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スポーツ復帰に向けての客観的な理学療法評価 : 筋電図評価の活用

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緒  言  スポーツ競技復帰を目的とした運動器疾患に対する理学療法 は,患部の治癒(修復,成熟)の経過とその程度を考慮して, かつ関節可動域や筋力その他の検査測定結果,および動作所見 から得られる問題点を解決するように進められる。段階的動作 獲得を含めた理学療法過程では,主として経験則のみによる動 作指導が行われ,動作の熟練性についても経験則に基づいた動 作評価により判定されていることが多い。また,創傷が治癒し, かつ動作障害の原因となる機能障害が改善または消失しても動 作時の不安感や違和感により競技復帰できない症例や,機能障 害の改善が不十分であってもスポーツ動作を円滑に獲得して競 技復帰に至る症例がある。つまり,スポーツ理学療法において は,機能障害の改善の程度や医師や理学療法士,スポーツ指導 者の経験則による判断では競技復帰への指標としては不十分で あり,運動神経生理学などの基礎学問に立脚した客観的指標に ついて検索する必要がある。筆者は,そのひとつの指標として 表面筋電図所見の有用性に着目し応用している。 筋電図検査  筋電図には針筋電図と表面筋電図があるが,理学療法士が臨 床で容易に用いることができるものは表面筋電図である。表面 筋電図は表面電極により筋の電気的活動を記録したものの総称 で,文字どおり電極を皮膚上に配置して記録する。表面筋電図 には,動作中の筋活動を記録する動作筋電図と,末梢神経に加 えた電気刺激や腱の叩打などに対する反応を記録する誘発筋電 図がある。筆者らは,動作筋電図については筋力強化の方法に 資する客観的根拠を得るために用いている。また,本稿のテー マであるスポーツ復帰に向けての客観的な指標としては,末梢 神経に電気刺激を加えることによって得られる誘発筋電図の結 果を応用している。具体的には,筆者らはスポーツ復帰の指標 としてサイレントピリオドと長潜時反射,H 反射を用いてい る。筆者らのこれまでの研究では,サイレントピリオド,長潜 時反射,H 反射が競技力の向上やスポーツ外傷・障害後の回復 過程(競技復帰)への指標として応用できることがあきらかと なっている1‒3)。特に,競技復帰に関しては,回復過程におけ る外観上の動作所見を裏づける見地,および動作所見として現 れないレベルの神経筋機能の異常を検出するツールとして有用 であることが解明されつつある。 1.サイレントピリオド(Silent Period)  サイレントピリオドとは,持続的筋収縮中の急激な反応動作 や外的な刺激により持続的な筋放電が抑制される期間のことで ある4)5)。サイレントピリオドに関する報告は数多くみられる が,筆者らは,随意的な持続的筋収縮中に支配神経に電気刺 激(最大上刺激)を加えた場合に記録される持続的筋収縮の抑 制期間(筋放電の休止期)を用いている(図 1)。サイレント ピリオドの成因としては,筋紡錘5),ゴルジ腱器官や皮膚か らの求心性抑制性インパルス,レンショウ細胞による反回抑 制,Ⅰ a 群求心性線維の不応期5‒7),大脳皮質由来の長潜時反 射出現後の抑制機構8)等の運動制御機構の関与が示唆されて おり,脊髄レベルの神経制御機構および大脳レベルの抑制機構 が関与していると考えられている。臨床的には,軸索変性の程 度診断9)や羽ばたき振戦10),神経伝導障害11)の診断・評価 に応用したものがあり,サイレントピリオドの延長や短縮を指 標として神経機能の興奮性評価が行われている。サイレントピ リオドに関する基礎的な研究においては,上肢,下肢ともに発 揮筋力の強度や姿勢の変化,筋力強化や敏捷性トレーニングの 前後で変動することがあきらかとなっており12‒16),サイレン トピリオドは神経疾患における診断学的指標だけでなく,神経

スポーツ復帰に向けての客観的な理学療法評価:筋電図評価の活用

大工谷新一

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運動器理学療法研究部会

Electromyographycal Assessment for Return to the Sports in the Field of Physical Therapy

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岸和田盈進会病院リハビリテーション部 (〒 596‒0003 大阪府岸和田市中井町 1‒12‒1)

Shinichi Daikuya, PT, PhD, JASA-AT: Department of Rehabili-tation, Kishiwada Eishinkai Hospital

キーワード:スポーツ復帰,筋電図,サイレントピリオド 図 1 サイレントピリオド(模式図) サイレントピリオドは,随意的な持続的筋収縮中に外的な刺激 を与えた場合に記録される.図は,随意的持続的筋収縮中に支 配神経に電気刺激(最大上刺激)を加えた場合に得られる波形 を模式的に示している.サイレントピリオドを構成する成分と しては,M 波,F 波,長潜時反射(LLR)などがある.

