DOI: http://doi.org/10.14947/psychono.36.38
行動実験による態度測定
―社会心理学における態度研究への基礎心理学の貢献―
森 久 美 子
関西学院大学Implicit attitudes:
How has the cognitive approach influenced studies on attitudes in social psychology?
Kumiko Mori
Kwansei Gakuin UniversityThere has always been a close relationship between social psychology and cognitive psychology. In this article, I review research on implicit attitudes in social psychology, focusing on the measures inspired by theories and meth-odologies from cognitive psychology. I also discuss the theoretical influence of cognitive approach on the studies about attitudes and attitude change. Finally, I discuss the associative-propositional evaluation (APE) model, an inte-grative perspective on attitude change.
Keywords: attitudes, implicit measures, attitude change, associative-propositional evaluation model
態度研究の栄枯盛衰
態度は,社会心理学研究における古典的概念である。 しかしながらこの概念が社会心理学の中で常にホットな
トピックであり続けてきたわけではない。Figure 1は,
Journal of Personality and Social Psychology誌に掲載された 論文のうち,“attitudes”または“attitude”をキーワード に含む論文の比率の推移を示したものである。これを見 ると,態度研究の割合は1970年代をピークにいったん 減少しているが,1990年代以降になって再び増加に転じ ていることがわかる。研究対象となる概念の多様化に伴 いキーワードの種類が拡大しているであろうことを考慮 すれば,2000年代以降,社会心理学における「態度」と いう概念は,1970年代当時よりもその重要度を増してい るといえるかもしれない。 この態度研究の再興には,伝統的な自己報告による態 度測定だけでなく,基礎的な心理学の実験手法を援用し た態度測定が盛んに行われるようになったことが大きく 寄与している。社会心理学者の主要な関心は,偏見や自 己呈示など「他者の眼差しによって影響を受けやすい反 応」にあることが多く,社会的態度もその例外ではな い。態度概念に本人が言語化したり意識したりできない 要素が含まれることは初期から想定されていたが(たと えばHovland, Janis, & Kelley, 1953),直接的手法ではそう した側面に迫ることは困難であった。間接的手法による 態度測定は,回答者が直接報告したいと思わなかった り,気づいていなかったりする可能性のある態度を測定
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Figure 1. The proportion of articles published in JPSP that include “attitudes” or “attitude” in their keyword list.
する方法として,1990年代以降注目されるようになっ た。特に,潜在連合テスト(Implicit Association Test: IAT, Greenwald, McGhee, & Schwartz, 1998)の開発と普及は, 直接的方法では測定できずにいた態度の非意識的な側面 に関心を集め,態度研究のその後を大きく変えることに なった。 潜在的態度に関する一連の研究は,社会心理学が,基 礎的な心理学研究の影響を理論的にも方法的にも強く受 けた結果として生まれたものである。本稿では,潜在的 態度の概念によって社会心理学における態度研究がどの ように変わってきたのかを概観することで,社会心理学 に基礎的な心理学が与えた影響について論じていきた い。 