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《タンホイザー》における音楽と言葉の関係(1)―リブレットと詩形の問題―-香川大学学術情報リポジトリ

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《タンホイザー》における音楽と言葉の関係(1)

―リブレットと詩形の問題―

稲 田 隆 之

1.はじめに

 本研究は、リヒャルト・ヴァーグナー Richard Wagner (1813 83)のロマン的オペラ《タンホイザー

Tannhäuser》(原題は「タンホイザーとヴァルトブルクの歌合戦 Tannhäuser und der Sängerkrieg auf Wartburg」) における音楽と言葉の関係の実態を明らかにすることを目的としている。とはいえ、紙 数の都合もあるため、全体を3つの論文に分けることとし、本論はリブレットと詩形の問題につい て検討したい。  周知のように《タンホイザー》は、ワーグナーのオペラ作品のなかで最も複雑な改訂プロセスを 経ており、リブレットのテクストにしろ楽譜にしろ、分析に耐えうる批判版を決定するところから 大きな問題が存在する。幸い日本では日本ワーグナー協会による研究成果の蓄積が大きく、《タン ホイザー》についても音楽注と訳注の付いたリブレット対訳が五柳書院から出版されている。本論 においても、同書のテクストおよび対訳を利用させていただいた。  もうひとつの問題はいわゆる「版」の問題だが、本論では深入りしない。簡単に整理すれば、 ヴァーグナーにとって存在しているのは、いわゆる「ドレスデン版」と「ヴィーン版」である。いず れもそれらの地名が付される根拠は薄弱なのだが、通例に従って用いることにする。ただし「ドレ スデン版」の定義は次のように定める。「ドレスデン版」は、1861年3月でのヴィーン上演前までの 《タンホイザー》のかたちを指す。基本的には1860年にC. F.メーザー社から出版されたスコアを指 すと言いたいが、このスコアにはヴァーグナー自身のチェックが入っているにもかかわらず、大量 の誤りが生じていることが明らかとなっているため、「ドレスデン版」と言う場合には、理念とし て存在するかたちということになろう1。ちなみにドレスデン版はその後1914年にフェリックス・ モットルによってある程度のかたちに整備され、出版された。版の名称(実際は「ドレスデン稿 Dresdener Fassung」)の由来もここにある。  本論で分析の俎上に上げるのは、このドレスデン版とした。というのも、本研究は《タンホイ ザー》におけるヴァーグナーの創作理念を明らかにしようするものであり、まずはその作品の実態 を見極めるためには、新旧折衷版であるヴィーン版では不可能であるためである。 1  拙論2013参照。

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2.問題の所在  本論では基本的に、詩形がオペラのドラマトゥルギーにどのように関与していると考えられるの か、についてデータを整理することを目的としている。とはいえ、ここで考えておかなければなら ないのは、《タンホイザー》というオペラのかたちである。われわれはこのあとの楽劇の様式を知っ ているために、とかくその楽劇のものさしで《タンホイザー》を測ってしまいがちだが、三宅幸夫 が指摘するように、まず重要なのはこのオペラがどういう作品なのかを徹底的に洗い出すことであ ろう2  ヴァーグナーのオペラは、作曲者自身がリブレットを書いているという意味では特殊な存在であ る。というのも、リブレットを書いた時点で、その音楽やドラマ全体の構想がある程度は想定され ていたと考えられるからである。《タンホイザー》の場合でも、どのような詩形を設定しているの か否かによって、彼自身がどういうオペラを想定していたのかを読み取ることができよう。  基本的な手法としては、伝統的なオペラのかたち、すなわちレチタティーヴォとアリアの反復交 代によるモザイク状のドラマ構成がどの程度保持され、また保持されていないのかを抽出すること になる。《タンホイザー》の前作にあたる《さまよえるオランダ人 Der fliefende Holländer》の場合は、 いわゆる番号オペラで作曲されている。したがって、各曲の独立性は高く、レチタティーヴォとア リア(ないし重唱や合唱)の区別は、音楽的にも明確である。そしてそのような構成は、すでにリ ブレットのなかで既定されている。  一方《タンホイザー》の場合、外面的には番号オペラのかたちが放棄されている。すなわち、各 曲にはリブレットにおいても音楽においても、番号(ナンバー)が付けられていないのである。し かし、その実態ではかなりの面で番号オペラのかたちが継承されていることが指摘されている。で は、どのように、またどの程度、番号オペラのかたちが保持されているのであろうか。 3.分析  最初の手順として、オペラ全体を詩形ごとに分節した。そのうち脚韻を踏んでいる詩行は伝統的 な韻律法によるテクストであると判断し、便宜上曲番を付けた。その上で、それぞれの詩節、脚 数、韻律、脚韻、脚韻の格を分析し、表を作成した(論文末尾の資料2参照)。なお脚韻の格だが、 通常だと男性格は「m」、女性格はweiblichの「w」で示すが、視覚的に両者の判別がしにくいため、 女性格は「f」で表記した。網掛けは特殊な事例を指している。以下、脚数ごとに詩形などを分析 し、オペラ全体のなかの位置付けを考察していこう。 3.1 2脚  《タンホイザー》のなかで2脚の詩行は、唯一第1幕第1場のシレーネの合唱である(曲番1)。 また、オペラ全体の大半の詩行がヤンブス(弱強格)をとるのに対して、ダクテュルス(強弱弱格) をとるのも特異な存在となっている。  そもそもこのオペラは、純潔と性愛、キリスト教と異教、山上の宮廷対地下の洞窟、という対立 構造がドラマの核となっている。したがって、本研究にとってもそれらの対立構造がどのように詩 形に現れているのかを抽出することが重要なテーマとなる。その意味で、この2脚のテクストはそ の典型例であろう。このあとも触れるように、《タンホイザー》のリブレットは大半が4脚か5脚の 2  三宅2012:101。

