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新聞記事等から見た経営及び企業法務

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Academic year: 2021

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2007 年 10 月 1 日 (月)

◆ 内部統制と妻子相続問題その1 ◆

役員の法的責任の相続問題は「豊潤なる企業」でも触れた。 相続が役員の法的問題の核心だと以前から思っていた。 役員の妻子の固有財産が奪われる可能性があるからだ。 この話になると、役員は身を乗り出して聴いてくれる。 相当前のことだが、財界のお歴々の前で講義をした。 「株主代表訴訟と役員の責任」の講義だった。 出席者は60人ほどだった。 当初、昼食会は、全員が出席。 昼食後の私の講義では、半分の出席予定だった。 ところが、レジメの最初に、相続問題を載せていた。 その結果、どうなったか? 一人の退席もなく、60人全員が私の講義を聴いてくれた。 熱心な質問もあり、予定時間を超過する講義となった。 信じられない光景であったが、これは実話である。 とくに、相続問題でもっと困るケースがある。 役員の相続が行われた後に訴訟提起がある場合である。

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この場合には、妻子の固有財産の危機なのである。 妻がその父から承継した資産を失う可能性がある。 子供が自力で築いた財産を失う可能性がある。 これが妻子の固有財産の危機の意味である。 従来の考え方だと、妻子の固有財産を守ることはできない。 それは不合理な結論だとして、論文を書いたことがある。 ある大手企業の雑誌の1997年3月号である。 「株主代表訴訟と役員の家族の問題」という題である。 この論文は、ほとんど、実務家の関心を呼ばなかった。 代表訴訟では、相続問題の危機を実感しなかったからだ。 しかし、会社による役員の責任追及では、そうはいかない。 役員の妻子の固有財産の問題に直面するからだ。 10月16日に、経団連のトップセミナーで講義する。 役員の法的責任の相続問題は深刻なことである。 そこで、トップセミナーでこの話を中心に講義をする。 代表訴訟の時と会社による責任追及との差異をである。 この差異は、理論上のものと実務上のものとがある。

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私の論文では、役員の妻子を保護すべきだとした。 要は、相続放棄、限定承認を認めるべきだ、との結論だ。 妻子の相続を2つの場合に分けること。 株主代表訴訟の場合と会社による追及の場合との差異。 次回は、これらについて述べることにする。

2007 年 10 月 9 日 (火)

◆ 内部統制と妻子の相続問題その2 ◆

「身ぐるみはがされる決着」(最近の朝日新聞) これは、足利銀行事件での訴訟の和解のことである。 100万円超の預金・有価証券・自宅からの賠償を指す。 ここに、会社による責任追及の厳しさがでている。 この厳しさは相続を介して、役員の妻子にも及ぶ。 この点の指摘を前回までにした。 最近、会社による責任追及で厳しくない和解があった。 三菱自動車事件における訴訟上の和解である。 リコール隠しに関する旧経営陣に対する訴訟である。

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6人の旧経営陣に対し、計1億円の和解金であったようだ。 (9月21日付日本経済新聞) 会社の請求額は約11億円で提訴したという。 1億円で和解できれば、妻子による相続問題は深刻でない。 このような金額の和解であれば、自宅は残ることが多い。 預金や有価証券も残る可能性が十分あるからである。 しかも、元社長に対する請求は、死亡で取り下げられた。 それなら、役員に相続があっても、妻子への影響はない。 これが法律的に問題がないか、は検証する必要がある。 法的責任のある役員への請求は執行側・監査役の義務だ。 執行側が責任追及する場合に、経営判断の問題はある。 つまり、責任追及する場合に、裁量の問題は生じる。 裁量で、損害の全額を賠償させないことも考えられる。 旧役員陣から、10億円の損害回復が可能でも、 1億円の賠償にする方が会社利益になることもありえる。 しかし、10億円の損害回復を上回る利益がなければ、 10億円の損害回復をすることが本来の職務だろう。 本来、回復できる損害を回復する義務があるからだ。

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旧役員の賠償額を温情で減額するのは危険である。 温情の減額は、「会社の利益のため」でないからだ。 旧役員のためであれば、特別背任罪の疑いもかかる。 その意味では、法的判断は慎重に行う必要がある。 まして、監査役が提訴する場合には、裁量は考えにくい。 監査役も会社利益の見地から、裁量の余地はあろう。 しかし、裁量をみとめられても、最少のものでしかない。 損害回復できるのにしないのは、職務違反が原則だろう。 「身ぐるみはがすのは可哀そう」 旧役員に法的責任があれば、これは法理論では通用しない。 同様に、役員に相続があったら、取り下げるのは疑問だ。 私としても、情として忍びないという気持ちは分かる。 しかし、法理論はどうかを慎重に検討すべきである。 法的責任自体明確ではなく、道義的責任を取る。 そういう和解であれば、金額の少ないのは理解できる。 また、相続が開始した役員への取り下げも理解できる。 三菱重工の和解と取り下げを原則と考えるべきではない。

