黒沢幸子(目白大学/KIDS カウンセリング・システム)
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神経発達症(発達障害)の理解と関わり
※ DSM-5(2013)19 年ぶりの改定
← DSM-Ⅳ-TR(2000)← DSM-Ⅳ(1994)・『精神障害の診断・統計マニュアル』(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders) 第5版(アメリカ精神医学会:APA) ・「DSM-5 病名・用語翻訳ガイドライン(初版)」日本精神神経学会ほか(2014.5.29)
神経発達症群(発達障害)
生まれながらの何らかの脳の特性による ○ 知的能力障害群 精神遅滞(IQ70 以下) ○ 限局性学習症(SLD) ← 学習障害(LD) (/限局性学習障害) ○ 自閉スペクトラム症(ASD) ← 広汎性発達障害(PDD) (/自閉症スペクトラム障害) ・アスペルガー症候群 ・高機能自閉症 *合併 ○ 注意欠如・多動症(AD/HD) ← 注意欠陥多動性障害(AD/HD) (/注意欠如・多動性障害) ○ その他 ・吃音 ・発達性協調運動症 ・チック症 ほか *「特別支援教育」 約6.3
%の割合で在籍:学校教育法施行規則の一部を改正(平成 18 年4月施行) <神経発達症(発達障害)の特性をもつ児童・生徒の理解のための基本的な留意点> 【長所】 ・ 個性はそれぞれだが、その子どもごとに活用できる能力がある。*「長所を伸ばし、特性に応じた対応」が指導の基本!
・ 適切な配慮の元では、充分に就労し社会的な自立を成し遂げられる。 【困ったときの対処方法】 ・ 子どもの個性・障害を理解する。 ・ 子どもの苦手な刺激や状況を避け、分かりやすい環境を作る。 ・ 問題が起きた場合、状況を原因から順序だてて把握し、迅速に対応する。 ・ パニックが起きた場合、まず興奮を下げ、落ち着かせる。 その後、本人とどうすれば落ち着くのか話し合う。 【親への対応】 ・信頼関係が築けるように配慮しながら、保護者の気持ちを受け止めて対応する。2
Ⅰ.限局的学習症
Specific Learning Disorder(学習障害:LD)
LDとは何か? LDは、Learning Disabilities の頭文字を取ったもの。日本では「学習障害」と訳されている。 日本語の障害という言葉のイメージが重いため、「学習障害」よりは「LD」を使うことが多い。 <文部省協力者会議・最終報告のLDの定義> (1999/07) (「学習障害及びこれに類似する学習上の困難を有する児童生徒の指導方法に関する調査研究協力 者会議」)日本での公式定義。 知的障害には該当せず(IQ70 ないし 75 以上)、全般的な知的面での遅れはないものの、1つないし 2つ以上の特定の分野において特異な困難を持っている。 LDは症候群(いろいろな原因でいくつかの症状が集まり、ある特徴的な病像が作られる)であり、 個々のLD児たちが抱える困難は多様である。 <例> 聴いて理解することはできるのに、教科書や黒板の字を読んで理解することが困難な読字障害。 学校での対応 1. LD 児への教育的対応 ・ 気づき:子どもは何に困っているのか、教師自身は何に困っているのか、「気づく」 ・ 具体的な取組みは、担任・同僚教師・管理職・特別支援教育担当教師、外部専門家などが、 チームとなって相談し合いながら、個別支援計画を作り、学校全体で支えていく。 2. 指導上の配慮事項 (1) 自信を失ったり、意欲をなくしたりすることがないように (2) できないことをできるようにする/できないことと共存する 3. 指導の基本と実際 (1) 実態を把握する (2)指導を実施する ・ 学級でできること、担任以外の人に協力してもらうこと、外部機関で行うことなど、場と人 で役割分担して援助する ・ 学級内は、子どもができることや得意な部分を活用して学習に参加できるようにする 4. 保護者と学校・教師との協力 ⇒ 意見や情報の交換を重ねてよい人間関係を築く 学習障害とは、基本的には全般的な知的発達に遅れはないが、聞く、話す、 読む、書く、計算する又は推 論する能力のうち特定のものの習得と使用に著 しい困難を示す様々な状態を指すものである。 