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﹃閑 居 友 ﹄ の 引 用 構 造

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(1)

﹃閑 居 友 ﹄ の 引 用 構 造

1

引 用 類 型 の 整 理 の た め に ‑

山 口 康 子

O

ntheFunctionsofQuo

ta

tion

sin the K

AN

K Y O N O T O M O

‑ F or th e

Arr

an g em e n t o f Q uo ta tio n .s m od els ‑

Y as u k o Y A M A G U

CH‑

「閑居友Lは'様々な意味で性格の明らかな説話集である。説

話を紹介するにあたって'あまりにも強烈に自らの思想を論述Lt

その部分が説話本体よりも長大になることもままあるため'説話

集の〟編者というよりも〟作者と称する方がむしろ適切とも(注1)いえる'極めて自照性の強い説話集で(2)作者は'現在のところ'多‑の論考に'九候道家の兄にあ

たる慶政上人と考えられている。文治五年(二八九)生まれ'

文永五年(二一六八)一〇月六日'八〇歳で没した。建保五年

(一二一七)頃に渡宋'経典二百余巻を携えて帰国後'「続本朝往

長 崎 大 学 教 育 学 部 紀 要

人 文 科 学 ‑ 第 六 十 号

生伝」以下の多‑の往生伝を書写Ltかつr閑居友Jを執筆した.r閑居友Lの成立に関しても'内外の徴証から'上巻第三話の

み'あるいはそれに加えて敷詰が渡来以前に執筆されたもので'

他は'建保六年(二二八)帰国後に執筆を再開し'暴久四年(注3)(一二二二)三月'慶政三四歳で脱稿したと考えられて

立年は下巻末尾に明文化されており'動かぬところである。r閑居友」の執筆動機も下巻末尾の記述によって'身分の高い

姫君へ献上する目的で編まれたものであることが読みとれるため'

慶政の身辺にその相手を求める考察もなされていtA.)今のとこ

ろ'いずれかに特定はできないようである。r閑居友」は明確な執筆方針に基づいて記されており'それも

十 七

(2)

山口康

又上巻第一話の評語の中に明記されている。この点についても既

に詳しい解釈が試みられている)三吉にして言えば,他の伝記

類との重複を避けようとする姿勢である。r閑居友)の説話構成についても論が多い。これはtr今昔物

語集Jなどにみられる類纂意識の面からtr閑居友」上巻二7話'

下巻17話'計三二話の説話の編成に'何がしかの意図を読みと(注6)ろうとするもので'説話数が少ないこともあって'その構造

はある程度明らかにされているといえよう。

以上'保留されている事項があるとはいえ'様々な点で明らか

なことも多い「閑居友」について'本稿では'各説話内部の文章

の構造'特に引用の構造という側面から考察を試みたい。

編集方針を巻頭で明らかにLtそれに沿って一貫した姿勢で記

述されていると考えられる「閑居友」において'計三二話の各説

話の語り口は'どのようなものなのであろうか。r閑居友」にお

いては'往々にして説話本体よりも詳しく、筆者の感想を述べ'

関連する内外の事跡を紹介し'経典や偶文を引いて長大な評語部

分を展開する。「閑居友Jの文章はどのような構造を持っている

のだろうか。どのようにして「ものがたり」を書きとめているの

だろうか。

先に'文章の構造を把撞する一つの試みとして、「引用文」の(注‑)出現状況を構造的に把え'その引用類型を提示本稿はそれ

をうけて'引用構造の面からr閑居友Jの文章の性格を明らかに

しょうとするものである。「語り伝えた」事柄を「聞き継ぎ」、あ 十八

る時点で「文字化する」という過程を含みこんで成立する説話集

においては'「引用」という修辞法に大きく依存する面がある。

とりわけ「閑居友Jは'単なる会話文にとどまらず、経典などの

文言の引用も多い。引用文はどのようなものがどの程度あらわれ、

どのような表現効果を持っているのだろうか。

まず'各説話にどのような引用文がどの程度あらわれるかを明

らかにしよう。各説話に冒頭から1㌧2'3‑‑と文番号を付し'

引用文には①'②'③‑壬と引用番号を付す。例文を示す。テキ

ストは「新日本古典文学大系」

4

0'所収のr閑居友」を使用する。

所在表示は同書のページ数・行数をもって示す。以下'同じ。

<例文‑>如幻僧都の発心の事(上巻第二話'以下上‑2と略記する.)ー2昔'如幻僧都といふ人をはしけり。もとは奈良の京'東大寺

に住みて'華厳宗おぞならひ給ひ切創.3そのころ'善珠大徳学問の功高くて'眠りお除き'飢ゑおし

のびて見え刷れば'時の人もいみじきことにいひあへり州射.

伊都これを見て,宗いかに学問すとも,この人に勝るべから

ず。しかじ'この道おあらためて'ひとすぢに行なひの道にお

もむきて'この人よりは先立ちて世の聞こゑおも取り'位おも

上がらむ」と思ひて'熊野に寵りて'身を砕き骨を折りて'ひ

とすぢに行なひ給ひ刷り1.5か、るほどに'かたはらに'我が行ないを五'六重ねたらん

ほどに行なふ者あり刷引ul)れお見て,ザあさまし」と思ひて,

ヂても,かくして世中にありては,ついにはいかなるべきぞ」

と思ひ続‑るに'いとあぢきな‑よしなくて'やがて走り出で

給ひにけり。

(3)

7さて'播磨の国'高和谷といふ所におはして'他事なく後世

の行ないして'常には心を澄まして'華厳経をぞ読み給ひけ引O8か,るほどに'弟子にならむとて人あまた出で来集まりて'

後には本意なきほどに侍ければ'離れたる所にあやしの庵構ゑて'たゞひとり居て'食ひ物などもみづから営みて'弟子おば

時ぐぞ来させける。J

がる時,ごま七日ばかりは厳しき行なひをする事侍べし.