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同社事件における特殊事情が反映した事例と捉えるべきだ。 法律の解釈や事実認定に情が入ることはある。 解釈と事実認定で法的責任がある場合はそうはいかない。 法律が適用される場合には、厳しさがつきまとうものである。 内部統制の法律規律では、法的責任追及は峻厳になる。 特に、経営陣の法的責任に情の入る余地は少なくなる。 不祥事の際の従来の経営陣への温情が不祥事の根っこ。 そういう背景が、内部統制の法律規律にはあるからだ。 「身ぐるみをはがされる決着」が原則である。 その意味では、今後の役員の責任追及のモデルは、 足利銀行事件の和解にある。 足利銀行事件の和解を国有化の下での特殊な事案。 そういう理解は危機管理を忘れた発想である。 同時に、企業が企業市民となる発想と異なるものだ。 このことを前提に、次回、妻子の相続を検討する。

2007 年 10 月 14 日 (日)

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◆ 内部統制と妻子の相続問題 その3 ◆

まず、役員の損害賠償責任は相続財産である。 賠償責任という消極財産も役員の妻子に承継される。 このことをまず、確認しておく。 役員の賠償責任の妻子の承継に関して、場合分けが必要。 役員責任の追及後の相続の場合が1つ目のケース。 役員の相続開始後に責任追及の場合が2つ目のケース。 この2つのケースでは、妻子への影響がまったく異なる。 1つ目のケースから説明する。 役員責任の追及の途中で、役員に相続開始の場合だ。 この場合には、相続人である妻子に逃げ道がある。 少なくとも、妻子の固有財産は救われる方法はある。 このケースでは、妻子には、選択の余地がある。 相続が開始した役員の相続財産の承継をするか否かについて。 役員の相続財産が多く、役員の賠償責任が怖くない場合。 この場合には、役員の相続財産を全面的に承継すればよい。 それによって、不利益を受けることはないからである。

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すでに、責任追及されている案件だけで終わればの話だ。 相続開始後に、別の責任追及をされる場合はないか? この場合には、2つ目のケースの問題もでてくるわけだ。 通常、請求されている損害賠償額は相続財産よりも大きい。 訴訟で役員側が勝訴する場合なら金額は考えないでいい。 しかし、訴訟は水物であり、100%勝訴という保証はない。 したがって、敗訴する場合に備えるのが安全である。 妻子に固有の財産がある以上、選択肢は決まる。 選択肢として、限定承認と相続放棄がある。 相続放棄も一つの方法であるが、デメリットがある。 訴訟で役員側が勝訴した時に相続財産を得られない点だ。 相続放棄をすると、法的に、相続人でなくなるからだ。 その結果、限定承認の選択肢しかなくなる。 限定承認は、妻子の固有の財産を守る制度である。 役員側が勝訴したら、妻子は相続財産を得られる。 相続財産が役員の賠償額を上回った部分も得られる。 片倉工業事件では、被告役員の妻子が限定承認をした。 一審、控訴審ともに、被告役員側が敗訴した。

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ところが、最高裁で訴えの取り下げがあった。 そのため、役員の妻子は、相続財産をえられた。 ただ、限定承認する場合には、税金問題は注意を要する。 限定承認の場合には、相続税ではなく、譲渡所得税。 限定承認の場合には、弁護士に相談だけでは足りない。 弁護士の他に、税務専門家に相談が必要だ。 つぎに、2つ目のケースである。 役員責任の追及のない状態で、相続開始のケースである。 通常、このケースでは、妻子が相続財産を承継する。 その後に、役員責任の追及があるのがこのケースである。 このケースでは、限定承認や相続放棄ができない。 民法に、限定承認、相続放棄の期間制限があるからだ。 民法915条1項がそれである。 自分のために相続開始があったことを知ってから3ヶ月。 3ヶ月以内に限定承認、相続放棄をしなければならない。 自分のために相続開始があったことを知った時はいつか。 従来の最高裁判決だと2つの要件となっている。

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1つは、被相続人(役員)が死亡したことである。 もう1つは、それによって自分が相続人となったことである。 要は、上記2つのことを知った時になる。 通常の役員の相続の場合、妻子は2つのことは知っている。 役員死亡後、3ヶ月超の期間が過ぎたら、アウトである。 つまり、限定承認も、相続放棄もできない。 そうだとすると、役員を相続した妻子に悲劇が生じる。 損害賠償額が相続財産を超えるばあいである。 その超える部分について、妻子の固有財産からの賠償。 これが理論的帰結だからである。 役員の責任と関係ない妻子が可哀そうだ。 そういう声が聞こえそうだ。 類似の事態は、別の巨額の賠償責任の相続でも起こることだ。 それと対比では、役員の賠償責任だけ可哀そうとはいえない。 そういう反論が、民法学者からでてくるだろう。 それでも、何とかならないか。 「知った時」の起算点を、役員責任の追及時にできないか。

