• 検索結果がありません。

シャーロット・ブロンテ初期作品研究(2) : アングリア伝説における人物造形とテーマの形成

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "シャーロット・ブロンテ初期作品研究(2) : アングリア伝説における人物造形とテーマの形成"

Copied!
21
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

シャーロ ッ ト・ ブロ ンテ初期作品研究

(2)

―一 ア ング リア伝 説 にお ける人物造形 とテ ーマ の形成 ――

は る 子

(平

成 2年

6月30日

受理

) シ ャーロ ット・ ブロンテ初期作 品の第

2期

(1831-35)お

よび第

3期

(1836-39)に

わた って書か れた物語群 は,そ の舞台 となる王 国の名前か ら「ア ング リア伝説」(Angrian Legends)と 総称 される。 第

1期 (1826-30)の

「 グラス タウン物語」

(Glass Town Saga)に

属 す る作 品はすべ て 4η E,,廃伽 げ ケカθ Eαr17 vγ肪廃ηξs 9′C力αγJθケ形Bγ

"ヶ

,Volume l,T力

ιG,αdd Tθttηι Sαξα

1 826-32(ChriStine

Alexander ed.,Shakespeare Head Press/Basil Blackwell,1987)に

収 録 されて い るが

,ア

ング

リア伝説 を網羅す る予定のその第

2巻

お よび第

3巻

の出版 まで には

,ま

だなお時間 を要す るようであ る。1)したが って本稿 で は

,

これ まで個別 に編集 出版 された主要 な作 品 を もとに

,ア

ング リア伝説 の 世界の特徴 をみることに した。物語の主要 な部分 を形成す る10点 余 りの恋愛物語 を中心 に

,そ

こに登 場す る男女の人物像 とテーマの形成過程 をた どってみたい。初期作 品の第

1期

を構成す るグラス タウ ン物語 の主題 は冒険

,政

,戦

争 で あ った。 それ は主 人公 ウェ リン トン公 爵 (Duke of Wellington) を中心 とした男性世界で

,女

性 はほ とん ど登場 しない。 ア ング リア伝説 はグラス タウン物語の舞台 と 登場 人物 の多 くを受 け継 いで い る。 だが第

2期

の主 人公 は ウェ リン トン公 爵 か ら長男 の アーサ ー

(Arthur Wellesley)に移 り

,や

が て若 き侯爵 ドゥアロウ(MarquiS Of Douro)と な った彼 をめ ぐる

恋 愛 事 件 を中心 に展 開 して い く。 第

3期

で は ドゥア ロ ウ侯 爵 は さ らにザ モ ー ナ公 爵 (Duke of

ZamOrna)と

な り

,ア

ング リア国王 として君臨 し多 くの女性 にか しづかれる一方

,宿

敵 ノーザ ンガー ラ ン ド伯 爵 (Earl of Northangerland)(か つ て の ロ ウグ

Rogueこ

とア レグザ ン ダー・パ ー シ ィ

Alexander Percy,の ち にゼ ノウ ビア

Zenobiaと

結 婚 しエ ル リン トン卿 Lord Ellringtonと なる)

と覇権 を争い, 日ま ぐる しいばか りの政変劇 を演 じる。 ア ング リア伝説の政治的展 開は もっぱ らブラ ンウェルの領分であ った。 シャーロ ッ トはそれ らの政治状況 をときお り自作 に取 り入れなが らも

,ザ

モ ーナ公爵 をめ ぐる恋愛模様 と義父 ノーザ ンガーラ ン ド伯爵 との骨 肉の愛憎劇 を展 開 していった。

(2)

140

岩 は る 子

(Marian Hume)や

ゼ ノウビア・エ ル リン トン (Zenobia Ellrington)に 加 えて

,メ

ア リ・ヘ ンリエ ッ

タ・ パ ー シ ィ(Mary Henrietta Percy),マ イナ 。ロー リ

(Mina Laury),ル

イーザ お よびキ ヤロ ラ イ ンの ヴ ァー ノ ン母 娘

(Louisa,Garoline Vernon),エ

リザ ベ ス・ ヘ イ ス テ イ ン グ ス (Elizabeth

Hastings)などイ固性豊か な女性 たちが新 たに登場 し

,恋

愛物語 は しだい に満 た され ない愛 に悩 み

,嫉

妬 に苦 しみ

,不

安 にか られ る ヒロイ ンたちの内面描写へ と重心 が移 ってい った。 シ ャーロ ッ トはこう した初期の恋愛物語の創作 を通 じて

,や

が て後 の小説 の基層 となる独 自の愛 のテーマ とヒロイン像の 下絵 を描 きつづ けていたのであ る。以下では ヒロイ ン別 にその登場す る作 品 をま とめて紹介 し,シャー ロ ッ トの ヒロイン像 の推移 をた どることで

,初

期作 品時代 の シ ャーロ ッ トの愛 の イメージを明 らか に したい。 l―

l

ヒロインの造形 ア ング リア伝説 に登場す る主要 な10人 の ヒロイ ンたちを見 る と

,お

よそ次 の3つの タイプに分類で きる。各型の名称 はそれぞれの典型的な性格 を表す ように付 けた ものだが

,よ

り詳 しい特徴 を以下 に まとめてみた。 また図

-1は

各 ヒロイ ンの位 置 を試 み に座標 で示 した もので あ る。

A.人

形型 ヒロイ ン 可憐 な花 にた とえ られ る色 白の美少女。無力 で控 え 目

,男

性 に依存 し

,従

順 で献 身的 に仕 え

,愛

ら しい無邪気 な幼 な妻 になる。

B.妖

婦型 ヒロイ ン 華 やかで妖艶 な美女。 自由奔放 で魅 力的だが

,移

り気で

,自

分 の価 値観 にのみ忠実 に生 き

,献

身 や 自己犠性 とは無縁 な愛人 になる。

C.女

傑型 ヒロイ ン 誇 りが高 く

,男

性 に依存 す るこ とを否 と し

,自

己 を貫 く女性。男性 と対等であろ う と し

,ま

たその能力 をもつ。知的で情熱的 である。 実際 にはそれぞれの ヒロイ ンの中に上記 の 類型 のいずれ もが多少 は混在 してい るわ けで あ るが

,優

性 な特 徴 に よって分 類 した。(な おかつ分類不能な ヒロインにつ いては

D.分

裂 型 ヒロ イ ンと して扱 うこ とにす る。

)以

下 で は順 を追 って各 ヒロイ ンの登場す る作 品 を 取 り上げ なが ら

,

ヒロイ ンの性格分析 を行 な (母 親 型) │ │ Enringlon │ CarOline vern。.│ Julia Wenestey │ 妖 婦 型 図

-1

(3)

いたい。

A.人

刑型 ヒロイン

A-1.マ

リア ン・ ヒューム

(Marian Hume)

マリアン・ ヒュームは「アルビオンとマ リーナ」

(`Albion and Marina',10.1830,以

AMと

略記)

に登場する初期作品における最初のヒロインである。 この作品はシャーロ ットの最初の恋愛物語で, 彼女が愛読 したW・ スコットの特 に『湖上の麗人』(Walter scott.T力ιとαゥ げ ナルLα膨

,1810)を

思わせ るものがある。の類似性は物語のス トーリーよりも

,い

くつかの状況設定 と雰囲気 に認 め られ る。人里離れた山奥に隠れ住 む父娘

,霧

に包 まれた湖で小舟 を操る美 しい乙女

,そ

れを見初める若い 貴公子

,

さらに森の妖精に喩えられるその可憐 な少女が竪琴 を奏で恋人を慕 う歌 をうたう。そ して何 よりも美少女 と貴公子の恋 という主題その ものが

,ス

コットのロマ ンスの影響 を伺わせるのである。 もちろん目立 った相違点 もい くつかある。F湖上の麗人』では美少女エ レンをめ ぐって

3人

の男性が 競いあい

,最

後にはエ レンとその恋人マルコムとが結 ばれるハ ッピー・ェ ンディングになっている。 それに対 して

AMで

はアルビオンをめ ぐって

2人

の女性が配置 され

,

しか もマ リーナは失恋の痛手か ら死 を招 く。シャーロ ットはスコットのロマ ンスを, 自作では悲恋物語 に変えている。 しか し

AMで

はマ リーナ

(=マ

リアン

)は

死亡 したことになっているが

,そ

の後に書かれた「断章」

(`A Fragment',7.1831)に

マ リアンが失恋の詩 をうたい

,さ

らに「婚礼」(`The Bridal',7.1832)

