−ヱ−
米国の自動車保険における積み上げについて
−UMCの場合を中心として一
坪 井 昭 彦 Ⅰ はしがき II Stackingの意義IIIInter−pOlicystacking
IVIntra−pOlicystacking
V むすびに代えて Ⅰ 統計資料によると,米国では,1987年に約3,390万件の自動車事故が発生して おり,48,700人が死亡し,540万人が負傷している。また,財物損害,医療費, 訴訟費用等を含む経済的な損害は850億ドルにも達している1)。そして,自動車 事故のうち,かなりの数の事故が無保険運行者(Uninsur.edmotorist)によって 引き起こされているといわれている。 その背景としては,賠償資力法(FinancialResponsibility Law)を施行して いる州では予め賠償資力を確保しておくことを自動車の所有者に強制してはい ないということ,賠償資力法または強制自動車賠償責任保険法(Compulsor・yAutomobile LiabilityInsurance Law)上の最低の責任限度額(thelimit of
liability)が−・般的にみて低いということおよび全州の責任限度額が統−Lされ
1)InsuranceInformationInstitute,InSu7mCehcts1988L89伊qbe物′/CksualtyFbct
香川大学経済学部 研究年報 30 一2一 ヱ990 ていないということ,を挙げることができる。 例えば,人身損害についてみると,責任限度額の一・番低い州では,・鵬人当た りの限度額が10,000ドル,・−、事故当たりの限度額が20,000ドル(以下,たんに 10,000/20,000ドルのように表示する)というところがあり,このような州がフ ロリダ州を含めて7州もある。
以下,12,500/25,000ドルがオハイオ州,1州,15,000/30,000ドルがアリゾ
ナ州等,8州,2d,000/40,000ドルがコネチカット州等,12州,25,000/50,000
ド/レがアーカンソー州等,19州,30,000/60,000ドルがミネソタ州,1州,50,000/100,000ドルがアラスカ州,1州,35,000/無制限がハワイ州,1州,となって
いる2)。 そして,他州において事故を引き起こしたドライバーの白州における責任限 度額が他州の貢任限度額よりも低い場合には,そのドライバーを無保険運行者 と認定するという−・般原則が存在しているため,白州の責任限度額を満たして いるドライバーであっても,他州では無保険運行者と認定されることがあり, 多くの無保険運行者が生じることになる3)。 このような無保険運行者によって損害を被った者については,すでに1955年 に,ニューヨーク州で救済策が講じられ,自動車資任保険証券に救済のための 追加条項(endorsement)が挿入された。そして1957年には,ニューハンプシャー 州が,全米で最初に,自動車責任保険証券の中に追加条項を挿入することを強 制した。その後,この追加条項は,−・般に,無保険運行者担保または家族保護保険(UninsuredMotoristCoverageOrFami1yPr・OteCtionInsurance,以下,
2)用材リpp110111ちなみに,財物損害に対する責任限度額は,一事故当たりで,最低の 州が5,000ドル,最高の州が25,000ド)t/となっている。また,“thelimitofliability”とい う言葉は,「票任限度額」という訳以外に「付保要求額」または「州定リミット」と訳され ることがある。 3)この種の無保険運行者については,拙稿「アメリカにおけるUninsuredMotoristCov− erageについて−Underinsuranceの問題を中心として−」『保険学雑誌』第506号,昭 和59年9月,5−6および19ページを参照のこと。なお,わが国における無保険車傷害条 項による保険金の支払い件数は,業界全体で年平均約800件という低水準に留まっている。 金沢 理「無保険車傷害条項により填補すべき損害の範囲」道路経済研究所編『自動車保 険をめぐる諸問題の検討』昭和63年9月,134ページ。米国の自動連保険における積み上げについて ーβ− UMCと略称する)と呼ばれることとなり,現在では,自動車保険証券の本体の 中の独立の担保項目を構成し,重要な一部となっている4)。また,米国の全ての 州はUMCの販売を保険会社に強制し,多くの州では自動車の所有者にも同担 保の加入を強制している。その結果,UMCが付保されている場合には,無保険 運行者によって損害を被った者は同担保によって保険保護を受けることができ ることとなり,UMCは無保険運行者による被害者の救済という面で重要な役 割を果たしている。 かかる事情を反映したものと思われるが,これまで米国の裁判所で審理され
た自動車保険に関する主たる事件は,UMCとno−faultinsuranceに関するも
のであり5),前者のうちでは,とくに「一部保険(Underinsur・anCe)」と「積み上 げ(StackingorPyramiding)」の問題が取り上げられてきた。そこで,本稿で は,これまで論議の対象とされてきた積み上げ(以下,たんに“stacking”とし ても用いる)の問題を取り上げ6),主としてブラウンとデイビスの所説7)に依拠 しながら,米国の裁判例を検討し,若干のコメントを加えてみたいと思う。 4)UMC成立までの経緯については,詳しくは,拙稿,前掲論文,1−3ページを参照のこ と。なお,UMCの責任限度額は贈位資力法の責任限度額と同額である。もっとも,被保険 者が希望する場合には,それ以上の額を付保することは差し支えない。5)E FStraub,Jr,In5uYanCe,Kentucky LawJournal,1979−80,Vo168,pp587−8例 えば,ここ10年間に“CurrentLawIndex”の“SubラectIndex”で紹介されている文献を見 ると,自動津保険の分野では,uninsuredmotorist(underinsuredmotoristを含む)とno Jault関係の事件が多く見られる。なお,“nOJaultinsurance”とは,自動車事故により 人身損害を被った者が,過失責任の有無を問わず,自分の自動車について加入したノーフォ ルト保険から直接にその損害のてん補を受ける制度である。詳しくは,自動車保険料率算 定会企画室『自動車保険』(改訂6版)損害保険事業研究所1987年,291−9ページを参照 のこと。 6)もう一つの問題である「一部保険」の問題については,別の機会に検討した。拙稿,前 掲論文,1−21ページ 7)PK BrOWn」初犯イ鋸c.γS∼αC々わ曙扉乙・切ま乃S〟γe♂〟0わγ女扉α那仁価感払扉f吻朋劇痛
7b beoY nOttO be,SouthDakotaIJaWRevieu,Vol22,Spring1977,pp349−368;F Davis,LininsuYed Motorist CoveYageSome Sなn擁ant Prvblems and Devel(砂ments,
MissouriLaw Review,Vol42,Winter1977,pP1−23;Straub,砂cit,pp587r610; Guy T Gillespie,III,Insurance,MississippiLa\lJournal,Vol51ン1982
香川大学経済学部 研究年報 30 J990 −4− ⅠⅠ
ここで取りiげるStaCkingとは,複数のUMCや医療費担保(MedicalPay−
mentCoverage,.以下,MPCと略称する)が存在しているが,そのうち,いず
れか一つのUMCまたはMPCを利用してもそのてん補額が実際に発生した被
保険者の損害額に達しない場合に,被保険者が,自己の損害額のうちの未回収部分を回収するために,他のUMCかMPCを積み上げることをいう。そして,
この積み上げにはinter−pOlicy stackingとintra−pOlicy stackingの二つの種
類がある8)。 ここにinter−pOlicystackingとは,2枚以上の保険証券で担保されている2 台以上の自動車の付保額を積み上げることによっててん補額の増額を認めよう とするもの,いわゆる保険証券相互間の横み上げであり,intr’a−pOlicystacking とは,1枚の保険証券で担保されている2台以上の自動車の付保額を積み上げ ることによっててん禰額の増額を認めようとするもの,いわゆる保険証券内の 積み上げである。
