原 著
四脚曹、9灘籍62劉8骨〕
秋田県県北の高血圧多発地区における中学生の
成人病危険因子のスクリーニング
東京女子医科大学第二病院 小児科(部長:草川三治教授) フジタ ユキコ ミヤコ コ ワタナベ ミチコ セ ノ アキコ藤田 幸子・都 もと子・渡辺 理子・瀬野 晶子
カネコ クニヨ タカハシ ナオコ タハラ ケイコ ムラタ ミツノリ金子 訓世・高橋 尚子・田原 佳子・村田 光範
(受付 昭和62年6月23日)Cardiovascular Risk Factors among 12∼15 Year.old Children in Northern Ak童ta Prefecture
with High Incidence of Hypertension
Yukiko FUJITA, Motoko MIYAKO, Michiko WATANABE, Akn【o SENO, Kuniyo KANEKO, Naoko TAKAHASHI,
Keiko TAHARA and Mitsunori MURATA
Department of Pediatrics(Director:Prof. Sanji KUSAKAWA) Tokyo Women’s Medical College Daini Hospital
Serum total cholesterol, triglyceride, HDL−cholesterol, LDLcholesterol and blood pressure were studied among 12∼15 year−old children(220 boys and 182 girls)in northern Akita prefec− ture. The mean serum cholesterol was 153.2∼156.61ng/dl in boys and l62.7∼168.9mg/dl in girls. The mean triglyceride was 71.3∼95.2mg/dl in boys and 72.9∼88.2mg/dl in girls, The mean HDL−cholesterol was 54.4∼64.6mg/dl,64.0∼65.6mg/dl, LDL−cholesterol was 74.5∼83.2mg/dl,83. 0∼86.5mg/d1, respectively.
The mean blood pressure was 122/64∼131/69mmHg in boys,124/68∼127/69mmHg in girls and the mean systolic pressure in Akita was 10mmHg higher than in Tokyo. Children with
cardiovascular risk factors had higher diastolic pressure than children without risk factors. These findings are suggested that the prevention of cardiovascular disease should begin in childhood. 緒 言 最近,日本人の生活様式や食事習慣の欧米化に ともない,動物性蛋白質,脂質の摂取量が増加し ている.その結果,日本人の血清総コレステロー ル値が上昇し,動脈硬化症に起因する虚血性心疾 患等が多発する傾向にある.動脈硬化は,すでに 小児期に始まっており1)2),小児期から予防するこ とが重要であると認識されるようになった3)∼5). 動脈硬化症の危険因子を持つ小児の食生活と血清 脂質,血圧との関係を明らかにし,動脈硬化症の 予防の具体的対策とするため,今回高血圧多発地 区である秋田県県北において,中学生を対象に成 人病危険因子のスクリーニングを実施し,血圧, 血清脂質,肥満度,家族歴との関係を検討した. 対象と方法 対象は,秋田県北秋田郡田代町の12歳から15歳 までの中学生で男子220人,女子182人,合計402人 である.各年齢の内訳は,表1に示した.これら 』の中学生について成家病のスクリーニングとして 肥満度,血圧,血清脂質,尿中ナトリウムを測定 一1191一
表1 検査対象 (人) 男 女 計 12歳 P3歳 P4歳 P5歳 49 V1 U7 R3 28 U0 T8 R6 77 P31 P25 U9 220 182 402 (1985年 秋田県田代町) した. 肥満度は,筆者らの年齢別身長別標準体重6)に より計算した. 血圧は,日本コーリン謹製の自動血圧計BP 103 Nを使用し,マンシェット幅12cmを用いて坐位 で2回測定した.異常値を認めた生徒については, 3回測定した. 血清脂質は,12時間空腹にして採血し,総コレ ステロール(total choresterol, TC),トリグリセ ライド(triglyceride, TG), HDL一コレステロー ル(high density lipoprotein cholesterol, HDL−
