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北アイルランドにおけるプロテスタント労働者階級 のアイデンティティ形成 : James W. McAuley, The Politics of Identity

著者 大渕 敦子

雑誌名 同志社社会学研究

号 2

ページ 69‑75

発行年 1998‑03‑31

権利 同志社社会学研究学会

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000011935

(2)

同志社社 会学研究 NO.2,1998

【雷評論文】

北アイルラン ドにおけるプロテスタン ト労働者階級 のアイデンティティ形成

me W. s Mc A ue l y , T

J a ●

y

J t d t e n fl c so j ' t h Pl e o l

大測 敦子 k t s uo A I H C U B O

.はじめに

北 ア イル ラ ン ド紛 争 は、 多数 派 で あ る プ ロ テ ス タ ン ト教徒 と、 そ れ に抵 抗 す る少 数 派 カ トリ ック教 徒 との 間 に起 こ っ た 「宗 教 紛 争 」 であ る とい われ る しか し、異 なる宗派 を信仰 す る者 同士 の争いは、教義上の対立のみが紛争 の要 因であ るわけではな く、常 に経 済的 な利害 の対立があ る。北 アイルラ ン ドで は、プロテス タン トが宗教上の教義 の対立 を表向 きの 口実 に し、経済的利益 を独 占す るため にカ トリックを 差別 して きた といわれる。

紛争 の背景 には、 まず英 国に よるアイル ラ ン ドの植民地支配 を発端 とす る、両 国の歴 史的対 立がある そのため、紛争 を単 なる宗派 コ ミュ

1

ニ テ ィ間の対 立 だ とと らえる こ とはで きない。

IRA

(ア イルラ ン ド共和軍 :カ トリ ック系 の 過激派組織 ) は 「北 ア イルラ ン ドを不 当 に占領 している」英 国政府 を標 的 にテロ活動 を行 って いるのであ り、 プロテス タン ト ・コ ミュニ テ ィ

ムス

・ W

・マ コ- レ-著 rア イデ ンテ ィテ ィの 政治学 :ベルファス トのロイヤ リス ト1・コ ミュ ニ テ ィの研 究」を と りあげる 本著作 で は、導 入部で従来 の左 派の理論 的枠組み (正統 マ ル ク ス主義学説) による北 ア イル ラ ン ド社会の分析 へ の批判 に大 き くペ ー ジが割 かれてい る 修正 マ ル クス主義 の優位性 を主張す る彼 は、後半 の コ ミュニ テ ィ調査 か らの分析 でそれ を立証 し、

結論 では、集 団か ら個 人へ視点 を移 して コ ミュ ニテ ィ成員の主体性 に着 目 し、 プロテス タン ト 労働者 階級 の ア イデ ンテ ィテ ィ形成 の問題 を論

じている

ここで は、 まず北 ア イルラ ン ド社会の歴史的 背景 と左 派 の理論 的枠組 み をふ まえた上で、彼 の行 ったプロテス タン ト労働 者 コ ミュニテ ィに お ける調査 と分析 を紹介 、その後で著者 の主張 とそれ に対す る疑問点 の提 示 を行 い、最後 にプ ロテス タン ト労働者階級 の ア イデ ンテ ィテ ィの 問題 について考察 してゆ きたい。

を標 的 に しているので はない (0-D fufy 1995:

) 3 4

7 。さらに二つ の コ ミュニテ ィの成員 は、宗 派以外 に も民 族 的 出 自が異 なってい る ただ、

宗派 はエ スニ シテ ィを代 表 してい るので あ る また、紛争 をよ り複雑 に して きた要 因 には、各 宗派集団内 における、階級 間の政治的 ・経 済的 利害 をめ ぐる覇権争いがある。

この小論 で は、 プロテス タン ト労働 者 階級 を 修正マル クス主義 の立場 か ら分析 した、 ジェ-

2.

