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異学年集団における児童の相互作用に関する研究―縦割り学級での話し合い場面の分析―-香川大学学術情報リポジトリ

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異学年集団における児童の相互作用に関する研究

―縦割り学級での話し合い場面の分析―

岡 田   涼

<要 約>  本研究では、異学年集団である縦割り学級での話し合い場面において、児童が自律的に話し合い を展開させていく過程を記述することを試みた。縦割り学級での話し合い場面における発話データ を収集し、その発話データについて、(1)IRE構造、(2)自己調整学習の視点から分析した。対象 学級において、児童が学年に応じた役割をもちながら児童どうしで発話を展開させていくような相 互作用のパターンがみられた。また、縦割り学級が1つの集団として自己調整を行っている様子が 観察された。以上の結果から、異学年集団においては、児童らが話し合いを展開させいていくよう な自律的な相互作用が生じる可能性が示された。 キーワード:異学年集団、教室における発話、IRE構造、自己調整学習 問題と目的  近年の学校現場において、異学年の児童どう しのかかわりが重視されている。異学年の児童 どうしがかかわる機会として、学校内で縦割り 学級での活動を設定したり、幼保小連携や小中 一貫という体制での教育活動が展開されてい る。本研究では、異学年集団における児童間の 相互作用のあり方について、発話データをもと に検討する。 教室における相互作用  教室における教師と児童の相互作用を捉える 視点の1つとして、授業中の発話が注目されて きた(Edwards & Wastgate, 1994)。多くの研究 で、授業における発話を分析し、教師と児童の 相互作用のパターンが検討されている。たとえ ば、岸野・無藤(2005)は、小学2年生の国語 と算数の授業を対象に、授業進行から外れた児 童に対する教師の対応の仕方を調べている。そ の結果、児童が授業進行から外れた発話を行っ た際、教師はそれらの発話を学習指導に取り入 れたり、人間関係面での調整を行う機会とする など、多様な対応の仕方をしていることが示さ れた。また、一柳(2009)は、小学5年生の社 会科の授業を観察し、教師が児童の発言を繰り 返すリヴォイシングが、児童の聴くことを支 え、授業内容の理解に影響することを明らかに している。他にも、磯村・町田・無藤(2005)は、 小学2年生の1学級を観察し、教師と児童の発 話を中心としたコミュニケーションに「みんな」 という視点を導入することによって、児童の一 対多の構造ができあがっていくプロセスを記述 している。 香川大学教育学部