ゆめく来たる事なかれ」とあり叫山川ば'そのほど'人行き交0ふ事なかり州射.日ごろ過ぎて'庵のほどにいひ知らぬにはひ

の侍ければ'あやしくて見tナ叫ば'手お合はせて西に向ひて'

命尽き給ひに切引なるべし.才の年は六十二'頃は十二月二日2にてぞ侍ける.観音を本尊にし給ひ刷引とかや.3.IJの人の事'往生伝に侍めれど'この事は侍らざめれば'記

し侍なるベeJoの伝には置識因明の道お摺かにならへる」と侍にや。また'僧都になれるよしも見えず。もし僧都といへ

るは僻事にや侍らむ。調の播磨の高和谷に,絵に措ける御姿のをはするは'木の下に石を敷き物にて'櫓笠と経袋とばかり置8き給ひたる姿とぞ聞き侍し。寒心の初めより命絡まで'澄みて

おぼへ侍り。(上

‑ 2

3‑3ペ6行〜脱ペ11行)

上巻第二話は'播磨高和谷の性海寺中興の師と伝えられる如幻

の発心のいきさつを語りtr往生伝」(コ二外往生伝」のこと'山口注)にはこの事実が記載されていない事を述べ'慶政の感想を記して

閉じる。計三二話のr閑居友」の説話の中では'短い方に属する

が'説話の語り口'話の運び方'話柄の展開の仕方はtr閑居友」

に典型的なものといえる。例文としてまず提示するゆえんである。

r閑 居 友 」 の 引 用 構 造

第二話は計一八文からなり'①‑⑥まで計六例の引用文を持つ。

説話の構成を'文番号・引用番号で示せば'次のとおりである。

艶話の構造 ( 上

‑ 2)

(B)評 語

(

A) 説 話 本 体

18 17 16 15 14 13 12 11 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1

香 早

容 内

@ @

( (

伝間によ 径生伝の記

事の

詔ヽ̲.′

慶 慶

l‑

l

碧 毒 筆

ヽー

政 政 心 幻

の の

評 所 の 記

語 記 の

事 の 発

の 理 心

紹 由 辞

r閑居友」第二話の文章の構造は右の図Ⅰの如‑に整理できる。

全一八文の中で'文番号4'6'9ty17の計五文に引用文が

みられる。文番号6には②③と計二例の引用文があるが、このよ(注8)うな引用形式を私は先に「連続引用」と名づけた。ちなみに複数

十 九

(4)

山口康子

会話文の引用形式は,次の二種四類に類型化でき)r閑居友」

には臼羅列引用を除‑'二種三類の引用形式があらわれている.

㈲並列型 H連続引用

日継起引用

臼羅列引用 二十

の分析を基盤にしたが'「今昔物語集」にとどまらず'一般化でき

ることも界)oれに当てはめると,上巻第表の引用構造

は'㈲引.用文活用型のうちの全体型Ⅰ、会話進展型と認定できる。ちなみに'その二種七類は次のとおりである。(引用モデル)

㈱引用文活用型 ㈲重層型‑佃二重引用全体型II

以上に述べた方法によって'説話のどの部分に引用文があらわ

れるかを図示Lt引用図と名づけると'例えば'上巻第一話の「引用図」は次のとおりになる。 ㈲引用文非活用型 ⅡⅢⅣⅤⅥⅦ 会話進展型

山場活写型

末尾啓蒙型

体験談話型・・ノ、ノ/.I./.t.ノ\‑

随所散在型

和歌提示型17○⁝〇三〇‑○‑

事実説明型

引用図 (上‑1)

文番号 引用番号

1 2 3 4 5

6 7 8 @@ 9 @

10 @

ll 12

13 @ @ @

14

15 16

17 18

19 20 21 22 23

24

25 26 27 28 29

(破線はあらわれる位置の流動性を示す。。は和歌)

この類型によれば'前掲図Ⅰの上巻第二話の引用形式は'㈲引

用文非活用型のVt随所散在型に該当する。この手順によってtr閑居友J全三二着の引用構造を整理・分類して次に表Ⅰとして

示す。各話の引用図を提示することは煩を避けて割愛する。

上巻第一話は'全二九文からなり'引用文は計一八例である。

その出現状況は図Ⅱに一目瞭然であるが'先述のH連続引用の他t

O継起引用もあらわれる。図Ⅰと比較すると'引用文のあらわれ

方が頻度も含めて相違がみられるO私は先に'このような文章の

構造を「引用構造」と名づけ'二種七類の類型を見出して提示し

flo.ガ章構造における引用文の出現様相と,文章における表現効

果とを勘案して'分類整理したもので'「今昔物語集」の全説話

表Ⅰ 閑居友の引用構造

Ⅵ Ⅴ ⅣⅡ Ⅰ

(2) 仏領 (4)(1)(6) (8)(3) (9) (13)(5) 621) 吐4)(7) (19 80)

0 ̲

昏 (ll) (17)(1

CCB

21 4 1 7 9

(11日 1)(2)(3)(4)(6) (5) (8) (7) (9) aO)

ll 1 1 3 1 5

(表中の数字川畑・・・‑は説話番号。計の柵の数字は説話数を示す.)

(5)

表Ⅰに明らかなとおりtr閑居友」の引用構造は'全体として

Ⅰ会話進展型が優位を占め'Ⅱ山場活写型が続き'大方の説話集

と同様に'引用文を活用する型が主流を占めることがわかるが'

特に上巻においては'引用文非活用型のⅤ随所散在型も計四着を

数える。r閑居友」における引用の役割を明らかにLt引用構造

を明らかにするために'更に'引用文の種類と説話の語り口を関

連づけた考察が必要と考えられる。

前掲の<例文‑>上巻第二話について'①〜⑥の引用文の種類

を検討してみよう。㊤巻は'いずれも如幻僧都の心中言で'引

用動詞「オモフ」「オモヒツヅク」によって地の文に散人されて

いる。④は「あやしの庵」住みの如幻僧都の'訪れた弟子に対す

る要請の言で'引用動詞は「アリ」であるが'発話されたものと

判断できる。⑤は'「往生伝」の文言の引用であり'⑥は'後日

の伝聞内容を記したものである。すなわち'上巻第二話の引用文

は'

心中言'

会話文'

先行資料の文言'仙伝聞内容tの四

種類になる。経文・偶文の引用や古諺・名句・僅詫・慣用句など

先行資料の文言に加えるとすればtr閑居友」全三二話の中

には'前記計四種類の他には㈲和歌'㈱夢tの引用文が出現する。

すなわち'「閑居友」の引用文は、計六種類を見出す。

先に私は'和文における引用文の種類を'計八種類に分類した(注9)ことがあr晴蛤日記Jを例としての調査・分類であったが'

一般的に'引用文の種類の判別に適用できる。次に示す。 BtctDtEtFtGtHt 古歌やその一部'もしくは名句・埋謡・慣用句など‑

手紙文

直接会話文

間接会話文

2)

( 4 )

伝聞内容

心中言・思惟内容

(6)(1)(3)

Aへ和歌

r閑 居 友 」 の 引 用 構 造

今tr閑居友」における引用文の種類の番号を下欄に対応させ

てみたが'対応番号の見出せないものはC手紙文だけである。手

紙文は㈲先行資料の文言tと認めることも可能であろう。D直接

会話文とE間接会話文の区別は'筆者(作者)が直接音声を耳に

した会話文であるか否かによるものとしたがへ識別は文脈上の判(注9拙萱‑冊)断に拠る必要の生じる場合もあることも指摘して料の性

格によって両者を区別することが有意偶である場合もあり'必要

ない場合もあろう。㈲先行資料の文言の内容が資料によって'経

典・古歌・聖人の遺跡など様々な実体を持つことと同然である。

改めて引用文の種類を一般化して整理するとr閑居友」にみた

ように'次の計六種類にまとめることができる。

It会話文2'心中言3、先行資料の文言

4'伝聞内容5'和歌

6㌧夢

それぞれの引用文の内容については'対象資料によって異なる

ことになろうが'その事実自体が対象資料の文章の性格の一端を

二 十 一

(6)