c),リン脂質(phospholipid, PL)を測定した. LDL一コレステロール(10w density lipoprotein cholesterol, LDLC)は, TC一(TG/5十HDL−C) の式7)より,動脈硬化指数(atherogenic index, AI)は, TC−HDL−C/HDL−Cの式より算出した. TC, TG, PLは酵素法で, HDL−Cはリンタング ステン酸塩化Mg法で分離し酵素法で測定した. 尿中NaCl排泄量は,早朝第一尿について米国 AMES社のSaltexを使用した. Saltexの表面に 付着した銀と重クロム酸塩の化合物に尿中クロー ルイオンが反応して生成された塩化銀をNaClに 換算して測定した. また,家族歴における成人病の危険因子の有無 に関してアンケートを実施し,同時に生徒の栄養 摂取情況を知るため,簡単な食事調査も行った. 結 果 1.体位 各年齢における男女別の身長,体重,肥満度の 平均値と標準偏差を表2に示した.身長,体重は, 昭和59年度文部省「学校保健統計調査8)」と比較す ると12歳,13歳,14歳は,全国平均とほぼ同様で 表2 体 位 (M±SD) 男 女 12歳 身 長cm 149.2±15.4 152.0±6.7 体 重kg 42,4±8,3 43.5±8.3 肥満度% 2.9±11.9 2.8±12.3 13歳 身 長cm 157.5±7.8 155.5±5.5 体 重kg 47.7±10.4 45.8±5.9 肥満度% 4.0±17.9 一1.6±9.9 14歳 身 長cm 162.3±7.1 156.5±4.5 体 重kg 51.9±10.4 49.1±6.5 肥満度% 3.7±14.4 0.5±12.9 15歳 身 長cm 168.3±7.3 157.8±4.8 体 重kg 60.9±10.2 53.0±8.5 肥満度% 7.4±13.6 2.6±13.6 (1985年 秋田県田代町) 表3 血 圧 (mmHg) 収縮期圧 拡張期圧 12歳 男 122±12 64±9 女 127±9 70±8 13歳 男 !23±9 64±8 女 124±8 68±8 14歳 男 127±13 66±9 女 125±10 71±8 15歳 男 131±10 69±9 女 127±9 69±9 (1985年 秋田県田代町) あるが,15歳では,体重が約2kg重くなっている. 肥満度の平均値は,男子では2.9%∼7.4%,女 子では一1.6%∼2.8%であった. 2.血圧
12歳から15歳までの男女別の収縮期血圧
(systolic blood pressure, SBP)と拡張期血圧 (diastolic blood pressure, DBP)の平均値と標準偏差を表3にあらわした.SBPは,男子では
122∼131mmHg,女子は124∼127mmHg, DBP
は,男子は64∼69mmHg,女子68∼71mmHgで当
教室の塩田9)の実施した東京都江戸川区と千葉県 習志野市での同年齢の血圧値と比較するとSBPは,男女とも10mmHg近く高く,危険率0.1%
∼1.0%で有意に秋田県の中学生の血圧は,高値を 刀rしていた. 3.血清脂質表4 血清脂質
TC
TG
HDL−C LDL−C AI PL mg/dl mg/dl mg/dl mg/dl mg/d1 12歳 男 153.5±25.5 72.6±62.2 64.6±12.5 74.5±19.9 1.2±0.6 176.3±24.7 女 163.7±32.2 72.9±32.3 65.6±15.8 83.6±25.4 1.6±0.6 179.4±27.2 13歳 男 153.5±21.4 71.3±29.2 62.5±12.6 77.1±17.9 1.5±0.5 176.8±22.0 女 165.7±25.5 78.0±45.4 64.0±12.5 86.5±20.4 1.7±0.6 184.3±22.4 14歳 男 152.0±22.6 81.7±47.9 58.8±12.6 77.1±18.0 1.7±0.5 178.2±21.7 女 168.9±30.6 86.9±35.8 64.6±11.7 85.1±27.2 1.7±0.7 190.6±25.1 15歳 男 156.6±252 95.2±42.3 54.4±1L4 83.2±21.9 2.0±0.7 179.6±:22.4 女 162.0±26.0 88.2±45.3 64.1±11.9 83.0±16.4 1.6±0,5 189.5±24.0 (1985年 秋田県田代町) 表5 尿中NaC1 (%) 男 女 12歳 P3歳 P4歳 P5歳 0.81±0.39 P.03±0.51 P,14±0.42 P,05±0.40 0.89±0.40 O.97±0,41 P.06±0.39 P.08±0.39 (1985年 秋田県田代町) 表4は,男女の年齢別血清脂質の平均値と標準 偏差である. TCは,男女ともこの年齢では男子の方が女子 に比べて低く,林ら10)の東京都の中学生と同じ傾 向を示していた. TGは,男子71.3∼95.2mg/dl,女子72.9∼88.2 mg/dl, HDL−Cは,男子54.4∼64.6mg/dl,女子 64.0∼65.6mg/dlで12∼13歳でレま男女ほぼ同値であるが,14∼15歳になると男子のHDLC値は
