1 -心の中の神々 中垣芳隆 この連休中、東日本大震災の被災者支援の番組を見ながら書棚整理をしていると、府立 高校に勤務していた時の「化学物質過敏症」の兄弟と妹を扱った MBS テレビのビデオテ ープが出てきた。ロシアの文豪ドストエフスキーの言葉に「人の心の中には神と悪魔が戦 っている」というのがある。今、日本はもとより世界の人々の心の中の神々が被災者に暖 かい支援の輪を広げておられ、今後語り継がれるのだろうが、「化学物質過敏症」の兄弟 と妹 のケースも小生にとって忘れがたい出来事である。 およそ8年前の年明けに、定時制の教頭さんからの報告、「今日、大阪市立中学校から 化学物質過敏症の姉と弟を受験させるたいのだが」と問い合わせとのこと。 中学校からの情報では、チョーク、ワックス、タバコの煙、化粧品等々に反応し、教室を クリーンルームに改装したが効果がないとのこと。 普段はあれこれと思案を巡らすのだが、この時は不思議に「応募資格があれば OK」と 即断、他の高校数校に、時にダイレクトに時にやんわりと断られたことから、保護者の喜 びは尋常ではなかったのも記憶に残る。 試しに二人を教室に座らせてみると、頭痛や鼻血といった症状が現れ、受験場所に困り、 最終的に中庭で試験を受けさせることに。 当時、定時制の倍率は1倍以下であることから合格は既定の事実。しかし、定時制の教 員は、中庭での受験、合格後の学習指導や担任はじめケアーについてどのように反応する かと懸念が頭をよぎる。 さて、定時制の職員会議の当日、ことの経緯を説明し、いざ質問に応えるべく多少居ず まいを正すと、普段は論者の組合の分会長の次の一言のみ「うちは在日の人、不登校のこ どもなど社会的弱者が多く学んでいる。この子らを受け入れるのは定時制の役割。我々も 最善を尽くすので、行政の支援を約束して欲しい。」小生は狐につままれた気持ちのまま に「了解」で終わり。 職員会議終了後、男女二名の教員が相次いで校長室に、「化粧をしないから」「タバコ をやめて整髪料も使わないから」と異口同音に担任を希望すると言う。 かくして4年間の中庭授業がスタート、全・定の生徒達も担任からの「奇異の眼差しを 避けること」の注意を守り、特段の支障なく順調に滑り出したが、初夏にさしかかり数日 休校が続く。母親曰く「学校の前の十三公園の害虫駆除剤が校内に風に流されて、それに 反応して登校できない」とのこと。 早速、市役所と連絡をとり、効果は薄いが二人の反応を抑えられる薬剤に変更してもら ったところ、事務部長さんが「行政はともかく、学校のまわりの自治会も薬剤散布します。 どうなるかわかりませんが、私、頼んできますわ。」と連合自治会長さん宅へ。 連合自治会長さん「そんな子どもを支えるのも我々大人の役割です。学校に協力するよ う各自治会長さんに私から頼みます。安心してください」 一年後に同じ症状をもった長兄が私学から転校、3人の大所帯で3年後に無事中庭で卒 業式、いまそれぞれの人生を歩んでいる。 教頭さん、定時制の教員達、事務部長さん、連合自治会長さん、府教委、大阪市役所の 担当者など多くの人の善意でと言えば簡単。しかし、教頭さんの言葉が心に残る「何か人 智を越えたものの意思の命ずるままに、それぞれが役回りを演じたような気がします。」
DSpace at My University: 英語教育リレー随想 16号(2011.5) 心の中の神々
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