ではアーサー と結 ばれている。だが

1年

余 り後 に書かれた「テ ィー・パーテイ」(`The Tea Party',

10,1833)を

見ると

,夫

に顧み られな くなったマ リアンにエル リン トン卿 らが言い寄 ろうとしてい

る。マ リアンが主人公 となる最後の物語は「秘密」

(The Secret',11.1833,以

下SEと 略記

)で

ある。

物語の梗概 は次のとお りである。 マ リアンには夫に言えない過去の秘密がある。それを握 っているマ リアンのかつての家庭教師フォ クスリーがエ ドワー ド (物語では ドァアロウの兄弟 となっている

)と

共謀 して

, 2人

の幸せ を壊そ う とする。すなわちエ ドワー ドが死んだはずのマ リアンの許婚者のヘ ンリ (パーシイと前夫人の間に生 まれた息子)に 扮 して現れ,マリアンに結婚 を迫るのである。この婚約 は昔マ リアンの母親 とパーシ イ の前夫人の間で取 り交わされたもので

,そ

れを記念 した品物 とさらにマ リアンの出生の秘密 を記 した 手紙がパーシィ (現在 はエル リントン卿

)の

書斎 に保管 されている。それ らを取 り戻そ うとマ リアン はひとり出かけるが

,逆

にエル リン トン卿に捕 らわれ軟禁 されて しまう。 しか しウェリン トン公爵の 助けもあって

,陰

謀は暴かれ事件は解決する。

SEに

おけるマ リアンはあまりに無邪気で信 じやす く

,み

すみす 自ら罠にはまってい く。 また腹黒 いエル リン トン卿の書斎に閉じ込められるゴシック・ロマ ンスを思わせる場面など

,無

力で絶 えず男 性の暴力にさらされるロマ ンスのヒロインの典型的なキャラクターといえる。後にマ リアンを看取 る

(4)

142

岩 は る 子

こ とになるフ ィデ ィーナ公爵 は

,ザ

モ ーナに翻弄 され るマ リア ンを a`delicate flower planted in a stormy situation'° とよび

,騎

士道的な愛 をよせ てい る。マ リア ンは登場す るどの作 品で も男性 の視 点で描 かれてい るこ とが分 か る。彼女 の美 しさ も無力 さも男性 か らみた類型 で,彼 女 の心理描写 は まっ た くと言 っていいほ ど見 られない。彼女 は男性 か ら眺め られ る花 の ような存在であって

,そ

の視線 が 絶 え る と

,彼

女 の存在 その もの も失 われてい く。「画集 をのぞ く」(`A Peep into a Picture Book',5.

1834)に

お けるマ リア ンの 肖像画 についての次の解説が的確 なマ リア ン評 になってい る。

. . . all the kindness, all the tenderness in the world were insufficient to raise that blighted lily so long as the sunshine of those eyes which had been her idolatry 、vas

witheredi and so long as the music of that voice she had loved so fondly and truly

sounded too far off to be heard 4)

かつ てはその可憐 さゆえにマ リア ンを愛 したザモ ーナが

,今

で は無慈悲 に彼女 を捨 てて顧 みない。そ

の理由を彼は「呪文」

(`The Spell',6-7.1834)の

なかで次のように語っている。

Tor if l had

permitted her to remain an ilnpediment to my inclinations, I should have hated her, lovely, devoted and in■ ocent as she was,and my blood was cold at the bare imagination of that,'5)ロ マ ンス の ヒロ イ ンに否 定 的 にな ったの は

,ザ

モ ー ナ ばか りで はな く作 者 の シ ャー ロ ッ ト自身で もあ っ た。

A-2.エ

ミリ・ チ ャー ル ズ ワー ス (Emily Charlesworth)

エ ミリは「緑のこびと」

CThe Green Dwarr,91833以

GDと

略記

)の

ヒロインで

,

ドゥアロ

ウ侯爵 とは関わらないが,若き日のパーシイに誘拐 され結婚 を迫 られる人形型 ヒロインの

1人

である。 この作品には

AM以

上にスコットの影響が著 しく現れてお り, E・ ラチフォー ドカ寸旨摘 しているよう にそのス トーリーはスコットの [アイヴァンホー』(rt7"ヵoι

,1819)に

かな り依 っている。6)ちなみに 『アイヴァンホー』 は中世イギ リスのサ クソン人 とノルマ ン人の対立 を背景に

,

リチ ャー ド獅子心王 とその弟ジ ョン失地王やロビン・フ ッドなどが登場する愛 と武勇の大絵巻で

,歴

史小説家 としてのス コ ットの傑作にあげ られている。シャーロ ットはこの小説のス トー リーを簡略化 して

,

自作 を作 りだ したようである。

GDの

梗概は次のとお りである。 ヴェル ドポ リス随一の美女 と誉れの高いエ ミリ 。チ ャールズ ワースには恋人サ ン・ ク レアがいる が

,叔

父は姪が貴族の息子パーシイと結婚することを望んでいる。武術試合の当 日

,覆

面姿で現れた サ ン・クレアはパーシィを破 って勝者 とな り

,エ

ミリから祝福 を受 ける。その夜

, 2人

は駆 け落ちの 約束 をするが

,エ

ミリはパーシイの馬車で連れ去 られ

,森

の奥の古城に幽閉されて しまう。一方

,戦

場のサ ン・クレアは敵に通 じたというパーシイのざん言によって獄 につながれる。だが 口封 じに殺 さ

(5)

れかか ったパ ーシ ィの手下 の証言 によって陰謀が暴かれ

,パ

ーシ ィは流刑 にな り

,救

出 されたエ ミリ はサ ン・ クレアと再会す る。 覆面の騎士の帰還

,武

術試合

,ヒ

ロインの誘拐 と幽閉などは『アイヴァンホー』そのものであ り , また人物 も汁応 し

,物

語 も大筋において一致 している。ほとんど借 り物 と言って もよい くらいである。 ところがシャーロ ットはそれほど酷似 した物語を書 きなが ら

,な

ぜか『アイヴァンホー』のふた りの ヒロインーーー可憐なロウイーナ姫 と美 しいユダヤ人娘 レベ ッカーーーのうち

,後

者 を完全に省略 し ている。ロゥイーナ姫は幽閉された古城で悪漢に結婚 を迫 られ

,恐

怖に失神 して しまうような人形型 ヒロインの典型である。それに対 してレベ ッカは,重傷 を負 って捕 らわれの身となったアイヴァンホー を助 けて城攻めの実況 を伝えるなど果敢な働 きをする

,言

わば女傑型のヒロインである。浅黒い肌 を した知的で勇敢なレベ ッカは

,

ときにロウイーナ姫 よりも生 き生 きと魅力的に見える。ロウイーナ以 上に印象に残るこの ヒロインを

,シ

ャーロ ットはなぜ 自作 に取 り入れなかったのか という疑間が湧い て くる。女傑型 ヒロインとしてはすでにマ リアン・ ヒュームと対極 をなすゼノウビア (後述する

)が

いる。だが1833年のこの時点ではシャーロットの中にはまだ肯定 し得 る魅力的な女傑型のヒロイン像 が形成 されていなかったということなのか も知れない。明らかなことはエ ミリ・チャールズワースも

AMの

マ リアン・ ヒュームと並んでロマンスのス トック・キャラクターになっているということであ る。 ここで蛇足になるが 『アイヴァンホー』 においてロゥイーナ姫の一行を閉じ込めた古城の見張 りを する老婆 ウル リカについて付言 してお きたい。ラチフォー ドはこの老婆力濫

Dに

バーサ という名前で 登場 していることか ら

,シ

ャーロットが激情的なゼノウビアとこの老婆 をもとに後のロチェスターの 狂人の妻バーサ を創 り出 した もの と推論 している。のこうした原型探 しの是非はともか くとして

,関

連性 について述べ るのなら名前の一致 よりさらに重大な類似点が指摘 されなければならない。それは バーサの原型になった『アイヴァンホー』におけるウルリカの最期一―一 自ら城に火を放ち,勝 ち誇っ たようにその始のなかで滅びてい く―――が

,明

らかに『ジェィン・エア』のバーサのそれに使われ ている点である。

0親

兄弟 を殺 された男の妻 として陰惨 な生涯 を送ったウル リカが狂気のうちに復讐 をとげる場面はきわめて印象的であ り

,シ

ャーロットが後にバーサを造形するにあたって参考 とした ことは十分に考えられるのである。

A-3

リリー・ハー ト(Lily Hart)

GDか

ら2ヵ月ほどして書かれた「 リリー・ハー ト」

(`Lily Hart',11,1833以

LHと

略記

)も

はり人形型 ヒロインを主人公 とした恋愛物語である。だが作品の雰囲気 は前

2作

AMと

GDと

異なっている。ここにはスコット風のロマ ンスの影響があまり感 じられないのである。物語の梗概は 次のとお りである。

(6)

