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伝え合う力とコミュニケーション能力 : 小学校国語教育と英語教育の連携に向けて

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伝え合う力とコミュニケーション能力

小学校国語教育と英語教育の連携に向けて

大 嶋 秀 樹

and abilities to communicate

Toward cooperative language teaching between Japanese and English

in elementary school

Hideki OSHIMA

キーワード:伝え合う力、コミュニケーション能力、小学校国語教育、小学校英語教育、連携 1.はじめに 本研究は、平成に入ってからの学習指導要領の記載で登場した「伝え合う力」(国語)ということば と「コミュニケーション能力」(英語)ということばを手がかりとして、小学校における 国語教育と英 語教育の それぞれの言語教育の視点、連携の視点について探ろうとする試みである。研究では、「伝え 合う力」ということばと「コミュニケーション能力」ということばのそれぞれについて、小学校学習 指導要領 国語編(文部科学省,2008b; 2017b)、及び小学校学習指導要領 外国語活動編(文部科学 省,2008a)、小学校学習指導要領 外国語活動・英語編(文部科学省,2017a)に見られる、国語教育 と英語教育のそれぞれの言語教育の視点に関わる記載を整理し、言語教育としての国語教育と英語教 育の連携への視点、連携への可能性について見ていく。 2.小学校での言語教育:国語教育と英語教育 現行の 6 か年の小学校教育のもとでの言語教育は、 1947 年の学習指導要領(試案)(文部省,1947b) 以来、ながらく国語教育を主体に行われてきた。国語教育を主体とした小学校教育での言語教育に、 外国語教育が加わるのは、2008 年告示の小学校学習指導要領(文部科学省,2008a; 2008b)のもとでの 新教育課程の実施(先行実施は 2009 年、全面実施は 2011 年)に始まる。小学校の国語教育は、1947 年の学習指導要領(試案)以来、小学 1 年生から小学 6 年生までのすべての学年にわたって、継続的 に、系統的に行われてきた伝統を持つ。 これに対し、英語教育は、1947 年の学習指導要領(試案)(文部省,1947a)以来、もっぱら中学校・ 高等学校を中心に行われてきた。小学校の英語教育は、学習指導要領の歴史の中ではごく最近のこと で、2008 年告示の小学校学習指導要領(文部科学省,2008a)で、「外国語活動(英語を取り扱うこと を原則)」として初めて学習指導要領の記載に登場した。これを受けて、2011 年 4 月からは、全国の 小学校教育で、5、6 年生を対象に、週 1 時間、年間 35 時間相当の英語教育が全面的に始まることと なった。 * 滋賀大学教育学部