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 授業では、教師と児童の相互作用だけでな く、児童どうしが連続的に発話を展開させるよ うな相互作用もみられる。亀石・山本・野嶋 (2009)は、算数の授業における児童間の連続 発話について分析を行っている。その結果、児 童のあいだで連続するような発話が全発話の半 数ほどを占めており、他児の発言を繰り返すよ うな発話や、他児の発話に対して応答するな ど、様々なパターンが存在することが示され た。授業においては、教師と児童がやりとりを するだけでなく、児童のあいだでも発話を連続 させるような相互作用が生じているのである。 異学年集団での相互作用  これまでの児童どうしの相互作用を扱った研 究では、主に同学年集団における児童の発話が 注目されてきた。学年が異なる児童が、集団場 面においてどのように相互作用を行うかを検討 した研究はあまりみられない。数少ない研究例 として、複式学級における児童の話し合いに注 目した研究がある。仮屋園・綿巻・安楽(2004) は、3年生と4年生からなる複式学級での班内 の話し合い過程を観察している。異学年から構 成される班では、最初のうちは上学年である4 年生が話し合いを展開させ、次第に下学年であ る3年生が積極的に話し合いに参加するように なっていった。また、假屋園・佐々・丸野(2007) は、3年生と4年生からなる複式学級での話し 合いにおいて、上学年が相互作用を主導する班 もあれば、最初から下学年が積極的に参加して 話し合いを主導する班もあるなど、班やメン バーによって相互作用のあり方が異なることを 報告している。ただし、これらの研究は、2学 年からなる複式学級を扱ったものであり、特に 少人数のグループ内での相互作用に焦点をあて ている。より多様な学年が混在する異学年集団 においては、学級全体としてどのような相互作 用が生じるのだろうか。  本研究では、1年生から6年生が混在する縦 割り学級での話し合い場面を対象に、児童のあ いだでどのような相互作用が生じるかについて 発話データをもとに検討する。1年生から6年 生という多様な学年の児童から構成される縦割 り学級では、認知的な面での発達段階が異なる 児童が混在し、児童のあいだに立場や役割の分 化が生じやすくなる。それと同時に、学級集団 の個々の児童がお互いの理解度や動機づけに目 を向けながら、1つの学級集団としてのまとま りを維持しようとする努力が求められる。そ のため、縦割り学級が1つの集団として活動を 展開させていけるように、児童自らが自律的に 活動を展開させていこうと動機づけられると考 えられる。本研究では、このような縦割り学級 における自律的な相互作用の過程をとらえるた めに、IRE構造と自己調整学習の枠組みを用い る。 IRE構造  I(Initiation)―R(Response)―E(Evaluation) 構造は、教室における発話の基本的な機能を 示す枠組みであり(Mehan, 1979)、一連の発話 がどのように連鎖していくかを捉えるものであ る。伝統的な一斉授業においては、教師による 指示や発問(I)によって発話が開始され、児童 がそれに応答し(R)、その児童の応答に対して 教師が評価する(E)というかたちで、ひとまと まりの発話のパターンが成立していることが多 いとされている。このIRE構造の発話機能のカ テゴリは、教室における教師と児童の相互作用 を理解するための分析枠組みとして多くの研究 で用いられている(藤江,2000;亀石他,2009; 岸・野嶋,2006)。たとえば、岸・野嶋(2006) は、小学校国語科における教師と児童の発話を もとに授業の構造を分析し、いずれの学年でも 教師の指示・確認の頻度が高かったことから、 Mehan(1979)が指摘する教師の「I」―児童の「R」 ―教師の「E」が中心的であることを明らかにし ている。  一方で、授業展開によっては、必ずしも教 師の「I」―児童の「R」―教師の「E」といった 教師主導のパターンのみにはならないことも ある。鹿毛・上淵・大家(1997)は、小学1年 生の算数の授業における教師と児童の発話を 分析している。その結果、自律性支援的な志 向性をもつ教師のクラスでは、児童の「I」や 「E」が比較的多く、児童が積極的に関与する

