1 はじめに
情報システムは組織活動を支援する重要なツールであり,今日では情報システムの支援なしでは組織 活動は不可能である。情報システムはいくつかの部分に大別することができる。「システム」と「デー タ」は,情報システムを構成する重要な部分である。「システム」は,プログラムに代表される「処理 機能」である。この機能を実行する主体が人間とコンピュータに分けることができる。前者の場合には 「マニュアル」後者は「プログラム」と呼ばれる。どのような手順(ステップ)で処理が実行されるか 詳細に記述されている。「データ」は,情報システムが作り出す最終製品である「情報」を作り出す原 料にあたる。原料である「データ」は,正規化の工程を経て整然と構造化されて管理されている。 処理機能は手順を表現しているため組織のビジネスルールと密接に関係していることは容易に想像が つく。一方,「情報」を作り出す原料である「データ」の構造とビジネスルールがどのような関連があ るかは必ずしも明確なものではない。しかし,データ構造とビジネスルールが深く関係していることを 本稿で明らかにすると同時に組織が大きく変容する時には同時にデータ構造に変更が加えられる。 この稿ではデータ構造を記述するデータモデルとして TH(椿・穂鷹)モデルを用いる。このモデル に関しては参考文献 2, 3 を参照のこと。2 大学での事例
大学における科目と教員との関係を通して大学におけるビジネスルールを考える。以下の事例は具体 的な対象があるわけでなく筆者が考えたものでる。そのため,実際の運営と異なることもある。さらに 検討が容易になるようにシンプルな構造にしている。 エンティティ「教員」と「科目」との関連を考える。図 1 の関係は,「教員」と「科目」の関係が 1 対多の関係である。この関係は,教員は複数の科目を担当し,そして科目はただ一人の教員が担当する とうルールで運営されていることを意味する。したがって,オムニバス形式や複数教員での担当などで の授業運営がないのである。 次に図 2 のようなデータ構造を考える。この構造は,「教員」と「科目」との関係が多対多の関係でBussiness Rules and Data Structure
SHIBATA, Ryoichi
ある。この構造には,多対多の 関係を表現しているエンティ ティ「担当」が新たに追加され ている。そして,データ構造が 示しているビジネスルールは次 の通りである。 教員は複数の科目を担当し, 一つの科目は複数の教員で担当 される。そして,エンティティ 「科目」には,どのような形式 で科目が運営するかを明示的に 示すデータ項目「担当形態」が 存在する。このデータ項目は, 複数の教員がオムニバス形式で 授業を運営するか,または複数 の教員が共同で授業を運営する かを明示的に示している。 さらに図 3 のようなデータ構 造を考える。図 2 では科目=開 講科目であったため,同じ科目 を複数開講しないとのルールで 運営されている。しかし,共通 図 1 1 対多の関係 図 2 多対多の関係 図 3 科目が複数開講 科目のように同じ科目が学科毎に開講することが生じる。たとえば,「情報処理」などの情報リテラ シー教育では同じ科目が複数開講するのが一般的であり,その内容も同じである。このことは,科目が 必ずしも開講している科目と同じ管理対象であるとは限らない。したがって,エンティティ「科目」と エンティティ「開講科目」が 1 対多の関係を持つ。すなわち,1 科目に対して同じ内容の授業が複数開 講され,この「開講科目」と「教員」が多対多の関係で結ばれる。データ項目「開講形態」は「科目」 から「開講科目」に移動した。このことは,同じ科目であっても実際の運営での開講形式が異なる事が あると言うことである。
のお土産にも生鮮食料品が加えられるようになった。さらに,生産現場では産地直送という新しいマー ケットが誕生して,生産者が直接消費者に生鮮食品を届ける業態が新しくできた。 クール宅急便の導入前後でのデータ構造を考える。図 4 はヤマト運輸が宅急便を導入したときのデー タ構造である。荷物の送料は,発店コードと着店コードのペアと荷物のサイズで決まってくる。発店 コードと着店コードのペアから輸送距離,サイズは荷物の大きさと重量で決まる値の二つから運賃が決 定する。 次にクール宅急便を導入時には運賃の他に低温で荷物を運ぶための料金を新たに設けた。この料金を 表すデータ項目が「料金コード」である。この値によって荷物を温度管理なしで運ぶのか,低温で運ぶ 必要があるかを明示的に表すものである。そして,クール宅急便の料金は,距離に関係なくサイズのみ で決定される。データ構造的には,温度管理なし,または低温での温度管理有りを区別するためのデー 図 4 ヤマト宅急便
