授業開発 : 相似な図形に対する情意と認知を高め
る方法として
著者
草桶 勇人
雑誌名
福井大学教育実践研究
巻
43
ページ
11-23
発行年
2019-02-28
URL
http://hdl.handle.net/10098/10658
実践論文 1.はじめに 新中学校学習指導要領(平成 29 年告示)の数学科の 目標は以下のとおりである。 数学的な見方・考え方を働かせ,数学的活動を通して, 数学的に考える資質・能力を次のとおり育成することを 目指す。 (1)数量や図形などについての基礎的な概念や原理・法 則などを理解するとともに,事象を数学化したり,数学 的に解釈したり,数学的に表現・処理したりする技能を 身につけるようにする。 (2)数学を活用して事象を論理的に考察する力,数量や 図形などの性質を見いだし統合的・発展的に考察する力, 数学的な表現を用いて事象を簡潔・明瞭・的確に表現す る力を養う。 (3)数学的活動の楽しさや数学のよさを実感して粘り強 く考え,数学を生活や学習に生かそうとする態度,問題 解決の過程を振り返って評価・改善しようとする態度を 養う。 新学習指導要領解説において,「主体的・対話的で深 い学びの実現を目指した授業改善」については次のよう に述べられている。 ・主体的・対話的で深い学びは,必ずしも1単位時間の 授業の中で全てが実現されるものではない。単元など内 容や時間のまとまりの中で,例えば,主体的に学習に取 り組めるよう学習の見通しを立てたり学習したことを振 り返ったりして自身の学びや変容を自覚できる場面をど こに設定するか,対話によって自分の考えなどを広げた り深めたりする場面をどこに設定するか,学びの深まり をつくりだすために,生徒が考える場面と教師が教える 場面をどのように組み立てるか,といった視点で授業改 善を進めることが求められる。 ・生徒や学校の実態に応じ,多様な学習活動を組み合わ せて授業を組み立てていくことが重要であり,単元など のまとまりを見通した学習を行うに当たり基礎となる知 識及び技能の習得に課題が見られる場合には,それを身 につけるために,生徒の主体性などの工夫を重ね,確実 な習得を図ることが必要である。 ・数学科では,数学的な見方・考え方を働かせながら, 事象を数理的に捉え,数学の問題を見いだし,問題を自 立的,協働的に解決し,学習の過程を振り返り,概念を 形成するなどの学習が充実されるようにすることが大切 である。 ・授業の改善に当たっては,生徒自らが,問題の解決に 向けて見通しをもち,粘り強く取組み,問題解決の過程 を振り返り,よりよく解決したり,新たな問いを見いだ したりするなどの「主体的な学び」を実現することが求 められる。 ・事象を数学的な表現を用いて論理的に説明したり,よ りよい考えや事柄の本質について話し合い,よりよい考 えに高めたり事柄の本質を明らかにしたりするなどの 「対話的な学び」を実現することが求められる。 ・数学に関わる事象や,日常生活に関わる事象について, 数学的な見方・考え方を働かせ,数学的活動を通して, 新しい概念を形成したり,よりよい方法を見いだしたり
図形の作成や身近な事象を取り入れた相似な図形の授業開発
~相似な図形に対する情意と認知を高める方法として~
福井市川西中学校 草 桶 勇 人
本研究では,主体的・対話的で深い学びを意図した中学校3年生の数学科単元「図形と相似」における 授業実践とその分析を行った。上記の学びの中で,特に,生徒自らが相似な図形を作成する学び,身近な 事象を取り入れた学びの場を設定し,情意面と認知面の実践前後の変容を調査した。情意面の変容につい てはSandmanのLikert型尺度を用いて調査し,認知面については単元終了後のテストやレポートを分析し た。その結果,情意面ではクラス全体の平均は実践前が114点,実践後が116点となり合計2点上昇した。 項目別に見ると,数学への動機付けが10%水準で有意となる結果となり,数学の知識を増大させようと する生徒の欲求がわずかながら上昇した。また,認知面では簡単な相似の証明の理解や図形の計量に関す る基本的な知識は身に付く結果となった。以上より,生徒自らが相似な図形を作成したり,身近な事象を 取り入れたりする活動を中心に据える学びは,相似な図形における情意面と認知面を高めるために有効で あったことが示唆される。一方,生徒の理解度に応じた課題設定と相似の有用性を実感できる素材選びに ついては今後の検討課題とされる。 キーワード:図形の作成,身近な事象,主体的・対話的で深い学び,情意,認知するなど,新たな知識・技能を身につけてそれらを統合 し,思考,態度が変容する「深い学び」を実現すること が求められる。 水谷(2018)は,このような活動を通して生徒の「主 体的な学び」「対話的な学び」「深い学び」が実現できて いるかどうかについて確認しつつ一層の充実を求めて進 めることが重要であり,育成を目指す資質・能力及びそ の評価の観点との関係も十分に踏まえた上で指導計画等 を作成することが必要であると述べている。 (下線は筆者) 上記の学習指導要領をふまえ,今後の図形の指導はど うあるべきなのか,特に義務教育最終年となる中学校3 年生での単元「相似な図形」での指導をどのようにして いけばよいのかを考えることは,今後の数学教育にとっ て重要なことである。また,2021 年4月1日からは新学 習指導要領が全面実施されることが決定している。前述 した目標および指導要領の解説をふまえ,身近な事象か ら数学化して数学を通して考える活動や,主体的・対話 的で深い学びを実現させることが,今後の学びにとって 重要なことである。