144

は る 子 山里 に住 むハ ー ト母娘 の家 に

,傷

つ いた兵士 シーモア (ことヴェル ドポ リスの貴族 ジ ョン・ スニ ー キー

,後

のフ イデ イーナ公爵

)と

その友人パ ーシヴアル (こと ドウアロウ侯爵

)が

助 けを求 めて訪 れ る。 リリーは介抱 をす るうちにシーモアに恋心 をよせ るようになるが

,事

情 のあ る彼 は彼女の気持 ち を知 りなが ら黙 って去 ってい く。やがて母 を亡 くした リリーは生活 に追 われ る身になる。そんなあ る 日

,母

の墓の前で独 り悲 しみに くれている ところにシーモ アが現 れ

,ふ

た りはパ ーシヴ ァルの立会 い の下 に秘密の結婚 をす る。夫の本当の名前 も身分 も家族の ことも知 らない ままに

4年

が過 ぎ

,子

供 も 生 まれ る。ある冬 の夜

,旅

人が一夜 の宿 を求 めて扉 をたた く。現 れたの はシーモ アの父親で

, 2人

の 結婚 は晴れて認 め られ

,

リリーはフ イデ イーナ公爵夫人 と して ヴェル ドポ リスの社交界 に受 け入れ ら れ る。 ヒロイ ンの名前 を タイ トル に した物語 は

,LHが

初 め てで あ る。のここで は主人公 はシーモアで も ドゥアロウで もな くリリーで

,物

語 の焦点 はつね に リリーにおか れてお り

,そ

の心 の動 きが ときに母 親の観察 によって

,あ

るい は本人の独 白 とい う形 で表現 されてい る。 リリー もまたマ リア ンやエ ミリ と同 じように自分 の方か らは何 の働 きか け もで きず

,た

だ運命 にお し流 され るだけの人形型の ヒロイ ンの

1人

であることに変 わ りはないが

,シ

ヤーロ ッ トの描 き方 には大 きな変化が生 じてい る。次 の一 節 は

, 1年

あ ま りが過 ぎた頃

,町

で思いが けず シーモアの姿 を見か けた リリーの描写である。

While she was hastily retracing her steps, she chanced to glance upWards at one of

the maiestiC edifices frowning above her and saw,Seated at an Open Window and gaz‐

ing pensively at the brilliant crowds beneath, the well―

remembered form of Mr.

Seymour. At this unexpected sight, a smothered exclamation of,Oyful surprise burst

frOm Lily's lips and a radiant right sparkled in her dark eye.She stood transfixed for

a momenti and while yet lost in wonder and delight, he raised his eyes and they on

her.I〕lushing deeply,she hung down her head and coVered her face with her hands,

、vhen she looked again the window Was c10Sed and the welcome vision departed.ICruel

man', thought she, while a shower of unbidden tears gushed forth. `He ■light have

spoken one little word to me,were it only for the sake of my mother's kindness'10)

一瞬の出来事 のなかに

,

リリーの予期せ ぬ喜 び とつづ く落胆 とが鮮 やか に とらえ られてい る。彼女 の 心 の動 きが 日に見 える ようであ る。心理描写がほ とん ど見 られなか ったマ リア ンやエ ミリに比べ れば, この リリーの描写 はかな り内面 に分 け入 った もの といえる。 リリーは男性か ら眺め られるだけの表情 に とば しい人形 で はな く

,淡

い恋心 をいだ き

,不

安 や失望 に とらわれ

,悲

しみ に くれ る

1人

の生 きた 女性 になってい る。 物語の結末 は結婚 に よるハ ッピー・エ ンデ イングにな ってい るが

,全

体 の調子 はそれほ ど明 るい も

(7)

のではない。母の死後

,天

涯孤独の身になったリリーは針仕事でわずかな収入 を得 なが ら

,一

方シー

モアヘの思い も断ち切れない ままに

,次

第 に若 さも衰 えてい く。 こぅした佗 しい生活

,独

りの寂 し

,焦

燥の思いなどは

,こ

れまでの ヒロインには無縁 の ものであった。

LHに

はリア リステ イックな

雰囲気があ り

,後

の小説 F教授』(Ttt P匂祢sογ

,1846年

執筆

,出

版 は

1859年

)を

しのばせ る もの

が あ る。 た とえば 『教授』 のなかで ロイ ター (ZoraFde Reuter)の 学校 を解雇 されたフランシス

(Frances Evans Henri)が

,た

った

1人

の身内であった叔母の墓の前 にたたずみ泣いているところ

にクリムズヮース

(William Crimsworth)が

現れる場面 は

,明

らかに

LHの

再現である。次 に両者 を

比較 してみたい。 リリーは彼女 を見ぬ振 りをしたシーモアのつれない態度に悲 しい気持 ちで

,母

の眠

る聖 ミカエル教会の墓地にゆき

,ひ

とりで生 きることの幸 さと寂 しさを嘆 く。

As the chant died away, Lily toOk up the tune and sang mournfully the fo1lowing

stanzasI

Dark is the mansion of the dead,/Dark,desolate,and still Around it dwens a solemn dread,/within a charnel chill

Earth is a dreary void to me,/Heaven is a cloud of gloom. Then Motherl let me sieep with thee./Safe in thy stilly tomb.

She ceased, and throwing herself on the grassy grave, wept and sobbed bitterly. When this paroxysil■ of grief subsided, she rose, and was preparing to leave the cemetry, when a tall and dark figure glided from an adjoining cypress grove and

stood before her.11)

同じ場面が

F教

授』では次のように書かれている。

I knew she could retain a thinking attitude a long time without changei at last,a tear

feni she had been looking at the name on the stone before her,and her heart had no

doubt endured one of those constrictions with which the desolate living,regretting the

dead, are, at times, so sOrely oppressed, Many tears roned down, which she 、viped

away, again and again,with her handkerchief: some distressed sobs escaped her, and

then,the paroxis■ l over,she sat quiet as before.12)

『教授』 で は視 点が男性 の語 り手 ク リムズ ヮース に限定 されて い るため に

,フ

ラ ンシ ス の心 理 描 写 に は限界 が あ る。 フ ラ ンシスが リリーの よ うに詩 を目ず さむの も

,こ

の作 品の リア リス テ ィ ックな雰 囲

(8)

146

岩 上 は る 子 気や寡黙な彼女の性格にそ ぐわない。そのため不 自然なが らも

,ク

リムズワースが悲 しみに くれるフ ランシスの姿 を物陰か ら見つめて

,そ

の心情 を推 し量 るという形にならざるをえない。 ヒロインの内 面を直接的に表現する一つの方法 として

,ヒ

ロインを`I'と して

1人

称で語 らせ ることが考 えられる。 しか しシャーロ ットが女性主人公 を語 り手 として採用 したのは1847年に発表 された『ジェイン・エア』 が最初で

,そ

れまでの初期作品には一例 も見あたらない。

A-4

メアリ・ヘ ンリエ ッタ・パーシイ(Mary Henrietta Percy)

ドゥアロウ侯爵の

2人

日の妻になるメアリはプランウェルの主人公アレグザ ンダー・パーシイの娘

,シ

ャーロットはこのヒロインを1834年ごろか ら自作 に取 り入れている。前妻のマ リアンと名前が

類似 していることからも推測 されるように

,メ

アリもまた人形型に属するヒロインであ り

,

ドゥアロ

ウ侯爵にその運命 を翻弄 されることになる。『ヴェル ドポ リス上流社会」(`High Life ln Verdopolis',

3.1834)に

は新婚3ヵ月 日に して

,早

くも夫の浮気 に胸 を痛めるメアリの姿がある。この頃の ドゥ

アロウ侯爵は戦功によリザモーナ公爵の称号 を与 えられ

,割

譲 されたグラスタウン東部の

2州

にアン

グリア王国を樹立する野望 に燃えている。その夫の飽 くことなき野望 と熱狂の嵐 に

,メ

アリがやがて

抗いようもな く巻 き込 まれてい くであろうことが次のように予見されている。

I、vish...she was as far beyond the reach of sorrows arising from her husband's in― satiable ambition and fiery ilnpetuosity as Dian is above the lash of the restless deep. But it is not so: her destiny is linked with hisi and however strangely the great river of Zamorna's fate may flowi however awful the rapids over、 vhich it may rush;howev―

er cold and barren the banks of its channel and however wild, however darkly

beached and stor■ lily binowed the ocean into which it may finally plunge, Mary's

must fo■ow.13)

この過剰 な形容詞 や比喩 を連 ね た大 げ さな文体 は初期作 品 の ひ とつ の特徴 で もあ る。今 やバ イ ロ ン的 な ヒー ロ ー と化 しつ つ あ るザ モ ー ナ公 爵 に 関 わ っ たす べ て の女 性 が た ど る悲 劇 的 な宿 命 を

,シ

ャー ロ ットはメアリに描 こうとする。すなわちザモーナ公爵の「バシリスクさなが ら

,相

手 を金縛 りにす る魔力」 にとらわれ,「け して解 くことので きない鎖でがんじが らめ」10にされた女性 たちのすがた である。報い られない愛のテーマはすでに「呪文」