低くなっている.LDLCは,男子74.5∼83.2mg/ d1,女子83.0∼86.3mg/dlで, AIは男子1.2∼2.0, 女子1.6∼1.7であった. 4.尿中NaCl排泄量(表5) 早朝第一尿中のNaCl排泄量は男子は,0.81∼ 1.14%,女子は0.89∼1.14%であり,Na排潅量に 換算すると男子144∼193mEq/1,女子155∼188 mEq/1となる.尿中NaCl排泄:量が2%,すなわちNa排泄量が348mEq/1を越える生徒は20人
で,その中で家族歴に高血圧を持つ者が3人であ るが,本人が高血圧の者はいなかった. 5.異常者の出現頻度(表6) 肥満度は20%以上を肥満とし,高脂血症の判定 表6 異常者出現頻度 人(%) 男 女 計 肥満度≧20% 25(11.4) 16(8.8) 41(10.2) TC≧200mg/d1 8(3.6) 22(12.1) 30(7.5) TC≦120mg/dl 13(5.9) 6(3.2) 19(4,7) TG≧160mg/d1 10(4.5) 9(4.9) 19(4.7) HDL−C≦40mg/dl 10(4,5) 2(1,1) 12(3.0) LDL−C≧140mg/dl 0 4(2.2) 4(1.0) AI≧3.0 5(2.3) 5(2.3) 10(2.5) BP 男≧140/80mmHg 23(10.0) 27(15.0) 50(12.0) 女≧135/80mmHg (1985年 秋田県田代町) 表7 動脈硬化症の家族文 人(%) 男 女 計 家族歴(一) 140 119 259(64.4) 家族歴(+) 80 63 143(35.6) 肥 満 54 49 103 高 血 圧 29 20 49 脳虚血性疾患 2 1 3 心筋梗塞 1 0 1 糖 尿 病 4 1 5 肝 疾 患 5 1 6 甲状腺疾患 2 1 3 腎 疾 患 1 1 2 (1985年 秋田県田代町) 基準は厚生省の高脂血症小児の生活指導に関する 研究班1DによりTC 200mg/dl以上, HDLCは, 40mg/dl以下,低TC血症は,120mg/dl以下とし ている. 肥満度20%以上のものは,41人10.2%,TCが 200mg/dl以上30人7.5%, TC 120mg/dl以下19人 一1193一表8 家族歴の有無と血圧血清脂質 尿中NaC1 SBP DBP
TC
TG
HDLC
LDLC AI UNaCImmHg
mmHg
mg/d1 mg/dl mg/d1 mg/d1 % FH(+) 男N
80M
125.6 65.5 152.4 84.5 58.6 76.4 1.7 1.02 SD 12.0 8.5 23.5 61.1 11.8 18.3 0.6 0.54 女N
63M
126.7 70,9* 162.9 80.6 64.4 82.6 1.6 1.08 SD 8.3 6.8 29.7 30.3 122 21.2 0.6 0.43 FH(一) 男N
140M
124.9 65.3 154.5 74.0 61.7 78.6 1.6 1.02 SD 11.1 8.8 23.4 34.1 12.9 19.9 0.6 0.45 女N
119M
124.7 68.3* 166.8 82.7 64.5 85.7 1.7 0.99 SD 9.0 8.4 27.3 45.2 12.5 23.4 0.6 0.38 *p〈0.05 (1985年 秋田県田代町) 4.7%であった.高TG血症,高しDL−C血症を Mean+2SD以上とするとTG 160mg/dl以上は, 19人4.7%,HDL−C 40mg/di以下は,12人3.0%, LDL−C 140mg/dl以上4人LO%, AIが3.0以上10 人2.5%である. 高血圧の判定は塩田らの基準により男子SBP140mmHg以上またはDBP 80mmHg以上,女子
は,SBP 135mmHg以上またはDBP 80mmHg以
上とすると異常者は,50人,12.0%であった. 6.成人病の家族歴(表7) 成人病,特に動脈硬化症の家族歴の有無に関し て,両親と祖父母についてアンケートを実施した. 家族歴がないと回答したものは,259人64.4%で, ありと答えたもの143人35.6%で約三分の一が家 族歴を有していた.家族歴ありと回答したものの 延べ人数でその内訳は,肥満が103人,高血圧49人 であった. 7.成人病の家族歴の有無と血圧,血清脂質,尿 中NaCl排泄量(表8) 成人病の家族歴を持つ群(family history(+) 群,FH(十)群)と家族歴を持たない群(family history(一)群, FH(一)群)で血圧,血清脂質, 尿中NaCl排泄量を比較した. DBPは,女子ではFH(+)群が5%以下の危 険率で有意に高値を示していた. 尿中NaC1排泄量は, FH(十)群の女子では多 くなっていた。 血清脂質は,TGが男子でFH(+)群が高く, HDLCは女子ではFH(+)群が低値であった. 8.