実験的手法による間接的態度測定 実験的手法による間接的態度測定法は,概念は互いの 関連度によって体制化されており,ある概念が活性化さ れることによってそれと連合する他の概念が処理されや すくなる,という認知心理学のモデルを前提としている。 プライミング由来のものとIAT由来のものに大別できる が,いずれも認知心理学の実験パラダイムが援用されて おり,反応時間を主たる指標とするものが多い。ここで はプライミング由来のものとして評価的プライミング (Fazio, Jackson, Dunton, & Williams, 1995) と感情誤帰属手 続き(Affect Misattribution Procedure: AMP, Payne, Cheng, Govorun, & Stewart, 2005), IAT由来のものとしてIATとそ のバリエーションについて簡単に述べる。 評価的プライミングによる態度測定では,プライムと して態度対象に関連した刺激(例: アフリカ系アメリカ 人の顔写真)を提示した後,両極的感情価を持つター ゲット(例: ポジティブ形容詞やネガティブ形容詞)を 提示して,ターゲットの感情価をできるだけ速く判断す るよう求める。この例の場合,対象となる人種に対して ポジティブあるいはネガティブな態度を持っている場合, 態度と一致する感情価が活性化し,後続するターゲット の感情価判断を促進すると考えられる。したがって態度 対象に対する態度の感情価と後続刺激の感情価が一致し ている場合に不一致な場合よりも判断に要する時間が速 くなると想定される。 プライミングによる手法は後述するIATよりも指標の 解釈がシンプルだが,反応時間に測定誤差が多く含まれ ることが問題として挙げられる。プライミングの手法を 用いつつも反応時間やエラーを指標としないのがAMP であり,プライムとして態度対象に関連した刺激(例: アフリカ系アメリカ人の顔写真)を提示したのちに, ニュートラルなターゲット(例: 無意味図形や馴染みの ない言語の文字など)に対する評価を求める。プライム によって活性化された感情価がターゲットに対する反応 にも転移するため,プライムとは無関係にターゲットを 評価するよう求めても,プライムに対する態度の感情価 がターゲットの評価に反映されるとしている。 これらのプライミングを用いた手法は,そもそもは先 行刺激が後続刺激の処理に影響するという一般的現象を 研究する手法として認知心理学の分野で使われていた方 法が,社会心理学において先行刺激に対する潜在的態度 の測定という目的に転用されるようになったものである。 これに対して,当初から態度測定,特に偏見のような表 出が抑制されやすい態度の測定を念頭に置いて開発され たのが反応競合を利用したIATである。IATでは,対を なすカテゴリ概念と属性を用い,各概念や属性を示す刺 激の分類を行うことで,カテゴリと属性の間の連合強度 を測定する。標準的な手続きでは,パソコン画面にカテ ゴリ概念(例: アフリカ系アメリカ人/ヨーロッパ系ア メリカ人)と属性(例: よい/悪い)を左右に対になる よう提示し,中央に提示する刺激が左右どちらに該当す るかを分類するよう求める。分類対象となるのはカテゴ リ関連刺激(例: アフリカ系アメリカ人またはヨーロッ パ系アメリカ人の顔写真)および属性刺激(例: ポジ ティブ語またはネガティブ語)である。たとえばアフリ カ系アメリカ人に対して偏見的態度を有している場合 は,左に「ヨーロッパ系アメリカ人」と「よい」,右に 「アフリカ系アメリカ人」と「悪い」のように,左右に 配置されるカテゴリと属性の組み合わせが偏見と一致し ている場合に一致していない場合よりも反応が速くな る。この一致ブロックと不一致ブロックの反応速度の変 化がカテゴリと属性の連合の強さを反映すると考えられ ている。 IATはプライミングを用いた手法に比べると,信頼性 が高く効果量も大きい (Payne & Gawronski, 2010)が,い くつか問題点もある。標準的なIATの問題点のひとつは, 扱うカテゴリ概念が対をなすものに限定されるという制 約があることである。これに対してはGNAT (Go/No-go Association Task, Nosek & Banaji, 2001) や SC-IAT (Single Category IAT, Karpinski & Steinman, 2006) など,対概念が 存在しない態度対象と属性の連合を測定する手法が開発 されている。もうひとつの問題は,回答者は課題に迅速 に反応するために概念と属性を結び付けるストラテジー を用いることがあるが,このストラテジーが一致ブロッ クと不一致ブロックで異なる可能性があることである。 このことは,ブロック間の反応時間の違いがストラテ