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得られる潜時の長い反射性筋電図波形のことである 。これ は,一定の収縮状態にある筋に対して随意あるいは不随意に伸 張負荷が加わることでも誘発できる(長潜時伸張反射)。長潜 時反射は,大脳皮質を介する自律反射で19),脊髄より上位の 中枢神経系を介していると解釈できるため,脊髄における運動 ニューロンプールの興奮性や脊髄より上位からの運動制御に関 する研究を通して臨床応用されている。長潜時反射の発現機序 については,上肢から記録されるものと下肢から記録されるも のに分けて考える必要がある。上肢では橋20)や運動皮質を介 する経皮質反射21)22)と考えられている一方で,下肢では上肢 と同様に大脳皮質を含めた脊髄より上位を介する反射であると する説と脊髄レベルでの多シナプス反射とする説の 2 つがあ る8)23)。臨床的に長潜時反射は脳血管障害片麻痺24),脊髄小 脳変性症や運動ニューロン疾患25),ハンチントン舞踏病26), パーキンソン病やミオクローヌス疾患18)などで異常が指摘さ れている。長潜時反射は上肢,下肢ともに大脳皮質の興奮性に 影響を受けるため,疾患の種類を問わず末梢から脊髄より上位 レベルへの伝導動態や脊髄より上位の中枢神経機能の興奮性を 評価する際に有用な検査法である。長潜時反射の結果は健常者 の神経機能の評価にも応用が可能で,発揮筋力の強度27)や遠 隔部位の筋収縮28)および姿勢変化29)により変動することが あきらかとなっている。筆者らは長潜時反射のこれらの性質を 応用し,随意的な運動中に長潜時反射検査を行うことで,その 運動に大脳皮質がどの程度関与しているかを検索して,リハビ リテーション過程における随意運動の自動化過程の段階的評価 に応用している。 3.H 反射(H refl ex)  H 反射は単シナプス反射であり,反射弓には求心性感覚神 経・脊髄前角細胞・末梢運動神経の各要素が関与している。こ のため,H 反射は脊髄神経機能の興奮性を示す指標となる。ま た,H 反射は末梢の筋から記録するので,筋の温度や柔軟性, 容積などの要因で変化するため18),脊髄神経機能の興奮性の 指標としては末梢の筋の変化を相殺した指標である振幅 H/M 比(H 反射の振幅を最大 M 波の振幅で除した商)が用いられ ることが多い。弱刺激で得られる H 反射の最大振幅と強刺激 で得られる M 波の最大振幅の比(振幅 H/M 比)は痙性麻痺で は増大し,末梢神経障害では低下することが知られており,腱 反射の客観的な一指標として応用されている。また,H 反射は, 一般的に臨床で中枢神経疾患における痙性筋の評価に用いられ の際に非術側下肢の過用が定着化していた。症例 B(男性,高 校バスケットボール選手)では安全な動作イメージの学習に多 くの指導を要した。症例 A,B ともに受傷直後に再建され術後 6 ヵ月で競技へ復帰した。症例 C(女性,運動指導者)は受傷 から数年を経て一側ずつ両側の再建術を受け,術後 6 ヵ月で職 業復帰した。術後の動作練習は日常生活活動の獲得を中心に行 われ,特に問題なく職業へ復帰した。 <方法> ベッド上の安静腹臥位で,ベッド端から足尖を垂ら した状態の被験者のヒラメ筋から,筋電計 Viking Quest を用 いてサイレントピリオドと H 反射を定期的に記録した。記録 時の電気刺激は M 波が最大となる強度の 120%の強度(サイ レントピリオド)と M 波が出現する閾値の強度(H 反射)で, 膝窩部の脛骨神経に 16 回与えた。サイレントピリオド記録時 には軽強度の足関節底屈等尺性収縮を行わせた。得られた各々 の 16 波形についてサイレントピリオド(平均値と変動係数) および H 反射の頂点間振幅の平均値と最大 M 波振幅の比(振 幅 H / M 比)を算出した。 <結果> 症例 A では,非術側の過用がみられた時期に同側 のサイレントピリオドの短縮と変動係数の増大,振幅 H / M 比の増大がみられた(図 2,図 3,図 4)。症例 B では,術後 5 ヵ 月間にわたって術側のサイレントピリオド中に長潜時反射様の 波形が出現し,サイレントピリオドの変動係数が増大した。長 潜時反射様の波形は術後 4 ヵ月でもっとも顕著に出現し,術側 の振幅 H / M 比も術後 4 ヵ月で高値を示した(図 5,図 6,図 7)。 症例 C ではサイレントピリオド,H 反射の双方に特徴的な所 見はなかった(図 8,図 9,図 10)。 <考察> 症例 A では非術側の過用があった時期に同側の脊 髄興奮準位が増大し,単純な筋収縮維持でも非術側では様々な 神経機能が動員されていたと考えられた。同様の電気生理学的 所見は症例 B でもみられ,もっとも顕著であったのは免荷から 走行,方向変換といった多様な動作を学習していた時期であっ た。特徴的な所見がなかった症例 C では長期の経過と両側の 再建ということから,膝前十字靭帯再建による神経機能への影 響は他の症例よりも少なかったものと考えられた。  症例 A,B の所見は正常所見とは異なるものであり,スポー ツ復帰に際してはこれらの所見が消失していることが望まし い。症例 A では,非術側の過用を減少させるような理学療法 により脊髄興奮準位の正常化が求められる。なぜなら,脊髄興 奮準位が増大している局面においては,動作中に過剰な筋活動 が出現する可能性が排除できず,肉ばなれなどの新たな外傷の