タ項目が追加されたのである。このデータ項目が料金を決める一部となっている。この構造が図 5 であ る。 2)料金収納代行サービス 1987 年のセブンイレブンでの東京電力の電気料金収納代行サービスが,コンビニでの料金代行サー ビスの始まりである。このサービスが始まる前は,電気料金を支払う方法は,銀行口座引落,銀行窓口 での支払,または東京電力営業所などのサービス窓口での支払であった。銀行の窓口での支払は月曜日 から金曜日の 9 時から 15 時までの銀行の窓口が開いている時間帯に支払に行く必要があり,一般の会 社員にとっては昼休みに時間の遣り繰りをして銀行の窓口に並ぶ必要があった。これは大変苦痛を伴う ものであった。このような時代に 365 日 24 時間営業しているコンビニのカウンターで電気料金を支払 うことができることは画期的な出来事であった。このサービス出現後にコンビニは単にモノを売るだけ でなくサービスも提供するようになった。今日では,電気料金だけでなく各種公共料金の支払い,ネッ トショッピングなどの決済,各種チケットの取扱い,そして行政サービス代行など様々なサービスを提 供している。もはやコンビニはモノを買うだけの場所でなく,各種サービスを受ける場所となった。こ の原点が電気料金収納代行サービスである。セブンイレブンの 2015 年度のチェーン店全店の売上高は 約 4 兆 2,910 億円,一方料金収納代行サービスの取扱金額は約 4 兆 5,796 億円である。モノの売上より 少し多い金額である。このサービスはコンビにとって大変重要なものの一つである。 図 6 の構造図はコンビニがモノの販売だけをしている時代のものである。エンティティ「取引」の明 細を示すエンティティ「取引明細」にはエンティティ「商品」から 1 対多の関係が紐付いている。コン ビニにおける取引はすべてこの「商品」に登録されているモノがすべてである。すなわちこのことが, コンビニの店頭に並んでいる商品はすべてバーコードで表現されている商品コードが付けられているこ 図 5 クール宅急便
図 6 モノの販売
とを意味する。 図 7 は料金収納代行サービスが導入された後のデータ構造である。以前との違いは,エンティティ 「取引」が取引区分で 2 つのタイプに分けられたことである。区分が一般の取引は従来の取引を表現し ており「商品」との関連が「取引明細」を通してとられている。一方,取引区分が収納である「取引」 は商品との関連がなく,新たに収納代行サービスに関連するデータ項目「収納金額」「顧客番号」「収納 期限」や「取引先企業番号」などのデータ項目が追加された。取引区分のとる値でビジネスルールが変 わることが見て取れる。今回の分析では,「取引」をサブタイプに分解したが,「商品」を商品コードで サブタイプに分解して収納代行サービスを扱うことも可能である。 3)アマゾンのカスタマーレビュー導入 書籍のネット販売がアマゾンの原点である。数多ある商品の中から書籍をネット販売の商品としたこ とにはいくつかの理由がある。書籍は実際に手に取ってみなくとも内容や品質が信頼できる。また,商 品の旬の時期が存在するが,他の商品より賞味期間が長い。そして,実書店と異なり,書籍を店頭 (ネット上)に並べる物理的なスペースがいらないため,桁違いに多くの書籍を並べることが可能であ る。すなわち,読みたいと思う本が店頭にある確率が非常に高いのである。 ネット販売と実店舗での販売との違いは,ネットの販売の場合には,必ず顧客情報が紐付いている。 これは,商品の送り先と代金決済のためである。他の部分は,一般の小売と同様である。これを表現し たのが図 8 である。 次にどんな本を読もうかと考えるときに大いに参考にしているのが,毎週日曜日の朝刊に掲載される 書評である。ここには,その分野の専門家や評論家の書評が掲載されており,この書評を読み次に読む 本を決めたことが多々ある。街中の書店でも数紙の書評欄を大きく掲示しその下に関連図書を展示する 図 8 ネット販売
コーナーを作っているところもある。このようにして新聞の書評欄は一定の社会的な評価を得ていると 思われる。そして,私たちが何か新しいものを購入するときに大いに参考するものが「口コミ」情報で ある。すなわち世の中の評判である。この「口コミ」情報をいち早く取り入れた企業の一つがアマゾン である。新聞の書評と違い一般の人達が実際に書籍を手に取り読み終えた後の読後感が正直に書かれて いるものが多く,売らんがための意図がないためこれを読んだ人達が共感を持ち書籍の購買に繋がるこ ともある。「口コミ」情報を電子化したものがカスタマーレビューである。そして,そのデータ構造が 図 9である。「商品」と「顧客」が多対多の「カスタマーレビュー」である。現実のカスタマーレ ビューはより複雑な構造をしている。レビューに対するコメントができたり,画像を貼り付けたり,そ して文章だけでなく評価を星の数で表すなどの工夫が施されている。しかし,本質はこの図のように顧 客が商品の評価を書くことができることであり,双方向のコミュニケーションの実現である。今日では ユーザーレビューを積極的にマーケティングに活用している E コマース企業が多く見受けられる。