(`The Spell',6.1834以

下SPと 略記

)に

始 まっ ている。これはザモーナ公爵の弟チ ャールズ・ウェルズ リによる

,兄

の二重人格ぶ りを説明するため の物語 ということで

,ザ

モーナ公爵 と訳子の兄弟が急邊つ くり出された りする奇妙 な物語である。 こ こではザモーナの性格 よりも

,夫

への疑惑に苦 しむメアリに焦点をあててみたい。物語の梗概 は次の とお りである。

(9)

ザモーナ公爵 と結婚 して

1年

がたち

,メ

アリは献身的に夫 を愛 しているが

,夫

の愛に確信が もてな い。何か しら秘密 をもち留守がちの夫への疑念がつの り

,メ

ア リはついに耐え切れな くなって秘かに マイナ 。ローリ (後述する

)の

別荘 をのぞきにい く。そこに夫の面影 をもつ子供たちとその母親の姿 をみつけたメアリは逆上する。帰宅 したザモーナ公爵は原因不明の熱病に冒されるが

,医

師 も妻 もよ せ付けようとしない。 ところが奇妙なことに病床に伏せっているはずのザモーナ公爵の姿をパーティ の席で見かけたとい う者が現れる。マイナの介抱によってようや く危機を脱 した夫は

,面

会する度 に 態度が異な り

,メ

アリにはまるで別人のように感 じられる。やがて一連の不可解な事件について謎解 きが行われる。すなわちザモーナ公爵にはアーネス トという洸子の兄がいたが

,ふ

た りが同時に人に 見 られると死が もたらされるという呪いがかけられたため

,兄

は家族 とともに人 目を避けてひっそ り と暮 らし

,今

日にいたったのだとい う。 結果的にはザモーナ公爵の背信 はなかったわけだが

,メ

アリの不安 は消えない。なぜなら彼女の心 の奥には

,い

つ しか自分 もザモーナ公爵に捨てられ死んでいったマ リアン・ ヒュームとおなじ運命を

辿 るので はないか とい う不安が潜んでいるか らである。“I shudder whenever l think of her,not

with hatred。 ..but、vith horrOr at her ghastly fate.Were that fate to be mine,were Zamorna to leave me and marry another,I shOuld die,■ ot Of consumption,but of a sudden paroxysm of hfe_quenching agony that wOuld cut me down hke a scythe."15)と ぃ ぅメア リの言葉力

M史女 の 心情 を明確 に語 っている。 メア リもまたマ リアンと同 じようにザモーナヘの愛 をその存在の依 りどこ ろ としている。 メア リに とってはザモーナがすべてであるのに対 して

,ザ

モ ーナに とっては彼女 はす べ てではない ところに

,メ

ア リの苦悩がある。それゆえにメア リはザモ ーナ公爵 に献身的に仕 えるマ イナ 。ロー リの 自負一―― 困難 なときにザモ ーナ公爵の伴呂 となれるのは

,育

ちの よい苦労知 らずの メア リで はな く

,苦

労 に馴 れていて ひる まず立 ち向か うことので きる自分の方である。1の 一―

_に

打 ちのめ された思い を味わ されるのである。 しか しメア リの悲劇 はザモーナの心変 わ りによってで はな く

,夫

と父 ノーザ ンガーラン ド伯爵 の権 力 争 い に よっ て もた ら され る。「 わ が ア ン グ リア と ア ン グ リア の 人 び と」

(lMy Angria and

Angrians',10.1834)で

,建

国 な った ア ング リアにヴェル ドポ リスの住 人が「 出エ ジプ ト記」 さ なが ら大移動 してい く模様が描 かれ る。メア リはアングリア王妃 として優雅で堂 々とふるまい,ザモー ナ公爵 も双子 の息子 たちの誕生 を祝 う式典 を挙行す るなど権力 の絶頂 にある。だが首相のノーザ ン ガーラン ド伯爵 はその式典 に も姿 を見せず

,ザ

モ ーナ公爵 との対立 を深 めている。やがて両者の対立

,ア

ング リア王 国のみな らず ヴェル ドポ リス連邦の全土 を

2分

す る戦争へ と発展 してい く。ザモ ー ナは自分 を裏切 って反乱の首謀者 となった義父 ノーザ ンガーラン ドに復讐す るために

,彼

の愛娘つ ま り妻のメア リを捨 て る決心 をす る。「現在 の事件」

(`PaSSing Events',4.1836以

下PEと略記

)は

主 要人物たちの状況や戦火 に巻かれるア ング リア王国の様子 などを断片的につづ っている。夫 と父のす↓

(10)

148

は る 子

立 に胸 を痛 め る メ ア リは

,不

安 に夜 も眠 れ ない 日々 を過 ご して い る。 ひ と リヴ ェル ドポ リス にあ って 夫 か らの便 りを持 ちわ び る メ ア リの焦燥 感 が次 の よ うに描 か れ てい る。

“Amelia,what time is it?Have any letters arrived?"“ No,my lady...''“I wish that

the mail would cOme in...How long is it since I've had a letteri now,Ameha ?"

“Three weeks,my lady'' ``If none comes this evening what shall l do,Amelia?I shall

never get time on till tomorrow.Oh,I do dread those long、 veary,sleepless nights I've had lately...I think l could sleep if l only had a kind letter for a taliseman to press

to my heart all night long. . . Would he but 、vrite two lines to me signed with hiS

namel''17)

この一節 は後 にエジェか らの便 りをむな しく待 ったシヤーロ ットの姿 を紡彿 させ る。次 に示すのは

1845年 1月 8日 にシャーロットがエジェに宛てた手紙の一部である。

Miss Taylor has returned.

I have nothing for you from WIonsieur Heger,' sayS shei

“neither letter nor message..."I strove to restrain my tears,to utter no complaint. .. One pays for external cal■ l with an internal struggle that is almost unbearable. Day and night l find neither rest nor peace,If l sleep l am disturbed by tormenting dreams in which l see you always severe,always grave,always incensed against me.18)

ラチ フ ォー ドは1941年 に 出版 され た T力ι】総諺'sV子石ο

bげ

C肪 ''力 οο

'の

中 の (Pensionnat HOger'と 題 され た第21章 で

,シ

ャー ロ ッ トのエ ジ ェ氏 へ の恋 につ い て論 じた さい

,こ

の手 紙 の二節 を引 用 し,

それがエジェに会う

6年

もまえに書かれた

PEの

なかにあることを初めて指摘 した♂

)エ

ジェとシャー

ロットの関係については

,エ

ジェに宛てたシャーロットの4通 の手紙が

1913年

に発見されたことから

, 当時の伝記研究家たちのあいだでブリュッセル留学にたいする関心がいっそ う高 まった。その結果 ブ リュッセルを舞台 とした小説 『ヴイレット』(Й J肪″

,1853)が ,自

伝的な要素のきわめて強い作品 とされ

,さ

らにエジェヘの失恋体験がなかったならシャーロ ットの作家 としての出発 はなかったであ ろうといった憶測 までなされるようになった。作家の個人的体験 と作品 との関連 は立証の難 しい問題 であるが,少 な くともラチフオー ドの発見か らいえることは,報 い られない愛のテーマが,シャーロ ッ トがエジェヘの失恋を体験する以前に

,す

でに初期作品のなかに見 られるという事実である。 2① シャーロ ットは10代のはじめか ら20代の前半にかけてのかな りの時間を費や して

,こ

のテーマの も とに無数の詩や物語 を創作 していた。そ して20代も終 りかけた頃

,か

つてのアングリアのヒロインた ちがおかれていたと同 じような状況にたち至 ったわけである。初期作品からエジェヘの失恋そ して職 業作家 としての出発は

,同

じ道程の上におかれたそれぞれの里程標であったといって もよいだろう。

(11)

エ ジェヘ の満たされない愛 は小説家 を生 む一つの契機 になったか もしれないが

,同

時 にそれ は初期作 品時代 のシ ャーロ ッ トの ロマ ンスヘ の陶酔が もた らした結果であったか もしれないのである。 シャー ロ ッ トを後 に妻子 あるエ ジェヘの禁 じられた恋 に傾 かせ た ものの背景 には

,報

い られない愛 に苦 しむ アングリアの ヒロインヘ の 自己投影があ り

,さ

らに愛 は実 らない もの とい う初期作品 に一貫 して流 れ るシ ャーロ ッ ト独特 の恋愛観があ った と考 え られ るのである。 シ ャーロ ッ トは満た されない愛 に苦 しみ憔悴 し