口康子

示す。又'

引 用

文の種類の比

率 も '

章 の 性 格を 示 す

指標となろ

う。r閑居

友 J

の引用文の種

類 別 の

出現

状 況 を 次 に 表

Ⅱとして示

そう。 二十二

引用率は'各話の文数に対する引用文数の比率であり'会話率

は'それぞれの説話における引用文の中で会話文の占める比率で

ある。引用文の内訳をみると'会話文'計一四九例'心中言計七

表Ⅱ 閑居友の引用文

巻 説話番号 文数 引用文数 会話文 心中言 先行資内料文言 伝聞内容訳和歌 夢 製芸引用率些 ×100諸 会話率芸 ×lOO

上 1 29 18 7 6 4 1 62.1 38.9

2 18 7 1 4 1 1 38.9 14.3 3 30 16 6 5 3 1 1 53.3 37.5

4 16 7 4 2 1 43ー8 57.1

5 26 12 4 3 5 46.2 33.3

6 23 5 1 2 1 1 21.7

0

7 16 10 5 4 1 62.5 50.0

8 16 6 3 1 2 37.5 50.0

9 27 9 4 5 33.3

0

10 21 8 3 4 1 38.1 37.5

ll 30 9 3 2 4 30.0 33.3

12 29 10 7 3 34.5 70.0 13 23 13 6 1 5 1 56.5 46.2

14 17 8 7 1 47.1 87.5

15 15 5 4 1 33.3 80.0

16 16 5 5 31.3 100.0

17 ll 3 3 27.3 100.0

18 14 2 1 1 28.6

0

19 34 20 9 5 6 58.8 45.0

20 19 7 3 3 1 36.8 42.9

21 27 9 5 4 33.3 44.4

小計 457 191 82 54 45 8 2

0

41.8 45.0

1 16 10 2 1 1 6 62.5 20.0

2 21 10 6 3 1 47.6 60,0

3 25 7 7 28.0 100.0

4 9 3 3 33.3 100.0

5 47 23 15 7 1 48.9 65.2

6 15 7 4 2 1 46.7 57.1

7 27 ll 8 3 40.7 72.7

8 20 9 8 1 45.0 88.9

9 17 8 7 1 47.1 87.5

1

0

39 17 2 7 6 2 43.9 ll.6

ll 33 9 5 1 3 27.3 55.6

小計 269 114 67 24 8 8 6 1 42.4 58.8

八例'合計二二七例が'全引用文三〇

五例の七四・四パーセントを占める。

引用文の中心は'会話文と心中言'特

に会話文であることは'説話集に一般(注7拙書事照)であるのみな'語や日記などに(注9拙♯事冊)おいてもみられる特色でれは'

文章の中に引用文を散人するという修

辞法の意味を考えると当然の事といえ

よう。会話文と心中言が引用文の中心

を占めるといっても'その相互の比率

や引用文全体に対する割合'更に'そ

の余の引用文がどの程度あらわれるか'

又'「先行資料の文言」という庫めて

広範な枠取りの中に'どのような〟資

がみられるのか'それを詳しく検

討することによって'文章の構造が更

に明らかになろう。

先に掲げた<例文‑>、上巻第二話

の文章の構造を整理した図Ⅰに示した

とおり'この説話は大きく二つの部分

(7)

に分かれる。すなわち'如幻僧都の発心のいきさつを語る説話本

体伽とそれに対する慶政の立場を示す評語㈲の二つである。それ

ぞれの部分の引用文をみると'㈲説話本体に引用されている①〜

④は如幻僧都の心中言と会話文であり'㈲評語の部分にみられる

引用文書は'前述の引用文の種類でいえば'先行資料の文言と

伝聞内容である。すなわち'説話本体には'引用文の中心といえ

る会話文‑心中言が引かれ'評語の部分にはそれがみられず'引

用は'先行資料の文言や伝聞内容という補助的な引用文になって

いる。これは'各々の部分の性格を考えると'当然とも思われる

ことであるが'<例文‑>に限るものであるかどうか検討しよう。

<例文‑>の上巻第二話は'「昔'如幻僧都といふ人をはしけ

り」と書き出される。時を示す「昔」という語で語り始め'主人

公'如幻僧都をまず紹介する。第二文でこの主人公の所属を示す。

この語り口は'説話一般のものであると考えられる。

このような説話の語り口についてはへつとに春日和男博士がそ

の構文上の特色を指摘しておらtAe.)例えばT今昔物語塁にお

ける統一的な語り出し「今昔」は'これも又統一的な末尾「

トナム語り伝へタルトヤ」と呼応するもので'中間の'主として

ケリ体で語られる説話本文は一見どのように長大であっても'一

文(もしくは一語)相当のものと考えられるのである。この説話

構文の把握は'説話というものの本質をよ‑とらえて'動かぬと

ころであると考える。そしてこの語り口は'古代の説話的な物語

においても同様に認めることのできるものであることも既に知ら

れるところである。

説話の語り口がそのようなものであるとすれば'説話集r閑居

友」も同様の語り口を持つと考えられるのではないだろうか。今t

r閑 居 友 J の 引 用 構 造

上巻第二話についてみれば'末尾は第

18

文「発心の初めより命絡

まで'澄みておばへ侍り。」である。「おぼへ侍り」の主語は作者

慶政と考えられ'この一文が冒頭の「昔」と呼応していないこと

は明らかである。r閑居友」上巻第二話の冒頭語は説話末尾と呼

応していない。それでは'冒頭の「昔」は'どこに呼応している

のだろうか。「昔」が単に'見かけの文末'「如幻僧都といふ人を

はしけり。」の「をはしけり」にのみ係るものではないこと'前

述の説話構文の把え方から確実である。「昔」はどこまで係るの

だろうか。それは第12文「観音を本尊にし給ひけるとかや。」ま

でと考えられる。すなわち'この部分の文章の構造は次のとおり

である。

「昔

とかや」という額縁に囲いこまれた説話本体は'主と

してケリ体で語られる。各文の文末をみよう。

Itをはしけり。

2'ならひ給ひ削引.3'見え叫叫ば'・・・‑・・・いひあへり刷射.4'行なひ給ひ州射。5'ありけり。

6'走り出て給ひに州射.7'読み給ひ刷聖

二 十 三

(8)