本研究では,生徒自身による図形の 作成,身近な事象からの主題設定という2つをキーワー ドに実践を行う。そして,認知面と情意面の実践前後の 変容について考察し,授業を分析する。なお,本実践は 筆者の前任校である福井大学教育学部附属義務教育学校 で平成 29 年度行ったものである。 2.先行研究 「コピー用紙の比較」(第1∼3時)に関する先行研究 については,山形大学附属中学校における実践研究「学 習指導研究協議会要項」(山形大学附属中学校)が挙げ られる。山形大学附属中学校では,長方形の相似定理を 生徒から引き出す授業を実践した。これは,規格紙(B 4とB5)を用い,辺の長さの比に注目しながら,長方形 の相似や三角形の相似条件などについて学習する展開と なっていた。本実践では,より生徒にとって身近な題材 とするために,コピー機の倍率を具体的に表示し,B4 とB5ではなくA3とA4の規格紙を利用した。上記の実 践と紙の規格については,「どこにでも居る幾何」(井ノ 口,2010)を参照した。 平行線と線分の比の指導(第8∼ 10 時)については,「豊 かな思考力を育てる図形と論証」(清水他,1985)を参 照し,実践を行った。上記の参考文献では「線分の比が 等しい理由を考えよう」という問いであったが,本実践 においては問いかけを変え,「図形の性質を明らかにし ようと」とした。これは,単元「相似な図形」では,図 形の性質を明らかにするということを,単元全体を貫く 活動として取り入れることを意図したためである。 その他の実践に関しては,特に参考にした文献はな いが,相似な図形の作成(第4∼7時),中点を結んでで きる四角形の作成と証明(第 11 ∼ 13 時),相似な図形 の面積比と体積比の説明(第 14 ∼ 16 時)については, 自分で図形を作成してその証明や説明も自分で進めると いう活動を一貫して取り入れ,主体的な学びを意図した 授業展開とした。 3.研究の目的と方法 研究の目的は,主体的・対話的で深い学びを意図して, 図形の作成や身近な事象を取り入れた図形の指導を行う ことにより,数学における認知と情意の両面を高めるこ とである。新学習指導要領解説をふまえ,本単元では自 分たちで図形(特に相似な図形)の性質を明らかにして いくために,どの活動にもオープンな課題を設定する。 たとえ答えが一つだったとしても,解法や道筋,対象と なる図形はさまざまで,教師が与えた図形について問題 解決することよりも,自分で設定した図形を対象に考え ていく主体的な活動を意図する。また,多様な考えが存 在するため,自分で考えた解法を他者と交流し,さらに 新たな視点が得られるような場を設定する。このような 対話的な学びから,新たな視点を得るだけでなく,自分 の考えを整理する場となることも期待する。以上の学び を通して,他に何がいえるのか,統合的に考えて何がい えるのかなどを導こうとしたり,導いたりする深い学び の実現を目指す。 研究の方法については,単元「図形の相似」での授業 を5つの場面(表1)に分け,それぞれの場面を3∼4時 間として授業実践を行う。学習展開に関しては,生徒自 身が図形の性質を明らかにできるように,自分で相似な 図形を作成したり,証明したりする活動を意識的に取り 入れる。 実践後には,情意面と認知面での変容を以下の方法で 調査する。 情意面での変容は,Sandman の Likert 型尺度を用い て調査することとする。生徒に単元前と単元後に,数 学に対する態度測定用具による測定を実施する。今井 (1986)は,米国で開発され広く使用されている Likert 型測定用具である Sandman の The Mathematics Attitude
Inventoryを日本語訳にして,妥当性や信頼性を検討し, 若干の修正を加えてわが国の生徒に使用可能としてい る。この尺度は,数学教師に対する知見,数学に対する 不安,社会における数学の価値,数学の自己概念,数学 への好意性,数学への動機づけの6つのカテゴリーから なる測定用具であり,1つのカテゴリーは8つの項目で 構成されている。1つの項目に対して「そう思う」「ど ちらかといえばそう思う」「どちらかといえばそう思わ ない」「そう思わない」の4つの選択肢のうち1つに○を つける形式である。本実践では研究目的を考慮して,数 学教師に対する知見は省略する。 認知面での学習内容の定着については,単元終了テス トで本実践の内容にかかわる問題を解かせ,それらを数 値化して授業内容の理解度を分析する。また,Likert 型
尺度において実践前後で得点の変容が 15 点以上昇した 5名及び最も下降した3名を抽出して単元終了後の自由 記述のレポートを分析し,単元を通してどのような学び が起こっているかを解釈する。 4.授業の実際 以下の授業計画(表1)のもと,授業実践を行った。 時数 学習内容 第1∼3時 A4のコピー用紙とA3のコピー用紙の比較 第4∼7時 長方形の中での相似な図形の作成と証明 第8∼ 10時 3きの線分の比本の平行線と2本の直線が交わっていると 第11 ∼ 13時 中点を結んでできる四角形の作成と証明 第14 ∼ 16時 相似な図形の面積比と体積比の説明 表1.授業計画 (1) A4のコピー用紙とA3のコピー用紙の比較(第1∼3時) 第1時は,ふだん何気なく生活している中から,身の まわりの中で感じる疑問を共有することから始めた。