,夢

遊病者の ように紡雀す るメア リの姿 を描 き続 け る。やがて戦火がお さま リア ング リアに平和が訪れ

,ザ

モ ーナ公爵 とノーザ ンガーラ ン ド伯爵の和解 が成立 して もなお,メ アリは夫の心が 自分か ら離れてい くことにおびえ

,疑

心 をつの らせている。「マ イナ・ ローリ

J(lMina Laury',1,1838)に

は不安 と嫉妬に神経 を病むメア リの姿が次のように描か れている。

...his own false play,his alienations,and his unnumbered treacheries had filled her

mind with hideous phantasms of jealousy,had weakend her nerves and made them a

prey to a hundred vague apprehensione ―――fears that never wholly left her except

when she was actually in his arms or at leastin his i■ lmediate presence.21)

ザモ ーナ に関わるヒロイ ンたちの悲劇 は

,い

か にザモ ーナが気 まぐれで不実で残酷であ って も

,な

お 彼 を愛 さず にはい られない ところにある。 なぜ な ら彼女 たちの存在その ものがザモーナヘの愛 を依 り どころ と しているか らである。221メ ア リもマ リア ンと同様

,ザ

モ ーナな くして は生 きていけない男性 依存 の人形型 ヒロイ ンのひ と りであるこ とに変 わ りはない。 だがすでに見てきたように

,メ

アリはかつてのマ リアンのようにひっそ りと「枯死 してゆ く百合」 ではない。彼女はこれまでのヒロインのだれよりも雄弁であ り,また しば しば手記や手紙 をしたため, その虐げられた心の苦 しみを言葉に して訴える。メア リは自己表現 (主張

)す

る最初のヒロインとい えよう。 しか しあ くまで自分の欲望のままに行動するザモーナと

,そ

の彼 に魅い られ従 うしかないメ アリの位置関係はいぜんとして変わらない。この男性の優位 と女性の劣位 という基本的な構図は

,ア

ングリア伝説の主要な部分 を占めるザモーナ公爵 をめ ぐる恋愛物語のひとつの大 きな特徴 となってい る。そこには愛における男女の徹底 した不平等が見 られるのである。20

B.妖

婦型 ヒロイン

B-1

ジェリア・ ウェルズ リlJulia Wellesley)

ジュリアは ドゥアロウ侯爵の従妹で「捨て子」

(`The Foundling',6.1833以

FOと

略記

)に

じめて登場 し

,彼

の当時の妻マ リアン・ ヒュームとは対照的に

,健

康で淡刺 とした

,勝

気で大胆な女

(12)

150

岩 は る 子

なる。この作品はアングリア伝説の初期に書かれたもので

,す

でに論 じた「アルビオンとマリーナ」

(お

よびその続編「婚礼」

)と

,「

アーサーについて」(`SOmething about Arthur',5.1833若 きアー

サーとマイナ・ローリの恋を扱ったもの

)に

つづくシャーロット

4作

日の恋愛物語である。

ただしアー

サー (ドゥアロウ侯爵

)以

外の男性 を主人公 にした もの としては

,こ

れが初めてである。次に

FOの

梗概 を示す。 イギ リスの片田舎で農夫 に拾われ育て られたシ ドユーは

,養

父母 と後見人の死後

,栄

達 を求めてア フリカのヴェル ドポ リスに渡る。そこで議会 を運営する ドゥアロウ侯爵の 目にとまり

,説

得 されて国 会議員になる。彼 はエル リントン卿批判の熱弁 を振 るい

,

ドゥアロウ侯爵の期待 に応 える。その一方 で,荒馬を御 しきれずに馬車か ら振 り落 とされそ うになったところを助けたことか ら,シ ドニーはジュ リアを見初める。さらにヴェル ドポ リスの名士たちを招いてのパーテイの席で

,そ

の華麗な姿 と美 し い歌声にすっか り虜になって しまう。シ ドユーはなんとかジュリアと結婚 したい と考えるが

,彼

女 に は父親の決めたジェイムズとい う婚約者がいて

,名

もな く財産 もないシ ドニーに勝ち 目はない。 しか しジェリアはシ ドニーの熱烈な求愛にほだされて

,愛

して もいないジェイムズ とは結婚 しないことを 誓 う。やがて結婚式の 日になるが

,ジ

ェリアは結婚の誓いを述べ ようとせず父 を困惑 させ る。そこに ウェリン トン公爵 と ドゥアロウ侯爵がン ドユーと共に現れ

,彼

がかつてグラスタウンを築いた「12人 の勇士」の王であったヨーク公の王子であることを告げ

,シ

ドユーとジユリアの結婚式が行われる。 明 らかにジェリアはマ リアン・ ヒュームとは異なるタイプのヒロインである。シャーロットはふた りを対照的に描こうとしている。「緑色のシルクの ドレスに真珠のネ ックレス

,髪

に銀梅花 を一輸飾 っ た」マ リアンの清楚な身 じまいに対 して

,ジ

ュリアは「宝石 を散 りばめた黒いサテンの衣装 に

,白

い だち ょうの羽根 をつけた」 目もあやないでたちで登場する。小柄で きゃしゃなマ リアンは妖精のよう な身ごな しであるのに対 して

,ジ

ェリアはまるで女帝のように堂々とふるまう。 また性格 について も

ジュリアは ドゥアロウ侯爵の気の荒い馬の手綱 をとるといって きかず

,彼

を して`you are a foolish

petted little girl and must have your way l suppose',20 と言わ しめる。パーテ イの席でエル リ

ン トン卿 にダンスを申し込 まれ

,お

びえて助 けを求めるマ リアンとはたいへ んな違いである。そうし た活発で生 き生 きとしたジュリアを ドゥアロウ侯爵力畝子いていることは,作品の随所 にうかがわれる。 また

FOで

はアーサーを主人公 としたそれ までの恋愛物語 と異な り

,恋

す る男女の立場が逆転 して いる。アーサーはマ リアンに対 して もマイナに対 して も絶対的な優位にたっていた。それはひとつに は身分差 (マリアンはウェリン トン公爵の主治医の娘

,マ

イナはウェリン トン公爵に仕 えるネ ッド軍 曹の娘

)の

ためであ り

,ま

たひとつには恋の主導権がマ リアンあるいはマイナにではな くアーサーに 握 られていることにある。 ところがシ ドニーは少な くともはじめは素性の知れないよそ もので

,ジ

ュ リアはいわば高嶺の花である。期待 と失望のあいだで揺れ動 くのは

,ジ

ュリアではな くてシ ドニーな のである。恋に病めるシ ドニーの姿が次のように描かれている。

(13)

By this time Sydney was become a confirmed admirer of Lady Juha Wenesley,rest‐

less and lovesick,he haunted the house、 vhere she resided or wandered about his own

apartments in melanchOly and listless abstraction,carefuny weighing his grOunds for

hope Or despair, sometimes hoping that the balance inchned to one side, and sOme―

tiines fearing that it leant to the other 25)

これに対 してジュ リアはシ ドニーの雄弁 に酔 い

,す

っか り恋 を している気分 になって父の言 いつ けに も背 こうとす るのであ る。

`イ

「his strOke which l have so long dreaded has at length fallen upon me Sydney I

cannot give you any hope,My father is stern and inexorable; he would rather see me

in my grave than married to a nameless,untitiled stranger Yet if the assuarance that l love you,that l wiH never be the wife of another if l cannot be yours will give you any comfOrt,accept it."26)

ジェリアが た とえ父の命令であ って も

,意

にそ まなければ従 わないであろ うことは ドゥアロウ も知 る とお りで あ る。彼 はい う。 Julia is a girl of sense and spirit,and will not marry the object of her contempt'27)そ して実際 ジェイムズ との結婚 を拒 み

,父

親 を して `Silence,self―willed and dis―

obedient child.I,who have a right to compel,condescend to entreat―――一

and you to answer

me thus'.期 と激怒 させ る。父 としては「愚か な娘 の一時 の気 ま ぐれ」 によって

,長

年 にわた るジ ェ イムズ との約束 を反古 にす るわけにはいかない。 しか も身分 も財産 もないシ ドニーとの結婚 な どもっ てのほかである。身分 の違 いはアーサー とマ リア ンあ るいはマ イナ との場合 にも

,結

婚 の一つ の障害 で あった。 そ して どち らの場合 も

,父

親 ウェ リン トン公爵 が息子 の結婚 を阻止 してい る。(ただ しマ リア ンはの ちに結婚す る。

)FOで

はン ドニーの出 ロカ洋J明 し

,

さらに後 には政府か ら

2万

ポ ン ドの年 金が支給 されるようにな り

,問

題は解決する。 これは17歳のシャーロ ットに しては安易な解決法に見 える反面,そもそ もシャーロ ットの関心が結婚の社会的側面にはなかったのではないか とも思われる。 ジェリアが シ ドニーに`恋 'するのは