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ヤンブスで書かれており、2脚のダクテュルス詩行によるこの部分は突出している。いうまでもな くこの場面は異教世界であり、このあとのキリスト教の世界との対立構造が読み取れる。 3.2 3脚  2脚の詩行が《タンホイザー》では唯一の例だったのに対して、3脚の詩行が7箇所でみられる。 すべてヤンブスをとる。ただし最初の例、第1幕第3場の若い牧童の歌の場合(曲番13)は、3脚 の詩形を作るというよりは、4脚のヤンブス詩行のなかで一部が3脚をとるとみなした方がいいだ ろう。全10行のうち、第4、7、8行で3脚をとる。むしろ牧童の幼さを表現するものとして、こ のような不統一性が意図されたと考えられる。  それ以外の3脚はまず、第2幕第1場および第2場のエリーザベトの歌詞で用いられている(曲 番17と19)。いずれも各歌の第2節に当たる。このときのテクストは、前者が「あの方が去ってか らというもの/あなたはなんと荒れんで見えたことか。/私の心はやすらぎを失い/喜びも消え た。」、後者が「以前は、歌びとたちの巧みな調べに心引かれて/よく耳を傾けたものでした。/彼 らの誉め歌は/雅な戯れのように思えました。」というものである。いずれもエリーザベトにとっ ての過去が投影された歌詞であることは間違いない。  さらにこの3脚のヤンブス詩行は、第2場の終わりに当たりタンホイザーとエリーザベトの2 重唱にまで引き継がれる。「この時を讃えましょう」と二人が歌うとき、視点は当然現在に向かう。 だとすれば、第2幕第1場と第2場は、3脚のヤンブス詩行を核として、過去から現在へ向かうと いうドラマトゥルギーが意図されていると考えられよう。この場合大事なのは、あくまでもエリー ザベトという存在である。3脚というのは、《タンホイザー》のみならずヴァーグナーのロマン的 オペラのなかでは極めて珍しく、特殊な意味が込められていることは疑いない。  そう考えると、次に3脚をとるヴォルフラムの歌の意味が明らかになってくる(曲番31)。この 歌は、歌合戦で3番目に登場するビテロルフに対してタンホイザーが反論し、両者の対立が明らか になったのち、ヴォルフラムがこの場を治めようとして歌う。3脚をとるのはこの歌の後半に当た る。すでに三宅が音楽注で、ヴォルフラムの歌が調性においても歌詞内容においても、「歌合戦を 正常な状態に引き戻そうとする努力にほかならない」3と指摘しているように、詩形でも同様のこ とが言えるだろう。すなわち、3脚のヤンブス詩行はこの第2幕においては、華やかで健全な歌合 戦の象徴として機能しているわけだが、もっと重要なのはその正常な状態の象徴こそエリーザベト である、ということである。  このあと3脚の詩行が用いられるのは、第2幕の幕切れ、領主、歌びとたち、騎士たちの合唱 (曲番38)にタンホイザーとエリーザベトが加わって壮大なアンサンブルが形成される場面(曲番 39)である。領主、歌びとたち、騎士たちは「罪を償え」と歌い、タンホイザーは打ちひしがれて贖 罪の旅を決意し、エリーザベトはとりなしを願い、祈りと捧げる。  以上のように、いずれの箇所でもエリーザベトの純潔と健全な歌合戦への憧れが、3脚のヤンブ ス詩行には込められていた。その意味で、第2幕最後のフィナーレの場面で3脚の詩行の存在は、 ドラマ上の亀裂を暗示しているとも考えられるだろう。このあと第3幕以降で3脚の詩行は一切用 いられない。 3.3 4脚  論文末の資料からも明らかなように、《タンホイザー》のリブレットの詩形はその大半が4脚と5 3  三宅2012:46。

