1) 金沢大学保健管理センタースポーツ教育部門 〒9201192 石川県金沢市角間町
2) 広島大学大学院総合科学研究科
〒7398521 広島県東広島市鏡山 1-7-1 連絡先 関矢寛史
1. Division of Sport Education, Health Service Center, Kanazawa University
Kakuma-machi, Kanazawa, Ishikawa 9201192 2. Graduate School of Integrated Arts and Sciences,
Hiroshima University
171 Kagamiyama, Higashihiroshima, Hiroshima 7398521
Corresponding author hsekiya@hiroshima-u.ac.jp
スポーツにおける「あがり」の要因と要因間の関係性
村山 孝之1) 関矢 寛史2)
Takayuki Murayama1and Hiroshi Sekiya2: Factors related to choking under pressure in sports and the
relationships among them. Japan J. Phys. Educ. Hlth. Sport Sci. 57: 595611, December, 2012 AbstractFactors related to choking under pressure during sports were investigated through a ques-tionnaire survey, and the relationships among them were examined. A quesques-tionnaire survey of choking was conducted among university students in sports-oriented school clubs (n=535). Exploratory factor analysis extracted 11 factors: changes in motor control and vicious circles, abnormal physical sensations, cognitive and perceptual confusion, introversion, self-consciousness, feelings of physical heaviness and weakness, conscious processing (attention to movements), passivity, feelings of physical fatigue, safety-oriented strategies, and heat sensations. An analytical model with nine factors (excluding feelings of physical fatigue and heat sensations) as latent variables was constructed, and covariance structure analy-sis was performed. The results indicated the validity of the mechanistic model of choking, conanaly-sisting of nine latent variables. According to the model, when self-consciousness, or abnormal physical sensations, had a high proˆle, conscious processing increased. Furthermore, it was conˆrmed that conscious processing aŠected changes in motor control and vicious circles, which led directly to a decline in motor performance. It was also indicated that abnormal physical sensations determined cognitive and percep-tual confusion, or feelings of physical heaviness and weakness. On the other hand, when cognitive and perceptual confusion and feelings of physical heaviness and weakness had a high proˆle, passivity in-creased. High passivity caused changes in motor control and vicious circles. Moreover, increased passivi-ty led to the adoption of a safepassivi-ty-oriented strategy that often caused changes in motor control and vicious circles. While previous studies have tried to explain choking only from the perspective of changes in at-tention, the above results suggest the following mechanistic model of choking, indicative of another per-spective: changes in psychological, physiological, and behavioral variables cause a decline in perfor-mance. Especially interactions between emotions and cognition and the adoption of a strategy with a low risk of failure determine changes in motor control.
Key wordspressure, performance, attention, safety-oriented strategy, changes in motor control キーワードプレッシャー,パフォーマンス,注意,安全性重視方略,運動制御の変化
序
論
多くのスポーツ選手にとって,日頃の練習の成 果を試合場面で十分に発揮することは容易ではな い.なぜなら,試合場面では観衆や試合結果が気 になって不安になり,普段のようなプレーができ なくなるためである.Baumeister(1984)は特 定の状況において高いパフォーマンスを発揮する ことの重要性を高める因子や因子の組み合わせを プレッシャーと呼び,プレッシャーによりパフ ォーマンスが低下する現象を「あがり(chokingunder pressure)」注)と呼んだ.スポーツ場面に代 表的なプレッシャーとしては観衆,他者評価,報 酬,時間切迫などが挙げられるが,このようなプ レッシャーは試合場面ではつきものである.すな わち,プレッシャーを伴う状況下でも過度に緊張 せずに高いパフォーマンスを発揮できるかどうか が試合の結果を大きく左右することになる.その ため,近年では「あがり」対策のためにメンタル トレーニングなどの心理的サポートを求めるス ポーツ選手が少なくない. ところで,試合場面で「あがり」に対処すると き,対処すべき要因はプレッシャーのみではな い.実際の「あがり」場面では,プレッシャー以 外にも多様な要因が関与している可能性が高く, 「あがり」はそれらの要因が複雑に関連する現象 であると考えられる.しかし,その複雑さゆえ に,プレッシャー下においてどのような過程を経 てパフォーマンスが低下するのか,その機序につ いては未だ不明な点が多い.したがって,今後, より効果的な「あがり」の予防法・対処法を確立 するためには,「あがり」に関連する要因を詳細 に調べ,パフォーマンス低下の機序を解明する必 要がある. これまで「あがり」はスポーツ心理学の領域に おいて広く研究対象とされてきた.まず,「あが り」に関する先行研究では,プレッシャー下で生 じる心理面,生理面,行動面の変化について実験 的に調べられている.例えば,心理面について は,状態不安の増加(田中・関矢,2006)や自 己効力感の低下(Williams et al., 2002),知覚の 変化(Pijpers et al., 2006),注意の変化(Bei-lock and Carr, 2001; Lewis and Linder, 1997; Mullen et al., 2005)などが報告されている.ま た,生理面については心拍数の増加(Landers et al., 1985)や収縮期血圧の増加(Noteboom et al., 2001)という生理的覚醒水準の上昇を示す変化 が報告されており,これらは自律神経系や内分泌 系の変化と捉えられる.また,内分泌系の変化に ついてはコルチゾール分泌量の増加(Salvador et al., 2003)という報告もみられる.さらに,行動 面 に つ い て は 運 動 変 位 の 縮 小 ( Beuter et al.,