,ひ

とつにはそれが禁 じられているためである。父が断固 とし て許そうとしない相手に操 をたてるというロマ ンティックな役 どころをジュリアはすっか り気に入 っ

て しまう。 そ こで `I will not break my faith to poor lost Edward,nOt if the rack were to be

the punishment of my constancy.'と 父 に哀願す るのだが

,気

分やの娘の性格 を知 っている父 は冷

淡 にThese rOmantic airs lose their effect upon me'.2の と応 えるだけで相手 に しない。お よそ1

年後に書かれた「後の出来事」

(`A Late Occurence',1.1835)で

はジュリアがシ ドニーに対 して`恋

(14)

152

岩 は る 子

The slovenliness of his outward man became elegant negligence,what she had before

called iaundiCed squalor was ■ow designated as interesting paleness, and the good

points he really possessed,his eloquencet his high principles and his prOfound scho― larship shone out with unshadowed luster.30)

FOで

はふた りは結婚 しハ ッピー・エ ンデ イングで終 っているが

,そ

の後 まもな くしてジェリアの

熱 は冷めて しまう。3ヵ月ほどして書かれた「郵便局」

(`The POSt Office',91833)で

はふた りの

間に波風がたっていることが伝 えられ,「秘密」

(`The Secret',11.1833)で

も宝石好 きで浪費家の

妻 に手 を焼いているシ ドユーの姿がある。 さらに「わが ア ング リア とア ングリアの人 び と」(`My

Angria and Angrians',10。

1834)で

,夫

の上 めるの も聞かずジュリアがアングリアヘ と出奔す

る。そ して「後の出来事」においてはシ ドニーがジェリアとドウアロウの仲 を察知 して

,彼

と反 目す るに至 る。「現在の事件」(`PaSSing Events',4.1836)で はついにジュリアはシ ドユーと別れ

,軍

人 のソーン トンと再婚 しているのである。 1833年までに書かれた恋愛物語では

,マ

リアン・ ヒュームをはじめマイナ 。ローリ (後述す る), エ ミリ・チ ャールズワース

,

リリー・ハー トなど人形型のヒロインが主流である。人形型 と対ЛRをな す ヒロインとして創 りだされたのが

,女

傑型のゼ ノウビア (後述する

)や

妖婦型のジェリアであった と考 えられる。 しか しふた りを主人公にした物語 はないことか ら

,シ

ャーロットは彼女たちにたい し ては

,人

形型ほどには共感 しなかったように思われる。ジュリアは自我 をもった独立心の強い女性だ が

,そ

うした性格 はむ しろわがままで気 まぐれ

,

自己中心的 といった否定的なものとされていること

,弟

チ ャールズ囃lの観察か ら分かる。`He thinks her a pretty woman,one of the prettiest in

Africa, & I've seen him regard her with a very indulgent&gratified smile when she has

been singing this little ballad'.31)ジ ュリアは明 らかに ドゥアロウ侯爵がそれまで知 っていた女性た

ちとは違 った魅力 をもつ女性である。 ジュリアは「恋する」 というより「恋 される」女性であ り

,そ

こに妖婦 としての資質がある。 自己 本位で移 り気だが

,

どこか しら男性 を引 き付 けるものをもっている。ジュリアは後の小説では『ヴイ レット

Jに

登場するコケテイッシュなジネヴラ・ファンシ ョウ

(Ginevra Farnshaw)を

想起 させ る。 ジネヴラはルーシーが秘かに思いをよせていたジ ョン・ブ レ トン

cohn BretOn)を

魅了す るが

,彼

に振 られるとす ぐに別の男性 と駆け落ちする。軽薄で計算高 く

,

しか し生 き生 きと魅力的で愛嬌のあ るジネヴラに対 して

,ル

ーシーは羨望 と批判のい り混 じったアンビヴァレン トな感情 を抱いている。 3の シャ

_ロ

ットはかな らず しもコケ ットのヒロイ ンに共感 してはいない し

,そ

の造形 も成功 してい るとはいえない ものの

,初

期作品のヒロインのひとつのタイプを造形 していることは注 目すべ きであ る。

(15)

B-2.ル

イーザ・ ヴ ァー ノン(Louisa Vernon) ル イーザ は もとはオペ ラ歌手 お よびバ レー・ ダンサ ーで

,初

期作 品 に登場す る女性 の中で もっとも 男性遍歴の多い女性である。は じめ ウェ リン トン公爵の弟 リチ ャー ドの妻であ ったのが,や がてジ ョー ジ・ ヴァーノン (あるい は ダ ンス

)卿

と再婚 し死別す る。つ ぎにザモ ーナ公爵 に対す る反乱 に成功 し た ノーザ ンガーラン ド伯爵の愛人 にな り

,彼

とのあいだにキ ャロライ ンが生 まれ る。 だが その一方で 若いマ カラ・ ローフテ イと情事 を重 ねる。次々 と相手 を変 えて は不安定 な恋愛遊戯 にふ けるルイーザ は

,ま

さに娼婦的な女性 といえる。「キ ャロライ ン・ ヴァーノン」(以下 で詳述す る

)の

1部

,ま

だ舞台に立 っていた頃の華 やかな 日々を懐か しむ次の一節が

,ル

イーザ の性格 をよ く語 っている。

“13ut you can't think,Elise,how all the gentlemen admired me when l was a girl―

what crowds used to come to the Theatre to see me act

―――――

& how they used to

cheer me―

―――but he never did,he only 100ked――――(Dh,just as if he worshipped me ― ―

&when l used to clasp my hands&raise my eyes iuSt SO―

&shake back my

hair in this way― ―――which l often did in singing solemn things― ―一―he seemed as if

he cOuld hardly hold frOm coming on to the stage&faning at my feet,&I eniOyed

that――――the other Actresses did envy me so― 一―一"33)

ルイーザの 自意識過剰で虚栄心が強 く

,貧

困な内面力数日実 に表 れている。彼女 は自分 のあや しげな魅 力 に男性 をひざまづ かせ

,彼

女 の ため に はいか な る犠性 を も払 わせ るこ とで虚栄心が満 た され る と い った女性 である。`I am the woman who has had power to fascinate Northangerland,to makё

him desert his wife and banish his friend,to make him revolutionize Africa。 '34)とぃ ぅセ リフが 娼婦 ル イーザの最大の 自負であ る。

「現在 の事件」 で は ノーザ ンガー ラ ン ド伯 爵 はル イーザ を

Eden COttageに

住 まわせ た まに通 っ て くるが

,気

持 ちが安 まる ど ころか反対 にか えって疲 労 す る。 Tve striven hard to get a mo―

ment's rest&content&I cannot,Louisa sickens me&I hate France&I abohOr Africa.'35)

と愚痴 をこぼ している。やがてザモ ーナ公爵が再起 し

,ノ

ーザ ンガーラ ン ド伯爵 は逃走 しルイーザ は ザモ ーナ公爵 に捕 らえられる。彼女 は自分の立場 もわ きまえず釈放 を要求 して

,聞

き入 れ られ ない と 「雌 の虎」 の よ うにザ モーナ公 爵 の手 にかみつ いて血 を滴 らせ る。 また 「ジュ リア」 (Julia',6.

1837)で

は狂 った ように絶 叫 してザモーナ公爵 に手 を焼 かせ ている。 さらに母親 と しての 自覚 と愛 情 に も欠けることが

,キ

ャロライ ンのつ ぎの言葉か ら察せ られる。 これ は久 しぶ りに訪ねて きた父の ノーザ ンガーラン ド伯爵 に

,キ

ャロライ ンが母の仕打 を訴 えている ものである。

“I never provoked her but when she provoked me worse― ―――She's like as if she was

(16)

154

岩 は る 子

&to have scarfs & veils &such things,it does vex her so― ―――then,when she's rav―

ing& caning me vain & conceited一

一―一a hussey―――― I can't help sometimes letting her hear a bit of the real truth." “& what do you call the real truth ?" “Why, I tell her that's she's iea10us of me一 ――― because people、 vill think she is old if she has such a woman as l anl for her daughter― ―――"36)

