【報 文】
東京海洋大学練習船神鷹丸の建造概要
酒 井 久 治
*Construction Report of Training vessel “SHINYO MARU”
of Tokyo University of Marine Science and Technology
Hisaharu S
AKAI*Abstract
Training vessel, SHINYO MARU of the Tokyo University of Marine Science and Technology was built in March, 2016. She is the training vessel which put emphasis on fisheries science, oceanographic survey and navigation officer education. This paper described the outline of SHINYO MARU and her building record.
2017年5月8日受付,2017年5月8日受理
キーワード: 神鷹丸,建造,練習船,東京海洋大学
Key words: SHINYO MARU, construetion, Training vessels, Tokyo University of Marine Seience and Technology
* Tokyo University of Marine Science and Technology, Konan4-5-7, Minato, Tokyo 108-8477(東京海洋大学,〒108-8477
東京都港区港南4-5-7) * Tel:03-5463-0484,[email protected] 本論は,平成28年度日本水産工学会春季シンポジウム「水産学の教育と研究に求められる練習(実習)船の現状 と課題」(平成28年6月)において講演された内容を取り纏めたものである。 1. は じめに 昭和59年12月に竣工した東京海洋大学漁業練習船神鷹 丸(Ⅲ世)は,約33年の永きにわたり学生の実習や調 査・研究に活躍し,水産および海洋分野の発展に貢献し てきた。この間,多くの卒業生を輩出するとともに,多 様化する研究調査の高度化や実習に対応してきたが,船 体,機関,機器の老朽化や海洋観測装置の陳腐化により, 実習や研究に支障をきたすようになった。このような状 況から,東京海洋大学では水産,海洋資源,海洋生物お よび船舶職員養成に関する教育,研究を行うことを目的 として練習船「神鷹丸」を建造した。なお,本船は昭和 12年に竣工した初代神鷹丸から数えて 4 代目となる。 本船は,学部生,水産専攻科生および大学院生を対象 としたトロール,イカ釣り,マグロ延縄,流し網の各漁 業実習をはじめ,海技士資格取得の教育を行うなど,我 が国および世界の次世代の水産・海洋を担う学生に,最 新の知識および技術を習得させ,高度な技術者を養成す る洋上の教育施設である。また, 2 次元地震波探査装置 による海底下構造の探査,自律型水中ロボット(AUV) の運用や音響機器による海底の精密調査を行うことがで きる洋上の研究施設として,最新鋭の調査機器等を搭載 しており,我が国周辺海域に存在する海洋資源や海洋生 物の科学調査が可能となっている。さらに,新時代に対 応した省エネルギー,省力化および高度情報処理機能も 重要な目標として計画された。 ここでは,神鷹丸の建造概念,建造の進捗状況,建造 課題などについて報告する。 2. 建造概念 神鷹丸の建造概念は,各種国際規則および国内法を満 足し,船体と学生および乗組員を含めた乗船者の安全を 確保することは当然のことながら,1)水産系学部附属練 習船の機能,2)船舶職員養成機関の練習船の機能,3)新 学部に対応できる海洋観測の機能,4)災害復興支援の機 能の 4 項目を設定し検討した。その内容と具現化した事 項を記す。 1) 水産系学部附属練習船の機能 これは,水産系大学の練習船の根幹をなすもので,前 述した水産系大学練習船の建造と課題1)に記載した大学 設置基準および文部科学省農学関係学部設置基準要項に 示される漁業実習,漁場調査実習を実現するものである。 漁業実習では,従前の着底および中層トロール漁業, まぐろ延縄漁業,いか釣り漁業に加えて流し網漁業を採