前者の場合,1家族が2台の自動車を所有しており,その2台を2枚の保険
証券で別々に付保し,そのUMCの付保額をそれぞれ15,000/30,000ドルとすれ ば,被保険者は,事故発生の際に,2枚の保険証券の付保合計額,すなわち 30,000/60,000ドルまで損害を回収することができる。 これに対し後者の場合,1枚の保険証券で4台の自動車を付保し,そのUMC の付保額をそれぞれ15,000/30,000ドルとすれば,被保険者は,事故発生の際に, 最高60,000/120,000ドルまで損害を回収することができる。 また,このほか,1台につき2,000ドルのMPCが付保されていたとすれば, 被保険者は,前者の場合は4,000ドルを,後者の場合には8,000ドルを積み上げ ることが可能となる。 8)Brown,qi)Cit,p350なお,わが国の場合,“StaCking”という言葉については「積み 上げ」という邦訳があるが,“inter−pOlicystacking”と“intra−pOlicystacking”について は定訳がないので,混乱を避けるため,本稿では,英語のまま使用することとする。米国の自動車保険における積み上げについて ーーこ了−
本稿では,これら二つのStaCkingのケースについて検討し,コメントを加え
るのであるが,検討に先立ち,今後しばしば問題となるUMCとMPCの両約款
の原文9)と訳文10)を参考までに掲げておくことにしよう。
“UninsuredMotoristCoverage(Damagesfor BodilyIniury)
The company willpay allsums which theinsured or hislegal
representativeshallbelegallyentitledtorecoverasdamagesfromthe
owner oroperator ofanuninsuredhighwayvehiclebecauseofbodily
iniurysustainedbytheinsured,CauSedbyaccidentandarisingoutof
theownership,maintenanceoruseofsuchuninsurdhighwayvehicle;
provided,for the pur・pOSeS Of this coverage,determination as to
whethertheinsuredorsuchrepresentativeislegallyentitledtorecover
suchdamages,andifsotheamountthereof,Sha11bemadebyagT’ee−
mentbetweentheinsuredorsuchrepresentativeandthecompanyor,
iftheyfailtoagree,byar’bitrationNo judgment against any person or organization alleged to be
legallyresponsibleforthebodilyinjuryshallbeconclusive,aSbetween
theinsuredandthecompany,Oftheissuesofliabilityofsuchpersonor
organization or of the amount of damages to which the insured is
legallyentitledunlesssuchjudgmentisenteredpursuanttoanaction
pr・OSeCutedbytheinsuredwiththewrittenconsentofthecompany””
「無保険運行者担保(身体傷害)
当会社は,事故によってまたは無保険公道用華南の所有,管理または使 用によって被保険者が身体傷害を被ったことにより,その無保険公道用車
9)AlanIWidiss,A Guideio UninsuYedMotonst CoveY曙e,Cincinnati,1970,Appen−
dix(以下,Widdis,1970Appと略称する)A;自動車保険料率算定会企画室「Travelers Personal保険会社−AutomobilePolicyの全訳」『企画室資料(NQ13)』昭和51年(以下, 『企画室資料No13』として引用),65→6ページ 。また,新しいタイプの自動車保険約款に ついては,自動車保険料算定会企画室「米国:自動車保険抄録」『調査資料(No70)』1989 年,17−50ページを参照のこと。 10)『企画室資料No13』,17および19ページを参照。
香川大学経済学部 研究年報 30 −6− J990 両の所有者または運転者から,被保険者またはその法定代理人が,損害賠 償金として,法律上回収する権利がある全ての金額を支払う。ただし,こ の担保の目的のためには,被保険省またはその法定代理人がかかる損害賠 償金の回収について法律上の権利があるか否か,またありとすればその金 額はいくらかについての決定は,被保険者またはその法定代理人と当会社 との間の協定でなされるものとし,もし協議が整わないときには仲裁によ るものとする。 身体傷害について,法律上の責任があると申し立てられている一切の人 または団体に対する判決は,それが当会社の書面による同意を得て,被保 険者が訴追した訴訟に従って得られたものである場合を除き,被保険者と 当会社との関係においては,これをもってその老もしくは団体の賠償責任 の問題または被保険者が法律上の権利を有する損害賠償金の額について, 不可争なものとはしないものとする。」
“MedicalPaymentCoverage
ThecompanywillpayallreasonableexpensesincurTedwithinone
yearfromthedateofaccidentfornecessarymedical,Surgical,X−ray
anddentalservices,includingprOStheticdevices,andnecessaryambu−
1ance,hospital,prOfessionalnursingandfuneralservices。”
「医療費担保 当会社は,必要な内科,外科,Ⅹ線および義歯術を含む歯科サービス, 並びに必要な救急車,入院,職業的看護および埋葬のサービスに対する全 ての合理的な費用であって,事故の日から1年以内に生じたものを支払 う。」 ⅠⅠI Inte仁pOlicystackingは,すでに述べたように,被保険者が,損害額のうちの不足額を回収するために,複数の保険証券で担保されているUMCやMPC
を積み上げようとするものである。米国の自動肇保険における積み上げについて 一7叫
複数のUMCやMPC担保の積み上げが認められることになれば,被保険者
は,場合によっては,損害額全額を回収することが可能になるということから, 両担保の拡張を試みてきたのであるが,保険者側は,かかる積み上げは予測し 得ない損害をもたらすものであるとして,これに反対し,かかる損害から自己 を守るために,「他保険条項(Other’Insurance Clause)」と呼ばれる,antir stacking条項を保険証券に挿入して,自己の責任額を制限しようとした11)。 一・般に用いられている標準的な他保険条項12)は次の通り規定する。 “OtherInsuranceWith respect to bodilyiIljury to aninsured while occupying an
automobile not owned by the named insured,the insurance under
UninsuredMotoristCoverageShallapplyonlyasexcessinsuranceover
anyothersimilarinsuranceavailabletosuchinsuredandapplicalbeto
SuCh automobile as primaryinsurance,and thisinsur−anCe Shallthen
applyonlyintheamountbywhichthelimitofliabilityforthecoverage
exceeds the applicable limit of liability of such other insurance