修正マルクス主義による民族紛争の分析

左派の民族紛争理論 には、マル クス主義の正統 派 と修正学派がある 正統マ ル クス主義 の立場 を とる研 究者か らは、英 国 による帝 国主義支配 が紛争 の長期化 の原 因であ り、北 アイル ラ ン ド が英 国領 で な くなることが、紛 争解決の前提 だ

と考 え られてい る また彼 らの主張で は、 プロ

(3)

同志 社社会学研究 NO.2,199 8

テス タン ト労働者階級 は、「労働貴族」 としてプ ロテス タン ト支配階級 か ら職 や住居 の保 障 を約 束 され 「限定 され た」特 権 を享受 す る こ とで、

プロテス タ ン ト支配体制 の維持 に貢献 して きた こ とに なって い る

( A ly Mc ue 1 9 9 4: 2 1-7

,

51

,

1 7 5 - 1 7 6 ) 。

確 か に、 プロテス タン トは カ トリ ックよ りも 相対的 に裕福 であ る しか しここで留 意すべ き なのは、北 アイルラ ン ドにおいて、「階級 間の経 済格差 が大 きいため に、宗 派 間の格差 よ りも宗 派 コ ミュニテ ィ内部 の格差 の方が はるか に大 き くなってい る とい うこ とであ る ・・・純粋 に 数 の上 だけでい えば、最低所得者層 には、 プロ テス タン トの方が多 く含 まれてい る

(olad Byen

Ha

d

den l

卵4: 5 4 ) 」

点である。

こ う した背景 には、

1 9 7 2

年 の英 国 に よる直接 統治 の開始以来 、 カ トリックに対す る差別が是 正 され るにつれて カ トリ ックの中産階級化がす す んだ こ とがあ る。宗派 間の経 済格差 は年 々縮 小傾向 にある1 '。つ ま り、プロテス タン ト労働者 階級 とカ トリ ック中産階級 が併 存 す る状 況 は、

正統マ ル クス主義学説 の限界 を示 している 英 国政府 がゲ リマ ンダ リングを廃止 して カ トリ ッ ク議 員 の数 を増 や し、職業 や住宅 、公 的サ ー ビ スの提 供 において カ トリ ックへの 「積極 的 な差 別是正」措 置 を行 う一方 で、 プロテス タ ン ト労 働者 は、彼 らの伝統 的 な就職 口であ った、造船 な どの製造 業 の衰退 に よる失業 問題 に直面 し、

自分 た ちが孤 立 し、取 り残 された ような感覚 に 陥 ってい る (akr Pr e

1 9 9 4:9,2- 27393 3 3 ) 。

また 将来 の北 ア イル ラ ン ドの憲法上の帰属 をめ ぐっ て も、彼 らは不確定 な状況 にあ り、 これ は後述 す るよ うな彼 らの ア イデ ンテ ィテ ィの変動 に大

きく影響 していると考 え られる。

正統派が指摘す る ような宗教 と階級の相関は、

英 国の直接統治 開始以前 の北 アイル ラ ン ド、つ

ま りユ ニ オニス ト支配体制 の時期 までは、あ る 程度認め られていた。松尾

( 1 9 8 0:2 0 2

-

21 4 )

は、

東部 と西部 の地域格差が宗教 的格差 であ り、 さ らに北 ア イル ラ ン ドの対外依存 的 ・偏倍 的経 済 発展が生 み 出 した階級的利害 の対立が 、宗派間 対立 と して表 れてい る と し、経 済 と宗教 の相 関 を指摘 してい る プロテス タ ン ト郡市 を縫 うよ うに して沿岸部 に道路 や鉄道網が発 達 してい る こ とは、過去 に入植者 の多 く住 む地域 を優先 し て開発 が進 め られて きた こ とを意味 す る 修正 学派は、 こ うした資本主義 の偏 った発展形態が、

それぞれの地域 に特有 な歴 史的背景 に基づ いて 紛 争 を引 き起 こ してい る こ とを認識 した上 で 、 民族紛争 を、資本主義社会 の構造 的矛盾や 、純 粋 な階級意識 に完全 に還元 す るこ とはで きない とす る見解 で一致 して い る