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図 2 術後リハビリテーション過程におけるサイレントピリオド(症例 A,非術側) 非術側の過用がみられた時期(術後 2・4 ヵ月)にサイレントピリオドの短縮がみ られた.これより,非術側の過用のために非術側下肢(ヒラメ筋)に関する脊髄 および脊髄より上位の神経機能の興奮性が増大していたと考えられる.図中の矢 印は筋放電の再開時点を示す. 図 3 術後リハビリテーション過程におけるサイレントピリオド(症例 A,術側) 術側の SP に特記すべき所見は得られなかった.これより,術後リハビリテーショ ン過程において,症例 A の術側下肢(ヒラメ筋)に関連する神経機能の興奮性に 変化がなかったことが考えられた.図中の矢印は筋放電の再開時点を示す. 図 4 サイレントピリオドの平均値と変動係数,振幅 H/M 比(症例 A) 術後 2・4 ヵ月の時点で非術側のサイレントピリオドの変動係数と振幅 H / M 比 の増大がみられた.

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図 5 術後リハビリテーション過程におけるサイレントピリオド(症例 B,非術側) 非術側のサイレントピリオドに特記すべき所見はなかった.図中の矢印は筋放電 の再開時点を示す. 図 6 術後リハビリテーション過程におけるサイレントピリオド(症例 B,術側) 術後から 5 ヵ月間にわたってサイレントピリオド中に出現した長潜時反射様の波 形は術後 4 ヵ月でもっとも顕著となった.術後 4 ヵ月は動作の速度や強度が増大し, 方向変換も多用する時期である.電気生理学的検査によってこの時期の運動制御 には脊髄の多シナプス反射や上脊髄レベルの神経機構が大きく関与していた可能 性を捉えることができた.図中の矢印は筋放電の再開時点を示す. 図 7 サイレントピリオドの平均値と変動係数,振幅 H/M 比(症例 B) 術後から 5 ヵ月間の術側 SP 変動係数の増大は,様々なレベルの神経機構が運動制 御に関わっていた可能性を示すものである.また,術側の振幅 H / M 比の結果か ら術後 4 ヵ月で術側の脊髄神経機能の興奮性が増大していたことがわかった.