はた してキャロラインのい うように

,ル

イーザが娘に嫉妬 しているのか否かは分か らないが

,母

親 と しての未熟 さや無責任 さは否定で きない。ルイーザはむか し踊 り子であったころと

,精

神的には少 し も変わっていない。成長がないのである。

B-3

キャロライン・ヴァーノン(Caroline Vernon) キャロラインが最初に登場するのは「現在の事件」で

,ル

イーザ とノーザ ンガーラン ド伯爵のあい だに生 まれた私生児 として紹介 されている。「ジュリア」で後見人のザモーナ公爵 とは じめて会見 し たときは

,彼

の膝にのって父 ノーザ ンガーラン ドのことを心配する愛 くるしい少女 として描かれてい る。やがて「キャロライン・ ヴ ァーノン」

(`CarOline Vernon',6-8/11-12.1839以

CVと

略記) の主人公 として登場する彼女は

,15歳

という年齢の割には成熟 した美 しい

,そ

して母親譲 りの情熱的 な気質の娘になっている。物語は

2部

に分かれ

,第

1部

ではザモーナ公爵の後見を受 けなが ら母親 と ホークスクリフの田舎で暮 らしている様子が↓苗かれ

,第

2部

ではキャロラインがパ リに出かけその社 交界で受けた影響

,ま

た帰国後ザモーナ公爵に魅入 られてい く姿が描かれる。以下に梗概 を示す。 アングリア王国は戦火 も収 ま り

,ザ

モーナ公爵 とノーザ ンガーラン ド伯爵は和解 し

,国

は平和 を取 り戻 している。田舎暮 しが身についたザモーナ公爵は強いなまりで話 し

,国

王 とは思えない質素な暮 らしぶ りである。ザモーナ公爵の後見を受けているキャロラインはす っか り大人びて

,共

和主義のパ リに憧れ

,バ

イロンやナポ レオンを崇拝 している。父親のノーザ ンガーラン ドは娘に社交術 を身に付 けさせるためにパ リにや りたいと考えるが

,ザ

モーナは難色 を示す。軽薄なキャロラインがフランス やイタリアの堕落 した風俗 に染 まることを懸念 しているのである。 しか し母親ルイーザの強い希望 も あって

,一

行はパ リに出発 してい く。(第

1部

) パ リでの4ヵ月はキャロラインに

,こ

れまで彼女が知 らなかったザモーナ公爵の放縦 な素顔 をお し え

,彼

の隠者のイメージはす っか り塗 りかえられる。父を説いてヴェル ドポ リスに戻 ったキヤロライ ンは

,ザ

モーナ公爵への思いを「恋にちがいない」 と確信 し

,

まもな く父の もとを出奔 し自らザモー ナ公爵の胸 に飛び込んでい く。 もはや少女ではな く女性になったキ ャロラインを

,ザ

モーナ公爵はこ れまでの多 くの女性たちと同 じように我が もの とする。ノーザ ンガーラン ドはメアリに続いて今 また キャロラインも宿敵ザモーナに奪われたのである。(第

2部

)

(17)

1部

と第

2部

とで は作 品の雰囲気がかな り異 なっている。ザモーナは ヨークシャー を思 わせ る農 村 にあって

,額

に汗 して働 く農夫であ り

,ノ

ーザ ンガーラン ドも娘の将来 を心配する平凡 な父親であ る。交 わ される会話 も天候 や土壌 とい った現実 的な もので

,華

麗 なア ング リアの社交界 は面影 もない。 だが この物語の主題がキ ャロライ ンの誘惑 にあ ることは

,す

で に第

1部

に伏線力iしかれて い るこ とで 分 か る。キ ャロライ ンの性格 を知 り抜 いているザモ ーナは

,彼

女 の中にひそむ危 険な種子 をみのが さ ない。

She is at once careless&1lnaginative― ―――her feelings are mixed with her passions― ―

――……both are warm&she never reflects. . .Guidance like yours is not what such a

girl ought to have― ―――――she could ask you for nothing which you would not grant

――――――Indulgence would foster all her defects,when she found that wi4ning s■ liles&

gentle words passed current for reason&judgement・ ..She wOuld speedily purchase

her whOle win with that cheap coin.37)

この道徳家のザモーナが一転 して

,

もとのバ イロン的な誘惑者 に変身するのは唐突に見えるか もしれ

ない。だがすでに「ジュリア」における

2人

の最初の出会いのさいに

,11歳

のキ ャロライ ンがザモー

ナの胸 に「胸騒 ぎに似た もの」(senSatiOns in his heart he would have died rather than yielded

to.… Sensations he had long thought routed out)30を 起 こさせたというくだ りに

,そ

の後のふた

りの関係が暗示 されている。

CVは

23歳になったシャーロットによる最後のバイロン的な作 品である。 彼の胸 に自ら飛び込んで くるキャロラインに対 して

,ザ

モーナはもはや地味で堅実なお説教好 きの農 夫の役 どころなど脱 ぎ捨て

,か

つての情熱的な誘惑者の顔 をあらわす。 しか しシャーロ ットはもはやザモーナにも

,ま

た彼の魅力に屈 してい くキャロラインに も感情移入 することはない。 自ら情熱に身を投 じてい くキャロラインに対 して

,シ

ャーロ ットはサ ッカレーを思 わせ る口調で若 さがゆえの未経験 を嘆いて見せる。

Oh, human natuFel & Oh, Inexperiencel in what an obscure, dim unconscious dream

Miss Vernon was enve1loped―

―――――How little she knew of herself‐――――――

HOwever,

tilne is advancing&the hours,thOse``wild‐ eyed Charioteers"as Shelley calls them― ― ―……… are driving on― 一――――

She will gather knowledge by degrees―

She is one

of the Gleaners of Grapes in that Vineyard―― ―

where all man&woman‐ kind―

一―have been plucking fruite since the、 vorld began,the Vineyard of Experience.39)

キ ャロラインの経験 とは

,ザ

モ ーナの誘惑 に身 をまかせ

,彼

の数多 くの情婦 にその名 を連 ね ることで

(18)

156

岩 は る 子 ンだが

,CVに

は経験が成長 をもた らす とい う後の小説 にみ られるテーマは認め られない。そこにな んらかの成長 を読み取るとすれば

,そ

れはヒロインの成長 というよりは

,作

者 シャーロ ットの客観的 な視点にある。かつてのメアリ・ヘ ンリエ ッタ・パーシイにたいするような自己投影 はもはやな く, 代わ りに情熱に翻弄 されるヒロインを距離 をもって眺める目があ り

,シ

ャーロットのロマ ンスか らの 覚醒 を感 じさせ るのである。後 に『ジェイ ン・エ ア』 においてキャロラインの面影 を もつ アデル

(AdOle Varens)一

一― ロチエス タ

パ リの ダ ンサーで あったセ リー ヌ・ ヴア レ ン(COlene

Varens)の

あいだに生 まれたとされる私生児一一― が

,ジ

ェイ ンの指導によってパ リの堕落 した風

俗 を脱 し母親 とおな じ轍を踏むのをまぬがれたとするとき

,初

期作品にはほとんどみ られなかった道

徳や教養小説の要素があらたに加わることになる。

(つづ く)

Abbre

ations(省略記 号)

AW[ `Albion and Marina'

CV `Carohne Vernon'

FO `The Foundhng'

GD `The Green Dwarf'

LH `Lily Hart'

PE `Passing Events'

PP `A Peep into a Picture Book'

SE `The Secret'

S P `The Spen'

「アルビオンとマリーナ」

「キャロライン・ヴァーノン」

「捨て子」

「緑のこびと」

「リリー・ハート」

「現在の事件」

「画集をのぞく」

「秘密」

「呪文」

SHCBM T力

ι Ar,sθゼJね筋ι協体 α夕ι

'し

り う 'オ d力ι 'Vγ 河廃,ιgs Q′ C力α7Jοケ″ αη

'Pa″

│じ″

Bt醜

νιJ,Br鶴″(The shakespear Head Bronte)

Fシ

ャーロット&パ トリック・ブランウェル・ブロンテ未出版作品集

J 注 「グラスタウン物語」については拙論「シャーロット・ブロンテ初期作品研究(1■一 グラスタウン物語の形成過程一 一」(鳥取大学教養部紀要第23巻,平成元年10月)を参照のこと。なおアレグザンダーによれば『シヤーロット・ブ ロンテ初期作品全集』の第 2巻 は,1990年3月にその最終原稿をバジル・ブラックウェル社に渡 したところで

,校

正 を済ませ出版されるのは年末になる見込みとのことである。 シャーロット・ブロンテがスコットを愛読 し,その影響を受けていることはラチフォー ドやジェランをはじめとして

(19)

多 くの研究家が指摘 しているが,F湖上の麗人Jと「アルビオンとマ リーナ」の類似についての言及はない。ラチフォー

ドが

AMで

注目しているのは,故国を遠 く離れたアルビオンの耳にマ リーナの声が届いたという`超自然現象'につい

てで,それが後にジェインがロチェスターの「声」を聞 く原型になったものと述べている。Fannie E.Ratchford,

TみヮB名

姥そVИ9う 9′CttJ'力οοJ,New Yorki Columbia University Press,1941p45

3) `A Peep into a Picture Book',TJ ヽ

Vise&J A Symington,eds,T力

ι〕r,sθttJ,解例,s'η

'D斃脇う''S力

θJ VPi励腔Fs 9/CんαTlοチカ αη,Pa力巧じ″B紫″,ヶ″房J[脇 θ″力(The Shakespeare Head Bronto),2 volsi l(1986)

and 2(1938)Oxford:Basil Blackwell(以 下

SHCBMと

略記)vol l,p359

4) rbづ ', p 360

5)G E MacLean,ed,T力

ιs″JJ:4打E,tttυαFα″zα,OXford University Press,1931p16

6)Fannie E.Ratchford and William C.DeVane,eds,,Lι ζ

tts宅

′ス初」7tα

i C卵

,ι,〕り脇T力ιE,71y V,「河′‐

枷ピSげ θttα7JOケ形

B解

修,New Haven:Yale University Press,1933,1アレグザンダーはFアイヴァンホーJ

よりもFケニルワースの城』lFa万肋″チカ

,,盈

脇α″♂♂,1820)と の類似 を指摘 しているが,ス トーリーを比較する とやはリラチフォー ドの指摘のほうが自然に思われる。 7) Ratchford,Tλ ι五脇ο%″ `V'石 οうIF C物 'J'力 οο