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ダイナミックな授業が展開されていた。また、 Turner, Midgley, Meyer, Gheen, Anderman, Kang, & Patrick(2002)は、教師による「I」と「E」から なる発話のあり方を、児童に対するスキャホー ルディング(scaffolding)として機能しない非支 持的なものとしている。そのうえで、小学6年 生の算数の授業を観察し、熟達目標構造をもつ 学級では、教師による「I」と「E」からなる発話 が比較的少ないことを報告している。これらの 研究からは、教室での発話パターンは必ずしも 教師主導になるわけではなく、児童が主体的に 発話を展開させるパターンもあり得ることが示 唆される。  縦割り学級においては、異学年の児童が混在 しているため、児童が「I」「R」「E」のいずれの 機能をもとりながら、児童のあいだで発話を展 開させていくパターンが多いと考えられる。特 に、高学年の児童が率先して発話のパターンを 開始し(I)、それに対して中学年や低学年の児 童が反応し(R)、さらに高学年あるいは中学年 や低学年が展開させていく(E)といった発話パ ターンが想定される。 集団としての自己調整  自己調整学習(self-regulated learning)は、自 律的に学習を進める個人の学習過程を記述する ための理論的枠組みである。Zimmerman(1989) によると、学習者が、メタ認知、動機づけ、行 動において、自分自身の学習過程に能動的に関 与するような学習のあり方が自己調整学習であ る。自己調整学習は、予見、遂行、省察という 3つの段階からなるサイクルとして捉えること ができる(Zimmerman, 1998)。予見は学習活動 に取り組む前の段階であり、目標設定、方略の 計画、自己効力感の査定、興味の喚起などが含 まれる。これから行う学習に対して、学習に関 する目標を設定したり、適切な方略を計画し、 遂行可能性に関する自己効力感を判断する。遂 行は学習活動に取り組んでいる途中の段階であ り、注意の焦点化、自己教示、自己モニタリン グなどが含まれる。この段階では、自己の認知 過程をモニタリングしながら、自分に対して教 示を行い、取り組んでいる活動に注意を集中さ せることが必要となる。自己省察は学習活動を 終えた後の段階であり、自己評価、原因帰属、 自己反応、適応などが含まれる。ここでは、学 習の過程や結果に対して原因帰属や自己評価を 行い、それらを次の学習に活かすことが重要と なる。これらのサイクルを他者に依存すること なく、自分自身でまわしながら自律的に学ぶ過 程が自己調整学習である。  自己調整学習は個々の児童や生徒の学習の過 程を捉える理論的枠組みであるが、本研究では 縦割り学級における集団としての活動展開を記 述する枠組みとして用いる。縦割り学級におい ては、多様な児童が混在しているという特徴か ら、個々の児童が学級全体として活動を展開さ せようと動機づけられると考えられる。そのな かで、学級集団としての目標設定や活動のモニ タリングを行うような集団としての自己調整的 な発話がみられると考えられる。類似の考え方 として、Hadwin, Järvelä, & Miller(2011)は、集 団での活動において、社会的に共有された調整 (socially shared regulation)がみられるとしてい る。社会的に共有された調整は、多くの個人が 集団で共有されている目標達成のために、協働 的に集団としての活動を調整するプロセスであ る。縦割り学級においては、学級全体で共有さ れた集団としての自己調整がみられると考えら れる。 本研究の目的  本研究では、異学年集団からなる縦割り学級 での話し合い場面を対象に、児童がいかにして 自律的な話し合いを展開させているかを記述す る。そのために、IRE構造と自己調整学習の枠 組みを用いて、児童および教師の発話を分析す る。分析の視点として、まずIRE構造の枠組み から量的に児童の発話の展開を記述し、次に自 己調整学習の視点から発話の展開例をエピソー ドとして抽出する。これらの分析を通して、縦 割り学級における児童の活動を理解し、指導お よび支援を行うための示唆を得ることを目的と する。

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方法 対象学級  国立大学法人A大学教育学部の附属小学校に おける縦割り学級1学級を対象とした。協力校 は、研究期間内において、文部科学省の研究開 発学校の指定を受けており、学習指導要領等の 国の基準によらない教育課程の編成・実施が認 められていた。そのなかで、協力校では、従来 の道徳、特別活動、総合的な学習の時間を統合 した新領域として「創造活動」を設定している。 創造活動は学級創造活動と縦割り創造活動から なり、後者の縦割り創造活動では、1年生から 6年生が所属する縦割り学級を編成し、年間を 通して学級全体でプロジェクトと呼ばれる問題 解決的な学習課題に取り組む。本研究では、こ の縦割り創造活動の授業を観察対象とした。対 象学級には、1年生から6年生までが4~6名 ずつ合計30名(男子16名、女子14名)が在籍し ていた。担任教師は40代の男性であり、協力校 での勤務は8年目、縦割り創造活動を担当する のは2年目であった。 手続き  6月(1日目)、9月(2日目)、12月(3日目) にそれぞれ1回ずつ、話し合い活動が主となる 日を選び、観察を行った。教室後方にビデオカ メラを設置し、1時間(45分間)の児童および 教師の様子を録画した。同時に観察者は、発言 や授業の展開について記録をとった。録画した 映像と音声記録をもとに、児童と教師のすべて の発話についてプロトコルデータを作成した。 発話のコーディング  児童と教師のすべての発話について、日本語 としての1文を単位として扱った。以下に示す 発話機能と発話内容の点からすべての発話を コーディングした。