口康

8㌧侍ければ‑‑‑来させける。9'あり刷れーば・・・・・・‑なかり州射。

10㌧侍叫柑ば‑‑‑見刷れ暮ば‑・・・‑尽き給ひに刷引なるべし0

11'侍ける。

12tL給ひけるとかや。

接続助詞を伴う候件句の末尾も含めて'計一文のすべてが'

完全にケリ体で語られている。冒頭語「昔」は第12文の末尾と呼

応しているのである。ちなみに第12文以降には'助動詞ケリは一

例もあらわれない。第17文に助動詞キがあらわれる。次のとおり

である

1

3'記し侍なるべし

1 4

'‑と侍にや。

上巻

二 十 四

15㌧見えず

1

6'侍らむ。\ノ■ヽ一1

7

へ聞き侍し。

18㌧おぼへ侍り。

上巻第二話においては'㈱説話本体は冒頭語「昔」と末尾「と

かや」が呼応する説話構文で語られ'㈲評語部分には助動詞ケリ

は用いられず、推量'疑問'打消などの文末を持つ。「閑居友J全三二話について'このような説話構文で語られる

説話本体を含みこんでいる各説話の語り口を'以下検討する。各

話の胃頭語とそれに呼応している文末'および各話の末尾とを対

応させて次に示す。(表中の算用数字は'文番号。)参考のために

㈲評語部分の文数を示した。

14 13 12 1110 9 8 7 6 5 4 3 2 1号話番説

1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 中 中 中 中 近 中 音 昔 昔 昔 昔 昔 昔 此 比 ご ご う ご

ろ ろ の ろ 辛に や○

155

2 5

15118 4129258 31215呼 瑚I i 誓 三 豊皇 妄I i i i i i i i I'捨 棚 警7 2奏法

○ 「

そ0

毛 莱

ひ け .... (16

〜 と ぞ

17 23 29 30 2ば づーへ1 27 16 16 23 26 16 30 1i i8 29

こ 侍 か ら た 。

そo りo 載 陰り に りo

せ を が

侍 過

し ぐ

に さ

や む

oや0 り()

2 18 4 15 10 19 12 4 14 1 8 14 6 14文 辞数語

蘇 本 体ヽ 薗 節

(9)

21201918171615

ーむげに近き事にや。ー中比

近ごろ

ー中比

ー昔

ー中比の事にや

ーいまだむげに幼なく侍しほどの事にや。 11〜西に向ひてぞ死にたりける。

16その齢はハナばかりぞ侍ける。4‑となん語り侍し。31iとなん。

17iと・琴っにぞ瓢へける.Fとありがたく侍ける事にこそ)

6‑となん。(7ありがたく侍ける心にこそありけれ

)

0

1

0 」

の時,誰嚢を重ね,枕を並ぶる事あらんo 15〜とあはれ也。

ナシ1ーいとをしく侍ける心かな。

1

4あはれに侭はしく侍り。

別 〜

少し悲しむ心も侍かし.

19 〜

なをくありがたく侍べし。2

7 〜

といへる,たのもしくこそ侍れ。

7 0 4

171216 1

評語部分なし

11109 8 7 6 5 4 3 2 1

1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1

墓 室 音 量 蔓 蔓 毘 菅の らど かに 事 、 、 ご の のや やに にo o

や に 人 人

oや の の

o 詩 語

侍 侍り り L L は は ) ) 土日 日ヒ土:ヒ

8 791818 10 429 21 1

76

i ii Ii

i

ii

iii

息 と と と と と 浅 と 塊 と い 止 い な な な ぞ か て け て は

ま へ ん ん ん o ら 'て 涙 ぬ

り り O O o す う 死 ぐ 棟

に o ぞ つ に み に

け 息 ぷ に 即 ぞ

り ひ し け こ 見

o taT く Do至 言

Oに れ る

け け o

る る

と ○

か や○

33 39 1

72

0271547 25 21 16

0 侍く0 言るも5. 一也はをつ、

o琴 妄0 0 0

2532 8 2 9 5

5

0 4 410

秤請 部分 な し

右にみるとおり'上巻第一六話と下巻第四話の計二話は'説話

本体のみで終わり'評語部分を持たないが'残る計三〇話は長短

の差こそあれ'何らかの形で説話本体の後に評語部分を持つ。胃

頭語は昔'中比(ごろ)'近ごろ'近うの事(近き事)'遠からぬ

事tなどいくつかのパターンがあって一定しないが'時の表示を

もって語り始めるという姿勢は一貫している。下巻第八話の如く「文治二年ノ春」という具体的な時が明記されている例もある。

この説話は'建礼門女院・平徳子の出家後に'その隠棲の地に後

r閑 居 友 」 の 引 用 構 造

白河院が訪れた時の逸話で'建礼門女院が壇の浦での合戦の模様

と現在の心境を述懐する内容である。「平家物語」港頂の巻の「大原御幸」「六道之沙汰」や巻二の「先帝身投」と内容も文章

表現も似通っていることがつとに指摘されているがへr閑居友」

がr平家物語」を典拠として書かれたものではないと考えられて(注ーー)

第19文にあるとおり「かの院の御あたりの事を記せる文」

が存在し'「平家物語」もr閑居友」もそれに拠って記述したも

のと考えられる。この説話は'そういう文献の存在を証する資料

二 十 五

(10)

山口康子

でもある。この場合の評語は'

説話本体の出典の明示と掲載の

動機を述べる計二丈という短小なものであ‑'説話本体そのもの

の提示を意図した説話と考えられる。前述した評語部分を欠‑計

二話の冒頭語は'「中比」(上‑16)'「ちかごろ」(下‑4)tであ

り'評語の有無もしくはその長短と胃頭語との問には有意的な関

係はないものと考えられる。評語部分の短いものは'掲載動機(上15)や説話本体に対する作者慶政の感想(上‑1)が述べ

られている.冒頭語はそれぞれ「昔」(上‑5)'「中比」(上lユ)

であり'一貫性は見られない。冒頭語はあ‑までも説話本体の末

尾と呼応しているものと考えられる。

r閑居友Jにおいては'計三二話すべてにわたって'説話構文

をもって一まとまりになっている㈱説話本体とそれに対する筆者

の所感を述べた㈲評語の部分に明確に区別できることがわかった

㈲評語部分を欠‑説話もあるが'

説話本体は欠‑ことはない。

各説話とも説話構文の額縁となる

'

時をあらわす冒頭語を持つ。

このように明確な構造を持つ「閑居友」の文章は'その二つの部

分に持つ引用文にどのような違いを見せるであろうか。先に<例

文‑>について検討した引用文の種類との関係を全三二話全体に

わたって明らかにしてみよう。

先にあげた計六種類の引用文を更にその性格から'三類に分け

る。

丙 ㈲

先行資料の文言

㈲伝聞内容

㈱和歌

㈱夢 二十六

甲 Ⅲ会話文

心中言 甲類

仙 榊

が引用文の中心をなすこと'前述の如‑であるが'乙・

丙がどのように塩梅されているかを見ることによって'文章の構

造は更に明らかになるであろう。r閑居友j各説話をそれぞれ㈱説話本体と㈲評語部分とに分け'