1989; Higuchi et al., 2002; Tanaka and Sekiya, 2010a, 2011),運動変位の変動性の増加(田中・ 関矢,2006)や減少(Higuchi, 2000),タイミン グの変動性の増加(Gray, 2004),運動遂行時間 の増加(Beuter and Duda, 1985)などの報告が みられる. また,「あがり」に関する先行研究には質問紙 調査を用いたものもある.例えば,市村(1965) はスポーツの試合場面における「あがり」経験を 対象に質問紙調査を行い,因子分析の結果,交感 神経系の亢進,心的緊張力の低下,運動技能の混 乱,不安感情という因子を抽出しており,有光・ 今田(1999)は自己不全感,責任感,および他 者への意識といった,自己の置かれている状況に 対する認知の促進という因子を抽出している.そ の他にも,試合場面では競技前に不安感情が増加 すること(Cerin, 2003; de Moj àa, and de Moj àa, 1986; Hanton et al., 2004)が質問紙によって明ら かにされている. さらに,近年では「あがり」の原因に着目した 先行研究も報告されており,注意の変化という認 知的側面から「あがり」を説明した複数の仮説が 提唱されている.それらは主に,パフォーマンス の低下を身体運動に対する過剰な注意配分に起因 さ せ る 意 識 的 処 理 仮 説 ( e.g., Masters, 1992; Hardy et al., 1996)と,身体運動に必要な注意配 分の不足に起因させる処理資源不足仮説(e.g., Eysenck and Calvo, 1992; Wine, 1971)に大別で きる.これらの 2 つの仮説は相反する認知的変 化によって「あがり」を説明する仮説と言える. このように,「あがり」に関する研究では,心 理面,生理面,行動面の 3 つの領域において生 じる変化や症状,プレッシャー下で生じる注意の 変化について明らかにされている.しかし,「あ がり」の機序を解明するうえでいくつかの課題も 残されている. 第一に,「あがり」の再現性という問題がある. 「あがり」の原因を注意の変化に起因させた先行 研究の多くは,意識的処理仮説や処理資源不足仮 説という 2 つの相反する仮説のどちらが正しい かを,実験室内で操作的に作り出した比較的低強
度のプレッシャー下で検証している.しかし,ス ポーツの試合場面で生じる「あがり」は高強度の プレッシャー負荷状態であるうえに,多様で複雑 な要因が混在した現象であると考えられ,実験室 内で競技スポーツ場面で生じる「あがり」現象を 正確に再現することは困難である.実際,試合場 面でみられるような高強度のプレッシャーを実験 室内で被験者に負荷することの困難さも指摘され ている(e.g., Williams et al., 2002).したがっ て,プレッシャー強度の問題に対処するために は,実際の「あがり」場面を対象として意識的処 理,処理資源不足が生じているかどうかを確認す る必要がある. 第二に,「あがり」に関連する要因間の関係性 を明らかにする必要がある.「あがり」時には注 意の変化以外にも心理面,生理面,行動面の 3 領域において多様な変化が生じる.各領域におい て生じる変化は,プレッシャーによって直接的に 生じる場合もあれば,ある領域における特定の変 化が別の領域の変化を誘発することも考えられ る.すなわち,注意の変化が単独でパフォーマン スに影響を及ぼしているとは考えにくい.したが って,「あがり」の機序を解明する際には,注意 の変化のみにとらわれずに,関連する要因間の関 係性を調べる必要がある. これらの 2 つの課題に対処するために有効な 手法として,実際の「あがり」場面を対象とした 質問紙調査が考えられる.例えば,実験研究に は,客観的データを測定することにより,実験参 加者の意識にのぼらない微細な変化でさえも収集 しやすいという利点がある.しかし,第一の「あ がり」の再現性の問題に対処することは難しい. 一方,質問紙調査では,スポーツ場面で実際に 「あがり」を体験した選手を対象とすることがで き,注意の変化が多くの選手が体験する「あがり」 場面で生じているかどうかを検討することもでき る.実験研究と異なる点は,調査研究では主観的 データが用いられるため,被調査者の意識にのぼ らない変化について検討することが困難であると いう点である.しかし,運動,あるいは運動以外 の対象に対して,通常以上に注意が向いたかどう かについては,被調査者の意識にのぼる変化であ り,質問紙によって調査することは十分可能であ ると考えられる.したがって,質問項目の中に注 意の変化に関する項目を取り入れ,実際の「あが り」場面を対象として調査することにより,これ までの注意に関する 2 仮説の説明可能性を高め ることが期待できる. しかし,前述した「あがり」に関するいくつか の調査研究では,「あがり」に関する注意の変化 については調べられてはいない.さらに,「あが り」の要因間の関係性に着目した研究も未だ乏し い 現 状 が あ る . 例 え ば , Tanaka and Sekiya (2011) は,ゴルフパッティング課題を用いた実 験から,運動に対する注意が増加することによっ て運動時間の変動性や運動速度の変動性が増加す ることや,心拍数およびネガティブな感情が増加 することによって運動の加速度が増加し,グリッ プ把持力が低下することを示している.このこと は,心理面や生理面の変化が行動面に影響を及ぼ すことを示している.そして,近年の実験研究で は,プレッシャー下で生じる運動学的,運動力学 的変化がパフォーマンスの低下を直接的に導く要 因として着目されている(e.g.,田中・関矢, 2006).しかし,実験研究ゆえに第一の課題であ る「あがり」の再現性の問題が残されている.ま た,村山ほか(2009)はグラウンデッド・セオ リー・アプローチという質的手法を用いて「あが り」の発現機序を帰納的に調べ,「あがり」の背 景にある心理・生理・行動連関を検討した.そし て,「あがり」を体験した13名の選手の発話デー タから,知覚・運動制御の変化,安全性重視方 略,身体的疲労感という注意の変化以外の要因が パフォーマンスの低下に直結する要因であること を示した.この研究でも運動制御の変化に関する 要因が抽出されており,非論理的思考,ネガティ ブ感情,方略の変化という心理面の変化や,交感 神経系の亢進という生理面の変化から影響を受け る過程が確認されている.また,この研究では, 一見,第一,第二の課題に対処できているように 見えるが,知覚の変化や安全性重視方略,身体的 疲労感は少数のデータから見出された要因である