 発話機能 Mehan(1979), Edwards & Wastgate (1994)による IRE構造の分析枠組みをもとに、 鹿毛他(1997)を参考にコーディングを行った。 「I」は、説明や質問、指名など会話の始発点と なるものとした。「R」は、「I」に対する返答や 指名されての発言などとした。ただし、行動 に応じての発話は「R」とはせず、音声として現 れた発話に応じたもののみを「R」とした。「E」 は、鹿毛他(1997)と同様に、評価に限定せず、 「R」もしくは「E」に対するさらなる応答とした。 「E」と「I」の区別は、自然な会話の流れとして つながっているか否かで区別した。大きな流れ としては同じテーマであっても、順番に発表し ていくなどで発話者が交代している場合には、 新たに「I」とした。  発話内容 岸・野嶋(2006)、鹿毛他(1997) などを参考に、「質問」(他者に対して質問をす る発話)、「指示・指名」(他者に対して指示を 出したり、指名をする発話)、「価値づけ・言い 換え」(他者の発言に意味を付与して評価した り、発言内容を言い換える発話)、「主張・理由 づけ」(自分の意見を述べたり、その理由を説 明する発話)、「復唱」(単純に他者の発話を繰 り返す発話)、「事実応答」(問いかけなどに応 じて、事実内容を答える発話)、「その他」の7 カテゴリを設定した。 結果と考察 授業展開  1日目(6月)には、年間を通して学級全体 で取り組む活動を決めるための話し合いが行わ れた。学級内のグループごとにやりたいことを 考え、順番に発表をし、他のグループの児童か ら意見や質問を聞き、説明をしていくという展 開であった。1日目には、5年生児童が中心と なっているグループが提案し、それに対して他 の児童が多くの意見を述べた。授業時間中に、 かなり多くの質問や反対意見がだされ、提案し たグループの児童がそれらに対する説明を行う かたちで、かなり白熱した話し合いになった。 教師は、時折話し合いの調整を行うだけで、あ まり介入はしなかったが、終盤になって話し合 いの収集がつきにくくなってきた際に主導権を とり、まとめを行ったうえでその時間の振り返 りや次への課題を伝えていた。  2日目(9月)には、学級で取り組む活動も 決まっており、具体的な進め方についての話し 合いが行われた。6年生が司会を行い、他の児 童の意見を取り入れながらグループ分けなどを

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行っていた。この日も1日目と同様に、教師は ほとんど前面に出ることはなく、終盤になって よい発言がみられた児童を価値付けたり、今後 の活動の視点を広げるための話をしていた。  3日目(12月)には、活動の中間発表的なイ ベントに対する振り返りが行われた。話し合い の内容としては、振り返りをもとに今後の活動 の方向性を定めていくという展開であった。1 日目や2日目と異なり、この日は序盤から教師 が積極的に主導権をとっていた。司会の6年生 が前に出て話し合いを進めていく一方で、教師 も児童の発言に追加の説明を求めたり、他の児 童を指名したりしており、比較的教師の発話が 多くなっていた。 発話機能と発話内容からみた発話パターン  発話頻度 日ごとに子どもと教師の発話の 頻度を算出した(Table1)。その結果、日×発 話者の偏りが有意であり(χ(2)=135.27,p < .001)、残差分析の結果、1日目と2日目に 児童の発話が多く、3日目に教師の発話が多 かった。  発話機能 日ごとに発話者×発話機能の偏り を調べた(Table2)。その結果、いずれの日に ついても偏りが有意であった。1日目には、児 童の「R」と「E」が多く、教師の「I」が多かった。 2日目には、児童の「R」が多く、教師の「I」が 多かった。3日目にも、児童の「R」が多く、教 師の「I」が多かった。  鹿毛他(1997)をもとに、児童の積極的関与 の指標として、児童の「I」と「E」および教師の 「R」の合計数を「積極性」、児童の「R」および教 師の「I」と「E」の合計数を「消極性」とし、積極 性/消極性を「積極的関与」とした。「積極的関 与」が1を超えていれば、教師の「I」―児童の 「R」―教師の「E」に比して、児童の「I」―教 師の「R」―児童の「E」が多かったことになる。 日ごとの積極的関与の値は、1日目が1.51、2 日目が1.26、3日目が0.26であった。また、日 ×積極性・消極性の偏りを調べたところ、偏り は有意であり(χ(2)=102.25,p < .001)、1 日目と2日目には積極性の頻度が多く、3日目 には消極性の頻度が多かった。  次に、学年が特定できた児童の発話につい て、日ごとに学年(低学年、中学年、高学年) ×発話機能の偏りを調べた(Table3)。その結 果、いずれの日についても偏りが有意であっ た。1日目には、高学年の「I」、低学年の「R」、 中学年の「E」が多く、中学年の「I」、低学年の 「E」が少なかった。2日目には、高学年の「I」、 中学年の「R」と「E」が多く、中学年の「I」、高 学年の「R」と「E」が少なかった。3日目には、 高学年の「I」と低学年の「E」が多く、低学年の 「I」と高学年の「E」が少なかった。  発話内容 日ごとに発話者×発話機能の偏り を調べた(Table4)。その結果、いずれの日に ついても偏りは有意であった。1日目には、児 童の「主張・理由づけ」と「事実応答」が多く、 教師の「質問」、「指示・指名」、「価値づけ・言 Table1 日ごとの教師と児童の発話数 1日目 2日目 3日目 児童 298 212 87 教師 88 59 153 合計 386 271 240 Table2 日ごとの発話機能の頻度 1日目 2日目 3日目 I R E I R E I R E 児童 88 68 142 109 61 42 21 44 22 (55.00)(97.14)(91.03) (68.99)(100.00)(80.77) (15.67)(88.00)(39.29) 教師 72 2 14 49 0 10 113 6 34 (45.00) (2.86) (8.97) (31.01) (0.00) (19.23) (84.33)(12.00)(60.71) χ(2)=77.56*** χ(2)=25.10*** χ(2)=82.72*** 注.括弧内は、各発話機能における児童と教師の割合を示す。*** p<.001。