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脚からなっている。そして唯一の例外を除けば、すべてヤンブス詩行をとる。まず4脚のヤンブス 詩行について検討するならば、その多くは交差韻をとり、脚韻の響きも女性格と男性格が交互に用 いられる詩形が基本とされている。この詩形はいわゆる民謡詩節であり、このオペラにおいても特 別な意味を読み取る必要はないだろう。  問題はその他の詩形である。4脚のヤンブス詩行のなかで特殊な事例を以下に検討していこう。 3.3.1 ヤンブス詩行、脚韻なし、男性韻のみ  まず取り上げたいのは4脚のヤンブス詩行をとるにも関わらず、脚韻を踏まないもので、第1幕 のヴェーヌスの歌にみられる(曲番5前半、10)。曲番5の前半はタンホイザーによる〈ヴェーヌス 讃歌1〉の直後に歌われるものであり、曲番10は同じく〈ヴェーヌス讃歌3〉のあとに歌われるもの である。いずれもタンホイザーに対するヴェーヌスの取りみだした様子が、このような詩形に現れ ていると考えられる。ただしこの詩形は、レチタティーヴォの代用ともとれる。  その上でこの2つの詩形は、すべての詩行末が強音節 Hebung で終わっていること、すなわち男 性格であることが特徴的である。したがって響きの印象は決然としたものとなる。 3.3.2 ヤンブス詩行、対韻、男性格+女性格  以上の詩形はこのヴェーヌスの2例しかみられないが、もうひとつヴェーヌス特有な現象とし ては第3幕の終わり近くの詩形が挙げられる(曲番48)。資料から明らかなように、ヴァーグナー が選択した脚韻は必ず交差韻か対韻を踏む。その際、交差韻では「fmfm」と女性格と男性格が交互 に現れ、対韻では「ffmm」と女性格と男性格の順番でとるのが基本となっている。しかし曲番48は、 対韻をとるなかで唯一「mmff」というように、男性格と女性格の順番が逆になっているのである。 タンホイザーによる「ヴェーヌスベルクに入ったのだ!」を受けて、ヴェーヌスが再登場する場面 なわけだが、この詩形にはこれまでの価値観が逆転したニュアンスが込められていると読み取れる だろう。 3.3.3 ヤンブス詩行、対韻、男性格のみ  これまではヴェーヌスの例だったが、それ以外にみられる4脚のヤンブス詩行の特徴として、対 韻をとりながら、すべての詩行末で男性格をとるものが指摘できる。すべて男性格をとる例はすで にヴェーヌスの例で触れたが、ここでは脚韻を踏むものである。資料からも、基本的に巡礼の合唱 と関わっていることが分かる。  ヤンブスでは「弱音節+強音節」でひとつの詩脚を形成し、両音節の数が揃うかたち(つまり足り 脚)になるためには、強音節で終わらなければならない。その意味で、ヤンブス詩行で男性格が連 続する場合、極めて決然とした響きが意図されている。それどころか硬直した社会を暗示する詩形 として意図されていると考えられる。当然ながら、厳然としたカトリック教会に対する批判が込め られているわけである。  しかしながらもっと重要なのは、横溝綾が指摘したように、この詩形が〈ヴェーヌス讃歌3〉の 最後の詩節で現れることだろう4。憧れたはずの地上の世界とは、因習的で硬直した社会であると いうドラマの構造に、ヴァーグナーによる批判を読み取ることができるわけである。  なお同じ詩形は、ヴォルフラムの歌(曲番15の第2節)やタンホイザーの歌(曲番30前半)でも用 いられているが、上述のような意味連関を読み取るのはかなり無理があるかもしれない。この場合 4  横溝綾「《タンホイザー》における予感と回想」(日本音楽学会第62回全国大会)において発表された。