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小学校の外国語教育は、2008 年告示の小学校学習指導要領の登場以前から、 「総合的な学習の時間」 の国際理解教育に関する学習の一環としての 外国語会話等を行うときの体験的な学習のなかで、英語 を含めた様々な外国語が取り上げられてきた経緯に始まる。その後、2000 年代後半にかけては、「総 合的な学習の時間」の国際理解教育の領域で取り上げられる外国語の 90%以上が英語(英語活動)と なり、このことがきっかけとなって「外国語活動 (英語を取り扱うことを原則)」の名前で、小学校 で、外国語教育としての英語教育が始まることとなった(文部科学省,2008a 参照)。名前は「外国 語活動」ではあるが、「英語を取り扱うことを原則」とするとの但し書きがついていたのは、「総合的 な学習の時間」の国際理解教育の領域で、90%以上が英語(英語活動)として広がっていった背景を 踏まえてのことで、「外国語活動(英語を取り扱うことを原則)」が、数値による成績評価を含む教科 としてでなく、成績評価を含めない体験的な活動として始まることとなったのは、それまでの「総合 的な学習の時間」の国際理解教育の領域で、外国語が、外国語会話等の体験的な学習活動として取り 上げられてきた経緯を踏まえてのことであった。 その後、小学校での体験的な英語の学びを主体とした「外国語活動」は、全国の小学校で広く受け 入れられ、市町村によっては、教育課程編成の特例を生かして、小学校低学年や中学年からの英語教 育を始める地域も多くなっていく。そうした小学校での英語教育の広がりを踏まえ、2017 年告示の小 学校学習指導要領(文部科学省,2017a)では、英語教育の対象学年が、これまでの小学校 5、6 年生 から、小学校 3、4 年生まで広がり、2020 年度からは、全国の小学校で、小学校 3、4 年生では、週 1 時間、年間 35 時間相当の外国語活動(成績評価を行わない、活動としての外国語)が、小学校 5、6 年生では、週 2 時間、年間 70 時間相当の外国語科(成績評価を行う教科としての外国語)が始まるこ ととなった。外国語活動では、「英語を取り扱うことを原則」とし、外国語科では、「英語を履修させ ることを原則」とすることで、小学校での外国語教育は、英語教育が広く全国的に行われている。 こうして、現在では、小学校では、母語を対象とした国語教育と外国語(英語)を対象とした英語 教育の 2 つの言語教育が、小学校中学年から高学年まで、継続的に、系統的に並行して行われている。 3.「伝え合う力」と「コミュニケーション能力」 1947 年の学習指導要領(試案)(文部省,1947b)以来のなかで、「伝え合う力」という記載が小学校 の学習指導要領に登場したのは、 1998 年改訂の 小学校学習指導要領「第 2 章 各教科 第 1 節 国語  第 1 目標」の記載においてが最初である (文部省,1998a)。さらに、同学習指導要領の「第 3 指導 計画の作成と各学年にわたる内容の取扱い」の「3(2)ア」では、「教材は,次のような観点に配慮し て取り上げること。」として「伝え合う力,思考力や想像力及び言語感覚を養うのに役立つこと。」と の記載も確認できる。 「伝え合う力」については、小学校学習指導要領解説 国語編(文部省,1999)は、「この「伝え合 う力」とは、人間と人間との関係の中で、互いの立場や考えを尊重しながら、言語を通して適切に表 現したり正確に理解したりする力でもある。これからの情報化・国際化の社会で生きて働く国語の力 であり、人間形成に資する国語科の重要な内容となるものである。」と位置付けている。 1998 年改訂の小学校学習指導要領の国語の記載では、 「伝え合う力」ということばの記載の登場と 並んで、それ以前の小学校学習指導要領の国語の「内容」の記載が「表現」、「理解」の 2 領域に分け ての記載であったものが、「話すこと・聞くこと」、「書くこと」、「読むこと」の 3 領域に分けての記載 へと変更されている。 こうした一連の記載事項の改訂からは、「学校生活全体を通して、言語に対する関心や理解を深め、 言語環境を整え、児童の言語活動が適正に行われるようにする」(1998 年改訂小学校学習指導要領「第 1 章 総則」)という、言語及び言語を使っての人と人とが関わり合う活動(言語活動)を重視する小 学校教育、それを支える 母語教育、言語教育としての国語教育への期待を読み取ることができる。