ジーの生成や切替のしやすさなど態度以外の要因(認知 能力等) に影響されることを意味する。これに対しては, 一致に対する反応を測定する試行と不一致に対する反応 を測定する試行を同一ブロック内に混在させる Single-Block IAT (または IAT-recording free; Rothermund, Teige-Mocigemba, Gast, & Wentura, 2009; Teige-Teige-Mocigemba, Klauer, & Rothermund, 2008) や Moving-IAT (Fleischhauer, 2017) などが開発されている。 潜在性をめぐる議論 本稿ではここまで,潜在的態度について明示的に定義 しないまま,上述のような間接的測定法によって測定さ れる態度を潜在的態度として論を進めてきた。「潜在的 (⇔顕在的)」 という表現は多義的であり,「間接的 (⇔直 接的)」「非意識的(⇔意識的)」「自動的(非意図的,非 意識的,効率的,非統制的の各要素からなる概念 (Bargh, 1994)⇔意図的,意識的,熟慮的,統制的)」などの意 味を伴って使用されている。 「潜在的」「顕在的」という区別は,態度を測定する方 法や指標に対しても,それらが測定している概念に対し ても使われる。「潜在的測定」「潜在指標」のように,測 定に関連して使用される場合には,その「潜在性」は直 接的な態度報告を求めないという「間接性」とほぼ同じ 意味で用いられていることが多い(Petty, Fazio, & Briñol, 2009)。ただ,間接的であるというだけでは測定する反 応の自動性は含意されないので,熟考を許容する間接的 測定とは異なるものとして潜在指標を位置づける場合に
は,反応の自動性をある程度強調することになる。De
Houwer & Moors (2010)は,潜在指標を「心理的属性が 原因となって,自動的な方法で生成された測定手続きの 結果」と定義し,反応生成過程が何らかの意味で自動的 であることが潜在指標の要件であるとしている。しかし 一方で,自動性という概念自体も多義的なものであり, 反応生成過程がどのような意味で自動的なのかは指標に よって異なる。この点の議論なしに指標の自動性や潜在 性を一律に論じることにはあまり意味がないため,彼ら は,単に指標の区別に用いる基準としては外的基準であ る「間接的」「直接的」という区別を使い,測定された 態度概念について論じる際に「潜在的」「顕在的」とい う区別を使うことを提案している。 測定された態度の 「潜在性」 については,自動性だけで なく,自分の態度やその原因にそもそも本人が気づいて いないという非意識性を強調する立場がある。Greenwald & Banaji (1995) による「社会的対象への好ましい/好ま しくない感情・思考・行動を媒介する,内観では確認で きない(または不正確にしか確認できない)過去経験の 痕跡」という潜在的態度の定義はよく引用され,「潜在 的」「顕在的」という区別が「非意識的」「意識的」の区 別を含意するという理解を広めた。 しかし潜在的態度の非意識性を強調することには批判 も多い。測定手法が直接的な自己報告を伴わないという だけでは,回答者が自身の態度に気づいていないことま
では直ちに担保できないためである。Hahn, Judd, Hirsh,
& Blair (2014) は,人種偏見を測定するIATの結果を多様 な人種グループの参加者に予測させ,参加者による自身 のIAT測定結果の予測が実際の結果をかなりよく説明す ることを示した。このように,間接的な測定手続きを用 いることは,それだけでは態度の非意識性を意味しない。 何が気づかれていないのかという非意識性の中身を議論 しないままに潜在的態度の非意識性を強調することは, 内観に頼らずに測定された概念はすべて内観によってア クセスできないという誤謬を生む可能性がある (Fazio & Olson, 2003; Payne & Gawronski, 2010)。
自動性についても非意識性についても,個々の反応生 成過程のどの部分にそれらを想定するのかは多様であり うる。また間接的測定手法を用いているというだけでこ れらの性質が直ちに満たされるものでもない。したがっ て,その反応生成過程がどういう意味で自動的であり非 意識的であるのかを研究者が議論の過程で個々に明示す ることが必要だと考えられる。 潜在的態度研究の進展に伴う態度概念の変化: 「選好の束」としての態度 以上のように,社会心理学における潜在的態度の概念 は,主として反応時間等を指標とした間接的態度測定法 の導入によって注目されてきた。しかしそれは単に測定 法の変革にとどまらず,態度の概念それ自体のあり方に も少しずつ影響を与えている。具体的には,間接的態度 測定法で前提とされる概念間の連合についてのネット ワークモデルは,複数の態度要素の一貫性を重視してき た伝統的な態度概念を,一種の選好に近い評価性を強調 したものへと変えつつある。 態度の古典的定義としては,Allport (1935)による 「経験を通して体制化された心的神経生理的な準備状態 であって,個人がかかわりを持つあらゆる対象や状況に 対しその個人の反応を方向づけ,力学的影響を及ぼすも のである」というものがある。この定義における態度の 中心概念は反応の準備状態という点であり,態度を,学 習によって後天的に獲得され,生理的基礎を持ち,持続 的で,評価的特性を持つものとしてとらえている。
