ア ミン の塩 基 度 を支 配 す る最 も重 要 な 因
子 は プ ロ トン親和 力(2-i)で あ っ て,水 和 に対 す る立体
障 害 は 重 要 で な い と述 べ てい る。彼 ら の得 たPA値 は
Popleら50)の 非 経 験 的MO計 算,彼 ら 自身 のCNDO/2 計 算 の 結 果 と直線 的 相 関 関 係 が得 られ た と も述 べ て い る。 表3に あ るジ プ ロ トン酸 の一 種 で あ るジ ア ンモ ニ ウム のpKaを 考 え てみ よ う。一 般 的 にnプ ロ トン酸 が 相 互 に無 限 に 離 れ た酸 点 を も つ とす る。 こ の と き一 次,二 次 の 電 離 の標 準 エ ン タ ル ピー変 化 は等 しい(式73)。 (73) プ ロ トンの 解 離 と会 合 の場 合 の数 は(10), (11)の 通 りで 一 次 電 離 n 種 の解 離 1 種 の会 合 (10) 二 次 電 離 (n-1) 種 の解 離 2 種 の会 合 11) 統 計 熱 力 学 よ り式(74)が 与 え られ る。 (74) こ れ と(10),(11)よ り式(75)を 得 る 。 (75) これ らを併 せ て式(76)を 得 る。 (76) n-2で あ る と き,Ki=4K2,II式 一(33)が 求 ま る 。 こ の4〔nプ ロ ト ン 酸 のi,i+1次 電 離 に つ い て はKi/Ki+1 =(i+1)n/(n-i)〕 を 統 計 的 因 子(3-a)と 呼 ぶ 。 表3の 例 で は pK2a- pK1aがlog4よ り大 き い 。 こ れ はH、+N (CH2) nNH3+か ら 最 初 の プ ロ ト ン が 離 れ て い く と き, 残 っ た プ ロ ト ン の 反 揆 力 で 離 れ 易 く な り,こ の 効 果 で pK1aが 小 さ く な る か ら で あ る 。 (PK2a-pK1a)がN原 子 間 の メ チ レ ン 基 数 の 増 大 と と も に 減 少 す る事 実 は,静 電 気 相 互 作 用 に よ る 解 釈 を 支 持 す る 。 iii. ジ カ ル ボ ン酸 に つ い て 表7に ジ カ ル ボ ン 酸 の pKaを 示 した 。 ジ ア ミ ン の と こ ろ で 述 べ た 統 計 的 因 子
(3-a)に よ っ て ΔpKa≡ pK2a-pK1a=1094≒0.6の 差 が 無 条 件 に 生 じ る 。 表6の 例 で は ΔpKa>0.6で あ る 。
ま たCO、H基 問 のCH2基 の 増 大 と と も に,ΔpKaは
小 さ くな っ て い る 。 こ の 傾 向 は,第 一 次 電 離 で 生 じ た CO2-の 負 電 荷 が 第 二 次 電 離 で 生 じ た CO2一 負 電 荷 と反
揆(H,A→ HA→ A2− で A2− 状 態 が 不 安 定 化)す る こ
と に よ っ て 説 明 で き る。こ の 静 電 気 的 効 果(2-c)に よ っ て,pK2aは よ り小 さ く な る 。Pauling51)は,詳 しい 考 察 な し に,ポ リプ ロ ト ン酸 に つ い てK1/K2≒105で あ る と帰 納 し た 。 こ の 経 験 則 か ら は ΔpKa-5と な る 。 た と え ば ジ プ ロ トン 酸H2Sの ΔpKa24)= ∼6>5で あ る が, こ れ は 表6の 飽 和 ジ カ ル ボ ン酸 中 で 最 も ΔPKaの 大 き い シ ュ ウ酸 の 値 よ り も 大 き い 。 こ れ は 負 電 荷 間 の 距 離 が S--よ り −O2CCO2-の 方 が 相 当 大 き い か ら で あ る と考 え ら れ る。第 二 に 考 え られ る の は 対 称 数 σの 変 化(2-f) で あ る 。 分 子 内 原 子 配 列 が 最 大 の 対 称 性 を つ く り出 す と きII-(47)式 が 適 用 で き る と仮 定 す れ ば,シ ュ ウ酸 の 場 合 σ(H2A)/σ(HA-)=4,σ(HAつ/σ(A2つ =1/4で あ る 。 よ っ てpK1aが1094小 さ く な り,pK2aが1094大 き く pKaで 表 示 す る)な って い る。 ΔpKa=21094≒1.2で あ る 。 コハ ク酸 につ い て以 上 の 効 果 の総 和 よ り ΔpK、 を考 え る と,0.6+1.2=1.8(計 算 値)>1.3(実 測 値)と な る。 