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他方、学習指導要領への「コミュニケーション能力」ということばの記載は、1998 年改訂の中学校学 習指導要領「第 2 章 各教科 第 9 節 外国語 第 1 目標」の記載、「外国語を通じて、言語や文化に 対する理解を深め、積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成を図り、聞くことや話すこ となどの実践的コミュニケーション能力の基礎を養う。」においてが最初である(文部省,1998b)。「コ ミュニケーション」ということばの記載は、既に 1989 年改訂の中学校学習指導要領(文部省,1989a)、 高等学校学習指導要領(文部省,1989b)で登場しているが、この時は「外国語で積極的にコミュニケー ションを図ろうとする態度を育てる」という目標部分での記載のみで、「コミュニケーション能力」と いうことばの登場は、 1998 年改訂の中学校学習指導要領での記載が最初であった。 その同じ 1998 年改訂の中学校学習指導要領の記載では、1998 年改訂の小学校学習指導要領の国語の 記載と同じく、 「伝え合う力」ということばの記載が、中学校学習指導要領の国語の記載事項として、 1947 年の学習指導要領(試案)(文部省,1947b)以来の歴史の中で、初めて登場する。 1998 年改訂の中学校学習指導要領での、国語の「伝え合う力」ということばの記載、外国語の「コ ミュニケーション能力」ということばの記載は、「学校生活全体を通して、言語に対する関心や理解を 深め、言語環境を整え、生徒の言語活動が適正に行われるようにする」(1998 年改訂中学校学習指導 要領「第 1 章 総則」)ことを、小学校教育(1998 年改訂小学校学習指導要領「第 1 章 総則」)から 継続的に、言語及び言語を使っての人と人とが関わり合う活動(言語活動)を通じて、中学校教育で は、母語教育としての国語教育、外国語教育としての英語教育、それぞれの言語教育科目の中で、ま た、ゆくゆくは 2 つの言語教育科目間、言語教育科目と他の科目間も含めて、実体化していこうとす る意図を むことができる。 国語の「伝え合う力」(文部省,1998a;1998b)ということば、 外国語の 「コミュニケーション能 力」(文部省,1998a)ということばの関係性については、森(2009)は、「伝え合う力」は「コミュニ ケーション能力」を指すと考えてよさそうだと指摘する。この指摘は、「伝え合い」とは「通じ合い= コミュニケーション」であり、「伝え合う力」とは「コミュニケーション能力」に他ならないという、 国語教育史の文脈を踏まえての、 村松(2002)の論考ともよく整合する。 次節からは、国語の「伝え合う力」は、外国語の「コミュニケーション能力」とは、同義・同内容 の記載であるとする指摘を手がかりに、小学校で英語教育が始まって以降に実施の、2008 年改訂小学 校学習指導要領(文部科学省,2008a;2008b)、2017 年改訂小学校学習指導要領(文部科学省,2017a; 2017b)から、国語教育、英語教育のそれぞれの言語教育の視点、両者の連携の視点について見ていく。 4.2008 年 改訂小学校学習指導要領:「伝え合う力」と「コミュニケーション能力」 4.1 2008 年改訂小学校学習指導要領  国語 2008 年改訂小学校学習指導要領 (文部科学省,2008b)の国語の記載では、「伝え合う力」の 記載は、 「第 2 章 各教科 第 1 節 国語 第 1 目標」の部分、「国語を適切に表現し正確に理解する能力を 育成し、伝え合う力を高めるとともに、思考力や想像力及び言語感覚を養い、国語に対する関心を深 め国語を尊重する態度を育てる。」に示されている。記載内容は、1998 年改訂小学校学習指導要領の 目標部分の内容を、文言を変えずそのまま引き継いだものとなっている。 「伝え合う力」については、1998 年改訂小学校学習指導要領 解説 国語編(文部省,1999)では、 もっぱら「伝え合う力」ということばの定義が示されていたのが、2008 年改訂小学校学習指導要領解 説 国語編(文部科学省,2008b)では、「「伝え合う力を高める」とは、人間と人間との関係の中で、 互いの立場や考えを尊重し、言語を通して適切に表現したり正確に理解したりする力を高めることで ある。」と、「伝え合う力」を高めることの内容記述が示された記載へと変更さた。「伝え合う力」を 高めることの内容記述の掲載は、改訂の趣旨の 1 つにあげられた、「特に、ことばを通して的確に理解 し、論理的に思考し表現する能力、互いの立場や考えを尊重して 言葉で伝え合う能力を育成する」こ