学 校行事である生徒総会が終わった後の授業ということで, 生徒総会の資料に注目させ,執行部がどうやって資料を 印刷したかを聞いた。すると,「A3を折って,A4の形に して冊子を作った」という発言があり,この事実を全体 で確認した。A4の2枚でA3ということは見た目ですぐ分 かるが,コピー用紙は実際に何倍になっているかは知ら ない様子であった。そこで教師の方から,図3のコピー 機の倍率の表示を見せ,図2の課題1を提示した。 課題1: A3とA4のコピー用紙について, ・141%という数字の意味は何だろうか。 ・A4とA3は同じ形といえるのだろうか。 図2.課題1 図3.コピー機の倍率の表示 生徒たちは個々で「同じ形」の意味を考え,「縦と横 の比が等しい」「どちらも長方形」「角度が同じ」「面積 が違っても形は同じ」という意見を出していた。また, 141という数字の意味を探るために,実際に紙の縦の長 さや横の長さを測ったり,対角線を引いたり,比例式に 表したりしていた。その後,個々で考えた意見を班(4 人班× 10 班)で共有し,班の意見としてまとめ上げた。 (各班の考えは資料1) 第2時は,各班で考えた考えを全体で共有した。A3 とA4は同じ形であるかどうか,141%の数字の意味は何 かを各班が発表する中で,以下の考えを全体で共有した。 (板書は資料2。授業ではすべての班がまとめられたわ けではない。) ①: 実測をして,対応する辺の長さの比が同じなら, 同じ形である。 ②:面積が2倍だから辺の長さは√2倍。 ③: 三角形に着目して,2組の辺の比が1:√2で,そ の間の角が 90°である。 ④: 方程式(x2=2)に表して,コピー用紙の比率 (√2= 1.41)を考える。 第3時は,対角線に着目した4班の生徒の考えを全体 で共有した。 ⑤: 対角線が重なり,A3を半分に折った時の折り目 の線分の中点を通る。 その後,コピー用紙の拡大のイメージや「同じ形」の 意味をもとに,2つの図形が相似であることを,「一方の 図形を拡大・縮小したとき,他の図形と合同である」と して定義した。また,①の長さの比に注目して「3組の辺 の比がすべて等しい」,③に注目して「2組の辺の比とそ の間の角がそれぞれ等しい」,⑤に注目して「2組の角が それぞれ等しい」といった三角形の相似条件を学習した (板書は資料2)。また,コピー機の 141%以外の数字や規 格紙の決め方については図4をもとに,全体で確認した。 最後に,このように線を引いたり計算したりして,同 じ形の図形の性質を明らかにすることを今後学習してい くことを告げ,第3時を終えた。 図4.規格紙の決め方 (2)長方形の中での相似な図形の作成と証明(第4∼7時) 生徒たちは,コピー用紙の探究を終え,コピー用紙の 対角線や図4の中点を結んで補助線を引くことにより, 図形の性質を明らかにしていくという経験をした。そこ で,これをふまえ図5の課題2を提示した。 図5.課題2 課題2: 右の図において,長方形 の各辺の中点や,長方形の 頂点を結んで,相似な三角 形を作成し,それがいえる ことを証明しよう。 D A S Q C B P R
第4時は,まず個人で考えることにした。どのような 補助線を引くかを確認しながら課題に取り組むように生 徒たちに伝えた。生徒たちは,席の近い友達と確認しな がら,中点を通る補助線や延長線を利用し,合同な三角 形や相似条件や形を意識した相似な三角形など,多様な 相似な三角形を作成していた。また,自分で補助線を引 き,相似な直角三角形や中点を通る相似な三角形を作成 していた。 第5時は,4人班で,個人で作成した相似な三角形を 分類していく活動を行った。それぞれの班が,多様な分 類の仕方を考えながらまとめることができていた。ある 班では,それぞれが作成したものが本当に相似になって いるかを全員で検証していた。その中で,相似な三角形 同士をセットにして3つの三角形が相似になることを考 えたり,平行線を用いて相似な三角形を作成したりして いた。 第6時は,各自で作成した相似な三角形について分類 したものを,班の代表者がクラス全体に発表を行った。 (各班の代表的な考えは資料3) 図6.発表の様子 生徒たちは,図7のような相似な三角形を作成するた めのポイントをまとめた。A型,Z型,AAA型とは,資 料3の8班の考えから出たものであり,相似な三角形の 組をアルファベットで表している。 ・ 平行線,延長線,対角線,垂線,中点同士を結んだ 直線を用いた三角形の相似 ・A型,Z型,AAA型 ・相似条件にもとづいた分類 図7.相似な三角形を作成するためのポイント 第7時は,Z型の三角形について,相似な三角形が線 を動かすことによって,上にも下にもできることに気付 いた生徒の発言によって,それぞれの場合の線分の比が 等しいことの証明を行った。証明に用いたアイディアは, 図8のように平行線や延長線などの補助線をかき加える ものである。教科書にも同様の記述があるため,教科書 の内容も同時に確かめながら授業を進めた。 図8.証明に用いたアイディア(左は平行線,右は延長線) (3) 3本の平行線と2本の直線が交わっているときの線分 の比(第8∼ 10 時) 第8時では,図9の課題3を設定した。 図9.課題3 課題3: 右の図のように,3本の平行線 と1本の直線が交わっています。 このとき,3本の平行線と交わ るようにもう1本直線を引きなさ い。さまざまな直線の引き方が あるが,このような図形を見て, 共通な図形の性質を考えよう。 共通の性質が何かを全体に問いかけると,線分の比に ついて注目する生徒が,線分の比が等しいことを予想し た。