これ は 分子 の対 称 数 の変 化 が 前 に述 べ た ほ ど実 際 に は 大 き くない こ とを意 味 す る も の と考 え られ る。 確 か に 実 在 分子 は剛 体 で は な く,一 重 結 合 を軸 とす る分 子 内 回 転 の影 響 で,分 子 が先 に仮 定 し た ほ ど高 い 対 称 性 を保 持 す る確 率 は 小 さい で あ ろ う。 と こ ろ で コハ ク酸 よ りCO2H間 距離 が 一 重 結 合 と二 重 結 合 の差 だ け小 さい,同 炭 素 数 化 合 物 マ レイ ン酸(シ ス 体,フ マ ル酸(ト ラ ンス 体)の ΔpKaを 比 較 す る と (12) の順 で あ る 。 これ は(13)に 示す よ うな 分 子 内水 素 結 合 (2-d)の 寄 与 で説 明 され る。 (13) 水 素結 合 の強 さは電 子 対 供 与 体 が 中 性 のC=Oで あ る よ り,負 電荷 を もつC-O-の 場 合 の 方 が強 い 。 よ って分 子 内 水 素 結合 に よ ってcis-HO2CCH=CHCO2-が 最 も安 定 化 す る と考 え られ てい る。 しか し これ で は 水 素結 合 的 水 和(1-d)と 静 電 気 水 和(1-a)の よ うな 溶媒 和効 果 に よ る安 定 化 エネ ル ギ ー の消 失 を忘 れ て い る。 溶媒 和 を忘 れ る な ら, pKaと な って 分子 内水 素 結 合 は ΔpKaを 増 大 させ る。 フ マ ル 酸 よ り コハ ク酸 の ΔpKaが 大 き い こ とは,二 重 結 合 が 一 重 結合 よ り短 い こ とか ら静 電気 的 相互 作 用(2c)で は 説 明 し難 く,分 子 内 水 素 結 合 の寄 与 か も知 れ ない 。次 に フ マ ル酸 とマ レイ ン 酸 のpK1、 の差 につ い て考 え よ う。一 般 に,α,β 不 飽 和 モ ノ カ ル ボ ン酸 の 揚 合,カ ル ボ キ シ ル 基 に対 して シス 表 7 ジ カ ル ボ ン 酸 のpKa19)(25℃,1atm)
(11) 水溶液 中の酸 ・ 塩基 の構造 と強度 807 位 にあ る置換 基 が大 きい な ら,シ ス体 の方 が 強 い 酸 で あ る。 これ は カル ボ キ シ ル 基 に対 して シ ス位 に あ る置 換基 が 立 体 障 害 に よ ってC-CO2H結 合 を よ じ らせ,不 飽 和 結 合 が 同 一 平 面 上 に あ って共 役 系 とな る こ とを阻 害 す る か らだ と され て い る52)。(14)に 示 す 電 荷 を生 じ る 共 鳴 (14) は,ア ニ オ ン にお い て はす で にCO、 一負 電荷 が あ る の で 起 りに くい 。 こ の共 鳴 に対 す る立体 障 害(2-e)はHA型 を不 安 定 化 し,pKaを 小 さ くす る。 同様 の 効 果 は オ ル ト置 換 安 息 香 酸 等 に も見 られ る。 以 上 簡 単 に,水 中で の酸,塩 基 の強 さや,こ れ と分 子 構 造 との 関係 等 につ い て述 べ た が,実 際 の と ころ,未 だ 不 明確 な 点 が 多 い 。式(47)に し て も,多 原子 酸 に つ い て は,振 動 項 に 関す る デ ー タが 無 い の で,す ぐに は活 用 し難 い 。追 々 こ の よ うな デ ー タ も整 備 され るで あ ろ う し ,ま た,塩 基 の構 造 と反 応 性 との関 係 につ い て も,用 い る塩 基 に新 ら しい工 夫(ジ ア ス テ レオ マー の利 用53))が 試 み られ るな ど,今 な お盛 に研 究 が進 め られ て い る の で,段 々 くわ しい 情 報 が得 られ る こ とで あ ろ う。 (昭 和 50 年 8 月 4 日受 理) 文 献
1)
J. Hayami, N. Ono, A. Kaji, Tetrahedron Lett.
1968 1385
2) 速 水 醇 一, 小 野 昇, 加 治 有恒, 日化 誌 9287 (1971)
3)
N. Ono, Bull. Chem. Soc. Japan 44 1369 (1971)
4)
W.T. Miller Jr., J.H. Fried, H. Goldwhite, J.