反応の準備状態という態度の性質は,刺激と反応を媒 介する変数として態度を位置づけることにつながった。 Green (1954) は,態度を刺激セットに対する多様な反応 間の (ある程度持続的な) 一貫性を反映するものとしてい る。ここでの多様な反応には認知的・感情的反応も含ま れるが,それらの多様な反応を共通して説明する潜在変 数として態度が位置づけられている。同じく態度を刺激 と反応の潜在的媒介変数とみなしたRosenberg & Hovland (1960) は,態度を「認知」「感情」「行動」の3つの成分 からなるとしたが,ここでもやはり3つの成分間には一 貫性が仮定され,3つの成分の背後にある変数として態 度が想定されている。 これに対して1990年代以降の態度の定義を見てみると, 「特定の対象を好き嫌いの程度で評価することで表され る心的傾向」(Eagly & Chaiken, 1993),「認知的感情的反 応を統合し集約した評価的判断」(Crano & Prislin, 2006),
「広範な (良し悪しについての) 評価的過程」 (Maio, Olson,
& Cheung, 2013) のように,何らかの感情価を反映した評 価的概念としての態度の性質が強調されていることがわ かる。態度が好悪や価値判断を伴う情動的特性を持つこ とは初期から指摘されており(たとえばSherif & Cantril, 1945),自己報告による態度測定においてしばしばSD法 が用いられてきたことも態度が両極的評価性と親和性の 高い概念であることを示している。しかし近年の傾向は, 態度の持つ多様な性質の中で評価性がさらに重視される ようになる一方で,異なる態度反応や態度成分間の一貫 性の重要度が弱まりつつあることを示している。Wiley 社 の Handbook of psychology の 2013 年 版(Maio, Olson, & Cheung, 2013)では,態度の特徴としてそれまであった 「評価的一貫性 (evaluative consistency,認知・感情・行動 などの個々の態度成分が全般的な態度と一貫している度 合いを指す)」が項目としてはなくなり,新規項目であ
る「感情価 (valence)」がトップに記載されている。
態度はもはやRosenberg & Hovland (1960)が想定した ような「認知」「感情」「行動」という異なる成分を包括 するものではなくなっている。行動の予測因という要素 は外せないものの,認知と感情の両方の要素を含む評価 的概念である「選好の束」 (Banaji & Heiphetz, 2010)とし てとらえられるようになっているのである。この概念的 な変化が,態度対象と感情価の連合として態度をとらえ るというネットワークモデルに由来していることは言う までもないであろう。 潜在的態度研究の進展に伴う態度変容研究の変化: 悲観主義と二分法を超えて 上に述べたような態度概念の変化は,社会心理学の態 度研究の関心のあり方にも影響を与えた。自動的に活性 化する態度という概念は,説得と態度変容の可能性に一 時期ある種の悲観主義をもたらした。しかしその後の研 究の蓄積を経て新たな態度変容モデルも生まれ,態度変 容過程の説明も,単純な二過程モデルから両者の動的な 影響過程を視野に入れたものへと移りつつある。本項で はこうした変化について述べる。 態度研究の中で,説得と態度変容は伝統的には重要な 位置を占め,多くの研究が生み出されてきた。Briñol, Petty, & McCaslin (2009) は,態度変容研究をa) 熟慮的過 程による顕在指標の変化,b)自動的過程による顕在指 標の変化,c)自動的過程による潜在指標の変化,d)熟 慮的過程による潜在指標の変化,に分けて論じている。 彼らの整理によれば,ごく初期の態度変容研究は基本的
にはa)の熟慮的過程による顕在指標の変化だけを扱っ