ため,多くのスポーツ選手が体験する「あがり」 場面でも生じているかどうかについて検討する必 要性が指摘されている.さらに,性格特性が「あ がり」に関与するとの指摘がある.特に,「あが り」と関連の深い性格特性として神経症傾向(麓 ほ か , 1992 ) や 自 己 意 識 の 高 さ ( Baumeister, 1984; Wang et al., 2004),特性不安の高さ(橋 本・徳永,2000)が報告されている.また,自 己意識は内向性と親和性が高い特性であり(木村 ほか,2008),自己意識の高さが意識的処理に関 連 す る こ と も 示 さ れ て い る ( e.g., Baumeister, 1984).したがって,これらの性格特性も 3 領域 の変化とは無関係ではないが,3 領域の要因との 関係については未だ明らかにはされていない. このように,いくつかの先行研究では「あがり」 の要因間の関係性に着目されてはいるが,「あが り」研究が有する 2 つの課題,あるいはサンプ ル数などの方法論的課題が残されている.したが って,「あがり」現象を包括的に探るためには, 実際の「あがり」場面,ならびに多数の被調査者 を対象として,注意の変化のみでなく,知覚,方 略,疲労感,性格特性を調査項目に含めて「あが り」の原因を調べる必要がある.唯一,Muraya-ma et al. (2010) が多数のスポーツ選手の「あが り」を対象として注意,知覚,方略,疲労感,性 格特性を含めた質問紙調査を行い,因子分析の結 果,ネガティブな思考・感情,運動制御の変化, 生理的覚醒水準の上昇,コミュニケーション不 全,神経症的性格,大会前コンディション,体性 感 覚 異 常 と い う 7 因 子 を 抽 出 し て い る . し か し,第二の課題である要因間の関係性については 検討されておらず,「あがり」の機序を解明する うえでの課題とされている. ところで,要因間の関係性を調べる手法とし て,近年,共分散構造分析が着目されている.共 分散構造分析では,先行研究に基づいて潜在変数 間の関係性をモデルとして仮定し,モデルの妥当 性を統計的に検証することができる.潜在変数間 の関係性を全て記述できるわけではないが,仮説 に基づいて仮定したモデルを検証できる点に共分 散構造分析の利点がある.島本・石井(2009) は体育授業におけるスポーツ経験がその後のライ フスキルの獲得にどのような影響を与えるかにつ いて質問紙調査を行い,共分散構造分析の結果, 体育授業における自己開示や挑戦達成という要因 がライフスキルの獲得に影響することを示した. 特定の現象に関連する要因間の関係性を検証する うえで共分散構造分析は有効なツールである. 「あがり」においては,運動パフォーマンスの低 下や運動制御の変化に影響を及ぼす要因および要 因間の関係性をモデルとして仮定し,共分散構造 分析によって検証することで,パフォーマンス低 下の機序が明らかにされると考えられる.特に, 「あがり」においては,心理面や生理面の変化が 行動面に影響を及ぼす可能性が推測できる.山鳥 (2008)によれば,情動性の身体状態は感情に先 行して生じるため,心理面が生理面から影響を受 ける可能性が高い.さらに,村山ほか(2009) によれば,運動制御の変化は,非論理的思考,ネ ガティブ感情,安全性重視方略,身体的疲労感と いう心理面の変化や,交感神経系の亢進という生 理面の変化から影響を受ける過程が確認されてい る.特に,方略の変化や疲労感が運動制御の変 化,あるいは運動パフォーマンスの低下に影響す る過程については共分散構造分析によって検証す る必要がある.さらに,Baumeister(1984)や Wang et al. (2004) は自己意識の高い選手ほど内 的注意が促進することを指摘しているため,性格 特性から注意への影響についても検証する必要が ある. 以上のことから,心理面や生理面の要因が行動 面の変化に影響を及ぼすモデルを共分散構造分析 によって検証することで,「あがり」の機序が明 らかになると考えられる.そこで本研究では,実 際の試合場面で「あがり」を経験した選手を対象 に,スポーツにおける「あがり」に関連する要因 と要因間の関係性を共分散構造分析によって検討 することを目的とした.特に,これまでの実験研 究,質問紙調査,ならびに質的研究によって得ら れた要因をすべて踏まえ,注意だけでなく,知 覚,方略,疲労感,ならびに性格特性を含めた質 問紙調査を行うこととした.
方
法
. 被調査者 スポーツの試合場面でみられる「あがり」を調 査するために,大学運動部,ならびに体育系サー クルに所属する大学生786名を対象としてアン ケート調査を行った.記入漏れや記入ミス,なら びに回答に著しい偏りの見られた者を除く有効回 答者は696名(男子511名女子185名)であり, 有効回答率は88.5であった.また,本研究では 「あがり」時の状況について正確に回答すること が可能な被調査者を確保する必要があった.その ため,過去 1 年間以内にスポーツ場面における 「あがり」経験を有している選手のみを分析対象 とした.データ収集の結果,696名中161名が, 過去 1 年間の間に「あがり」経験を有していな かったため,本研究では最終的に535名(男子 393名女子142名)のデータを本研究における 分析対象とした.なお,平均年齢は20.2歳であっ た. . データ収集 1) 調査時期 2009年10月から2011年 5 月までの約 1 年 7 ヶ 月間でデータ収集を行った. 2) 調査項目と手続き 調査は,対象となる運動部員,あるいは体育系 サークルの構成員に対して質問紙を配布して行っ た.まず,プロフィールに記入させ,日常におけ る自己の特性に関する17項目に対して回答を求 め た . な お , こ れ ら の 項 目 は 性 格 特 性 ( Per-sonality)に関する項目であるため,P1―P17と した.有光(1999)によれば,「あがり」やすさ に関連の深い性格特性として,公的自己意識,情 緒不安定性,シャイネスがある.そこで本研究で は,性格特性に関する先行研究で用いられている 質 問 項 目 を 参 考 に , 公 的 自 己 意 識 ( 菅 原 , 1984),情緒不安定性(和田,1996),シャイネ ス(相川,1991)に関する17項目を使用した. なお,本研究では,「あがり」を「高いパフォー マンスを発揮しようと努力するにも関わらず,プ レッシャーによってパフォーマンスが低下する現 象」(Baumeister, 1984)と定義し,質問紙に記 載した.そして,「あがり」を経験した競技種目 や,その種目に関する競技歴と競技成績に関して 記述させた.その後,大学入学後の運動場面にお ける「あがり」経験の有無について回答を求め, 「あがり」経験を有する者については,その時の 状況を想起させたうえで「あがり」に関する105 項目に回答させた.また,「あがり」経験がない と回答した者は,分析対象から除外した. 質問項目は,これまでの「あがり」に関する質 問紙調査や実験研究で示されている因子をすべて 調査できるよう独自に作成した.まず,質問紙調 査からは市村(1965)の研究で報告された交感 神経系の亢進,心的緊張力の低下,運動技能の混 乱,不安感情の 4 因子や,有光・今田(1999) の研究で報告された自己不全感,身体的不全感, 震え,責任感,生理的反応,他者への意識の 6 因子を参考に作成した.また,村山ほか(2009) の質的研究で報告された安全性重視方略,身体的 疲労,大会前コンディション,あがりの悪循環, ならびに運動パフォーマンスの低下の 5 因子に 関する項目を加えた.さらに,「あがり」に関す る実験研究において示されている注意の変化に関 する項目を追加し,計122項目から構成される質 問紙を作成した.なお,回答方式は競技種目や競 技歴などのプロフィールに関する質問を除く全て の項目において 1.「まったく当てはまらない」, 2.「あまり当てはまらない」,3.「どちらともい えない」,4.「わりと当てはまる」,5.「とても当 てはまる」の 5 件法とした. . データ分析 まず,「あがり」に関する122項目(項目 P1― P17,および項目 Q1―Q105)のデータについて 探索的因子分析(最尤法,Promax 回転)を行い, データの背景にある共通因子を抽出した.その 後,因子間相関や「あがり」に関する先行研究に 基づいて因子間の関係性を仮定し,その仮説を検 証するための分析モデルを構築した.そして,分表 11因子における因子相関行列 F1 F2 F3 F4 F5 F6 F7 F8 F9 F10 F11 F1 F2 .48 F3 .52 .52 F4 .27 .31 .31 F5 .46 .21 .37 .43 F6 .52 .48 .37 .28 .23 F7 .48 .29 .25 .09 .28 .32 F8 .53 .20 .20 .14 .22 .51 .36 F9 .30 .32 .22 .12 .11 .30 .33 .27 F10 .46 .21 .27 .16 .17 .28 .20 .35 .17 F11 .19 .34 .29 .12 .17 .27 .31 .09 .29 .22 小数点以下,第 3 位を四捨五入した. 析モデルを共分散構造分析によって検証し,「あ がり」現象を説明するモデルを検討した.モデル のデータへの適合度を表す指標としては,小塩 (2004)による分析方法に関する指摘を参考に, GFI (Goodness of Fit Index), CFI (Comparative Fit Index), AGFI (Adjusted Goodness of Fit In-dex), RMSEA (Root Mean Square Error of Ap-proximation) を用いた.なお,有意水準は 5 とし,統計分析におけるソフトウェアとして,探 索的因子分析については SPSS Statistics Ver.19 ( IBM 社 製 ) を , 共 分 散 構 造 分 析 に つ い て は Amos 16.0(SPSS 社製)を使用した.