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は両者の決然とした意思の表れとみなす方が自然だろう。 3.3.4 ヤンブス詩行、交差韻、男性格のみ  以上は対韻の場合だが、交差韻をとる例が2つある。ひとつはオペラ全体の末尾、曲番51の第2 節である。巡礼の合唱は基本的に対韻をとり、すべての詩行で男性格をとっていたわけだが、この 例ではいずれの脚韻でも男性格をとる。そして、交差韻をとりながら、すべての脚韻が男性格とい う例が、第3幕のいわゆる〈ローマ語り〉における「教皇の断罪」の部分である5。音楽分析は稿を改 めてするが、独特の旋律と動きの少ない伴奏によって、厳格で冷徹な教皇の言葉が効果的に表現さ れている。〈ローマ語り〉については章を改めて検討する。 3.3.5 ダクテュルス詩行  最後に特殊な例として、4脚のダクテュルス詩行が存在する。その詩行末がすべて男性格をとる という意味でも異例である。オペラ全体の幕切れ近く、エリーザベトの遺骸が運ばれたのちに歌わ れる曲に用いられる(曲番50)。テクストは「いまや天使の群れに加わり、永遠なる神の御前に立て る/けがれなき乙女よ、聖なるかな!/かの乙女が涙し、天の赦しを乞い願った/罪びとこそ、幸 いなるかな!」というもので、このオペラのドラマのクライマックスともいえる場面となっている。 《タンホイザー》というオペラは、キリスト教的な愛を否定した主人公が、純真な女性の犠牲によっ てどのように救済されるのか、がテーマとなっており、このオペラはこの場面に向かって展開して きたともいえる。  このオペラにおいてダクテュルスという韻律が突出した存在である以上、ヴァーグナーがこのテ クストに際立った意味を与えたことは間違ない。そしてこのオペラにおけるもうひとつの符号とし て、オペラ冒頭のシレーネの合唱が思い浮かぶ。ダクテュルス詩行が用いられているのは、異教世 界を体現していた冒頭の2脚のダクテュルス詩行と幕切れ近くのこの4脚のダクテュルス詩行のみ となっている。ここにも、聖と俗、キリスト教と異教が背中合わせになっている関係が暗示されて いるとも考えられよう。  さてこの4脚のダクテュルス詩行の場合、詩脚のかたちに対して、弱音節が足りないかたち(す なわち脚足らず)という現象が生じている。つまり、詩行冒頭と詩行末の響きは確かに力強いが、 欠落感も生じているのがこの詩形の特徴である。そのため、エリーザベトの犠牲への余韻が意図さ れていると解釈できる。 3.4 5脚  すでに筆者がたびたび指摘してきたように6、ヴァーグナーのオペラにおいて5脚のヤンブス 詩行がもつ意味を解明することは、ヴァーグナーのオペラ研究にとって極めて重要だと考えられ る。《タンホイザー》における5脚のヤンブス詩行では、脚韻をとらない詩形であるブランクフェ ルス Blankversが中心的役割をもっている。この詩形をとる場合、伝統的なオペラにおけるレチタ ティーヴォが意図されていると考えられる。  5脚のヤンブス詩行が脚韻を踏む詩形の場合、基本的には叙事的語りのために用いられている。 第3幕の〈ローマ語り〉はその典型である。しかし問題はそれ以外の多くの箇所で5脚のヤンブス 詩行が用いられていることである。とりわけ重要なのは、タンホイザーによる〈ヴェーヌス讃歌〉 5  同じく横溝綾が言及。 参考文献表を参照のこと。