ていた。その後,精緻化見込みモデル (Petty & Cacioppo, 1981)やヒューリスティック・システマティック・モデ ル(Chaiken, Liberman, & Eagly, 1989)のように,説得過 程に「中心的/周辺的」,「システマティック/ヒューリ スティック」といった二重過程を想定し,a)とb),す なわち熟慮的および自動的過程による顕在指標の変化を 統合したモデルが現れた。しかし,精緻化見込みモデル では,自動的過程を経た態度変容は,持続性がなく変わ りやすく行動の予測力が低いとみなされるなど,自動的 過程を介した態度変容の効果には悲観的であった。 さらに間接的態度測定法の開発と普及が進む中で,潜 在指標による態度測定が可能になり,c) の自動的過程に よる潜在指標の変化をも考慮した,直接指標で測定され る態度と間接指標で測定される態度の関係を含んだモデ ルが生まれた。しかしこの時点では,潜在的態度の概念 は,外からの介入による態度変容の可能性に対してやは り悲観的な見通しを与えるものだった。たとえば,ステ レオタイプ研究の分野に自動性の概念を導入したDevine (1989)は,ステレオタイプ的知識の活性化とその意識 的適用を区別した分離モデルを提唱している。このモデ ルでは,社会生活の中で獲得形成されたステレオタイプ 的知識の活性化自体は自動的で統制不可能であり,活性 化を自覚したうえで行動への表出を意識的に制御するこ とで初めてステレオタイプ的行動が抑制されるとされて いた。すなわち,潜在的態度は,表出を抑制することは できても,それ自体を介入により変化させることは困難
なものとして考えられていた。
この自動的活性化と意識的制御という考え方は,MODE モデル(Fazio, 1990)や二重態度モデル (Wilson, Lindsey, & Schooler, 2000)のように,潜在的態度と顕在的態度を 統合したその後の態度モデルにも受け継がれた。これら のモデルでは,長期にわたる学習によって形成された連 合は,意識的努力によってようやく少しずつ変化する程 度の頑健なものだと位置づけられ,外からの介入や本人 の努力により顕在的態度に変化が生じるような場合で も,潜在的態度は変化しにくいとされてきた。つまりこ れらの知見は,説得や教育による働きかけが,統制でき る範囲での態度変容を一時的にもたらしたとしても,統 制不可能な対象と評価の連合を変えることは難しいとい うことを示し続けてきたといえる。 しかしその後,間接指標を用いた膨大な研究結果の蓄 積により,間接指標で測定される態度もまた文脈の影響 を受けて変化する場合があることが明らかにされてきた (Barden, Maddux, Petty, & Brewer, 2004; Blair, Ma, & Lenton,
2001; Dasgupta & Greenwald, 2001; Wittenbrink, Judd, & Park, 2001)。概念と評価の連合は,従来考えられてきたような 安定的で要約的な表象というよりは,文脈に依存した個 別の連合の集積であるというとらえ方も出てきた (Smith & Conrey, 2007)。ただ,これらの研究で示されたことは,文 脈に関連した熟慮を要しない処理が間接指標で測定され る態度を変化させることであり,その意味ではBriñol et al. (2009) の分類でのc)の自動的過程による潜在指標の 変化を扱ったものであった。 Briñol et al. (2009) は,さらに彼らの整理した分類のd), すなわち熟慮的過程による潜在指標の変化に相当するデー タとして,説得メッセージについて熟慮的に処理するこ とが,メッセージに含まれる概念間の連合を強めること を示した。また,このような連合が活性化して拡散する ことを示すものとして,メッセージに直接含まれない関 連概念との連合も強まることを明らかにしている。これ らの知見を通じて,熟慮的・自動的過程から顕在的・潜 在的指標にそれぞれ影響が生じることが明らかになっ た。しかし,その変化過程についての統合的説明は提供 されていなかった。彼らは,今後の展望として,異なる レベルの処理が相互に影響しあって両方の態度に影響を 及ぼすという相互影響関係を検討する必要があると提言 している。 以上のように,潜在的態度は,当初その統制不可能性 に注目が集まったことによって変容しにくいものと位置 づけられたものの,現在では熟慮的・統制的過程と効率 的・非統制的過程が相互に影響し合って潜在的・顕在的 態度変容に関わるという動的過程に関心が向かっている。 連合命題評価モデル(APEモデル) このような中で,顕在的態度と潜在的態度の相互影 響過程をモデル化した態度変容モデルが連合命題評価 モデル(Associative-Propositional Evaluation (APE) Model: Gawronski & Bodenhausen, 2006, 2011, 2014: Gawrouski, Brannon, & Bodenhausen, 2017) である。このモデルは, Briñol et al. (2009) の分類でいえば,c) とd) に相当する 知見(自動的/熟慮的過程による潜在指標の変化)を含 めて統合的に説明することを目指した新しいモデルであ る。