C A N C E R 4 (1995), p. 9-10 9
外来種のチチュウ力イミドリガニが東京湾に大発生
渡 遺 精 一
ある日,私が研究室にいると,カニの体液の成 分を研究している大学院生が数種類のカニを持っ て現れカニの名前を確認を求めた. パットに乗っ たカニの中には,イソガニ,ケフサイソガニの他 にあまり見慣れないカニが含まれていた. このカニがあの有名なCarcinus
であることは すぐにわか った.Carcinus
はヨーロッノfに多産 し,生理学,生態学などの多くの研究が行われて い る 種 類 で あ る . こ の カ ニ は ワ タ リ ガ ニ 科 Portunidaeに属し,第5脚 が 遊 泳 脚 に な っ て い ないのが特徴である. このC arcinus
属 に は 外 見 からはほとんど区別のできないよく似た2種があ る. それらはGreen crab として知られるミドリ ガニCα
rcmus maenus
とチチュウカイミ ドリガ ニC. m edittarraneus
とで, これらは大変よく { 以たカニで ある . 雄の交接器の形を観察した結果から持ち込まれ たカニはチチュウカイミドリガニCMediterra-nean green crab) であることが判った . これま で,日本においてはチチュウカイミドリガ、ニにつ いて,いくつかの報告例がある . 酒井( 1986) に よると1959年以来東京湾にこのカニが多数発生し ていることが判る . また,武田( 1993) はこのカ ニの抱卵個体の飼育について報告している. チチュウカイミドリガニの生息状況 チチュウカイミドリガニの生息が知れたので, 我々も採集してみることにした. 採集場所は東京 湾の奥の港区にある 東京水産大学内の係船場近辺 である. 大都市の高層ビ、ルが林立する聞をめぐる 運河( 図
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) に大量のチチュウカイミドリガニがSeiichi W A T A N A B E : The massive appearence of the
発生していることが発見されたのである. ここは 運河特有のコンクリー卜の岸壁が続くところで運 河の底は泥状である. この環境には魚類ではハゼ, スズキ,ボラなどがよ く見られ,たまにはコイ, サヨリがみられることもある. カニ類では,ケフ サイソガニ,イソガニがよく見られ,たまに,モ クズガニ,ノコギリガサ、ミも見ることができる. チチュウカイミドリガニはこの岸壁にへばり付 いていたり,コンクリー卜の船を揚げるためのス 図1 . チチュウカイミドリガニの採集場所 東京都港 区の運河沿いの コンクりートの岸壁に多数 の個 体がみられた
Mediterranean green crab,
Carcinus meditt
αr- 図2. 採集されたチチュウカイミドリガニ . 約1時間10 外来種のチチュウカイミドリガニが東京湾に大発生 図
3.
雄が雌を抱え込む交尾前行動. 背面から観察し た写真 上の大きな個体が雄で下が雌 ロープの木製 の横木の周 りにずらりとつながっ て いたりする. このカニの運動はそれほど敏捷では なくたも網で容易に捕獲できる. 約 1 時間ほどの 採集で100尾を越す個体が得られた( 図2 ). チチュウカイミドリガニの交尾前行動6
月中旬に採集したチチ ュウカイミドリガニを 研究室で飼育し たところ,雄が雌を上か ら重なる ようにして抱え込む行動( 図3,4) を示した. 雌は雄の 1/ 2から 2/ 3 ぐらいの大きさで,雄の腹 部に抱え込まれるのである . このとき ,雄は第一 歩脚を雌の体に回してしっかりと抱え込み, かな り強くっついても離れることはない. この行動は 交尾の前に雄が雌を確保する行動( 交尾前ガ ード 行動) と恩われる . 飼育を続けた結果,雄に抱え られていた雌は脱皮を行い,それにともなってこ の雄による抱え込みは終了した. 雌の脱皮直後に 交尾が行われたものと予想される. この観察結果 は,U d eke m d ' Acoz (1993) によるミドリヵーニに おける交尾行動の観察結果とよく似ている .Carcinus maenus
とC. medittarraneus
の 形 態的比較 この
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種は外見的に は良く似ており区別がつけ 図 4. 雄が雌を抱え込む交尾前行動. 前面から観察し た写真. 大きな雄が第一歩御を用いて雌を抱え 込んでいる にくいが,雄の交接器の形状が異なっているため 容易に識別可能である. Gαrcmus maenus
の交接 器 は 湾 曲 し て い る がC. medittarraneus
の 交 接 器 は 湾 曲 せ ず ほ ぼ 直 線 的 で あ る ( 酒 井 1986 , Plate IIに写真が示されているので参照して下さい) .
Carcinus
にはイソワタリガニという名もある が, このように人為的とはし、え,世界中に広がっ ていく様を見るとミナトワタリガニ( 港渡り蟹) と言 った方がよいくらいに思える . 最後に,私の 研究室ではチチュウカイミドリガニ の研究をさら に進めたいと思っていますので, このカニに関す る情報をお知らせ頂ければ大変幸せです. 参 考 文 献 酒井 恒, 1986 珍奇なる日本産蟹類の属と種について. R esearches on Crustacea, 15: 1-10. 武田正倫, 1993 東京湾に定着したチチュウカイミドリ ガニ海洋と生物, 15 (2)・121-124U d e k e m d'Acoz, C. d', 1993 . Activites reprod-uctrices saisonnieres des differentes classes de tailles d'une population de crabes verts Cα