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の各前半部分、歌合戦におけるヴォルフラムの歌(曲番25)や同じく第3幕の〈夕星の歌〉(曲番44) である。  5脚のヤンブス詩行という詩形は、すでに拙論で指摘したように、特にミンネゼンガーとは関係 があるわけではない7。したがって、ヴァーグナーによって何らかの意図をもって用いられている と考えられる。タンホイザーによる〈ヴェーヌス讃歌〉とヴォルフラムの〈夕星の歌〉がともに5脚 のヤンブス詩行で書かれていることは極めて示唆的である。つとに指摘されているように、このオ ペラでは一見対立構造をみせているヴェーヌスとエリーザベトが実は背中合わせの存在となって いる。そして〈夕星の歌〉は一見エリーザベトのことを歌っているようでいて、「夕星=宵の金星= ヴェーヌスの星」ということから、その奥でヴェーヌスのことを歌っていると指摘されるところで もある。だとすれば、5脚のヤンブス詩行という詩形もまた、ヴェーヌスとエリーザベトが背後で つながっていることを暗示していると考えられよう。  問題は、第2幕の歌合戦で歌われるヴォルフラムの歌である。ここでも一貫して5脚のヤンブ ス詩行のテクストが書かれている。内容も一貫して純潔の愛を賛美するものとなっている。だが、 《タンホイザー》における詩形同士の関連性を考えれば、歌合戦におけるヴォルフラムの歌もまた ヴェーヌスを志向しているのではないだろうか。 4.〈ローマ語り〉の問題 4.1 〈ローマ語り〉のリブレット分析  ここで、《タンホイザー》における中心的場面であるタンホイザー自身による〈ローマ語り〉の詩 形について、分析しておこう。ヴェーヌスを讃えた咎によりローマへ巡礼の旅に出たタンホイザー だが、教皇によって断罪されてしまう。この巡礼のプロセスを語ったのが〈ローマ語り〉である。 本論では対訳は省略し、ドイツ語の原文をもとに詩形を分析しよう。  テクストの各詩行における脚数、脚韻、格を分析したのが資料1である。なお脚韻のアルファ ベットは、〈ローマ語り〉における詩形を確認することを目的としており、同じ響きの脚韻に必ず しも同じ記号を付けたものではない。 7  拙論2011:117。

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【資料1】

テクスト 脚数 脚韻 格

Hör' an! Du, Wolfram, du...sollst es erfahren. 5 ─ 脚 

韻 

な 

Zurück von mir! Die Stätte, wo ich raste, ─ ist verflucht! Hör' an, Wolfram! Hör' an! ─ Inbrunst im Herzen, wie kein Büßer noch ─ sie je gefühlt, sucht' ich den Weg nach Rom. ─ Ein Engel hatte, ach! der Sünde Stolz ─ dem Übermütigen entwunden; 4 ─ für ihn wollt' ich in Demut büßen, a 交 

差 

f ②

das Heil erflehn, das mir verneint, b m um ihm die Träne zu versüßen, a f die er mir Sünder einst geweint! b m Wie neben mir der schwerstbedrückte Pilger 5 ─ ③ die Straße wallt', erschien mir allzu leicht: - ─

betrat sein Fuß den weichen Grund der Wiesen, 5 c 交 

差 

f ④

der nackten Sohle sucht' ich Dorn und Stein; d m ließ Labung er am Quell den Mund genießen, c f sog ich der Sonne heißes Glühen ein; d m wenn fromm zum Himmel er Gebete schickte, e f vergoß mein Blut ich zu des Höchsten Preis; f m als im Hospiz der Müde sich erquickte, e f die Glieder bettet' ich in Schnee und Eis;− f m verschlossnen Augs, ihr Wunder nicht zu schauen, 5 g 対 

韻 f ⑤

durchzog ich blind Italiens holde Auen. g f ich tat's, denn in Zerknirschung wollt' ich büßen, h f um meines Engels Tränen zu versüßen! h f Nach Rom gelangt' ich so zur heil'gen Stelle, i f lag betend auf des Heiligtumes Schwelle: - i f der Tag brach an;− da läuteten die Glocken, 5 j 交 

差 

f ⑥

hernieder töten himmlische Gesänge; k f da jauchzt' es auf in brünstigem Frohlocken, j f denn Gnad' und Heil verhießen sie der Menge. k f Da sah ich ihn, durch den sich Gott verkündigt, l f ⑦ vor ihm all Volk im Staub sich niederließ. m m und Tausenden er Gnade gab, entsündigt l f er Tausende sich froh erheben hieß. - m m Da naht' auch ich, das Haupt gebeugt zur Erde, 5 n f ⑧ klagt' ich mich an, mit jammernder Gebärde n f der bösen Lust, die meine Sinn' empfanden, o 交 