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い換え」が多かった。2日目には、児童の「指 示・指名」と「主張・理由づけ」が多く、教師の 「価値づけ・言い換え」が多かった。3日目に は、児童の「主張・理由づけ」と「その他」が多く、 教師の「質問」、「指示・指名」、「価値づけ・言 い換え」が多かった。  発話パターンの特徴 児童が司会をしていた こともあり、3日とも児童の発話数は一定の割 合を占めていた。発話機能の点では、全体の割 合からすると、3日とも教師の「I」が多くなっ ていた。しかし、頻度自体をみると、1日目と 2日目には、児童の「I」も相当数みられた。1 日目と2日目には、児童の「I」―教師の「R」 ―児童の「E」の占める割合が多くなっており、 児童が発話の連鎖を開始させるパターンもみら れた(Table5)。  また、学年ごとの発話機能の頻度をみると、 高学年の「I」や中学年の「R」が多く、3日目に なると低学年の「E」が多くなるという傾向が あった。児童どうしで発話をつないでいくパ ターンのなかに、学年ごとの役割分担が生じて おり、高学年が主となって児童どうしの会話を Table3 学年ごとの発話機能の頻度 1日目 2日目 3日目 I R E I R E I R E 低学年 1 7 1 0 1 0 3 16 12 (1.14) (10.45) (0.70) (0.00) (1.72) (0.00) (14.29)(37.21)(54.55) 中学年 14 16 41 4 25 13 6 15 8 (15.91)(23.88)(28.87) (3.70) (43.10)(38.24) (28.57)(34.88)(36.36) 高学年 73 44 100 104 32 21 12 12 2 (82.95)(65.67)(70.42) (96.30)(55.17)(61.76) (57.14)(27.91) (9.09) χ(4)=22.14*** χ(4)=45.73*** χ(4)=13.45** 注.括弧内は、各発話機能における各学年の割合を示す。** p<.01、 ***p<.001。 Table4 日ごとの発話内容の頻度   質問 指示・指名 価値づけ・言い換え 主張・理由づけ 復唱 事実応答 その他 χ 1日目 85.92*** 児童 (10.74) (13.75) (10.40) (41.95) (0.34) (10.40) (12.42)32 41 31 125 1 31 37 教師 (30.68) (23.86) (34.09) (4.55) (0.00) (0.00) (6.82)27 21 30 4 0 0 6 2日目 85.89*** 児童 (25.94) (24.53) (2.83) (36.32) (0.47) (3.77) (6.13)55 52 6 77 1 8 13 教師 (32.20) (11.86) (42.37) (3.39) (1.69) (1.69) (6.78)19 7 25 2 1 1 4 3日目 104.86*** 児童 (5.75) (17.24) (11.49) (50.57) (1.15) (2.30) (11.49)5 15 10 44 1 2 10 教師 (29.41) (33.99) (28.10) (1.96) (3.27) (0.00) (3.27)45 52 43 3 5 0 5 注.括弧内は、発話者における各カテゴリの割合を示す。*** p<.001