結
果
. 「あがり」に関連する因子の抽出 探索的因子分析の結果,第 1 因子(F1)「運動 制御の変化と悪循環」,第 2 因子(F2)「身体異 常感覚」,第 3 因子(F3)「知覚・認知的混乱」, 第 4 因子(F4)「内向性」,第 5 因子(F5)「自己 意識」,第 6 因子(F6)「身体重量感・脱力感」, 第 7 因子(F7)「意識的処理」,第 8 因子(F8) 「消極性」,第 9 因子(F9)「身体的疲労感」,第 10因子(F10)「安全性重視方略」,ならびに第11 因子(F11)「熱感」の11因子を抽出した.因子 名を決定する際には,「あがり」の症状を質問紙 によって調べた市村(1965)および有光・今田 (1999)の調査研究や,村山ほか(2009)の質的 研究における要因名を参考にした.因子数の決定 は,固有値や累積寄与率を参考にし,最終的に 11因子,77項目が最適であると判断した.なお, 11因子までの累積寄与率は46.8であった.ま た,各因子における Cronbach の a 係数は,F1 =.93, F2=.87, F3=.81, F4=.81, F5=.76, F6 =.84, F7=.74, F8=.83, F9=.83, F10=.77, F11 =.78であった.表 1 に11因子の因子相関行列を 示した. まず,F1 の22項目は,運動の混乱,通常とは 異なるプレーやミスの増加,焦り,ならびに「あ がり」の促進などに関するものであり,運動制御 の変化と「あがり」の促進に関する項目であった ため「運動制御の変化と悪循環」因子と命名した. F2 の12項目は,身体の浮遊感や震え,呼吸器系 の異常など「あがり」における身体の異常感覚を 示すものであったため,「身体異常感覚」因子と 命名した.F3 の10項目は,結果に対するあきら めや調子の悪さへの懸念,周囲に対する否定的な 知覚・認知などを示す項目であったため,「知 覚・認知的混乱」因子と名付けた.F4 の 6 項目 は,消極的で引っ込み思案な傾向や,非論理的な 思考傾向など,被調査者の内向的な性格特性を示 す項目であったため,「内向性」因子と命名した. F5 の 5 項目は,他者評価に対する意識傾向や, 心配性傾向,緊張傾向など,被調査者の自意識の図 潜在変数間の関係性を仮定した「あがり」の分析モデル 高さを示す項目であったため「自己意識」因子と 名付けた.F6 の 4 項目は,手足の重量感や,力 量調節の不全感などを示す項目であったため, 「身体重量感・脱力感」因子と命名した.F7 の 4 項目は,「あがり」時における自己の運動やフォー ムに対する注意の増加,ならびに運動を意識的に 制御しようとする心的労力の増加に関する項目で あったため「意識的処理」因子と命名した.F8 の 5 項目は,ためらい行動の増加や思い切りの ないプレーの増加,ならびに非積極的な運動の選 択などを示す項目であったため,「消極性」因子 と命名した.F9 の 3 項目は,身体の疲労感に関 する項目であり,「身体的疲労感」因子と命名し た.F10の 4 項目は,失敗のリスクが少ない運動 やプレーの選択,無難で安全な方略への変化に関 する項目であったため,「安全性重視方略」因子 と命名した.最後に,F11の 2 項目は,身体が紅 潮した感覚に陥ることを示す項目であったため 「熱感」因子と命名した. . 潜在変数間の関係性 1) 分析モデルの仮定 探索的因子分析において抽出された因子を潜在 変数とし,潜在変数間の関係性を仮定した分析モ デルを作成した.分析モデルの作成においては 11因子間の相関係数が .40以上の箇所に着目し, 「あがり」に関する先行研究の結果を踏まえて因 果関係を仮定した.なお,「身体的疲労感」と 「熱感」は,「運動制御の変化と悪循環」との相関 係数がそれぞれ .30,.19と低い値を示し,その他 の因子とも低い相関関係にあった.したがって, これらの 2 因子は分析対象から除外し,残りの 9 因子を潜在変数として潜在変数間の関係性を仮定 した分析モデルを仮定した(図 1). まず,「内向性」と「自己意識」は被調査者個 人の性格特性に関する因子であり,内向性の高さ と公的自己意識の高さは親和性の高い特性である ことが指摘されている(木村ほか,2008).「自 己意識」は,「あがり」時における運動やフォー ムへの狭く内的な注意にも影響を与える可能性が あるため,「内向性」から「自己意識」への影響 を 仮 定 し た . そ し て , Baumeister ( 1984 ) や
Wang et al. (2004) は自己意識の高い選手ほど内 的注意が促進することを指摘しているため,「内 向性」と「自己意識」から「意識的処理」への因 果関係を仮定し,「意識的処理」が「運動制御の 変化と悪循環」や「消極性」に影響を与えると考 えた.また,「身体異常感覚」が示す情動性の身 体状態は感情に先行して生じる(e.g.,山鳥, 2008)ことから,「身体異常感覚」から「意識的 処理」,「知覚・認知的混乱」,ならびに「身体重 量感・脱力感」への関係を仮定した.また,「知 覚・認知的混乱」は通常ではみられない「身体重 量感・脱力感」によって生じると考えられる.さ らに,「身体重量感・脱力感」を伴うような運動 制御の変化は「安全性重視方略」という運動方略 の変化をもたらし,「安全性重視方略」の利用は 「消極性」によっても促進することが考えられる. したがって,本研究では「安全性重視方略」や 「消極性」が「身体重量感・脱力感」から影響を 受けながら「運動制御の変化と悪循環」を導くと 仮定した. 2) 分析モデルの評価と再構築 本研究では,小塩(2004)による分析モデル の評価方法を参考に,CFI, GFI, AGFI について モデル採択の基準値を .90とした.分析モデルを 共分散構造分析によって検証した結果,データへ の適合度は,RMSEA=.05, GFI=.74, AGFI= .72, CFI=.77であった.なお,本研究における観 測変数は77であったが,豊田(2002)は観測変 数が30より多い場合には 1 自由度あたりの乖離 度を評価する RMSEA を使用することを提案し ている.そこで本研究ではモデルとデータとの適 合度を測る主たる指標として RMSEA を優先的 に使用し,Browne and Cudeck (1993) を参考 に .08以下をモデル採択の基準値とした.したが って,GFI, AGFI,および CFI についてはモデ ル採択の基準となる .90以上の値は得られなかっ たが,RMSEA についてはモデル採択の基準値 である .08以下の値を得た.潜在変数間の因果係 数については,「身体重量感・脱力感」から「知 覚・認知的混乱」(因果係数=.07),「身体重量感・ 脱力感」から「意識的処理」(因果係数=.17), 「内向性」から「意識的処理」(因果係数=-.11), 「自己意識」から「運動制御の変化と悪循環」(因 果係数=.11),「身体異常感覚」から「運動制御 の変化と悪循環」(因果係数=.16),ならびに 「身体重量感・脱力感」から「運動制御の変化と 悪循環」(因果係数=-.07)において因果係数が 有意な値を示さなかった.