それぞれの中に前記甲'乙'丙がどのようにあらわれるか'整理

して、表Ⅲに示す。表Ⅲ‑1に

説話本体の引用文'表EL2に

㈲評語部分の引用文をまとめた.甲

(侶

会話文'

心中言)'乙

(㈱

先行資料の文言'㈲伝聞内容)'丙(㈲和歌'㈲夢)に分け'

各々の小計欄も設けた。又'引用文の中心をなす甲の出現率を'

それぞれの総文数に対する比率として示した。表中の空欄は用例

のないことを示すが'計の欄には誤謬を避けて「o」を記入して

いる。

表Ⅲ‑・2を比較してみると'

説話本体と㈲評語部分には文

章の構造に大きな違いがあることが判然する。先に<例文‑>上

巻第二話にみた特徴はtr閑居友]全体に通じるものであった.

すなわち'㈲説話本体においては'引用文は圧倒的に甲類

(佃

話文と

心中言)に偏りへ特に

会話文に集中する.一方㈲評語

部分においては'数値的には甲類が多いが'それに措抗する勢い

で乙類も出現する.又'甲類の内部でも'

心中言が川会話文の

数倍の数億を示す。乙類の内部も'㈲説話本体においては

先行

資料の文言と㈲伝聞内容はほぼ同数であるが'㈲評語部分におい

ては圧倒的に

先行資料の文言が多い。r閑居友」においては主

(11)

表 Ⅲ‑1

(A)軌 鈷 本 体 の 引用 文

巻 艶話番号 文数 引用文数 (本体 文数A)&# (引用文数A) 内 訳 (A)甲出現率;RX100

甲 乙

(1) (2) 小計 (3) (4) 小計 (5) (6) 小 計

1 29 18 15 ll 6 2 8 2 1 3

0

53.3.

2 18 7 12 5 1 4 5

0 0

41.7

3 30 16 13 8 4 1 5 1 1 2 1 1 ̲38.5

4 16 7 8 5 3 1 4 1 1

0

50.0

5 26 12 25 12 4 3 7 5 5

0

28.0

6 23 5 9 2

0

1 1 1 1

0

7 16 10 12 7 4 3 7

0 0

58.3

8 16 6 4 4 3 1 4

0

0 100.0

9 27 9 8 3 2 2 1 1

0

25.0

10 21 8 ll 4 3 1 4

0 0

36.4

ll 30 9 15 5 3 1 4 1 1

0

26.7

12 29 10 25 9 7 2 9

0 0

36.0

13 23 13 5 5 4 4 1 1

0

80.0

14 17 8 15 8 7 7 1 1

0

46.7

15 15 5 ll 4 4 4

0 0

36.4

16 16 5 16 5 5 5

0 0

31.3

17 ll 3 4 3 3 3

0 0

75.0

18 14 4 13 4 2 2 1 1 2

0

23.1

19 34 20 17 ll 8 3 ll

0 0

64.7

20 19 7 6 3 3 3

0 0

50.0

21 27 9 10 1 1 1

0 0

10.0

小計 457 191 254 119 74 25 99 ll 7 18 2

0

2 39.4

1 16 10 6 2 2 2

0 0

33.3

2 21 10 17 6 6 6

0 0

35.3

3 25 7 21 7 7 7

0 0

33.3

4 9 3 9 3 3 3

0 0

33.3

5 47 23 42 22 15 6 21

0

1 1 50.0

6 15 7 10 6 4 1 5 1 1

0

50.0

7 27 ll 18 8 7 1 8

0 0

44.4

8 20 9 18 9 8 8 1 1

0

44.4

9 17 8 10 8 7 1 8

0 0

80.0

10 39 17 7 4 2 1 3 1 1

0

42.9

ll 33 9 8 4 4 4

0 0

50.0

小 計 269 114 166 79 65 10 75

0

3 3

0

1 1 45.2

r閑 居 友 」 の 引 用 構 造

として経典や偽文'もしくは'聖人

の言説・遺文でありtr閑居友」の

文章構造の大きな特色の一つといえ

る。丙類(㈲和歌'㈱夢)について

は'㈱説話本体'㈲評語部分'いず

れにも乏しく'㈲夢に至っては'

説話本体にわずか一例を見出すのみ

である。この事実もr閑居友」の文

章の特色の一つといえよう。

又'表Ⅲによって'上・下巻の特

色も明らかである。上・下巻とも㈲

評語部分を欠き

説話本体のみ提示

されている説話が各一話ずつ(上‑

16・下‑4)あるが'全体的にみる

と'上巻では'各説話ごとにそれぞ

れ㈲評語部分を展開する傾向である

のに比Lt下巻では'末尾二説話(下‑10・下‑11)に㈲評語部分が

集中する観がある。これは上・下巻

を通して'全巻の結びという意識が

然らしめたものであろうが'説話自

体の語り口においても'下巻の方がt

より甲類

(仙

会話文'

心中言)特

会話文の引用において際立って

いる。唯一の夢の引用も下巻である

Lt和歌の引用'計八首(和歌の一

二十七

(12)