Amer. Chem. Soc. 82 3091 (1960)
5)
E.J. King, "Acid-Base
Equilibria"
p. 8,
Per-gamon Prees (1965)
6) 大 木 道 則," 酸 と塩 基" 第 一 章, 培 風 館 (1967) 7) 上 平 恒 訳,“ イ オ ン の 水 和" (O. Ya. Samoilov)
P. 9, 地 人 書 館 (1967)
8) A.H. Narten, H.A. Levy, Ref. (6), Chap. 8
9)
D. Eisenberg,
W. Kauzmann,
"The Structure
and Properties
of Water" Oxford (1969)
10)
"Water",
Vols. 1-3,
ed. F. Franks,
Plenum
(1972, 1973)
11) E. Wicke,
M. Eigen,
Th. Ackermann,
Z.
Phys. Chem., N.F. 1 340 (1954)
12) H.L. Friedman,
C.V. Krishnan, Ref. (10), Vol.
3, p. 55
13)
R. Zana, E. Yeager, J. Phys.
Chem. 70 954
(1966) ; 71 521, 4241 (1967)
14)
L.G. Hepler, Ref. (10), Vol. 3, p. 146
15)
S.D. Hamann, J. Phys. Chem. 67 2233 (1963)
16)
D.L. Martin,
F.J.C.
Rossotti,
Proc.
Chem.
Soc. 1959 60
17)
D.L. Martin, F.J.C. Rossotti, ibid.
1961 73
18)
R.D. Corsaro, G. Atokinson,
J. Chem. Phys.
55 1971 (1971)
19)
R.A.
Robinson,
R.H.
Stokes,
"Electrolyte
Solutions"
2 nd Ed., Appendix,
Butterworths
(1959)
20)
I.M. Koithoff, A. Willman,
J. Amer.
Chem.
Soc. 56 1007 (1934)
21)
H.S. Gutowsky, A. Saika,
J. Chem. Phys. 21
1688 (1953)
22) O.
Redlich, J. Bigeleisen,
J. Amer.
Chem.
Soc. 65 1883 (1943)
23)
H.S.
Harned,
B.B.
Owen,
"The
Physical
Chemistry of Electrolytic
Solutions" Appendix,
Reinhold (1958)
24) 松 浦 貞 郎 訳," イ オ ン定 数 一 測 定 法 と応 用" 丸 善
(1963) : A. Albertm, E.P. Serjeant, "Ionization
Constatants of Acids and Bases, A Laboratory
Manual" Methuen (1962)
25) 藤 永 太 一 郎 ,関 戸 栄 一 共 訳," イ オ ン 平 衡" 化 学 同 人 (1968): H. Freiser, Q. Fernando," Ionic
Equilibria in Analytical Chemistry" John Wiley & Sons (1963)
26)
J.B. Hendrickson,
D. J. Cram, G.S. Hammond,
"Organic
Chemistry"
3 rd Ed ., p. 304,
Ktiga-kusha (McGraw-Hill)
(1970)
27)
D.D. Perrin,
"Dissociation
Constants of
Org-anic Bases in Aqueous Solution" Butterworths
(1965, 1972)
28)
Ref. (5), Chap. 9
29)
Ref. (19), Chap. 12
30)
M. Nakahara, Rev. Phys.
Chem. Japan 44 57
(1974)
31)
Ref. (23), Chap. 15
32)
Ref. (5), Chap. 8
33)
Ref. (5), Chaps. 2--6
34)
Ref. (5), Chap. 7
35)
T.L. Hill, "Introduction
to Statististical
Ther-modynamics"
Chaps. 8--10, Addison-Wesley
(1960)
36)
D.H.
Aue, H.M. Webb,
M.T. Bowers,
J.
Amer. Chem. Soc. 94 4726 (1972)
37) L.P. Hammett, "Physical Organic Chemistry"
2 nd Ed., Chap. 11, McGraw-Hill
(1970)
38) J.E. Leffler, E. Grunwald, "Rates and
Equili-bria of Organic Reactions" Chaps. 6,-8, John
Wiley & Sons (1963)
39)
"Advances in Linear Free Energy
Relation-ships", eds. N.B. Chapman, J. Shorter, Plenum
(1972)
40) 丸 山和 博," 構 造 有機 化学" II 巻, 共 立 (1969) 41) H.H. Jaffe, Chem. Rev. 53 191 (1953)
808 有 機 合 成 化 学 第 33 巻 第 11 号 (1975) (12)
42)
D.H. McDaniel, H.C. Brown, J. Org.
Chem.
23 420 (1958)
43) P.R. Wells, Chem. Rev. 63 171 (1963)
44) 小 泉 正 夫 訳," 化 学 結 合 論" 第 入 章, 共 立 :L.