共分散構造分析では, 検定結果をもとに有意水準を下回るパスの削除や 新たなパスの付加によって,より適合度の高いモ デルを探索することがある.したがって,「身体 重量感・脱力感」から「知覚・認知的混乱」およ び「意識的処理」へのパス,「内向性」から「意 識的処理」へのパス,ならびに「自己意識」,「身 体異常感覚」,「身体重量感・脱力感」から「運動 制御の変化と悪循環」へのパスを削除し,再度共 分散構造分析を行った.その結果,すべての潜在 変数間の因果係数が統計的に有意な値を示し( p < .001 ), デ ー タ へ の 適 合 度 は RMSEA = .05, GFI=.74, AGFI=.72, CFI=.77であった.しか し,確認的因子分析の結果,「運動制御の変化と 悪循環」から Q99,Q85への影響指標が .29と低 い値を示したため,これらの 2 項目を分析から 除外したうえで再度共分散構造分析を行った.そ の結果,データへの適合度は RMSEA=.05, GFI = .75, AGFI = .73, CFI = .79 で あ り , GFI, AGFI,および CFI についてはモデル採択の基準 と な る .90 以 上 の 値 は 得 ら れ な か っ た が , RMSEA に つ い て は モ デ ル 採 択 の 基 準 値 で あ る .08 以 下 の 値 を 得 た . そ こ で 本 研 究 で は , RMSEA の値が許容範囲であったことにしたが い,最終的な分析モデルが妥当であると判断し た.なお,確認的因子分析の結果,分析で用いた 全ての潜在変数において,各潜在変数から観測変 数への影響指標がいずれも .40以上の値を示し, かつ統計的に有意であった( p<.001).このこ とから,本研究で抽出された潜在変数と観測変数 の関係は適切であることが示された.図 2 に本 研究で得られた「あがり」の機序を示すモデルを 示した.モデルにおいては,各潜在変数間のパス に因果係数を記載し,特定の潜在変数から影響を 受ける潜在変数の右上に重決定係数を記載した.
図 本研究で採択されたスポーツにおける「あがり」の機序モデル 表 探索的因子分析における11因子の因子負荷量および共通性と,共分散構造分析における 9 つの潜在変数,観 測変数,および影響指標 項目内容(潜在変数および観測変数) 因子負荷量 共通性 影響指標 F1運動制御の変化と悪循環 Q104 結果に結びつかない動作・プレーが増えた .83 .65 .70 Q90 自分に対して落胆した .79 .64 ― Q80 正確な動作・プレーができなかった .78 .61 .67 Q103 プレー中の反応が遅れた .71 .65 .63 Q81 恥ずかしさを感じた .67 .61 .59 Q68 思うような動作ができず,‘あがり’が促進した .64 .78 .76 Q59 ミスから不安になり,‘あがり’が促進した .62 .63 .70 Q93 自信がなかった .57 .66 .56 Q74 プレーが結果に結びつかなかった .56 .64 .54 Q65 力む必要のない動作で,力んでしまった .52 .57 .59 Q61 自分の失敗が気になった .51 .58 .59 Q52 いつもよりミスが増えた .50 .54 .65 Q87 落ち着こうとして焦った .50 .54 .64 Q79 劣等感にとらわれた .46 .56 .57 Q71 思いきっていこうとして,力んでいた(身体や動作に関して) .42 .49 .47 Q82 いつもより,周りのことが気になった .41 .51 .47 Q69 自分のしているプレーが正しいのか間違っているのかわからなくなった .39 .51 .62 Q28 焦っていた .39 .58 .60 Q85 ためらうことなくプレーすることができた .38 .45 ― Q54 雰囲気にのまれた .38 .46 .53 Q41 悪いイメージばかり浮かんだ .36 .54 .61 Q18 対処しようとしたがうまくいかず‘あがり’が促進した .35 .66 .65
表 つづき 項目内容(潜在変数および観測変数) 因子負荷量 共通性 影響指標 F2身体異常感覚 Q101 自分の足が地に着いていないような感じがした .75 .73 .64 Q89 身体が宙に浮いているような気がした .70 .62 .62 Q75 手足の感覚がわからなかった .61 .63 .72 Q92 呼吸が乱れ,息苦しかった .54 .53 .67 Q83 喉が詰まったような感じがした .48 .72 .61 Q94 手足が思うように動かなかった .46 .66 .69 Q88 頭が熱くなった .45 .59 .58 Q84 周囲の人の顔が見えなくなった .43 .50 .60 Q86 手が冷たい感じがした .43 .44 .45 Q96 誰とも会話したくなかった .39 .47 .51 Q35 手足が震えた .35 .49 .54 Q76 恐怖心があった .31 .61 .54 F3知覚・認知的混乱 Q45 所属クラブ(大学)の仲間の言動にストレスを感じていた .67 .57 .55 Q46 もうどうでも良いという気になった .53 .46 .52 Q62 何度やっても失敗するに違いないと思った .48 .65 .70 Q33 その試合の前(およそ一週間)は,技術面の調子が悪かった .47 .50 .46 Q55 その試合の前(およそ一週間)は,身体の調子が悪かった .45 .50 .41 Q21 試合前から,その種目や課題に対して苦手意識を持っていた (例個人・団体,サービス・レシーブ,PK,バッティングなど) .45 .39 .51 Q22 他人の目が自分だけに向いている感じがした .44 .55 .52 Q97 イライラした .42 .48 .56 Q17 周囲の物が,自分に対して不利に見えた (例ネットが高く見えたり,自分のコートが広いと感じたりなど) .40 .43 .53 Q58 周囲の状況と自分が,かけ離れたものに感じた .36 .58 ― F4内向性 P8 前向きな性格ではない .79 .70 .78 P3 消極的である .76 .61 .76 P4 マイナス思考である .74 .73 .76 P16 引っ込みじあんである .54 .71 .66 P2 罪悪感を感じやすい .40 .50 .52 P14 新しい友人がすぐにできない .40 .44 .43 F5自己意識 P12 自分についてのうわさが気になる .76 .66 .67 P17 他人からの評価を考えながら行動する .75 .58 .66 P15 傷つきやすい .60 .55 .70 P11 心配性である .47 .45 .61 P13 よく緊張したり神経過敏になったりする .44 .45 .60 F6身体重量感・脱力感 Q7 足が重たかった .92 .74 .80 Q9 手や腕が重たかった .77 .71 .80 Q4 足を動かそうと思っても動かない感じがした .64 .68 .78 Q3 手足に力を入れようとしても力が入らなかった .41 .63 .63