そこで,線分の比が等しくなるかどうかを全体に投 げかけると,全員が線分の比が等しいと予想した。そし て,その理由を考えることにしたが,個人で難しい課題 であったため,班で考えることにした。(板書は資料2) 文字を用いた抽象度の高い説明と豊かな発想力を要する ため,苦労する生徒の姿が多く見られた。しかし,生徒 たちは何とか解決しようと,実測したり,文字を用いて 比の和や差に着目したり,補助線を引いたりしていた。 ほとんどの班が,すべての場合に共通して比が等しい理 由を言えない様子であった。このまま授業時間が終わる と予想していたが,ある生徒が定規を用いて線を移動し ている様子であった。そこで,その考えを全体で紹介し, 補助線を平行移動させればすべての場合に共通して比が 等しいことを確認した。すると,教室中が「全部いける ね!」という雰囲気になり,納得している生徒たちの様 子が見て取れた。授業後の感想では,9割の生徒が「平 行移動の大切さを学んだ。辺を動かすというアイディア に驚いた」「教室で勉強したから見えたものが多かった」 と述べていた。 第9時は,前時に平行線の移動以外で考えた意見を共 有する時間とした。線分の比を足したり,引いたりして 考える意見や,補助線を引いて三角形の相似を用いて考 える意見が出された。補助線を引く考えを改めて知ると, 生徒たちは分かりやすく感じている様子であった。 第 10 時は,Z型の三角形について,第9時で明らかに したことをまず確認した。そこで仮定と結論をはっきり させ,三角形の線分の比が等しいならば平行であるかを
考えることにした。それぞれが考える中で,反対側に相 似な三角形を作っていた生徒の考えを全体で共有し,平 行であることの証明を教師主導で行った。 (4)中点を結んでできる四角形の作成と証明 (第 11 ∼ 13 時) 第 11 時は,これまでに学んだ長方形の中点や頂点を 結んで相似な三角形を作成する学びをさらに発展するた めに,図 10 の課題4を提示した。 課題4: 四角形のそれぞれの中点同士を結んで,中にできる 四角形はどのような四角形になるでしょう。 図10.課題4 生徒たちに四角形にはどのような四角形があるのかを 聞くと,ひし形,たこ形,長方形,等脚台形,正方形, 平行四辺形,凹多角形,凸多角形の8種類が挙げられた。 それぞれの場合に,中にできる四角形がどのような形に あるのかを理由を説明しながら判断できるように促し た。生徒たちは,まず図をかいて調べてみると,その図 からどのような四角形になるのかは容易に判断できてい た。しかし,理由については難しく感じている様子であっ た。ある生徒は教科書で同じような問題を探し,そこか ら中点連結定理についての記述を読んで「なるほど,こ んな定理もあるのか」と新しい定理を学んで,この課題 に利用していた。教室全体として,特にこだわっていた のは,凹多角形のときで,中点連結定理を2回使って平 行四辺形になることを導いた考えが出された時には,そ のことについて議論していた数人は納得のいく様子で あった。 図11.他のメンバーと自由に検討している場面 第 12 時は,各班で担当した四角形について,できる 四角形とその理由を発表することにした。最初の四角形 がひし形,たこ形,長方形,等脚台形の場合に,中にで きる四角形が長方形やひし形になる理由を細かく説明し ていた。(板書は資料2) 第 13 時は,最初の四角形が正方形,平行四辺形,凹 多角形,凸多角形の場合について班で考えたことを共有 する時間とした。正方形について考える過程で,中点連 結定理を用いた説明を行う生徒がいた。そこで,その定 理の証明を全員で確認し,それを認めた上でそれぞれの 四角形になる理由の説明を行った。また,凹多角形につ いては,補助線を使う場合が2通りあることを全員で共 有した。凸多角形については,一般的な四角形として見 ることを考え,中点連結定理を用いて平行四辺形になる ことを全体で確認した。 (5)相似な図形の面積比と体積比の説明 (第 14 ∼ 16 時) 第 14 時∼ 16 時は,相似な図形の計量について学習 した。2つの相似な三角形のように,自分で相似な図形 を選び出し,その面積比や体積比を自分で計算する活動 を行った。 第 14 時は,相似な図形の面積比について考えた。まず, 教師の方から三角形を例にしてその面積比について文字 を用いて導き出した。 課題5: 自分で相似な図形を考え,相似比がm:nのときの 面積比を求めてみよう。 図12.課題5 その後生徒たちは,図 12 の課題5について自分の考 える図形の面積比を求めた。生徒たちは,平行四辺形や 正方形,長方形の面積比を求めていた。活動の途中で, ある生徒は「平行四辺形をやれば長方形はOKだね」「正 方形もOKだった」と気付き,2学年で学習した四角形 の包含関係を生かして考えている様子が見られた。 第 15 時は,いつも発展的なものに挑戦するある生徒 は凹多角形を扱っており,三角形で成り立つからそれを 使えば四角形は何でも大丈夫だということに気付いてい た。また,それが言えるなら一般的な四角形にも当ては まることを全体で共有した。その後,立体の表面積比や 体積比に移ることについても考えることにした。この活 動も自分たちで性質を明らかにすることを重視し,まず 教師の方から単純な立体である直方体を例に出し,その 後,図 13 の課題6のように自分たちで立体を選び出し て考えることにした。 課題6: 自分で相似な図形を考え,相似比がm:nのときの 表面積比と体積比を求めてみよう。 図13.課題6 第 16 時は,生徒たちが選びした立体について全体で 確認する時間とした。球や三角錐,円錐など,Jという 文字,ラケット,プリンの形,スピーカーなど様々な立 体を紹介し合ったりして,どのような立体でも表面積比