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展開させていく場面があった。発話内容とあわ せて考えると、高学年が指示や指名をしなが ら、中学年が自分の意見等を主張したり、事実 にあたる内容を答え、高学年あるいは低学年が 自分の主張や意見を述べるような展開であった (Table6)。 集団としての自己調整がみられる発話パターン  学級集団の活動を進めるために集団としての 自己調整を行っていると考えられるエピソード を抜き出した。3日間の発話の中から、「モニ タリングによる理解度の確認」、「効力感の査定 と方略の見直し」、「目標設定による動機づけ調 整」に相当すると考えられる発話を以下に示す。  モニタリングによる理解度の確認 Table7 は、5年生の児童が自分のグループの意見を 説明している場面である。意見を述べた際に、 「達成感」という言葉を使っているが、その言 葉を発した5年生の児童自身が「達成感ってわ かりますか」と問いかけ、同グループにいる他 の5年生児童が「1年生にはわからないと思い ます」と答えている。それに対して最初の5年 生児童が「達成感」に関する補足的な説明を行 い、それを受けて議論が進行している。ここ で、最初の5年生児童は、自分が発言について Table5 児童が発話の連鎖を開始させるパターンの例(1日目) 発話者 発話 カテゴリ C1b5 T C1b5 C2g5 C3b4 C4g6 C2g5 T T C2g5 T C1b5 T 「みんなの意見を聞いて、僕たちこの4人、この3人は知らな いけど、この4人はもうやめます」 「なんで、なんで」 「え、て組の」 「ちょっと聞いて」 「これ逆にケンカになってると思うよ」 「ケンカになってるならさ、一回そういうケンカはやめてほし いんだけど」 「テーマのポイントが」 「今、C2g5さんが言ってるじゃん」 「ケンカの話してないよ」 「テーマのポイントのところに、C5b4くんが言ってる入ってな いやつがあるので、もっと入ってるやつに変えた方がいいと思 います」 「そう、だからテーマが変わるってことなんだね」 「はい」 「わかりました」 I:主張・理由づけ R:質問 E:その他 I:指示・指名 I:価値づけ・言い換え R:指示・指名 I:その他 I:価値づけ・言い換え I:価値づけ・言い換え I:主張・理由づけ R:価値づけ・言い換え E:その他 E:その他 注.発話者の記号は、Cは児童、Tは教師を示す。Cの添え字で、1つ目の数字は例に登場した順 番、bかgが男女の別、2つ目の数字が学年を示す。 Table6 児童だけで発話を展開させていくパターンの例(1日目) 発話者 発話 カテゴリ C1b5 C2b3 C1b5 C2b3 C3g4 C1b5 「はい、C3g4さん」 「質問ある人、立ってください」 「C3g4さん、ずっと待っちょんやけん、C3g4さんでいいやん」 「じゃあ、C3g4さんからどうぞ」 「質問が2個ぐらいあるんだけど、継続できるっていうのは(中 略)あんまり楽しくないから継続できないと思います」 「写真を撮るっていうのは(中略)いろんな実験とかを重ねて いって、成果が発表できると思います」 I:指示・指名 I:指示・指名 R:主張・理由づけ E:指示・指名 E:主張・理由づけ E:主張・理由づけ 注.発話者の記号は、Cが児童であること、1つ目の数字が例に登場した順番、bかgが男女の別、 2つ目の数字が学年を示す。