表 つづき 項目内容(潜在変数および観測変数) 因子負荷量 共通性 影響指標 F7意識的処理 Q66 自分のフォームや動作が気になった .70 .70 .66 Q29 いつもより,自分のフォームや動作を意識した .70 .61 .56 Q64 ‘あがり’を解消しようと,自分なりに努力した .46 .56 .63 Q51 ‘あがり’に対処しようと,努力した .42 .73 .67 F8消極性 Q11 ちゅうちょする(ためらう)場面が多かった .71 .62 .73 Q12 判断力が低下した .56 .57 .69 Q13 動作が堅く,ぎこちなかった .52 .65 .71 Q36 思いきりのない動作をしていた .52 .59 .69 Q8 消極的だった .43 .58 .67 F9身体的疲労感 Q42 いつも以上に体力を使って疲れた .86 .76 ― Q32 いつもより早く,身体の疲労感を感じた .71 .67 ― Q16 いつもより疲れた .70 .65 ― F10安全性重視方略 Q40 失敗のリスクが少ない動作・プレーを意識した .66 .65 .80 Q72 消極的な方法(戦術・戦略)を用いた .62 .66 .77 Q31 無難で安全な方法(戦術・戦略)を用いた .57 .50 .60 Q105 とりあえずミスをしないプレーや動作を心がけた .46 .53 .54 F11熱感 Q10 耳たぶや頬がほてるように熱かった .82 .53 ― Q24 全身が熱くなった .71 1.00 ― 因子負荷量,共通性,および影響指標は小数点以下,第 3 位を四捨五入した. また,表 2 に,探索的因子分析で抽出された11 因子の因子負荷量および共通性と,共分散構造分 析における 9 つの潜在変数,観測変数,および 影響指標を示した.なお,共分散構造分析の過程 で除外された項目内容の影響指標については「―」 で 示 し た . そ し て , 表 2 を 併 記 す る こ と に よ り,図 2 については潜在変数のみを示して観測 変数は省略した.
考
察
本研究では,多くの学生競技者を対象に,ス ポーツにおける「あがり」に関連する要因を質問 紙によって調査し,要因間の関係性を検討するこ とを目的とした.探索的因子分析の結果,「運動 制御の変化と悪循環」,「身体異常感覚」,「知覚・ 認知的混乱」,「内向性」,「自己意識」,「身体重量 感・脱力感」,「意識的処理」,「消極性」,「身体的 疲労感」,「安全性重視方略」,ならびに「熱感」 の11因子が抽出された.そして,「身体的疲労 感」,「熱感」を除く 9 因子を潜在変数とした分 析モデルを仮定し潜在変数間の関係性を調べたと ころ,9 つの潜在変数による「あがり」の機序モ デルの妥当性が確認された. . プレッシャー下における性格特性と注意 本研究では注意の変化に関する質問項目を取り 入れたうえで質問紙調査を行った.その結果,実 際の「あがり」場面において「意識的処理」とい う注意の変化が生じることが明らかになり,さら には「意識的処理」と性格特性との関係性が示さ れた.モデルでは「内向性」の高さが「自己意識」を規定する要因であり,「自己意識」が高いほど 「意識的処理」を介して運動制御の変化や「あが り」の悪循環が生じやすいことが示された.自己 意識の高い選手ほど意識的処理が促進することは, Baumeister(1984)や Wang et al. (2004) によ って指摘されているが,「自己意識」が「内向性」 に規定されることについては今回新たに検証され た知見である.Fenigstein et al. (1975) は自己意 識を 3 つに区分しており,それらは第一に,他 者が知ることのできない自己の内面に対する注意 を示す私的自己意識,第二に他者との関わりの中 で自分がどう見られているかという評価に対する 注意を示す公的自己意識,そして第三に不安,緊 張,当惑などの社会不安である.本研究における 「自己意識」は,自分についての噂や他者からの 評価を意識しやすい傾向,神経過敏や心配性で緊 張しやすいという性格特性を示していたことか ら,公的自己意識や社会不安を示していると考え られる.公的自己意識と社会不安は互いに関連の 深い性格特性であり(菅原,1984),「あがり」 易さや「あがり」におけるパフォーマンスの低下 を 導 き や す い こ と が 報 告 さ れ て い る ( 有 光 , 1999堤,2006). ところで,公的自己意識や社会不安の高さは, 注意や意識にも影響する.特に,公的自己意識の 高い人ほど他者からの評価的態度に敏感であるこ と(Fenigstein, 1979)が指摘されていることか ら,本研究における「自己意識」は,他者への注 意・意識を促進させる性格特性であると推察でき る.そして,堤(2006)によれば,「あがり」で は現前の多くの他者への意識を奪われることによ って自己への統制力を失うが,意識を他者から引 き離し,自己の私的世界に没入することで「あが り」が減少すると説明されている.すなわち, 「自己意識」は「あがり」と関連の深い性格特性 であるが,特に,自己の外的側面に対する意識を 促進させる公的自己意識が「あがり」やすさと密 接に関連していると言える.さらに本研究では, 「内向性」が「自己意識」を規定する要因であっ たが,「内向性」の高い選手ほど外部環境の刺激 に弱いために,試合などの状況において動機づけ が過剰になりやすい(杉原,1987).これらのこ とから,プレッシャーを伴う状況下では,「内向 性」の高い選手ほど動機づけが過剰になり,「自 己意識」が高まることによって外的側面へ注意・ 意識が促進してしまうことが推察できる. しかし,本研究においては外的側面への注意を 促進させる「自己意識」が運動という内的側面へ の過剰な注意配分を示す「意識的処理」を規定す る要因であることが示された.この結果は自己意 識と注意の変化の間に一見矛盾する関係を示して いるが,菅原(1984)は公的自己意識が自己顕 示性とも関連することを示しており,自己顕示性 の高い人は積極的な自己呈示行動か,あるいは防 衛的,逃避的行動をとりやすいことを指摘してい る.特に,自己呈示行動は,他者の目に映る自己 に対する強い意識を生じさせるため,内的注意を 増加させる可能性がある.したがって,本研究に おける「自己意識」は他者への意識や注意を促進 する特性ではあるが,自己呈示傾向の増加によっ て「意識的処理」という内的注意が高まり,その 結果,運動制御が変化しパフォーマンスが低下し やすくなると考えられる. 公的自己意識から意識的処理への関係は,これ までに報告されていない新たな知見である.注意 の変化は,多くの実験研究によってパフォーマン スを阻害することが示されてきたが,実際の「あ がり」場面で生じているかどうかについては不明 であった.また,「あがり」場面を対象とした質 問紙研究(e.g.,市村,1965)では「あがり」時 の症状について報告されているが,注意の変化が 生じていることや,性格特性との関係については 確認されていない.すなわち,本研究の意義は, 実際の「あがり」場面においても注意の変化が生 じること,さらには注意の変化が性格特性と関連 することを示した点にある. . 情動と認知の相互作用 モデルにおいて,「意識的処理」を規定する要 因として「身体異常感覚」が示された.「身体異 常感覚」は,身体の浮遊感や震え,ならびに呼吸 器系の異常などを示しており,「意識的処理」以