差 

des Sehnens, das kein Büßen noch gekühlt; p m und um Erlösung aus den heißen Banden o f rief ich ihn an, von wildem Schmerz durchwühlt... p m

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Und er, den so ich bat, hub an: 4 ─ m ⑨ Hast du so böse Lust geteilt, q 交 

差 

dich an der Hölle Glut entflammt, r m hast du im Venusberg geweilt, q m so bist nun ewig du verdammt! r m Wie dieser Stab in meiner Hand s m nie mehr sich schmückt mit frischem Grün, t m kann aus der Hölle heißem Brand s m Erlösung nimmer dir erblühn!" t m Da sank ich in Vernichtung dumpf darnieder, 5 u 抱 

擁 

f ⑩

die Sinne schwanden mir...Als ich erwacht, v m aufödem Platze lagerte die Nacht, v m von fern her tönten frohe Gnadenlieder... u f Da ekelte mich der holde Sang! 5 w 対 

韻 m ⑪

von der Verheißung lügnerischem Klang, w m der eiseskalt mir durch die Seele schnitt, x m trieb Grauen mich hinweg mit wildem Schritt! x m Dahin zog's mich, wo ich der Wonn und Lust y m so viel genoß, an ihrer warme Brust! y m Zu dir, Frau Venus, kehr' ich wieder, 4 z 交 

差 

f ⑫

in deiner Zauber holde Nacht; # m zu deinem Hof steig' ich darnieder, z f wo nun dein Reiz mir ewig lacht! # m

 資料1から確認されることは以下の点となろう。第1に脚韻を踏まない5脚のヤンブス詩行、す なわちブランクフェルスは伝統的なオペラのレチタティーヴォの位置付けで用いられている。第2 に脚韻を踏む5脚のヤンブス詩行は、徹底して叙事的語りのために用いられている。  第3に4脚のヤンブス詩行は3箇所で用いられており、叙事的語りとは区別するために使用され ている。1つ目の部分(資料1の②)では、ひとりの天使の涙について語られる。それがエリーザ ベトを指すことは間違いない。2つ目の部分(同⑨)はすでに触れたように、「教皇の断罪」を示す 部分である。そして3つ目の部分は最後の4行(同⑫)で、ここではついにヴェーヌスのもとに帰 ることが宣言される。いずれもローマ巡礼の叙事的語りとは別の内容をもち、詩形としても際立つ 存在となっている。  第4に、「教皇の断罪」において男性格のみが用いられる詩形が特徴的だったのに対して、5脚 のヤンブス詩行には女性格のみが用いられる詩形が現れる。《タンホイザー》全体としても特異な 手法である。資料1でいうと⑤と⑥のテクストがそれに当たる。詩形としては、女性格ならではの やわらかい響きが意図されている反面、脚余りであることから、全体のリズムはもたつく感じが生 まれる。  第5に5脚のヤンブス詩行においても男性格のみが用いられる詩行が書かれている。資料1では ⑪に当たる。当然ながら決然とした意思が表明されているのだろう。それが続く⑫のテクスト、す なわち立ち去ることの決意表明と結び付く。  最後に第6として、抱擁韻が使用されている唯一の例が存在することである。資料1では⑩のテ クストがそれである。これもまた、⑪のテクストへの布石と考えるのが自然だろう。⑩で遠くから