(oo o Slm s 18 96:

l桝)し、

マ コ- レ-は、 これ までの正統派の主張す る、

プロテス タン ト労働 者階級 は労働貴族 であ る と い う見 方 に対 し、 そ れ は北 ア イル ラ ン ドで の

「資本主義体制 の発展段 階で一時的 に存在 した も の」 であ り、「正統派 は

1 8 9

0年代 の社会 ・政治的 関係 を

1 9 9 0

年代 に置 き換 えて い る」 にす ぎず 、

「状況 は刻 々と変化 しているに もかかわ らず、彼 らの分析 には柔軟性 が ない」 と手厳 しい批判 を 加 えてい る

(cue M Aly 1 9 9 4: 22-6。

,

52)

エ スニ シテ ィは 「虚偽 意識」 であ り、異 なるエ スニ ッ ク集 団 に属す る労働 者階級 が団結 して階級 闘争 を行 うこ とで消 滅す る と した正統派 の主張 に対 し、修正学 派 のエ スニ シテ ィ理論 は、階級 を念 頭 に置 きなが らも、エ スニ シテ ィが、対立す る 集 団 に とって 「虚偽 意識」 と して一蹴 す るこ と ので きない一定 の帰属意識 を生 じさせ る、 と認 めてい る それで も、階級 を第一義的 に、エ ス ニ シテ ィを第二義的 にとらえ ようとす る姿勢 に、

同 じマ ル クス主義学 派 と して正統派 と共通す る

(4)

人測 :北アイルランドにおけるプロテスタン ト労働省階級のアイデンテ ィティ形成

視点が継承 されている。

3.

イデオロギーと世界観の形成

次 に、マ コ- レ-の行 った調査 と分析 について みてゆ きたい。 インタビュー調査の対象 となった コ ミュニ テ ィは、ベ ル フ ァス ト市東部 に位 置す る 「バ リマ ック」地 区 (仮名)であ る 北 ア イ ル ラ ン ドで は、宗派 ・階級別 「棲 み分 け」 が紛 争の長期化 によって深刻化 してい る バ リマ ッ ク地 区 も例外 ではな く、圧倒 的 にプロテス タン ト労働者が多い地区である。 また、 この地区は、

成員の転 出入が少 ない ことも手伝 って、文化的 均 質性 を有 した伝統 的 な造船 コ ミュニ テ ィが残 存 している

(cue M Aly l 卵4: 4-7 14)

コ ミュニ テ ィの政治的志 向 を体現す る組織 と しては、強硬派の 「民主ユニ オニ ス ト党 (DU P

) 」

が主 にその役 目を担 っている。 DUPの特 徴 は、支持基盤が農村部の保守 的 な中間層 と都 市 の労働 者 との二つ にあるこ とで、 これ は DU

P

の、「憲法 を堅持す る (北 アイルラ ン ドの憲法 上 の地位 の変更 を認 め ない) とい う意味 におい ては右寄 りだが、社会政策 にかん しては左寄 り」

( M Aly cue 1 9 9 4:0 6)

とい う基本 的立場 を反映 してい る しか し、バ リマ ック地 区 にお ける高 いDUP支持 率 は、 こ うしたポ ピュ リス ト的姿 勢 だけか ら くる もので はない。 む しろ、絶対 に ダブ リン政府 のア イルラ ン ド問題への介入 を認 めない、強固な 「アルス タ- (北 アイルラ ン ド) の防衛」 とい う旗 印の もとに築かれている こ こに、 プロテス タン ト労働 者が、 コ ミュニ テ ィ の要望 に見合 う政治組織 と して、労働 党 よ りも DUPを選択 した理 由の一部 を求め るこ とがで きる と思 われる。

ところで、70年代 か ら80年代 にか けての北 ア

イルラ ン ドは、貧困地区 にお ける住宅改善要求 の運動 と、政府 の都市再 開発計画が連続 した時 期 である

(cue M Aly 1 9 9 4:2 1 -4) 217。

マ コ- -は結論 において、 アルチュセール による イデ オロギー論 を念頭 に置 きなが ら、バ リマ ック地 区の再 開発計画 に対す る労働 者の反応 を通 して 表 出す る、 プロテス タン ト労働 者階級 の 「世 界 観