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他の児童が理解できているかどうかをモニタリ ングし、同グループの他の児童が「低学年には わからない」と判断して、学級全体として議論 を進めるために補足的な説明を行ったものと考 えられる。異学年が混在する縦割り学級である ために、言葉に対する理解度は学級内の児童に よってもさまざまであり、特に高学年児童はそ のことを日常的に意識している。学級全体で活 動を進めていくために、折に触れて学級内の他 の児童の理解度をモニタリングしていると考え られる。  効力感の査定と方略の見直し Table8は、 作業の内容ごとにグループを分けをするために 話し合っている場面である。一応のグループ分 けができた段階で、司会の6年生が全体に確認 を求めたところ、5年生や3年生の児童が、現 Table7 モニタリングによる理解確認の例(1日目) 発話者 発話 自己調整の概略 C1b5 C2b4 C1b5 C3b5 C1b5 C2b4 「たとえば(中略)急な坂を作るのは難しいけど達成感があると 思います」 「それは」 「達成感ってわかりますか」 「1年生にはわからないと思います」 「達成感とは、できたときの嬉しさやみんなから褒められたと きの嬉しさです」 「それって自分たちの作った人しか思わないし」 議 論 の 進 行 の 過 程 で、 低学年児童の理解度を モニタリングし、補足 的な説明を行っている。 注.発話者の記号は、Cが児童であること、1つ目の数字が例に登場した順番、bかgが男女の別、 2つ目の数字が学年を示す。 Table8 集団としての効力感の査定と方略の見直しの例(2日目) 発話者 発話 自己調整の概略 C1g6 C2b5 C2b5 C2b5 C1g6 C3g3 C1g6 「じゃあ、パンフレットはもうこれだけでいいですか?」 「6年生いるんじゃない?」 「ビデオから1人出た方がいいんじゃない?」 「C1g6さん」 「はい、C3g3さん」 「私はパンフレットが、高学年の人が1人しかいないから、な かなか進まないと思います」 「じゃあ、ビデオは5、6年生が1人抜けたとして(中略)いい ですか?」 グループ分けに際して、 全体として遂行可能か (効力感)を判断し、グ ループの構成(方略)を 再調整している。 注.発話者の記号は、Cが児童であること、1つ目の数字が例に登場した順番、bかgが男女の別、 2つ目の数字が学年を示す。 Table9 目標設定による動機づけ調整の例(1日目) 発話者 発話 自己調整の概略 C1b3 C2g4 C3b5 「じゃあ、C2g4さんからどうぞ」 「質問が(中略)継続できるっていうのは、作って撮って作って 撮ってだから、それを1年間続けたらあんまり楽しくないか ら、継続できないと思います」 「写真を撮るっていうのは実験、最初は実験で、最後ら辺に なったら(中略)3時間創造があると思うからそこで発表会を開 いて(中略)成果が発表できると思います」 目標を設定することで、 成員の興味や動機づけ を喚起しようとしてい る。 注.発話者の記号は、Cが児童であること、1つ目の数字が例に登場した順番、bかgが男女の別、 2つ目の数字が学年を示す。