Except asproviededintheforgoingparagraph,iftheinsuredhas
Othersimilarinsuranceavailabletohimandapplicabletotheaccident,
thedamageSShallbedeemednottoexceedthehigheroftheapplicable
limits ofユiabiユity ofthisinsuranCeand such otherinsurance,and the
company shall not be liable for a greater proportion of any loss to
Whichthiscoverage appliesthanthelimitofliabilityhereunderbears
tothesumoftheapplicablelimitso壬1iabilityofthisinsuranceandsuch
otherinsurance:’ 「他保険条項 記名被保険者の所有していない自動車を占有中に被保険者が被った身体 傷害に関しては,無保険運行者担保でカバーする保険は,その被保険者に11)Davis,qt>Cit,pl7;AlanIWiddis,A Guide to UninSuYed Mbtorist CoveYage, Cincinnati,1970,Sec259
香川大学経済学部 研究年報 30 ーメ・一一 J990 対して適用される他の同様な保険の超過額保険としてのみ適用され,また その占有していた自動車に対しては第・−・次保険として適用することができ る。したがって,この保険ほ,他の保険の適用責任限度額を超過する金額 に対し,この保険担保の責任限度額の範囲内でのみ適用される。 前項に規定する場合を除き,被保険者が自己が担保されかつ前記事故に 適用される他の同様な保険をつけている場合には,その損害賠償額はこの 保険および他の保険の適用資任限度額のうちより高い限度額を超えないも のとみなす。かつ,当会社はこの担保が適用される損害については,この 保険での責任限度額のこの保険と他の保険の適用責任限度額の合計金額に 対する割合を超える部分に対してはてん補の責に任じない。」 上記のように,「他保険条項」は,他の適用可能な保険証券によっては回収さ れない「超過額」に対してのみ保険者はてん補責任を負うと規定するか,また は,保険証券によっては,他の保険証券に基づき何等かの担保が与えられる場 合には,保険者はいかなる支払いをも行う義務を負わない,と規定する。 しかし,このような他保険条項があるにも拘らず,米国の殆どの裁判所は, inter−pOlicystackingは許容されるべきである,と判決している。
そして,現在では,UMCのinter−pOlicystackingは承認された法原則であ
るとまで言い切っている州もある1き)。 それでは,裁判所はいかなる理由に基づきinter’∼pOlicystackingを認めてい るのであろうか。 多くの裁判所が採用している理由は,被保険者が保険料を支払った担保から の回収を制限するような保険契約上の文言を用いることによって,保険者が制 定法上および契約上課せられている自己の責任を回避することを保険者に認め てはならない,というものである14)。そして,とくに,UMCについては,かか る担保を強制する制定法上の規定がある場合には,各保険者は制定法上の責任13)例えば,フロリダ州がこれに当たる。AⅠWiddis,A Guideio Lhlinsured Motori5t Coverdge,1981Supplement,p129
米国の自動車保険における積み上げについて −9− 限度額以下に自己のてん補責任を制限することはできず,したがって,積み上 げに対する責任を回避することはできないものとされている。 これを判例に徴するに,1976年のCα∽βγ0紹〟〝如αg劫s〟γα粥CβCoクワ坤α紹γ〃 肋成ね乃事件ユ5)によれば,ミズーリ州最高裁判所は,UMCの付保は制定法に よって要求されているのであるから,保険者は自己のてん補義務を法定の限度 額以下に減額することはできない,と判決している。 それゆえ,たとえ責任限度額が強制のUMCにおいて10,000/20,000ドルで あっても,損害発生の際に適用可能な3枚の保険証券がある場合には,被保険
者は,事故から生じる損害に対する全ての保険金請求のための限度額を
30,000(10,000×3)/60,000(20,000×3)ドルとすることができる,として
いる。 しかし,裁判所は,このinter−pOlicystackingの問題については,初めから, 全額回収を認めていたわけではなかった。初期の段階では,複数の担保が存在 する場合でも,制定法によって要求されている「一・人当り」の責任限度額まで しか積み上げを認めてはいなかった。 例えば1971年のG∂柁わ紹む.〃血画一か事件16)では,裁判所は,積み上げ額を「− 人当たり」の責任限度額に制限した。 同事件によれば,原告と他の2人の乗客が無保険運行者の過失によって傷害 を被ったが,彼女らが同乗中であった自動車のドライバーは10,000ドルの UMCを有しているに過ぎなかった。他の2人の乗客が合計約8,400ドルを受け 取ったので,原告に残されたのはわずかに1,600ドルであった。そこで,原告は, 問題のドライバーの保険を引き受けていた保険者に付保していた「他の自動車 に塔乗中を担保する」旨のUMCを含んだ保険証券に基づき(したがって原告 は利用し得る二つの担保を有していたことになる),保険金の請求を行ったが, 保険者は,同保険証券には「もし(被保険者が)他の保険を利用し得るのであ れば,保険者はいかなるてん補責任も負わない」旨の他保険条項が挿入されて 15)533SW2d538(Mo.EnBanc1976) 16)469SW2d848(StL MoApp1971)香川大学経済学部 研究年報 30 −−7() ノー990 いるので,自己にてん補責任はないと主張した。 本件の場合,裁判所は三つの理論について検討した。まず第一・の理論は,代 替担保理論(substitutedcoveragetheory)と呼ばれているものである。これは 他から提供される担保が賠償資力法または安全責任法(SafetyResponsibility Law)によって要求されている責任限度額よりも低い場合を除き,原告は彼女 自身のUMCを利用することはできない,とするものである。それゆえ,無保 険運行者が賠償資力法等によって要求されている貴任限度額を満たす保険証券 を有している場合には,原告は,他保険条項のために,自己の保険証券に基づ き損害を回収することはできない。そして,この場合,原告の利用可能な金額 が,競合する他の請求のために,賠償資力法等によって要求されている資任限 度額よりも少なくなることがあっても,原告は回収を妨げられることになる, とするのである。
第二の理論は最も寛大な接近の理論(the mostliberalapproach theory)で
ある。これは,原告に,彼女が現実に被った損害額いっぱいまで利用可能な担 保の「積み上げ」を認めようとするものである。この場合は,かかる積み上げ による金額が賠償資力法等によって要求されている「山人当たり」の資任限度 額を超える場合においても,なお積み上げは許容されることになる。 第三の理論は「山人当たり」の最低の責任限度額まで積み上げを認めるとい
う理論(theperpersonminimumlimitationtheory)である。これは,原告に