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赦免を祝う歌が聞こえたことで、⑪で立ち去り、⑫でヴェーヌスのもとに帰ることを宣言するので ある。 4.2 まとめと今後の課題  以上、リブレットのテクストに焦点を絞って、詩形を分析してきた。《タンホイザー》において 共通する詩形には、何らかの意味の呼応が意図されていると考えられる。本論では紙数の都合もあ り、敢えて楽曲分析を行わなかった。楽曲分析は稿を改めてすることにしたい。  とりわけ重要な課題となるのは、5脚のヤンブス詩行における音楽と言葉の関係である。また、 歌合戦における各歌にはどのような表現意図が込められているのかを、同じく音楽と言葉の関係か ら分析することになろう。そして、オペラ全体における言葉の詩的表現手段──例えば、詩行冒頭 のアクセント転置、韻律の変化、言葉の響き──がどのように音楽表現のなかで活かされているの かが、稿を改めて検討されるだろう。 【資料2】 第1幕 曲番 登場人物 詩節 脚数 韻律 脚韻 脚韻の格 【第1場】 1 シレーネたちの合唱 6行×1 2脚 ダクテュルス aabcbc ffffff 【第2場】 (対話) 2 タンホイザー 8行 5脚 ヤンブス ─ ─ 3 ヴェーヌス 10行 5脚 ヤンブス ─ ─ 4 タンホイザー 8行 5脚 ヤンブス 交差韻 fmfm =ヴェーヌス讃歌1 8行 4脚  ↓ 対韻 ffmm 5 ヴェーヌス 4行 4脚 ヤンブス ─ mmmm 2行 5脚  ↓ ─ ─ 6 タンホイザー 8行 5脚 ヤンブス 交差韻 fmfm =ヴェーヌス讃歌2 8行 4脚  ↓ 対韻 ffmm 7 ヴェーヌス 4行 5脚 ヤンブス 対韻 ffmm (2重唱) 8 ヴェーヌス 8行 4脚 ヤンブス 交差韻 fmfm 8行 5脚  ↓ 対韻 ffmm (合唱、ヴェーヌス) 9 タンホイザー 8行 5脚 ヤンブス 交差韻 fmfm =ヴェーヌス讃歌3 4行 4脚  ↓ 対韻 ffmm 4行 4脚  ↓ 対韻 mmmm 10 ヴェーヌス 15行 4脚 ヤンブス ─ mmmm (2重唱) 11 ヴェーヌス 4行 5脚 ヤンブス 交差韻 fmfm (2重唱) 12 タンホイザー 1行 4脚 ヤンブス

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【第3場】 13 若い牧童 4行 4,3 ヤンブス 交差韻 mfmf 6行 4,3,4  ↓ 対韻 mmffmm 14 年かさの巡礼たち 4行×3 4脚 ヤンブス 対韻 mmmm  ↓ 交差韻 mfmf  ↓ 対韻 mmmm 【第4場】 対話(領主、騎士たち) 15 ヴォルフラム 4行 5脚 ヤンブス 交差韻 fmfm 4行 4脚  ↓ 対韻 mmmm 4行 4脚  ↓ 交差韻 fmfm 4行 4脚  ↓ 交差韻 fmfm 16 アンサンブル 4行×2 4脚 ヤンブス 交差韻 fmfm 第2幕 曲番 登場人物 詩節 脚数 韻律 脚韻 脚韻の格 【第1場】 17 エリーザベト 4行 4脚 ヤンブス 交差韻 fmfm 4行 3脚  ↓ 交差韻 fmfm 6行 4脚  ↓ ababcc fmfmmm 【第2場】 (3重唱) 18 タンホイザー 6行 5脚 ヤンブス ─ fmffff 19 エリーザベト 5行 5脚 ヤンブス ─ ─ 4行 3脚  ↓ 交差韻 fmfm 4行×4 4脚  ↓ 交差韻 fmfm 20 タンホイザー 4行 4脚 ヤンブス 交差韻 fmfm 21 2(3)重唱 4行×2 3脚 ヤンブス 交差韻 fmfm 【第3場】 (対話) 22 領主 4行 4脚 ヤンブス 交差韻 fmfm 4行 5脚  ↓ 交差韻 fmfm 4行 5脚  ↓ ─ ─ 【第4場】 23 騎士たち、貴婦人たち 4行 5脚 ヤンブス 交差韻 fmfm 24 領主 9行 5脚 ヤンブス ─ ─ 4行 4脚  ↓ ─ ffmm 15行 5脚  ↓ ─ ─

(11)