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在のグループ分けの状態では、活動を進めてい くことが困難であると感じ、学年の構成やバ ランスに関する点で意見を述べている。グルー プ分けの仕方を学級集団が活動を進めるための 方略の一種と考えると、ここではその方略の見 直しを行っている様子として捉えることができ る。現時点でのグループ分けでは、今後の活動 遂行が困難であるというように集団としての自 己効力感をもつことが難しかったため、方略を 見直すことで活動に見通しをもてるように調整 していると解釈できる。  目標設定による動機づけ調整 Table9は、 年間を通して学級全体で行う活動を決めるため の話し合いをしている場面である。あるグルー プが活動の提案をしており、提案者の1人であ る3年生児童の指名を受けて、4年生児童が意 見を述べ、それに対して提案者の1人である5 年生児童が説明を加えている。ここで、4年生 児童は「楽しくない」という点から継続が困難 であると述べたのに対して、5年生児童は年度 の最後の方に発表の場があるという学級全体に とっての目標を設定することによって、学級集 団としての動機づけを調整しようとしていると 解釈することができる。 総合考察  本研究では、異学年集団からなる縦割り学級 において、児童が自律的に話し合いを展開させ ていく過程を記述することを試みた。教師と児 童の発話をデータとして、それらを分析するた めの道具立てとしてIRE構造と自己調整学習の 理論的枠組みを用いた。  発話の機能や内容に注目すると、全体の発話 の割合からは教師の発話数が多かったものの、 児童の発話数も一定の割合を占めていた。その なかで、児童によって開始される発話のパター ンもあり、児童が自ら学級での話し合いを進め ていこうとしている様子をもみられた。特に、 高学年児童は、発話機能の「I」にあたる発話が 多く、学級全体での話し合いを先導する役割を 担っていたといえる。小学生段階においても、 高学年になるにつれて、自分と異なる他者の意 見についてもうまく調整しながら結論を得る ことが可能になっていく(倉盛・高橋,1998)。 1年生から6年生までが混在する縦割り学級で は、個々の認知発達の段階もばらつきが大き く、話し合いのなかで個々の児童が抱く意見や 考えも多様である。そのなかで、高学年児童 は学級全体として1つの活動を進めていくため に、自ら率先して意見を述べたり、一方で他の 児童に対して質問や指名を行いながら話し合い を進めようとしている。同時に、中学年や低学 年の児童は、高学年の先導的な役割に応じるか たちで、話し合いに参加をしていく。全体的な 特徴としては、年度が進むにつれて、低学年の 発話が増えていった。この点は、複式学級にお いて、下学年の発言が次第に増えていくこと を示した仮屋園他(2004)と類似の傾向である。 このように、縦割り学級内においては、それぞ れの学年の児童が個々の発達段階に応じた役割 を引き受けながら、学級全体として活動を自律 的に展開させていこうとするプロセスが生じ得 るといえる。  また、今回の縦割り学級での話し合いにおい ては、縦割り学級が1つの集団として自己調整 をしようと試みていると解釈し得る場面がみら れた。特に、本研究では集団としての「モニタ リングによる理解度の確認」、「効力感の査定と 方略の見直し」、「目標設定による動機づけ調 整」という3つの点からエピソードを抽出した。 これらは、いずれも自己調整学習の重要な要素 であり(Zimmerman, 1998)、学業達成につなが る学習のあり方であるとされている。本研究で 対象となった縦割り学級では、所属する児童が お互いの認知過程や動機づけにはたらきかけな がら、学級集団があたかも1つの学習者である かのように集団の活動を調整しているものとし て話し合いの過程を描くことができた。縦割り 学級での集団的な自己調整の様子は、社会的に 共有された調整(Hadwin et al., 2011)の過程で あるといえる。縦割り学級では、個々の学習者 が集団として自己調整を行おうとする自律的な 学習プロセスが生じると考えられる。  これまで多くの児童からなる異学年集団での

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話し合いの過程を記述した研究はみられなかっ た。今後は縦割り学級や学校間連携などで、異 学年集団にもとづく教育実践が増えていくこと が予想される。本研究で、縦割り学級において 児童が自律的に話し合いを展開させていこうと する様子を記述したことは、異学年集団での活 動のあり方についての1つのモデルと方向性を 提示したという点で、一定の意義があったとい える。  一方で、本研究の知見に関して、今後検討す べきいくつかの課題もある。1つ目に、本研究 では連鎖のパターンを十分に示すことができて いない。児童の発話について、それぞれをIRE の発話機能からコーディングし、その頻度の点 から発話のパターンを検討した。発話のエピ ソードを併用することで発話の連鎖の様子を描 いたが、具体的にどのように発話が展開して いったかは十分に検討できていない。連鎖のパ ターンを類型化するなどの分析も必要である。 2つ目に、教師の役割については検討できてい ない。縦割り学級において、教師は児童の活動 を動機づけるために、多面的な方略を用いてお り、その方略が教師の発話に現れることが示さ れている(岡田・黒田・石井・橘・玉木・堀場・ 山西・前場・川崎,2016)。ただし、今回みら れたような児童の学級集団としての自律的な活 動の展開において、教師がどのような役割を果 たしているかは検討できなかった。本研究でみ られたような集団としての自律的な活動のあり 方が実現するうえで、教師がどのような役割を 果たしているかも検討すべきである。3つ目 に、本研究では1学級のみを対象としている。 そのため、本研究の知見の一般化には大きな限 界があり、今後観察対象を増やすことでさらに 検討していくことが必要である。 引用文献

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付記

 授業観察を引き受けてくださった先生と児童 の皆様に厚くお礼申し上げます。

参照

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