外にも,「知覚・認知的混乱」と「身体重量感・ 脱力感」を規定する要因であった.特に,「身体 異常感覚」から「知覚・認知的混乱」への因果係 数は .59という比較的高い値を示しており,「身 体異常感覚」から「身体重量感・脱力感」への因 果係数も .77という高い値を示した.「身体重量 感・脱力感」は,手足の重量感や力量調節の困難 さなどの変化を示す要因である.このことから, 「あがり」時には,運動の意識的処理という注意 の変化や,失意,諦め,ならびに周囲に対する否 定的な知覚・認知などの変化が生じたり,手足の 重量感や脱力感という変化が生じるが,これらの 変化は「身体異常感覚」が高まるほど生じやすい と考えられる.「身体異常感覚」は情動性の身体 状態に基づく異常感覚であり,生理面の影響も反 映されている.「あがり」を生理的覚醒水準と認 知的不安の相互作用によって説明するカタストロ フィモデル(Hardy, 1990; Hardy and Parˆtt, 1991)では,生理的覚醒水準が高い場合は認知 的不安の増加とともにパフォーマンスが低下する ことが示されている.また,情動性の身体状態が 感情に先行して生じることは示されているが(山 鳥,2008),「身体異常感覚」のような情動性の 身体状態が高まることにより,意識的処理という 注意の変化や手足の重量感・脱力感が生じやすい という関係は示されていない.さらに,Calvo and Miguel-Tobal (1998) は,心拍数や皮膚電位 抵抗の変化が顕著であるほど内部感覚の知覚が促 進するために自己の不安感情を高いと報告しやす いことを指摘しているが,意識的処理という注意 の変化が心拍数や皮膚電位抵抗の変化とどのよう に関係するかについては言及されていない.した がって,「身体異常感覚」が高いほど,「意識的処 理」や「知覚・認知的混乱」,ならびに「身体重 量感・脱力感」が高まるという本研究の結果は, 「あがり」の背景に情動と認知の相互作用が関与 していることを示している. ところで,本研究では処理資源不足という注意 の変化が示されなかった.ここにも「身体異常感 覚」が影響した可能性が考えられる.処理資源不 足や意識的処理という認知的変化に基づく「あが り」の仮説はこれまで実験的に検証されてきた. しかし,実験室内で再現された「あがり」状況は, 身体浮遊感や震えといった身体の異常感覚を呈す るほど高強度のプレッシャー状況下とは言えな い.すなわち,実験室内と実際の「あがり」場面 では,身体の情動反応の大きさが顕著に異なると 言える.身体の情動反応が顕著になれば,観衆や 結果などの外的対象よりも,自己の身体状態や運 動それ自体に注意が過剰に向いてしまう可能性が 考えられる.ただし,高強度のプレッシャー下で 注意の変化の存在を調べた研究自体が少ない中 で,本研究の結果から実際の「あがり」場面では 処理資源不足が生じにくいと断定することは難し い.したがって,今後は高強度プレッシャーと注 意の変化の関係についてさらに検証を重ねる必要 がある. 以上のことから,「あがり」を注意という認知 的側面の変化のみで説明することは困難であるこ とが分かる.したがって,本研究の結果は,「あ がり」を解明するためには注意の変化以外の変化 を含めたうえで,変化間の関係を明らかにするこ との重要性を提示したと言える. . 運動制御に影響を及ぼす要因 本研究の結果,「身体異常感覚」が高いほど 「身体重量感・脱力感」が高まり,「消極性」も生 じやすいことが確認された.「消極性」は,判断 力の低下やためらい行動の増加,ならびに非積極 的な運動の選択などを示しており,運動が堅く, ぎこちなくなったことを示す質問項目も含まれて いた.つまり,「消極性」や「身体重量感・脱力 感」は「あがり」時の運動制御の異常と密接に関 連する変化であると考えられる.そして,「消極 性」は,パフォーマンスに直結する「運動制御の 変化と悪循環」を規定する要因であることが確認 された.近年の実験研究では,プレッシャー下で 生じる運動学的,運動力学的変化が運動パフォー マンスの低下を直接的に導く要因として着目され ており(e.g.,田中・関矢,2006),このような 行動面の変化が心拍数の増加によって生じる可能 性 に つ い て も 指 摘 さ れ て い る ( Tanaka and
Sekiya, 2010b).したがって,本研究の結果は情 動性の身体状態によってパフォーマンスが影響を 受けるが,その間には情動性の身体状態によって 生じやすい知覚・認知的変化や手足の重量感など の身体感覚の変化があること,さらにはそれらの 変化が消極的な行動を招くために,運動制御が変 化しパフォーマンスが阻害される可能性を示した と言える. さらに,「消極性」が高まることにより「安全 性重視方略」という方略が採用されやすくなり, 「安全性重視方略」の採用によって「運動制御の 変化と悪循環」が生じることが確認された.「安 全性重視方略」は,消極的で,無難で安全な方法 (戦術・戦略)を用いるなど,失敗のリスクを最 小限にとどめるための運動方略を意味しており, このような通常とは異なる運動方略の変化は運動 制御を変化させると考えられる.特に,「消極性」 から「安全性重視方略」への因果係数は .71とい う高い値を示していることから,「あがり」時に 生じる運動制御の変化は,「消極性」というため らい行動や思い切りのないプレーへの変化に規定 されるだけでなく,安全性を重視するという方略 の変化にも規定されることがわかる.これまでの 「あがり」に関する先行研究においては,プレッ シャーによる運動学的変化が,運動方略の変化に よって生じる可能性については指摘されている (Higuchi et al., 2002; Gage et al., 2003田中・関 矢,2006; Tanaka and Sekiya, 2010a).しかし, 実際の「あがり」場面を対象として質問紙を用い て方略の変化が生じることを実証した研究は報告 されていない.したがって,行動面の変化が安全 性重視方略の採用によって生じやすくなるという 本研究の結果は,「あがり」を注意の変化のみで 説明した仮説に対して,運動方略という新たな要 因を加える必要性を提言している.