や体積比が一定となることを確認した。このように,5 つの場面では一般的な立体から始めた学習ではあった が,生徒たちは身のまわりにある具体的な立体に視点を 移して考えられるようになっていた。 5.結果 情意面での変容を表す,Likert 型尺度の結果は表 14 の通りである。 n=39 実践前調査 実践後調査 平均値の差のt値 数学に対する不安 21.196.08 22.695.90 1.05 社会における数学 の価値 27.72 3.72 28.11 4.16 0.41 数学の自己概念 19.00 5.48 19.78 5.42 0.60 数学への好意性 21.845.53 23.366.26 1.04 数学への動機づけ 23.033.91 24.724.51 1.68 表14.実践前調査と実践後調査における尺度値の平均値 (上段)と標準偏差(下段) クラス全体の合計の平均をとると,実践前が 114 点, 実践後が 116 点となり,合計2点の上昇となった。項目 別に見ると,数学への動機付けが 10%水準で有意にな る結果となった。数学への動機付けとは,数学の知識を 増大させようとする生徒の欲求を測定する項目である。 このことから,単元を通した学びから,数学の知識を増 大させようとする生徒の欲求が上昇したことがいえる。 その他と項目のデータからは,何の結論も得られないと いう結果となった。 また認知面について,授業内容の理解度を表す単元終 了テストの内容(図 15)とその得点の分布(表 16)は 以下の通りである。各設問を3点満点とし,採点基準に 合わせ不十分なものは0点∼2点として採点を行った。 (1)A4とA3のコピー用紙を比較して,学んだことをま とめなさい。(大きさの異なる長方形も図示) (2)長方形ABCDの各辺の中点を,P,Q,R,Sとします。 (長方形と中点も図示) ①△AQP∽△ABDであることを証明しなさい。 ②QPとBDにはどのような関係があるか。 (3) 3本の平行線に2本の直線が交わっているとき,線 分の比についてどのようなことがいえますか。(3本の 長方形のみ図示) (4)以下の問いに答えなさい。 ① 相似な図形の面積比について,どのようなことが いえますか。 ② 相似な図形の体積比・表面積比について,どのよ うなことがいえますか。 図15.単元終了テスト 項目 平均点 (1)コピー用紙の比較 2.08 (2)①相似の証明 2.82 (2)②中点連結定理の利用 2.49 (3)平行線と線分の比 2.00 (4)①相似な図形の面積比 2.82 (4)②相似な立体の表面積比・体積比 2.80 表16.単元終了テストの平均点 表 16 から分かるように,(2) ①,(4) ①②に関しては, 3点に近い得点となった。簡単な相似の証明の理解や図 形の計量に関する基本的な知識は身に付いている生徒が ほとんどであったことが分かる。(2) ②については,平 行であることと長さが半分であることを解答とする問い であった。二つの事柄のうちどちらか一つしか答えてい ない生徒がいたため,平均点が 2.49 という結果になっ たことが考えられる。(1) については,相似であること, 141%拡大すること,対角線が重なることの記述がある かを基準にして採点を行った。そのため,上記の3つの うち,1つが抜けている生徒がほとんどあった。また,(3) については,比が等しくなることは説明できていたが, 2本の直線をどのように引いても等しくなるという記述 が足りない生徒がほとんどであった。この結果から,(1) (3)に関しては,本実践で学習した事柄の全てを理解し ていたとはいえないことがわかる。以上より,本単元で の学習により,簡単な相似の証明の技能は身に付き,面 積比・体積比の基礎的知識を得られた生徒は多かった。 平行線と線分の比について,比が等しいと主張できる生 徒も多かった。 また,単元終了レポートについて,「単元「相似な図 形」での学習を終えての感想や新たな疑問などを自由に かきなさい」という内容で自由記述のレポートを書かせ た。以下は,情意面アンケートでの実践前と実践後で得 点の変容が 15 点以上昇した5名と最も得点が下降した3 名を抽出し,その記述を抜粋したものである。 (1)事例① この生徒は,得点の合計が 120 点から 150 点に 30 ポ イント上昇した。 <振り返り記述>(抜粋) 「相似な学習では,様々な角度から図形を見て,辺に 注目したり,角に注目したり,この単元の家庭学習では, 演習量というものにしっかりとこだわりを持ち,様々な 発想をもてるように心がけた。体積比について,だ円形 について考えてみたが,よく分からなかった。疑問では あるが,中学知識でできるかもわからないので,少しモ ヤモヤです。将来の学びにつながる数学を教えて頂きあ りがとうございました。」 (2)事例② この生徒は,得点の合計が 104 点から 125 点に 21 ポ イント上昇した。