APEモデルも初期には処理過程とそれが影響を与え る態度のレベルにある程度の対応関係を想定していたが (たとえばGawronski & Bodenhausen, 2006),現在では潜 在的・顕在的態度の変容過程と処理のレベルに固定され た対応関係を想定しない柔軟なものとなっている (詳し くはGawronski & Bodenhausen, 2014 を参照)。ここでは このモデルの概要について述べる。 APEモデルでは,同時に経験した概念間に連合が形成 される連合過程と,演繹的推論に基づいて命題の真偽を 判断する命題過程という二つの過程を想定している。連 合過程は評価的表象の活性化に関わり,命題過程は活性 化された表象の検証を行う。命題過程では,命題で概念 同士の関係が明示的に規定され,その真偽が判断され る。対して連合過程では,連合は概念の随伴性を意味す るだけであり,両者がどんな関係にあるのか,それらの 概念が連合することが正しいのか,などは問題にされな い。 このような二つの過程のうち,連合過程での現象が自 発的感情反応としての潜在的態度に反映され,命題過程 での現象が言語的判断としての顕在的態度に反映され る。潜在的な態度変容は,文脈によって活性化パターン が変化することや,新たな経験によって連合のあり方が 変化することによって生じる。顕在的な態度変容は,判 断に関して新たな情報を得ることで新たな命題が加わっ たり,新たな命題との矛盾によって既存の命題が否定さ れたりすることで生じる。 APEモデルの一つの特徴は,連合過程での現象と命題 過程での現象の相互影響過程を考慮していることであ る。まず連合過程から命題過程への影響過程について述 べると,連合過程においてある対象(例: アフリカ系ア メリカ人)と感情価(例: 悪い)の連合が活性化しても, それは顕在的態度に無条件に反映されるわけではない。 活性化された連合から命題が生成され(例:「アフリカ 系アメリカ人は悪い」),それが既存の他の命題(例:「マ
イノリティを否定的に評価するのはよくない」「アフリ カ系アメリカ人はマイノリティである」)と矛盾しない かどうかが吟味される。矛盾しない場合はそのまま肯定 されるが,この例のように命題間に矛盾がある場合,新 たな命題を偽として否定するか,既存の命題を否定する (例:「アフリカ系アメリカ人はもはやマイノリティでは ない」)ことで矛盾を解消する。新たな命題が否定され れば,連合過程での連合の活性化は顕在的態度に影響を 与えず,潜在的態度と顕在的態度の関連は弱くなる。既 存の命題が否定されれば,連合過程での連合の活性化が 顕在的態度を変容させたことになり,潜在的態度と顕在 的態度の関連は強くなる。 次に命題過程から連合過程への影響について述べると, 命題過程で特定の命題について判断することは,その命 題を肯定するか否定するかにかかわらず,連合過程にお いてその命題に含まれる概念を活性化させ,両者の連合 を強める。たとえば「アフリカ系アメリカ人は悪い」と いう命題について判断を行うと,それを妥当と判断する かどうかにかかわらず「アフリカ系アメリカ人」と「悪 い」の概念が同時に活性化し,両者に連合が生じる。も し命題過程でこの命題を妥当とした場合は顕在的態度と 潜在的態度が一致し,両者の関連が強まる。しかし妥当 でないと判断して否定した場合は,連合過程では両者の 連合が活性化した状態にあるが命題過程ではその連合が 否定されたことになり,顕在的態度と潜在的態度は一致 せず,関連が弱まる。潜在的ステレオタイプ変容につい ては,ステレオタイプを意識的に否定する訓練をしても 潜在的ステレオタイプは弱まらない(ステレオタイプ的 命題に含まれる概念間の連合はむしろ強められる)のに 対し,反ステレオタイプを意識的に肯定する訓練は潜在 的ステレオタイプを弱める(ステレオタイプ的命題に含 まれる概念とは別の概念との連合が形成される)ことが 明らかになっている (Gawronski, Deutsch, Mbirkou, Seibt, & Strack, 2008)。このような態度変容の異なる効果はAPE モデルによって説明可能である。 APEモデルのもう一つの特徴は,最初に述べたように, 連合過程と命題過程の区別が,そこで生じる現象が意識 されるかどうか,意図的かどうか,認知資源を要するか どうか,統制可能かどうか,といった区別と完全な対応 を成すものではないという点であろう。たとえば,連合 過程で特定の連合が活性化する際には意図や認知資源を 必要としないことが多いが,認知的努力によって特定の 連合に関する情報を検索することで特定の連合を活性化 させることも可能である。また,連合の活性化に伴って 生成された命題に他の概念との矛盾がないかをモニター する作業は命題過程の現象となるが,モニター作業はあ る程度は非意識的に認知的資源を使わずに行われている と考えられる。しかしひとたび矛盾が発生すると,その 矛盾は意識に上り,矛盾解消にむけて認知的努力を伴う 検証が行われる。このように,連合過程でも命題過程で も,意識的/非意識的,意図的/非意図的,認知資源 要/不要,統制可能/不可能,といった性質を持った現 象が生じうるとされる (詳細はGawronski & Bodenhausen, 2014)。