表 Ⅲ‑2

(a)評召括部 分 の引用 文 山口康子

巻 説話番号 文数 引 用文数 (評語 文数B) (引用文数B) 甲出現率×100

甲 乙 丙

(1) (2) 小計 (3) (4)小計 (5) (6) 小計

上 1 29 18 14 7 1 4 5 2 2 0 35.7

2 18 7 6 2

0

1 1 2

0 0

3 30 16 17 8 2 4 6 2 2

0

35.3

4 16 7 8 2 1 1 2

0 0

25.0

5 26 12 1

0 0 0 0 0

6 23 5 14 3 1 1 2 2 0 7.1

7 16 10 4 3 1 1 2 1 1

0

50.0

8 16 6 12 2

0

2 2 0

0

9 27 9 19 6 2 2 4 4

0

10.5

10 21 8 10 4 3 3 1 1

0

30.0

ll 30 9 15 4 1 1 3 3

0

6.7

12 29 10 4 1 1 1

0 0

25.0

13 23 13 18 8 2 1 3 5 5

0

16.7

14 17 8 2

0 0 0 0 0

15 15 5 4 1 1 1

0 0

25.0

16 16 5 0

0 0 0 0 0

17 17 3 7

0 0 0 0

0

18 14 4 1

0 0 0 0

0

19 34 20 17 9 1 2 3 6 6

0

17.6

20 19 7 13 4 3 3 1 1

0

23.1

21 27 9 17 8 4 4 4 4

0

23.5

小計 457 191 203 72 8 29 37 34 1 35 0 0

0

18.2

1 16 10 10 8 0 1 1 2 6 6 0

2 21 10 4 4 3 3 1 1

0

75.0

3 25 7 4

0 0 0 0

0

4 9 3 0

0

0

0 0 0

5 47 23 5

1

1 1

0 0

20.0

6 15 7 5 1 1 1

0 0

20.0

7 27 ll 9 3 1 2 3

0 0

33.3

8 20 9 2

0

0 0

0

0

9 17 8 7 0 0

0 0 0

10 39 17 32 13 6 6 6 1 7

0

18.8

ll 33 9 25 5 1 1 2 3 3

0

8.0

小計 269 114 103 35 2 14 16 8 5 13 6

0

6 15.5

二十八

部も含む)も下巻に六首をみる。下

巻の方がより説話性に富んでいると

いえよう。これは'下巻に女性を主

人公とする説話が集められているこ

と'および献上する相手が女性であっ

たらしいことと無関係ではないであ

ろ う 。

以上'略述したとおり'表Ⅲから'

説話本体'㈲評語部分の文章構造

の違いを明らかにすることができる

が'考察の過程を明らかにすべく'

数値をすべて示したため'煩雑な表

になっている。文章構造の特色を更

に明らかにするべく'甲・乙・丙'

それぞれの出現状況を'㈱説話本体・

㈲評語部分別'上・下巻別に比率を

もって次に表Ⅳとして示す。表中'

上段は実数値'下段は百分比の値で'

引用文数においてはそれぞれの文数

に対する比率'内訳の各項において

は引用文数に対する比率を示した。

引用文に関して'上・下巻の微妙な

違いが明らかに読みとれる。

又'下巻の㈲説話本体における甲

類引用文への依存度の高さも明白で

ある。一方、乙類に関しては、上巻

(13)

閑居友の引用文比率

文 数 引用文数 内

(会話文1) (心 中青2) 小 計 先 行 資料の文言(3) (伝内4)容聞 小 計 (和5)歌 (6)夢 小 計

上 (A)説話本体 254 119 74 25 99 ll 7 18 2

0

2

46.6 62.2 21.0 83.2 9.2 5.9 15.1 1.7

0

1.7

(B)評詩部分 203 35.725 ll.81 40.23 ・519 37.4 47.342 1.41 48.365

0 0 0 0 0

0

計 457 41191.8 42.829 28.543 71136.2 23.456 4.82 27.537 1.21

0 0

1.21

(A)鋭薪 本体 166 79 65 10 75

0

3 3

0

1 1

47.6 82.3 12.6 94.9

0

3.8 3.8

0

1.3 1.3

(B)評静部分 103 35 2 14 16 8 5 13 6 0 6

34.0 5.7 40.0 45.7 22.9 14.3 37.2 17.1

0

17

.

1

計 269 114 67 24 91 8 8 16 6 1 7

42.4 58.7 21.1 79.8 7.0 7.0 14.0 5.3 0.9 6.2

計 726 305 149 78 227 53 16 69 8 1 9

42.0 48.9 25.6 74.5 17.4 5.2 22.6 2.6 0.3 2.9

r閑 居 友 J の 引 用 構 造

の㈲評語部分に多‑用いられていることがわかる。

全体としては'「閑居友」の引用文は、甲類が四分の三程度'

乙類が四分の一程度を占め'丙類は微々たるものである。これはr閑居友」の文章における引用構造の著しい特色といえる。甲類

(仙

会話文'

心中音)への文章表現上の依存は'説話‑人々の

事跡を語るものがたり″Iの部分において特徴的である。r閑

居友」においては'㈱説話本体の部分が明確に指摘できるが'そ

の事は'説話本体そのものが'ある意味で引用文であるという構

造として把握することができることを意味する。上巻第二話の文

章構造について図示・前掲した図Ⅰの構造図に示したとおり'

で囲いこんだ

説話本体の部分は'いわば一文相当のものとして'文章全体の中に散人されていると考えることができる。r閑居友」の文章の構造は'以上によって'基盤的な姿が明ら

かになった。すなわち'各説話冒頭に紹介される「昔」から「近

きころ」に至る有名無名の人物の逸話に'それを契機として'又

はそれに触発された形での慶政の述懐が続いているという形で整

理できる。この構造の上に立って'引用の果たしている役割を検

討し'前掲の引用類型を見直す必要があろう。

「閑居友J全三二話を引用類型に分類し'表Ⅰとして示したが'

これは'各説話を全体として分析して'引用文の種類を考慮せず

にその出現状況によって判断したものである。r閑居友」の文章

構造について基盤的な構造が明らかになった今は'その上に立っ

て改めて判断をしなおすべきであろう。ここに各説話の文章構造

二十九

(14)

山口

康 子

を㈱説話本体と㈲評語部分にわけ'それぞれについての引用構造

を判別したい。

そのために次の手順をとる。まず'㈱説話本体と㈲評語部分を

それぞれに判断して'その引用類型を認定する.次に1説話に対

して順次あらわれる二つの類型番号を組み合わせ'二つの類型番

号を付与する。類型番号Ⅰ〜Ⅶの組み合わせであり'順序も動か

せない組み合わせであるため、(ⅠⅠ)から(ⅦⅦ)まで'理論

的には七の七倍'全四九通りの組み合わせが存在する。しかし現

実に各説話の文章構造を検討すれば'極めて限られた型の組み合

わせしかあらわれて来ないであろう。又tr閑居友」の場合'㈲

評語部分を持たない計二話が存在したが'文章自体の存在が無い

場合はtoを表示することにする.

O

が組み合わせの第1項にな

ることはあり得ないので'組み合わせ数は計五六種になろう。計

五六種の組み合わせパターンの中で'どのようなものがr閑居友」

の引用構造としてあらわれてくるだろうか。分類の結果を次に表

Vとして示す。用例の存在しない引用類型は表から削除した。

例外例とした欄外の一例'上巻第三話は'㈱説話本体の部分が

連続して一つにまとまっているわけでないが'三つの部分がひと

し‑冒頭語に支配されているとみていずれも説話本体と判断した。

一番めと二番めの間には計三文にわたって㈲評語部分が介在して

いる。三つの説話本体のそれぞれを独立のものとみて引用類型を

判断したため'基盤的文章構造'

説話本体‑㈲評語部分の形に

該当しない。例外例として別枠にしたゆえんである。「閑居友」

の場合は'この基盤的文章構造に基づいて引用構造を考察したが'