を生み 出 している と思 われ るイデオロギー を、以下の 4つ に分類 してい るので、順 に見 て ゆ きたい

(cue M Aly 1 9 9 4:7-8) 161

1

まず は宗派 イデオロギーであ るが、バ リマ ッ ク地区 には、 カ トリ ック労働 者居住 区の 「飛 び 領土」 が隣接 してい る プロテス タン ト労働者 は、 自分 たちの コ ミュニテ ィよ りも居住状況 の 改善が優位 に進め られてい る (と彼 らの 「世界 観」では解釈で きる) カ トリック労働者地区 と、

再 開発 の状況 を比較対照 しなが ら、 自らの住宅 問題 を理解す る この場合、宗派が集 団意識 を 形成 している。

また、再 開発 によって住民 が郊外 に流 出 しは じめる と、住民 の間か らコ ミュニテ ィの崩壊 を 危倶 す る声が聞かれる よ うになった。80年代 は 核家族化がすす む と同時 に、失 業 ・犯罪 な どの 社会問題が さらに噴 出 した時期 で もあ り、 コ ミ ュニテ ィの崩壊 は、地 区の再 開発 の問題 に限 ら ず よ り一般 化 された文脈 で住民 によって とらえ られた。た とえばバ リマ ック地区に住 む女性 は、

こう嘆いている。「バ リマ ックにい ま必要なのは、

隣人付 き合い を続 けてゆ くこ とだわ ・・・昔 な ら皆が世 間話 をす るため だけに、近所の家 を行 き来 して いたの に ・ -

」 ( A ly Mc ue 1 9 9 4:

1 2 7 ) 。

住宅問題 を通 して、 プロテス タン ト労働 者階級 は伝統的 なコ ミュニテ ィを守 る必要性 も 感 じてお り、 コ ミュニ テ ィ ・イデオロギー も集 団アイデ ンテ ィテ ィを形成 している。

そ して、階級 イデオロギー も彼 らの集 団意識

(5)

同志社社 会学研究 NO.2 9 8,19

を形成す る。「労働者 によ りよい住宅 を」 とい う スローガ ンの もとで、 この時期 、他の英国の都 市でみ られた現象 と同 じように、バ リマ ック地 区で も既存 の政治家 に頼 らない、住宅問題 に焦 点 をあてた 自発的 な住民組織が幾つか生 まれた

(McueA ly 1994:1 -2)2213。プロテスタン ト労働 者階級 は、ベル ファス ト市 の都市計画担 当局や ユ ニ オニ ス ト支配層 か らの抵抗 に遭 い なが ら、

宗派主義のため に限 られた範囲内ではあるが労 働者階級の要求を通 して きた。

最後 に国家 イデオロギーがある もともとカ トリックは出生率が高い上 に、 カ トリックへの 差別是正 による移民 の減少で、少 しずつである が北 アイルラン ドでは確実 にカ トリック人口の 増加がみ られている バ リマ ックの住民 は、隣 接す るカ トリック地 区の人口が増加 し、境界 を 越 えてプロテス タン ト地域 を侵食 して くる 「脱 プロテスタン ト化」現象 に恐れおののいている。

さらには、 カ トリックが意識的にコ ミュニテ ィ の乗 っ取 りをた くらんでいる、英国政府が再開 発の名の下 にそれを支援 している、 といったか な り飛躍 した受 け とめ方 もみ られ (McALlley l斡4: 129-130)、アルチュセールのい う 「世界観」

と現実 との乗離が起 こっている しか し実際 に

「脱プロテスタン ト化」 は進行 してお り、彼 らの 過剰 な反応 は確 か に現実 を反映 しているのであ る。

4.