(騎士、婦人たちなど+小姓) 25 ヴォルフラム 4行×5 5脚 ヤンブス 交差韻 fmfm (歌合戦の歌1) 2行 5脚  ↓ 対韻 ff 26 タンホイザー 4行×4 4脚 ヤンブス 交差韻 fmfm 27 ヴァルター 4行×3 4脚 ヤンブス 交差韻 fmfm (歌合戦の歌2) 2行 5脚  ↓ 対韻 ff 28 タンホイザー 4行 4脚 ヤンブス 交差韻 fmfm 4行 5脚  ↓ 対韻 ffmm 4行 4脚  ↓ 交差韻 fmfm 2行 4脚  ↓ 対韻 ff 29 ビテロルフ 4行×3 4脚 ヤンブス 交差韻 fmfm (歌合戦の歌3) 30 タンホイザー 4行 4脚 ヤンブス 対韻 mmmm 4行 4脚  ↓ 交差韻 fmfm 31 ヴォルフラム 4行 4脚 ヤンブス 交差韻 fmfm 4行×2 3脚  ↓ 交差韻 fmfm 32 タンホイザー 4行×2 5脚 ヤンブス 交差韻 fmfm (ヴェーヌス讃歌) 33 合唱 4行×2 4脚 ヤンブス 対韻 mmmm (対話) 34 合唱 4行 4脚 ヤンブス ☆ fffm 4行 4脚  ↓ 交差韻 fmfm 35 エリーザベト 4行 5脚 ヤンブス ─ ─ 4行×4 4脚  ↓ 交差韻 fmfm 36 アンサンブル 4行×2 4脚 ヤンブス 交差韻 fmfm 37 領主 10行 5脚 ヤンブス ─ ─ 4行×2 4脚  ↓ 交差韻 fmfm 38 合唱 4行×3 3脚 ヤンブス 交差韻 fmfm 39 アンサンブル 4行×3 3脚 ヤンブス 交差韻 fmfm 40 若い巡礼たちの合唱 4行 4脚 ヤンブス 交差韻 mmmm 第3幕 曲番 登場人物 詩節 脚数 韻律 脚韻 脚韻の格 【第1場】 41 ヴォルフラム 3行 5脚 ヤンブス ─ ─ 4行 4脚  ↓ 対韻 ffmm 3行 5脚  ↓ ─ ─ 4行 4脚  ↓ 対韻 ffmm (巡礼+2重唱) 42 年かさの巡礼たち 4行 4脚 ヤンブス 対韻 mmmm 4行 4脚  ↓ 対韻 ffmm 43 エリーザベト 6行×3 4脚 ヤンブス ababcc fmfmmm (第2節はfmfmff)

(12)

【第2場】 44 ヴォルフラム 4行×2 5脚 ヤンブス 対韻 ffmm (=夕星の歌) 6行 4脚  ↓ 対韻 mmmmff 【第3場】 (対話) 45 タンホイザー 省略 省略 省略 省略 省略 (=ローマ語り)    資料1参照 (=ローマ語り) (ヴォルフラム) 46 タンホイザー 4行 4脚 ヤンブス 交差韻 fmfm (対話) 47 タンホイザー 4行 4脚 ヤンブス 交差韻 fmfm 48 ヴェーヌス 4行 4脚 ヤンブス 対韻 mmff (2重唱) 49 ヴェーヌス 4行 4脚 ヤンブス 交差韻 fmfm (アンサンブル) 50 男声合唱と歌びと 4行 4脚 ダクテュルス 交差韻 mmmm (タンホイザー) 51 若い巡礼たち 4行 4脚 ヤンブス 対韻 mmmm 4行 4脚  ↓ 交差韻 mmmm 4行 4脚  ↓ 対韻 mmmm 52 合唱 2行 4脚 ヤンブス 対韻 ff 参考文献 稲田隆之 2008 「〈グラールの語り〉における5脚のヤンブス詩行の問題──《ローエングリン》における音楽とこ とばの関係」,『香川大学教育学部研究報告第Ⅰ部』第129号,1 15頁。 ── 2009 「ヴァーグナーの《パルジファル》におけるユートピアの理想と現実──〈聖金曜日の奇蹟〉における詩 の韻律と音楽の方形化の問題」,『香川大学教育学部研究報告第Ⅰ部』,第131号,1 10頁。 ── 2011 「ワーグナーのオペラにおける音楽と言葉の関係──5脚のヤンブス詩行の問題から詩のメロディー へ」,『年刊 ワーグナー・フォーラム2011』,東海大学出版会,114 31頁。 ── 2013 「《タンホイザー》における改訂プロセスと3つの「版」の問題」,『リヒャルト・ワーグナー タンホイ ザー』,新国立劇場,29 31頁。 横溝 綾 2011 「《タンホイザー》における予感と回想」(日本音楽学会第62回全国大会)配布資料 使用対訳  日本ワーグナー協会監修『ワーグナー タンホイザー』(三宅幸夫・池上純一編訳),五柳書院,2012年。

参照

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