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図 8  術後リハビリテ術後リハビリテーション過程におけるサイレントピリオド (症例 C,両側再建右側) サイレントピリオドに特記すべき所見はなかった.図中の矢印は筋放電の再開時 点を示す. 図 9  術後リハビリテーション過程におけるサイレントピリオド(症例 C,両側再 建左側) サイレントピリオドに特記すべき所見はなかった.図中の矢印は筋放電の再開時 点を示す. 図 10 サイレントピリオドの平均値と変動係数,振幅 H/M 比(症例 C) サイレントピリオド,H 反射の双方に特徴的な所見はなかった.

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常競技者においては容易であると思われる軽収縮の一定維持に おいても脊髄より上位の中枢神経機能の関与が考えられるた め,この状況でスポーツ復帰をした際には動作中の種々の反応 を脊髄より上位の中枢神経機能により制御する可能性が考慮さ れる。これは,動作中の姿勢保持や筋力発揮に関する筋活動の 潜時が延長する可能性を示唆するものであり,スポーツ競技に おいて考慮され得る種々の局面での反応が遅れる可能性が考え られる。したがって,長潜時反射様の波形の消失とサイレント ピリオドの変動係数が減少することを復帰の条件としてスポー ツ理学療法を実施することが望ましい。具体的には,動作の自 動化を目的とした介入が必要であると考えられる。 2.足関節捻挫後のヒラメ筋 H 反射 <対象> 対象は 21 歳の男子大学バスケットボール選手であ り,診断は左足関節内反捻挫(Ⅱ度損傷)であった。受傷直後 の腫脹と痛み,可動域制限はそれぞれ軽度であったが,筋力検 査は痛みのため不可能であった。日常生活動作レベルは,歩 行は疼痛自制内で可能であるものの,段差昇降には時間を要 した。 <方法> ベッド上で安静腹臥位をとらせ,足尖をベッド外へ だした状態の被験者に,筋電計 Viking Quest を用いて膝窩部 脛骨神経に電気刺激を加え,ヒラメ筋から H 反射を導出した。 電気刺激は,振幅感度を 500 µV/div とした画面上で M 波出現 が同定できる最小強度で 16 回加えた。H 反射の記録後,ヒラ メ筋の最大 M 波を記録し振幅 H / M 比を算出して受傷前,受 傷後 3 日,受傷後 1 ヵ月の値を比較した。 <結果> 得られた波形を図 11 に示す。また,受傷前,受傷 後 3 日,受傷後 1 ヵ月の振幅 H / M 比を表 1 に示す。振幅 H/M 比は受傷後 3 日に増大していた。また,受傷後 3 日の受 傷側には長潜時反射様の律動的波形が記録された(図 12)。 <考察> 本症例では,受傷後 3 日において両側のヒラメ筋に 関連する脊髄神経機能の興奮性に増大が認められた。また,通 常は安静時には導出されない長潜時反射も受傷後 3 日の受傷側 において記録された。これより,本症例では足関節捻挫によっ れ,受傷側においては脳幹より上位の神経機能の興奮性も増大 していたことがあきらかとなった。これについては,腫脹や痛 みなど受傷そのものによる脊髄神経機能への影響と,関節不安 定性や痛みに起因する緊張性収縮の持続などの受傷後に日常生 活活動に適応する過程での脊髄神経機能へ影響が考えられる。 この状態で,仮に靭帯が治癒し,腫脹や不安定性,筋力や関節 可動域が改善していたとしても,脊髄興奮準位が増大したまま スポーツ動作をさせると,動作中に過剰な筋活動が出現する可 能性があり,肉ばなれなどの新たな外傷の誘因となる可能性が あるため,スポーツ復帰に際しては,H 反射所見の正常化が条 図 11 本症例における H 反射(生波形) 受傷側における波形の外観上の特徴として,受傷後 3 日に長潜時反射様の律 動的波形が H 反射出現後に記録された.振幅感度:2 mV/div(受傷側,受傷 前の M 波のみ 1 mV/div),掃引:10 ms/div. 図 12 受傷後 3 日の受傷側でみられた長潜時反射様の応答 受傷側において,受傷後 3 日に安静時では記録されることのな い長潜時反射の様相を呈する律動的波形が H 反射出現後に記 録された.(振幅感度:1 mV/div,掃引:20 ms/div) 表 1 足関節捻挫例における振幅 H/M 比 受傷前 受傷後 3 日 受傷後 1 ヵ月 非受傷側 0.17 0.88 0.21 受傷側 0.62 1.23 0.58 振幅 H/M 比は,受傷後 3 日に増大していた.