従来のモデルでは多くの場合,潜在的態度の活性化は 非意識的,無意図的,効率的,不可避的であるのに対し て,顕在的態度は意識的で認知資源を要し,意図的に統 制可能な思考を背景としている,と考えられてきた (Fazio, 1990; Wilson et al., 2000など)。APEモデルは,潜在的態 度に対しても顕在的態度に対しても両方の性質を持つ現 象が影響する可能性があるとしている点で,これらのモ デルとは異なっている。潜在性をめぐる議論のところで も述べたが,間接指標を用いた態度研究の蓄積により, それらの指標で測られる態度が一律に同じ性質を共有す るのではなく,どのような過程を経て形成されどのよう に表出されるのかという局面により,異なる様相を示す ことが明らかになってきた。態度変容を単純な二分法で 語るのではなく,各局面に働く過程を総合的に説明する モデルが必要とされている。 態度変容に関わる処理過程に単純な二分法をとらない という特徴により,APEモデルは従来モデルとは異なる 予測や説明をする場合がある。ひとつの例として,APE モデルでは,文脈の影響は潜在的態度と顕在的態度の両 方に及ぶと考えており,Briñol et al. (2009) のb)とc) に相当する知見(自動的過程による顕在/潜在指標の変 化)を統合的に説明できる。連合過程の背景にある知識 構造は活性化可能性のある多くのリンクの集まりとして とらえることができるが,どの連合が活性化されるかは 文脈の影響を受ける。そしてひとたびある連合が活性化 されれば,それは連合過程での現象に影響すると同時 に,その活性化パターンを基盤とした命題が一時的に構 成され,命題過程での現象にも影響を与える。このよう に,連合過程で生じる現象も命題過程で生じる現象も, 共に長期記憶に蓄えられた知識構造を基盤とし,文脈に 依存した活性化パターンの影響を受ける。この意味で, 潜在的態度だけが長期記憶内の知識構造に由来するとし たモデル (Wilson et al., 2000) や,潜在的態度は文脈に応 じた個別の影響を受けにくいものととらえたモデル (Fazio, 1990)とは異なり,潜在的態度もまた文脈の影響 を受けると予測する。
またもうひとつの例として,APEモデルでは,熟考が 潜在的態度と顕在的態度の関係に与える影響を一意的に 予測しない。熟考による精緻化は,新たな命題の妥当性 判断のために考慮する命題を増やし,命題過程での判断 を複雑にする。追加的に考慮された命題が新たな命題と 矛盾する場合には潜在的態度は顕在的態度に影響しなく なるが,矛盾しない場合,熟考は潜在的態度の顕在的態 度への影響をむしろ促進すると考える。従来のモデル (Fazio, 1990)のように,熟考することが潜在的態度と顕 在的態度の関連を単純に弱めるとは予測しない。潜在的 態度が顕在的態度に影響するかどうかは熟考の有無で決 まるのではなく,熟考によってどのような命題が追加さ れたかに依存するということになる。 以上,APEモデルについて簡単に説明してきた。ここ まで述べた特徴からもわかるように,APEモデルは態度 変容について潜在レベルと顕在レベルの相互作用を踏ま えて説明可能なモデルとなっている。態度変容について の悲観主義や,態度変容過程の単純な二分法を超えた, 態度変容研究の新たな可能性を示している。 お わ り に 以上に述べてきたように,基礎的な心理学研究の方法 論に触発された潜在的態度研究は,社会心理学における 態度概念を変容させ,態度研究の関心のあり方に影響を 与え,何より膨大な態度研究を生み出すことでこの分野 を活性化した。しかし,基礎的な心理学から社会心理学 へのこのような影響関係は,実は今に始まったものでは ない。多数派や少数派の存在が態度変容を引き起こすこ とを示した初期の代表的研究 (Moscovici & Zavalloni, 1969; Sherif, 1936/1965)もまた,自動光点運動や色の知覚など の知覚研究の枠組みを援用したものだった。このように, 社会心理学における態度研究は基礎的な心理学研究にこ れまでも影響を受けて進んできたものであり,これから も影響を受けながら共に進んでいくものと期待してい る。 引用文献
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