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天皇海山産オオエンコウガニの鉗脚に見られた奇形

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雌雄輔鱒鍋麟

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Carcinological Socie砂ofJapan

天皇海山産オオエンコウガ‘ニの錯脚に見られた奇形

A b n o r m a l i t y f o u n d in the cheliped o f C h a c e o n imperial

柳 本 車

l Takashi Y a n a g i m o t o . は じ め に オ オ エ ン コ ウ ガ ニ 類 は 世 界 中 の 水 深5 0 0 m から 1,000 m m 付 近 に 生 息 し , カ ニ か ご な ど で 漁 獲 さ れ ている ( F A O,2008). 日本の漁船は南半球に分布 するアメリカオオエンコウガニChaceon quinquedens やアフリカオオエンコウガニChaceon maritae を 「マ ルズワイ缶詰」の材料として漁獲している( 三橋, 2003). また,天皇海山にもオオ エ ンコウガ ニCha-ceon imperialis が分布している (Manning,1992). 天 皇海山に分布するオオ エ ンコウガニは他のオオエン コウガニ類と 異なっている . 甲殻は日本産のオオ エ ンコウカοニChaceon granulatu と比べて前方に広く平 らく,胃域は著しく隆起していない. また,甲の色 が紫色である( 酒井, 1978). これ らの ことか ら, 天皇海山産のオオエンコウガニは,日本産のオオエ ンコウガニの新亜種であると報告されていた( 酒 井, 1978). しかし, Manning (1 992) によって,天 皇海山に分布するオオエンコウガニにChaceon im-perialis の名前が付けられた. 天皇海山に分布するオオエンコウガニはほとんど 漁獲されておらず,底刺網漁業で混獲される程度で ある ( F A O,2008). そのため,オオエ ンコウガニ の生物学的な特性はほとんど分かっていない. 今 後,漁業対象種として利用するためにも,オオエン 1 ( 独) 水産総合研究センター中央水産研究所 〒236-8648 神奈川県横浜市金沢区福浦2-12-4

National Research lnstitute of Fisheries Science, Fisheries Research Agency, 2-12-4 Fukuura, Kanazawa, Yokoha-m a, Kanagawa 236-8648, Japan E-mail: yanagimo@affrc.go・JP コウガニの分布や生物的な特性を調べる必要があ る . こ の よ う な 目 的 の 一 環 と し て , 2006年 か ら 2008 年 に カ ニ か ご 調 査 が 行 わ れ た ( 柳 本,2011). 調査では多数のオオエンコウガニを採集することが できた. 採集したオオエンコウガニの生物学的測定 を行っている際,外部形態に異常が見られる個体が 採集された. 今回,このような外部形態に異常が見 られた個体の出現状況とその特徴などについて報告 する. . 材 料 と 方 法 2006 - 2 0 0 8 年 に 天皇 海 山海域において水産庁漁 業 調 査 船 開 洋 丸 で 大 型 ベ ン ト ス の 分 布 を 調 べ る た め,カニかご調査が行われた. 日本海西部海域にお いてベニズワイガニ漁で用いられているのと同じカ ニかごを使用した( 渡部・山崎, 1999). 餌として サンマを用いた. 漁獲されたオオエ ンコウガニの個 体数と外部形態に異常があ った個体数を調べた. ま た,オオエンコウヵーニの甲幅,甲長,鉛脚の高さ, 体重を測定した.

園 語 果

3 年 間 の 調査で 3,119 個 体 のオオエンコウガニの 測定を行った. その中で, 574 個 体が鉛脚や歩脚を 失っていた. 再生した鉛脚や歩脚を持つ個体は189 個体であった. また,鉛脚に突起物のあるオオエン コウカーニがl個体見つか った. この奇形個体は 2007 年6月14 日 に 北 緯 38 度 0 分 12 秒 , 東 経 170 度 19 分 34秒 の応仁海山で行われたカ ニかごで採集された

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図1 . サンプル採集地点 ( x ) および奇形のオオ エンコウガニ採集地点(・).

表1 . オオ エンコウ ガニの正常個体と奇形個体の甲幅,甲長,鉄脚の高さ,体重

Normal individuals Abnormal Number M i n i m u m M a x i m u m Average individual Carapace width ( m m ) 67 Carapace length (mm) 67 C hela height (mm) 67 Body weight (g) 67 (図1). 漁獲水深は1,001 m であった. この個体の 甲幅は110.63 m m,甲長は94.42 m m,錯脚の高さは 29.23 m m,体重は37 1gであっ た. 腹面か らの全体 写真と奇形と考えられる鉛脚の表と裏側からの写真 を図 2 に示す. この個体の左側の紺脚は甲羅の付け 根からなかった. 右の鉛脚の下側に Y 字状の 2 つの 突起物があった. この突起物自体や,それと掌節と の聞には間接はなかった. また,

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字状の突起物に は鉛脚のような歯などはなく,表面は滑 らかであっ た. 本個体が採集された地点における ,雄の甲長, 脚の高さ,体重を表 l に示す. また,同地点で採集 されたオオエンコウガニ雄の甲幅に対する甲長,鉄 脚の高さ ,体重との関係をFig. 3に示す. 奇形個体 の外見は鮒脚を除いて正常なオオ エ ンコウガニと変

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( 制

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42.82 102.85 67.98 94.42 47.98 120.73 78.81 110.63 12.93 30.7 19.41 29.23 40 480 170.75 370 わ ら ず (図 2),また ,甲 幅に対する甲長,錯脚の 高さ ,体重は正常な個体の数値と変わらなかった (図3).