<振り返り記述>(抜粋) 「A4のコピー用紙とA3のコピー用紙の比較から始 まった相似な学習で,様々なことを学べました。相似な 学習の特徴を学習した上で,3本の平行線と交わる2本 の直線の線分の比は等しいことを知れました。それを証 明する上で平行移動や補助線が有効なことも分かりまし た。また,中点連結定理の証明にも相似な図形の性質が 使えておもしろかったです。 相似な図形を学習して,線分の比や面積比,体積比な どを学べましたが,もっと他にも特徴がないか調べたい です。」 (3)事例③ この生徒は,得点の合計が 118 点から 136 点に 18 ポ イント上昇した。 <振り返り記述>(抜粋) 「相似な図形の単元を学習していると自分が知らな かった図形の性質などが知れました。この時に知識が本 当に正しいのか,自分で探究して,証明するということ をこの学習で身に付けることが出来ました。だから,小 学校で習った公式や中学生で学んだ性質をあたり前に 使っているが,その公式や性質がなぜこのような式や形 になるかなどを自分だけでなく,班のメンバーやクラス メイトと共に探究し,証明していけたらと思います。」 (4)事例④ この生徒は,得点の合計が 79 点から 95 点に 16 ポイ ント上昇した。 <振り返り記述>(抜粋) 「「相似な図形」は,1つの図形でも視点を変えるだけ で,違う考え方や違う式が見えて,とてもおもしろかっ たです。またこの単元で,クラスメイトのおもしろい発 想を見られたのでよかったです。ただまだ比を使うこと など完璧に理解をしきれていないところがあるので,こ の単元が終わっても相似の勉強はしていきたいと思いま した。 補助線,平行線,対角線など,自分で足して考えられ るようにもなりたいです。だから証明問題はもう少し, 数をこなせるようになりたいです。」 (5)事例⑤ この生徒は,得点の合計が 84 点から 99 点に 15 ポイ ント上昇した。 <振り返り記述>(抜粋) 「相似な図形では,相似な三角形を求めたり,平行線 を用いて比を求めたりして,相似の中にもさまざまな ジャンルがあり,少し難しい部分もありました。相似で 好きだったのは,相似の三角形を求めることでした。2 つの角が等しかったり,辺の比が等しかったり,相似が 分かったときは少し快感がありました。数学はあまり得 意ではないけれど,人ができる分,自分もその倍頑張っ て苦手科目から得意科目にしたいと思います!」 (6)事例⑥ この生徒は,得点の合計が 143 点から 135 点に8ポイ ント下降した。 「相似な図形を学び,また新しく覚えることがふえて 難しくなったと思いました。もとめられる図形が増えた り,より簡単に解けるようになったりしたので良かった と思います。これだけ多くのことを学んだのに,また「覚 えられること」や「知らないこと」がたくさんあります。 ここまでくると,「また他に何か残っているのか」とい う疑問がうかんできます。まだ知らないこと,解けない 問題などをもっと知り,もっと解けるようにしていきた いです。」 (7)事例⑦ この生徒は,得点の合計が 108 点から 100 点に8ポイ ント下降した。 「私は「相似な図形」での学習を終えて面積比を考え る問題が苦手だということが分かりました。しかし,相 似な図形はいろいろなきまりがあり,おもしろいなと思 いました。特に相似な図形の面積比と体積比は必ず相似 比の2乗の値と3乗の値になりおもしろいと思いました。 2乗,3乗にならない図形がないのかが気になりました。」 (8)事例⑧ この生徒は,得点の合計が 107 点から 99 点に8ポイ ント下降した。 「「相似」は二年生のときにならった合同よりもより身 近なものでした。まわりを見れば相似はどこにでもあっ て,それを見つけるのも楽しいです。また,数学的に相 似を証明するのは,外角を使ったり,内角の和が 180° になるのを使ったり,あらゆる可能性を探していけるの がとても数学らしくて良いなあと思いました。 相似は身の回りにあるだけであまり使いませんが,新 しい何かを作成するときには今後役立てていきたいで す。」 6.考察と課題 (1)本研究における考察 Likert 型尺度の結果から,クラス全体の数学への動機 付けが上昇した。これは,図形の作成や身近な事象を取 り入れた図形の指導を行ったことが一つの要因であると 考えられる。このような生徒たちの数学への動機付けや 発意が学びの推進力となり,数学の抽象的な学びを実現 するための土台になっていたことも考えられる。 単元終了テストの結果から,本実践での自分で図形を 作成し文字を用いて論理を進めていく経験の積み重ね が,相似な図形の証明の理解につながったということが 考えられる。また,平行線と線分の比について比が等し いと主張できる生徒が多かったのは,課題3のように自 分だけでは容易に解決できない課題に対し,他とかかわ りあいながら思考錯誤したことが要因であったことが考 えられる。第8時の課題を解決した時の生徒の納得した
様子が顕著であっため,生徒にとって授業での新たな発 見が印象深かったと考える。 本実践では,新中学校指導要領の記述にあるように, 数学的な見方・考え方を働かせ,数学的活動を通して, 数学的に考える資質・能力を育成することを目指した。 生徒は第1∼3時での帰納的・演繹的な考え方,第8∼ 10時での統合的な考え方,第 11 ∼ 13 時での一般化の 考え方,第 14 ∼ 16 時での類推的な考え方など,数学 的な考え方を経験した。このような経験によって,自分 で図形を作成し,その性質を明らかにしていく学びによ り,根拠を明らかにして学んでいくという活動が多く なった。そのため,数学を活用して,問題を論理的に考 察する力が身に付いたと自覚できる生徒の育成につな がったと考える。 次に,上記の単元終了後の自由記述のレポートの抜粋 から,授業者の解釈を加える。 