ーゼル主機に可変ピッチプロペラ(CPP)を組み合わせ た 1 基 1 軸システムであったが,神鷹丸では主機を三相 誘導電動機とし,同システムを 2 組設置する 2 基 2 軸電 気推進システムとした。なお,保守経費等を勘案し,電 動機のインバータによる回転数制御は採用しなかった。 更に,シリングラダーと組み合わせることにより,シス テム操船装置の能力が発揮しやすくなり,操船時におけ るジョイスティックモード,各種の定点保持モードなど の制御を可能にした。 4) 災害復興支援の機能 災害発生地域における支援機能として,1)造水能力の 増強,2)陸上への燃料および電力の供給体制を可能にし た。 造水能力の増強では,通常運転時には海水→高圧造水 機(第 1 段:500ppm,20m3/h)→清水タンク→中圧造水 機(第 2 段:100ppm,10m3/h)→飲料水タンクを,災害 支援時には高圧造水機の予備モジュール(10m3/h)を 使用して500ppm,30m3/hを実現した。 陸上への燃料供給(軽油)では,タンク容量を0.5か ら 5 m3に増強し,更に給油ホース,ノズルを装備して 対応している。なお,当然燃料油であるA重油の供給も 可能とした。陸上への電力供給では,ケーブルリール付 台車を装備して,本船から60Hz,220Vおよび110Vを給 電可能とした。これらの事項は,災害非常時の対応とし てご理解いただきたい。 3. 建造の進捗状況 東京海洋大学では,全学組織である船舶運航センター (センター長は研究担当理事)が設置され,乗組員の管 理,運航計画,ISOの運営,ISPSの運営などの任に当た っている。センター内に代船建造を司る代船建造ワーキ ンググループ(WG)が設置された。委員長のほか,船 体担当,機関および電気担当,海洋観測担当,漁労シス テム担当の教員を配置するとともに, 4 船(神鷹丸,海 鷹丸,青鷹丸,汐路丸)の船長機関長を加えた構成とし た。このWGが計画から竣工まで担当した。 Fig. 1に本学と造船所との情報の流れを示した。打ち 合せ会議以外は,原則電子メールによった。本学におけ る造船所との窓口は,原則,委員長のみとしたが,情報 伝達を早めるため全員に配信した。造船所からの承認図 や検討事項は各担当ごとに意見を取りまとめ,事務職員 に送信し,各担当からの意見を 1 つの書式に集約した後, 委員長から造船所に返送した。 下記に計画から竣工までの進捗状況を時系列で説明す る。 平成23年度 ・仕様の検討 平成24年度 用した。ただし,トロール漁業では網規模を縮小して, トロールドアを含めた漁具抵抗を少なくし,曳網馬力を 減少させた。更に,可能な限りハンドリング作業の簡略 化を図った。まぐろ延縄漁業では省力化および実習効果 の観点から,従前の幹縄の鉢方式( 1 鉢300メートルの 縄を接続して幹縄を構成)から,本学練習船では初めて ラインワインダー装置による連続幹縄処理を採用した。 流し網漁業については,北部太平洋のさんま流し網の試 験操業を可能とする各種の網目で構成した。 漁場調査実習では,トロールシステムを利用した稚仔 魚採集トロール網(LCネット)を採用した。 2) 船舶職員養成機関の練習船の機能 本学海洋科学部では,従前から国土交通省による三級 海技士(航海)の第一種養成機関の認定を受けており, 総トン数1,000トン以上の練習船としての海鷹丸,総ト ン数500トン以上の練習船としての神鷹丸の2隻で運用し ている。上記の大学設置基準および文部科学省農学関係 学部設置基準要項に示される航海運用実習を実現するも のである。したがって,船舶職員法に関連する練習船の 設置基準を満足する機器類を搭載した。なお,計画時に はロランCの搭載が義務付けられていたが,日本の電波 局が運用停止になったのに伴い,受信機のみ設置した。 教育に関しては,船内LANの活用による画像配信(レ ーダー,ECDIS,気象,機関など),船内無線LANによ るタブレット端末の活用による情報受信を可能にした。 