宗派意識 と階級意識

ここまで をまとめる と、マ コ- レ-の主張 は 次の二点 に絞 られ よう 一つは理論 的枠組み に 関 して、 ア イルラ ン ド問題 には正統マ ルクス主 義 よ りも修正マル クス主義 を用いた分析が有効 である とい う主張。その根拠 と して、宗派 と階

級の相 関が現在 の北 アイルラ ン ドで は成立 して いない ことと、ユニ オニス ト ・ブロ ック内の階 級分裂 を挙 げている そ して もう一つは、 プロ テス タン ト労働者階級のアイデ ンテ ィテ ィ形成 には、宗派 と階級の両方が大 きく関わっている とい う主張。マ コ- レ-が 「修正学派」 とはい えマル クス主義的解釈 にこだわるのは、彼が階 級 に対す るエスニ シテ ィの優越性 を認めていな いためだ と思 われ る つ ま り、 プロテス タン ト 労働者階級 の集団帰属意識 は、宗派お よびエス ニ シテ ィと少 な くとも同等 に、階級 に も求め ら れると彼 は想定 している バ リマ ック地区での 住宅問題 に対す る住民 の反応 について、すで に みて きた ように、彼 は 「階級意識 と宗派意識 は 両立す るのであ り、住民の捉 え方には二つが入 り交 じっていた」 と分析 し (Mc ueA ly 1994:

136)、 さらに結論 において も 「宗派主義 は階級 意識 を否定す る ものではない し、 またその道 も ない。同 じイデオロギー上 に共存 しているので

A l 994:1 。 ある」 と述べている (Mcuey 1 81)

彼 の議論 か らいえば、宗派意識 も階級意識 も 共存す るがゆえにどちらも一方 を駆逐で きるほ ど支配的 になるとはいえず、宗派 を越 えた階級 による連帯 は もとよ り、ユニ オニス ト ・ブロ ッ クの階級分裂 によって宗派 による連帯 も当然 の もの と期待 で きない ことになる プロテス タン ト労働者階級 はユニオニス ト支配者の意の まま に操 られ る道具で はな く、実際 にはユニオニス トの覇権 を支配層 と奪い合 って きた とい うのが 彼 の主張であった。 しか し、英 国政府が アイル ラン ド問題の解決 に向けて共和 国政府 の介入 を はっき り認めて以来、将来の危機的状況 に備 え るとい うネガテ ィブな反動か らであるにせ よ少 な くともユニオニス ト内部 に表 だった対立の動 きは見 られないのである DUP党内の保守的 な 「福音主義者」議員 と労働者の支持す る 「草

(6)

iI 北 アイルラ ン ドにおけるプ ロテス タン ト労働 省階級 の アイデ ンテ ィテ ィ形成XJ:

の根活動家」議員 との反 目をマ コ- レ-は強調 す るが、党が分裂 をまが りな りに も免れて きた とい うことは、プロテス タン ト労働者 コ ミュニ テ ィが階級 の利害 よ りも宗派の利害 を重視 して きた ことを意味す るのではないか。加 えて、紛 争の長期 化 ・激化 に ともない、居住地区 に限 ら ず社会 的 に広範 囲 な宗派別棲 み分 けがすすみ、

それはまた宗派間の偏見 を限 りな く助長 し、 さ らなる宗派主義の普及 に拍車 をかけて きたので ある。

では、 この ような宗派主義の高 ま りの背景 に は何があ るのであろ うか。 ここでマ コ- レ一に よるプロテス タン ト労働者のアイデ ンテ ィテ ィ 分析 に立 ち戻 って、 この間題 について考 えてみ たい。

5.

プロテスタン ト労働者階級の アイデンティティ形成

マ コ- レ一によれば、彼 らの集団ア イデ ンテ ィテ ィを形成す るイデオロギーは、宗派、 コ ミ ュニ テ ィ、階級 、そ して国家 の 4つであ った。

この 4つの イデオロギーは、多元社会で一貫 し た集 団感情 を呼び起 こす とされるエ スニ シテ ィ と階級、そ してその発現の規模 の レベ ル として の、 コ ミュニテ ィと国家 とに大別で きる しか し、 ここで私 が注 目 したいのは、宗派 イデオロ ギー と国家 イデオロギー との関係である 先 に みて きた ような北 アイルラ ン ドの 「脱 プロテス タン ト化」現象は、 プロテス タン ト住民 にとっ て、南の共和 国によるアルス タ-の吸収合併 を 意味す る アイルラ ン ドが統一 されれば、彼 ら はたちまち少数派 に転落 して しまう 英国 との 連合存続 を望 む北 ア イルラ ン ドの多 くのプロテ ス タン トに とって、 自らの国家 アイデ ンテ ィテ