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とを反映しての、解説部分への記載であると考えられる。 2008 年改訂小学校学習指導要領、及び、2008 年改訂小学校学習指導要領解説 国語編(文部科学 省,2008b)の記載からは、「伝え合う力」を高めるとは、人間と人間との関係の中で、言葉で、「伝え 合う能力」を育成すること、換言すれば、母語である日本語を使って、自分や他社との関わり合いの 中で、「ことば(母語)のコミュニケーション能力」を、国語教育を通じて体系的、継続的に育成する ことと捉えることができる。 4.2 2008 年改訂小学校学習指導要領 外国語活動 2008 年改訂小学校学習指導要領(文部科学省,2008a)で、初めて登場した外国語活動の記載では、 「コミュニケーション能力」の記載は、「第 4 章 外国語活動 第 1 目標」の部分、「外国語を通じて、 言語や文化について体験的に理解を深め、積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成を 図り、外国語の音声や基本的な表現に慣れ親しませながら、コミュニケーション能力の素地を養う。」 にあげられている。 外国語活動では、「聞くこと」、「話すこと」の音声面の領域での、英語による体験的なコミュニケー ション活動が、「コミュニケーション能力」の素地を養う上での活動の中心に据えられている(文部科 学省,2008a)。 2008 年改訂小学校学習指導要領、及び、2008 年改訂小学校学習指導要領解説 外国語活動編(文部 科学省,2008a)の記載からは、音声による、英語での体験的なコミュニケーション活動を通じて、こ とばを用いたコミュニケーションへの気づき、英語への慣れ親しみ、外国の文化との違いへの理解を深 めながら、小学校段階から、外国語(英語)の「コミュニケーション能力」を、児童がなるべく負担感 を感じないよう、中学校・高等学校へと、継続的に育てていくことへの期待を み取ることができる。 5.2017 年改訂小学校学習指導要領:「伝え合う力」と「コミュニケーション能力」 5.1 2017 年改訂小学校学習指導要領 国語 2017 年改訂小学校学習指導要領(文部科学省,2017b)の国語の記載でも、「 伝え合う力」の記載 は、「第 2 章 各教科 第 1 節 国語 第 1 目標」の部分、「(2) 日常生活における人との関わりの 中で伝え合う力を高め,思考力や想像力を養う。」に示されている。さらに、2017 年改訂小学校学習 指導要領(文部科学省,2017b)の国語では、「伝え合う力」の記載は、それまでの全体の目標での記 載(1998 年改訂小学校学習指導要領(文部省,1998b)、2008 年改訂小学校学習指導要領(文部科学 省,2008b))に加え、「第 2 各学年の目標及び内容」でも、第 1 学年から第 6 学年までのすべての学 年にわたって「日常生活における人との関わりの中で伝え合う力を高め」という記載事項が含まれる ように記述内容が新たに改訂されている。 「伝え合う力」については、 2017 年改訂小学校学習指導要領解説 国語編(文部科学省,2017b)で は、2008 年改訂小学校学習指導要領解説 国語編(文部科学省,2008b)の 「伝え合う力」を高める ことの内容記述、「「伝え合う力を高める」とは、人間と人間との関係の中で、互いの立場や考えを尊 重し、言語を通して適切に表現したり正確に理解したりする力を高めることである。」をほぼそのま ま継承した記載、「「伝え合う力を高める」とは、人間と人間との関係の中で、互いの立場や考えを尊 重し、 言語を通して正確に理解したり適切に表現したりする力を高めることである。」が記されてい る。2008 年改訂小学校学習指導要領解説 国語編(文部科学省,2008b)と 2017 年改訂小学校学習指 導要領解説 国語編(文部科学省,2017b)の「伝え合う力」を高めることの内容記述の唯一の違い は、 「言語を通して適切に表現したり正確に理解したりする力」(2008 年改訂)と「言語を通して正確 に理解したり適切に表現したりする力」(2017 年改訂)との部分の違いだけであるが、これは「伝え 合う力」の「伝え合う」部分の 「理解」と「表現」の関係性を吟味したうえでの変更であると捉える ことができる。