学習障害は、その原因として、中枢神経系に何らかの機能障害があると推定されるが、視覚障害、聴覚障 害、知的障害、情緒障害などの障害や、環境的 な要因が直接の原因となるものではない。 定義で取り上げている主症状 (1) 言語能力の困難 (2) 読字・書字の困難 (3) 算数・計算の困難 (4) 推論の困難 中核症状ではないとの考えで、定義からはずれたものの、LD は、他に下記の様な困難を併せ持つことが多いとされる。 (1) 社会性の困難 (2) 運動の困難 (3) 注意集中・多動による困難
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Ⅱ. 自閉スペクトラム症
Autism Spectrum Disorder(ASD)
← 広汎性発達障害
Pervasive Developmental Disorders(PDD)
・自閉スペクトラム症とは、「自閉的な特徴」をもつ神経発達症の一群を包含するカテゴリー
特徴: 注意の限局性・パターン化
<主症状 > ① 対人的相互反応における質的な障害 (仲間関係・情緒的交流の困難) ② 行動、興味および活動の、限定的、反復的、常同的な様式 (こだわり) ③ コミュニケーションの質的な障害(話し言葉・意志伝達能力の発達の遅れ) 神経発達症(発達障害)は、先天的な脳機能障害 ・困った子どもは、 困っている子ども! (困った保護者は、困っている保護者) ・子どもの内外の「リソース」(資源・資質)を 活かす!神経発達症(発達障害)は 発達する!
(適切な関わりによって)
自閉スペクトラム症の特徴は? 表れ方は人によって異なる。 ことばの発達が遅れる 話し方や言葉の使い方が独特で、変わった比ゆを使ったり、気持ちのこもらない話し方をする 年齢相応に会話のキャッチボール(会話の開始・継続)がうまくできない 人とのかかわり方が分からない 視線をそらしたり、抱っこされるのを嫌がったり、周りの世界に無関心のように見えたりする 協調して遊んだり、友情を育んだり人の気持ちを理解するのが苦手 感覚モニターの偏り 言葉や音にまるで反応しないように見えるのに、掃除機の音や犬のほえ声などをとても嫌がる 痛みに鈍感であったり暑さ寒さを感じなかったり、逆に過敏に反応したりもする 知的機能がかたよって発達する 描画・音楽・計算・記憶力などで、他の能力と比べて突出した能力を持っていることがある さまざまなレベルで知的障害を伴っていることが多い(高機能・アスペルガー障害との区別) 活動と興味が限られる 前後に身体をゆすったり、手をひらひらさせたりなどの動作を繰り返すことがある。また同じ 道順や同じ着替えの順序などこだわりを持つこともあり、変更が加えられると大変な苦痛を感 じる4 高機能自閉症/アスペルガー障害(症候群)って? (DSM-Ⅳ) ・ 知的には正常な能力をもっており(=高機能)、言語の遅れがない。 ・ 人との相互的なやりとりや、当たり前の人間関係や社会的関係をもつことの困難さがある ・ 限られた狭い興味や関心・活動をもち続ける ・ 仲間との関係をうまく作れず「いじめ」の対象になりやすい。こだわりの強さや、変化への困惑 (パニック)や協調性のなさ(他者に合わせられないこと)などは「わがまま」という風に誤解 され、強い叱責を受けることも少なくない ・ 周囲から「個性」として関わりのうまくいかない部分やこだわり等を理解されてさえいれば、得 意な領域を伸ばしまじめな子どもとして生活を送ることもできる ・ 思春期以降は、他者と何か「違う」感じになることに本人自身が気づくために、自己像をめぐる 混乱を引き起こしやすく、周囲の理解が必要とされる ・ 就労に向けて、あらためて専門家の援助が必要な場合が多い 自閉スペクトラム症の認知的な特性 ・ 注意や関心の向けられる範囲が極端に狭い ・ 「人」や「状況」に注意が向けられることは少なく、注意は主に「物」に向けられる ・ 感覚モニター能力が低い ・ きわめてパターン化されている ・ 「変化」や「新しいもの」に対応できない、楽しめない ・ デジタル思考で、アナログ思考ができない ・ 「道具的相互作用」はできるが、「体験共有的相互作用」ができない ・ 絶対的(固定的)思考であり、相対的(文脈的)思考ができない 学校でのかかわり方は? 個別対応の時間をたっぷりとる 視覚的サインを用いる こだわり行動に対して、すぐにやめさせようとはせず、少しずつ変えていく 空間の構造化 時間の構造化(スケジューリング) リハーサル 行為を完成させてから、言葉を与える