一貫した基盤的文章構造が見出されない場合は'別途'説話の区

切り方を考慮する必要が生じよう。引用構造の場合'「ものがた

閑居友の引用類型

V V V Ⅳ 型Ⅲ 型 Ⅱ Ⅱ Ⅱ Ⅱ Ⅱ Ⅰ Ⅰ Ⅰ Ⅰ Ⅰ Ⅰ

I

VⅢ Ⅰ V0 ⅦⅣ Ⅰ 0 ⅦⅢ Ⅱ Ⅰ

(2) 621) (6) 山斗 nQ(捕 (8)(4日7) (5日均 u1)(1)読 上

l

l

3 (I 9) 87)89 (

n

1

O

3

)

) eC?話香早 2 1 1 1 1 2 2 1 4 1 1 1 2

(2) ((3)8)(81(6)1)) (7)(4)(9)(5)80) 1 下

1 2 3 1 1 1 1 1

2 1 1 1 1 1 4 5 1 5 1 2 2 1 1 2 ,A

o

'必

もの'

'

り」の1区切りの内部での構造の分析ということになるので'い

ずれにしても'説話の展開に即した区切り'文章構造の単位の認

定が欠かせぬ作業過程となる。

表Vにみるとおり'引用類型の組み合わせ方式を採用すること

によってtより一層きめ細かく引用構造を分析することができる。

理論上可能な計五六種のうちtr閑居友」には計一六種があらわ

れるが'Ⅰ型・Ⅱ型の'引用文活用型に大き‑偏っている。基盤

的文章構造の認定を行なわず'一説話を全体として判断する場合

よりもtより大きく'Ⅰ型・Ⅱ型に集中する結果となる。「閑居

(15)

友」の如く'一説話の内部に異質の文章が混在する場合には'そ

れぞれの文章に対して引用構造を判断することが必要であること

がわかる。㈲評語部分の引用類型としては'

Ⅰ ・Ⅱ

Ⅲ ・Ⅳ

・Ⅴ・Ⅶと'

和歌提示型を除くすべての型が出現するが'Ⅰ・

Ⅴ ・Ⅶ

がよ‑現われるパターンのようである。<Ⅱ・Ⅰ><Ⅱ・Ⅴ><Ⅱ・Ⅶ>が並んで計五話ずつを有し'この三型で'全三二話の

約半数を占める。「閑居友」の説話の語り口の典型ともいえよう。

すなわち'㈲説話本体については'引用類型Ⅱ'山場活写型に

拠り'山場を引用文活用という修辞法で活き活きと語り'それに

続‑㈲評語部分については'Ⅰ会話進展型によって引用文を次々

に展開して述べる場合もあるがtV随所散在型であちこちに引用

文を散りばめるか、Ⅶ事実説明型で引用文を全く用いず叙述に徹

する形をとるかtのいずれかの形式をとることも多いことがわか

る。

ヽノ

以上tr閑居友」の計三二話の各々の文章における引用構造を

明らかにした。引用類型として先に提示した七種類のうちtr閑

居友」に見出せないものもあったが'類型自体の訂正もしくは追

加の必要は生じなかった。引用類型の名称については考慮の余地

があると思われるが'引用のパターンとしては'この七種類をもっ

て引用構造を整理することができると考えている。

話柄によって様々な語り口が表われるのはむしろ当然のことで

あるが、「閑居友」は'引用構造にみる限り'きわめて統一的な'

内省的規制によって文章の構造が整然と組み立てられていると思

「閑 居 友 」 の 引 用 構 造

う。いずれの説話も統一的に時を示す胃頭語で書き出して一つの「ものがたり」を紹介する。その語り口はいわゆる説話構文とい

われる'囲いこみの手法でtr今昔物語集Lの説話のように用語

や文形式まで画一的に形式を統一しているわけではないが'文章

の構造としては判然とした呼応をもって説話本体を紹介する。そ

の部分については甲類引用文

(仙

会話文t

小話文)を活用し'

とりわけ説話の山場において具体的に描写する。それに続く㈲評

語部分では乙種引用文

(㈲

先行資料の文言'㈱伝聞内容)を随所

に引用して'自らの言説を補強Lt証明する場合もあり'引用文

に頼らず'自らの所信を直叙する場合もある。全三二話を通じて'

この記述の方針が一貫され'乱れるところが少ない。文章の構造

としてきわめて端正な姿を示しているが'記述内容の選択にも明

確な取捨選択がある。

下巻第三話に「恨み深き女'生きながら鬼になる事」という極

めて興味深い説話が紹介されている。時は中比の事'「美濃の国

と聞きしなめり。」と記され'主人公の女も相手の男も無名の者

である。類語として屋代本平家物語・剣巻の'渡辺綱の鬼退治帯

があげられているが'鬼退治の場面はともかくとして'説話とし

て通うところはない。この説話は'全二五文のうち計二一文まで

が㈲説話本体であり'㈲評語部分の計四文には引用文はない。引

用類型としては典型的な<

Ⅱ ・Ⅶ

>型である。物語の山場は'住

まいの破れ堂に火をかけられた「生きながら鬼にな」った女が'

退治しようとする人々を押しとどめて'事のいきさつを語るとこ

ろにあり'その場面は'女の長科白をクライマックスとして'人々

の不審・疑惑・決意などが直接話法会話文で記される。事件は'

男に捨てられた女が恨み心から髪を五つに結いあげて飴で塗り固

三 十 一

(16)

康 子

め'角のようにして出奔Lt男をとり殺した後'元の姿に戻るこ

とができなくなって野中の堂に三十年を過ごした後'発見され'

人々に鬼として退治されるというものである。この話は'冒頭の「聞きしなめり」(4‑2ペ‑行)によってもわかるとおり'慶政自身

の聞き書きともとれるが'鬼を装った女がどのようにして相手の

男を「とり殺し」(4‑4ペ3行)たのか'そのところには全‑触れ

ていない。語るのは'元の姿に戻れな‑なった女の三十年と'法

花経の書き供養を人々に依頼して'火中に身を投じ自裁する女の

心情のみである。長い㈲説話本体の後に'慶政は次のような㈲評

語部分を付加している。

けうときものから'さすが又あはれ也。げに'心のはやりの

まゝに'た一念の妄念にはかされて'長き苦しみお受けけむ。

さこそは悔し‑'悲し‑侍けめ。その人の行方'よも良く侍ら

じものお。孝養もしやしけん'それまでは語るとも覚えず侍き。(4‑4ペ13行

〜 1

6行)

慶政にとって間蓬であったのは'悪行そのものであるよりも'

そこから生じる苦悩であり'「恨み深き」心の煩悩の浅ましさで

あったろう。慶政は'経典の文言・聖人の遺文に対しても巷間に

聞き及んだ世事に対しても'心の平静を保つことを中核に据え'