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この「理解」と「表現」の関係性については、「伝え合う力」が初めて登場した、1998 年改訂小学 校学習指導要領(文部省,1999)、その後の 2008 年改訂小学校学習指導要領(文部科学省,2008b)の 国語の目標の記載では、「国語を適切に表現し正確に理解する能力を育成し、伝え合う力を高める」に 見られるように、 「表現」、「理解」の順の記載であった。それが、2017 年改訂小学校学習指導要領(文 部科学省,2017b)では、「国語で正確に理解し適切に表現する資質・能力を次のとおり育成する」に 見られるような、「理解」、「表現」の記載順へと変更されている。こうした「理解」と「表現」の記載 順の変化は、 「伝え合う力」が学習指導要領に登場して以来の、「伝え合う力」と「理解」、「表現」と の関係性の吟味の経過を反映するものであると推察される。 5.2 2017 年改訂小学校学習指導要領 外国語活動・英語 2017 年改訂小学校学習指導要領(文部科学省,2017a)では、それまでの 5、6 年で導入されていた 外国語活動が新たに 3、4 年生で導入され、5、6 年の 外国語活動は外国語(英語)(教科としての外国 語)へ改められることとなった。それに伴って、「コミュニケーション能力」の記載は、2017 年改訂 小学校学習指導要領(文部科学省,2017a)の外国語(英語)の記載では、「第 2 章 各教科 第 10 節  外国語 第 1 目標」の部分の「コミュニケーションを図る基礎となる資質・能力を次のとおり育成 する」に、外国語活動の記載では、 「第 4 章 外国語活動 第 1 目標」の部分の「コミュニケーショ ンを図る素地となる資質・能力を次のとおり育成する」の記載へと改訂されている。 加えて、2017 年改訂小学校学習指導要領(文部科学省,2017a)の外国語活動・外国語(英語)で は、「コミュニケーション能力」に関する記載に加え、新たに「伝え合う力」に関する記載が登場し ている。外国語活動の記載では、「第 4 章 外国語活動 第 1 目標」の(2)の部分、「自分の考えや 気持ちなどを伝え合う力の素地を養う。」が、外国語(英語)の記載では、「第 2 章 各教科 第 10 節  外国語 第 1 目標」の(2)の部分、「自分の考えや気持ちなどを伝え合うことができる基礎的な力 を養う。」が、それぞれ記載されている。 これまでの改訂学習指導要領の記載では、「伝え合う力」は、国語での掲載、国語教育で育成する力 で、「コミュニケーション能力」は、外国語活動・外国語(英語)での掲載、英語教育で育成する力と、 それぞれの教科・活動で育成する力の捉え分けを反映した用語の使い分けが行われてきたが、2017 年 改訂小学校学習指導要領(文部科学省,2017a)の外国語活動・外国語(英語)では、「コミュニケー ション能力」に関する記載部分で、「コミュニケーション能力」を「伝え合う力」として捉える記述が 加えられている。このことは、第 3 節で示した、森(2009)や村松(2002)の指摘、国語の「伝え合 う力」は、外国語の「コミュニケーション能力」とは、同義・同内容の記載であるとする指摘を、学 習指導要領の記載事実が裏付けるという画期的な出来事であると言える。 6.2008 年・2017 年改訂小学校学習指導要領:国語教育と英語教育の連携 小学校での教科・活動の連携は、中学校や高等学校の教科の連携と同様に、もっぱら、教科・活動 内の連携(同学年での同一教科・活動についての学級間連携、異なる学年間の学年間連携)が中心で、 地域の学校間連携、学校種間(小・中・高等学校間)連携、教科・活動の垣根を超えた教科・活動間 連携の機会や場面は多くはなかった。最近では、地域の教育行政や学校区が中心となって、地域の学 校間連携、学校種間(小・中・高等学校間)連携の機会や場面も段々には増えてはいるが、継続して 取り組む事例は、依然として多いとは言えない。特に、教科・活動の垣根を超えた教科・活動間連携 については、その事例は限られている。 それでも、小学校では、伝統的に、学級担任が複数の教科や活動を担当することが多いため、教科・ 活動の垣根を超えた教科・活動間連携の機会や場面は少なくないと言われている(森山,2009)。そう した状況を踏まえて、最近の改訂学習指導要領の記載から、連携についての記載内容をたどることが 可能になっている。

