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2012年2月14日 論 文 題 目 :  地方債管理政策研究

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博 士 学 位 論 文 審 査 要 旨

2012年2月14日 論 文 題 目 :  地方債管理政策研究

学 位 申 請 者:  熊本  伸介 審 査 委 員:

主  査:  総合政策科学研究科  教授  新川  達郎 副  査:  総合政策科学研究科  教授  田中  宏樹 副  査:  経済学研究科        教授  伊多波  良雄

要     旨:

本論文は、日本の地方債管理政策に関する先駆的な研究である。自治体財政破たんが現実化し、

地方債にも市場の評価が加えられ始めている状況に鑑み、地方債管理政策のあり方を究明するこ とを目的としている。 

論文の第 1 章では、地方債発行残高が膨大になり、それにともなって利払い費が膨れ上がって いることから、従来の予算管理に加えて発行のリスクとコストを慎重に検討することが必要であ ることを明らかにする。第 2 章では、これまでの地方債について、その債務返済能力があるのか 検証する。そして多くの地方自治体の地方債管理は破たんの危機にあると指摘する。第 3 章では、

地方債を発行する地方自治体とその引受をする金融機関との関係について取り上げる。近年、市 中金融との取引条件の悪化の事例もあり、地方債発行コストの増大が懸念されるという。第 4 章 では、新発債の発行と借換えにおけるリスクとコストの分析を行う。まず、借入の条件設定が公 債費を構成する元利償還および支払金利に与える影響について考察する。そのうえで、都道府県 にとってどのような借り方(従来通りの 10 年年限の債券の発行か複数の年限の債券の発行、また は固定金利か変動金利を選ぶのか)がベスト・アプローチになるのかを検討する。以上を踏まえ て、第 5 章では、本研究のまとめとして、地方債管理のあり方を検討し、そこからの政策的イン プリケーションとして、今後地方自治体が市場とどのように向き合うべきか、市場との対話のあ り方や新たな起債管理手法の検討を行って結びとしている。 

本研究は、従来の地方債管理が、予算管理を中心にしつつ、国による事実上の債務保証の下に 考えられていたのに対して、近時の財政環境変化を踏まえた市場的な観点からの地方債管理手法 を検討したものである。地方債発行に際しての金利コストや金利変動リスクを勘案した起債管理 手法の基礎的研究を先駆的に試みたものであり、新たな知見を示している。もちろん、実務的に は市場取引の実態との整合性や、地方債の特殊性とその管理概念の再定義など、検討すべき課題 は多い。しかしこれらは、本研究の知見の価値を損なうものではない。よって、本論文は、博士

(政策科学)(同志社大学)の学位を授与するにふさわしいものであると認められる。 

 

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総合試験結果の要旨

2012年2月14日 論 文 題 目 :  地方債管理政策研究

学 位 申 請 者:  熊本  伸介 審 査 委 員:

主  査:  総合政策科学研究科  教授  新川  達郎 副  査:  総合政策科学研究科  教授  田中  宏樹 副  査:  経済学研究科        教授  伊多波  良雄 要     旨:

  学位申請者に対する総合試験は、2012年1月21日の午前9時30分より約1時間にわたり、

公聴会形式によって行われた。公聴会終了後総合試験結果の判定を行った。総合試験においては、

副査から起債手法の実務的な検討状況や地方債発行リスクとコストの概念に関する質問などが あったが、学位申請者はこれらに関して的確に答えた。語学試験については、財政破たんの可能 性に関する主たる分析手法が米国で開発されたものであること、その先行研究をバランスよくレ ビューしていることなどから、英語の運用能力が十分であることを確認した。

よって、総合試験の結果は合格であると認める。

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博士学位論文要旨

論文題目:地方債管理政策研究 氏名:熊本  伸介

要旨

本論文は、日本の地方債管理政策を対象に、その発行管理及び起債時のリスクとコス トの管理について研究した論文である。

地方債管理研究の主な先行研究をみると、予算管理の領域と市場からの評価に関する 研究が中心で、調達管理の領域、つまり、リスク(金利リスク、借換リスク)とコスト(金 利に係るリスク・プレミアムを最小化すると同時に、発行価格を所与としたとき、調達 必要額全体に係るコストを最小化するよう債務の構成を測ること)に関する研究は見当