積み上げを認めるノものではあるが,保険証券が発行された時に施行されていた 賠償資力法等によって課せられている「一人当たり」の貴任限度額いっぱいま で積み上げを認めるというものである。それゆえ,原告が傷害によって15,000 ドルの損害を被った場合,利用可能な複数の担保を積み上げたところ15,000ド ルを超えることになったとしても,原告は,賠償資力法等によって要求されて いる最低の責任限度額,例えば10,000ドルを回収することができるに過ぎない, とするのである。 本件の場合,裁判所は,上記三つの理論について検討した。そして,最終的 には,これら三つのうちの第三の理論を採用して,原告に担保の積み上げは認米国の自動車保険における積み上げについて −7ト めたが,保険証券が発行された時に有効であった賠償資力法によって課せられ ている「1人当たり」の責任限度額を超えてはならないこと,したがって,た とえ原告が15,000ドルの損害を被り,かつ,複数の利用可能なUMCの合計額 が15,000ドルを超える場合においても,原告は賠償資力法によって要求されて いる責任限度額の10,000ドルを回収することが許されるに過ぎないと,判決し た17)。 裁判所は,また,問題の無保険運行宅をカバーしている保険会社と原告をカ バーしている保険会社が異なる場合であっても結論はまったく同じである,と 述べている18)。 そこで,ミズーリ州議会は,このGor−don事件の直後,同州において発行され る自動車責任保険証券の中に被保険者の請求額全額のてん補が可能となるよう なUMCを挿入させるため,制定法中の関係諸規定を改正した。この立法上の 変更は,その後,Gordon事件における見解を変更させることとなり,現在では, 保険金請求に適用し得る複数の担保を,「一人当たり」の責任限度額に限定する ことなく,積み上げることが認められている。その結果,賠償資力法の定める 1人当たりの責任限度額に積み上げを制限したGor−don事件の見解は現在では もはや採用されてはおらず,損害額を全額まで回収することが可儲となった1g)。 そして,このGordon事件以後,かかる考え方を明確に示したのは,1973年の ヾ− ∴・こノー、/∴ ・・・/.、・・一.・・し・、さi:‥・一 二 ・∵ 同事件によれば,原告は無保険運行者の過失によって15,000ドルの損害を 被った。彼の損害額は典型的な貢任限度額である10,000/20,000ドルのUMCを 5,000ドル超えていたので,彼は彼の使用者の保険会社から,彼自身にも適用が 可能である旨を規定している使用者のUMCの限度額いっぱいの10,000ドルを 回収することで示談を成立させた。その後,原告は自己のUMCに基づき差額 の5,000ド/レを回収しようと努めた。セントルイス地区のミズーリ州控訴裁判所 17)乃之dat849 18)乃之d 19)Davis,坤Cit,pp18−9 20)495SW2d463(Mo App,DStI..1973)
香川大学経済学部 研究年報 30 ーヱ2− 巨り() は,同州議会がUMCを強制付保とすることを選び,かつ,担保の最低限度額 を確定したときに,同議会は,保険者が自己の支払い義務を法定限度額以下に 減額させる機会を彼に許すことに反対することが公益にかなうことになる,と いうことを宣明したのであると,判決した21)。 そしてさらに,裁判所は,問題のUMCは二つともその付保が制定法によっ て強制されていたので,保険者は自己の支払い義務を減額させることはできな い,たとえ,結果として,原告が,複数の担保が存在していたがために,制定 法上の「一人当たり」の責任限度額を超える支払いを受ける場合においてもこ れは認めざるを得ない,と述べている。よって,本件の原告は,異なった被保 険者(すなわち彼の使用者と彼自身)に別々に発行された保険証券上のUMCを 積み上げることによって損害額全額の15,000ドルを回収することが認められた のである。
そして,このSteinhaeufel事件の見解は,その後,1975年のGallou)qy 乙
凡γ∽gγ=S劫szィγα乃CeCo事件22)において,カンザスシティ地区のミズーリ州控 訴裁判所によって,・∵人の被保険者に対して発行された複数の保険証券の場合 にも適用され,担保の積み上げが認められた。 以上考察してきたように,inter’−pOlicystackingは,現在では,裁判所によっ て−L般に認められているのである23)。 ⅠⅤ Intra−pOlicystackingとは,上述のように,−・枚の保険証券で担保されている複数のUMCとMPCを積み上げることをいうであるが,このintra−pOlicy
StaCking−の場合は,先のinter’−pOlicystackingの場合とは異なり,判例上興味 ある相違がみられるのである。Brownによれば,UMCの問題について審理した23州の裁判所のうち,13州
の裁判所はかかるintra−pOlicy stackingを認めることを拒否しており,MPC
21)乃Zd 22)523SW2d339(Mo App,DK C1975) 23)Brown,qP cit,p359米国の自動車保険における積み上げについて ▼「7、ゴー の問題を審理した16州の裁判所のうち6州の裁判所はintra−pOlicy stacking を否定している。そして,裁判所の中にはUMCのintra−pOlicystackingは認 めなかったが,MPCのintra−pOlicystackingは認めたものがあり,かかる StaCkingについての裁判所の見解はいまだに−・致していない,というのが実状 である24) 。 また,UMCとMPCのいずれか一つまたはその双方のintra−pOlicy stack− ingについて審理した裁判所が採用した理論は様々であり,今のところ統一・的 な理論というものは存在していない。 そこで,以下に,いくつかの事件を取り上げ,intra−POlicystackingに関す る裁判所の見解をさぐってみたいと思う。 まず,intr−a−pOlicystackingについて裁判所が採用した代表的な理論につい てみてみよう。 裁判所が採用した第l−Lの理論は,保険証券上の個別適用条項(Separability Clause)または責任限度額条項(Limit()f Liability Clause)自体の中に曖昧な 点があるということ,またはこれら両条項の間にも矛盾があるということから 曖昧さが存在しているということを理由に,intra−pOlicystackingを認めよう とするものである。 捺印証書の中の文言は,その提出者に最も不利益となるように解釈されるべ 、.一二・り・∴、・∴∫.・′り・・・・.‥ ′ ∴∴・.・′・‥.・・・・.・・・ノ∴′′・‥.′−_一 ̄・−;j 釈原則は英米では十分に確立されている法原則である。いわゆるCon仕a Pr・OferentemRule25)と呼ばれているものである。この原則はこれまでintra− 24)乃よd,pp351−2 25)「生命保険証券であると,火災保険証券であると,あるいはまた海上保険証券であるとを 問わず,保険証券の解釈を取り扱うに当たっては,曖昧な約款は保険会社の有利にではな くむしろ不利に解釈されなければならないということが判例学説によって確立されてい る」のである。In reEtherington and Lancashire and YorkshjreAccidentInsurance Co,〔1909:〕1KB591,at p596この解釈原則については,詳しくは,ERHardy
Ivamy,GeneYalPrmciphsq/hsuranceLaw,London,1979,Pp386−392;KennethH YorkandJohnWWhelan,Cases,Materials andPYOblemS OnGeneralPYtlCiiceInsur− anceL,aW,Minn1982,pp30←33を参照せよ。また,同原則の具体的な適用例としては,
E RHardyIvamy,Fire and MotorInsurance,London,1968,pp247L9を参照のこ と。
香川大学経済学部 研究年報 30 【∴hト ヱ9.90 policystackingを認めてきた事件におけるIdつの有力な論拠となってきた。 現在,アメリカにおいて自動車保険を引き受けている殆ど全ての保険会社は,
会社独自のごくわずかな修正を施した上で,標準化された自動車保険証券
(AutomobileInsurancePolicy)を使用している。そして,これらの保険証券の 中には次のような標準化された個別適用条項26)と責任限度額条項27)が挿入さ れている。 “SeparabiltyTheinsuranceaffordedhereunderappliesseparatelytoeachinsur−
ed against whom claimis made or suitis brought,but theinclusion
hereinofmorethanoneinsuredshallnotoperratetoincreasethelimits
Ofthecompany’sliability、” 「個別適用条項 この条項のもとで提供される保険は,損害の請求を受けまたは訴訟が提 起された各被保険者に対して個別に適用される。ただし,この場合に被保 険者が2名以上あっても,それによって当会社の責任限度額が増加される ことはないものとする。」“LimitofLiabilty−ProtectionAgainstUninsuredMotorists∼