事例①については,この生徒は図形を角度や辺に注目 して,図形をみることができていた。自分自身の新たな 問いとして,だ円形の体積比を求めようとしているとこ ろをみると,新たな知識・技能を身につけてそれらを統 合し,思考や態度が変容する「深い学び」が実現してい ることが考えられる。実際,授業中も意欲的で,積極的 に発言したり,他と交流する際も自分の考えを表出した り,友達の意見を取り入れようとしたりする姿が見られ た。今回の課題では,自分で図形を選び出し,それらに ついての性質を探るという活動をとっていた。そのため に,本単元が終わっても,単元終了後のレポートをかく 際にさらに自分で新しい図形を見つけてその性質を見つ けようとしていた。つまり,「深い学び」を実現するた めには,教師が決めた図形の性質を探るだけでなく,他 の図形についても考えられるようなきっかけを単元を通 して作っていくことが重要なことだと考える。 事例②については,これまでの学びを振り返り,図形 の性質を明らかにし,それを証明するためのポイントを 自分で明らかにすることができている。「証明にも相似 な図形の性質が使えておもしろかったです。」と述べて いるように,証明することのおもしろさを感じることが できている。また,中点連結定理を証明するためには, 前時までに学んだ図形の既習事項を用いる必要があると いうことが認識できている。つまり,既習事項を生かし て新しい定理が完成されていくという数学の特性にも気 付くことができていると考えられる。その要因としては, 新しい定理を証明する際には,学習する上でのつながり を意識し,学習の過程を振り返り,概念を形成する活動 を意識的に取り入れることが重要なことなのである。特 に,既習事項を生かす際は,直前で学んだ内容の方が記 憶に新しく理解もしやすいものになるということが考え られる。 事例③については,学んだ知識が本当に成り立つかど うかを自分で確かめ証明する力が身に付いていることを 自覚している。生徒自らが,問題の解決に向けて見通し をもち,粘り強く取組み,新たな問いを見いだしたりす るなどの「主体的な学び」を実現が可能となっている。 単元の学びの中で,自分で選び出した図形についての探 究や証明を行ったことが,このように感じた要因である と感じられる。さらに,根拠を明らかにして学んでいく という数学の学習で大切なことにも触れている。そう いった活動を他とかかわりあいながらやろうとする意欲 も見られる。これは,今回の単元の第1次∼第5次すべ ての場面で,自分で考えたことを他と交流して明らかに していくという場面を意図的に設定してことが要因だと 考えられる。自分で考えたことを表出する場面を,教師 が意識的に活動の中に取り入れていくことが「対話的な 学び」を実現するために重要なことだと考えられる。 事例④については,図形の多様な見方をすることが可 能となっており,色々な考え方や式におもしろさを感じ ることができている。たとえ答えが一つだったとして も,答えに至るまでの過程は様々あることを経験したこ とが,このように書いた要因である可能性が高い。この ような課題を設定していくことが重要なのである。また, クラスメイトの考えを知ることができて,そこにもおも しろさを感じている。このように,よりよい考えや事柄 の本質について話し合い,よりよい考えに高めたり事柄 の本質を明らかにしたりするなどの「対話的な学び」の 実現が可能となっていることもわかる。今後も学習しよ うという意欲も感じられる。対話的な学びから多様な見 方・考え方に触れ,それをきっかけに今後の学びへの意 欲につながったことが考えられる。 事例⑤については,図形について様々な課題を目にし たことで,一言で図形といってもさまざまなジャンルが あったと振り返っている。図形の多様な側面に触れるこ とで,そこに難しさを感じており,まだ図形の多様な見 方に慣れていないことがわかる。限られた時間の中で, 全てを理解することは困難だったのかもしれない。1単 位時間の授業が 50 分と決まっているため,授業の中で なるべく全てを理解できるように,教師の支援や生徒の 活動をさらに考慮していく必要がある。 しかし,相似な三角形の作成の際には,解けた時の快 感があると述べている。図形は角の大きさや辺の長さが 見てすぐわかることもあり,複雑な式の計算よりも理解 しやすい一面があるために,快感を得ることができたの かもしれない。このように,複雑で多様な見方におもし ろさを感じる反面,単純で見てすぐに理解できるという ことにも魅力を感じる生徒がいることもある。単純な活 動と複雑な活動をバランスよく配列して,単元を構成す ることが重要なことなのである。また,他とかかわるこ とによって,周りから刺激を受け,今後の学びへの意欲 を高めている様子から,対話的な学びから自分自身の変 容が可能となっていたことも考えられる。 事例⑥については,相似な図形での新しく学習する内