食事調査 秋田県県北における中学生の食事習慣を把握す るためアンケートを行った.80キロカロリーを1 点として各栄養群の摂取カロリーを推定し,検査 異常群と正常群で比較したが,特別の傾向は認め られなかった.一般的には,男女とも栄養所要量 を下回っており,栄養比は低脂肪,高糖質の傾向 がみられた. ・ 考 察 動脈硬化症の一次予防の重要性が提唱され,各 地で危険因子のスクリーニングが行われるように なった.小児期に危険因子とされる肥満や高血圧, 高脂血症を発見し,子供のときからそれを是正す るよう努めれば,将来の動脈硬化症の発症を遅ら せることができる. 今回,動脈硬化症の3大危険因子の一つである 高血圧症の多発地区として以前より知られている 秋田県県北の中学生を対象に成人病の危険因子ス クリーニングを実施した. 県北の中学生の身長,体重は,昭和59年度の「学 校保健統計調査」とほぼ同様の結果であった. 肥満度20%以上のものは,10.2%で各地区にお ける肥満児の出現頻度とほぼ等しい12). 秋田県の児童生徒の血圧は,1970年13)と1979 年14)にリバロッチ水鋤血圧計を用いた測定値の報告があるが,集団検診の場では自動血圧計が有用 であり,自動血圧計を使用した.収縮期血圧は, 東京・千葉地区に比べて約10mmHg高く,危険率 0.1∼!.0%で有意差を認めた.今回の検診は初秋 に行ったが,気温は:東京に比べるとやや低く,こ の10mmHgの差は単に気温の差によるものか,こ の地区特有のものか検討すべく,次回は,気温の 高い季節に実施する予定である. 血清脂質は,TC, TG, HDLC, LDLC, AIに ついて測定したが,TCは12歳∼15歳では女子よ り男子が低値を示し,東京地区の中学生と同様の 傾向を認めた. 尿中Na排泄量を測定することにより食塩摂取 量を推定することができる.本態性高血圧症や家 族歴にそれを持つ者は,正常血圧であっても細胞 膜;のNa−K移送の異常や細胞内Na濃度の増加が 認められ,摂取食塩を制限することにより高血圧 を予防する試みがされている15).そこで一日の食 塩摂取量を推定するため尿中Na排泄量を測定し た.米国AMES社のSaltex16)を使用したが,現在 食塩テープを用いる尿中食塩濃度の簡易測定法17} も普及している.早朝第一尿中のNa濃度は,浅見
らの6∼18歳の早朝尿Na濃度94.7∼198。O
mEq〃と一致している18).しかし,血圧と尿中Na 排泄量との相関はみられず,また家族歴に高血圧 を有する者の血圧とも相関は認められなかった.24時間尿でのNa排泄量と食塩摂取量は相関
し,24時間尿の採取が困難なときには,早朝第一 尿でも相関するといわれている19).今回,尿中Na 排泄量と血圧とは相関がみられなかったが,Na は血圧に関連する因子の一つにすぎない.個人に おけるNa排泄量と血圧は有意の相関が認められ たとの報告があり20),Na排泄量の測定は集団検 診の場より,高血圧患者の食事療法の効果判定に 有効であると思われた. 次に動脈硬化症の危険因子を持つ群と持たない 群で血圧,血清脂質を比較すると家族歴に高血圧 を有する群では,血圧は高値を示していた. 肥満と血圧の関係は,本人が肥満の群は,高血 圧の出現頻度は,男子36.0%,女子25.0%,肥満 ではない群は,男子7.2%,女子13.8%で,高一血圧 は,0ユ∼5.0%の危険率で有意に肥満群に高い. 食習慣の調査では男女とも栄養所要量を下回 り,低脂肪,高糖質の傾向が見られている.次回 は食物モデルを用いて聞き取り調査を行い,より 正確な栄養摂取情況を把握し,食塩摂取量と血圧 や,栄養比と血清脂質の関係について検討する予 定である. 結 論 秋田県県北の高血圧多発地区の中学生を対象に 成人病危険因子のスクリーニングを実施し,以下 のことを得た. 1.秋田県県北の中学生の収縮期血圧は,東京・ 千葉地区に比べ10mmHg近く高値を示した. 2.家族歴に高血圧を持つものは,家族歴に危険 因子を持たないものに比較し,血圧は高値を示し た. 3.肥満群は,肥満ではない群に比べ,高血圧の 出現頻度は有意に高かった. 稿を終えるにあたり,ご協力載きました秋田県大館 保健所の岩尾昌子先生と栄養調査をしていただきま した和洋女子大学の石井荘子先生に感謝いたします. また,御校閲を賜りました草川三治教授に深謝いたし ます. なお,本論文の要旨は,第8回日本臨床栄養学会 (1986年10月,東京)において発表した. 文 献1)Strong JP, McGill HC: The pediatric aspects of atherosclerosis. J Atheroscler Res 9:251−265, 1969 2)田中健蔵,黒住武史,今村 司:病理的にみた小 児動脈病変の意義.最新医学 36:783−787,1981 3)熊谷通夫:動脈硬化症と小児期からの予防。小児 医学 13:815−837,1980 4)大国真彦:小児期からの予防.臨床成人病 10: 837−842, 1980
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