たらない。アメリカでは、借入金の管理・運営について、経営マネジメントの部分も含

めてDebt Managementを行い、計数面での管理を行うことで支払金利が最小となるよ

うな最適な借入を行うよう努めている。日本の地方自治体でも金利が最小になるように 日々努力しているが、どのような借り方がいいのか、またその借入れの前提となるリス ク(金利リスクと借換リスク)とコストに関する研究はなく、このリスクとコストの行方

は、地方自治体の財政運営を把握するうえで重要な鍵となる。この地方債管理政策研究 をすることにより、地方自治体の財政運営について、貴重な洞察が得られるものと考え られる。

第2章では、これまでの地方債管理政策がどのように行われてきたのかについて考察 するために、地方自治体と国の財政運営と地方債管理政策について概観した。そして、

地方自治体の地方債発行残高が脹れあがっているが、その債務返済能力があるのか検証 した。その能力がなければ、地方自治体と国の地方債管理政策は失敗だということがで きる。

考察の結果、地方債の累増は構造的な問題であり、国が元利償還の手当てをしている が、その基盤は弱体化しつつある。また、債務返済能力については、一部の地方自治体 にないことが明らかになり、適切な地方債管理が行われていないことが明らかになった。

以上の考察から、地方自治体は歳出の削減が厳しい一方で、膨大な債務を前提とした 政策運営をしなければならないほど、切迫した状況にあるといえよう。地方財政制度の

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抜本的な見直しがなければ、このような予算管理の自由度が失われているなかで、地方 自治体は調達管理に軸足を移すことで、巨額の債務を円滑にファイナンスするしか道は なくなる。

調達管理の一つとして、借換リスクの縮減化のための「長期債の発行」がある。今後、

公的資金が縮小していくなかで、必要な資金を供給してくれるのは民間の金融機関であ る。しかし、10年以上の超長期債を民間の金融機関が引き受けることは、ALMの観点 や固定金利の場合変動リスクを金融機関が負うため、難しいことも考えられる。金融機 関が地方自治体との取引に乗り気でない場合、従来のような低利での融資は難しくなる と考えられる。そうなれば、資金調達リスクが高まり、安定的な地方債の管理が難しく なる。安定的な地方債管理政策を遂行していく上で、指定金融機関の存在はより重要な ものになっていく。

  第3章では、公的資金の縮減化が進む中で、地方自治体とその指定金融機関の今後の 取引をしていくなかでの関係について明らかにした。

  近年地方自治体と指定金融機関との関係の変化が指摘されている。公的資金が縮減し ている中で、民間銀行の重要性が増している。その貸出金利は国債金利に若干上乗せす る程度で、低利で貸し出されている。しかし、市中銀行が地方自治体との取引に不満を 覚えているならば、引受の減少、あるいは引受にあたって地方自治体にとって貸出条件 の悪いものになる可能性もあり、円滑な地方債管理が難しくなることでコストの増大が 懸念される。第3章ではこの問題を検討していく。

1990 年代後半以降の相次ぐ銀行破綻、不良債権問題、金融業界再編を経て、護送船

団方式で経営されていた金融機関は、経済合理性を追求する私企業に変貌を遂げつつあ る。結果、金融機関は金利に代表されるように、横並びからリスクに応じたリターンを 認識するようになってきている。つまり、指定金融機関制度は、かつてのように特段の 配慮がなくても金融機関側にメリットがある仕組みではなくなった。第3章のアンケー ト調査分析の結果、地方債の引受はするが、指定金融機関の業務姿勢が後退するなど、

金融機関は地方自治体に対してもそれなりのリターンを求めていることが明らかにな った。 

地方債の引受資金が公的資金から民間資金に移行し、我が国の地方債市場は市場化が 進んでいる。これらの動きは、リスク・リターンを意識する金融機関が、地方自治体に も実質的に登場してきたことを意味する。つまり、今後の資金調達において、金利を意

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識しなければならなくなったということができる。 

公的資金であれば、償還期間は地方債のメニューに応じてどの団体でも同じであるが、

民間等資金であれば、金融機関との交渉次第である。どのような償還期間やルールを設 けるかがその交渉で決まる。地方財政法は、対象となる施設等の耐用年数の範囲に償還 期間を抑えることを求めるだけであり、地方債の償還期間を20年以上にすることがで きる。そうすれば、単年度の償還額は小さくなるので、見かけ上は財政運営が楽になる。