容について難しく感じている反面,新たに学んだことを 好意的に受け止めることもできている。さらに,未知の ことを知りたい,未解決の問題を解きたいという欲求を 感じていることも考えられる。学習内容が難しく感じて いることについては,相似に関する学習内容がこれまで よりも複雑になっているという見方がある。一方で,今 回単純に解決できる課題は少なくなく,より自分自身で 考える必要がある課題設定をしたことが,このように感 じた要因であると考えられる。学習者にとって難しく感 じる課題となってしまうと,情意面は低下する可能性が 考えられる。このような状況に陥ることを防ぐためには, 学習者の理解に応じた課題設定が求められる。 事例⑦については,面積比の問題について苦手意識を 感じている。一方で,相似な図形の面積比と体積比には きまりがあり,さらに他の事柄についても様々なきまり があったことについては興味深く感じているようにも思 われる。面積比の問題については,本実践では多様な図 形が対象であり,文字式の計算も複雑になったため,こ のように難しく感じた可能性がある。また,問題が解決 できない経験があると,情意面での低下につながると思 われる。 事例⑧については,相似な図形を身近に感じることが できていた。さらに,相似な図形の証明を行う際には, あらゆる可能性を探ろうとする態度が見て取れ,そのよ うな部分を「数学らしい」と表現している。「数学らしさ」 とはどのようことなのかを,本実践を通して考えるきっ かけとなっている。相似な図形について,身の回りには 多くのものが存在すると実感できていたのは,コピー用 紙の学習や相似な図形の表面積比・体積比についての学 習を行ったことが要因であると考えられる。しかし,相 似はあまり身の回りで使えないということを感じてお り,相似の有用性の実感までは到達できなかったように 思われる。 (2)本研究における課題 事例⑥⑦で言及したように,学習課題を困難に感じた り,問題が解決できない経験があったりすると,情意面 での低下につながるということが考えられる。学習者の 理解度や学習環境に応じた課題設定が求められる。また, 事例⑧で書かれていたように,相似の有用性を実感でき る素材選びも考慮する必要がある。 また本実践では,オープンな課題を取り入れることが 多かったため,自分で図形を作成して性質を明らかにし ていく活動の中で,課題に対して解決の方法がわからな いと感じる場面に遭遇することもあった。そうした時の 支援を教師が事前に行っていくことが大切である。教師 の方から具体的な図形を提示したり,班で交流したりす るなど,その場の教師の状況判断が求められる。 平行線と線分の比について,単元終了テスト (3) の結 果から,どのような直線を引いても比が等しいと主張で きる生徒は 39 名中 12 名であった。第8時での「共通な 図形の性質」というテーマについて,課題解決を優先し, どの場合も比が等しいということを強調することが必要 であったと思われる。 7.おわりに 生徒自身による図形の作成,身近な事象からの主題設 定という2つをキーワードに実践を行った結果,情意面 ではクラス全体での数学の知識を増大させようとする生 徒の欲求がわずかながら上昇した。また,認知面では簡 単な相似の証明の理解や図形の計量に関する基本的な知 識は身に付く結果となった。また,生徒の学びの姿に注 目すると,新たな視点を得られたり,興味をもって交流 したりする生徒の姿や授業で学習した図形や自分で作成 した図形で成り立つことが,他の図形でもいえそうなの かと考える生徒の姿が見られた。さらに,コピー用紙の 探究のように,生徒にとって親しみやすい題材から始め ることによって,身の回りの事柄について数学を通して 考えることで新たな発見があったと実感する生徒も見ら れた。 以上より,生徒自らが相似な図形を作成したり,身近 な事象を取り入れたりする活動を中心に据える学びは, 相似な図形における情意面と認知面を高めるために有効 であったことが示唆される。 しかし,課題設定を行う際には,生徒の理解度に応じ て課題の難易度の調整を行うことが必要となる。さらに, 相似の有用性を実感できる素材選びについても検討課題 とされる。 また,今後の数学の学びに触れると,課題3のような 容易に解決できない課題に向かい思考錯誤する経験は, 今後さらに抽象性を増す数学の学習の中で表れてくる。 文字を用いた複雑な説明に慣れることが,義務教育終了 段階での数学の学習にとって大切なことだと考える。そ のため,義務教育終了段階で可能な限り自分で文字を用 いて論理を進めていくことを経験させることが,今後の 数学の学びにつながると考える。 参考・引用文献 水谷尚人(2018)『全国算数・数学教育研究(東京)大 会講習会テキスト』37-40 日本数学教育学会 文部科学省(2018)『中学校学習指導要領(平成 29 年告示) 解説数学編』日本文教出版 20 今井敏博 (2015) 「算数の学習における情動の喚起と 情意形成-小学校教員志望学生の大学生での算数の 学習の振り返りに焦点を当てて-」 日本数学教育 学会誌数学教育学論究 97 17-24 小寺平治(2015)『ゼロから学ぶ統計解析』講談社 涌井良幸・涌井貞美 (2015) 『図解使える統計学』 K ADOKAWA/中経出版 草桶勇人他(2014)「相似概念の獲得と理解を促す授業 展開の一例-身のまわりの題材や中点連結定理を導
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Instruction of Similarity of Figures, Drawing of Figures and Adopting the Objects Around us: As a Method to Improve the Students’Emotion and Cognition of Similarity of Figures.
Hayato KUSAOKE
資料2.板書記録
第2時 板書
第3時 板書
第8時 板書
資料3.相似な三角形の作成(課題2) ・相似条件にもとづいた分類
・A型,Z型,AAA型