ただし,本研 究では様々な種類の運動種目を対象としており, 安全性を重視する方略は,異なる種目間で必ずし も一様ではないと考えられる.したがって,今後 は「あがり」時に生じる安全性重視方略について, 種目特性を踏まえたうえで詳細に検討する必要が ある.安全性重視方略の内容を詳細に調べること は,運動制御の変化を予防するうえでの新たな対 処法の提案につながるかもしれない. 以上のことから,本研究では「あがり」に関連 する複数の要因間の関係性について検討し,要因 間の関係を示す「あがり」の機序モデルを示した. 特に,「あがり」には 9 つの要因が関与している ことから,ある特定の要因のみで「あがり」の機 序を説明することが困難であることを示してい る.また,現場の選手や指導者に対して,プレッ シャーによって生じやすい注意の変化や身体状態 の変化に対する対処や予防の重要性を提案するこ とができる. しかし,「消極性」や「安全性重視方略」とい う要因がパフォーマンスを規定すると考えたと き,本研究においてこれらの要因が具体的にどの ような運動学的・運動力学的変化に影響するのか を検証することは困難である.本研究のような質 問紙調査では,一般的に主観的データを基に分析 が行われるが,実際の「あがり」場面においては 被調査者の無意識下において微細な運動学的・運 動力学的変化が生じている可能性もある.行動面 において生じる微細な変化を調べるためには実験 的手法が有用であり,プレッシャー下で生じる運 動学的・運動力学的変化を客観的に測定すること で,パフォーマンスの低下に直結する行動面の変 化や,それらの行動面の変化に影響を及ぼす心理 面や生理面の要因が明らかになると考えられる. また,共分散構造分析では,潜在変数間の関係性 をすべて検証できる訳ではない.実際の「あがり」 場面では,村山ほか(2009)が指摘するように, 要因同士が一方向に関係するだけでなく,相互連 関する可能性も高い.しかし,本研究では,先行 研究に基づいて構築した分析モデルの妥当性を検 証することはできたが,要因間の相互連関の検討 は今後の課題として残されている.さらに,本研 究で得られた質問紙調査のデータは横断的データ であるため,厳密には要因間の時間的先行性につ いて言及することはできない.したがって,今後 は本研究で得られた要因間の因果関係について検 証する必要がある.
結
論
本研究では,多くの学生競技者を対象に,ス ポーツにおける「あがり」に関連する要因を質問 紙によって調査し,要因間の関係性を検討するこ とを目的とした.その結果,「運動制御の変化と 悪循環」,「身体異常感覚」,「知覚・認知的混乱」, 「内向性」,「自己意識」,「身体重量感・脱力感」, 「意識的処理」,「消極性」,「身体的疲労感」,「安 全性重視方略」,ならびに「熱感」の11因子が抽 出された.そして,「身体的疲労感」と「熱感」 を除く 9 因子を潜在変数とした分析モデルを仮 定し,潜在変数間の関係性を調べたところ,9 つ の潜在変数による「あがり」の機序モデルの妥当 性が確保された.そして,「あがり」の機序モデ ルでは「自己意識」や「身体異常感覚」が高いほ ど「意識的処理」が高まりやすく,「意識的処理」 が運動パフォーマンスの低下に直結する「運動制 御の変化と悪循環」に影響することが確認され た.また「身体異常感覚」は「知覚・認知的混乱」 や「身体重量感・脱力感」を規定する要因である ことが示された.なお,「知覚・認知的混乱」と 「身体重量感・脱力感」が高いほど「消極性」が 高まり,「消極性」が高いほど「運動制御の変化 と悪循環」が生じやすいことが示された.さら に,「消極性」が高まることによって「安全性重 視方略」が採用されやすく,「安全性重視方略」 によって「運動制御の変化と悪循環」が高まりや すいことが確認された.これらのことから,本研 究は,スポーツや運動を行うときの「あがり」に 関するこれまでの一連の研究に,パフォーマンス の低下を導く要因には,心理面,生理面,行動面 の 3 領域における変化があることを示した.そ して,「あがり」の原因を注意の変化のみで説明 することは困難であり,特に,情動と認知の相互 作用が運動制御の変化を規定すること,さらには 失敗のリスクの少ない方略の採用が運動制御の変 化を規定するという「あがり」の機序を提示した. 注 「あがり」は「特に重要な試合や勝敗を決する場面に のぞんだときなどに体験される心身の過度の緊張状態」 (本間,2008)や,「当落や社会的評価など自分自身に 否定的評価を受ける場面で他者を意識し,責任感を感 じ,自己不全感,身体的不全感,生理的反応や震えを 経験することであり,状況によって他者への意識や責 任感の程度が変化すること」(有光,2005)と定義され ており,``stage fright'' と英訳されることもある(本間, 2008).一方で,日常語であるがゆえに心理学的研究に おいて一定の定義および英語の定訳がないとの指摘も ある(市村,1965有光,2005).しかし,スポーツ や運動スキルのパフォーマンス低下に関する英語論文 においては ``choking under pressure'' が多く用いられ (たとえば Beilock and Carr, 2001; Gucciardi et al., 2010),それに対応して近年では「あがり」を ``chok-ing under pressure'' と表現する研究が多い(たとえば 村 山 ほ か , 2009 田 中 ・ 関 矢 , 2006 吉 江 ほ か , 2011).なぜなら,「重要な試合や勝敗を決する場面」 や「当落や社会的評価など自分自身に否定的評価を受 ける場面」は,Baumeister(1984)が説明する高いパ フォーマンスを発揮することへの重要性を高める因 子,すなわちプレッシャーと同義であると考えられる からである.したがって,本研究においては近年の先 行研究を鑑みて「あがり」の英訳として ``choking un-der pressure'' を用いた. 文 献 相川 充(1991)特性シャイネス尺度の作成および信 頼性と妥当性の検討に関する研究.心理学研究,62: 149155. 有光興記(1999)“あがり”やすい性格.詫摩武俊ほか 編 シリーズ人間と性格 第 7 巻.ブレーン出版 東京,pp. 163178. 有光興記・今田 寛(1999)状況と状況認知から見た “あがり”経験.心理学研究,70: 3037. 有光興記(2005)“あがり”とその対処法.川島書店 東京.Baumeister, R.F. (1984) Choking under pressure: Self-consciousness and paradoxical eŠects of incentives on skillful performance. J. Pers. Soc. Psychol., 46: 610 620.
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