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例えば、外国語活動については、2008 年改訂小学校学習指導要領(文部科学省,2008a)では、「第 4 章 外国語活動 第 3 指導計画の作成と内容の取扱い(4)」で、「指導内容や活動については、児 童の興味・関心にあったものとし、国語科、音楽科、図画工作科などの他教科等で児童が学習したこ とを活用するなどの工夫により、指導の効果を高めるようにすること。」という記載が示されている。 また、2017 年改訂小学校学習指導要領(文部科学省,2017a)では、「第 4 章 外国語活動 第 2 各 言語の目標及び内容等 英語 3 指導計画の作成と内容の取扱い(1)」で、「指導計画の作成に当 たっては、第 5 学年及び第 6 学年並びに中学校及び高等学校における指導との接続に留意しながら、 次の事項に配慮するものとする。」という学年間連携・校種間連携への配慮の記載に続けて、「エ 言 語活動で扱う題材は、児童の興味・関心に合ったものとし、国語科や音楽科、図画工作科など、他教 科等で児童が学習したことを活用したり、学校行事で扱う内容と関連付けたりするなどの工夫をする こと。」、「オ 外国語活動を通して、外国語や外国の文化のみならず、国語や我が国の文化についても 併せて理解を深めるようにすること。言語活動で扱う題材についても、我が国の文化や、英語の背景 にある文化に対する関心を高め、理解を深めようとする態度を養うのに役立つものとすること。」 とい う教科・活動の垣根を超えた教科・活動間連携への配慮が記載されている。 同様の記載は、2017 年改訂小学校学習指導要領(文部科学省,2017a)の外国語(英語)でも見つけ ることができる。「第 2 章 各教科 第 10 節 外国語 第 2 各言語の目標及び内容等 英語 3 指 導計画の作成と内容の取扱い(1)」では、「指導計画の作成に当たっては、第 3 学年及び第 4 学年並び に中学校及び高等学校における指導との接続に留意しながら、次の事項に配慮するものとする。」とい う学年間連携・校種間連携への配慮の記載に続けて、「オ 言語活動で扱う題材は,児童の興味・関心 に合ったものとし、国語科や音楽科、図画工作科など、他の教科等で児童が学習したことを活用した り、学校行事で扱う内容と関連付けたりするなどの工夫をすること。」という 教科・活動の垣根を超え た教科・活動間連携への配慮が、外国語活動の場合と同様に記載されている。 これと同様の教科・活動の垣根を超えた教科・活動間連携への配慮を示した記載は、 2017 年改訂小 学校学習指導要領(文部科学省,2017b)の国語の記載でも見つけることができる。 「第 2 章 各教科  第 1 節 国語 第 3 指導計画の作成と内容の取扱い 1 」では、「(8) 言語能力の向上を図る観点 から、外国語活動及び外国語科など他教科等との関連を積極的に図り、指導の効果を高めるようにす ること。」という国語教育と英語教育、及び他教科等との教育の連携への配慮を示す記載が明記されて いる。 さらに、国語教育と英語教育との連携への配慮は、 2017 年改訂の小学校学習指導要領解説 国語編 (文部科学省,2017b)、小学校学習指導要領解説 外国語活動・外国語編(文部科学省,2017a)のそ れぞれの巻末の附録での、国語編では「第 2 章 各教科 第 10 節 外国語」及び 「第 4 章 外国語 活動」の改訂学習指導要領の掲載が、外国語活動・外国語編では「第 2 章 各教科 第 1 節 国語」 の改訂学習指導要領の掲載でも示されている。 こうした、 国語教育と英語教育との連携への配慮を示す 、相互の学習指導要領での教科・領域間連 携についての記述、学習指導要領解説附録への教科・活動の垣根を超えての学習指導要領の相互掲載 は、2017 年改訂小学校学習指導要領(文部科学省,2017a;2017b)で初めて実現した出来事で、2017 年改訂小学校学習指導要領(文部科学省,2017a;2017b)の「第 1 章 総説 1 改訂の経緯及び基本 方針 (2)改訂の基本方針 ⑤教育内容の主な改善事項」で示した、「言語能力の確実な育成」、「伝統 や文化に関する教育の充実」、「体験活動の充実」、「外国語教育の充実」を踏まえての、 国語教育と英 語教育との連携への配慮を示す出来事と言える。 今後は、改訂学習指導要領の記述が示す、国語教育と英語教育との連携への配慮事項を生かして、 複数の教科や活動を担当する学級担任、近年、小学校の英語教育で配置が進む専科教員とが連携して、 教科・活動の垣根を超えた連携が、具体化し、進んでいくことが期待される。