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後 1 ヵ月の時点で受傷前の状態となったことから,本症例にお いては関節由来あるいは不安定性由来の影響が受傷後 1 ヵ月を 超えて残存することはなかった。  スポーツ外傷・障害と誘発筋電図所見の変化について,上述 した膝前十字靭帯再建術後と足関節捻挫後の結果から,現在の ところ,以下のことがあきらかとなっている。  膝前十字靭帯再建術後における誘発筋電図所見 1) 下肢の過用に応じて同側のサイレントピリオドの短縮 と変動係数の増大,および振幅 H/M 比が増大するこ とがある。 2) 免荷時期から走行,方向変換というように多様な動作 を学習する時期に,正しい運動イメージの習得に努力 を要する場合には,術側のサイレントピリオドの変動 係数と振幅 H/M 比の増大が認められることがある。 さらに,術側に長潜時反射が出現することがある。 3) 円滑に理学療法過程が進んでいる場合には誘発筋電図 所見は正常所見となる。  足関節捻挫後における誘発筋電図所見 1) 受傷前と比較して受傷直後に振幅 H/M は増大するこ とがあり,その変化は概ね 1 ヵ月で終息する。 2) 受傷直後の受傷側で長潜時反射様の律動的波形が記録 されることがある。 おわりに ─スポーツ競技復帰に向けての理学療法評 価としての筋電図検査の確立に向けて─  現在のところ,誘発筋電図学的所見としては,外観上の動作 観察所見や痛みなどの自覚症状,腫脹などの他覚的所見と一致 する結果が得られている。また,筆者らの研究1‒3)からは,動 作に外観上の異常所見がでる前に誘発筋電図検査で特記すべき 所見が現れることも示唆されている。しかしながら,誘発筋電 図は電気刺激を用いたり,シールドルームでの記録が望まし かったりといったスポーツ現場で応用するための障壁が少なく ない。また,本件の意義は,神経学的に異常がないことが多い 対象者において筋電図学的異常所見が検出されることにある。 これは,得られた筋電図所見の解釈を神経学的な異常に求める ことが困難であることを示すものであり,すなわち,異常所見 を改善する(機能を改善させる)方策を考慮することが難しい ということである。評価指標として用いられるものは,その所 見が変動する原因が明確であり,どのような介入によりその評 価所見が改善するかがあきらかでなければならない。今後の研 究により,筋電図学的異常所見が得られる原因があきらかとな ることが強く望まれる。 文  献

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図 2 術後リハビリテーション過程におけるサイレントピリオド(症例 A,非術側) 非術側の過用がみられた時期(術後 2・4 ヵ月)にサイレントピリオドの短縮がみ られた.これより,非術側の過用のために非術側下肢(ヒラメ筋)に関する脊髄 および脊髄より上位の神経機能の興奮性が増大していたと考えられる.図中の矢 印は筋放電の再開時点を示す. 図 3 術後リハビリテーション過程におけるサイレントピリオド(症例 A,術側) 術側の SP に特記すべき所見は得られなかった.これより,術後リハビリテーショ ン過程におい
図 5 術後リハビリテーション過程におけるサイレントピリオド(症例 B,非術側) 非術側のサイレントピリオドに特記すべき所見はなかった.図中の矢印は筋放電 の再開時点を示す. 図 6 術後リハビリテーション過程におけるサイレントピリオド(症例 B,術側) 術後から 5 ヵ月間にわたってサイレントピリオド中に出現した長潜時反射様の波 形は術後 4 ヵ月でもっとも顕著となった.術後 4 ヵ月は動作の速度や強度が増大し, 方向変換も多用する時期である.電気生理学的検査によってこの時期の運動制御 には脊髄の多シナプ
図 8  術後リハビリテ術後リハビリテーション過程におけるサイレントピリオド (症例 C,両側再建右側) サイレントピリオドに特記すべき所見はなかった.図中の矢印は筋放電の再開時 点を示す. 図 9  術後リハビリテーション過程におけるサイレントピリオド(症例 C,両側再 建左側) サイレントピリオドに特記すべき所見はなかった.図中の矢印は筋放電の再開時 点を示す. 図 10 サイレントピリオドの平均値と変動係数,振幅 H/M 比(症例 C) サイレントピリオド,H 反射の双方に特徴的な所見はなかった.

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