30 年で償還するとすれば、10 年債を 2回借り換えることになる。借換え時には当然、

金利が変動するリスクが発生する。今後地方自治体は金利リスクについて、金融機関と の間で交渉しなければならなくなった。 

指定金融機関制度は、地方自治体の公金収納が着実に行われるよう、口座管理上のミ スがないように管理するという意味では依然として欠かせないものである。地方債の安 全性を担保するうえで、支払が滞らないように口座管理をするためには、指定金融機関 の協力は不可欠であり、地方自治体として金融機関との間で十分な信頼関係がなければ ならない。それゆえに、指定金融機関のコスト構造を理解したうえで、今後どのような 借り方をしていかなければならないかが課題となる。 

第4章では、借入の条件設定が公債費を構成する元利償還および支払金利に与える影 響について考察する。具体的には、借入の条件設定が公債費を構成する元利償還および 支払い金利(調達コスト)に与える影響の試算と、先行きの金利リスクを、与信元である 金融機関側が負担する固定金利方式ではなく、与信先である地方自治体側が負担する変 動金利方式(長期金利変動・短期金利変動)とした場合、金利変動リスクにどのような影 響を及ぼすのかを試算する。そのうえで、都道府県にとってどのような借り方(従来通 りの10年年限の債券の発行か複数の年限の債券の発行、または固定金利か変動金利を 選ぶのか)のベスト・アプローチを検討する。

近年の地方債市場の環境変化により、地方自治体が自律的な起債マネジメントを行う 余地は拡大しており、今後その工夫次第で、起債コストとリスクの間の最良のバランス を達成することも可能となる。上述の試算の結果から、10 年年限の従来の起債に代わ り、様々な年限の組み合わせを行い、場合によっては固定金利ではなく変動金利に切り 替えれば、一定程度起債コストを節減できる可能性がある。

  ただし、その節減の幅は、先行きの金利次第の部分も大きく、また、短期的には地方 自治体の負担する金利変動リスクが大きくなる可能性もあるため、将来の金利変動リス

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クが過度の負担にならないよう留意する必要がある。変動金利方式の導入にしても、先 行きの金利次第では、調達コストの節減が期待できるものの、同時に地方自治体が負担 する金利変動リスクは大きくなるため、どの程度までが許容範囲なのか慎重に検討する 必要がある。

  上記のことを踏まえて、試算を行った。北海道の場合、今後9年間の平均で0.6%以 上の金利の上昇が予想できれば、固定で借換えを行わない場合のほうがコストを抑制す ることができ、それ以下ならば、借換えをしたほうが調達コストを抑えることができる。

また、短期変動債については、シナリオ1で0.1%、シナリオ2で1.14%、また長期変 動債については、シナリオ1で1.13%、シナリオ2で1.51%がボーダー・ラインであ った。

次に、地方自治体間で借換えの有利不利があるのかについての試算を行った。その結 果から、短期での借換えのケースにおいて、新発債発行時、景気回復を受けて償還が進 むことで、金利負担の低減の恩恵を与ることができる地方自治体があることが確認でき た。

また、変動金利については、固定のほうが有利という結果となった。この要因として、

本論文で用いた試算においては、高い経済成長を見込み、第 1 期(2009 年度)の金利が 低いため、固定が有利という結果となった。しかし、変動金利には金利上昇のリスクが あるが、長期的には、金利は経済成長や景気変動と正の相関関係がある。変動金利借入 では、調達コストは基準金利の変動によって上下するが、地方税収入の増減と基準金利 の動きが正の相関関係にあれば、地方税収が減少する状況では調達コストが減少し、調 達コストが増加する状況では地方税収が増加する。このように変動金利を導入すること によって税収との関係から収支への影響を緩和することができることから、調達コスト の縮減には変動金利借入が有利ということができる。

しかし、都道府県の格差も大きいことが確認できた。財政力の高い都道府県は、金利 上昇分を経済成長によってカバーすることができるが、財政力の弱い県は、金利上昇分 を経済成長でカバーできないことが明らかになり、財政力の弱い県の場合、現行の固定 金利で借りた方がリスクを縮減できるということができる。

終章では、以上の考察に基づき、これまでの地方債政策について総括し、今後の地方 債管理政策の方向性を示した。      (3945字)

参照

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