Thelimitofliabilityforuninsur・edmotoristscoverageStatedinthe
declarations as applicable to‘each person’is thelimit ofthe compa−
ny’sliablityfora11damageSbecauseofbodilyinjurysustainedbyone
person as the result ofany one accident and,Subラect to the above
provision respectingeaCh person,thelimit ofliabilty statedinthe
declarations as applicable to‘each accident’is the totallimit of the
COmPany’sliabilityforalldamagesbecauseofbodilyiniureysustained
bytwoormorepersonsastheresultofanyoneaccident,prOvidedthat
if theminimumlimits ofliabilty for bodilyinうury designatedin the
26)『企画室資料恥13』,19−20および66ページを参照。 27)『企画室資料No13』,3」78および69ペ−ジを参照。
米国の自動車保険における積み上げについて ーーJこ丁−
financialresponsibilitylawofthestateinwhichtheaccidentoccurred
are greater than the applicablelimits statedin the declar・ations,the
limitofthecompany’sliabilityundertheUninsuredMotoristCoverage
withrespecttosuchaccidentshallbesuchlimitssetforthinsuchlaw:’
「責任限度額条項一無保険運行者に対する被保険者の保護一 各人(each person)に適用される申告書記載の無保険運行者担保の責任 限度額は,1事故の結果として1名が身体傷害を被ったことによる全損害 賠償額に対する当会社の責任限度額である。また各人についての上記規定 を前提として各事故(each accident)に適用される申告書記載の責任限度 額は,1事故の結果として2名またはそれ以上の暑が身体傷害を被ったこ とによる全損害賠償額に対する当会社の資任限度額の合計額である。ただ し,事故が発生した州の賠償資力法に明示された身体傷害に対する最低穿 任限度額が,申告書に記載された適用限度額より高額の場合には,その事 故に関する無保険運行者担保での当会社の責任限度額は,その法律で定め られている限度額に改められるものとする。」 これら両条項それ自体または両条項の間に曖昧さが存在するとしてinはa− policystackingを認めようというのが裁判所の第一・の考え方である。 例えば,1974年の梯査βS〃.Sfβ彿αγf事件28)におけるインディアナ州の控訴 裁判所の判決もこの考え方によったものである,といわれている。 同事件によれば,被保険者,Je#riesの息子が無保険運行者の所有かつ運転す るダンプトラックに飛び乗ろうとした際に失敗して傷害を被った。そこで被保 険者である.Je任riesは裁定を受けた30,000ドルと医療費の1,500ドルの全額を 回収しようとした。彼は1枚の保険証券で担保されている3台の自動車について一人当たり10,000ドルのUMCと1,500ドルのMPCを有していたので,これ
ら全ての担保を積み上げようと努めた。しかし問題の保険証券には,標準化さ れた「個別適用条項」と「安任限度額条項」が含まれていた。彼は,個別適用 28)−IndApp−,309NE2d448(1974)香川大学経済学部 研究年報 30 J99β 一7(ぅ−− 条項はその保険証券が各自動車に個別に適用されると規定しているのであるか ら,事実上,3枚の保険証券が存在しているのであり,したがって彼はその各々 の保険証券に基づき保険金を回収することができるはずであると,主張した。 これに対し,保険者は「責任限度額条項」それ自体の意図は明白であり,な んら曖昧な点はないので,3枚の保険証券が存在しているとはいえない,と主 張した。 裁判所は,「貴任限度額条項」それ自体は明確であり,曖昧な点はなかったが, 同条項と「個別適用条項」の両規定の間には矛盾があったので,暖昧さが存在 していたとし,曖昧さがある以上被保険者の有利に解釈すべきであるから, JeffriesはUMCとMPCの両方を積み上げることができると,判決した29)。 また,裁判所は,「責任限度額条項」が「個別適用条項」によって有効とされ た3枚の保険証券の各々の一部を構成しているか否かを決定することはできな いということ,さらにJeffriesとの間で締結された唯一Lの保険契約(thesingle contr・aCtOfinsurance)に「責任限度額条項」が適用されることを意味している のか否かを決定することもできないということ,この点に暖昧さが存在してい た,と判示した30)。 また,1976年の〟血㈲加柁l穐5g旅γ肌β〟γぞα〟ぴ∧匂αJ事件31)においても, モンタナ州の裁判所は,「個別適用条項」と「責任限度額条項」は矛盾しており, 曖昧であり,かつ両者は・−・致させることができない(beyondr’eCOnCiliation)も のであるので,曖昧さが存在していたとして,1枚の保険証券で担保されてい た4台の自動車のUMCを積み上げることを認めた32)。 同事件においては,被保険者の娘のDeborahが無保険運行者の所有かつ運転 するモーターサイクルに同乗中に傷害を被り,その後に死亡した。そこで父で ある被保険者は彼の1枚の保険証券(hissingle policy)でカバーされている4 台の自動車の担保を積み上げるために訴訟を提起した。裁判所は,「責任限度額 29)乃云dat453 30)乃揖 31)−Mont一,547P2d79(1976) 32)乃揖at81
米国の自動車保険における積み上げについて 一J7− 条項」は担保を10,000ドルに制限するが,「個別適用条項」は「責任限度額条項」 を各自動革に適用させることになり,そこに曖昧さが生じるのである,したがっ て被保険者は40,000ドルまで積み上げることができると,判決した33)。 このほか,ある裁判所では「責任限度額条項」自体が不明確であり,かつ曖 昧であるので積み上げを認めるべきであるとしたものもあり34),また,他の裁判 所では「個別適用条項」それ自体が曖昧であるとして積み上げを認めた例もあ る35)。 これに対し,同様の標準化された「個別適用条項」と「安任限度額条項」を 審理したいくつかの裁判所は,これらの条項に何等問題とされるべき点はなく, 保険証券の文言は明白な意味を有しているとして,intra−pOlicystackingを否 定している。 例えば「責任限度額条項」は明白であったとして保険者の責任を否定した事 件としては,1976年のぞ切崩d〃.且血ノαγds事件36)を挙げることができよう。同事 件によれば,Pettidは2台の自動車を1枚の保険証券で付保し,その各々につ
いて,付保金額を1人につき,UMCは10,000ドル,MPCは1,000ド)t/とした。
Pettidの8歳になる息子がOmaha通りを横断中に無保険運行者によって傷害
を被ったので,PettidはUMCに基づき20,000ドルを,またMPCに基づき
2,000ドルを回収しようと努めた。彼の保険証券には標準化された「責任限度額 条項」が挿入されていた。ネブラスカ州最高裁判所は,UMCとMPCのいずれについても積み上げる