イを英国 に求め るこ とは、 ご く自然 なこ とであ ろ う か くして、彼 らは始終 自らの 「英 国性」

を強調 し、本土 (大 ブ リテ ン島)の英国人 よ り 英国人 ら しくあるよう努めて きたため、か えっ てそんな必 要のない本土の英 国人か ら 「自分 た ち とは異質だ」 とみ な されて きたのは、皮 肉な ことか もしれない

(e t Bwe

l a

1 9 9 6:3 2 3 )

ただ最 近 になって、度重 なる英国政府の 「裏切 り」、つ ま りアイルラ ン ド共和 国政府 にアイル ラン ド問 題 における発言権 を認め る方針 によって、ユニ オニス ト側 に、英国ではな く 「アルス タ-」 に 国家 アイデ ンテ ィテ ィを兄 いだそ うとい う動 き が見 られるのは興味深い:J。それで もユニオニス トは北 アイルラ ン ド独立案 を南北統一への一歩 とみるため、アルスタ-化 には抵抗がある

北 アイルラン ドでは民族 (ainnto )への帰属意 識 は宗派 とほぼ一致 してお り、 プロテス タン ト の過半数が 自らを 「英 国人」 と規定す るの に対

し、カ トリックの方 は明 らか に 「ア イルラ ン ド 人」 とみ なす 人が多い。 アルス ダーに帰属 を求 め る場合で も、 もちろんそ こには宗派 を限定 し ない 「北 アイルラ ン ド人」 を想定す る リベ ラル な人々 も含 まれるが、た とえば、強硬派 プロテ ス タン トが 「アルス タ-の人 々」 とい うときに は、実際 はカ トリックを含 んでいない ことが多 い ( A ly Mc ue 1994:19。彼 らは、カ トリック7) は同 じ北 ア イル ラ ン ドに住 む に もかかわ らず、

「アイルラ ン ド人」 である とみ なすか らである。

宗派 イデオロギーの強 さは、国家や コ ミュニテ ィといった他 の イデオロギー と、容易 に結 びつ くことがで きることにある 現実 には、生活水 準 の低下 を意味す るため共和 国 との統一 を望 ま ない北 の カ トリックも多いが、 プロテス タン ト の場合は多 くが英国に国家の帰属 を求めている。

北 ア イルラ ン ドにおける宗派 は、対抗す るエ スニ ック集 団の象徴 と して機 能 してい るため、

(7)

同志社社会学研究 NO.2,1998

信仰 心 よ りも国家へ の帰 属 意識 か ら生 まれ る、 社会的分裂 と政治 的 ア イデ ンテ ィテ ィの主 な形 まさに宗派 と混 じり合 った国家 イデ オロギー と 態 として、現実 に階級 に取 って代 わった要 因 と して表 出 してい る そ して逆 に国家 イデ オロギ してみ ようとす る

ーの強 さが、北 ア イル ラ ン ドにお け る宗教 の世 俗 化 を遅 らせ る要 因 と して働 いて きたので はな いだろ うか。つ ま り、 プロテス タン ト労働者 階 級 のア イデ ンテ ィテ ィは、 まず 「将来 の国家的 帰属 の不安定 さ」 に よって左 右 され る、宗派 イ デオロギー と密接 に結 びつ いた国家 イデオ ロギ ー、す なわ ちナ シ ョナ リズム によって基底 され

)

∬kin

のであ る ただ、階級 が脱産業社会で どの程度 P

レ一 に よって も言及 されてい る バ リマ ック地 区 は、伝統 的 な熟練労働 者 コ ミュニ テ ィで はあ るが、北 ア イル ラ ン ドで は衰退す る製造業 に替 わ って、労働 者 階級地 区 にお ける失業率 の上昇 とともに、(と くに公営 の)サ ー ビス職へ の転換