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そうできれば、役員責任追及を知ってから3ヶ月以内。 この期間内であれば、限定承認、相続放棄ができる。 また、915条1項但し書きで、3ヶ月も伸ばせる。 そうなれば、役員責任追及について調査することもできる。 相続開始後の巨額の役員責任の追及は予測外である。 そのため、知った時の起算点を損害賠償請求時とした。 そう私は解釈して論文を書いた。 この点については、長文になるので、次回とする。

2007 年 10 月 22 日 (月)

◆ 内部統制と妻子の相続問題その4 ◆

役員の相続後の責任追及の場合を前回に続いて書く。 この場合に、原則として、限定承認・相続放棄が出来ない。 ただ、昭和59年の最高裁判例は、例外を認めている。 起算時期を後ろに下げて救済する場合を認めている。 前記最高裁判例は、例外の要件を3つあげている。 3ヶ月以内に、限定承認等をしなかったことに関する。 ①相続財産がまったく存在しないと信じたこと

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②相続財産の調査を期待することが著しく困難な事情 ③①について、そう信じることに相当な理由があること この例外要件は、厳しすぎるように思われる。 役員の相続の場合、相続財産がゼロはありえないからだ。 判例は、相続関係の早期確定を図ることを重視している。 相続関係の上に、多くの法律関係が構築されため、 法律関係の安定性を図る必要があるからだ。 その基本的考えは理解できる。 しかし、相続時に予期しえない巨額な責任の承継を 役員の妻子に強制することは酷に過ぎる。 法的には、相続人となったことを知っているから、 相続財産の調査をすることはできる。 でも、実質的には、役員の責任の追及があるまでは、 そのことを知らないから、調査の機会がないに等しい。 私は、最高裁の例外の趣旨を調査機会ない点に置き 相続財産のないこと、それを信じた相当の理由を 調査機会を期待できない現れと捉え直した。

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そこで、役員の相続後の場合は、責任追及では、 実際上、調査を期待することが困難であるとして、 期間の起算点を後ろにずらす考えをとった。 学説の中にも、起算点を「相続財産の全貌を知ったとき」 と解釈する立場もある。 従来の高裁判例に、起算点を柔軟に考えるのがある。 ところが、最高裁の平成13年判決が出てきた。 この判決は、厳しい基準をもつ昭和59年判決が 確認された結果となった。 そのため、その後の下級審判決は厳しい立場になった。 今回は、判例の傾向を指摘するにとどめる。 次回、打開策がないか、を検討したい。

2007 年 10 月 30 日 (火)

◆ 内部統制と妻子の相続問題その5 ◆

前回、平成13年の最高裁の決定を述べた。 昭和59年最高裁の厳しい例外基準の肯定である。

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その後、下級審は、この厳しい基準を適用している。 最新の最高裁決定に従うほかないからである。 では、ほかに、妻子の救済手段はないのか。 1つは、家庭裁判所による救済が考えられる。 限定承認等をするには、家庭裁判所に申述が必要だ。 家庭裁判所は熟慮期間についても審査する。 その審査が緩やかであれば、妻子は救済される。 従来、緩やかな基準で限定承認等を認めた例がある。 しかし、家庭裁判所は最高裁判例を無視できない。 緩やかな審査基準での運用は平成13年以前のもの。 最終的には、家裁は厳しい審査基準に立つ他ない。 その結果、妻子の救済は期待できないことになる。 役員の相続人である妻子の固有財産の危機である。 元に戻って、提訴権限がある監査役に裁量権はないか。 様々な要素を考慮して提訴しないことはできるか、である。 この点については、否定説が有力である。 権限が、取締役の損賠賠償責任の追及に限定され、

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裁量を予定しているとは言いがたいからだ。 調査をした結果、責任追及の根拠が十分でない。 こういう場合には、監査役は提訴しないことができる。 勝訴の見込みのないのに、提訴義務は生じないからだ。 その反面、証拠が十分であれば、監査役は提訴義務がある。 しかも、会社の最大利益ため、損害回復を図る義務がある。 その趣旨から、妻子が可哀そうだという情緒は許されない。 法律は、この点、峻厳である。 妻子が限定承認等できず、固有財産がある場合は悲劇だ。 会社の損害回復のため、固有財産から賠償することになる。 いろいろ模索したが、法理論上、妻子を救済できない。 それでも、実務は、何とかして妻子救済に向かうだろう。 それは尊い努力であるが、法律的にリスクがある。 そのリスクのため、二次的責任問題も考えられる。 そうなると、次なる悲劇を生じさせかねない。 それらの悲劇を防ぐには、内部統制の充実しかない。 取締役の責任の予防こそ、悲劇防止の中核なのである。

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