ことを認めなかった。その理由は,保険者が問題の条項よりもより明確に「責 任限度額条項」を規定することは困難であり,したがって保険証券上曖昧な点 があるとはいえない,ということであった37)。 以上見てきたように,「個別適用条項」と「責任限度額条項」に関連して曖昧 33)乃寝 34)L妙scombevSecuri抄1nS CoqflhY的Y或213Va81,189SE2d320(1972) 35)Goodmanv ContinentalCksCo,LDelSuperr,347A2d662(1975) 36)195Neb713,240N W2d344(1976) 37)乃査dat346香川大学経済学部 研究年報 30 ノバ−− エ990 さが存在しているか否かが検討された。積み上げを認めている裁判所は,問題 の曖昧さは両条項によってもたらされたものであり,積み上げを否定するため には両条項を書き改めることが必要であると考えているようである。これに対 し,積み上げを否定してきた裁判所の殆どは,南条項について明らかに曖昧で あると思われる点は存在しておらず,したがって契約上の明白な意味は保持さ れるべきであるという信念を持っている。それゆえ,第一・の嘩論については裁 判所の見解に依然として相違が存在しているのである。
次に,intra−pOlicy stackingを認める第二の理論は,いわゆる多数契約
(MultトContracts)の理論である。 この理論は,interppolicystackingの原則を拡張したものをその中に有して いるとする。すなわち,現在では,殆どの州で,inter’−pOlicystackingが認め られており,被保険者が複数の保険証券を有している場合には,彼はそれらに ついて別々に回収することができるのであるから,この考え方をさらに山歩押 し進めて,1枚の保険証券で数台の自動車を付保している場合にも被保険者に 積み上げを認めるべきである,という。そして,この場合,各々の自動車は1 枚の保険証券内にある別々の保険契約によって担保されているのであり,これら別々の契約に基づきUMCもMPCも引き受けられているのであるから,そ
れらがあたかも別々の保険証券によって引き受けられた担保の場合と全く同じ 様な方法で積み上げることができるはずである,と主張する。 かかる見解に基づき,多くの裁判所はintr・a−pOlicy stackingを認めるに当 たってinter−pOlicystackingに関する事件の判決を活用した。 裁判所はinter−pOlicy stackingの原則を準用する際に種々の理論を用いて いる。そしてmulti−COntraCtS理論は概ね次のような三つの考え方の組合せの 上に成り立っている。 まず,第一・は,複数の保険証券が2人以上の保険者によって別々に発行され たかのように,保険証券に記載された各々の自動車に対して別々の請求書が発 行され,かつ保険料の支払いが行われているのであるから,intra−pOlicystack− ingは認められるべきである,とする考え方である。つまり,この別々の保険料米国の自動車保険における積み上げについて ーJ9− の支払いは,1枚の保険証券の中に二つ以上の契約が存在していることを実証 するものだ,という。 第二は,若干の裁判所が認めているように,「個別適用条項」の存在は複数の 契約が存在しているという明白な証拠である,とする考え方である。 そして第三は,1枚の保険証券は・一つの契約の存在を意味するものであると して積み上げを否定することは不当である,とする考え方である。 第−・の考え方によれば,1枚の保険証券に記載された各々の自動車について 別々の保険料が要求され,別々に支払われるのであるから,この事実は,1枚 の保険証券の中に二つ以上の保険契約が存在していることを示しているのであ り,したがってintra−pOlicystackingは是認せられるべきである,というもの である。 かかる見解は1974年のC女才女之β乃5〟〟ね‘α/血s〟γα乃C♂Co刀砂α乃γ ぴ.乃γ犯βγ事 件38)において,ミシガン州控訴裁判所によって示された。 同事件によれば,被保険者の娘が無保険運行者の占有かつ運転する自動車に 塔乗中に傷害を被ったのであるが,裁判所は,二つの保険料が支払われていた のであるから,保険者によって発行された1枚の保険証券の中には二つの保険 契約が存在していたのであり,したがってUMCの積み上げは許容されるべき である,と判決した39)。 Intr・a−pOlicystackingを許容すべきか否かという問題は,すでにこの事件よ り4年前に,同じような内容の事件であった1970年のAγま隅玩Sゐ左〃.ぴS昂滋物 &G批肌用勃Coクワゆα紹.γ事件40)において論議されたが,裁判所によって明確に 否定されていた。 しかしながら,先のCitizens事件の裁判所は,このミシガン州で審理された 初期の事件についても,また他のintra∼POlicystacking事件についても全く言 及せずに,inter−pOlicystacking事件によって採用された見解に完全に依拠し たのである。 38)53Mich App616=220NW2d203(1974) 39)J飯d at204 40)23MichApp352′178NⅥ′Zd497(1970)
香川大学経済学部 研究年報 30 J99(フ ーlご/)−・ しかし,「別々に保険料が支払われたという事実はmultトcontractsを創造す
るものであり,したがってUMCのStaCkingは許容されるべきである」とする
主張は,サウスダコタ州最高裁判所においては,1976年のC猫那如■ク曙ゐα∽ ぴ 勒sねγ邦Cbsαα妙&助γぞ秒Co押ゆα鱒γ事件41)において,明確に否定された。 同事件によれば,被保険者である夫は傷害を被り,彼の要は死亡した。夫の 損害は5,000ドル,妻の損害は25,000ドルであった。問題の保険証券では2台の自動車が付保されており,各々の自動車には
15,000/30,000ドルのUMCがつけられていた。被保険者の代表者(representa・ tives)は担保を積み上げようと努めた。 しかしサウスダコタ州最高裁判所は,inter−pOlicystacking理論の準用を拒 否した。Inter−POlicystackingを認めたサウスダコタ州における−・,f一級裁判所 が下したV陀s砂ゐαJぴいA刑CO劫一5..Cα事件42)の判決とは−・線を画して,最高裁判 所は次の通り判決した。すなわち,「保険者は法定限度額の支払いを避けようと 試みているのではなく,自己の責任を保険証券の文言によって特定されている 金額に制限することを求めているのである」43〉と。このCunningham事件を審理した裁判所は,2台の自動車が複数の乗客を乗
せて同時に走行中に事故を起こした場合,保険者が直面しなければならない危 険の増加に,非常な力点を置いているのである。 次に,muIti−COntraCtS理論の中の第二の考え方によれば,「個別適用条項」 の存在は複数の契約が存在している明白な証拠である,とするものである。 テキサス州民事控訴裁判所は,1974年の50αgゐぴβSねγ■乃 蔦γe α褐d Gzs〟α妙 Con4)a7qyVAikins事件44)において,multi−COntraCtS理論の一部として「個別 適用条項」を適用するという考え方を採用した。同事件によれば,被保険者の 娘が第三者の所有かつ運転する自動車によって衝突され,傷害を被った。そこで被保険者は1枚の保険証券で付保されている2台の自動車のMPC(1台に
41)−S D一,243NW2d172(1976) 42)87SD404,209NW2d555(1973) 43)−S D−,243NW2d172,174(1976) 44)346SW2d892(Tex Civ App1961)米国の自動津保険における積み上げについて 一一エリl一 つき500ドル)を積み上げるよう要求した。裁判所は「個別適用条項」に言及し, 次の通り判決した。「もし保険証券の文言を各自動車に別々に適用するのであれ ば,事実上,保険証券によってカバーされている自動車の数と同じ数だけの保 険契約が1枚の保険証券の中に存在する。」45)と。 これに対し,ノースカロライナ州とイリノイ州の裁判所は,「個別適用条項は 明確に複数の契約の存在を示しており,したがって,intra−pOlicystackingは 認められるべきである」とする考え方に,反対している。 例えば,1枚の保険証券で付保されている2台の自動車のうちの1台を運転 中に事故死した被保険者の遺産管財人によって提起された肋cゐ0〝去dβα乃々& /、・リ.・l−り・′・∴ lト ∴ ∴・/∴・・/.′・∴・− り.−.\:・・.∴、・∴ ノースカロライナ州の裁判所は,MPCの積み上げを否定し,次の通り判決し た。すなわち,「個別適用条項は,保険証券から独立した別個の契約を創造する ものではなく,カバーされている各々の自動車に関する条件を単に繰り返して いるに過ぎないのである。」47)と。 また,1971年のOfわび‖AJJsぬね九s.Cα事件48)で,イリノイ州の控訴裁判所 は,「個別適用条項」は被保険自動車の何れが事故に関与した場合でも,その自 動車に保険証券を適用可能とするに過ぎないのであり,保険証券によって定め られている責任限度額を積み上げるよう作用させるものではない,と判決して いる49)。 最後に,multi,COntraCtS理論に関する第三の考え方は,保険証券を単一Lの契 約と考え,積み上げは認められないという主張は不当である,とするものであ