天台仏教を求め'戒律を重んじて釈迦信仰に徹したものと思われる。

文章表現において明確な目的がある時'文章の構造は整然とし

たものになる。引用文に依存する場合も引用者の姿勢が明確であ

れば'引用構造にも一貫した端正な姿があらわれる。「閑居友」

の引用構造はそれを告げる。語り継がれてきた「ものがたり」を

書きとめ'書きとめられた文章を取り込みながら'更に説話を展

三 十 二

開Lt自説を開陳する説話の語り口は'思いのほかに筆者自らを

顕わにするものであるといえよう。

注 ‑ 新 日 本 古 典 文 学 大 系 40 r宝 物 集 ・ 閑 居 友 ・ 比 良 山 古 人 霊 託 J (岩 波 書

店 一 九 九 三 二 一 ) の 巻 末 「閑 居 友 解 説 」 (小 島 孝 之 氏 執 筆 ) ほ か ' 大

方 の 見 解 の 一 敦 す る と こ ろ で あ る 。

2

「閑 居 友 」 の 作 者 に つ い て は ' 以 下 の よ う な 論 考 に よ っ て ' 慶 政 説 が

支 持 さ れ て い る 。

① 棉 本 進 吾 「慶 政 上 人 の 事 跡 」 (「 史 学 雑 誌 」

22‑7

1 九 二 ・ 七 )

② 棉 本 進 吾 「慶 政 上 人 伝 考 」 (大 日 本 仏 教 全 書

'

遊 方 伝 叢 書 第 三 ' 1 九

一 七 二

〇)

③ 永 井 義 意 「閑 居 友 の 作 者 成 立 及 び 素 材 に つ い て 」 (大 正 大 学 研 究 紀 要

40 1 九 五 五 ・ 1 )

④ 平 林 盛 得 「慶 政 上 人 伝 考 補 遺 」 (「 国 語 と 国 文 学 」 47

‑6

一 九 七

六 )

3

r閑 居 友 」 の 成 立 過 程 に つ い て は ' 次 の 論 考 が あ る 。

① 青 山 克 弥 「 r閑 居 友 」 の 成 立 過 程 に 関 す る 1 試 論 」 (「 説 話 物 語 論 集 」

創 刊 号 一 九 七 二 二 二 )

4

2

' 永 井 論 文 で 式 乾 門 院 利 子 が あ げ ら れ て い る ほ か ' そ の 妹 に あ

た る 安 嘉 門 院 邦 子 や ' 東 1 健 院 立 子 ' 藻 壁 門 院 靖 子 な ど が 候 補 と し て

あ げ ら れ て い る 。

5

小 林 保 治 「r 閑 居 友 」 序 説 ( 一 )」 (「 早 稲 田 大 学 教 育 学 部 学 術 研 究 」

16 二 九 六 七 二 二 )

こ の 他 注

3

青 山 論 文 に も 説 明 が あ る 。

6

小 林 保 治 「 「閑 居 友 」 序 説 ( 二 )」 (「 早 稲 田 大 学 教 育 学 部 学 術 研 究 」

18 二 九 六 八 二 二 )

(17)

7

8

9

01

11 藤 本 徳 明 「r 閑 居 友 J の 構 造 に つ い て 」 (「 説 話 物 語 論 集 」 創 刊 号 l 九

七 二 二 二 )

木 下 資 1 「閑 居 友 ‑ 説 話 と 説 話 配 列 を め ぐ る 覚 書 ‑ 」 ( r説 話 集 の 世

界 Ⅱ ‑ 中 世 ‑ ] (説 話 の 講 座 ) 1 九 九 三 ・ 四 )

次 の 六 拙 稿 参 照

① 「r 今 昔 物 語 集 」 天 竺 部 の 引 用 構 造 」 (長 崎 大 学 教 育 学 部 人 文 科 学 研

究 報 告 ' 第 三 二 号 昭 58 ・

3)

② 「r 今 昔 物 語 集 」 簾 旦 部 の 引 用 構 造 ‑ 夢 語 り ・ 冥 途 語 り を 中 心 に ‑ 」 (同 報 告 ' 第 三 五 号 昭 61 ・

3)

③ 「「 今 昔 物 語 集 」 本 朝 仏 法 部 の 引 用 構 造 」 (同 報 告 ' 第 四 六 号 平

5

3)

④ 「「 今 昔 物 語 集 」 本 朝 世 俗 部 の 引 用 構 造 」 (同 報 告 へ 第 四 九 号 平

6

3)

⑤ 「r 今 昔 物 語 集 J の 引 用 構 造 ‑ 引 用 類 型 の 提 示 の た め に I 」 (同 報 告 '

第 五

号 平

7

3)

⑥ 「r 宇 治 拾 遺 物 語 J の 引 用 構 造 I r今 昔 物 語 集 j r古 本 説 話 集 J と の

比 較 を 通 し て ‑ ( 「清 水 日 文 」 第 三 五 号 一 九 九 七 ・ 1 二 )

拙 稿 「複 数 会 話 文 の 引 用 ‑ ⊥ 人 体 と の か か わ り に お い て ー 」 (長 崎 大 学

教 育 学 部 人 文 科 学 研 究 報 告 ' 第 五 四 号 平

9

3)

参 照

拙 稿 「r 晴 蛤 日 記 十 の 引 用 構 造 」 (「 国 語 と 教 育 」 第 六 号 ' 昭 和 五 六 ・ 二 ) 参 照

春 日 和 男 r説 話 の 詩 文 ‑ 舌 代 説 話 文 の 研 究 ‑ J (桜 楓 社 ' 昭 和 五

二 )

例 え ば 「岩 波 新 日 本 文 学 大 学 」 r閑 居 友 」 の 脚 注 ' 参 照 . (雌 ペ

ジ ・ 仙 ペ

ジ な ど ) 小 島 孝 之 校 注 。

「閑 居 友 」 の 引 用 構 造 三 十 三

表 Ⅰ に 明 ら か な と お り t r閑 居 友 」 の 引 用 構 造 は ' 全 体 と し てⅠ会話進展型が優位を占め'Ⅱ山場活写型が続き'大方の説話集と同様に'引用文を活用する型が主流を占めることがわかるが'特に上巻においては'引用文非活用型のⅤ随所散在型も計四着を数える。r閑居友」における引用の役割を明らかにLt引用構造を明らかにするために'更に'引用文の種類と説話の語り口を関連づけた考察が必要と考えられる。四前掲の&lt;例文‑&gt;上巻第二話について'①〜⑥の引用文の種類を検討してみ
表 Ⅳ 閑居友の引用文比率 文 数 引用 文数 内 訳 ( 会話文1) ( 心 中青2) 小 計 先 行 資 料の文言(3) (伝 内 4) 容 聞 小 計 (和 5 ) 歌 ( 6) 夢 小 計 上 ( A) 説話本体 25 4 1 1 9 7 4 2 5 99 ll 7 1 8 2 0 246.662.221.083.29.25.915.11.701.7(B)評詩部分203 3 5

参照

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