実習に関しては,航海船橋甲板にある船橋では操舵区 画,無線区画,ウインチ区画,海洋観測区画を 1 室構造 とし,可能な限り360度の視野を確保し,学生定員44名 全員が同時に実習可能な船橋とした。 3) 新学部に対応できる海洋観測の機能 本学では平成29年 4 月 1 日より,学部の再構築を実施 した。これは,従前の海洋科学部,海洋工学部の 2 学部 体制から,海洋生命科学部,海洋工学部,海洋資源環境 学部の 3 学部に移行した。特に新学部である海洋資源環 境学部では,従前の海洋科学部海洋環境学分野と,海上, 海面,海洋,海底,海底下を網羅する海洋資源と海洋エ ネルギーに関する分野を教育研究するものである。この 学部新設と神鷹丸の代船建造が時期的に一致したのは本 学にとって幸いであった。すなわち,各種の高度海洋音 響装置,生物観測装置などの導入を実現できた。具体的 には深海用および浅海用マルチナロービーム,サムボト ムプロファイラー,水中測位装置,ADCP,表層生物モ ニタリング装置,層別生物採取装置などである。特に, 水中音響装置の観測精度向上のため,水中放射雑音の効 率的な低減(費用対効果が最大)を目指し,電気推進シ ステム,ソナードーム,アンテローリングタンク,泡ぎ れの良い船首形状,研磨された外版溶接部を採用した。 推進システムに関しては,従前の本学練習船ではディ
・仕様の検討 ・概算要求への準備 平成25年度 ・仕様書原案作成 ・予算内示(12月) ・市場調査手続き 資料提供招請 導入説明会( 2 月) 平成26年度 ・仕様書作成 意見招請 仕様書説明会 ・入札手続き 入札公告( 5 月) 入札説明会 応札業者ヒアリング 技術審査 開札・契約(発注)( 7 月) 三菱重工株式会社 下関造船所 ・代船建造打合せ会議 計18回開催 ・船橋モックアップ試験(平成27年 1 月16日) 船橋モックアップ試験とは,船橋の実物大模型を 作成して航海計器の配置,乗組員の視線および動線 などを確認する試験である。 ・起工式(平成27年 2 月12日) 溶接の儀として,本学賞雅前船舶運航センター長 により自動溶接機の運転スイッチが押された。
Fig. 1 Block diagram of information flow between our Universityand ship yard.
⑵ 速力および航続距離 航海速力 12ノット 航続距離 7,000海里 航海日数 45日 ⑶ 定員 職員 9 人 部員 13人 教員・調査員 10人 学生 44人 計76人 ⑷ 諸タンク容積 燃料油タンク 317.55 m3 潤滑油タンク 8.57 m3 造清水タンク 51.77 m3 飲料水タンク 106.08 m3 5. その他 ここでは,計画に際して考慮して実施できた事項や, できなかった事項を箇条書きに記載する。 1) 部屋割りの見直し 居住環境を向上させるため,乗組員居室の個室化(22 室)および学生居室の 4 名定員化(11室)を進めた。ま た,安全面から学生居室を喫水線上部に設置した。それ に対応して,乗船期間がある程度短期間の調査員の居室 を喫水線下部の相部屋( 1 名 1 室, 2 名 3 室, 3 名 1 室) とした。 2) 衛生区画の見直し 乗船者の男女比の均等化により,衛生区画数は男女比 50%とした。また,外国人乗船者への対応として大浴場 を廃止し,シャワーのみのブース化を図った。さらに, 漁業実習および海洋観測時の使用を考え,暴露甲板から 直接アクセスできるトイレを設置した。 3) サロンの廃止 船内スペースの関係上,断念せざるを得なかった。そ の代わりに事務室を設けた。 4) 食堂の共通化 従前では学生の場合,学生教室を教室と食堂の兼用と していたが,船内スペースの関係上,職員,部員,学生 共用とした。 5) 沿岸域航行時のメール環境の向上 6) 低硫黄燃料油の採用(S<0.5%) 大学としての環境保全の立場から,低硫黄燃料油(JIS 1 種 1 号A重油燃料:硫黄分<0.5%)対応の主・停泊用 発電機関を採用した。しかし,東京における燃料油供給 体制の問題から,現状はJIS 1 種 2 号A重油としている。 7) 低温暖化係数冷媒の採用 フロン排出抑制法への対応として,当初,NH3-CO2 二元冷凍サイクルによる自然冷媒(R707:NH3)の導 入を検討した。