る。この「不当性(Unconscionability)」という言葉は,1973年の7bckeY− u
Go〃eγ邦∽e乃′勒Jqγ♂eS劫s〟γα死Ce Coプクゆα鱒γ事件50)において,フロリダ州の 裁判所がその存在は明白であると認定したけれども,実はその正確な定義はよ 45)乃ブd 46)276N C348,172S E2d518(1970) 47)乃まdat522 48)2IllApp3d58,L−T275NE2d766,769(1971) 49)乃ば 50)288So2d238(F1a1甘73)香川大学経済学部 研究年報 30 ー22− J990 く分からない法律上の言葉である,といわれているものである。 同事件では,被保険者の娘が1枚の保険証券で付保されている2台の自動車
のうちの1台に乗客として同乗中に傷害を被ったので,被保険者は2台分の
UMCを積み上げようと努めた。裁判所は,積み上げを認めるに当たって,「責 任限度額条項」が州法に違反していると指摘したのであるが,それにもまして かかる契約状況が不当であるという面を著しく強調した。そして次の通り判示 した。 「無保険運行者担保によってカバーされている被保険者は,彼が購入しかつ それに対して保険料を支払っている傷害に対する保護について,制定法により, 全額まで回収することができる。追加的な傷害担保に対して保険料を支払い, かつ,同時に,この担保が保険者側の免責条項によって取り消されてきたこと は,無益であり(useless),無意味であり(meaningless),かつ不経済である (uneconomic)。保険料は自動車1台当たりを基準として算出される標準的かつ 統一・的なものである。被保険者に対する完全な保護は, (中略)………免責 条項や費任制限条項によって,消滅させることはできない。」51)と。 しかし,このような,「不当性」を基準として積み上げを認めるという,考え 方は,ニュージャージー州の裁判所では,1973年のA偽おね血5」Co.〃.〟c物ゐ 事件52)において完全に否定されている。 同裁判所は判決して日く,「茸任限度額の増加は,全て保険証券に明記される べきであり,したがって保険証券または制定法のいずれかを牽強付会に解釈す ることによって保険会社に増加した資任を課すべきではない。」53)と。 この「不当性」をめぐる議論は,−・方では,被保険者が保険料を支払ってい るのにintra−pOlicy stackingが認められないならば彼は何の見返りも受けな いではないかという非難を生み出しているのに対し,他方では,被保険者は, 彼が支払った保険料の見返りに彼の自動車の「各々について」保険保護を受け 51)用材at242 52)124NJSuperlO5,304A2d777(1973) 53)乃寝at」780米国の自動車保険における積み上げについて −エフー ており,保険者のリスクは保険証券に自動車が追加される毎に増加しているで はないかという反論を生み出している。そして,この間題は,いまだに決着を みていないのである54)。 Intra−pOlicystackingを認める第三の理論は,自動車保険証券中には二つの 明確に区別された範疇の担保が存在しているという考えを基礎としている。 第一・の範疇は,特定の自動車に関係する責任損害および財産損害のための担 保を含んでいるとする。 そして第二の範疇は,保険証券上の「被保険者」の定義に該当する個人に関
係す−るUMCかまたはMPCを含んでいるとする。そしてこの第二の範噂のも
とでの回収権は,被保険自動車の事故に必ずしも依存しているとは限らない性 質のものである,という。 このように保険の中に二つの範疇の担保が存在するという理論は,1962年の /\●・∴・し、‥/∴・、し り ‥/′.・・・し‥.・・∴.・/・.・‥・・i・− ∴ ‥ て,アーカンソー州の裁判所によって,初めて採用された。 同事件では,被保険者の娘が衝突によって傷害を被り,2台分のMPCを積み 上げることによって2,000ドルの医療費を回収しようと努めた。 裁判所は,積み上げを認めるに当たって,基本的には,multihCOntraCtS理論 に頼ったが,同時に,ニつの範疇の担保についても検討した。そして責任損害 担保や物損担保は,保険証券に記載された自動車が事故に関与した場合にのみ 適用されるのに対し,MPCは,被保険者が保険証券に記載の自動車に塔乗中に 傷害を被ったか否かに関わりなく,被保険者を保護するものであると指摘した。 そして,さらに,第二の範時の担保は自動車自体よりはむしろ「人」に関係し ているのであるから,かかる担保は傷害保険に酷似したもの(akinto)であり, したがって,被保険者は最高の回収額の提供を受けるために,担保を積み上げ ることができる,と判示した56〉。 この第三の理論は,intrarpolicystackingを許容するための単独の理由とし 54)Brown,砂Cブナリp363 55)234ArkllOO,356SⅥ2d613(1962) 56)乃痛at614香川大学経済学部 研究年報 30 −24− J99∂ ては,ほとんど採用されてはいない。むしろ他の理論との関連において用いら れているに過ぎない。けだし,二つの範疇の担保の存在を明確に立証できるよ うな文言は,保険証券のなかには存在していない,というのが血・般的な考え方 だからである。 以上考察してきた三つの一\般的な理論に加えて,裁判所がintr・a−pOlicy StaCkingを認める際に活用した潜在的な第四の理論がある。これは,制定法の
解釈の理論(statutoryconstructionorinterpretationtheory)と呼ばれている
ものである。この理論は,intrarpolicystackingを認めようとする裁判所が存 在する州のうちでも特定の州,例えば,アラバマ州,フロリダ州,ルイジアナ 州で専ら採用されているものであるといわれている57)。そして,これらの州で施行されている無保険運行者法(The UninsuredMotorist Statutes)の文言は他
の諸州で施行されている無保険運行者法の文言とは幾分異なったものとなって いる。 すなわち,無保険運行者法中に見いだされる一・般的な文言は,「−・台の自動車 (amotorvehicle)の所有,管理または使用から生じる…‥川・・」というものである のに対し,異なった制定法の文言は,非常に似てはいるが,「一切の自動車(any motorvehicle)の所有,管理または使用から生じる……l」となっている58)。 また,同一・の州であっても初期の段階における無保険運行者法とその後に改 正された無保険運行者法とでは当然その文言の解釈は違って来るし,同じ文言 であってもその解釈の時期が異なれば,違った解釈が行われるようになる。 例えば,C卯粕汁0死〟視ね′αJ血S〟用乃CgCo7ク砂α鱒γ〃.肋此花事件59)において, ミズーリ州最高裁判所は,フロリダ州の裁判所の判決理由60)にほぼ全面的に依 拠しながら,ミズーリ州の無保険運行者法に対する初期の段階における制定法
上の解釈を否定し,UMCとMPCのintr・a−pOlicystackingを認めて,次のよ
うに判示した。 57)BrOWn,q夕cれp364 58)乃誠一,p365 59)533S W2d538(Mo1976) 60)7bcker v Gou’tEn4)loyeeslnsCo,288So2d238(Fla1973)米国の自動車保険における積み上げについて 一25一− 「この制定法の重点は,qL切の自動車(anymotorvehicle)を担保するという ことおよびこの制定法によって提供される保険保護に置かれているのであり, 保険者が各々の自動単に対して別々の保険証券を作成することを選ぶか,また は1枚の保険証券の中に存在している全ての担保を1枚という単一・の保険証券 に統合することを選ぶか,ということに置かれているのではない。」61)と。 さらに,現在では,若干の裁判所は,多数の無保険運行者法が各保険証券が UMCを含んでいなければならないと規定しているという点と,各自動車が無 保険運行者法によって要求されている安任限度額までUMCを付保していなけ