4 データ構造から見るビジネスルール
前章まではビジネスルールが変化するとそれに伴いデータ構造も変化していくことを見てきた。この 章では 2 つの事例を考える。一つ目はホテルの客室予約に関するデータ構造ともう一つは航空会社の座 席予約に関するデータ構造である。この二つの事例も前章と同じように実際のものでなく筆者が考えた データ構造であるため実際の運営とは異なる事がある。しかし,構造の本質は同じであると考える。こ の関係での参照 HP は,参照文献の 7 である。 図 9 カスタマーレビューの導入1)ホテルの客室予約に関するデータ構造 ホテルの客室予約のデータ構造は図 10 の通りである。エンティティ「ホテル」と「客室」でホテル の客室を表し,「客室」の属性としてデータ項目「配置」と「タイプコード」などがある。配置は客室 がどのようなロケーションにあるかを表す。例えば,海側,山側,中庭側など客室からの眺めを表す。 当然同じフロアにある客室でも配置により客室の料金が異なる。タイプコードは,シングル,ツイン, ダブルやスイートなどの客室の種類を表す。客室の料金は一律でなく,標準料金が設定されているが 様々な割引が設定されている。例えば,株主優待,早期予約割引などがある。これを表しているのが 「料金種別コード」である。さらに,ハイシーズンの混雑時またはオフシーズンの閑散期でも料金が異 なる。この時期による違いを表しているのが「時期コード」である。ホテルの客室の標準料金は,ホテ ルの立地を示す「ホテル番号」(この番号でホテルの所在地が分かる),シングルなどの部屋タイプを表 す「タイプコード」,各種割引を表す「料金種別コード」,そして利用時期を表す「時期コード」が識別 子となり決定される。客室の予約はエンティティ「客室予約」で管理される。このエンティティの識別 子は,「ホテル番号」,「ルーム番号」と「年月日」である。所属データ項目に「予約番号」があり,こ のデータ項目に値が入っている場合には予約が入っていることを意味する。ブランクの場合には空き室 すなわち予約がまだ入っていないことを表す。「予約番号」を識別子とするエンティティ「予約」が別 途存在し,そこに顧客情報が記載されている。 2)航空会社の座席予約に関するデータ構造 航空会社の座席予約のデータ構造は図 11 の通りである。いくつかのエンティティに関して説明を加 える。エンティティ「タイプ」はボーイング 767 やエアバス 300 などの航空機の種類と座席配置タイプ 図 10 ホテルの客室予約
を表す。同じ航空機であっても国内線と国際線では座席配置が異なる。エンティティ「機材」は物理的 な飛行機を管理するためのものである。エンティティ「フライト」の識別子「フライト番号」は時刻表 に記載される運航便名である。ホテルの客室予約と同じようにエンティティ「座席予約」内の「予約番 号」がブランクか否かで空席かどうかの識別となる。 3)二つのデータ構造の対比 航空会社の座席予約とホテルの客室予約のデータ構造はたいへん似ている。システムの構造も同様と 類推される。航空会社とホテルの業態は一見全く異なる業態を思われるが,予約という業務を考えると 類似性がある。このことが,航空会社がある時期ホテル業界に容易に進出できた理由の一つであると考 えられる。データ構造とビジネスルールが何らかの関連をもっていることを表している。
5 おわりに
本稿ではいくつかの事例を示しビジネスルールとデータ構造が関係していることを示した。さらに, データ構造の類似性がビジネスルールの類似性に繋がることも示してきた。さらに一歩踏み込んで, データ構造を変革することにより,新たなビジネスルールを作り新たなビジネスに繋がることを考えて 図 11 航空会社の座席予約行きたい。 参考文献 1.増永良文,『データベース入門』,サイエンス社,2006 年。 2.椿正明,『データ中心システムの概念データモデル』,オーム社,1997 年。 3.柴田良一,「データモデルの構造について Ⅱ」,名古屋経済大学 自然科学研究会会誌,第 32 巻, 第 2 号,1998 年。 4.アマゾンホームページ www.amazon.co.jp 5.ヤマト運輸ホームページ www.kuronekoyamato.co.jp 6.セブンイレブンホームページ www.sej.co.jp 7.日本航空ホームページ www.jal.co.jp