,,ch 8,p62

8)比

較のため「アイヴァンホー』 とFジェイン・エア

Jか

ら該当箇所 を引用する。

“The maniac figure of the Saxon Ulrica was for a long time visible on the lofty stand she had chosen,tOssing her arms abrOad with wild exuitation,as if she reigned empress of the conflagration which she had raised At length,with a terrific crash,the whole turret gave way, and she perished in the flames which had consumed her tyrant."rt7tr2ヵ 2,ch.31,pp 305-6(Everyman's Library)

“And then they called out to him that she was on the roof, where she was standing,waving her arms above the battlements, and shouting out till they could hear her a mile off: I saw her and heard her with my own eyes She was a big woman, and had long black hair: we could see it streaming against the flames as she stood. I witnessed, and several mOre witnessed, Mr Rochester ascend thrOugh the skylight on to the roof;we heard him call ``Berthal"We saw hiln approach heri and then, ma' anl, she yelled and gave a spring, and the next minute she lay smashed on the

pavement"=帥

ιどメツ,ch 36,p 453(The Penguin EngLsh Library)

9)そ

の後 Julia'(61837),`Mina Laury'(11838),`CarOline Vernon'(6-3/11-1231839)な どヒロインの名 前をタイ トルにした物語はあるが,そ れらはいずれも後で付けられた通称で,シャーロット自身によるものではない。 10)`Lily Hart',Wilham Holtz ed,T力 θ ttθ惚ケ&Lづゥ】α″,University of Missouri Press,1979p_70

11)`Lily Hart'ψ じ

',p71

12)T力ι Pγヮ修ssογ ch.19(Everyman's Library,p148)

13)`A Peep into a Picture Book',5VttCBM,vol l,p 362

14)`A Day Abroad',SrrcBM,vol l,p336た だ し原作はファクシ ミリの状態で,判読不可能のため att attJ7

V,た万脱gsげ C力α7Jοケ形B比脇形,C,Alexander,Basil Blackvell,1983p172によった。(Fシャーロット・ブロ

ンテ初期作品研究』岩上はる子訳,ありえす書房,1990)

15)?¬″ι幹を,ど,9ク.'チ。

,p37

16)rうづ

',p 46

17)`Passing Events',Winifred GOrin ed,F,υ ι Noυι′¢ケ″s,London:Fono Press,1971p 56

18)T J Wise and J.A,Symington eds,The BrontOs,T力 ι

'ィ

Lづυθs,F万 夕η,s力″ α″

9″

'9″ θゼ(The

(20)

158

岩 上 は る 子

Shakespeare Head BrontO),4 vols,Oxford:Basil Blackwell,1932 vo1 2,p23なお原文はフランス語で書 かれているが,同書 に添えられている英訳 を使用 した。 Ratchford,ψ.θ万チ・ch.21,pp 160-64 ラチフォー ドの著書 についてB“″,形 Sοじづヮ炒 働吻碍π "伽 sに書評 をのせたW・ L・ アン ドルーズは

,後

の小説が すべて初期作品の研究によって解明 されるとはか ぎらない としなが らも,報いられない恋のテーマがすでに初期作品 に取 り上げられていたというラチフォー ドの指摘 を評価 している。以下に引用する。

“Miss Ratchford,in the enthusiasm of research,may claini too much for what she has found,but at least we are now far away fro■ l the theory,put in so many words by Robertson NicoH,that it was not untili she had come to k■ow M.Hёger that Charlotte began to live and to write out of her heart. That theory must go. The truth is that she had been living intensely in an inner world for years" ヽV.L Andrews,IClues from The Bronto Juvenilia', β〔報 修Sο湧¢炒TttαηS'じ肪″ιs,X(1942),p105

21)`Mina Laury',L♂ gttJdげ42F7ta,ψ.θ″

,p157

22)Helen Moglen,C力αTJοナルB“銘ヶ形:T力ιSヮ1/C醜ひあυι,,The Universirty of Wisconsin Press,1984

モグレンはザモーナに依存するアングリアのヒロインたちの最大の問題は,彼な しでは自己の存在 を確認 しえない,

その自己の空虚 さにあると洞察 している。以下に引用する。

“They depend upon their dependency.For thenl,the greatest horror is not the physical loss of their lives. . . but the psychologica1 loss: to have autonomy thrust upon them .to be forced back into the void of the self.Alone,they barely exist".pp 51-2

23)Karen Chase,E℃s,η ,Ps7θttf TカヮR監クセSιη筋 "伽 げ P,7SttαJI炒づηCんαγ′οチ形 B702形,C力αTJιd DIじ鯵ηs, G¢οrζこEιぢοチ,Methuen,1984 pp 22-24 チェイスはアングリア伝説は男性の願望 を中心にしたロマ ンスの世界であることを指摘 したうえで,シャーロ ットが 横暴な男性 に翻弄 される女性の内面に目を向けるようになった とき,女性の願望の充足 を許さなかったロマ ンスの世 界への反発 とリア リズム志向が始 まった,と述べている。以下に引用する。

She〔Mary Percy〕 begins to e st outside the hmits of romancei she refuses to endure the self denial and self‐ abandonment which Angrian love has imphed,New mechanisns come into play:sub‐ hmation,evasion,restraint Men in this worid need not learn those devices,but),"形

η″ "s,the women begin to defer pleasure,to discipline hopes,to work at humble tasks,to accept a regimen of

self‐denial――――in other words,to assume responsibilities more suited to quotidian existence than to a realm of l■agic.Angrian women point the way beyond Angrian romance" p 24

24)`The Foundhng',S∬θβれrv。

11,p242

25)rうづ ',p 265 26)rう1',pp 267-268 27)rう '',,p 265 28)rう '',,p 273 29)rbl'

30)`A Late Occurencet,SICBM,vo1 2,p82た だ し原作 はファクシ ミリの状態で,判読不可能のためT力ι Eαγ妙

Иた万 "η 39げC力,7JοナルB“防ιル(p92)によった。(翻訳p.140) 31)`Passing Events',F,υ ¢N9」¢ '9サ ルs,″ “ づナ

,p38

32)Kate Millet,鬱″ "α'FbJI房 θs(Doubleday,1970)藤 枝・加地・滝沢・横 山共訳 『性 の政治学』(ドメス出版

)p

(21)

265および拙諭「FヴィレットJを読む一―ルーシー・スノウの語りと沈黙――」(鳥取1大学教養都紀要第22巻

,昭

63年)

33)lCarOline Vernon',F,υ ′州初ι,力s,ψ,,ip・301

34)`The RetuFn Of ZamoFna',S'Catt v。 12,Pi 308 8け `Passing Events1l F/ivハんヮη″チs,ψ.,チ.,p.41

361℃arolin VernO■│,F力ι

N醜

″財斜,ψ.θ 'チ .,,308 37)fbぢ,.,p.296 381J■lial Fιυιミ鴎宅カケ形s,op.cit,,p.114 39)`Caroline Vernon',F/i攣 州軌形 'ガ ″s,ort,'′.,,363

参照

関連したドキュメント

従って、こ こでは「嬉 しい」と「 楽しい」の 間にも差が あると考え られる。こ のような差 は語を区別 するために 決しておざ

うのも、それは現物を直接に示すことによってしか説明できないタイプの概念である上に、その現物というのが、

2.1で指摘した通り、過去形の導入に当たって は「過去の出来事」における「過去」の概念は

このように、このWの姿を捉えることを通して、「子どもが生き、自ら願いを形成し実現しよう

子どもが、例えば、あるものを作りたい、という願いを形成し実現しようとする。子どもは、そ

このような情念の側面を取り扱わないことには それなりの理由がある。しかし、リードもまた

 このようなパヤタスゴミ処分場の歴史について説明を受けた後,パヤタスに 住む人の家庭を訪問した。そこでは 3 畳あるかないかほどの部屋に

自然言語というのは、生得 な文法 があるということです。 生まれつき に、人 に わっている 力を って乳幼児が獲得できる言語だという え です。 語の それ自 も、 から