ればならないという点を強調し,UMCのintra−pOlicystackingを許容するこ
とが公益にかなうことになる,との判断を示している。 例えば,アラバマ州やルイジアナ州の裁判所は,UMCは無保険運行者法に よって付保することを要求されているが,MPCは制定法によって付保することを要求されてはいないという事実に基づき,MPCのintra−POlicy stacking
は認められないとする62)。このことは,明らかに,これらの裁判所が,制定法に よって要求されている担保と契約によって自由に取得できる担保との間に明確 な一\線を画そうとしている,ということを意味している。 しかし,かかる考え方がintra−pOlicystackingを許容するための完全な基準 を提供することができるのかどうか,また,制定法によって要求されている担 保と契約によって自由に得られる担保との間に明確な線を引くことができるの かどうか,という新たな問題を捏起することになるが,この間題について説得 力のある解答を導き出すことは極めて困難であるように思われる。 以上,intra−pOlicystackingに対する裁判所の代表的な考え方について考察 してきたが,上記の諸理論のほかに,裁判所によっては第一・位の被保険者,第 二位の被保険者という別の概念を採用してintra−pOlicy stackingを認めるか 否かを判断しようとするものがある。 例えば,1979年の0ゐ哀■o Gzsαα砂血sz‘γα死亡eCo.〃5お鱒ββg♂事件63)の判決に 61)乃ヱd at544 62)BrOWn,呼C∠f,p3弧 63)581SW2d555(Ky1979)香川大学経済学部 研究年報 30 /丹叫) ー26− これをみることができる。 同事件によれば,原告である,Stan丘eldが彼の勤め先であるニューポート市 琴察のモーターサイクルに搭乗中に無保険運行者によって衝突され,重傷を 被った。彼は,ニ人の保険者によって発行された2枚の保険証券と一人の保険 者によって発行された2枚の保険証券を,有していた。これに加えて,彼の使 用者であるニューポート市啓察はその所有に属する63台の全ての自動車を1枚
の保険証券でOhioCasualty保険会社に付保していた。そして,これら63台の
自動車は1台毎に別々に保険料の計算が行われていた。 本件においては,OhioCasualty保険会社の責任の範囲が主たる争点となっ た。ニューポート市警察の使用人としてのStanfieldは,同市警がOhioCasual− ty保険会社と締結した保険によって担保されており,したがってOhioCasual− ty保険会社はStanfieldに対しててん補費任があるということについては,両 者の問で合意が得られた。しかし,責任の限度額については両当事者間に著し い意見の相違が存在した。 保険者側は,1台の自動車に与えられる10,000ドルの責任限度額の範囲につ いてのみ自己のてん補資任を認めたのに対し,Stan丘eldは,問題の保険証券に よって付保されている全ての自動車の利用可能な担保を積み上げることができ るはずだと主張し,OhioCasualty保険会社の可能的な責任額は630,000ドルに 増加されるべきである,と主張した。Stan丘eld側は,その主張の論拠として,1970年のMerididn MutualInsur−
α乃Cg Co〃.5∠成わ乃5事件64)の判決を挙げた。 同事件では,2枚以上の保険証券が被保険者に提供されている場合でも,各 保険証券は,制定法によって,最低の責任限度額を挿入することを要求されて いたので,制定法で要求されている事項に抵触する「他保険条項」は無効であ ると判決された。また,同事件では,1枚の保険証券は第一・次保険として(as pr■imar・y)取り扱われ,もし1枚の保険証券の責任限度額を超える程の損害が証 明された場合には,他の保険証券は,その限度額を積み上げるために,超過額 64)451SⅥ■2d831(Kシ1970)米国の自動車保険における積み上げについて 椚27− 保険として(asexcess)取り扱われるべきである,とされた。 そこで,Stan丘eldは,彼の場合にも,この原則は論理的に適用可能であると, 主張した。 Reed判事は,Stanfieldの見解のうち,担保の積み上げ方には賛成したが,担 保の積み上げを要求している被保険者のタイプ(thetypeofinsured)がより重 要な意味を持っていると述べた。 同判事の見解は次のようなものであった。すなわち,本件の場合,記名被保 険者であるニューポート市は,第一・位の被保険者として(asthefirst classin− Sured)保険保護を拡張する権利を有していた。したがって,記名被保険者は, その者が被保険自動車に搭乗中であるか否かに関わりなくUMCの保護を受け る権利を有しており,全保険料の支払い者として各自動車について別々にてん 補をうけることができることになる。しかしながら,Stan負eldは,問題の保険 証券のもとでは,被保険自動車に搭乗中についてのみ付保されている象二位の 被保険者(asecondclassinsured)であり,その資格の範囲内でのみ付保されて いるに過ぎない。それゆえ,彼の回収棟は損害発生の際に彼が実際に占有して いた1台の自動車に限られるべきであり,10,000ドルを回収する権利があるに 過ぎない65)。 この判決により,いわゆる第二位の被保険者は損害発生の際に自己が占有し
ていた1台の自動車のUMCのみを利用できるに過ぎない,ということが明ら
かにされた。したがって,1枚の保険証券で複数の自動車が付保されていた場 合でも,第二位の被保険者は自己が占有していなかった自動車のUMCを積み 上げることはできない,とされたのである。 そして,この判決からは,裁判所が,保険料を支払っていない使用人がその 使用者の自動車責任保険証券に含まれている複数の担保を積み上げることを望 んではいない,ということが読みとれるのである。 65)581S W2dat556(Ky1979)−ユヾ・▲ 香川大学経済学部 研究年報 30 J9ク(フ Ⅴ 以上,米国における自動車保険の積み上げの問題についてUMCを中心に考 察してきたが,次のように結論づけることができよう。 1‥Inter−pOlicystackingは,殆どの州において認められている。けだし,
UMCの積み上げを禁止するかまたは避けようとするanti−StaCking条項とし
ての「他保険条項」は公益に反するものとして無効であると判決されているか らである。 また,保険証券上の文言が認めている場合には,MPCもまた積み上げること ができるが,保険会社にはかかる積み上げを認めない旨の保険証券を作成することが許されている。それゆえ,保険証券の中にUMCとMPCが挿入されてい
る場合には,被保険者は両者を積み上げることができる。2.Intrappolicystackingを認めるか否かについては,裁判所の見解に相違
がみられる。 全米各州における関係制定法の諸規定は概ね似たものであり,保険契約上の 文言は標準化されており,かつ諸事件の事実は似通っているが,この間題に関 する裁判所の見解に−▲定の方向性があるわけではない。けだし,裁判所は,こ の間題に直面した際に,種々の理論を採用してきたが,その理論のいずれもが 決定的に多数を占めているというわけでもなく,またある分野で顕著な傾向を 示しているわけでもないからである。また,UMCとMPCの積み上げについては裁判所によって違った取り扱い
方がなされているが,両担保の性格を考慮したとき,両者の重要な類似性を無視しているように思われる。確かに,UMCの方がMPCよりもその担保範囲が
広範ではあるが,両者とも,被保険者が自動貴に塔乗中であるか否かに関わり なく,自動車事故の結果生じた身体傷害に対して被保険者に保険保護を与えることを意図しているのであるから,かかる点を考慮した場合,UMCとMPCの
付保が制定法によって要求されている州においては,両者の積み上げについて むしろ同じ取り扱いをする方が合理的であるように思われるのである。米国の自動車保険における積み上げについて −2針−