(

影響 力 を もつのか とい う大 きな問題 は、マ コ- 1978-1989:78

る とい える その国家 イデ オロギーは現在 の と が起 こっている ころ、英 国 に求 め られ るが、将来 的 に捨 て きれ

ない可 能性 と して、彼 らが英 国 に見切 りをつ け た場合 には 「(プロテス タン トの) アルス タ-」

とい う選択が考 えられる。

ユ ニ オニ ス ト ・ブロ ック内の反 目は階級 イデ オロギ ーの残存 を示 して はい るが 、エ スニ シテ ィと違 って、階級 は コ ミュニ テ ィ ・レベ ル に留 ま り、宗 派 を越 えて拡 大 して ゆ くこ とは ない。

マ コ- レ-の議論 はユ ニ オニ ス ト内の階級分裂

(Mc

者階級 の結 束力が弱 まってゆ く場 合 には、階級 イデオロギーはい っそ う影 をひそめ るこ とにな り、 プロテス タン ト労働 者 階級 の分析 には、 よ りエ スニ ック集 団の心理 的側面 を重視 した枠 組 みが適用 されるべ きだ と思 われる。

<註>

l uey

A 1994:32-36)。労働

1 英国との連合存続 を目指すが、「ユニオニス ト を強調 す るあ ま り、エ スニ シテ ィが、特 に対抗

す る集 団 に よる外 か らの規定 を持 つ場 合 、強 い より強硬な姿勢をとる人々 しば しばプロテス タン トのテロリス トを指す。

情緒 的一体感 を呼 び起 こす とい う特 質 を軽視 し

2 1986-87年 に、一家庭あた りの年収が 4000ポ ている よ うに感 じられた。脱産業社会 にお ける

ン ド未満であるカ トリックは 39%、プロテス タ 階級意識 の低 下 につ いて は、階級 闘争 の制度化 ン トが 30%だったのにたい し、 1988-1990/91年 や労働 者 階級 の量 的 な減少 によって多 くの学者 には、カ トリックが30%、プロテス タン ト27%

に指摘 されてい る ところであ る ベ ルは、エ ス と格差が縮小 している urvey

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e jtor n 、Th ニ シテ ィが突 出度 を増す よ うになった理 由につ R JeL nRg'LO eport、

No.1/93)

いて、エ スニ シテ ィが 「利益 と感情 的紐帯 とを

3 マコ- レ-は、準軍事組織 アルスタ-防衛協 結 びつ けることがで きるか ら」 であ り、「階級感

会 (UDA)が、プロテス タン ト側か らのアイル 情 の こうした低減」 が、「種族的 な 自己同定が台

ラン ド史の 「書 き換 え」 を行 っていたことや、

頭す るの に結 びついた要 因の一つであ る」 と述 メンバーが英国賛歌 をアルス クー賛歌の歌詞 に べている

ley ll

(Be

こ うした理論 は、エ スニ シテ ィを、「さらに広 いる (McAu

1975-1984:211-224) 変えて歌 うようになっていたことを例 に挙げて 1994:92-99) 彼 らは一時 い階級 的脈絡 の なかで説 明 されるべ き要因 と し 北アイルラン ドの独立案 をうちだ した際にアル て改 め てみ よ うとす るだ けで は な く、 む しろ、 スタ -化の姿勢 を見せたのだが、これが労働者

(8)

大測 :北 アイルラン ドにおけるプロテス タン ト労働 者階級の アイデ ンテ ィテ ィ形成

コ ミュニテ ィに どれだけ受 け入れ られたか につ いては、彼 らの影響力の弱 きか らみて疑問であ る

-1993柳 内隆、山本哲士編 『アルチュセールの イデオロギー論』三交社。

嶺書房。

アイル ラン ド問題の史的構造

論創社。

『社会階層論』 アカデ ミア出版会。

松尾太郎

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4内山秀夫訳 『民族 とアイデ ンテ ィテパ 】

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