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Ⅲ.注意欠如・多動症
Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder(AD/HD
)
AD/HDって?特徴: 注意の転導性
<主症状 > ①不注意(物事に注意を向けたり、注意を持続することの困難さ) ②多動性 ③衝動性 具体例:忘れっぽい・些細なミスをする・優先順位がつけにくい・単調な作業を長時間できない・ 考えずに行動する・順番が守れない・出し抜けに物を言う・落ち着きがない・多弁で時 間や物の管理ができない。 学習に障害があることも少なくない、家庭で問題を起こしやすい。障害の合併。 ・適切な薬物療法(コンサータなどの中枢刺激薬)、心理療法のほか、教育的な介入によって AD/HD による問題行動は軽減する。 ・適切な対応がなされないケースでは深刻な問題を引き起こす可能性もある。 ・不適切な親のしつけや教師の指導が原因で AD/HD になることはないが、環境によっては AD/HD に似た症状が出たり、問題行動が悪化したりすることがある。(例:虐待) AD/HD の特徴を理解し、それによるハンディキャップ(日常生活での支障)を軽減する こ とでAD/HD 的症状は、ひとつの個性になる。「一つのことに集中できない」
⇒ 「多くのことに興味を持てる、同時にいくつもの仕事をこなせる」
⇒衝動的とは、実行力と行動力があると言える。
*大切なことは、周囲の理解ある言葉かけによる本人の自信喪失の防止。 同じ診断名がついていても、子どもの個性や、発達の状況や年齢、置かれた環境などによって 目に見える症状は異なる。 神経発達症(発達障害)があっても、その人ごとの人柄/性格がある。 ⇒ 一人一人に合わせて対応は変えていかなくてはならない。 パニックが起きた場合、まず興奮を下げ、落ち着かせる。その後、本人とどうすれば落ち 着くのか話し合う6 学校での対応は? 落ち着きの無さはあって当然、という前提で対応することが必要になる。 (1) 刺激を少なくすること * 教示は、短い言葉で明快にする。前置きや理由を繰り返さない * 1 回の教示では一つの内容のみにする * カードや図絵を工夫して、視覚化する ポストイット * 授業の前に片付け作業をする、教室の隅に必要でない持ち物をまとめるコーナーを作る など、身の回りをシンプルにさせる * 場合により違う対応をせず、一貫したルールを持つ (2) 時間を統制する * その子なりの注意の持続時間をよく観察する。課題に対して、どのくらい集中できるのか を評価しておき、注意持続時間を単位として、異なる課題を与えるなどの工夫をする (3) 多動性の統制 * 課題学習の間に、何らかの形で身体を動かす時間を定期的に設けるなどの工夫 * 運動・遊びなどで活動性を発散する時間を設ける (4) 自尊心の向上・維持 * できること、得意なこと、努力していること、その他どんなことでも積極的にほめる。 * できること、できないことを見分けて対応する (5) 注意・叱責の工夫 * 叱るときは、① 他人・周囲や自分に危害が及ぶ恐れがあるとき(自傷他害の恐れ) ② 回数は少なく、はっきり、短く叱る * その他の場合は、状況を分析し、どのようにすればよいかを教え諭す * 状況について詰問したり、自分で対処策を考えさせるような叱り方はしない。状況につ いての事実は、他の目撃者なども含めて情報収集する。 * 次回以降の対応は、端的に「このやり方は良くなかった、今度はこんなふうにすればよかった」 と、伝えるのがわかりやすい。
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