園 膏 薬

今回採集されたような奇形のカ ニは, 全 日19個 体の中で l個体のみであったので,非常に珍しい個 体であると考えられた. 主甘脚以外で正常個体と外見 上の違いがなかったことから , この奇形個体はオオ エンコウガニであり,鉛脚に異常が生じただけと考 えられた . 3年間の調査で採集されたオオエンコウ カゃニ3,119個体中, 574個体が鉛脚や歩脚を消失し , 189個体が再生した紺脚や歩脚を持っていた. この ような数値が高いのか,低いのかは不明であるが,

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図 2. A,奇形の オオネンコウガニの腹側;8,鉛脚の奇形部位( 内側) ;C,鉛脚の奇形部位( 外側) . カニを漁獲する漁業がない天皇海山では漁業の影響 は少ないと考えられる. カ ニは捕食者から逃れるた めに脚を自切することが知られている( 酒井, 1980). 天皇海山にはオオエンコウガニの生息する 水深帯にアブラボウズやソ コダラ科が分布すること が知られており( 鈴木 ・高橋, 1977) ,このような 捕食者から身を守るために自切をして紺脚や歩脚を 消失した個体が多く ,再生した紺脚や歩脚を持つ個 体が多いのかもしれない. このような自然状態下の ため,過剰再生による奇形が発生した可能性が考え られた。 カニの奇形個体は同属の日本周辺に分布するオオ エン コウガ ニC haceon granulatus (Okamoto, 1991 ), ベニズワイガニChionoecetes japonicus (本尾, 197 1, 1972:丹下 ・岩佐, 1991 ; 三橋, 1993),ズワイガ、ニ C hionoecetes opilio (伊藤, 1965, 1966; 鈴木 ・小田 原 197 1; 本尾,2002, 2003),ケガニ E rim acrus isen-becldi ( 坂本 ・阿部,1966;鈴木 ・小田原, 197 1) な ど で 報 告 さ れ て い る . 本 尾 (1971 ,2002, 2003) は,これらのカニの奇形は歩脚より鉛脚に多く発生 していると報告している . カニ類の奇形は脱皮前に 破損した箇所を修復しようとして,異常な突起物や 再生脚が現れると考えられている. 鉛脚は摂餌や交 尾に使われるため,歩脚よりも重要な箇所と言え る. そのため,紺脚が失われた場合,過剰な再生が 起 きやすく,その結果,奇形を引き起こす可能性が ある. 本報告で示した個体の奇形も鉛脚で見られて いる. しかし,奇形は歩脚に比べて鮒脚の方が目に 付きやすいということもあり ,今後,調査などで正 確に生物測定を行ってモニタ ー していく必要があ る. ケガニ( 鈴木 ・小田原,1971) や日本周辺に分布 するオオ エ ンコウガ ニC haceon granula仰s (Okamoto,

1991 ) で鮒脚に見られる異常突起物 などの奇形は, 鉛脚の下側に生じている. 本個体で も鉛脚の下側に Y字状の突起物があった. これは物理的に鉛脚の下 側の方が海底の岩などに接することが多いため傷つ きやすく,その傷を治すために過剰再生により奇形

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120 140 Carapace width ( m m ) 図3. オオエンコウガニの甲幅と甲長,紺脚の高 さ,体重との関係. A,甲幅と甲 長 ;B,甲 幅と鉛蜘の高さ;

c

,甲幅と体重. X,正常 個体; ・, 奇形個体. が生じやすいのかもしれない . 本事例のようなカニ類の過剰再生により奇形がど のようにして起こるのか,詳細なメカニズムは明ら かになっていない. ザリカ♂ニProcambarus clarkiiの 額角の一部を切除 C N akatani et al., 1992; Sunaga & Takahashi, 1992) や 錯 脚 を 傷 つ け て C N akatani, 1996),その再生状況を観察した報告がある. これ らによると,傷口の大きさによって再生する形が異 なっているということが分かっている 。近年,昆虫 と甲殻類についての脱皮と変態に関する研究が数多 く行われている( 園部 ・長津, 2 0日) . また,見虫 の脚再生メカニズムに関する研究が行われている CB a n d o et al., 2009). また,カニ 類の奇形が発生す ることについて,物理学的な検討が行われている CShelton et al., 1981). このような研究が進むことに よって,今後,カニ類の脚再生のメカニズムも明ら かになってくるものと期待される. 36

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儲11'21 (2012)

薗 語 辞

本研究は水産庁開洋丸による調査航海により採集 されたオオエンコウガ ニ標本を用いて行 った。標本 採集に御協力して頂いた水産庁開洋丸の船長, なら びに乗組員の皆様に厚くお礼申しあげる. 本研究は 水産庁委託事業費国際資源調査費で行われた.

園 支] 転

Bando, T.,Mito, T., M a e d a, Y.,Nakamura, T., Watanabe, T.,

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図 2. A ,奇形の オオネンコウガニの腹側; 8 ,鉛脚の奇形部位( 内側) ; C ,鉛脚の奇形部位( 外側) . カニを漁獲する漁業がない天皇海山では漁業の影響 は少ないと考えられる

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