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7.おわりに 本研究は、平成に入ってからの学習指導要領の記載で登場した「伝え合う力」(国語)ということば と「コミュニケーション能力」(英語)ということばを手がかりとして、小学校における国語教育と英語 教育のそれぞれの言語教育の視点、連携の視点について、改訂学習指導要領の記載からたどってきた。 研究では、「伝え合う力」ということばと「コミュニケーション能力」ということばのそれぞれにつ いて、小学校学習指導要領 国語編(文部科学省,2008b; 2017b)、及び小学校学習指導要領 外国語活 動編(文部科学省,2008a)、 小学校学習指導要領 外国語活動・英語編(文部科学省,2017a)に見ら れる記載から、言語教育としての国語教育と英語教育の連携の視点について探っていった。その結果、 これまでの改訂学習指導要領の記載からは、「伝え合う力」は国語教育で、「コミュニケーション能力」 は英語教育で、それぞれ 育成する力として規定され、育成する力の捉え分け、用語の使い分けが行わ れてきたことが明らかになった。加えて、2017 年改訂小学校学習指導要領(文部科学省,2017a)の 外国語活動・外国語(英語)では、「コミュニケーション能力」に関する記載部分で、「コミュニケー ション能力」を「伝え合う力」として捉える記述が加えられているという、これまでの教科・活動の 垣根を越えての、育成する力、用語の共有化への変化を確かめる事実の確認もできた。また、最新の 2017 年改訂小学校学習指導要領解説 国語編(文部科学省,2017b)、2017 年改訂小学校学習指導要領 解説 外国語活動・英語編(文部科学省,2017a)には、国語教育、英語教育の相互の連携への配慮を 示す記載や記述も掲載されていることを確かめることができた。 今後の課題としては、教科や活動の垣根を超えた、小学校での国語教育と英語教育の教科・活動間 の連携の具体化と具体化に向けての事例の研究への取り組みがあげられる。さらに、小学校での国語 教育と英語教育の教科・活動間の連携の具体化に向けて、事例をあげての、連携の具体化の可能性、 方向性についての実証研究や実践研究が進んでいくこと期待される。 参考文献 村松賢一(2002)「国語科におけるコミュニケーション能力の育成―音声言語教育の現状と課題―」『第二言語習 得・教育研究最前線 2002 年版―あすの日本語教育への道しるべ』(お茶の水女子大学日本言語文化学研究会 編)(東京:凡人社),pp. 368-380. 文部省(1947a)『学習指導要領 英語編(試案)』東京:中等学校教科書. 文部省(1947b)『学習指導要領 国語科編(試案)』東京:教育図書. 文部省(1989a)『中学校学習指導用要領』東京:大蔵省印刷局. 文部省(1989b)『高等学校学習指導要領』東京:大蔵省印刷局. 文部省(1998a)『小学校学習指導要領』東京:大蔵省印刷局. 文部省(1998b)『中学校学習指導要領』東京:大蔵省印刷局. 文部省(1999)『小学校学習指導要領解説 国語編』東京:東洋館出版社. 文部科学省(2008a) 『小学校学習指導要領解説 外国語活動編』東京:東洋館出版社. 文部科学省(2008b)『小学校学習指導要領解説 国語編』東京:東洋館出版社. 文部科学省(2017a)『小学校学習指導要領解説 外国語活動・外国語編』東京:開隆堂出版. 文部科学省(2017b)『小学校学習指導要領解説 国語編』東京:東洋館出版社. 森 篤嗣 (2009)「「英語の前に国語」の声に応えられる言語教育とは」」『国語から始める外国語活動』(森山卓郎 編著)(東京: 慶應義塾大学出版会),pp. 55-78. 森山卓郎 (2009)「外国語活動を支える「国語の力」」『国語から始める外国語活動』(森山卓郎編著)(東京:慶應 義塾大学出版会),pp. 33-54.

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