しかし,学生が多数乗船する練習船では, 平成27年度 ・ 教員 2 名(機関長および一等航海士)の造船所への 常駐( 7 月) これは造船所との連絡を密にすることにより,竣 工後の不具合箇所の低減や工程管理への協力を図る 目的で実施した。当然のことながら,建造中も通常 運航を実施した。 ・ブロック検査および各種検査( 7 月以降) Fig. 2およびFig. 3はブロック検査のレポートお よび日報であり,進捗状況を共有する報告書である。 ・搭載機器の工場立会試験( 7 月以降) プロペラ,スラスタ,水密扉,クレーン,揚錨機 および係船機,ウインチ(米国),BTウインチ,舵 取機,推進電動機,減速機,主・停泊用発電機およ び発電機関,主配電盤等であった。 ・進水式(11月25日) 命名は竹内学長,支鋼切断は 2 名の本学学生( 4 年生)であった。 ・海上公式試運転 予行 2 月13日-16日( 4 日間) 第 1 回 2 月23日-26日( 4 日間) 第 2 回 2 月29日- 3 月 9 日(10日間) ・安全祈願祭(神鷹丸船上 3 月24日) ・東京回航( 3 月28日) ・竣工式(東京 3 月31日) 平成28年度 ・竣工披露式( 4 月 5 日) 4. 一般配置図および要目 Fig. 4に一般配置図を,下記に主要目を示す。 ⑴ 主要寸法等 長さ(全長) 64.55 m 長さ(登録) 59.49 m 長さ(垂線間長) 58.00 m 幅(型,登録) 12.10 m 深さ(登録) 7.00 m 計画満載喫水(型) 4.50 m 総トン数 986トン 国際総トン数 1,343トン 資格および航行区域 JG,遠洋区域(国際) A1,A2およびA3 用途および従業制限 第 3 種漁船 船舶番号 142573 信号符字 7JVV IMO番号 9767675 漁船登録番号 TK1-1401 船籍港 東京都
アンモニアの危険性から断念し,従前のR404Aとした。 同時に冷凍システムの小規模化のため,急速凍結および 保冷容量の小型化,保冷温度の高温化(−40℃)を図っ た。 8) 使用漁具の小型化 漁具庫スペースの問題や燃焼消費量の削減のため,漁 業実習におけるトロール網の規模,マグロはえ縄用幹縄 の規模を小さく設定した。 9) 造水の品質向上 船内環境の観点から,造水の品質向上を図った。従前 では塩分濃度500 ppm(公称値)の造水が得られる 1 段 造水システムであるが,神鷹丸では 2 段造水システムと した。すなわち。第 1 段では塩分濃度500 ppm(公称値 20トン/日)で清水を製造し,第 2 段では塩分濃度100 ppm(公称値10トン/日)で飲料水を製造するものであ る。なお,災害支援対応として,緊急時には第 1 段で公 称値30トン/日が可能なように予備の逆浸透膜(10トン/ 日)を装備した。 10) クレーンによる甲板作業のハンドリングの向上 漁業操業および海洋観測時の機器のハンドリングを向 上させるため,無線式遠隔操縦が可能な多接形クレーン を,船首に 1 台( 9 kN),中央に 1 台(20kN),船尾に 1 台(20kN)設置した。 11) その他 計画時の仕様書では970トン形としたが,完成後の総 トン数は986トンであった。その理由として下記の要因 があった。 1) 仕様書で要求される船体,設備,機器の要因 ①コンパス甲板上の空調機室の追加 ②航海船橋後部のトロール操縦区画の建増し ③ソナードームの大型化 2) 造船所の意見による要因 ①減揺装置サイドタンク間の閉囲区画化 3) 総トン数算入範囲による要因 ①起倒式扉付スリップウェイの閉囲区画の算入 ②ソナードーム内部の算入 5. お わりに 神鷹丸は竣工後,約12か月を経過した。その間,製造 に起因する不具合が発生しているものの,運航を阻害す る重大な不具合はなく,各種の実習及び観測の航海につ いている。これらはひとえに,三菱重工株式会社下関造 船所及び機器メーカ各位のご協力の賜物でありお礼申し 上げる次第である。今後は寄港地において見学会等を計 画しているので,その機会にご意見,ご批判をいただけ れば幸いである。 参 考 文 献 1) 酒井久治,水産大学系練習船の建造と課題.水産 工学,53(3):159-163,2017.